【金融ここが聞きたい! 〜特別編〜】
 

竹中金融担当大臣インタビュー

 
 「アクセスFSA」では、毎号【金融ここが聞きたい!】のコーナーで、大臣の記者会見における質疑応答(Q&A)などの中から金融を巡る時々の旬な情報をセレクトしてお届けしていますが、今月号では同コーナーの特別編として「竹中大臣インタビュー」をお送りします。金融行政へのご理解を深めていただく上でお役に立てれば幸いです。
   
 文中の下線部をクリックすると詳しい内容を見ることが出来ます。
 大臣の記者会見の質疑応答をご覧になりたい方は、金融庁ホームページの「記者会見概要」にもアクセスしてみてください。
 
― 金融担当大臣に就任されて1年が経ち、今回留任されたわけですが、まず、これまでを振り返って、取り組みの成果として手ごたえを感じている点と、今後の課題についてお聞かせください。
「私は、就任当初から、日本の金融システムについて、危機的であるとは思っていない、しかし、完全な健康体であるとも思っていない、治すべきところは治さなければいけないと申し上げてきました。そのために就任早々策定したのが『金融再生プログラム』です。不良債権問題を抱えてしまった国では、やるべきことというのははっきりしていて、すなわち資産査定の厳格化であり、自己資本の充実であり、ガバナンスの強化です。もちろん、今までもそういう考えはあったわけですけれども、それをより整合的に徹底してやろうではないかということで方策を取りまとめたのが『金融再生プログラム』であるわけです。日本の金融部門、バブル崩壊後10数年間に渡っていろいろな問題を抱えてきた、それを1年や2年で完全に解決できるとは思っておりません。『金融再生プログラム』の考え方というのは、だからこそまず主要行の、世界からも注目を集める大手行の不良債権比率を当面半分の4%台にすると、そのことに専念しようということなんですね。大手行の場合は正にグローバルな競争の中に晒されていて、グローバルな金融のネットワークに直結していて、そういった資金移動も直接に影響を受けるというような状況でありますから、ここはやはり数値目標を掲げて、厳しい不良債権処理を進めなければいけない。こうした不良債権問題の終結に向けた枠組みを作ったということが、非常に大きな前進であったと思います。
 この枠組みに則って、不良債権を全部洗い出し、それを今度はオフバランス化していく、これを地道に実行することで、不良債権は明確に減少を始めて、今のペースで行くとあと1年半位で何とか目標を達成できるという目処がつきはじめました。まだ先ではありますけれども、出口がようやく見えてきたという状況だと思います。従って、この動きを加速して、不良債権問題の解決に向け金融再生プログラムをきちっと実行に移すことが金融行政の最重要課題です。
 またこの他に、地域や中小の金融機関については、大手行とは異なる理念で地域に根ざした経営基盤を強化していく取り組みが始まったところですし、保険証券においては、包括的なプログラムが既に示されていて、制度整備も含めて一つ一つやってきている段階で、これをきちんと形にしていくことが必要です。このように、課題は多いわけですが、皆さんのご理解とご協力を得て、是非ともしっかり進めていきたいと思います。」

