1. |
事務処理状況の公表 |
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証券取引等監視委員会(以下「監視委員会」という。)は、金融庁設置法第22条の規定に基づき、毎年、事務処理状況を公表することとしており、本年は、平成15年7月1日から平成16年6月30日までの期間における事務の処理状況を、同年8月27日に、「証券取引等監視委員会の活動状況」として公表した。なお、本公表は、監視委員会発足後12回目となる。 |
2. |
全般的な評価 |
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犯則事件の調査・告発においては、監視委員会発足以来の最高の件数であった昨年度と同様の10件の告発を行った。中でも、自主規制機関である証券取引所自らが行った相場操縦について告発するに至った(大阪証券取引所事件)ほか、その他の大掛かりな相場操縦や、ディスクロージャー違反への監視強化が求められる中、虚偽の有価証券報告書等の提出についても告発するに至った。(キャッツ事件等) 証券会社に対する検査においては、いわゆる「適合性原則」(注)に違反する業務の状況、証券会社の自己売買部門による実勢を反映しない作為的相場を形成させるべき一連の売買行為、法人関係情報に係る不公正取引の防止上不十分な管理の状況が認められた。また、アナリスト・レポートに関する利益相反行為等が認められた。また、上記のキャッツ事件に関連して、相場操縦に当たる売買取引を受託していた証券会社に対して一斉に検査を実施した結果、複数の証券会社において、実勢を反映しない作為的相場が形成されることとなることを知りながら一連の有価証券の売買取引の受託等をする行為が認められた。
(注) 「適合性の原則」 : |
投資勧誘に際して、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして適当と認められる取引の勧誘を行わなければならないというルール |
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3. |
概要 |
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(1) |
犯則事件の調査・告発 |
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犯則事件の調査の結果、内部者取引につき6件・8名、相場操縦につき2件・10名、虚偽の有価証券報告書等の提出につき2件・10名、計10件・28名を証券取引法違反の罪に該当するとして告発を行った。 その主なものの概要は次のとおりである。 |
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○ |
大阪証券取引所事件(相場操縦) 大阪証券取引所副理事長及び日本電子証券(株)代表取締役社長は、同取引所が開設する有価証券オプション市場に上場されている株券オプションにつき、投資者にその取引が繁盛に行われていると誤解させようと企て、共謀の上、仮装の株券オプション取引及びいわゆる馴合い取引を行った。 |
○ |
キャッツ事件(相場操縦、虚偽の有価証券報告書等の提出) (株)キャッツの前代表取締役、代表取締役ら外4名は、(株)キャッツの株券につき、その株価の高値形成を図り、同株券の売買を誘引する目的をもって、株価の変動操作等を行うとともに、他人をして同株券の売買が繁盛に行われていると誤解させる等、同株券の売買の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって、同株券の仮装の売買及び馴れ合い売買を行った。 また、(株)キャッツの前代表取締役ら、同社役員2名及び同社の監査証明の業務に従事していた公認会計士1名は、共謀の上、同社の業務に関し、第29期(平成14年1月から同年12月まで)における同年1月から同年6月までの半期の決算及び第29期の決算に当たり、内容虚偽の貸借対照表等を掲載した半期報告書及び有価証券報告書を提出した。 |
○ |
デジタル事件(内部者取引) 東証・大証一部上場会社の前代表取締役社長は、(株)デジタルとシュネデール・エレクトリック社が資本業務提携を行うことについて決定した事実を知り、その公表前に(株)デジタルの株券を買い付けて利益を得ようと企て、同社株券を買い付けた。 |
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(2) |
検査 |
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本事務年度中に証券会社124社(うち外証17社)、登録金融機関13社、金融先物取引業者1社、自主規制機関2社に対して検査に着手した。 本事務年度において検査が終了したものは、前期繰越分を含め130社となっているが、このうち67社に問題点が認められた(問題点の割合52%)。問題点が認められた67社中、43社において市場ルールの違反行為が認められたほか、証券会社の営業姿勢や内部管理体制に関する問題点も多数認められた。 |
(3) |
内閣総理大臣及び金融庁長官に対する勧告 |
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検査結果又は犯則事件の調査に基づき、内閣総理大臣及び金融庁長官に対し、重大な法令違反が認められたとして、行政処分等を求める勧告を26件(うち財務局等分16件)実施した。 事案の内容別内訳は次のとおり。
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(会・個 |
) (会社 |
) (個人 |
) |
○ |
取引一任勘定取引の契約を締結する行為 |
1件 |
1件 |
8件 |
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○ |
法人関係情報に係る不公正取引の防止上不十分な有価証券の売買に関する管理の状況 |
1件 |
2件 |
― |
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○ |
有価証券の売買に関し重要な事項について誤解を生ぜしめるべき表示をする行為 |
1件 |
― |
― |
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○ |
特別の利益を提供することを約して勧誘する行為 |
― |
1件 |
1件 |
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○ |
作為的相場を形成させるべき売買をする行為等 |
2件 |
2件 |
― |
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○ |
職務上知りえた特別の情報に基づく有価証券の売買及び投機的利益の追求を目的とした有価証券の売買取引 |
― |
― |
2件 |
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○ |
法人関係情報を提供した勧誘 |
1件 |
― |
― |
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○ |
損失補てん等 |
― |
1件 |
― |
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○ |
適合性原則違反 |
― |
1件 |
― |
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○ |
外務員の職務に関する著しく不適当な行為 |
― |
― |
2件 |
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○ |
仮装取引及び馴合い取引 |
