ディスカッションペーパー

ディスカッションペーパーとは

金融研究センターにおける「ディスカッションペーパー(DP)」とは、当センター所属の研究官等が、研究成果を取りまとめたものです。随時掲載しますので、ご高覧いただき、幅広くコメントを歓迎します。

なお、DPの内容はすべて執筆者の個人的見解であり、金融庁あるいは金融研究センターの公式見解を示すものではありません。

26年度ディスカッションペーパー

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ファイル 題名 執筆者 年月
DP2014-12
(PDF:1,844KB)
「海外の消費者信用規制改革等についての研究 -英国2012年金融サービス法を中心に-」 横井 眞美子 2015年3月
DP2014-11
(PDF:818KB)
「レバレッジ比率規制が銀行に与える影響」 寺西 勇生 2015年3月
DP2014-10
(PDF:1,935KB)
「システミック・リスクに関わる分析手法の動向と評価-国際的な潮流と日本への含意-」 増島 雄樹 2015年3月
DP2014-9
(PDF:973KB)
「東京市場の国際的な魅力を高めるための、制度・規制改革や市場整備の諸施策についての理論的視座の構築」 坂和 秀晃 2015年2月
DP2014-8
(PDF:1,624KB)
「東南アジア諸国に対する電子記録債権普及の可能性と今後の課題 -インドネシア・ベトナムを中心に-」 杉浦 宣彦 2014年10月
DP2014-7
(PDF:3,359KB)
「米・英・EU・独仏の銀行規制・構造改革法について」 北見 良嗣 2014年9月
DP2014-6
(PDF:1,873KB)
「不正会計の早期発見に関する海外調査・研究報告書」 大城直人 2014年8月
DP2014-5
(PDF:3,044KB)
「我が国におけるコーポレート・ガバナンスをめぐる現状等に関する調査」 上田亮子 2014年7月
DP2014-4
(PDF:1,966KB)
「取引高速化とプレオープニングの発注行動分析」 宇野 淳 2014年7月
DP2014-3
(PDF:1,629KB)
「機関投資家の受託者責任と議決権行使の関係」 春日俊介 2014年7月
DP2014-2
(PDF:1,368KB)
「1990年代末から2000年代における銀行不良債権処理の進行」 中林真幸
川嶋稔哉
2014年6月
DP2014-1
(PDF:2,757KB)
「欧州における銀行同盟の進展 ユーロ圏の銀行監督と破たん処理制度の統一へ向けた議論・論点 井上 武 2014年4月

ディスカッションペーパー要旨

DP2014-12
「海外の消費者信用規制改革等についての研究
-英国2012年金融サービス法を中心に-」

横井 眞美子 金融庁金融研究センター特別研究員
(経済開発協力機構(OECD)プリンシパル・アドミニストレータ)

英国は金融危機等の教訓を経て、2010年の政権交代を機に消費者信用の規制体系の大幅な見直しを行った。これは金融監督体制自身の変革をも視野に入れた抜本的なものであった。

消費者信用は金融の消費者保護を考える上で先ず対策が講じられる分野であるが、ここでは消費者信用に関連する様々なデータを比較考慮することでその市場規模や消費者の生活における影響力を考える。更に、日本の消費者市場と比較するために、日英の消費者市場を比較するためのデータも対象とした。

消費者信用が効果的に監督されるためには監督体制が整備されている必要があり、英国はその反省を活かし、監督権限の移譲を決定し、消費者保護を目的とする金融市場監督庁に移行した。その結果、消費者市場に関連する権限が強化されたこともさる事ながら、消費者信用を監督することにおける前提条件までをリセットする形となった。また、消費者信用会社の全免許を再交付することで信用会社の行為、経営を見直すこともされた。

更に、消費者信用市場において問題視されていた短期、高費用の消費者信用については費用上限を導入することで市場から悪質な信用会社を撲滅し、市場が閉鎖されることをも視野に入れた見直しが現在遂行中である。費用上限の効果について様々な意見があり、英国におけるその実際の効果に注視するとともに、市場が閉鎖されることによる副産物が発生しないように市場をモニタリングする必要があろう。

消費者信用を重要な金融仲介手段として利用する消費者や中小企業がある以上、消費者信用を安全な市場として発展させる必要があり、そのために効率的な金融監督体制を考える必要がある。

キーワード:消費者信用、金融規制、金融監督、ペイデイ・ローン

DP2014-11
「レバレッジ比率規制が銀行に与える影響」

寺西 勇生 金融庁金融研究センター特別研究員
(慶應義塾大学商学部准教授)