― 次に、今のお話に沿っていくつかお伺いします。まず、大臣は『金融再生プログラム』を進めていく上で「ガバナンスの強化」と『産業と金融の一体的再生』が重要だと仰っていますが、詳しく教えてください。
「まず一点目の金融機関のガバナンスの強化についてですが、これは経営体質そのものの強化ですから、非常に幅広くて難しい問題で経営者にとってもそこで働いている方々にとっても大変なことだし、時間もかかるというのも事実でしょう。しかしそこは、方向をちゃんと明示して、いろいろな経営努力を重ねることによって、期待される良い結果を出していただきたいと思います。
 このため我々としては、金融機関に結果を出していただくような枠組みとして監督のガイドラインというものを持っています。具体的には、早め早めのアーリーウォーニングをしっかりやっていく、また、公的資本増強行については、早期健全化法の枠組みの中でしっかりと収益目標を守っていただく。その際、いわゆる3割ルールといったものに基づいて、問題があれば必要に応じて業務改善命令を出す、その先にそれでも事態が改善しない場合は優先株から普通株への転換をするとか、そういったところまで踏まえた枠組みとなっております。これに沿って我々としては監督を行っていきたいと思うし、銀行においては改めて自らの経営力を強化して行ってもらいたい、それに尽きると思います。
 その際、経営強化のために銀行がどのような体制をとるかというのは、各行置かれた立場が違いますし、正に経営判断の問題ですから、我々監督する立場から良いとか悪いとかということを個々に言う立場にはありません。これは経営者を先頭に本当に頑張っていただくしかないし、現に懸命に努力をしておられると思います。しっかりとした結果を出すことがそれぞれの銀行のためであり、預金者や借り手企業のためであり、そして日本経済のためであるということだと思います。
 二点目の『産業と金融の一体的再生』についてですが、不良債権処理というのは、金融機関のバランスシート調整ですが、その向こう側で産業・企業のバランスシート調整があります。言わば、コインの裏表の関係にあるわけで、その意味では金融と産業、経済の一体的な再生という観点が重要です。その意味で、不良債権比率の半減に向けてグッドスタートを切った中、現在各金融機関において企業の再生・再建に向けて努力が進んでいる点は非常に期待をしておりますし、評価をしています。であるからこそ、その中身は非常にしっかりしたものでなければなりません。言葉を換えれば、それぞれ各企業の再建が結果的に先延ばしになるような問題先送り型の再建ではやはり真の再生ではありません。そうならないように各銀行にしっかりと抜本的な再生をやってもらうことが重要ですし、我々も検査・監督する立場からは、再建計画をしっかりと厳しく見て行かなければいけないと思っています。計画の評価は大変難しい面がありますから、金融庁としては検査局の中に外部の専門家も集めて再建計画の検証チームも作っておりますので、検査・監督体制を総動員するような形でしっかりと対応していきたいと思います。
 ところで、不良債権処理をしてオフバランス化すると、それに伴って失業が非常にたくさん出るのではないかというような意見があります。ところが、実際に過去1年間を検証してみると、当初想定された失業の発生が半分位だったわけです。それはなぜかというと、つまり清算型ではなくて再生型にうまくたくさん持っていけている。それは、PDF私的整理ガイドラインの存在があり、様々なそれを支えるようなスキームがあった。その意味で日本は金融の再生と産業の再生が非常にうまく絡み合って来たと、そういう評価がむしろされていると思います。非常に地道な取組みですが、そういう歯車が、私は回り始めているのだと思います。そうした中、経済の再生、産業の再生を支える制度の一つとして、産業再生機構が作られています。この仕組みは今まさに立ち上がった段階ですが、産業と金融との一体再生の象徴として成果が出せるよう金融庁としても産業再生機構との連携をとっていきたいと思っています。」

― 次に、今のお話にも関連しますが、大手行についてある程度の見通しがついてきた中で、これから地域金融機関の活性化、経営強化にどのように取り組んでいかれますか。
「日本の金融システムが抱えている問題の中心がやはり主要行の不良債権問題であり、とにかくこの2年間は、主要行を対象とした『金融再生プログラム』に則ってこの問題の終結に集中しているわけですが、他方、地域金融機関の場合は、より特殊な事情を持ちながら地域に貢献しているわけで、そこは主要行との性格の違いを十分に認識しておくことが重要です。つまり、自らがそれぞれの地域の中で実情に応じた収益基盤を強化する中で、地域の活性化や企業の再生に貢献していただくことが実は問題の解決になって行くのだと、そういうふうに理解をしています。そのための自らに相応しい経営手法、我々は『リレーションシップバンキング』と呼んでおりますが、これを確立してもらいたいと考えています。もう少し専門的に言うと、これはPDF金融審議会の報告に詳しく書かれておりますけれども、情報の非対称性が非常に大きいような地域に根差した金融の中では、それこそ経営者がどういう方であるかといった、定量化が困難な情報に基づいて地域の企業を再生し、自らも収益力を高めるという機能を発揮出来る素地があるわけで、そういった機能を生かしながら地元密着型の中で時間をかけてじっくりと地域金融機関としての強い営業基盤を持つ様な形を目指してほしいということです。そうした過程で一層収益力を高めて、不良債権処理も含め一層健全になっているという姿を想定しております。
 このように申し上げると、『上位の地銀はそれで良いが、地銀の下位行とか小さい信組においては、果たして経営強化が図れるのか』という意見もあると思うんですけれども、そこはむしろ逆の場合もあると思うんですね、信金、信組で非常にきめ細かく地域に根差して、商圏は広くないけれども、非常に着実な商売をしておられるところというのは現実にありますよね。そこは実は地域金融機関というのは、大きさから内容から千差万別で、それで相応しいようなあり方というのを求めていただく、これがまさにリレーションシップバンキングという考え方の原点です。
 以上申し上げたような考え方の下、ここ2年位をリレーションシップバンキングの集中改善期間として、全国で626の地銀、信金、信組に、それぞれ収益基盤を強化するための取り組みを独自にまとめた『機能強化計画』を出してもらいました。これを総括して評価するというのはなかなか難しいですが、各地域、各金融機関で頑張って地元との共生を目指した取り組みが見られるなという印象をもっています。こうしたプロセスは今始まったばかりですが、地域金融機関にはこの計画を通して非常に多様な質の違う競争をしていただいて、その中で切磋琢磨してお互いのビジネス基盤を強くしてもらいたいし、我々としてもしっかりとフォローしていきたいと考えています。」

