平成24年12月14日

証券取引等監視委員会

スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン株式会社に対する検査結果に基づく勧告について

  • 1.勧告の内容

    証券取引等監視委員会がスタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン株式会社(東京都千代田区、資本金712百万円、役職員84名、信用格付業)を検査した結果、下記のとおり、信用格付業者に係る法令違反の事実が認められたので、平成24年12月11日、証券取引等監視委員会は、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、行政処分を行うよう勧告した。

  • 2.事実関係

    (1)付与した信用格付に係る検証及び更新を適切かつ継続的に実施するための措置が適切に講じられておらず業務管理体制の整備が不十分な状況

    当社が信用格付を付与したシンセティックCDO(以下「SCDO」という。)の信用格付に係る検証及び更新(以下「モニタリング」という。)の状況等を検証したところ、以下の問題点が認められた。

    • ア.SCDOの信用格付に影響を与える重要な情報を適切に確認していない状況

      当社は、SCDOに係る信用格付のモニタリングにおいては、SCDOを構成する個別の担保資産に係る債務(以下「参照債務」という。)のクレジットイベントが重要な情報であると認識している。

      また、参照債務がクレジットイベントに該当すると、当該参照債務は損失となり、複数の参照債務に係る損失の累積額(以下「累積損失額」という。)の増加は、SCDOの格下げ要因となるとしている。

      しかし、当社は、参照債務に係るクレジットイベントの発生状況について、SCDOのアレンジャーに適切に確認を行うなど、SCDOの信用格付に影響を及ぼす参照債務の累積損失額の適切な把握を行っていなかった。

      このため、あるSCDOの格付けに関し、当該SCDOの償還により信用格付の付与を終了する直前まで、長期間にわたり誤った信用格付を付与し続けていたなど、極めて不適切な事例が複数認められた。

      上記不適切な事例の発生後、当社は、6社のアレンジャーに、クレジットイベントの有無の確認を依頼しているが、当社の対応状況は、以下のとおり、引き続き不適切であると認められる。

    • (ア)アレンジャーからの回答により情報を入手した後も、依然として、クレジットイベントによる参照債務の累積損失額の増加を踏まえた信用格付への影響の有無を、適切に確認していない。

    • (イ)上記アレンジャー6社のうち1社からは回答がなかったが、これを放置して督促を行わず、クレジットイベントの発生の有無について確認を行わないまま、当該SCDOに係る信用格付の公表を継続している。

    • イ.SCDOに係る信用格付のモニタリングにおいて参照債務の想定金額の確認態勢が不十分な状況

      あるSCDOに係る信用格付のモニタリングの過程で、参照債務の想定金額を間違えてシステムに入力したことにより、平成22年1月及び同年2月に段階的に格下げすべきSCDOに係る信用格付について、同年10月まで格下げを行わなかった。

      なお、当社は、検査基準日現在において、入力データの正確性について、入力者以外の者が確認する措置を講じていない。

    • 上記ア.及びイ.のように、信用格付に係るモニタリングが適切に行われていない状況が複数の事案で継続している状況を踏まえれば、当社においては、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という。)第306条第1項第6号トに掲げる「付与した信用格付に係る検証及び更新を適切かつ継続的に実施するための措置」が講じられているとは認められない。

      したがって、当社は信用格付業を公正かつ的確に遂行するための業務管理体制が整備されているとは認められないことから、金融商品取引法(以下「法」という。)第66条の33第1項に違反する。

    (2)業務の運営の状況に関し、公益又は投資者保護上重大な問題が認められる状況

    当社は、付与した信用格付に関し、その公表プロセスに係る社内規程を適切に策定していない。このため、当社における信用格付の公表状況を確認したところ、以下のとおり、社内で決定された信用格付と異なる信用格付を公表等しているなど極めて不適切な状況が認められた。

    • ア.信用格付のプレスリリースにおける誤った信用格付の公表等

      • (ア)平成23年1月、当社は、短期格付を付与していない銘柄に係る信用格付のプレスリリースにおいて、当該銘柄の関連会社の短期格付を誤って転記し、当社ウェブサイトにおいて誤った公表(以下「誤公表」という。)を行った。