本稿では、自己資本比率規制とレバレッジ比率規制が同時に銀行に課された場合の具体的な影響を、鎌田・那須(2010)の理論モデルを用いて考察している。まず、2つの規制下では、銀行の事業ポートフォリオが類似化する可能性を指摘することができる。また、その他の影響として、銀行のビジネス・モデルが高リスク・高リターン化することや、反対にそうならない場合には銀行の金融仲介機能が低下する可能性が指摘できる。これらの帰結は、その他の規制と組み合わさる場合や、オフバランス・シート項目のリスクの捕捉が行き過ぎたものとなる場合に、更に強まることになる。こうした銀行行動の変化は、金融危機に対する金融システムのリスク耐性を低下させる。レバレッジ比率規制の適用に当たっては、様々な負の影響が生じる得る点に注意する必要があると言える。

キーワード:レバレッジ比率規制、銀行

DP2014-10
「システミック・リスクに関わる分析手法の動向と評価
-国際的な潮流と日本への含意-」

増島 雄樹 金融庁金融研究センター特別研究員
(公益社団法人日本経済研究センター主任研究員)

本研究では、システミック・リスクとその予兆となるエマージング・リスクの分析・評価手法に関する調査をIMF、BISやIOSCOなどの国際機関、各国中銀・監督当局による評価手法等を参照しながら行った。また、規制の影響も含め、足元で発生しつつあるリスクを各種統計データ等を用いて分析した。世界的な金融緩和(低金利)下で蓄積された証券部門での様々な歪みが、一部の先進国が金融引き締めに向けての出口戦略に向かうタイミングで、どのようなリスクとして顕在化する可能性があるのか考察した。日本の金融システムは相対的に健全な状況にあり、単純に米欧と同じ基準で国際金融規制を導入すると、特に非銀行金融部門の潜在的な発展の可能性を阻害する可能性がある。また、日本の海外投資はグローバルの標準ポートフォリオと比べて株式に対する債券の投資割合が高く、低金利環境下で日本における債券ファンドの潜在的なリスクが高まりつつある。日本において、システミック・リスクとシステミック・リスクにつながる可能性のあるエマージング・リスクを特定し評価していく手法を随時改善していく必要がある。

キーワード:システミック・リスク、エマージング・リスク、リスク評価、IOSCO、国際金融規制

DP2014-9
「東京市場の国際的な魅力を高めるための、制度・規制改革や市場整備の諸施策についての理論的視座の構築」

坂和 秀晃 金融庁金融研究センター特別研究員
(名古屋市立大学大学院経済学研究科准教授)

本研究では、東京市場が国際金融センターとしての役割を果たすためには、どのような要素が重要になってくるかを展望するために、現状の国際金融センターランキングの調査・分析を行っている。本研究の具体的内容としては、国際金融センターランキングや東京市場のアンケート調査の定性的分析と実証分析の2点を行っている。得られた結論は、以下の3点にまとめられる。第一に、国際金融センターランキングの分析から、東京市場は、総合的には評価されているものの、今後の成長・発展性という点では、東京市場の評価が高くないことが明らかになった。第二に、実証分析の結果から、国際金融センターランキングの高い市場の上場企業が、成長性の期待が高い研究開発投資比率を実現しているわけではないことが示された。最後に、企業統治の質の高い企業が上場する金融センターほど、国際金融センターランキングが高まることが明らかになった。

キーワード:国際金融センターランキング・東京市場・企業統治

DP2014-8
「東南アジア諸国に対する電子記録債権普及の可能性と今後の課題-インドネシア・ベトナムを中心に-」

杉浦 宣彦 金融庁金融研究センター特別研究員

2010年12月24日に金融庁が公表した「金融資本市場及び金融産業の活性化等のためのアクションプラン~新成長戦略の実現に向けて~」において、金融庁における今後の取り組み方策として「電子記録債権制度といった我が国の制度の普及を図るため、アジア諸国に普及させていくために、アジア諸国の金融・資本市場に関する実態調査を実施する」ことが掲げられている。

その取組の一環として、金融庁は、アジア諸国における電子記録債権制度の導入に向けた環境が整っているか否かを把握するため、産業構造や金融制度、現地における商慣習、資金調達上の課題に関する基礎的な情報を収集した「アジア諸国の企業間取引の実態に関する調査」(以降、前回調査)を2011年に公表し、その後、文献調査だけでは判明し得ない企業間信用等の電子記録債権制度導入に影響を与える可能性のある事実がないかについて、調査・研究が行われ、2012年度に、「アジア諸国に対する電子記録債権普及の可能性と今後の課題」(金融庁ディスカッションぺーパー DP2012-4)がその成果として発表された。今回は、これらの調査・研究を受けて、電子記録債権制度の導入へ向けて、調査国中でもっとも可能性が高いのではないかと判断されたインドネシアとベトナムについて、現地でのセミナーも含めて、これまでよりもさらに踏み込んだ研究・調査(とりわけ、決済制度や法分野)が行われたことから、主として、その結果について述べ、また、その後の調査・研究の結果を加味しつつ、導入の推進を進めていくに当たりどのような方策が必要なのかについて、検討することを目的としている。