― 不良債権問題の終結に向けた金融システムの改革を進める中で、地域や中小企業への金融の円滑化にはどのように取り組まれますか。
「基本的に、中小企業等を取り巻く金融環境は、依然として日本全体として厳しい状況にありますけれども、日銀の短観の数字などで見ると、不良債権処理が進む中で金融機関の貸出し態度等は、実は改善をしており厳しくなっているということではないわけです。私はこのまましっかりと取り組みを続ければ問題を解決できるという意識が、今、共有されつつあるというふうに思っていますし、そんな中、金融庁としても、地域・中小企業への金融の円滑化について、各方面に渡り総合的な形で取組んでいます。具体的に申し上げますと、
 (1)  金融機関全般に対してですが、金融庁や地方の財務局から事あるごとに、実態に合わせて貸せるところにはしっかりと貸してほしいということに対する要請をさまざまな機会で行っておりますし、引き続き繰り返していきたいと思っています。また、地域金融機関に関しては、先程申し上げたリレーションシップバンキングの機能強化において、借り手企業への問題解決型サービスの提供といった地域の企業の再生と金融機関の再生が一体として進行するような形での取り組みを推進しております。更に、早期健全化法に基づく資本増強行に関しては中小企業貸し出しの目標を立てており、この達成に努力をしているところです。
 (2)  検査面での対応としては、中小企業の実態に即した検査を実施するため、金融検査マニュアル別冊[中小企業融資編]を昨年6月に作成して、この内容について、金融機関はもとより中小企業の皆さんなどにも説明を行っています。これをより実態に即したものとなるよう現在改訂中ですが、これまで15年度中としていた作業のスケジュールを前倒しして、年末には改訂案を公表し、パブリック・コメントに付したいと考えています。
 (3)  中小企業など資金の借り手の方々の声を幅広くお聞きするため、昨年10月に『貸し渋り・貸し剥がしホットライン』を設けておりまして、寄せられた情報を検査・監督に十分活用するよう進めておりますが、これを補完するため、財務局・財務事務所において、商工会議所等の協力を得て、中小企業から見た金融機関に関する具体的な問題点の情報を収集する『中小企業金融モニタリング』を実施していきます。
 また、中小企業金融の状況について、借り手の立場からみた実態認識を把握するため、財務局において、中小企業金融の実情に通じている管内の団体等との意見交換を行う「中小企業金融懇話会(仮称)」を開催することとしています。意見交換の結果については、本庁において金融検査マニュアルの改訂等に反映させるほか、各金融機関の機能強化計画の実施状況のフォローアップ等の監督行政に活用することなどを考えています。
 (4)  なお、このような様々な取組みについて中小企業の皆さんや金融機関の現場に対して十分に浸透させていくことが重要です。先日、「中小企業金融」をテーマに京都で行われたタウンミーティングに私も出席いたしましたが、非常に有意義であったと思います。これからも、中小企業金融等をテーマとしたシンポジウムの開催やホームページ等を活用した広報の充実などの取組みに力を入れていきたいと考えています。」

― 不良債権問題の終結に向けた「金融再生プログラム」や、地域金融機関の体質強化、地域・中小企業金融の円滑化について、お伺いしてきましたが、最後に、金融システム改革のもう一つの大きな柱として、証券市場に対する取り組みについてお伺いします。
「証券市場の構造改革については、『貯蓄から投資へ』の流れを加速するため、昨年の夏に取りまとめられた『証券市場の改革促進プログラム』でかなり語り尽くされていると思いますし、これを受けてかなり思い切った改革が実現したというのが現状だと思います。その中でも、特に平成15年度の税制改正において証券税制の抜本的な見直しを行い、特定口座を利用した実質的な源泉徴収制度の導入や、当面5年間ですが株式売買益や配当金の税率を一律10%に軽減するなど、投資家から見ると簡素・有利な制度になったことは私は非常に大きいと思います。この他にも、ディスクロージャーや公認会計士監査の充実・強化を図るなど、幅広い制度整備を行ってきたところですし、証券取引等監視委員会の強化にも取り組んでおります。
 株式市場の状況に良い方向が見え始めた今のような時期にこそ、貯蓄から投資への流れを一気に加速させる好機であり、大変重要な局面だというふうに思っています。そういう意味でも、私たちの今の役割というのは、今申し上げたプログラムに盛られた方策をしっかりと実行に移し、この1年間続けてきた努力を浸透させ形にしていくことが何よりも重要だと思います。
 今申し上げたことに関連しますが、内閣府のアンケート調査で、今まで証券会社に行った事がないという人が80%、これからも行く気がないという人が80%という数字が出ています。つまりこれは証券投資や投資信託がまだ一部の方々のものなのですね。ですから、証券人口を一気に増やし裾野を広げることが非常に重要なポイントだと思っています。今日本には1,400兆円の貯蓄資産がありますが、そのまま「預金から証券」ということでは言わばストックの移し替えにしか過ぎないわけで、証券人口の裾野を広げることは、毎年毎年新たな貯蓄が生み出される中で、これを証券市場に引き入れるために非常に大きな役割を果たすと考えています。証券人口を画期的に増やすための方法、例えば投資教育の充実など考えられますので、「証券市場の改革促進プログラム」を実行していく中でいろいろと工夫していきたいと思っております。」

次の項目へ