証券取引等監視委員会メ-ルマガジン (第94号)

平成29年4月21日
証券監視委ウェブサイト http://www.fsa.go.jp/sesc/index.htm


<目次>

市場へのメッセージ


市場へのメッセージ
 1.最近の取引調査に基づく勧告について
 2.最近の開示検査に基づく勧告について


1.最近の取引調査に基づく勧告について

 証券取引等監視委員会(以下、「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、以下の事案について課徴金納付命令勧告を行いました。

 平成29年3月24日 デジタルデザイン株式に係る相場操縦

              (http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2017/2017/20170324.htm

【事案の概要】
 本件は、インターネットで株取引を行っていた個人投資家が、デジタルデザイン株式の売買を誘引する目的をもって、直前の約定値より高指値の自己の売り注文に自己の買い注文を対当させて株価を引き上げ(以下「対当売買」といいます。)たり、直前の約定値より高指値の買い注文を連続して発注して株価を引き上げる(以下「買い上がり買付け」といいます。)などの方法により、同株式を買い付ける一方、同株式を売り付け、同株式の売買が繁盛であると誤解させ、かつ、同株式の相場を変動させるべき一連の売買をしたという事案です。

【事案の特色等】
 昨年11月22日勧告のクロス・マーケティンググループ株式外1銘柄に係る相場操縦事案本年1月31日勧告のIGポート株式に係る相場操縦事案と同様に、本件も個人投資家による相場操縦事案です。
 本件課徴金納付命令対象者(以下「対象者」といいます。)は、現物取引と信用取引を併用し、複数の証券会社を介して、対当売買や買い上がり買付けなどを行っています。対象者は、本件取引以前より複数の受託証券会社から注意を受け、こうした自身の取引手法が不公正な取引に該当する可能性が高いことを認識しながらも、信用取引口座で他の銘柄と比べて大量に保有していた当該株式の評価損が拡大したため、追加保証金(追証)を避けようとし、同じような取引を続けました。そして、最終的に新規取引を停止されても、別の証券会社の口座を利用し、同様の取引手法を繰り返しており、悪質性が高いものと考えています。
 本件の対象者も、IGポート株式に係る相場操縦事案と同様に、対当売買手法で相場操縦を行っていることが受託証券会社に発覚することを避けるために、売り注文と買い注文を異なる証券会社から発注していました。
 平成29年2月20日配信の証券取引等監視委員会メ-ルマガジン(第88号)でも記載しましたが、複数の証券会社を用いた対当売買であっても、証券取引所が行っている売買審査や証券監視委の審査・調査によって、誰がそうした取引を行っているのか容易に判明し、そのような違法行為は必ず発覚します。証券監視委では、こうした相場操縦行為に対して、引き続き関係機関と連携のうえ、厳正に対処してまいります。
 証券監視委は、これまでにも相場操縦規制違反について多数の告発・勧告を行ってきたところですが、相場操縦規制違反は後を絶たない状況にあり、その要因・背景としては以下のようなものが考えられます。

  • インターネット取引の普及及び発注システムの進歩等により、個人投資家であっても、迅速かつ大量の発注・取消が可能となっているため、見せ玉等の手法を用いて人為的に相場を変動させれば、容易に売買差益を稼げる、又は損失回避を図ることができるとの誘惑
  • 市場では膨大な取引が行われているため、個人が行う小規模の相場操縦行為までは市場監視の目も届かないだろうとの誤解

 相場操縦行為は証券市場の公正性・健全性を損なうものです。証券監視委は、証券市場に対する投資家の信頼を確保するため、厳正な調査を実施しており、調査の結果、法令違反が認められた場合には、課徴金勧告や刑事告発を行っています。
 本件が広く周知されることにより、相場操縦の抑止効果が発揮されることを期待しています。
 

2.最近の開示検査に基づく勧告について

 証券監視委は、本年(平成29年)3月24日、株式会社T&Cメディカルサイエンス(以下「当社」といいます。)に係るストックオプションの付与についての開示検査の結果に基づき、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。

 平成29年3月24日 株式会社T&Cメディカルサイエンスによる新株予約権証券の無届募集に対する課徴金納付命令勧告
               (http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2017/2017/20170324-2.html)

【事案の前提となる開示制度の概要】
 有価証券の募集又は売出し(金融商品取引法(以下「法」といいます)2条3・4項)は、当該有価証券の発行者がその募集又は売出しについて内閣総理大臣に届出を行っていなければすることができないとされています(法4条1項)。この届出は、通常、有価証券届出書(募集又は売出しに係る有価証券に関する情報、募集要項・売出要項、その発行者に関する情報等を内容とします)の内閣総理大臣への提出という形で行われ(法5条1項)、この有価証券届出書は公衆の縦覧に供されるとともに、有価証券届出書と同じ内容の目論見書が投資者に交付されます(法13条2項・15条2項)。これによって、募集又は売出しによって当該有価証券に投資しようとする投資者に対し、投資判断に必要とされる情報が提供されることになります。
 ところで、会社は役員、使用人等に対してストックオプションを付与する場合がありますが、一般に、ストックオプションの付与は「新株予約権証券の募集」に該当するため、ストックオプションを付与する場合には、新株予約権証券の発行者である会社が有価証券届出書を提出しなければならないことになります。しかしながら、ストックオプションが付与される役員や使用人は、自身が勤める会社の状況を十分に把握しているか、会社に関する情報を容易に取得することができると考えられることから、有価証券届出書によって会社に関する情報が提供されなくても、投資判断を行うことができると考えられます。そこで、金融商品取引法では、ストックオプションの付与の相手方がその会社の役員・使用人(注)のみであるなどの一定の要件を満たす場合には、ストックオプションに係る有価証券届出書の提出を不要とする特例が設けられています(法4条1項1号、金融商品取引法施行令2条の12)。