キーワード:電子記録債権、制度輸出、アジア債権市場

DP2014-7
「米・英・EU・独仏の銀行規制・構造改革法について」

北見 良嗣 金融庁金融研究センター特別研究員
(帝京大学法学部教授)

今回の金融危機を通じて幾つかの教訓がもたらされたが、そのうち金融制度面で注目された点に投資銀行によるシャドーバンキング機能がある。主要国ではダイナミックな企業風土(米国)や市場統合下での競争激化(欧州)の下、ハイリスク=ハイリターン狙いの銀行行動が強まり、米国型投資銀行が誕生した。

こうした中、金融安定化を目指す動きの一つとしてG-20を中心に、システム上重要な金融機関に追加的費用負担を課し、公的資金の注入無く破綻処理を追及する動きがある。

一方で、米国Dodd=Frank法によるVolcker Rule、英国・EU・独仏で導入されつつある銀行規制・構造改革法は、システム上重要な金融機関について業務範囲や銀行構造の面で規制を課す。これは、システム上重要な金融機関からリスクの高い業務を分離することで、TBTF問題や破綻の発生を回避するとの発想が背景にある。

今回の主要国の銀行構造改革法は規制領域・規制の程度において、それぞれ独自性を持ち硬軟・強弱が様々となっている。そうした差異が今後の施行・実施段階において市場間競争にどのような影響を与えるかは要注目事項であり、またこうした影響度分析を踏まえて主要国当局が今後どのような調整を行い、主要国の差異が収斂されていくかも目の離せない視点であろう。

この間我が国では、1948年の証券取引法制定時の同法65条により銀証分離規制が導入されたが、その後金融自由化の一環として平成4(1992)年に業態別子会社方式による相互参入が、同9(1997)年には持株会社傘下の子会社による参入が実現した。しかし、金融機関による短期の自己勘定取引については銀証分離にかかる金商法33 条、33条の2等によりトレーディング業務登録が依然必要となる。加えて、邦銀が目指すターゲット像の違いやノウハウ・人材の蓄積の不足などもあってか、シャドーバンキング機能まで果たしうる投資銀行が誕生するまでには至っていないものとみられる。

今後についても、主要行を中心にアジアの成長力を取り込むかたちでアジア市場向け貸出に進出しており、こうした状況下、今しばらく邦銀では商業銀行指向モデルが継続する可能性が強い。したがって、投資銀行の出現を直ちには想定し難く、それだけに投資銀行の出現を前提とする欧米的な銀行規制・構造改革措置導入の必要性があるとは現状言い難いと思われる。

キーワード:投資銀行、TBTF問題、バーゼルIII、主要国の銀行規制・構造改革法

DP2014-6
「不正会計の早期発見に関する海外調査・研究報告書」

大城 直人 金融庁金融研究センター特別研究員
(株式会社金融工学研究所 代表取締役社長)

この報告書では、おもに海外における不正会計の早期発見に関する調査研究成果をとりまとめた。まず始めに、不正会計の発生要因、不正会計を行う動機に関する仮説や不正会計を行う為の実行機会となりえる要因について取り扱った文献を調査した。主な動機として、「利益ベンチマーク仮説」や「報酬・インセンティブ構造仮説」などを、不正会計を実行するための機会として、「取締役会・監査委員会の構成」、「監査の質」、「権力の集中と株主との関係」などを紹介した。次に、不正会計の主な手口を売上高、原価、費用などの視点から勘定科目への影響などと併せてとりまとめた。続いて、不正会計の早期発見手法を取り扱った海外文献を調査した。特に、不正会計との強い関連が指摘されている「会計発生高」を紹介した。これ以外にも不正会計の要因分析を取り扱った研究は多数存在するものの、不正会計の早期検出に主眼を置いた学術研究は限定的であることがわかった。その中でも実務的にも利用可能なモデルとして、Beneish(1999b)のM-Scoreと、決算書の修正再表示が行われる可能性をモデル化した、Dechow et al.(2011)のF-Scoreを紹介した。これらのモデル以外は、概ね、不正会計の早期検出モデルというよりも不正会計の発生要因を分析する為のモデルであることがわかった。このように不正会計の早期検出モデルは学術的にも十分に研究が行われているとはいえない状況であり、今後更に研究の進展が求められる状況だ。

