市場へのメッセージ(令和元年5月20日)

<目次>

最近の取引調査に基づく勧告について
・リブセンス株式外2銘柄に係る特殊見せ玉を用いた偽計に対する課徴金納付命令の勧告について
・ウィルグループ株式外4銘柄に係る特殊見せ玉を用いた偽計に対する課徴金納付命令の勧告について

最近の取引調査に基づく勧告について

・リブセンス株式外2銘柄に係る特殊見せ玉を用いた偽計に対する課徴金納付命令の勧告について
・ウィルグループ株式外4銘柄に係る特殊見せ玉を用いた偽計に対する課徴金納付命令の勧告について


 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、取引調査の結果に基づいて、平成31年3月29日、以下の2事案について課徴金納付命令勧告を行いました。

リブセンス株式外2銘柄に係る特殊見せ玉を用いた偽計に対する課徴金納付命令の勧告について
ウィルグループ株式外4銘柄に係る特殊見せ玉を用いた偽計に対する課徴金納付命令の勧告について

【事案の概要】

 今回紹介する2事案は、昨年10月5日に勧告した、第一稀元素化学工業株式外6銘柄の各株式につき偽計を行った事案と同様、いわゆる「特殊見せ玉」を用いて、偽計を行った事案です。今回の市場へのメッセージでは、2事案に共通する取引手法について少々詳しく説明することにより、こうした取引は違法行為であることが少しでも投資家の皆様に伝わればと思います。

 はじめに、「特殊見せ玉」とはどういったものであるかを紹介した後、事案について説明を加えたいと思います。

 「特殊見せ玉」とは、聞き慣れない言葉かと思いますが、一般的な見せ玉と比べ、相場に与える影響が大きく異なることから、一般的な見せ玉と区別して「特殊見せ玉」と表現しています。一般的な見せ玉は、例えば、最良買い気配付近に大口の買い注文を発注し、売り注文に比べて買い注文が多く発注されている買い優勢の発注状況を作出することで、他の投資家の買い注文を誘引しようとするものです。それに対し、本件の見せ玉は、第三者が、例えば引け条件付き成行(以下「引成」といいます。)売り注文(※)を発注している銘柄を見つけ出し、約定させる意思のない引成買い注文を発注し、引成売り注文と引成買い注文の発注株数が同程度である引けの発注状況を作出して、他の投資家の売買を抑止しようとするものであり、他の投資家の注文を誘引しようとするものではないことが特徴です。そのため、証券監視委ウェブサイトの概要図では、「誘わない見せ玉」とも記載しています。

 また、「偽計」という言葉を初めて目にした方もいらっしゃるかも知れませんが、金融商品取引法第158条において、「有価証券の売買のため……偽計を用いてはならない」と規定されており、偽計とは、他人に錯誤を生じさせる詐欺的ないし不公正な策略、手段をいうと解されています。

