有識者コラム

(注)本コラムは有識者本人の個人的見解に基づいて書かれたものであり、当庁の見解、意見等を示すものではありません。

心とお財布が幸せになる!お金との付き合い方

  • 平成30年4月27日
  • ファイナンシャルプランナー
  • CFPR 認定者
    山中伸枝

第12回 60代の資産形成:美しいお金の使い方を考えたい

こんにちは、ファイナンシャルプランナーの山中伸枝です。

年齢をかさねることで、「人生」という風景は、その景色を変えていきます。20代では分からなかったことが、30代でふと気づいたり、30代では見えなかったものが、40代になって霧が晴れるようにスッキリ見えてきたり。それまでは何とも思わなかった景色が、50代になり、愛おしく思えるようになったり・・・。

従って、50代の私が60代の資産形成をお伝えする時、もしかしたら見当違いなことを申し上げるかもしれません。あくまでもファイナンシャルプランナーとして、考えていることをお伝えできればと思います。

リタイアする年齢は人それぞれですし、家庭環境、健康状態といった個々の状況は60代になると本当に多様になってきます。ご相談者様のお話を聞いていて感じることは「心とお財布の幸せには、お金の額は関係ない」ということです。

ビジネスで大成功され大きなご資産を築かれたお客様がいらっしゃいました。ご子息に対し若いうちから生前贈与などを行っていった結果、自由に使える有り余るお金でご子息がトラブルを抱え込むようになりいつしか音信不通となったそうです。こんなにお金があっても、孫におこづかいをあげることもできないと嘆いていらっしゃいました。

ある方からは、離婚話が持ち上がりこれからの生活をどうしたら良いかというご相談を受けました。ご主人から、単身赴任先で知り合ったパートナーとの生活を始めたいと、いきなり切り出されたそうです。奥様は、働いた経験もないためこれから自分でお金を稼ぐ自信もないし、これまでずっとご主人から渡されたお金でやりくりをしていたので、自分で自由にできるお金もありません。離婚を認めるのか、それとも妻という戸籍にしがみつくのか、とても深い問題を抱えていました。

上記は実際に私が経験した、「お金」の額が心の幸せとならないお客様の例です。

一方、ご夫婦がそれぞれの時間を大切にしながらも、時折山登りを楽しまれたり、海外旅行に出かけたりと、素敵な暮らしを満喫されている方もいます。お一人様で、退職後趣味のパン作りを本格的に学ぶためにヨーロッパに留学されたという方も。みなさんお金をかけなくても楽しめるようにといろいろ工夫をしていて、アイディア満載の素敵な暮らしぶりをうらやましく思う方もたくさんいらっしゃいます。ぜいたくをするほどお金に余裕があるわけではないけれど、満ち足りた暮らしはできるものだと思います。美しいお金の使い方をされている方々です。

美しいお金はなにものにも依存せず、自立しています。経済的にも、精神的にも依存はマイナスです。会社に依存する、世の中に依存する、家族に依存するなど、依存は判断力を失わせますし、人生の喜びを失わせます。具体的にはお金に振り回されないよう、ご自身のお金としっかりと向かい合うことです。

例えば、60代になったらおつきあいする金融機関も整理しましょう。中途半端に残高があったりする口座、引っ越しによって使わなくなった口座などはすべて閉鎖の手続きをしましょう。引き落としの契約が散らばっていれば、ひとつの口座にまとめます。

当たり前に固定費だと思っていた費用も今一度点検します。惰性で支払っているものなどは、要らないかもしれませんし、まとめて支払ってしまうことで安くなるのであれば、まとめ払いも要検討です。

遅かれ早かれ、私たちは公的年金と資産の取り崩しでやりくりしていく時期が必ずやってきます。手元のお金は手綱をしっかり持っておくに越したことはありません。

ちなみに退職金などまとまったお金がこれから入る予定の方は、お金の使い方は必ず俯瞰して考えましょう。記念旅行も結構ですが、予算はやはりあります。趣味やお家のリフォームもご希望はあるでしょうけれど、退職金の用途はそれだけではありません。またあまりにもノープランというのもダメです。「特に予定のないお金」ほど金融機関にとって魅力的な言葉はありません。「そうであれば、ぜひこちらの〇〇に!」と必要のない、あるいはみなさんにはふさわしくない金融商品にお金を振り向けられるかもしれません。

ある方は退職後に新たな生命保険を契約してしまいました。お子さんも成人しており、配偶者のこれからの生活も公的年金と貯蓄の取り崩しでメドがたつのであれば生命保険は不要です。医療保険も公的医療制度を考えると、必要以上に手厚い保険は要りません。