(注)役員・使用人とは、取締役、会計参与、監査役、執行役又は使用人をいい、その会社の完全子会社(その会社が発行済株式の総数を所有する会社)及び完全孫会社(その会社とその完全子会社で、又はその完全子会社のみで発行済株式の総数を所有する会社)の取締役、会計参与、監査役、執行役又は使用人も含まれます(企業内容等の開示に関する内閣府令2条2項)。

【事案の特色】
 証券監視委は、内閣総理大臣への届出(有価証券届出書の提出)が必要な有価証券の募集又は売出しを、届出が行われていないのに行った場合(いわゆる「無届募集」です。)について、投資者保護の観点から、事案の悪質性、証券市場への影響等を考慮した上で、課徴金納付命令の勧告を行っています。
 本件は、当社が、使用人でない者を使用人と偽った上で、ストックオプションに関する届出免除の特例を利用し、使用人のみを相手方としたストックオプションの付与(=新株予約権証券の募集)として、有価証券届出書を提出せずにこれを行ったものです。
 本件は、ストックオプションに関する届出免除の特例を利用した無届募集として課徴金納付命令勧告を行った初めての事案になります。
 
【事案の概要】
(1) 事案の概要(法令違反の概要)
 当社は、運転資金などを調達するため、使用人のみを相手方としたストックオプションの付与(=新株予約権証券の募集)として、内閣総理大臣に届出をせずに、

  1. 平成25年12月19日:使用人とする4名に対して新株予約権証券の募集を行い、これらの者に10,000個の新株予約権証券を332,000,000円(新株予約権の行使に際して払い込むべき金額を含む。)で
  2. 平成27年9月28日:使用人とする9名に対して新株予約権証券の募集を行い、これらの者に4,975個の新株予約権証券を166,165,000円(新株予約権の行使に際して払い込むべき金額を含む)で

それぞれ取得させましたが、いずれについても、付与した相手方のうち少なくとも1名は雇用の実態がなく、使用人として認められませんでした。
 したがって、これら2回のストックオプションの付与は、当社の使用人のみを相手方とした新株予約権証券の募集には該当せず、内閣総理大臣に届出を行う必要がありましたが、当社は届出を行わずストックオプションの付与(無届募集)を行ったということなります。
 このため、これらの無届募集について、法に基づき、課徴金を納付することを命ずる旨の決定を行うことを内閣総理大臣及び金融庁長官に対して勧告を行いました。

 課徴金額は、取得させた有価証券の発行価額の総額(新株予約権の行使に際して払い込むべき金額を含みます。)の100分の4.5に相当する額(法172条1項1号)で、以下のとおりです。

付与日 発行価額の総額 課徴金額(注)
平成25年12月19日 332,000,000円 14,940,000円
平成27年9月28日 166,165,000円 7,470,000円
合計 498,165,000円 22,410,000円

(注)法176条2項の規定により1万円未満の端数は切捨てになります。
 
(2) 法令違反が発生した原因等
 当社は、もともと投資情報の提供を事業として行い、株式を上場しましたが、その後、当該事業の業績が悪化したことから、医療関連事業、食品関連事業など業容を拡大したものの、いずれも業績の回復にはつながらず、平成24年11月期と平成27年11月期は債務超過に転落しました。このように、当社のビジネスモデルが確立しない中で、資金繰りに窮する状況にあったことから、有価証券届出書の提出等の手続及びそれに係る費用負担を回避して、安易に資金を調達したいとの思惑が働いたものと考えられます。
 その背景として、

 a) 役員のコンプライアンス意識の欠如
  • 当社は、当社の使用人でない者(このa) において「当該者」といいます。)にストックオプションを付与するため、雇用の実態がない当該者について雇用契約書を作成したものの、当該雇用契約書にはストックオプション以外の報酬が記載されていなかったことから、監査人から、雇用契約及びストックオプションの法的有効性を弁護士に確認するよう求められました。その際、当社は、そもそも定められていない架空の報酬を記載した雇用契約書を当該者に無断で作成し、弁護士、監査人等に提出するなど、当社代表取締役をはじめとする当社役員のコンプライアンス意識が欠如していたと考えられます。
 b) 取締役会の機能不全
  • 当時、当社の取締役会は、6名の取締役(うち2名は社外取締役)で構成されていたものの、主に当社の経営を執行していたのは代表取締役と1名の取締役で、この取締役は(1)の法令違反行為に関与していました。本来、代表取締役の意思決定や業務遂行については取締役会がチェックすべきですが、当社の取締役会はチェック機能が全く働いていなかったものと考えられます。

といった事情があると考えられます。


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