令和8年5月15日
証券取引等監視委員会
匠投資顧問株式会社に対する検査結果に基づく勧告について
1.勧告の内容
関東財務局長が匠投資顧問株式会社(東京都千代田区、法人番号2010001092059、代表取締役 矢野 英明、資本金1億円、常勤役職員8名、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業)を検査した結果、下記のとおり、当該金融商品取引業者に係る問題が認められたので、本日、証券取引等監視委員会は、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、金融庁設置法第20条第1項の規定に基づき、行政処分を行うよう勧告した。
2.事実関係
(1) 投資一任契約を締結した顧客のため忠実に投資運用業を行っていない状況等
ア 投資先医療法人から資金が流出している状況で投資一任契約に基づく投資を継続していた状況等
匠投資顧問株式会社(以下「当社」という。)は、顧客との間で投資一任契約を締結し、主として甲社が発行する社債(以下「甲社債」という。)へ投資を行い、甲社は社債発行により調達した資金について、乙医療法人に投資を行っていた。
当該投資一任契約は、投資運用業を行う当社の矢野 英明代表取締役社長(以下「矢野代表」という。)が投資先である甲社の代表取締役を兼ねる関係となっているほか、乙医療法人は、令和3年9月16日まで当社の株式を99%以上保有するとともに、平成25年9月30日から令和3年9月20日まで当社のChief Investment Officer(以下「CIO」という。)として運用部門を総括していたXが資金管理を行う関係となっており、当社においては投資者よりも投資先の利益を優先させる弊害を生じさせないための厳格な利益相反管理が必要な状況であった。
このような状況の中、平成29年6月から令和6年1月の間に当社が顧客との間で締結した投資一任契約について、以下の問題が認められた。
① 役職員が最終投資先の一つである医療法人の資金を流出させている状況で投資一任契約に基づく投資を継続していた状況
当社は、平成29年6月から令和3年4月までに、延べ17名の顧客と総額2億4000万円の投資一任契約を締結し、うち2億1000万円について、甲社債への投資を行っていた。
甲社は、社債発行により調達した資金2億1000万円について、乙医療法人の事業に投資を行っていた。
このような中、Xは、平成29年6月から令和3年4月までに甲社債の取得を通じて乙医療法人へ複数回にわたり送金された資金のうち2億500万円について、送金された都度、乙医療法人から私的に流出させた。
当社は、投資一任契約における最終投資先の一つである乙医療法人において、当社CIOであったXが投資資金を私的に流出させている状況の中、投資資金を乙医療法人に投資する運用を継続していた。
② 顧客の投資資金の運用が行われていない状況
矢野代表は、令和3年6月20日過ぎにXから乙医療法人とは別の法人の内部資金20億円を不正に流出させていたことを打ち明けられたことなどを契機に、乙医療法人の預金通帳を確認して、乙医療法人から資金が流出していること、甲社が乙医療法人から資金を回収できないことにより、投資一任契約を締結した顧客(以下「既存顧客」という。)に対する甲社債の償還金(以下「社債償還金」という。)の支払いに懸念が生じていることを、令和3年9月30日までに認識した。
上記懸念が生じていることを認識した矢野代表は、既存顧客に対する社債償還金の支払いを可能とするため、以前から矢野代表に医療法人の買収に係る相談を行っていた事業会社(以下「丙社」という。)との間で、丙社が乙医療法人の実質支配権及び甲社株式の取得を対価として、社債償還金の支払いに必要となる金額を丙社が甲社に入金すること等を内容とする口頭契約に合意した。
既存顧客に対する社債償還金の支払いについては、丙社との上記の口頭契約に基づき、丙社から甲社に入金される資金を充てる予定でいたものの、当該入金は分割で行うこととしていたため、社債償還金の支払日において必要額が不足する場合があった。
このような状況の中、当社は、当時、当社へ投資の相談をしていた顧客A、顧客B、顧客C及び顧客D(以下、4名を合わせて「4顧客」という。)のうち、顧客A、顧客B及び顧客Cに対して、甲社債の取得を通じ、乙医療法人の事業に投資を行うことにより投資資金各1000万円の運用を行う旨説明したほか、顧客Dに対して、甲社債の取得を通じ、医療・介護事業を行う事業者への投資を行うことにより投資資金5000万円の運用を行う旨説明し、令和4年5月から同6年1月までに、4顧客との間で上記の運用を内容とする投資一任契約を締結した。
一方で、当社は、4顧客とそれぞれの投資一任契約の締結をする前までに、甲社の代表取締役でもある矢野代表が4顧客の投資資金を既存顧客及び当社が私募の取扱いを行った甲社を営業者とする匿名組合契約に基づく匿名組合員(以下「既存顧客等」という。)への償還金の支払い原資とする旨を当社の取締役会で報告した上で、令和4年5月から同6年2月までの間において、4顧客の投資資金計8000万円を、甲社債の取得に充てることなく、償還金の支払日を迎えた既存顧客等延べ24名に対する償還金の支払いの原資として使用した。このため、甲社が乙医療法人や医療・介護事業を行う者へ投資した実態もなかった。
