証券取引等監視委員会の事務処理状況の公表について

平成21年8月27日
証券取引等監視委員会

証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という。)は、金融庁設置法第22条の規定に基づき、毎年、事務処理状況を公表している。今回は、その17回目として、平成20年7月1日から同21年6月30日までの期間(以下「平成20事務年度」という。)における事務の処理状況を「証券取引等監視委員会の活動状況」として公表した。

  • 1.平成20事務年度における活動の主なポイント

    「証券取引等監視委員会の活動状況」においては、証券監視委の活動状況全般について、その内容や特徴を記載しているが、平成20事務年度においては、世界的な金融不安の高まりに伴う市場の動揺に対し、平成19年9月に公表した中期的な活動方針とする『公正な市場の確立に向けて』(以下「活動方針」という。)を踏まえて、金融危機への対応の観点から以下の取組みを行った。

    • (1) 市場の混乱に乗じた不公正取引への監視の強化

    • (2) 金融商品取引業者等の財務内容を重視した検査を含めた、証券検査の業務の総合的な点検

    • (3) 新しい商品・取引への監視のあり方にかかる検討

  • 2.公表内容の概要

    • (1) 市場分析審査

      • ○ 一般からの情報の受付

        平成20事務年度において一般から受け付けた情報は6,412件である。情報の内容としては、個別銘柄に関するものが4,789件、金融商品取引業者の営業姿勢等に関するものが1,038件、その他の意見等が585件となっている。

        また、同事務年度では、証券監視委が発行市場・流通市場の全体に目を向けた市場監視を行っていることや、証券検査において、法令等遵守態勢の検証を基本としつつも、財務の健全性やリスク管理態勢に着目した検証を充実させる方向にあることなどを踏まえ、証券監視委が幅広い角度からの情報収集を行い、市場における様々な事象を多角的・多面的に分析していくために、情報提供の呼びかけに係る見直しを行った。

      • ○ 取引審査等の状況

        平成20事務年度の取引審査件数は、合計1,031件である。その内訳は、価格形成に関するもの132件、内部者取引に関するもの889件、その他10件となっている。

        同事務年度の特色としては、全国の証券会社と全国の証券取引所、日本証券業協会、証券監視委・財務局等との間を専用線によるネットワークで結び、売買データの授受を電子的に処理するシステムである「コンプライアンスWAN」の利用開始(平成21年1月)が挙げられる。これは、「活動方針」の重点施策のひとつである「自主規制機関などとの連携」の取組みに沿ったものとなっている。

        また、他の特色としては、発行市場・流通市場全体に目を向けた市場監視を行い、さらに、直ちに法令違反とはいえないような取引についても幅広く注意を払うなど、「活動方針」の他の重点施策である「包括的かつ機動的な市場監視」に努めていることが挙げられる。近年、不公正取引は、従来の流通市場における取引のみならず、発行市場に密接に結びついている取引が見受けられるところであり、幅広い角度からの情報収集や市場における様々な事象を多角的・多面的に分析する視点が不可欠となってきている。

      • ○ 市場動向分析

        証券監視委は、金融システムに内在するリスクをできるだけ早く認識し、重要課題への対応のために行政資源を効果的に投入していくという観点を踏まえ、新商品や新たな取引形態等、金融・資本市場全般における新たな動向についてタイムリーに分析(市場動向分析)を行い、個々の取引の背景となる事象を把握し、市場監視に役立てている。

    • (2) 証券検査

      • ○ 金融商品取引業者等検査マニュアルの改正

        金融商品取引業者等検査マニュアル(以下「検査マニュアル」という。)については、平成20年7月に店頭金融先物取引に係るリスク管理態勢等に関する一部改正を行ったが、平成21年5月には、金融商品取引法(以下「金商法」という。)等の一部改正(ファイアーウォール規制の見直し及び利益相反管理体制の構築)、自主規制機関の規則の一部改正及び制定(「不公正取引の防止のための売買管理体制の整備に関する規則」の改正及び「証券化商品の販売等に関する規則」の制定)等を踏まえた改正を行った。

        なお、改正検査マニュアルについては、平成21年6月1日以降に着手した検査から活用している。

      • ○ 業務点検プロジェクト

        平成20年9月、より効率的・効果的な検査を実現するため検査の手続面を中心に点検を行い、必要があれば見直しを行うことを目的として、「証券検査に係る業務点検プロジェクト」を発足した。当プロジェクトでは、各業界団体を交えた議論を経て、同年12月に今後の証券検査の一定の方向性について、「証券検査に係る業務点検プロジェクトの検討状況」を公表した。

        その後、更なる議論を踏まえ、透明性の高い効率的かつ効果的な検査を実施するとの観点から、平成21年6月に検査の基本事項や検査実施の手続等を定めた「証券検査に関する基本指針」を改正した。

