不公正取引について

I 不公正取引について

金融商品取引法では、風説の流布・偽計、相場操縦(仮装・馴合(なれあい)売買等)及び内部者取引といった不公正取引が禁止されています。

1.風説の流布・偽計

有価証券の募集、売買等のため、もしくは相場の変動を図る目的をもって、風説(うわさ、合理的な根拠のない風評等)を流布(不特定又は多数の者に伝達)することは、「風説の流布」として、金融商品取引法第158条で禁止されている行為です。

この規定が適用された事例としては、自ら保有する銘柄の株式を高値で売却するため、インターネット上の電子掲示板などに虚偽の情報を掲載し、不特定多数の者が閲覧できる状態に置き、それを見た投資家が同株式を買い付けることにより株価が上昇したところで、同株式を売却して不当な利益を得たもの、がありました。

また、有価証券の募集、売買等のため、もしくは相場の変動を図る目的をもって、他人に錯誤を生じさせる詐欺的ないし不公正な策略、手段を用いることは、「偽計」として、金融商品取引法第158条で禁止されている行為です。

この規定が適用された事例としては、自らが支配するファンドが引き受ける新株を高値で売却するため、上場会社に、自らが支配するファンドを引受先として第三者割当増資を行わせるとともに、当該増資により払い込まれた株式払込金を直ちに社外に流出させたにもかかわらず、当該上場会社に資本増強が図られたとの虚偽の公表を行わせ、株価を維持上昇させた上で、取得した株式を売却して利益を得たもの、がありました。

具体的な条文は、以下のとおりです。

【金融商品取引法第158条 風説の流布、偽計、暴行又は脅迫の禁止】

何人も、有価証券の募集、売出し若しくは売買その他の取引若しくはデリバティブ取引等のため、又は有価証券等・・・の相場の変動を図る目的をもって、風説を流布し、偽計を用い、又は暴行若しくは脅迫をしてはならない。

2.相場操縦

市場において相場を人為的に変動させるにもかかわらず、その相場があたかも自然の需給によって形成されたものであるかのように他人を誤解させるなどによって自己の利益を図ろうとする行為を、相場操縦といいます。このような行為は、公正な価格形成を阻害し、投資者に不測の損害を与えることとなるため、金融商品取引法において禁止されています。具体的には次のような行為です。

  • (1) 仮装・馴合売買(金融商品取引法第159条第1項)

    同一人が、権利の移転を目的とせず、同一の有価証券について同時期に同価格で売りと買いの注文を発注して売買をすることは、「仮装売買」として、金融商品取引法第159条第1項で禁止されている行為です。

    この規定が適用された事例としては、自ら保有する銘柄の株式の売買が繁盛に行われているとの誤解を他人に生じさせる目的をもって、自己の注文同士で売買をし、これによって誘引された投資家が同株式を買い付けることにより株価が上昇したところで、同株式を売却して不当な利益を得たもの、がありました。

    また、複数の者が、あらかじめ通謀し、同一の有価証券について、ある者の売付け(買付け)と同時期に同価格で他人が買い付ける(売り付ける)ことは、「馴合売買」として、金融商品取引法第159条第1項で禁止されている行為です。

  • (2) 変動操作取引(金融商品取引法第159条第2項)

    何人も、他人を有価証券の売買に誘引する目的をもって、有価証券の売買が活発に行われていると誤解させ、あるいは、株価を人為的に変動させるような一連の売買等をすることは、「変動操作取引」として、金融商品取引法第159条第2項で禁止されている行為です。

    この規定が適用された事例としては、自ら保有する銘柄の株式の売買に誘引する目的で、複数の証券会社を介して連続した高指値注文を行って株価を引き上げるとともに、下値に買い注文を大量に入れるなどの方法により、同株式の売買が繁盛であると誤解させ、これによって誘引された投資家が同株式を買い付けることにより株価がさらに上昇したところで、同株式を売却して不当な利益を得たもの、がありました。

