平成25年6月26日
証券取引等監視委員会
証券取引等監視委員会の事務処理状況の公表について
証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という。)は、発足以来毎年、事務処理状況を公表していますが、今回は、その21回目として、平成24年4月1日から同25年3月31日までの期間における事務の処理状況を「証券取引等監視委員会の活動状況」として公表します。
公表内容の主なポイント
第1章:組織
第2章:市場分析審査
1.一般投資家等からの情報の受付
受付件数 6,362件(平成24年度)
*平成23年度は6,179件
(内訳)
・個別銘柄に関するもの3,751件(3,227件)
・発行体に関するもの436件(440件)
・金融商品取引業者の営業姿勢等に関するもの790件(878件)
・その他の意見等1,385件(1,634件)
*カッコ書きは平成23年度の件数
(参考)年金運用ホットライン(平成24年4月設置)
-
「年金運用の分野」に関し、投資一任業者等における疑わしい運用等の端緒情報のほか、年金資産の運用環境に関する情報等、幅広く受付け
→ 平成24年度においては、23件の情報を受付け
有用性の高い情報を得る観点から、実名の方を対象
-
特に詳細な情報提供の場合、年金運用の専門家が対応
-
ウェブサイトにおいて提供いただきたい情報の例をより具体的に掲載(平成25年4月)
-
2.市場動向分析
-
発行市場・流通市場全体に目を向けた市場監視
-
・不公正ファイナンスへの対応 等
-
-
新たな金融商品等の実態把握を含めた包括的かつ機動的な市場監視に向けた実態把握
・市場における新たな取引等(高頻度取引(HFT)やアルゴリズム取引等)の実態把握等
-
3.取引審査
973件の取引審査を実施(平成24年度)
*平成23年度は913件
(内訳)
・価格形成に関するもの84件 (73件)
・内部者取引に関するもの875件(819件)
・その他(偽計等)14件 (21件)
*カッコ書きは平成23年度の件数
-
クロスボーダー取引への対応
第3章 証券検査
1.検査の実施状況
全体で214社〔着手ベース〕の検査を実施(平成24年度)
第一種金商業者(57社)、登録金融機関(28社)、投資運用業者(36社)、
第二種金商業者(20社)、投資助言・代理業者(40社)、
適格機関投資家等特例業務届出者 (21社)等、多様な業態をカバー。(注1)検査実績について、検査対象先が複数の業種の登録を受けている場合は、主たる業種に分類して計上したもの
(注2)検査対象先は、金融商品取引法の施行を含む数次にわたる制度改正により多様化するとともに、対象業者数が大幅に増加し、全体で延べ約8,000社(平成24年度末時点)
検査等の結果、重大な法令違反等が認められた18件(注3)について、行政処分等を求める勧告を行い、これら事案を含め、法令違反や内部管理態勢等の問題点が認められた102社に対して、問題点を通知。
(注3)このほか、国際取引等調査及び犯則事件の調査の結果に基き、金商業者に対して2件の勧告を行った。
重大な法令違反等が認められた適格機関投資家等特例業務届出者等13社について、社名・代表者名・法令違反行為等を公表
2.主な勧告事例
-
第一種金融商品取引業者
法人関係情報に関する管理について不公正取引の防止を図るための適切な措置を講じていない業務の運営状況(SMBC日興証券(株)、野村證券(株))
投資運用業者(投資一任業者)
投資対象となるファンドのデューデリジェンスやモニタリング等が不適切であり、投資一任契約に係る善管注意義務に違反(ユナイテッド投信投資顧問(株)、(株)スタッツインベストメントマネジメント)
-
信用格付業者
付与した信用格付に係る検証及び更新を適切かつ継続的に実施するための措置が不十分な状況、信用格付の誤公表等(スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン(株))
-
3.投資一任業者に対する集中的な検査
-
AIJ問題を受け、金融庁が実施した投資一任業者に対する一斉調査の内容等を踏まえ、集中的な検査を実施。
⇒ 2件の行政処分勧告を実施
(新生インベストメント・マネジメント(株)、ビバーチェ・キャピタル・マネジメント(株))
-
年金運用に係る専門の窓口として「年金運用ホットライン」を開設し、専門家による積極的かつ質の高い分析を行い、投資一任業者の検査に活用。
-
4.無登録業者等に対する裁判所への禁止命令等の申立て等
-
1件の申立てを実施
-
・F-SEED(株)(適格機関投資家等特例業務届出者)及びその使用人
ファンドの契約の締結又はその勧誘に関する虚偽告知
-
-
1件の調査等の結果を公表
・MJホールディングス(株)ほか7社
無登録業者にファンド持分の取得勧誘を行わせる行為、ファンド出資金の流用等
-
第4章 取引調査
取引調査の結果に基づく勧告状況
25件の勧告を実施(平成24年度)
*平成23年度は17件(国際取引等調査を除く)
(内訳)
内部者取引13件(14件)、相場操縦12件(3件)
*カッコ書きは平成23年度の件数
-
勧告事案例
-
・株式会社ジアース役員及び社員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告 (平成24年8月3日)
→ 上場会社の役員及び社員が職務に関し知った情報を基に内部者取引を行った事案
・アイティメディア株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告(平成24年10月12日)
→ 課徴金納付命令対象者3名が、あらかじめ意思を通じた上で、対当売買等により相場操縦を行った事案
-
-
第5章 国際取引等調査
