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令和6年6月14日
証券取引等監視委員会
三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社に対する検査結果に基づく勧告について
1.勧告の内容
証券取引等監視委員会が三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社(東京都千代田区、法人番号4010001129098、取締役社長 小林 真、資本金405億円、常勤役職員5,732名、第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業)を検査した結果、下記のとおり、当該金融商品取引業者に係る問題が認められたので、本日、証券取引等監視委員会は、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、行政処分を行うよう勧告した。
2.事実関係
(1) 銀証間における不適切な顧客情報の共有等
ア 銀証間における不適切な顧客情報の共有等
金融商品取引法第44条の3第1項第4号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第153条第1項第7号において、有価証券関連業を行う金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る)は、当該金融商品取引業者又はその親法人等若しくは子法人等による非公開情報の提供について、あらかじめ発行者等の書面又は電磁的記録による同意がある場合等を除き、当該金融商品取引業者の親法人等若しくは子法人等と当該発行者等に関する非公開情報を受領又は提供してはならないとされている。
しかしながら、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社(以下「当社」という。)の役職員は、親法人等である株式会社三菱UFJ銀行(東京都千代田区、法人番号5010001008846、取締役頭取執行役員 半沢 淳一、以下「MUBK」という。)、親法人等であるモルガン・スタンレーMUFG証券株式会社(東京都千代田区、法人番号2011001046046、代表取締役社長 田村 浩四郎、以下「MSMS」という。)との間において、法人顧客から情報共有を禁止されていること又は情報共有の同意を得ていないことを認識しながら、当該法人顧客に関する非公開情報の授受を少なくとも13回にわたって行い、これを当社内で共有していた。また、MUBKから受領した一部の非公開情報については、当社代表取締役副社長(当時)自らが受領するとともに、当該非公開情報を利用して、引受契約の締結にかかる勧誘を行っている状況も認められた。
(主な事例1)
A社株式の売出しに関する非公開情報について、A社は役員自らが、MUBKに対し、当社及びMSMSへの情報提供の禁止を再三伝達していた。しかしながら、当社代表取締役副社長(当時)は、当該売出しの実行時期、金額、方法等に関する情報をMUBKから受領し、これを社内関係者に共有及び社内関係者からMSMSに提供しているほか、当該売出しにおける主幹事としてのポジションを獲得するため、当該非公開情報を利用して、営業戦略を企画し、引受契約の締結にかかる勧誘を行った。
(主な事例2)
B社が予定していた企業買収に際し、買収資金に係る融資契約の締結に向けた交渉過程において、MUBKがB社より伝えられた本件買収の実施予定に関する非公開情報について、当社職員は、当該情報共有が法令違反行為であると知りながら、B社の意思に反し、MUBKから非公開情報を受領し、これを当社代表取締役副社長(当時)も含めた社内関係者に共有及びMSMSに提供した。
イ 法人関係情報の管理態勢不備
金融商品取引法第40条第2号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第123条第1項第5号において、金融商品取引業者は、法人関係情報に係る不公正な取引の防止を図るために必要かつ適切な措置を講じなくてはならないとされている。
しかしながら、上記アのとおり、当社の役職員は、MUBK及びMSMSとの間で不適切な法人関係情報の授受を少なくとも13回にわたって行っていた。
また、社内規程に基づく適切な管理を行わないなど、法人関係情報の不適切な管理も少なくとも16件認められた。
当社における上記アの行為は、金融商品取引法第44条の3第1項第4号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第153条第1項第7号及び第8号に規定する行為に該当するものと認められる。
また、当社における上記イのような状況は、金融商品取引法第40条第2号に基づく金融商品取引業等に関する内閣府令第123条第1項第5号に該当するものと認められる。
