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令和6年6月14日

証券取引等監視委員会

株式会社三菱UFJ銀行に対する検査結果に基づく勧告について

1.勧告の内容

 証券取引等監視委員会が株式会社三菱UFJ銀行(東京都千代田区、法人番号5010001008846、取締役頭取執行役員 半沢 淳一、資本金17,119億円、常勤役職員32,786名、登録金融機関)を検査した結果、下記のとおり、当該登録金融機関に係る問題が認められたので、本日、証券取引等監視委員会は、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、行政処分を行うよう勧告した。

2.事実関係 

 (1) 銀証間における不適切な顧客情報の共有等
ア 銀証間における不適切な顧客情報の共有等
  金融商品取引法第44条の3第1項第4号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第153条第1項第7号において、有価証券関連業を行う金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る)は、当該金融商品取引業者又はその親法人等若しくは子法人等による非公開情報の提供について、あらかじめ発行者等の書面又は電磁的記録による同意がある場合等を除き、当該金融商品取引業者の親法人等若しくは子法人等と当該発行者等に関する非公開情報を受領又は提供してはならないとされている。
  しかしながら、株式会社三菱UFJ銀行(以下「当行」という。)の役職員は、親法人等である三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社(東京都千代田区、法人番号4010001129098、取締役社長 小林 真、以下「MUMSS」という。)との間において、法人顧客から情報共有を禁止されていること又は情報共有の同意を得ていないことを認識しながら、当該法人顧客に関する非公開情報の授受を少なくとも10回にわたって行っていた。なお、一部の非公開情報の提供に関しては、当行専務執行役員(当時)自らも提供している状況も認められた。
 
(主な事例1)
  A社株式の売出しに関する非公開情報について、A社は役員自らが、当行に対し、MUMSS及びモルガン・スタンレーMUFG証券株式会社(東京都千代田区、法人番号2011001046046、代表取締役社長 田村 浩四郎)の2社(以下、当該2社を総称して「系列証券会社」という。)への情報提供の禁止を再三伝達していた。しかしながら、当行専務執行役員(当時)は、当該情報提供が禁止されていることを認識していたにもかかわらず、系列証券会社が当該売出しにおける主幹事としてのポジションを獲得するため、当該売出しの実行時期、金額、方法等に関する情報をMUMSSに提供した。
  当行代表取締役(当時)は、不適切な情報提供が行われている可能性があることを認識したものの、当該専務執行役員からA社役員との間で事実上の黙認が成立している旨の報告を受け、違法性のある行為ではなかったと誤認したとしている。そのため、当該専務執行役員に対してそれ以上の詳細な事実関係の確認を行っておらず、内部管理統括責任者をはじめとしたコンプライアンス部署に一切の連絡を行わないなど、特段の対応を指示しなかった。このため、当行は、本件について適切な是正措置を講じていなかった。
 なお、当該専務執行役員とA社役員との間で、実際は、黙認が成立していなかった。
 
(主な事例2)
 B社が予定していた企業買収に際し、買収資金に係る融資契約の締結に向けた交渉過程でB社より伝えられた本件買収の実施予定に関する非公開情報について、当行行員は、B社から本件買収にかかる秘密保持契約の取り交わしを求められ、秘密保持契約を交わしたにもかかわらず、B社の意思に反し、MUMSSに非公開情報を提供した。
 
イ 法人関係情報の管理態勢不備等
 金融商品取引法第40条第2号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第123条第1項第5号において、登録金融機関は、法人関係情報に係る不公正な取引の防止を図るために必要かつ適切な措置を講じなくてはならないとされている。
 しかしながら、上記アのとおり、当行の役職員は、MUMSSとの間で不適切な法人関係情報の授受を少なくとも10回にわたって行っていた。
 また、社内規程に基づく適切な管理を行わないなど、法人関係情報の不適切な管理も少なくとも11件認められた。
 このほか、当行行員は配偶者名義で開設した証券口座を利用し、平成30年7月から令和5年11月までの間、専ら投機的利益の追求を目的として、勤務時間中の発注を含め、主に信用取引により短期間での同一銘柄反対売買を行う手法により、自己の計算に基づく有価証券の売買を多数回(約5000回、約20億円)にわたり行っており、このうち少なくとも4銘柄の売買については、職務上知り得た法人関係情報に基づく不適切な有価証券の売買であった。なお、当該行員が所属していた部署は、法人関係情報を用いて業務を行う部署ではあるものの、Need to Know原則(顧客等に関する情報へのアクセス及びその利用は業務遂行上の必要性のある役職員に限定されるべきという原則)に反し、本来、法人関係情報を知る必要のない行員に対しても法人関係情報が広く伝達されている状況にあった。
 