 ※「引成注文」とは、前場または後場の「引け」においてのみ有効となる成行注文のことをいいます。

 それでは、上記を踏まえ、2事案に共通する取引手法の主な例を紹介します。

[1] 真実の需給バランス

特殊見せ玉(引成売り注文)発注前の引成注文状況:【大幅買い優勢】引成売り注文<引成買い注文

→ 大幅買い優勢により引値上昇予想
→ 引値上昇予想による新たな売買

(A) 株式を保有している投資家→引値が高くなりそうだから引けで売ろう
(B) 株式を保有していない投資家→引値が高くなりそうだからその前に買って引けで売ろう


[2] 虚偽の需給バランス作出

特殊見せ玉(引成売り注文)発注後の引成注文状況:【売買均衡】引成売り注文=引成買い注文

→ 売買均衡により引値は変わらない予想
→ 引値上昇予想による新たな売買を阻害

(a) 株式を保有している投資家→引けで売ると下がるからやめよう
(b) 株式を保有していない投資家→引けで高く売れないから買うのはやめよう


[3] 仕込みの買付け

[4] 引成売抜け注文発注・特殊見せ玉(引成売り注文)約定回避

[5] 引けの需給バランス

引けにおける引成注文状況:【買い優勢】引成売り注文<引成買い注文

→ 買い優勢により引値上昇
→ 仕込みで買い付けた価格より高い価格(引値)で売抜けに成功


 今回勧告した2事案の課徴金納付命令対象者(以下「対象者」といいます。)は、各株式の立会市場において、他の投資家が発注した引成買い注文の発注株数が引成売り注文の発注株数を上回る状況であり([1]真実の需給バランス:引成売り注文<引成買い注文)、当該発注状況を見た第三者が発注株数の少ない側に引成注文を発注するなどして、新たな売買([1]AB)を行うことが想定される状況で、約定意思がなく、引け直前に取り消して約定を回避するつもりであるにもかかわらず、発注株数の少ない側に引成注文(特殊見せ玉)を発注することによって、あたかも約定意思があるかのように装い、引成買い注文と引成売り注文の発注株数が同程度である状況を作出して([2]虚偽の需給バランス作出:引成売り注文=引成買い注文)、第三者に対して引けまで当該発注状況が維持されるであろうとの錯誤を生じさせ、第三者の新たな売買を阻害([2]ab)した上で、本件各引成注文を、引け前に取り消して約定を回避する([4]特殊見せ玉約定回避)ことによって、引けにおいて、引成買い注文の発注株数が引成売り注文の発注株数を上回る状況([5]引けの需給バランス:引成売り注文<引成買い注文)にすることで、自らに有利な売買([3]仕込みの買付け→[5]仕込みで買い付けた価格より高い引値で売抜け)を行うことを企てたものです。証券監視委は、対象者のこうした行為は、他人に錯誤を生じさせる詐欺的な手段であり、偽計を用いた行為であると認定しました。

 今回の2事案をより具体的に言えば、引けの需給バランスが大幅買い優勢の場合、引値上昇が想定され、当該株式を既に保有している投資家は、引値が高くなるという期待の下、引けで売ろうとする本来の投資行動が、対象者が特殊見せ玉(引成売り注文)発注により売買均衡状態を作り上げることで、引値が高くなることが期待できなくなり、引けでの売付けはやめようということになります。また、当該株式を保有していない投資家であれば、引値が高くなるという期待の下、引ける前に買って引けで売ろうという本来の投資行動が、引けで高く売れることが期待できなくなり、買付けはやめようということになります。いずれの投資家も、対象者による特殊見せ玉により新たな取引の機会を奪われることになってしまいます。

 こうして、特殊見せ玉により他の投資家の取引を実質的に排除したうえで、対象者は当該銘柄を買い付け、売抜け注文を発注した後、特殊見せ玉を取り消して約定を回避することにより、引けの需給バランスを再び買い優勢とし、引けにおいて、買い付けた銘柄を高値で売り抜けていました。

【事案の特色等】

 今回紹介した2事案は、冒頭に記載のとおり昨年10月5日に勧告した第一稀元素化学工業株式外6銘柄の各株式につき偽計を行ったという事案と同様、「特殊見せ玉」を用いた偽計事案です。通常の見せ玉による相場操縦に対する立件は課徴金勧告・犯則事件ともにこれまで数多くの事例がありますが、「特殊見せ玉」を用いた偽計事案は本件2例を含めて3例目ということもあり、こうした行為が違法な行為であることが広く投資家全体に伝わっていないことが想定されます。

 本件が広く周知されることにより、不公正取引の抑止効果が発揮されることを期待しています。


<発行>
証券取引等監視委員会 事務局 総務課
    (情報公開・個人情報保護係)
〒100-8922 
東京都千代田区霞が関3-2-1
中央合同庁舎第7号館
電話番号:03-3506-6000(代表)

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