      • ○ テーマ別検査

        株券電子化の円滑な制度施行に向け、証券会社のシステムの整備状況について、特に経営陣のリスク管理に対する取組み、株券電子化に係るリスク管理態勢のあり方、不測の事態への対応等に関し、一般検査の中で検証を行った。こうしたシステム開発プロジェクトに係る検証は、証券監視委としては初めて実施したものである。

      • ○ 検査結果の概要

        平成20事務年度中に金融商品取引業者191社(うち第一種金融商品取引業者117社(うち旧証券会社96社(うち外国証券会社7社)、旧金融先物取引業者21業者)、第二種金融商品取引業者1社、投資運用業者15社、投資助言・代理業者58業者)、登録金融機関25機関、投資法人7法人及び自主規制機関5機関の計228社に対して検査に着手した。

        同事務年度において検査が終了したものは、前期繰越分を含め220社となっているが、このうち112社に問題点が認められた(問題点が認められた会社の割合51%)。問題点が認められた112社中、43社において投資者保護に関する問題点が認められたほか、財産・経理等や業務運営などに関する問題点も認められた。

        検査の結果、重大な法令違反が認められた18社については、内閣総理大臣及び金融庁長官に対し、行政処分等の勧告を行った(うち財務局等分12社)。

        主な勧告事例は次のとおりである。

        • イ 第一種金融商品取引業者等の処分に係る勧告
          • 不正の手段により金融商品取引業の登録を受けた事例

            ― アセットカンパニー株式会社

          • 顧客の損失を補てんするため、財産上の利益を提供した事例

            ― 株式会社パンタ・レイ証券

        • ロ 投資運用業者、投資助言・代理業者等の処分に係る勧告
          • 著しく事実に相違する表示のある広告をした事例

            ― 有限会社ゴールデンピラミッド

    • (3) 不公正取引及びディスクロージャーに関する調査等

      • ○ 不公正取引に対する勧告・告発

        • イ 不公正取引に対する勧告

          不公正事件に関する課徴金調査の結果、20件(内部者取引に係る事案が18件、相場操縦に係る事案が2件)、7,525万円の課徴金納付命令の発出を求める勧告を行った。

          主な勧告事例は次のとおりである。

          • 現役の証券会社社員や公認会計士、企業の監査役といった高い職業倫理を求められる職業・役職の者による内部者取引の事例

            ― ゴールドマン・サックス証券株式会社社員による内部者取引

            ― カブドットコム証券株式会社社員らによる内部者取引

            ― パイオニア株式会社監査役による内部者取引

            ― 株式会社アルゴ21等の株券に係る内部者取引

          • 重要事実に係る、いわゆるバスケット条項(金商法第166条第2項第4号)を初めて適用した勧告事例

            ― 株式会社栗本鐵工所取引先社員による内部者取引

          • 相場操縦事案に対し、平成17年4月の課徴金制度導入以来、初めてとなる課徴金納付命令勧告を行った事例

            ― トリニティ工業株式会社株券に係る相場操縦

        • ロ 不公正取引に対する告発

          犯則事件については、金融商品・取引の複雑化・多様化・グローバル化・ローカル化といった環境変化に対応し、複雑・困難な複合事案を含む幅広い態様の事案を手掛け、内外の関係諸機関と連携しつつ調査を実施した結果、相場変動目的暴行・脅迫の嫌疑で2件・2名、内部者取引の嫌疑で7件・8名の合計9件・10名について、告発を行った。

          主な告発事例は次のとおりである。

          • 相場変動目的の暴行・脅迫について、証券取引法制定以来、初めて告発を行った事例

            ― 株式会社ドン・キホーテ店舗への放火による相場変動目的暴行・脅迫事件

          • クロスボーダーの不公正取引について、海外証券規制当局の協力を得て、初めて告発を行った事例

            ― ジェイ・ブリッジ株式会社元取締役会長による同社株券に係る海外ダミー口座を利用したクロスボーダー内部者取引事件

      • ○ ディスクロージャーに関する勧告・告発

        • イ ディスクロージャーに関する勧告

          開示検査の結果、開示書類の虚偽記載に関して12件、約7億1,375万円の課徴金納付命令の発出を求める勧告を行った。勧告事案に係る虚偽記載の態様は、売上の過大計上、貸倒引当金繰入額の過少計上、減損損失の不計上、棚卸資産の過大計上、貸付金の過大計上、のれんの過大計上、未払金の過少計上等と、その内容は多岐にわたるものとなっている。

          主な勧告事例は次のとおりである。

          • 特別目的会社を活用した不動産流動化スキームを悪用し、本来計上できない特別利益を計上した有価証券報告書を参照書類とした有価証券届出書に基づきファイナンスを行った事例

