令和7年1月17日
証券取引等監視委員会

株式会社WCPに対する検査結果に基づく勧告について

1.勧告の内容

 関東財務局長が株式会社WCP(東京都港区、法人番号7010401143381、代表取締役 古橋 昌也、資本金5000万円、常勤役職員9名、適格機関投資家等特例業務届出者)を検査した結果、下記のとおり、当該適格機関投資家等特例業務届出者に係る問題が認められたので、本日、証券取引等監視委員会は、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、行政処分を行うよう勧告した。

2.事実関係

○ 投資者の同意を得ることなくファンドと当社取締役との間における取引を行うことを内容とした運用を行う等、忠実に投資運用業を行っていない状況

 株式会社WCP(以下「当社」という。)は、金融商品取引法(以下「金商法」という。)第63条第2項に規定する適格機関投資家等特例業務(以下「特例業務」という。)として、主に未上場会社の株式取得や当該会社の企業価値向上に資する事業支援を目的とした、任意組合及び投資事業有限責任組合(以下「ファンド」という。)を組成し、当社自らファンドの業務執行組合員又は無限責任組合員(以下「GP」という。)として、ファンドの運用を行っている。
 今回検査において、当社のファンドの運営及び管理の状況について検証したところ、当社は、当社の甲取締役が100%出資している法人A及び古橋昌也代表取締役(以下「古橋代表」といい、甲取締役とあわせて「取締役2名」という。)と法人Aが50%ずつ出資している法人B(法人Aと法人Bをあわせて「取締役支配会社2社」という。)を利用して、ファンドと当社取締役との間における取引を行うことを内容とした運用を行っている等、以下の問題が認められた。

⑴ 投資者の同意を得ることなくファンドと当社取締役との間における取引を行うことを内容とした運用を行っている状況
① ファンドと取締役支配会社2社との取引(以下「本件取引」という。)の状況
ア 組合Xについて
 取締役支配会社2社は、令和2年7月に、株式会社Cと投資契約及び募集株式引受契約を締結し、株式会社Cの株式をそれぞれ8,432株、約2500万円(合計16,864株、約5000万円)で引き受けた。
 その後、当社は、組合XのGPとして、取締役支配会社2社が取得した当該株式について、同年9月に組合Xと取締役支配会社2社との間でそれぞれ株式売買契約を締結し、取締役支配会社2社は組合Xに対し、当該株式をそれぞれ8,432株、約5000万円(合計16,864株、約1億円)で売却した。
 
イ 組合Yについて
 取締役支配会社2社は、令和2年9月に、株式会社Dの転換社債型新株予約権付社債をそれぞれ3000万円(合計6000万円)で引き受け、同年10月に、当該社債の全てについて、株式転換手続を行い、株式会社Dの普通株式をそれぞれ100株(合計200株)取得した。
 その後、当社は、組合YのGPとして、取締役支配会社2社が取得した当該株式について、同年10月に組合Yと取締役支配会社2社との間でそれぞれ株式売買契約を締結し、取締役支配会社2社は組合Yに対し、当該株式をそれぞれ100株、5000万円(合計200株、1億円)で売却した。
 
② 取締役2名と取締役支配会社2社が実質的に同一であること
 取締役支配会社2社の株式保有比率は上記のとおりであるところ、法人Aは甲取締役、法人Bは古橋代表の他に役職員はおらず、それらの意思決定は、甲取締役及び古橋代表のみが行っている。
 また、取締役支配会社2社については、本件取引を含むファンドとの間の取引以外に何らかの事業を行っているとは認められない。さらに、取締役支配会社2社がファンドとの取引で得た利益については、当社の運営資金に一部使用されているほか、取締役2名の個人的な投資や生活費に充てられているなど、取締役2名は、個人と取締役支配会社2社の資金を区別して管理しているとは認められない。
 以上により、取締役2名と取締役支配会社2社は実質的に同一であると認められる。
 
③ 当社は、本件取引について、投資者に対し、取引の内容及び取引を行おうとする理由の説明を行っておらず、また、投資者の同意を得ていない。
 
 以上のとおり、当社は、投資者の同意を得ることなく、ファンドと取締役2名と実質的に同一である取締役支配会社2社との間で、利益相反となる本件取引を行うことを内容とした運用を行ったと認められる。
 