1件 |
1件 |
― |
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○ |
なりすましの疑義のある取引について本人確認を行わない行為 |
― |
3件 |
― |
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○ |
自主規制業務の不備 |
― |
1件 |
― |
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勧告の対象となった主な法令違反の概要 |
イ |
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いわゆる「適合性原則」違反概要 日経平均株価(日経225)を対象とする日経225オプション取引の勧誘を積極的に行っている一方で、内部管理面では、営業員により顧客に適合しない不適当な勧誘が行われることを未然に防止するための管理体制が整備されていない状況の中で、 |
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○ |
生計を主に年金収入に頼り、オプション取引を開始するまでは債券や投資信託の取引を主体とし、オプション取引の基本的な仕組みを理解していない顧客に対して、オプション取引の仕組みやリスクを十分に説明して理解させないまま、 |
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○ |
オプション取引の対象銘柄、数量、売買の別をすべて営業員が提案し、顧客が無条件にこれを受け入れるという営業員主導の態様で、顧客の財産に比して大きな数量の建玉のオプションの売り取引を短期間に繰り返して行うなどの取引を勧誘し、 その結果、顧客に多額の損失を発生させた。(泉証券) |
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ロ |
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(株)キャッツ株式に係る相場操縦事件に関して行われた検査の概要 当該事件に係る犯則嫌疑者が高指値注文の連続発注による買付け等の方法により、当該株式の価格の引上げを意図していることを知りながら、当該株式の売買注文を受託、執行した行為は、「実勢を反映しない作為的相場が形成されることとなることを知りながら一連の有価証券の売買取引の受託等をする行為」と認められた。(ゲット証券・丸三証券) 当該事件に係る犯則嫌疑者が複数の法人口座において、当該法人になりすまして取引を行っていることを知りながら、本人確認を行わないまま、取引を受託、執行した行為は、なりすましの疑いのある取引について本人確認を行わない行為と認められた。(ゲット証券) |
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(4) |
建議 |
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証券会社の検査を行った結果、(1)証券会社のアナリスト・レポート及び証券アナリストに係る管理が十分なものとは認められない状況、(2)証券会社が情報提供会社に対し、銘柄を指定した上、対価を支払ってアナリスト・レポートの作成を依頼したが、同レポートがそのような事情の下で作成されたことを同レポートに表示することなく投資者に対し公表している状況が認められたので、投資者保護及び市場の公正性、透明性を高める観点から、証券会社が投資者の勧誘等に際し使用するアナリスト・レポートに関する利益相反行為等を防止するため、アナリスト・レポート及びこれを作成したアナリストに対する適切な管理体制を構築させるための措置を講じる必要があるとして、金融庁長官に対し、建議を行った。 |
(5) |
取引審査 |
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本事務年度の審査件数は、合計687件であった。その内訳は、株価が急騰するなど不自然な動きをしたもの等の価格形成に関するもの154件、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼす重要な事実の公表により株価が大きく変動したもの等の内部者取引に関するもの500件、その他風説の流布等に関するもの33件となっている。 |
(6) |
一般からの情報の受付 |
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本事務年度中に投資家など一般から受け付けた情報は、3,217件であり、前事務年度を上回り、平成4年の発足以来最高の受付件数となっている。情報の内容としては、個別銘柄に関するものが2,015件、証券会社の営業姿勢に関するものが655件、その他の意見等が547件となっている。 |
(7) |
監視活動・機能強化への取組み等 |
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○ |
組織の充実 |
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ディスクロージャー違反等の徹底摘発に向けた犯則事件の調査体制の強化、証券会社等の違反行為を見逃さない検査体制及び日常的な市場監視体制の強化を柱として、23人の増員が認められ、平成16年度末の定員は237人となる。また、財務局等の監視官部門においても、7人の増員が認められ、平成16年度末の定員は204人となる。 さらに、的確な市場監視及び職員の専門性向上を図るなどのため、デリバティブや有価証券のディーリング業務などに精通した者、弁護士及び公認会計士18人の民間専門家を採用し、平成16年6月末現在において在籍している民間出身の専門家は59人となっている。 |
○ |
新たな監視機能について |
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金融審議会報告書(「市場機能を中核とする金融システムに向けて」)において、市場監視機能・体制の強化のための方策として、課徴金制度の導入、金融庁から監視委員会への検査委任範囲の拡大等が報告された。 これを踏まえ、証券取引における課徴金制度の導入及び証券取引等監視委員会の検査範囲の拡大による市場監視機能・体制の強化等を内容とする「証券取引法の一部を改正する法律案」が平成16年6月2日に成立し、課徴金制度の導入については平成17年4月1日から、監視委員会の検査範囲の拡大については同年7月1日から施行される。 |
○ |
投資家への情報提供等の取組み |
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講演会の開催やインターネットを通じて監視委員会の活動状況等の情報を提供することにより、個人投資家等の監視委員会に対する理解と証券市場等に対する信頼を深めてもらう工夫に取り組んでいる。また、監視委員会の活動に有用な端緒となる情報がより多く寄せられるよう、ポスター等を通じてその提供を求めている。 |
○ |
関係当局との連携 |
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金融庁や自主規制機関と密接な情報交換等を行うとともに、海外の証券規制当局との情報交換や主要な国際会議への参加を通じて、金融庁とともに海外の証券規制当局との連携強化にも努めている。 |
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なお、「証券取引等監視委員会の活動状況」は、監視委員会事務局のほか各財務局等において閲覧することができる。また、8月27日15時30分から監視委員会のホームページ、9月1日には官報に掲載する予定である。 |
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