ディスカッションペーパー

20年度ディスカッションペーパー

2009年3月27日

  • 「包括利益報告の透明性と投資家の合理的期待形成」
    菅野 浩勢 金融研究研修センター研究官
    海老原 崇 武蔵大学経済学部金融学科専任講師

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2009年3月19日

  • 「我が国ETF市場のマーケット・マイクロストラクチャーと投資家の注文行動」
    岩井 浩一 金融研究研修センター研究官

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2009年3月5日

  • 「証券化と金融危機-ABS CDOのリスク特性とその評価」
    藤井 眞理子 東京大学先端科学技術研究センター教授
    (金融研究研修センター特別研究員)
    竹本 遼太 株式会社かんぽ生命保険運用企画部

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2009年3月3日

2009年1月28日

  • 「確率ボラティリティ・モデルの下での平均オプションのプライシングについて」
    白谷 健一郎 みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社
    高橋 明彦 東京大学大学院教授
    (金融研究研修センター特別研究員)
    戸田 真史 東京大学大学院経済学研究科

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2008年12月8日

  • 「経済価値に基づいた生命保険契約の評価」
    鈴木 雅貴 金融研究研修センター専門研究員
    白須 洋子 青山学院大学経済学部准教授
    (金融研究研修センター特別研究員)

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2008年10月24日

  • 「信用リスクスコアリングにおけるAUCとAR値の最大化法」
    三浦 翔 金融研究研修センター専門研究員、総合研究大学院大学
    山下 智志 統計数理研究所准教授
    (金融研究研修センター特別研究員)
    江口 真透 統計数理研究所 教授

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ディスカッションペーパー要旨

包括利益報告の透明性と投資家の合理的期待形成

従来の我が国会計基準では、その他の包括利益(OCI)項目が財務諸表のどこにも表示されないなど、投資家にとって包括利益情報が極めて不透明になっていたため、投資家による将来の利益に対する合理的期待形成(ひいては、効率的な株価形成)が妨げられていた可能性がある。そこで、本稿では、株主資本等変動計算書の導入前の期間における我が国の一般事業会社の連結貸借対照表の資本の部の別掲科目の残高からOCI項目の金額を推定計算し、過去の純利益及びOCI項目の将来の利益(純利益又は包括利益)に対する持続性が株価に効率的に反映されているかどうかをMishkin [1983]テストを用いて検証した。その結果、プール・サンプル及び株式時価総額下位のサブサンプルについては、一部のOCI項目の持続性が市場において有意に過小評価されていることが発見された。この結果は、財務報告が不透明な場合には、特に、市場における情報生産が不十分であると考えられる株式時価総額の小さい企業において、会計情報のミスプライシングが生じる傾向があることを示唆している。包括利益報告の透明性の観点からは、理想的には、リサイクリングを廃止するとともに、単一の業績報告書において包括利益の全ての構成要素を表示することを全ての企業に強制することが望ましい。ただし、そうした理想を短期的に達成することは困難であると思われるので、当面は、我が国における国際会計基準(IFRS)の採用及びIFRSと我が国会計基準のコンバージェンスのための作業を推進し、リサイクリングを伴う純利益の表示を維持しつつ、包括利益の全ての構成要素を業績報告書に表示する国際的なアプローチが我が国においても受け入れられるよう努力すべきである。

我が国ETF市場のマーケット・マイクロストラクチャーと投資家の注文行動

本稿では、我が国上場投資信託(ETF)市場について、その制度面での特徴を踏まえたうえで、市場流動性や価格形成メカニズムを考察する。また、大口注文を利用する投資家と小口注文を利用する投資家の間に情報の非対称性が存在する可能性に着目し、それぞれの投資家がどのような注文戦略に従っているかを明らかにする。

ティックデータを用いた分析の結果、次の点が明らかとなった。第一に、ETF市場の日中取引パターンをみると、株式市場で指摘されてきた特徴の多くが確認されたほか、前場開始直後の時間帯において、ETF市場に特有の現象も観察された。具体的には、この時間帯に、大口の売り注文や成行注文が増加するほか、市場価格と純資産価値(NAV)の乖離が大きくなる傾向がある。第二に、過半数のETFについて、流動性が低いために裁定取引が機能していない可能性が見出された。第三に、大口注文と小口注文の注文戦略が異なっていることが確認された。小口注文は乖離に対する反応度合いが弱いが、大口注文は乖離に敏感に反応し、乖離に伴う裁定利益を獲得するために利用されている。この背景には、大口注文を利用する投資家と小口注文を利用する投資家の間に、情報の非対称性があると考えられる。

証券化と金融危機-ABS CDOのリスク特性とその評価

米国のサブプライムローン問題から始まった金融市場の大混乱は各国で深刻な景気後退を引き起こしているが、いまだ収束の気配がみえない。この一連の危機で世界の主要な金融機関も大きな打撃を受けているが、金融機関の損失において特徴的なことは、サブプライムなどの住宅ローンを裏付けとする資産担保証券(ABS)を元に作られた債務担保証券(CDO)であるABS CDOの損失率が6~7割ときわめて高く、次いで住宅ローン担保証券(RMBS)を中心とするABSの劣化が著しいことである。