⑵ 本件取引の内容について、投資者に交付する運用報告書に記載すべき事項を記載していない状況
  当社は、事業報告書と称する書面等(以下「当社交付書面」という。)を運用報告書として投資者に交付しているが、当社交付書面には、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「業府令」という。)第134条第1項第3号及び第8号の記載事項である、本件取引を行った日、本件取引の種類等が記載されていない。
  また、上記⑴②のとおり、取締役支配会社2社は、取締役2名と実質的に同一であると認められることから、当社交付書面には、業府令第134条第1項第6号及び第7号の記載事項であるファンドと取締役との間における取引の内容等を記載する必要があるが、そのような記載はされていない。
 
⑶ 投資対象株式の発行会社から提示された価格よりも高い価格で当該株式を取得している状況
  当社は、組合XのGPとして、令和2年9月に、株式会社Cが発行する新株を組合Xが直接引き受ける契約を締結している。その引受けに関し、取締役2名は引受価格について、同年7月に取締役支配会社2社と株式会社Cが締結した募集株式引受契約における価格2965円の2倍である5930円となると考えていたため、取締役2名は、5930円で株式会社C株式の引受けを行うことを前提に、投資者に対し組合Xへの出資の勧誘を行っていた。
  このような状況の下、株式会社C代表取締役から甲取締役に対し、同代表取締役は引受価格を5588円と考えている旨の連絡があった。
  しかしながら、取締役2名は、投資者に対する勧誘に際し、引受価格は5930円と説明済みである等として、同代表取締役に、引受価格を5930円に修正させている。
  当社は、ファンドが合計約288万円低い価格で株式を購入できるにもかかわらず、あえて高い価格で取得しており、このような当社の行為は、組合Xの投資者の利益を害するものと認められる。
 

 上記⑴のとおり、本件取引については、取締役2名と取締役支配会社2社が実質的に同一であり、当社はファンドと当社取締役との間における取引を行うことを内容とした運用を行っていると認められる。また、投資者の同意なく行われた本件取引は、取締役との間における取引の禁止の適用除外規定に該当しない。以上より、本件取引は、金商法第63条第11項によって適用される同法第42条の2第1号に該当する。
 上記⑵の状況は、法令で定められた運用報告書の記載事項に不備があると認められることから、同法第63条第11項によって適用される同法第42条の7第1項に違反する。
 また、上記⑴~⑶の状況は、投資者のために忠実に投資運用業を行っていないと認められることから、同法第63条第11項によって適用される同法第42条第1項に違反する。


   pdf 参考資料(PDF:451KB)

 


(参考条文) 

〇 金融商品取引法(昭和23年法律第25号)(抄)
(権利者に対する義務)
第四十二条 金融商品取引業者等は、権利者(次の各号に掲げる業務の区分に応じ当該各号に定める者をいう。以下この款において同じ。)のため忠実に投資運用業を行わなければならない。
一・二 (略)
三 第二条第八項第十五号に掲げる行為を行う業務 同号イからハまでに掲げる権利その他同号に規定する政令で定める権利を有する者
2 (略)
 
(禁止行為)
第四十二条の二 金融商品取引業者等は、その行う投資運用業に関して、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、第一号及び第二号に掲げる行為にあつては、投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるおそれのないものとして内閣府令で定めるものを除く。
一 自己又はその取締役若しくは執行役との間における取引を行うことを内容とした運用を行うこと。
二~七 (略)
 
(運用報告書の交付)
第四十二条の七 金融商品取引業者等は、運用財産について、内閣府令で定めるところにより、定期に運用報告書を作成し、当該運用財産に係る知れている権利者に交付しなければならない。ただし、運用報告書を権利者に交付しなくても権利者の保護に支障を生ずることがない場合として内閣府令で定める場合は、この限りでない。
2・3 (略)
  