上記ア、イの行為等は、当社役職員が、銀証間で情報の授受を行ってはならないことを認識しながら、案件獲得という当社、MUBK及びMSMSの利益を優先したものであり、当社代表取締役副社長自らが非公開情報を受領している状況が認められるなど、銀証連携ビジネスの推進にあたり、当社として法令等遵守意識が希薄であることに起因するものであり、当社においては法令等遵守態勢に不備があるものと認められる。
(2) 登録金融機関による有価証券関連業の禁止を看過・助長したうえで不適切に金融商品取引契約を締結している状況
ア 登録金融機関による有価証券関連業の禁止を看過・助長したうえで不適切に金融商品取引契約を締結している状況
当社は、前回検査において、当社からMUBKに対して引受交渉を依頼し、MUBKが引受シェアの交渉を行ったともとれるような営業日報の記録が認められるなど、MUBKが法令上禁止されている有価証券関連業務を行うことを誘発しかねない状況が認められる旨の指摘を受けていた。この際、当社は、当社担当職員に対する聞き取りを中心とした事実関係の確認のみにとどまり、メール等の検証やMUBKに対する確認を行うことなく、単に誤解を招く記載であったなどと結論づけていた。この結論を前提に、社内に対して営業日報に不適切な記載を行わないよう注意喚起が行われ、MUBKが引受交渉を行っていた旨の事実関係が営業日報に記載されない状況となっていた。このような中、以下のような事実関係が確認された。
① 当社役職員は、少なくとも4回、MUBKが法令違反に該当し得る有価証券の引受けに係る交渉を行っている状況につき、MUBKから報告を受けるなどして把握していたにもかかわらず、当社コンプライアンス部門に対して当該行為を報告・相談していないほか、MUBKの行員に対し、当該行為を止めるよう注意や警告をすることなく、この状況を看過・助長したうえで金融商品取引契約を締結した。
② 当社職員は、少なくとも3回にわたり、MUBKの行員に対し、引受交渉を要請するなど、当社職員からMUBKに対して不適切な働きかけを行っていた。
③ 当社職員は、MUBKが本来行うことができない引受業務を行っていること、MUBKが所定の契約条件の融資を行う場合の最低条件として当社の引受シェアを引き上げてほしい旨の抱き合わせ勧誘を行っていること、及び、MUBKにより所定の契約条件の融資が行われていることを知りながら、顧客との間で引受契約を締結した。
イ 不適切な銀証連携を防止するための内部管理態勢が不十分な状況
当社は、前回検査において、MUBKが法令上禁止されている有価証券関連業務を行うことを誘発しかねない状況及びモニタリングが不十分な状況であった旨の指摘を受けており、改善策として、不適切な銀証連携の防止などをテーマとした研修の実施やモニタリングの強化に取り組んでいた。
しかしながら、当社コンプライアンス部署によるモニタリングが不十分であったことから、MUBKにおいて多数の法令違反行為が行われている状況を全く把握していなかったほか、MUBKによる法令違反行為が行われていた疑義のある事象少なくとも1件をモニタリングで検出していたにもかかわらず、グループ全体のコンプライアンスを担当する部署と連携し、必要な対応策を講じるなどの然るべき対応をすることを怠るなど、MUBKの法令違反行為を看過していた。
このような当社の対応状況は、不適切な銀証連携を防止するための内部管理態勢が不十分であったと認められる。
当社における上記のような状況は、金融商品取引法第51条の「公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」に該当するものと認められる。
また、上記行為ア③については、金融商品取引法第44条の3第1項第2号で禁止されている行為に該当する。
なお、上記のような状況は、当社経営陣において、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(東京都千代田区、法人番号4010001073486、代表執行役社長 亀澤 宏規)がグループ会社間の営業連携やこれに伴うグループ収益の拡大を掲げる中で、MUBKがグループ収益の確保に向けて、法令で禁止されている引受交渉等に自ら関与するリスクの認識が希薄であったことにより発生したものと認められる。
上記(1)(2)の行為は、グループ連携に係る適正な内部管理態勢を構築・運用する責務を負っている経営陣が、その責務に照らして求められるべき認識を持たず、上記の不適切行為の発生を未然に防止するために必要な内部管理態勢を構築していないなど、経営陣によるガバナンスが十分に発揮されていないことに起因するものであり、当社においては、適切な業務運営を確保するための経営管理態勢に不備があるものと認められる。
また、上記行為ア③については、金融商品取引法第44条の3第1項第2号で禁止されている行為に該当する。