キーワード:不正会計、早期発見モデル、利益調整

DP2014-5
「我が国におけるコーポレート・ガバナンスをめぐる現状等に関する調査」

上田 亮子 金融庁金融研究センター特別研究員
(株式会社日本投資環境研究所調査部 主任研究員)

近年、社外取締役の議論の前進、JPX400指数の開始や日本版スチュワードシップ・コードの策定等、機関投資家の視点を意識したコーポレート・ガバナンスの改革が進みつつある。本稿では、2000年代以降の日本のコーポレート・ガバナンスの制度と実態の変遷について、上場会社と機関投資家の両面から、実証研究に基づいた考察を加える。

まず、議論の前提として、コーポレート・ガバナンスに影響を与える市場環境等の外的要因について検討する。メインバンク制度や株式持合いに代わり、現在では年金資金による株式投資や外国人投資家の流入等により市場参加者が変化している。

次に、コーポレート・ガバナンスの主体である上場の取組みに関しては、機関投資家の意向を斟酌しつつ、会社側が自主的に改善のための取組みを進めている実態がある。背景には、我が国には、上場会社のコーポレート・ガバナンスのベスト・プラクティスを示す規範的な原則がなく、広く受け入れられた基準が存在しないことがある。このような企業の取組みについて、会社法や開示規則などの制度面の改革と、実態面では株主総会、取締役会、報酬等のコーポレート・ガバナンス上重要な問題について実証的に分析する。

最後に、コーポレート・ガバナンスにおける機関投資家の役割については、日本版スチュワードシップ・コードを含めて、これまでの制度改革について検討する。さらに実態面では株主総会への機関投資家の参加、議決権行使に関して考察する。我が国の機関投資家の活動は、2009年の金融審議会スタディグループ報告書以降、投資信託や投資顧問会社等のアセット・マネジャーを中心に機関投資家の議決権行使の取組みや開示が進んだ。これらの取組みは、海外と比べても先進的な水準にあると評価できよう。上場会社の株主総会の運営や決議に関する実証研究に基づき、機関投資家の与える影響が拡大している実態を考察する。

キーワード:コーポレート・ガバナンス、スチュワードシップ、社外取締役、機関投資家、株主

DP2014-4
「高頻度取引(HFT)に関する実証研究
取引高速化とプレオープニングの発注行動分析」

宇野 淳 金融庁金融研究センター特別研究員
(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)

高速取引環境がプレオープニングにおける投資家の発注行動に与える影響を検証する。発注行動仮説によれば、大口注文は開始間際に発注される傾向が強まると同時に、指値変更や取消も間際に集中する可能性がある。これらの行動はどちらも寄前気配が始値から乖離する期間を長期化し、プレオープニングの気配(寄前気配)の有用性と信頼性を低下させる可能性がある。

TOPIX100銘柄を対象に2013年4月と5月のデータを調べたところ、前場取引開始の1秒から2秒前に新規注文と取消・変更が集中する傾向があり、直前の1秒では取消件数が新規件数を上回る。気配に影響する注文は直前1分間の注文件数の14.4%で、このうち前日比の高安が逆転する場合が5%あった。

こうした寄前気配の始値に対する情報効率性をunbiasedness regressionによって推計したところ、寄前気配が当日の始値に一致するのは1秒前という結果が得られた。これは取引所システムが高速化した直後の2010年1月の2秒前からさらに遅くなっている。

プレオープニングの注文取消・変更の要因をプロビットモデルで推計したところ、取り消された注文は、指値がその時点の最良気配よりもアグレッシブな指値で、約定が確実な注文ほど取り消される傾向がある。取り消された注文は長い時間ブックに待機して、途中で変更されることなく最後に取消される傾向がある。一方、指値変更は、最良気配に劣後する指値が多く、約定の可能性を高めるために変更している。変更注文は、プレオープニング期間中の変更頻度が高く、出されてからの経過時間は短い傾向がある。

このようにプレオープニングの発注行動は、ザラバにみられる高頻度取引(HFT)の特徴とは異なるが、高速環境がなければ困難な1―2秒前に発注・変更・取消が集中しており、高速取引環境を持つ投資家の行動がプレオープニングでの気配形成に影響を与えていると考えられる。

