ディスカッションペーパー

ディスカッションペーパーとは

金融研究センターにおける「ディスカッションペーパー(DP)」とは、当センター所属の研究官等が、研究成果を取りまとめたものです。随時掲載しますので、ご高覧いただき、幅広くコメントを歓迎します。電子メールでのコメントは、frtc_comments★fsa.go.jp宛(注:★を@記号に置き換えて下さい)にお寄せ下さい。

なお、DPの内容はすべて執筆者の個人的見解であり、金融庁あるいは金融研究センターの公式見解を示すものではありません。

令和6年度ディスカッションペーパー

(「ファイル」をクリックして本文を、「題名」をクリックして要旨を閲覧することができます。)

ファイル 題名 執筆者 年月
DP2024-5
(PDF:1,067KB)
企業価値担保権の意義・内容と倒産法上の取扱い 安永 祐司
冨川 諒
2025年1月
DP2024-4
(PDF:2,145KB)
インパクト測定・管理(IMM)の現在地と管理会計
から見た今後の在り方についての一考察
林 寿和
小崎 亜依子
2025年1月
DP2024-3
(PDF:2,354KB)
金融領域における大規模言語モデルの評価の進展とRetrieval-Augmented Generationによる精度向上に向けた取り組み 金 剛洙
村田 健
2025年1月
DP2024-2
(PDF:1,773KB)

DP2024-2 付表1
流入預金行列
(xlsx:1,290KB)

DP2024-2 付表2
預金係数行列
(xlsx:664KB)

DP2024-2 付表3
集中度
(xlsx: 214KB)
コロナ禍の下での地域金融市場:集中度、貸出・預金を通じた地域間資金循環、信用保証付き貸出 植杉 威一郎
平賀 一希
真鍋 雅史
吉野 直行
2024年7月
DP2024-1
(PDF:1,908KB)
米国及び英国の金融機関における全資産担保にもとづく融資にかかる組織態勢に関する考察 川橋 仁美 2024年6月

ディスカッションペーパー要旨

DP2024-5
「企業価値担保権の意義・内容と倒産法上の取扱い」

安永 祐司  金融庁金融研究センター専門研究員
冨川 諒   金融庁金融研究センター専門研究員

令和6年6月7日、「事業性融資の推進等に関する法律」が成立した。この法律は、債務者の総財産を担保目的財産とする企業価値担保権という新しい担保権、および、同担保権を実行するための特別な担保権実行手続を創設したものであり、大きな注目を集めている。本研究は、本法が、まず、どのようなメッセージを市場(とりわけ、金融機関)に発しているかを確認する。その上で、新しい担保権の意義・内容、活用における留意点、および、倒産法上の取扱いについて検討する。

キーワード:事業性融資の推進等に関する法律、事業性融資、企業価値担保権

DP2024-4
「インパクト測定・管理(IMM)の現在地と管理会計から見た今後の在り方についての一考察」

   林 寿和   金融庁金融研究センター特別研究員
   小崎 亜依子 金融庁金融研究センター特別研究員

本稿は、近年注目が高まっているインパクト測定・管理(Impact measurement and management:IMM)について、特にインパクト関連指標の設定と活用に焦点を当て、国内外の実務家へのインタビュー調査に基づき、企業や投資家におけるIMMの実践の現状を記述するものである。具体的には、(1)IMMには「企業主体・個社レベルのIMM」と「投資家主体・ポートフォリオレベルのIMM」という2つの異なるレイヤーが存在すること、(2)企業におけるインパクト関連指標の測定の狙い・効果には、「投資家・ステークホルダーへの訴求とアカウンタビリティ」(投資家・ステークホルダー報告目的)と「事業の管理・企画・改善」(内部利用目的)という、大きく2種類が存在すること、(3)投資家・ステークホルダー報告目的において有益な指標と、内部利用目的において有益な指標は常に共通するわけではないこと、(4)企業におけるIMMのための指標と商業上のパフォーマンス測定・管理(Commercial Performance Measurement and Management:CPMM)のための指標には一部重複が見られること、(5)企業におけるインパクト関連指標は他社比較よりもベースライン値(企業・投資家による何らかの介入がなかった場合のアウトカム水準値)との比較の方が、実務においては志向されていること、を主な発見事項として述べている。さらに本稿では、管理会計研究及びマネジメント・コントロール研究における知見を参照することにより、企業主体・個社レベルのIMMの実践及び研究についての今後の方向性についての考察を行うことを通じて、今後のIMM研究と管理会計研究・マネジメント・コントロール研究との接続の可能性にも触れている。