このお客様は「いわゆる」遺された家族のための生命保険はもういらないと思っていらっしゃったのに、金融機関から勧められたのは「相続対策」としての生命保険でした。解約しようと思っていた保険はお葬式代にと勧められて入った300万円の終身保険でしたが、これとは別にご主人が亡くなったら、奥様と二人のお子さんそれぞれに500万円、合計1,500万円の保険金がおりる終身保険に入られていました。

確かに相続が発生した際に、生命保険は他の財産とは別に法定相続人毎500万円の非課税枠があるので、相続対策としては有効です。また受取人固有の財産となるため、被相続人が亡くなって口座が凍結されてもお金が自由になるなどメリットもあります。しかしこの時に契約した「相続対策」の生命保険は、死亡時に受け取る保険金の額と払い込む保険料にあまり差のない「お金の保険」です。もちろん生前に解約したら払い込んだ保険料は目減りしますから「自由に使えないお金」になってしまいました。さらに言うと、本当に保険を使った「相続対策」が必要なのかも本来ならもっとしっかり見極める必要がありました。

多くの方が心配されるように相続税の負担は大変です。しかし、だからと言って「保険」が必ずしも解ではありません。気になる方は、保険の契約をする前に書店で相続に関する書籍を数冊読んだり、専門家に相談してからでも遅くはありません。

また頭ごなしに相続はもめるものだと決めてしまい身構えるのもどうかと思います。家族仲良くコミュニケーションをとることの方がよっぽど「相続対策」になります。いずれ老いていけば必ず病気にもなるし介護も必要になります。その先には必ずお別れがきます。これから起こる様々な出来事を家族で乗り越えるために、その時々に本当に家族にとって良い方法を選択するためにお金は使うものです。税金の支払いを減らすことを目的として、お金の行く先を決めるのは美しいお金の使い方ではありません。

「お金にも長生きしてもらいましょう」と年金保険を勧められることもあります。10年の据え置き期間が過ぎると年金原資が払い込んだお金より少し増え、それを取り崩すといったようなものや外貨に換えて増やしましょうといったものです。日本人はとかく保険や年金など「決まった形」にお金を変えるのが好きですが、ここも高齢期に注意したいお金の落とし穴です。

「収入」が多くなるとその分税金や社会保険料が高くなります。これは高齢期であっても同様です。公的年金も年金保険も収入です。これらはすべて合算され、税金と社会保険料が計算されます。またその年収が現役並みと判断されると、医療費の自己負担が高くなったり、介護を受ける場合でも1割負担で済まなくなってしまう可能性もあります。

こういう事を考えると、「収入にならない」お金を一部持っていることは賢明な判断でしょう。具体的には金融機関の口座から生活に必要なお金を引き出す分には、それは「収入」になりません。通常の口座は利益に対して課税されますが、「つみたてNISA」口座からの資金の引き出しは運用益にも課税されませんし、引き出した後の生活資金も課税されません。

年間投資枠が40万円と少なく、非課税期間20年は長すぎると年配者にはあまり人気のないつみたてNISAではありますが、「税金のかからないお金の先送り」という意味ではとても有効です。ご夫婦で年間80万円をつみたてNISAで20年後の自分たちの生活資金として先送りする、これはとても賢いお金の使い方でしょう。

さらに国際分散投資で、世界の成長にお金を投資するという行為はとても美しいものです。投資というのは、「明日はより良くありたい」という人間の本質を経済的に支える行為ではないかと思います。最先端の技術を支える日本の中小企業や、貧しい国の子どもたちの学ぶ環境を整える企業、地球の環境を守りながら便利な世の中を創り出そうと努力する企業などにお金を投資し、成長の恩恵を受ける。言ってみたらこれは「正義」だと思うのです。

60代はまだまだ若く、経済面で世界に貢献することもできます。「つみたてNISA」などを賢く使いお金を「正義」の元で成長させながら、将来の自分に豊かさを仕送りする、これもまた美しいお金の使い方ではないでしょうか?

「心とお財布が幸せになる!お金との付き合い方」の連載は今回が最後となります。お金と向き合うことは自分の人生と向きあうこと。豊かな人生を送るためには、心もお財布も豊かでなければいけない、そんなとりとめのないお話をさせていただきました。少しでも皆様の参考になるお話ができていれば幸いです。これまでおつきあいをいただきましてありがとうございました。ご縁に感謝申し上げます。いつかまたどこかでお会いしましょう!

有識者プロフィール

山中 伸枝

CFPR認定者。ファイナンシャルプランナー。1993年、米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後メーカーに勤務。これからは自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、FPを目指す。
著書:「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書(インプレス)ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本(翔泳社)、100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法(日本法令)他

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