      • (イ)平成23年12月、ストラクチャード・ファイナンス案件に係る信用格付の変更のプレスリリースにおいて、旧格付欄に誤った信用格付を記載し、当社ウェブサイトにおいて信用格付の誤公表を行った。

        なお、当社は、上記(ア)及び(イ)の公表時に、当社の関連会社及び各メディア(以下「関連会社等」という。)へも同様の誤った信用格付の提供を行っている。

      • (ウ)平成23年11月、あるCDOの格上げの公表に際し、英語版の公表資料において誤った信用格付を記載し、これを関連会社等に提供した。

    • イ.依頼格付・非依頼格付の別に係る誤った公表等

      当社は、平成23年1月、当社ウェブサイトで毎月初旬に公表する「依頼・非依頼格付別国内発行体一覧」において、非依頼格付である銘柄を、非依頼である旨の表示を付けずに当社ウェブサイトで公表し、関連会社等へも誤った表示で提供を行った。

    • ウ.その他の誤った格付関連情報の提供

      当社は、信用格付のプレスリリースを更に深く分析した複数の格付分析レポートにおいて、参考として記載した債券等の信用格付について誤った記載を行ったものを、関連会社等に提供した。

    • 当社においては、誤った信用格付の公表等(以下「誤公表等」という。)があった場合の訂正に関する規程はあるものの、誤公表等の発生時におけるコンプライアンス部への報告等について定められておらず、本件誤公表等の発生時においてもコンプライアンス部に対し報告されていないことから、適切に再発防止策が策定されていない。

      当社における、上記(2)のア.からウ.及びこれら誤公表等を踏まえた再発防止策が構築されていない状況は、信用格付業者の業務運営として極めて不適切な状況であり、法第66条の41に規定する、業務の運営状況の改善に必要な措置を取るべきことを命ずることができる場合の要件となる「業務の運営の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるとき」に該当するものと認められる。

PDF参考資料(SCDOに係る格付モニタリング)(PDF:147KB)


(参考)

  • CDS(Credit Default Swap)
    参照債務にクレジットイベントが発生した場合、一方が他方にその金銭損失を補償することを約束する契約。
  • SCDO(Synthetic Collateralized Debt Obligation)
    主にCDSを利用した証券化商品であり、CDS契約がなされた参照債務を複数件束ねた金融商品。
  • CDO(Collateralized Debt Obligation)
    金銭債権等の資産を担保とした証券。
  • アレンジャー
    SCDOを組成する金融機関。通常、関係者に対して、クレジットイベントの発生状況等の業務を行う。
  • クレジットイベント
    支払不履行・倒産など、対象となる債務の履行に関し支障をきたす恐れのある行為や問題等。
  • 参照債務
    SCDOを構成する個々の債務。
  • 参照債務の想定金額
    一般的にSCDOを構成する各CDSは、参照債務の一定の元本額に対する契約であり、当該元本額のこと。
  • 累積損失額
    SCDOを構成する個々の参照債務について、それぞれクレジットイベントが発生すると、それぞれにおいて損失が発生することとなる。当該損失を累積したもの。

(参考条文)

金融商品取引法(昭和23年法律第25号)(抄)

(業務管理体制の整備)

第六十六条の三十三 信用格付業者は、信用格付業を公正かつ的確に遂行するため、内閣府令で定めるところにより、業務管理体制を整備しなければならない。

(以下、略)

(業務改善命令)

第六十六条の四十一 内閣総理大臣は、信用格付業者の業務の運営の状況に関し、公益又は投資者保護のため必要かつ適当であると認めるときは、その必要の限度において、当該信用格付業者に対し、業務の方法の変更その他業務の運営の状況の改善に必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)(抄)

(業務管理体制の整備)

第三百六条 法第六十六条の三十三第一項の規定により信用格付業者が整備しなければならない業務管理体制は、次に掲げる要件を満たさなければならない。

一~五 (略)

六 信用格付の付与に係る過程の品質の管理の方針の策定及びその実施に関する次に掲げる措置がとられていること。

イ~へ (略)

ト 付与した信用格付に係る検証及び更新を適切かつ継続的に実施するための措置(当該検証及び更新を実施しないこととした場合においては、その旨及びその他必要な事項を遅滞なく公表するための措置を含む。)

(以下、略)

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