    なお、以下のような行為は、株価に影響を与え、変動操作取引とみなされるおそれがあることから、留意が必要です。

    • 買い上がり買付け:例えば、場に発注された売り注文に対して、高値の買い注文を連続して発注し、それら売り注文をすべて約定させながら、株価を引き上げる行為。
    • 下値支え:例えば、現在値より下値に比較的数量の多い買い注文を発注したり、実際に買い付けたりすることにより、株価が下落しないようにする行為。
    • 終値関与:例えば、取引終了時刻の直前に、高値で買い注文(または、安値で売り注文)を発注して約定させ、終値の形成に関与する行為。
    • 見せ玉(みせぎょく):例えば、板情報画面に表示される価格帯に、約定させる意図のない、優先順位が低い買い注文をまとまった数量で発注する行為。
  • (3) 違法な安定操作取引(金融商品取引法第159条第3項)

    安定操作取引は、金融商品取引法において、政令に定める、条件、対象者、手続き等を遵守した場合に認められており、これらに違反して、単独または他人と共同して有価証券等の相場をくぎ付けし、固定し、または安定させる目的をもって、一連の有価証券の売買等またはその委託もしくは受託をすることは、金融商品取引法第159条第3項で禁止されている行為です。

    この規定が適用された事例としては、ある証券会社が、政令で定めるところに違反して、同社が主幹事であった会社の株価を公募価格以上に固定する目的をもって、一定の価格以下の同社株式の買付けを勧誘し、受託した上で、それらを執行させて買い支えるなどの方法により、同株価を一定の価格帯に固定させたもの、がありました。

    (注)安定操作取引が認められる場合の詳細な内容は、金融商品取引法施行令第20条から第26条を参照して下さい。

上記(1)~(3)の具体的な条文は、以下のとおりです。

【金融商品取引法第159条 相場操縦行為等の禁止】

1 何人も、有価証券の売買・・・が繁盛に行われていると他人に誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもって、次に掲げる行為をしてはならない。

一 権利の移転を目的としない仮装の有価証券の売買・・・をすること。

二~三 (略)

四 自己のする売付け・・・と同時期に、それと同価格において、他人が当該金融商品を買い付けること・・・をあらかじめその者と通謀の上、当該売付けをすること。

五~八 (略)

九 前各号に掲げる行為の委託等又は受託等をすること。

2 何人も、有価証券の売買・・・を誘引する目的をもって、次に掲げる行為をしてはならない。

一 有価証券売買等が繁盛であると誤解させ、又は取引所金融商品市場における上場金融商品等・・・の相場を変動させるべき一連の有価証券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をすること。

二~三 (略)

3 何人も、政令で定めるところに違反して、取引所金融商品市場における上場金融商品等・・・の相場をくぎ付けし、固定し、又は安定させる目的をもって、一連の有価証券売買等又はその申込み、委託等若しくは受託等をしてはならない。

3.内部者取引

上場会社の役職員等の会社関係者は、投資家の投資判断に影響を及ぼすべき情報について、容易に接近しうる特別な立場にあります。このような立場にある者が、未公表の情報を知りながら行う有価証券に係る取引は、当該情報を知りえない一般の投資家と比べて著しく有利となり、極めて不公平です。このような取引が放置されれば、証券市場の公正性と健全性が損なわれ、証券市場に対する投資家の信頼を失うこととなります。

そのため、(1)上場会社等の会社関係者が、(2)当該上場会社等の業務等に関する重要事実を、職務に関し知った上で、(3)公表前に、(4)当該上場会社等の株券等を売買することは、内部者取引として禁止されています。会社関係者から重要事実の伝達を受けた第一次情報受領者も対象となります。

  • (1) 会社関係者・情報受領者

    • 会社関係者:
    上場会社等の役職員
    帳簿閲覧権を有する株主
    法令に基づく権限を有する者(例:監督官庁の職員)
    契約締結者、締結交渉中の者(関与する弁護士等も含む)等
    元会社関係者(会社関係者でなくなってから1年以内の者)
    • 情報受領者:
    会社関係者から重要事実の伝達を受けた者(例:家族、同僚)
  • (2) 重要事実(決定事実、発生事実、決算情報、バスケット条項)

    • 投資判断に重要な影響を及ぼす情報
      新株等発行、株式交換、合併、業務提携、災害等による損害、主要株主異動
      業績予想修正、その他投資判断に著しい影響を及ぼす情報 等
    • 日常用語の「重要な事実」と同じではない
    • 子会社に生じた事実も含まれる
    • 重要事実の発生時期は、会社の正式な機関決定(取締役会決議など)よりも相当早い時期に実質的な決定がされたと認定されるのが通常である
  • (3) 公表