            ― 株式会社ビックカメラに係る有価証券報告書等の虚偽記載

          • 実態のない事業譲渡に基づくのれんの計上により貸倒損失の計上を回避するなどし、その後、監査証明を行った監査法人についても処分を受けることとなった事例

            ― 株式会社ゼンテック・テクノロジー・ジャパンに係る有価証券報告書等の虚偽記載

          • 会社代表者の指示の下、売上の過大計上や貸倒損失の計上回避を行った上でファイナンスを繰り返した事例

            ― トラステックスホールディングス株式会社に係る有価証券報告書等の虚偽記載

        • ロ ディスクロージャーに関する告発

          証券監視委は、「活動方針」において、発行市場・流通市場全体に目を向けた市場監視を行う旨を掲げ、内部者取引等流通市場における不正だけでなく、発行市場・ファイナンスにおける不正の監視にも強力に取り組んでいる。

          平成20事務年度においては、虚偽の有価証券報告書等の提出につき4件・11名について告発を行ったが、これらの粉飾事案は、新規上場時を含めファイナンスに係る有価証券届出書について、重要な事項につき虚偽の記載のあるものを提出したことを告発対象事実に含むものである。証券監視委としては、不公正ファイナンス等に係る偽計の摘発とともに、ディスクロージャーに関する不正についても監視の目を光らせ、発行市場の信頼性の確保に努めていくこととしている。

          主な告発事例は次のとおりである。

          • 新規上場時に提出された有価証券届出書の虚偽記載に係る初めての告発事例

            ― 株式会社プロデュースに係る虚偽有価証券届出書等提出事件

    • (4) 建議

      建議については、外国為替証拠金取引を取り扱う金融商品取引業者に対する重点検査の結果に基づき、金融庁長官に対し、(1)外国為替証拠金取引に係る区分管理の方法の見直しについて、(2)外国為替証拠金取引に係るロスカットルールの制定について、(3)外国為替証拠金取引に係る適切な保証金の預託について、(4)登録申請時の徴求書類等の見直しについての4件の建議を行った。

      これら4件の建議のうち3件が「金融商品取引業等に関する内閣府令」、また1件は、「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」に反映されるなど、証券市場の実態を踏まえた市場ルールの整備に寄与している。

    • (5) 監視活動・機能強化への取組み等

      • ○ 市場監視体制の充実・強化

        平成21年度の機構・定員については、課徴金・開示検査体制の整備を大きな柱として増員要求を行った結果、22人の増員が認められ、同年度末の定員は374人となる。

        また、財務局等の証券取引等監視官部門においても、25人の増員が認められ、同年度末の定員は300人となり、証券監視委の定員と合計すると全体で674人となる。

        さらに、的確な市場監視及び職員の専門性向上を図るため、証券業務等に関して専門的知識・経験のある者、弁護士及び公認会計士などの民間専門家を採用し、平成21年6月末現在において在籍している民間出身の専門家は104人となっている。

      • ○ 投資家への情報提供等の取組み

        「活動方針」の第二の柱である「市場規律の強化に向けた働きかけ」の一環として、市場参加者との対話、市場への情報発信の強化を掲げ、新たに上場会社の役職員や監査役を対象とした講演を実施するなど、市場参加者に対する情報発信に取り組んでいる。

      • ○ 関係当局との連携

        金融庁や自主規制機関のほか、市場の公正確保のための当事者との緊密な連携を図るという観点から、従来からの日本公認会計士協会に加え、日本弁護士連合会との意見交換を行った。さらに、犯則事件が地域的な広がりを見せる中、警察及び検察との連携を一層深め、反社会的勢力による金融・資本市場への関与の排除に向けた意見交換も実施している。また、世界的な金融不安の高まりに伴う市場の動揺に対応するとともに、我が国市場の公正性を確保するため、海外の証券規制当局との意見・情報交換や主要な国際会議への参加を進めるほか、金融庁とともに海外の証券規制当局等との連携強化にも努めている。

    • (6) 金商法改正による業務の拡大等

      • ○ 信用格付業者に対する公的規制の導入

        格付会社に対する規制の導入・強化に係る取組みが国際的に進められている動向を踏まえ、金融・資本市場における情報インフラとして重要な役割を担っている格付会社については、登録制の導入等を通じて規制・監督の対象とすることとされており、証券監視委には登録を受けた信用格付業者に対する報告徴取・立入検査権限が委任されている。

      • ○ 金融分野における裁判外紛争解決制度(金融ADR制度)の創設

        金融商品・サービスの多様化・複雑化が進む中、金融商品・サービスに係るトラブルについて、裁判外の簡易・迅速な解決手段を提供し、利用者の納得感のあるトラブル解決を通じ、利用者の保護を図るとともに金融商品・サービスに関する利用者の信頼性を向上させることが重要であるとの観点から、苦情処理・紛争解決を行う民間団体(指定紛争解決機関)を主務大臣が指定するものであり、証券監視委には、その指定紛争解決機関に対する報告徴取・立入検査権限が委任されている。




本公表については、証券監視委のホームページ上において、本日より公表。
なお、官報においては8月28日に掲載する予定。



 

 

 

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