平成14年度版年次公表


証券取引等監視委員会の事務処理状況の公表について


平成15年8月29日
証券取引等監視委員会


1.事務処理状況の公表


 証券取引等監視委員会(以下「監視委員会」という。)は、金融庁設置法第22条の規定に基づき、毎年、事務処理状況を公表することとしており、本年は、平成14年7月1日から15年6月30日までの期間における事務の処理状況を8月29日に「証券取引等監視委員会の活動状況」として公表した。なお、本公表は、監視委員会発足後11回目となる。

2.全般的な評価

 犯則事件の調査・告発においては、監視委員会発足以来の最高の件数である10件の告発を行い、中でも、昨今インターネットが普及している中、インターネットを利用した風説の流布及び偽計について初めて告発するに至った(ドリームテクノロジーズ事件)ほか、ディスクロージャー違反への監視強化が求められる中、虚偽の有価証券届出書提出についても初めて告発するに至った。(エムティーシーアイ事件)
 証券会社に対する検査においては、従来同様、取引一任勘定取引の契約を締結する行為が多く認められたほか、証券会社の自己売買部門による実勢を反映しない作為的相場を形成させるべき一連の売買行為やインターネット証券会社において法令違反となる顧客の注文に対する売買審査体制の不備な状況などが認められた。また、一部の証券会社においては前回検査で指摘した違反行為を繰り返し行っていたことも認められた。さらに、平成15年1月6日には、本人確認法が施行されたが、一部の証券会社において顧客が他の名義人になりすましている疑いがあるにもかかわらず本人確認を行っていなかった状況が認められた。

3.概要

(1) 犯則事件の調査・告発
 犯則事件の調査の結果、内部者取引につき5件・7名、風説の流布及び偽計につき1件・1名、偽計につき1件・2名、虚偽の有価証券報告書・届出書の提出につき3件・12名、計10件・22名を証券取引法違反の罪に該当するとして告発を行った。
 その主なものの概要は次のとおりである。

○ ドリームテクノロジーズ事件(風説の流布及び偽計)
 行為者1名は、ドリームテクノロジーズ(株)の株券について、インターネットを利用して相場を変動させ同社株券を売買して利益を得ようと企て、あらかじめインターネット上で募集した会員に対し、売買を推奨する内容虚偽のメールを送信し、もって、風説を流布するとともに、偽計を用いた。

○ エムティーシーアイ事件(虚偽の有価証券届出書等の提出、偽計)
 (株)エムティーシーアイの代表取締役会長は、同社の業務に関し、平成11年5月期において、架空の投資未決算勘定を計上するなどした虚偽の記載のある貸借対照表等を掲載した有価証券報告書を提出し、同年10月に公募による同社株券発行を実施するに際し、同貸借対照表を掲載した有価証券届出書を提出した。
 また、同会長は、同公募増資に当たり、虚偽の事実を公表して多数の一般投資家から株式払込金を得ようと企て、セミナー講演などにおいて虚偽の事実を公表し、株券の募集のため偽計を用いた。

○ ニチメンインフィニティ事件(内部者取引)
 証券会社の事業法人第1部長及び企業提携部次長は、互いに全く独立して、ニチメン(株)との公開買付代理人契約に関し、ニチメン(株)がニチメンインフィニティ(株)の株券の公開買付けを行う(重要事実)ことを知り、その重要事実の公表前にニチメンインフィニティ(株)の株券を売買して利益を得ようと企て、同社株券を買い付けた。

○ ケイビー事件(虚偽の有価証券報告書の提出)
 (株)ケイビーの代表取締役会長、専務取締役及び常務取締役は、共謀の上、同社の業務に関し、平成10年3月期から平成13年3月期の4期にわたり、架空の売上を計上するなどの方法による、虚偽の記載のある貸借対照表等を掲載した有価証券報告書を提出した。

 また、平成14事務年度においては、大阪証券取引所に係る相場操縦の嫌疑等4件について、犯則嫌疑者等の居宅及び関係事務所等に対し強制調査を実施した。

(2) 検 査
 本事務年度中に証券会社113社(うち外証18社)、登録金融機関13社に対して検査に着手した。
 本事務年度において検査が終了したものは、前期繰越分を含め135社となっているが、このうち78社に問題点が認められた(問題点の割合58%)。問題点が認められた78社中、50社において市場ルール等の違反行為が認められたほか、証券会社の営業姿勢や内部管理体制に関する問題点も多数認められた。

(3) 内閣総理大臣及び金融庁長官に対する勧告
 検査結果に基づき、内閣総理大臣及び金融庁長官に対し、重大な法令違反が認められたとして、行政処分等を求める勧告を30件(うち財務局等分19件)実施した。
 事案の内容別内訳は次のとおり。

   

 (会・個

) (会社

) (個人

 取引一任勘定取引の契約を締結する行為

2件

12件

 