    • TDnetを通じた適時開示
    • 新聞等報道機関2社以上+12時間ルール
    • 開示開示書類の公衆縦覧

【金融商品取引法第166条 会社関係者の禁止行為】

1 次の各号に掲げる者(以下この条において「会社関係者」という。)であって、上場会社等に係る業務等に関する重要事実・・・を当該各号に定めるところにより知ったものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買・・・をしてはならない。・・・会社関係者でなくなった後一年以内のものについても、同様とする。

一~五 (略)

2~6 (略)

【金融商品取引法第167条 公開買付者等関係者の禁止行為】

1 次の各号に掲げる者(以下この条において「公開買付者等関係者」という。)であって、・・・公開買付け・・・若しくはこれに準ずる行為として政令で定めるもの・・・をする者・・・の公開買付け等の実施に関する事実・・・を当該各号に定めるところにより知ったものは、当該公開買付け等の実施に関する事実・・・の公表がされた後でなければ、・・・上場等株券等・・・に係る買付け等・・・をしてはならない。・・・公開買付者等関係者でなくなった後一年以内のものについても、同様とする。

一~五 (略)

2~5 (略)

II 不公正取引規制違反に係る課徴金制度について

1.制度の概要

課徴金制度は、内部者取引等の違反行為の抑止を図り、法規制の実効性を確保するという行政目的を達成するため、行政上の措置として、以下の違反行為をした者に対して金銭的負担を課す制度です。

2.対象とする違反行為

  • (1) 風説の流布・偽計

  • (2) 仮装・馴合売買

  • (3) 変動操作取引

  • (4) 違法な安定操作取引

  • (5) 内部者取引

3.主な違反行為に対する課徴金額

違反行為に対する課徴金額は、違反行為による利得相当額を基準として、以下のとおり定められています。

  • (1) 風説の流布・偽計

    違反行為終了時点で自己の計算において生じている売り(買い)ポジションについて、当該ポジションに係る売付け等(買付け等)の価額と当該ポジションを違反行為後1月間の最安値(最高値)で評価した価額との差額等。

    自己以外の者の計算において不公正取引を行った場合には、手数料、報酬その他の対価の額を基準として課徴金額を算定(以下(2)~(5)まで同じ。)。

  • (2) 仮装・馴合売買

    違反行為終了時点で自己の計算において生じている売り(買い)ポジションについて、当該ポジションに係る売付け等(買付け等)の価額と当該ポジションを違反行為後1月間の最安値(最高値)で評価した価額との差額等。

  • (3) 変動操作取引

    違反行為期間中に自己の計算において確定した損益と、違反行為終了時点で自己の計算において生じている売り(買い)ポジションについて、当該ポジションに係る売付け等(買付け等)の価額と当該ポジションを違反行為後1月間の最安値(最高値)で評価した価額との差額との合計額等。

  • (4) 違法な安定操作取引

    違反行為に係る損益と、違反行為開始時点で自己の計算において生じているポジションについて、違反行為後1月間の平均価格と違反行為期間中の平均価格の差額に当該ポジションの数量を乗じた額との合計額等。

  • (5) 内部者取引

    違反行為に係る売付け等(買付け等)(重要事実の公表前6月以内に行われたものに限る。)の価額と、重要事実公表後2週間の最安値(最高値)に当該売付け等(買付け等)の数量を乗じた額との差額等。

4.課徴金の加算・減算制度

課徴金の加算・減算制度は、違反行為を的確に抑止する観点や、再発防止及び自主的なコンプライアンス体制の構築の促進の観点から設けられたものです。

  • (1) 過去5年以内に課徴金の対象となった者が、再度違反した場合、課徴金の額を1.5倍に加算。

  • (2) 一定の違反行為(発行開示書類等の虚偽記載等、継続開示書類等の虚偽記載等、大量保有・変更報告書等の不提出、法人による自己株式の取得に係る内部者取引、等)につき、違反者が当局の調査前に証券取引等監視委員会に対し報告を行った場合、課徴金の額を半額に減額。

サイトマップ

ページの先頭に戻る