本稿では、標準的な信用リスクのモデルを用い、シミュレーションを通じて証券化商品のリスク特性、特にABSを担保とするABS CDOのリスク特性を検証し、今回の危機のメカニズムを理解するとともに今後のリスク管理における課題を論じる。証券化という構造には、分散化のメリットと表裏の関係でシステマティック・リスクに対する感応度が高いというリスク特性が内在している。このため、大きなショックが発生した時にはCDO証券などの価値が同時に且つ急激に毀損することがある。すなわち、第1に、証券化によりメザニン以下のトランシェでは元のローンプールよりテイルリスクが増大する。この特徴はABS CDOなどの重複的証券化によって増幅される。第2に、細かいトランシェ分けを行うとトランシェの優先度合いにかかわらず元のプールよりもシステマティック・リスクへの感応度が高くなり、典型的には「クリフ効果」とよばれるような極端な損失率の急上昇がみられる。第3に、こうしたテイルリスクおよびシステマティック・リスクに対するクリフ効果などの事象は、劣後するトランシェほど、また、証券化が重なるほど増幅する形で顕在化する。第4に、個々のローンのデフォルト確率の増大やデフォルト相関の上昇などの変化が生じた場合には、証券化が繰り返されている場合ほど顕著な影響が生じる。なお、相関の上昇は一斉に悪いことが起きる可能性を高めるので、シニアトランシェのリスクをも高める結果となる。

こうしたABS CDOの特徴が住宅市場の悪化や市場環境の変化の中で顕在化し、大規模な証券化商品の価値の下落につながったのではないかと考えられる。

Financial Development and Amplification

伝統的な金融理論によると、金融の発達は、経済の安定化をもたらすと考えられてきた。ところが、2007年夏以降生じた金融危機によって、新しい見方が登場した。つまり、金融の発達は、金融増幅効果を強めることで、経済をかえって不安定にさせるのではないかという見方である。金融の発達は、効率性を高める一方で、経済を不安定にさせるのであろうか。本稿の目的は、このように一見すると矛盾して見える二つの見方を、一つの理論モデルを用いることで、矛盾することなく整合的に説明することである。得られた結果は次のようになる。金融の発達は、当初は金融増幅効果を強めることで経済の不安定化を高めるものの、一旦十分に発達すると、経済を安定化させる働きがある。言い換えると、金融の発達と経済変動の関係は非線形となる。さらに本稿では、金融増幅効果を抑える上で、どのような金融政策ルールが望ましいのか、およびその政策の経済厚生に与える影響を分析した。

確率ボラティリティ・モデルの下での平均オプションのプライシングについて

本論文は、商品市場では標準的となっている平均オプション(Average Option)の価格評価に関し、2つの確率ボラティリティ・モデル、Heston モデルとλ-SABRモデルの下で漸近展開を用いた近似評価式を導出し、数値例によりその精度を検証する。

経済価値に基づいた生命保険契約の評価

本稿では経済価値に基づく生命保険契約の評価モデルを概観する。近年におけるデリバティブ価格理論の急速な発展により、金融商品が持つ将来の様々なペイオフに対して、その合理的な経済価値を導出することが可能となった。一方、保険会社の財務情報に関して、その透明性および比較可能性を担保するような会計基準が模索される中、経済価値に基づく保険契約評価は、客観的かつ市場整合的なアプローチとして学術界のみならず実務および行政・監督サイドからも注目を浴びている。そこで、本稿では主にデリバティブ価格理論の生命保険契約評価への応用に焦点を当て、実務段階における適用可能性およびその問題点を整理する。また、この経済価値アプローチの導入が生命保険業界に与える影響を考察し、生命保険産業の健全な発展のために必要となる規制・監督手法の方向性について考察している。

信用リスクスコアリングにおけるAUCとAR値の最大化法

この論文は、企業の信用リスクスコアリングの分野において広く用いられているAUC(Area under Curve)による新しい手法を提案する。提案する手法では、AUCを最大化する線形スコアリングのパラメータの推定値を求め、モデルを作成する。従来からの手法は、2値回帰モデル、特にロジットモデルを仮定し、最尤推定法により線形スコアリングのパラメータの推定値を求めることによってモデルを作成するものであった。このモデルの妥当性を測る指標として、以前からAUCは用いられてきた。しかし、最尤推定法によって得られるモデルは、一般的にはAUCを最大化しない。AUCを目的関数として用いることによって、AUCに関して最適なモデルが得られる。

AUCは微分できない階段関数で定義されるため、最大化は困難である。そこで、本稿では、微分可能な連続関数で階段関数を近似することにより、近似AUCを最大化するようなパラメータの推定方法を提案する。なお、AUCとAR値は比例関係にあり、得られるパラメータの推定値はAR値も最大化する。

本稿で提案する手法により作成されるモデルは、AUCに関して最適性を有するだけでなく、従来の手法で得られるモデルよりも財務データに含まれる異常値に対してロバストであり、推定値が不安定でないという結果が得られた。財務指標データにおいては、異常値が含まれるデータが多くみられるため、異常値に対してロバストなモデルが得られる手法は有効である。デフォルト直前期の財務指標は信頼性が低いため、少数の異常値に依存しないことは適切な手法としての重要な要素である。

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