  当行における上記のような状況は、金融商品取引法第40条第2号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第123条第1項第5号に該当するものと認められる。また、当行行員における専ら投機的利益の追求を目的とした有価証券の売買は、金融商品取引法第38条第9号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第117条第1項第12号に該当するものと認められる。
 
  上記ア、イの行為等は、当行役職員が、銀証間で情報の授受を行ってはならないことを認識しながら、案件獲得という当行及び系列証券会社の利益を優先したものであり、当行専務執行役員自らが非公開情報を提供している状況及び当行代表取締役も不適切な情報提供があった可能性を認識している状況が認められるなど、銀証連携ビジネスの推進にあたり、当行として法令等遵守意識が希薄であることに起因するものであり、当行においては法令等遵守態勢に不備があるものと認められる。
 
(2) 登録金融機関による有価証券関連業の禁止
  金融商品取引法第33条第1項において、登録金融機関は有価証券の引受業務などの有価証券関連業を行ってはならないとされている。
  しかしながら、当行は、有価証券の引受等に関し、上場会社等に対して、系列証券会社を引受先や割当先とするよう交渉及び勧誘する行為を少なくとも28回にわたって行った。当該行為は、本検査での指摘を受けるまで多数の部署において広く継続的に行われていた。
  なお、上記不適切勧誘の一部に関しては、当行の営業部店から当行代表取締役(当時)に対して、当行関与によりMUMSSの案件獲得に至った旨の報告がなされており、当該代表取締役においても不適切な勧誘行為が行われていることを認識している状況も認められた。
  株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(東京都千代田区、法人番号4010001073486、代表執行役社長 亀澤 宏規、以下「MUFG」という。)は平成30年に策定した中期経営計画において、グループ収益の最大化を目指す施策を打ち立てており、その一環として、当行の収益目標についても、従来のグループ連携収益と銀行収益の2本柱の目標から銀行収益を含むグループ収益に1本化されている。このため、行員の業績評価においても、MUMSSに対して顧客ニーズの連携(案件紹介)を行い、系列証券会社で成約に至り収益計上された利益金額が、当行の行員の営業実績にも反映される仕組みとなっていた。
  このような状況のもと、当行の多数の部署において不適切勧誘が行われることとなり、一部営業店の行員においては、銀行収益と系列証券会社収益を比較して、系列証券会社収益の方が大きい場合には系列証券会社の契約を獲得する方が収益目標額との関係でも利点が多いと考えたうえで行動している状況も確認された。
 
(主な事例1)
  C社の社債発行に関し、MUMSSの提案内容が他社に劣後している状況を把握した当行は、C社に対して、MUMSSの引受シェアが全くないと厳しいため、MUFGとしてMUMSSを主幹事とし、引受シェアを与えてもらえるよう交渉を繰り返し行った。しかしながら、C社からMUMSSに引受シェアを与えない方針があらためて伝えられたことから、当行は、同時期に当行とC社の間で折衝していた融資条件から金利スプレッドの引下げ、弁護士費用及び担保を免除する一方、MUMSSの引受シェアを得られるよう交渉を行った。その結果、MUMSSは幹事に指名され引受シェアを得られることとなった。
  このほか、当行はC社に関する別の社債発行に際しても同様の交渉を行い、MUMSSが主幹事に指名されているが、その際、当行の営業部店から当行代表取締役(当時)に対して、当行が何度もC社に対してMUMSSの引受交渉に関与した結果がMUMSSの契約に結びついた旨の報告がなされていた。
 
(主な事例2)
  当行はD社から期間10年の融資要望を受けていた。同時期に予定されていたD社の公募増資に関し、当行の関連部署間において、期間10年で融資する取組意義は証券取引の拡大である旨の議論が行われた結果、当行はD社に対して、期間10年の融資をする条件として系列証券会社の引受シェアを引き上げてほしい旨の抱き合わせ勧誘を行った。
  D社が、当行に引受シェアを引き上げなかった場合、今後の当行との融資に影響が生じるのではないかと危惧している旨の懸念を伝えると、当行は、仮に系列証券会社の引受シェアの引き上げがない場合、貸出金額の変更こそしないが、貸出期間については短縮する意向である旨を伝達した。
 