 有価証券の売買に関し虚偽の表示をする行為等

1件

 特別の利益を提供することを約して勧誘する行為

2件

 作為的相場を形成させるべき売買をする行為等

4件

2件

1件

 投機的利益の追求を目的とした有価証券の売買取引

7件

 親法人等との非公開情報の授受

1件

 外務員の職務に関する著しく不適当な行為

2件

 調達資金が親法人への弁済に充てられることの不告知

1件

 なりすましの疑義のある取引について本人確認を行わない行為

1件

(4) 建議
 検査結果に基づき、金融庁長官に対し、証券会社の営業姿勢及びインターネット証券会社の内部管理に問題が認められたとして建議を行った。
 建議の概要は次のとおり

○ 証券会社の営業姿勢
 有価証券の投資に影響を与える市場要因が短期的に変化する場合、この有価証券の募集、売り出しによって取得する個人投資家が、情報面等で不利な状況となることを防止するために、証券会社が個人投資家向けに有価証券の募集や売り出しを行う場合における説明等についてのルールを整備する必要がある。

○ インターネット取引を取り扱う証券会社の法令遵守のための内部管理
 インターネットによる、作為的相場を形成する行為や空売り規制の潜脱行為、他人になりすましている疑義のある取引などの違法又は不適切な顧客の注文を市場から排除するために、通常の対面営業の証券会社のそれとは異なる、インターネットの非対面性という営業方法の特質に配慮した内容の売買審査体制及び顧客管理体制が構築されるべきであり、その適正性を確保させるための適切な措置を講じる必要がある。

(5) 取引審査
 本事務年度は、取引審査部門と情報処理部門を統合して、市場分析審査室として改組した上で、取引審査担当者を大幅に増員した結果、審査件数は合計で684件となった。その内訳は、株価が急騰するなど不自然な動きをしたもの等の価格形成に関するもの147件、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要な事実の公表により株価が大きく変動したもの等の内部者取引に関するもの495件、その他風説の流布等に関するもの42件となっている。

(6) 一般からの情報の受付
 本事務年度中に投資者など一般から受け付けた情報は、インターネット、電話による情報提供が大幅に増えたことから、合計で3000件超となる3,056件(対前事務年度比約40%増)となっている。情報の内容としては、個別銘柄に関するものが1,848件、証券会社の営業姿勢に関するものが573件、その他の意見等が635件となっている。

(7) 監視活動・機能強化への取組み等
○ 組織の充実
 ディスクロージャー違反の徹底摘発に向けた犯則事件の調査体制の強化、証券会社の違反行為を見逃さない検査体制の確保、インターネットを利用した不正取引に対する日常的な市場監視体制の強化を柱として、37人の増員を行い、15年度末の定員は217人(定員削減等を2人含む)となった。また、財務局等の監視官部門においても、17人の増員が行われ、15年度末の定員は199人となった。
 さらに、的確な市場監視及び職員の専門性向上を図るため、弁護士や公認会計士等を含む20人の民間専門家を採用し、平成15年6月末現在において在籍している民間専門家は46人となっている。

○ 本人確認法による新たな権限
 新たな権限として、15年1月から本人確認法が施行されたことにより、証券会社等における本人確認等の実施状況の検査及び報告・資料徴取権が金融庁長官等から委任され、さらに、顧客が本人特定事項を隠蔽する目的で証券会社等に虚偽の申立てを行う違法行為については、犯則事件の調査権限が与えられた。

○ 関係当局との連携
 金融庁や自主規制機関と情報交換等を行うなどさらなる連携の強化に努め、さらに海外の証券規制当局との意見・情報交換や主要な国際会議に参加するなど、金融庁とともに海外の証券規制当局との連携強化にも努めている。

○ インターネット取引等への取組み
 インターネットを利用した不公正取引に対する監視活動の重要性が高まる中、インターネット審査官の増員や、「改革加速のための総合対応策」(平成14年10月)を受けて、市場分析審査室内に特別チームを編成するなど、インターネットを通じた風説の流布等への重点的な監視を実施したほか、証券会社の検査におけるインターネット取引に関する重点的な検査の実施、インターネットによる一般からの情報提供の増加を図るための監視委員会ホームページのリンク先拡大などを行った。
 また、インターネット巡回監視システムを活用し、インターネット上の問題のある表示や書込みに対する効率的な監視に努めている。

○ ディスクロージャー違反への取組み
 公認会計士等を6人採用するなど、有価証券報告書等の虚偽記載などのディスクロージャー違反に対する監視体制を強化した。

 その他、国内各地に委員長や委員、事務局幹部が出向いて、個人投資家との間で、「投資家との意見交換会」や「講演会」を実施し、監視委員会の活動状況に対する理解や情報提供の呼びかけを行っている。
 監視委員会としては、証券市場を取り巻く環境が不断に変化する中、個人投資家の保護及び証券市場の公正性・透明性を確保するため、証券市場の公正性に重大な影響を及ぼすような問題に対して、これまで以上に厳正かつ的確に対応し、その職責を果たす努力を行っている。

 なお、「証券取引等監視委員会の活動状況」は、監視委員会事務局のほか各財務局等において閲覧することができる。

 

 

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