キーワード:プレオープニング、寄前気配、価格効率性、取引高速化

DP2014-3
「機関投資家の受託者責任と議決権行使の関係」

春日 俊介 元金融庁金融研究センター特別研究員
(野村證券株式会社フィデューシャリー・マネジメント部 エグゼクティブ・コンサルタント)

欧米では2008年の金融危機を契機に、年金基金等の議決権行使をとりまく状況に変化がみられる。英国ではスチュワードシップ・コードの導入により機関投資家による投資先企業に対するエンゲージメント活動が活発化し、米国ではドッド=フランク法の制定による金融機関や上場企業のコーポレート・ガバナンスの強化が図られている。一方、わが国では2000年前後に年金基金の株式投資の拡大や株式市場の低迷を背景にコーポレート・ガバナンス活動に対する関心が高まり、議決権行使体制が整えられた。その後も、運用機関を中心に情報開示強化などの取り組みが行われている。

本稿では、年金運用における受託者責任と議決権行使の関係を整理したうえで、議決権行使を中心としたコーポレート・ガバナンス活動について、日本、米国、英国の動向についてまとめた。3国の中では英国の機関投資家が最も活発にコーポレート・ガバナンス活動に取り組んでいる。わが国では運用機関による議決権行使の情報開示に関する取り組みの強化はみられるが、年金基金のコーポレート・ガバナンス活動に対する意識は高いとはいえない状況である。ただし、運用面での変化の兆候として、一部ではリスク抑制を目的にガバナンスを重視したESG投資や、長期的な企業価値の向上を目指すエンゲージメント運用などの取り組みがみられる。

キーワード:受託者責任、機関投資家、年金運用、議決権行使、コーポレート・ガバナンス、 スチュワードシップ・コード

DP2014-2
「1990 年代末から2000 年代における銀行不良債権処理の進行」

中林 真幸 金融庁金融研究センター特別研究員
(東京大学社会科学研究所准教授)
川嶋 稔哉 金融庁金融研究センター専門研究員

1990年代後半から2000年代にかけて日本は、資産価格の低落、金融市場の改革、不良債権の大幅圧縮を経験した。本稿では、新たな規制枠組みのもと不良債権削減がいかに進められたか、1998年から2013年について振り返りたい。2000年代初頭に構造改革の一環として、銀行部門に対し不良債権の大規模処理が指導されたが、はたしてこれは不可避だったのだろうか。我々の研究結果によると、仮に不良債権処理の循環的削減が可能だったとしても、それは住宅ローンのさらなる拡大を通じてであった。日本が住宅価格バブルを避ける必要があった以上、2000年代初頭の構造的処理は妥当だったといえよう。

キーワード:不良債権処理、構造改革、規制改革、住宅ローン、日本

DP2014-1
「欧州における銀行同盟の進展 ユーロ圏の銀行監督と破たん処理制度の統一へ向けた議論・論点」

井上 武 金融庁金融研究センター特別研究員
(株式会社野村資本市場研究所主任研究員)

ユーロ加盟国を中心に進められている銀行同盟の一環として、欧州では2014年11月より欧州中央銀行(ECB)が約130行の大手銀行を直接監督する体制へと移行する。監督へ向けてECBは大手銀行の包括的な評価を開始した。欧州銀行機構(EBA)との連携によるストレス・テストも予定されており、金融危機さらにソブリン危機によって傷ついた、欧州の銀行のバランス・シートに対する信頼を回復できるのかが注目されている。

銀行同盟を構成するもう一つの柱である単一破たん処理制度については、破たん処理の意思決定の仕組みをどうするか、投資家負担を超える部分の資金をどのように手当てするかで欧州議会と連合理事会の間で対立が見られたものの、2014年3月20日に譲歩案について合意に至った。2014年5月の欧州議会選挙の前の合意を目指したため、その内容については政治的な妥協が図られた面も残っている。

単一破たん処理制度に先立ち2013年12月には、EU全体の銀行の破たん処理制度を調和する指令の骨格が固まり、普通債権者も含めた投資家負担を求めるベイル・インの2016年からの導入が決定した。以降、銀行の破たん処理における負担は、投資家が第一に負担し、公的資金の利用が制限されることとなる。

銀行危機とソブリン危機の負の連鎖を断ち切ることを目指す銀行同盟は、欧州にとって通貨ユーロの導入以来の大事業ともいわれる。移行期における混乱や不安を取り除くためには、各国の利害や政治的な対立を乗り越え、ユーロ圏の安定を第一とした柔軟な対応も求められよう。

キーワード:銀行同盟、単一監督制度(SSM)、単一破たん処理制度(SRM)、ベイルイン、 ソブリン危機

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