なお、上記のような状況は、当社経営陣において、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(東京都千代田区、法人番号4010001073486、代表執行役社長 亀澤 宏規)がグループ会社間の営業連携やこれに伴うグループ収益の拡大を掲げる中で、MUBKがグループ収益の確保に向けて、法令で禁止されている引受交渉等に自ら関与するリスクの認識が希薄であったことにより発生したものと認められる。
上記(1)(2)の行為は、グループ連携に係る適正な内部管理態勢を構築・運用する責務を負っている経営陣が、その責務に照らして求められるべき認識を持たず、上記の不適切行為の発生を未然に防止するために必要な内部管理態勢を構築していないなど、経営陣によるガバナンスが十分に発揮されていないことに起因するものであり、当社においては、適切な業務運営を確保するための経営管理態勢に不備があるものと認められる。
(参考条文)
〇 金融商品取引法(昭和23年法律第25号)(抄)
(適合性の原則等)
第四十条 金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。
一 (略)
二 前号に掲げるもののほか、業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保するための措置を講じていないと認められる状況、その他業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること
(親法人等又は子法人等が関与する行為の制限)
第四十四条の三 金融商品取引業者又はその役員若しくは使用人は、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、公益又は投資者保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして内閣総理大臣の承認を受けたときは、この限りでない。
一 (略)
二 当該金融商品取引業者との間で第二条第八項各号に掲げる行為に関する契約を締結することを条件としてその親法人等又は子法人等がその顧客に対して信用を供与していることを知りながら、当該顧客との間で当該契約を締結すること。
三 (略)
四 前三号に掲げるもののほか、当該金融商品取引業者の親法人等又は子法人等が関与する行為であつて投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるおそれのあるものとして内閣府令で定める行為
2 (略)
(金融商品取引業者に対する業務改善命令)
第五十一条 内閣総理大臣は、金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、その必要の限度において、当該金融商品取引業者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営又は財産の状況の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
〇 金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)(抄)
(業務の運営の状況が公益に反し又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの)
第百二十三条 法第四十条第二号に規定する内閣府令で定める状況は、次に掲げる状況とする。
一~四 (略)
五 その取り扱う法人関係情報に関する管理又は顧客の有価証券の売買その他の取引等に関する管理について法人関係情報に係る不公正な取引の防止を図るために必要かつ適切な措置を講じていないと認められる状況
六~三十六 (略)
2~16 (略)
(金融商品取引業者の親法人等又は子法人等が関与する行為の制限)
第百五十三条 法第四十四条の三第一項第四号に規定する内閣府令で定める行為は、次に掲げる行為とする。
一~六 (略)
七 有価証券関連業を行う金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る。)が発行者等に関する非公開情報を当該金融商品取引業者の親法人等若しくは子法人等から受領し、又は当該親法人等若しくは子法人等に提供すること(次に掲げる場合において行うものを除く。)。
イ~ヌ (略)
八 有価証券関連業を行う金融商品取引業者(第一種金融商品取引業を行う者に限る。)が、その親法人等又は子法人等から取得した顧客に関する非公開情報(当該親法人等又は子法人等が当該顧客(第百二十三条第一項第十八号ト(1)から(4)までのいずれかに該当する者に限る。)の求めに応じて当該非公開情報の当該金融商品取引業者への提供を停止することとしている場合であって、その旨について、あらかじめ、当該顧客が容易に知り得る状態に置いているとき(その求めがある場合を除く。)における当該非公開情報以外のものであって、当該親法人等又は子法人等が当該顧客の書面又は電磁的記録による同意を得ずに提供したものに限る。)を利用して金融商品取引契約の締結を勧誘すること。
九~十五 (略)
2~4 (略)