(適格機関投資家等特例業務)
第六十三条 次の各号に掲げる行為については、第二十九条及び第三十三条の二の規定は、適用しない。
一 適格機関投資家等(適格機関投資家以外の者で政令で定めるもの(その数が政令で定める数以下の場合に限る。)及び適格機関投資家をいう。以下この条において同じ。)で次のいずれにも該当しない者を相手方として行う第二条第二項第五号又は第六号に掲げる権利に係る私募(適格機関投資家等(次のいずれにも該当しないものに限る。)以外の者が当該権利を取得するおそれが少ないものとして政令で定めるものに限り、投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定めるものを除く。)
イ その発行する資産対応証券(資産の流動化に関する法律第二条第十一項に規定する資産対応証券をいう。)を適格機関投資家以外の者が取得している特定目的会社(同条第三項に規定する特定目的会社をいう。)
ロ 第二条第二項第五号又は第六号に掲げる権利に対する投資事業に係る匿名組合契約(商法第五百三十五条に規定する匿名組合契約をいう。)で、適格機関投資家以外の者を匿名組合員とするものの営業者又は営業者になろうとする者
ハ イ又はロに掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者
二 第二条第二項第五号又は第六号に掲げる権利(同一の出資対象事業(同項第五号に規定する出資対象事業をいう。)に係る当該権利を有する者が適格機関投資家等(前号イからハまでのいずれにも該当しないものに限る。)のみであるものに限る。)を有する適格機関投資家等から出資され、又は拠出された金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)の運用を行う同条第八項第十五号に掲げる行為(投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定めるものを除く。)
2 適格機関投資家等特例業務(前項各号に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいう。以下同じ。)を行う者(金融商品取引業者等を除く。)は、あらかじめ、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を内閣総理大臣に届け出なければならない。
一~九 (略)
3~10 (略)
11 特例業務届出者が適格機関投資家等特例業務を行う場合においては、当該特例業務届出者を金融商品取引業者とみなして、第一節第五款、第三十六条第一項、第三十六条の三、第三十七条、第三十七条の三、第三十七条の四、第三十八条(第一号、第二号及び第九号に係る部分に限る。)、第三十九条(第四項及び第六項を除く。)、第四十条、第四十条の三、第四十条の三の二、第四十二条、第四十二条の二、第四十二条の四、第四十二条の七、第四十三条の六及び第四十五条並びにこれらの規定に係る第八章及び第八章の二の規定を適用する。
12・13 (略)
 
〇 金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)(抄)

(自己取引等の禁止の適用除外)
第百二十八条 法第四十二条の二に規定する内閣府令で定める同条第一号に掲げる行為は、次に掲げる行為とする。
一 (略)
二 次に掲げる要件の全てを満たす取引を行うことを内容とした運用を行うこと。
イ 個別の取引ごとに全ての権利者(当該権利者が投資信託及び投資法人に関する法律第二条第十三項に規定する登録投資法人である場合にあっては、同条第十六項に規定する投資主。以下イ、次条第一項第二号イ並びに第五号ロ及びハ並びに第百三十条第一項第六号において同じ。)に当該取引の内容及び当該取引を行おうとする理由の説明((2)において「取引説明」という。)を行い、当該全ての権利者の同意(法第二条第八項第十五号イからハまでに掲げる権利に係る契約その他の法律行為において次に掲げる事項の全ての定めがある場合において行う取引にあっては、(1)の同意を含む。)を得たものであること。
(1)・(2) (略)
ロ (略)
三 (略)
 
(運用報告書の交付)
第百三十四条 法第四十二条の七第一項の運用報告書(以下この条及び次条において単に「運用報告書」という。)には、次に掲げる事項(第九号から第十一号までに掲げる事項にあっては、運用財産が法第二条第八項第十二号に掲げる行為を投資一任契約に基づき行う業務に係るものである場合に限る。)を記載しなければならない。
一・二 (略)
三 当該運用報告書の対象期間における運用の状況として次に掲げる事項
イ 取引を行った日
ロ 取引の種類
ハ 金融商品取引行為の相手方の商号、名称又は氏名(適格機関投資家等特例業務に係る出資対象事業持分に係る契約に当該相手方から同意を得られない場合は当該相手方の商号、名称又は氏名の記載を要しない旨が定められている場合において、当該同意を得られないときを除く。)
ニ 取引の内容として次に掲げる事項
(1) 有価証券の売買その他の取引にあっては、取引ごとに有価証券の銘柄、数、価額及び売付け等又は買付け等の別
(2) デリバティブ取引にあっては、取引ごとにデリバティブ取引の銘柄、約定数量、単価等及び売付け等又は買付け等の別(第百条第一項第二号イからホまでに掲げる取引にあっては、それぞれ同号イからホまでに定めるもの)
四・五 (略)
六 当該運用報告書の対象期間において次に掲げるものとの間における取引を行ったときは、その内容
イ 自己又はその取締役、執行役、監査役、役員に類する役職にある者若しくは使用人
ロ・ハ (略)
七 当該運用報告書の対象期間において行った金融商品取引行為に係る取引総額に占める前号イからハまでに掲げる者を相手方とする金融商品取引行為に係る取引総額の割合 
八 当該運用報告書の対象期間における運用財産の運用として行った金融商品取引行為の相手方で、その取引額が当該運用財産のために行った金融商品取引行為に係る取引総額の百分の十以上である者がいる場合にあっては、当該相手方の商号、名称又は氏名並びに当該運用報告書の対象期間において行った金融商品取引行為に係る取引総額に占める当該相手方に対する金融商品取引行為に係る取引総額の割合
九~十一 (略)

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