国際取引等調査の結果に基づく勧告状況
7件の勧告を実施(平成24年度)〔内訳:内部者取引6件、相場操縦1件〕
-
勧告事案例
・大型公募増資公表前に行われた内外プロ投資家によるインサイダー取引に対し、6件の課徴金納付命令勧告を実施。このうち、東京電力株式に係る内部者取引事案は、海外に所在する違反行為者に対する課徴金納付命令勧告として、初めての事例
・ヤフー株式に係る相場操縦事案は、米国所在の違反行為者に対して課徴金納付命令勧告を行ったものであり、不公正取引に係る課徴金額としては過去最高金額(6,571万円)
・上記の東京電力株式及びヤフー株式に係る事案は、米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission)と緊密に協力・連携した結果、課徴金納付命令勧告を行ったもの
-
第6章 開示検査
開示検査の結果に基づく勧告状況
10件の勧告を実施(平成24年度)
(内訳)
・開示書類の虚偽記載に対する課徴金納付命令勧告9件(9件)
・訂正報告書の提出命令の発出を求める勧告1件(0件)
*カッコ書きは平成23年度の件数
-
勧告事案例
・架空売上の計上、売上原価の過少計上、投資有価証券の過大計上、のれんの過大計上、長期借入金の過少計上、貸倒引当金の過少計上等、多岐にわたる虚偽記載の態様について勧告
・開示書類を自発的に訂正しなかった発行者に対し訂正報告書の提出命令を勧告
(注)勧告に至らない場合でも、自発的な訂正を促している。
第7章 犯則事件の調査・告発
1.告発の状況
7件の告発を実施(平成24年度)
*平成23年度は15件
(内訳)
偽計1件(3件)、内部者取引2件(6件)、投資一任契約の締結に係る偽計4件(0件)、 相場操縦0件(1件)、風説の流布及び偽計0件(1件)、 虚偽有価証券報告書等の提出0件(4件)
*カッコ書きは平成23年度の件数
→ 市場の公正性を脅かす証券犯罪に厳正に対応
2.告発事例
-
AIJ投資顧問株式会社による投資一任契約の締結に係る偽計事件
【平成24年7月(2件)、9月(1件)、10月(1件)】
→ 投資一任業者等が、虚偽の運用実績等を示して多数の年金基金との間で投資一任契約を締結し、多額の損失を生じさせた事件について、「契約の偽計」を初めて適用し、告発
-
証券会社元執行役員が関与した内部者取引事件
【平成24年7月、8月(各1件)】
-
→ 証券会社執行役員が職務上入手した公表前の重要事実を継続的に知人の会社役員に伝達。取引金額も高額で悪質な内部者取引事件
-
-
株式会社セイクレスト関係者らによる現物出資制度を悪用した偽計事件
【平成24年12月】
-
→ 不動産の現物出資制度を悪用した不公正ファイナンスについて、NESTAGE事件に次ぐ2件目の告発
-
→ 不公正ファイナンス事案としては、ペイントハウス株式会社に係る事件(平成21年7月告発)から上記株式会社セイクレストに係る事件まで、これまでに計7件を摘発
-
-
第8章 建議
建議等を通じたルール整備への貢献
信用格付を提供し、又は閲覧に供する行為に係る正確性の確保についての建議(平成25年3月29日)
・信用格付業者に対する検査において、社内で決定・付与された信用格付を提供し又は閲覧に供する行為(以下「公表等」という。)を行う際に、誤って異なる信用格付を公表等している事例が認められた。
・しかし、現行の制度では、信用格付業者に対して、信用格付の公表等に係る正確性の確保を直接求める制度になっていないため、建議を実施。
-
会社情報の公表予定時刻前のウェブサイトへの掲載等に係る対応
・市場監視活動を行う過程で、一部の上場会社において、正式な公表予定時刻より前に、自社ウェブサイト等に重要な会社情報を十分な情報セキュリティ措置を講ずることなく保存したため、外部の者によって容易に当該情報が閲覧されてしまうケースがあることが判明。
・東京証券取引所に情報提供。
・平成25年4月、金融庁と各証券取引所は、上場会社等に対し、自社ウェブサイトに会社情報を掲載する際の留意事項を通知するとともに、各証券取引所は、上場規則の改正等を内容とする今後の対応方針や上場規則改正の要綱案を公表。
第9章 市場のグローバル化への対応に向けての取り組み
1.情報交換枠組みの活用
クロスボーダー取引による違反行為に対し、証券規制当局間の情報交換枠組み等を通じた海外証券規制当局からの情報提供などにより、5件の課徴金納付命令勧告及び4件の刑事告発を実施
2.意見交換
-
米国、香港、タイ、ケイマン諸島等の海外証券規制当局やグローバルに活動する金融機関、国際的な業界団体等との意見交換を実施
-
3.体制整備及び人材育成
-
クロスボーダー取引等を利用した内外プロ投資家による不公正取引の実態解明を専門に担当する、国際取引等調査室を取引調査課に設置(平成23 年8月)
-
海外証券規制当局における監視や調査・検査の手法を取得するため、また、我が国の有する調査・検査の手法・ノウハウを海外証券規制当局の職員へ伝えるため、証券監視委の職員をIOSCO等が主催する研修に派遣
-
第10章 監視活動の機能強化への取組み等
1.市場監視体制の充実・強化
クロスボーダー取引に対する監視体制の強化、投資一任業者等に対する検査体制の強化等
→ 16人の増員(証券監視委の平成25年度末の定員は400人)
民間専門家の採用:弁護士、公認会計士、IT専門家等(109名在籍)
2.システム・インフラの強化
-
デジタルフォレンジックの環境整備
・機材の整備、研修の充実等
-
3.市場参加者との対話、情報発信
-
市場参加者に対する講演や意見交換等の実施
-
各種専門誌等への寄稿や証券監視委メールマガジン等を通じた情報発信
-
4.関係当局等との連携
-
金融庁、財務局等、自主規制機関と定期的な意見交換を実施
-