上記のとおり、当社においては、4顧客の投資資金について、投資一任契約に基づく運用が行われていない状況が認められた。
③ 事実と異なる内容の運用報告
当社は、顧客A、顧客B及び顧客Cに対し、令和5年7月から同6年3月までに交付した投資一任契約の運用状況に係る情報を記載した書面(以下「運用報告書」という。)において、甲社債の取得を通じて、乙医療法人の事業に投資をすることで安定した運用を行っている旨を報告しているものの、実際は上記②のとおり、顧客へ説明した投資資金の運用が行われておらず、事実と異なる内容の報告を行っていた。
イ 投資一任業に関して顧客から金銭の預託を受ける行為
投資運用業者は、金融商品取引法(以下「金商法」という。)上、その行う投資一任業に関して顧客から金銭の預託を受けてはならないが、当社は、令和4年11月から同5年2月までに顧客B及び顧客Cに投資一任契約に係る投資資金の一部を当社名義の銀行口座に入金させ、令和4年11月から同5年3月まで、顧客B及び顧客Cの投資資金の一部について、当社名義の銀行口座で預託を受けていた。
ウ 運用報告書の未交付
投資運用業者は、金商法上、半年に1回以上、運用報告書を権利者に交付する必要があるが、当社は、顧客A、顧客B及び顧客Cに対し、運用報告書を交付していたものの、投資一任契約の締結日から1年以上を経過して交付していたほか、顧客Dに対しては、当該契約締結日から1年以上を経過しても運用報告書を交付していない。
エ 役職員の法令違反行為の当局への未届出
矢野代表は、上記アのとおり、Xが資金管理を行っていた乙医療法人の資金を私的に流出させていたことを遅くとも令和5年1月に把握しており、Xによる法令等に反する行為を認識していた。
Xの行為は、当社が顧客との投資一任契約において投資先としている医療法人で発生した法令等に反する行為であるが、当社の投資運用業務の運営に重大な影響を及ぼすおそれがあるものと認められることから、金商法上、役職員による法令等に反する行為として当局に届出を行う必要がある。しかしながら、矢野代表は自ら役職員の法令等に反する行為を認識したにもかかわらず、当局への届出を行っていない。
上記アのとおり、当社において、運用責任者自らが資金管理を行う最終投資先において資金を流出させながら、当該投資先へ投資する運用を継続していた状況、4顧客と投資一任契約締結後、4顧客の投資資金を運用することなく既存顧客等に対する償還金の支払いに充当していた状況、顧客に対し事実と異なる内容の運用報告を行っていた状況が認められた。これらの状況は、当社と甲社の代表取締役が同一の者であることなど投資運用業者と資金需要者である投資先が強い利益相反関係にあることを背景に、投資先の都合を優先した行為が行われたものであり、資産運用の専門家に運用を任せることを期待して投資一任契約を締結した顧客をないがしろにし、その信認を裏切るものであることから、投資一任契約を締結した顧客に対する重大な忠実義務違反であると認められ、金商法第42条第1項に違反するものと認められる。
上記ア③及びウの行為は、令和5年法律第79号による改正前の金商法第42条の7第1項に違反するものと認められる。
上記イの行為は、金商法第42条の5に違反するものと認められる。
上記エの行為は、金商法第50条第1項に違反するものと認められる。
(2) 投資助言業務に係る善管注意義務違反等
ア 組成者が無登録で投資運用業を行っている金融商品について、十分な検討を行わないまま顧客に投資助言等を行っている状況
当社は、投資顧問契約を締結した顧客に対し、英国王室属領マン島に所在するRL360 Insurance Company Limited(以下「RL社」という。)が組成した海外金融商品(Regular Savings Plan(以下「RSP」という。)等)について、投資助言を行っている。
当社が顧客に対し交付した資料等によると、RSPは、出資者が定期的に一定額を拠出した金銭について、RL社が主に海外ファンドに投資して運用し、満期が到来した際に、当該時点における運用財産額及び特別な配当が出資者に支払われる仕組みとされており、金商法第2条第2項第6号に規定する海外集団投資スキーム持分に該当する金融商品である。また、海外集団投資スキーム持分を有する日本国内の居住者から出資を受けた金銭について、主として有価証券又はデリバティブ取引に係る権利に対する投資として運用を行う場合、金商法上の投資運用業の登録が必要となるところ、RL社は投資運用業の登録を受けていない。
投資助言業務を行う金融商品取引業者は、顧客に投資助言を行う金融商品に関し、適法性の観点から十分に検討を行う責務があるところ、当社は、RSPが海外集団投資スキーム持分であること及び日本国内の居住者から出資を受けた金銭が運用されていることを認識している中、RL社の投資運用業の登録の必要性やRSPの取扱いの可否について法令に照らした検討がされるべきであったにもかかわらず、十分な検討がなされないまま、投資顧問契約を締結した39名の顧客に対してRSPに関する投資助言を行っていた。
このような状況は、金融商品取引業者として、顧客に対し、善良な管理者の注意をもって投資助言業務を行っていない状況と認められる。
イ 広告に関し法定記載事項の表示不備等