  当行における上記行為は、登録金融機関による有価証券関連業を禁止する金融商品取引法第33条第1項に違反するものと認められる。
  なお、上記のような状況は、当行経営陣において、MUFGがグループ会社間の営業連携やこれに伴うグループ収益の拡大を掲げる中で、当行行員がグループ収益の確保に向けて、法令で禁止されている引受交渉等に自ら関与するリスクの認識が希薄であったことにより発生したものと認められる。
 
  上記(1)(2)の行為は、グループ連携に係る適正な内部管理態勢を構築・運用する責務を負っている経営陣が、その責務に照らして求められるべき認識を持たず、上記の不適切行為の発生を未然に防止するために必要な内部管理態勢を構築していないなど、経営陣によるガバナンスが十分に発揮されていないことに起因するものであり、当行においては、適切な業務運営を確保するための経営管理態勢に不備があるものと認められる。

 

pdf 参考資料(PDF:560KB)
 


(参考条文) 

 〇 金融商品取引法(昭和23年法律第25号)(抄)

(金融機関の有価証券関連業の禁止等)
第三十三条 銀行、協同組織金融機関その他政令で定める金融機関(以下この条、次条及び第二百一条において「金融機関」という。)は、有価証券関連業又は投資運用業を行つてはならない。ただし、有価証券関連業については、金融機関が他の法律の定めるところにより投資の目的をもつて、又は信託契約に基づいて信託をする者の計算において有価証券の売買若しくは有価証券関連デリバティブ取引を行う場合は、この限りでない。
2~3 (略)
 
(禁止行為)
第三十八条 金融商品取引業者等又はその役員若しくは使用人は、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、第四号から第六号までに掲げる行為にあつては、投資者の保護に欠け、取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるおそれのないものとして内閣府令で定めるものを除く。
一~八 (略)
九 前各号に掲げるもののほか、投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるものとして内閣府令で定める行為
 
(適合性の原則等)
第四十条 金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。
一 (略)
二 前号に掲げるもののほか、業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保するための措置を講じていないと認められる状況、その他業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。
 
(親法人等又は子法人等が関与する行為の制限)
第四十四条の三 金融商品取引業者又はその役員若しくは使用人は、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、公益又は投資者保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして内閣総理大臣の承認を受けたときは、この限りでない。
一~三 (略)
四 前三号に掲げるもののほか、当該金融商品取引業者の親法人等又は子法人等が関与する行為であつて投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるおそれのあるものとして内閣府令で定める行為
2 (略)
 
〇 金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)(抄)
 
(禁止行為)
第百十七条 法第三十八条第九号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
一~十一 (略)
十二 個人である金融商品取引業者又は金融商品取引業者等の役員(役員が法人であるときは、その職務を行うべき社員を含む。)若しくは使用人が、自己の職務上の地位を利用して、顧客の有価証券の売買その他の取引等に係る注文の動向その他職務上知り得た特別の情報に基づいて、又は専ら投機的利益の追求を目的として有価証券の売買その他の取引等をする行為
十三~五十 (略)
2~56 (略)
 
(業務の運営の状況が公益に反し又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの)
第百二十三条 法第四十条第二号に規定する内閣府令で定める状況は、次に掲げる状況とする。
一~四 (略)
五 その取り扱う法人関係情報に関する管理又は顧客の有価証券の売買その他の取引等に関する管理について法人関係情報に係る不公正な取引の防止を図るために必要かつ適切な措置を講じていないと認められる状況
六~三十六 (略)
2~16 (略)
 
(金融商品取引業者の親法人等又は子法人等が関与する行為の制限)
第百五十三条 法第四十四条の三第一項第四号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
一~六 (略)
七 有価証券関連業を行う金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る。)が発行者等に関する非公開情報を当該金融商品取引業者の親法人等若しくは子法人等から受領し、又は当該親法人等若しくは子法人等に提供すること(次に掲げる場合において行うものを除く。)。
イ~ヌ (略)
八~十五 (略)
2~4 (略) 
 

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