キーワード:インパクト測定・管理、IMM、インパクト投資、管理会計、マネジメント・コントロール

DP2024-3
「金融領域における大規模言語モデルの評価の進展とRetrieval-Augmented Generationによる
精度向上に向けた取り組み」

   金 剛洙   金融庁金融研究センター特別研究員
   村田 健   金融庁金融研究センター特別研究員

2022年のChatGPT登場以降、生成AI、特に大規模言語モデル(Large Language Model、LLM)への注目が急速に高まっている。金融機関においても、業務効率化や顧客対応の高度化に向けて、これらの技術の活用検討が進んでいる。一方で、LLMは確率的なモデルであり、その出力の正確性が必ずしも担保されるわけではない。学習データ自体に事実誤認や偏見が含まれている場合、誤った情報やバイアスをもとにもっともらしいテキストが生成されてしまう可能性がある。また、モデル内部の推論プロセスが不透明で説明性が乏しい点も懸念材料である。こうした課題は、顧客との信頼関係が重要な金融機関にとって、技術活用にあたって慎重に検討すべき問題といえる。金融規制当局も、生成AI/LLMが金融セクターに与える潜在的な機会とリスクに大きな関心を示している。金融安定理事会(Financial Stability Board、FSB)は、生成AIを含むAIの急速な進展と金融セクターにおけるAIの利用拡大を踏まえ、2017年11月のAI報告書を更新する形で、AIが金融安定に及ぼす潜在的な影響に関する報告書を2024年11月に公表した。同報告書では、生成AIにより文書要約、情報検索、コード生成などの新たなユースケースが登場していることを指摘しつつ、サードパーティへの依存やサイバーセキュリティ、モデルリスク、データ品質、ガバナンスといったシステミック・リスクを増大させる可能性のあるAI関連の潜在的な脆弱性を特定している。
 そこで、本ペーパーは、文献調査と実証分析を通じて、金融領域におけるLLMのユースケースを明らかにし、現状の課題を抽出するとともに、それらの課題に対する技術的解決策や今後の発展の可能性を検討することを目的とする。特に、金融領域におけるLLMの評価手法の最新の研究の状況とRetrieval-Augmented Generation(RAG)の性能、及び性能向上に向けた取り組みに焦点を当てる。金融分野においてLLMを導入する際、特に慎重に検討されるべきはモデルの出力をどのように評価するかという点である。一般的な言語モデルの評価は、主に正確性や生成内容の一貫性、ハルシネーション(誤った情報の生成)の頻度といった性能指標に基づくが、金融領域に特化した評価指標はさらに詳細かつ多面的である必要がある。金融機関のAI担当者及びAIスタートアップを含むAI開発者・研究者ら複数名への有識者インタビューと先行研究の調査より、特に金融領域における意思決定やリスク管理は、より複雑な認知能力が要求され、既存のLLM評価基準では十分にカバーできない領域が多いことが明らかとなった。また、金融領域のLLM活用の事例として注目されているRAGのシステムについて、技術的な概要から、実際に導入する上で工夫するべきポイントの整理を実施した。金融庁のガイドライン文書を対象にした実証実験を行い、RAGシステムの構築の事前準備として既存の文書を整理するという取り組みにおいてもLLMが活用できる可能性が示唆された。

キーワード:大規模言語モデル(LLM)、RAG、説明可能性

DP2024-2
「コロナ禍の下での地域金融市場:集中度、貸出・預金を通じた地域間資金循環、信用保証付き貸出」

   植杉 威一郎 金融庁金融研究センター専門研究員
   平賀 一希  金融庁金融研究センター専門研究員
   真鍋 雅史  金融庁金融研究センター専門研究員

   吉野 直行  金融庁金融研究センター顧問

2020年初頭から始まったコロナ禍は、地域の経済・金融市場に様々な種類の影響をもたらした。本稿では、コロナ禍の下で地域金融市場がどのように変化したかという点を、貸出市場・預金市場における集中度と、貸出・預金を通じた地域間資金循環指標によって明らかにする。これらは、前回の金融庁における研究プロジェクトの成果(植杉・平賀・真鍋・吉野, 2021a, 2021b; Uesugi, Hiraga, Manabe, and Yoshino, 2022)の延長推計でもある。加えて、本稿で作成した指標と他のデータセットとを組み合わせて、金融機関が中小企業向けの信用保証付き貸出をどのように提供しているのか、コロナ禍でどのような変化が見られたのかという点を検証する。得られた結果は以下のとおりである。第1に、貸出市場・預金市場の集中度は、コロナ禍前からの緩やかな上昇傾向が続いた。一方、期間中に地域金融機関が合併したいくつかの県では、集中度の高まりが顕著だった。第2に、貸出・預金を通じた地域間資金循環指標をみると、集められた預金が自地域で貸出に用いられる比率が上昇し、東京を含むそれ以外での貸出に用いられる比率が低下する傾向が続いた。コロナ禍では、企業や家計に給付金、補助金、貸出などの様々な支援措置が提供され、預金残高が大幅に増加した。しかしながら、増加分のうち各都道府県での貸出に回ったのは40兆円程度であり、残る90兆円は貸出ではなくその他運用に積み上がった。第3に、中小企業向けの信用保証付き貸出が金融機関の本店所在地と越境でどのように行われているかをみると、(1)本店所在地では、越境に比して信用保証付きの貸出への依存度が高い、(2)越境での信用保証付き貸出のデフォルト確率は、本店所在地でのそれを上回る、(3)コロナ禍の下では、(1)の傾向が不変である一方で、越境と本店所在地でのデフォルト率は有意に異ならないという変化が生じた。

キーワード:地域金融市場、COVID-19、越境貸出、信用保証

DP2024-1
「米国及び英国の金融機関における全資産担保にもとづく融資にかかる組織態勢に関する考察」

川橋 仁美 金融庁金融研究センター特別研究員

 本調査研究では、わが国における企業価値担保制度導入に際して、金融機関の融資・審査実務に関する検討に資するため、米国及び英国の商業銀行における全資産担保にもとづく融資にかかる組織態勢について、融資担当者等を対象にインタビュー調査を実施した。調査項目は、1)全資産担保にもとづく融資の位置付け、2)全資産担保にもとづく融資における事業・担保評価の実務、3)融資担当者の人事制度、4)融資担当者の役割、5)融資担当者と審査担当者の連携のあり方である。インタビュー調査結果にもとづいて、わが国の金融機関が新制度導入に求められる融資・審査実務を検討する上で参考となる点を整理し、示唆をまとめた。

キーワード:全資産担保、融資担当者、審査担当者、事業キャッシュフロー、キャッシュフローレンディング
 

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