当社の取締役を務めるY取締役は、将来的に当社との投資顧問契約の締結などの取引を行う顧客の獲得を目的として、令和4年に「お金のお悩み相談窓口」と称するウェブサイト(以下「窓口サイト」という。)を開設し、運営している。
窓口サイトには、投資助言サービスとして当社の行う投資助言業務の内容が掲載されており、また、Y取締役は窓口サイトから問合せのあった顧客に対して当社の投資顧問契約を勧誘していることから、窓口サイトは当社の広告であると認められる。
そのような中、窓口サイトにおいて、当社の商号、金融商品取引業者である旨及び登録番号等の法令で求められている事項の表示がされていないほか、「お客様の声」として取引の実績、顧客の評価等を記載したページにおいて、架空の顧客に関する記載をしており、著しく事実に相違する表示を行っている。
上記アの状況は、金商法第41条第2項に規定する「善良な管理者の注意義務」に違反するものと認められる。
※ なお、RL 社については、無登録で金融商品取引業を行っているとして、金融庁(関東財務局)が本日(5月15日)付で警告書の発出を行っており、金融庁及び関東財務局のウェブサイトにおいて公表されています。
(参考条文)
〇 金融商品取引法(昭和23年法律第25号)(抄)
(広告等の規制)
第三十七条 金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業の内容について広告その他これに類似するものとして内閣府令で定める行為をするときは、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を表示しなければならない。
一 当該金融商品取引業者等の商号、名称又は氏名
二 金融商品取引業者等である旨及び当該金融商品取引業者等の登録番号
三 (略)
2 金融商品取引業者等は、その行う金融商品取引業に関して広告その他これに類似するものとして内閣府令で定める行為をするときは、金融商品取引行為を行うことによる利益の見込みその他内閣府令で定める事項について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない。
(顧客に対する義務)
第四十一条 (略)
2 金融商品取引業者等は、顧客に対し、善良な管理者の注意をもつて投資助言業務を行わなければならない。
(権利者に対する義務)
第四十二条 金融商品取引業者等は、権利者(次の各号に掲げる業務の区分に応じ当該各号に定める者をいう。以下この款において同じ。)のため忠実に投資運用業を行わなければならない。
一 第二条第八項第十二号に掲げる行為を行う業務 同号イ又はロに掲げる契約の相手方
二~三 (略)
2 (略)
(金銭又は有価証券の預託の受入れ等の禁止)
第四十二条の五 金融商品取引業者等は、(中略)その行う投資運用業(第二条第八項第十二号に掲げる行為を行う業務に限る。(略))に関して、いかなる名目によるかを問わず、顧客から金銭若しくは有価証券の預託を受け、又は当該金融商品取引業者等と密接な関係を有する者として政令で定める者に顧客の金銭若しくは有価証券を預託させてはならない。(略)
(運用報告書の交付)
第四十二条の七 金融商品取引業者等は、運用財産について、内閣府令で定めるところにより、定期に運用報告書を作成し、当該運用財産に係る知れている権利者に交付しなければならない。(略)
2~3 (略)
※ 上記条文は、令和5年法律第79号による改正前の金融商品取引法に基づくもの。
(休止等の届出)
第五十条 金融商品取引業者等は、次の各号のいずれかに該当することとなつたときは、遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に届け出なければならない。
一~七 (略)
八 その他内閣府令で定める場合に該当するとき。
2 (略)
〇 金融商品取引業等に関する内閣府令(平成19年内閣府令第52号)(抄)
(誇大広告をしてはならない事項)
第七十八条 法第三十七条第二項に規定する内閣府令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一~五 (略)
六 金融商品取引業者等の金融商品取引業(登録金融機関にあっては、登録金融機関業務)の実績に関する事項
七~十四 (略)
(運用報告書の交付)
第百三十四条 (略)
2 (略)
3 対象期間は、六月(中略)を超えてはならない。
一~二 (略)
4 運用報告書は、対象期間経過後遅滞なく作成し、知れている権利者に交付しなければならない。
5 (略)
※ 上記条文は、改正前の金融商品取引業等に関する内閣府令に基づくもの。
(金融商品取引業者が休止等の届出を行う場合)
第百九十九条 金融商品取引業者にあっては、法第五十条第一項第八号に規定する内閣府令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一~六 (略)
七 役職員(役職員が法人であるときは、その職務を行うべき社員を含む。以下同じ。)に法令等に反する行為(金融商品取引業又はこれに付随する業務以外の業務に係るものにあっては、当該金融商品取引業者の業務の運営又は財産の状況に重大な影響を及ぼすおそれのあるものに限る。(略))があったことを知った場合(略)
八~十五 (略)
