ディスカッションペーパー
ディスカッションペーパーとは
金融研究センターにおける「ディスカッションペーパー(DP)」とは、当センター所属の研究官等が、研究成果を取りまとめたものです。随時掲載しますので、ご高覧いただき、幅広くコメントを歓迎します。電子メールでのコメントは、frtc_comments★fsa.go.jp宛(注:★を@記号に置き換えて下さい)にお寄せ下さい。
なお、DPの内容はすべて執筆者の個人的見解であり、金融庁あるいは金融研究センターの公式見解を示すものではありません。
令和7年度ディスカッションペーパー
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ファイル | 題名 | 執筆者 | 年月 |
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主要国における保険仲立人(ブローカー)に関する 制度の現状 |
小塚 荘一郎 榊 素寛 内藤 和美 |
2025年8月 |
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保険契約者のニーズを踏まえた保険商品開発に係る 規制の在り方 |
中出 哲 星野 明雄 |
2025年8月 |
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監査業界における生成AI利活用に伴う可能性及び監査品質上の課題についての考察 | 野間 幹晴 | 2025年7月 |
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国際動向を踏まえた金融機関における実効性のある TLPT に関する考察 | 北原 幸彦 | 2025年7月 |
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保険代理店にかかる海外制度調査 -大規模乗合代理店を中心として- |
中出 哲 山下 徹哉 𡈽岐 孝宏 鄭 燦玉 |
2025年6月 |
ディスカッションペーパー要旨
DP2025-5
「主要国における保険仲立人(ブローカー)に関する 制度の現状」
小塚 荘一郎 金融庁金融研究センター特別研究員
榊 素寛 金融庁金融研究センター特別研究員
内藤 和美 金融庁金融研究センター特別研究員
日本では伝統的に、保険会社により保険募集の委託を受けた保険代理店が保険商品の販売ルートとなってきた。そのような状況の下で、保険契約者の側に立って保険商品の仲介を行う仲介者が必要であるという考え方から、平成 7 年の保険業法改正において、欧米の保険市場に存在する「保険ブローカー」と同様の制度として、保険商品の新しい仲介者として保険仲立人が創設された。
現在、保険仲立人の創設より 30 年ほどが経過したにもかかわらず、市場におけるシェアは保険料の割合で 0.9%にとどまるなど 、保険仲立人の活用は進んでおらず、その活用促進が課題とされる状況にある。そこで、本調査研究では、保険仲立人が活発に活動する海外市場における規制や理論研究等から、日本の保険仲立人制度に対する示唆を得るべく、保険仲立人に対する規制等に関して、それぞれの市場で保険仲介者が果たしている役割に注意しつつ、保険仲立人制度の改革の先駆けとなった米国、保険ブローカーが高度に発達した市場を有する英国及び日本の保険監督制度に大きな影響を及ぼし、かつ、EU による保険監督の枠組の下にあるドイツの法制度を調査した。
キーワード:保険、保険仲立人、保険業法、保険ブローカー、保険商品流通規制
DP2025-4
「保険契約者のニーズを踏まえた保険商品開発に 係る規制の在り方」
中出 哲 金融庁金融研究センター特別研究員
星野 明雄 金融庁金融研究センター特別研究員
我が国では、少子高齢化、大規模災害の頻発、新技術の急速な進展等の社会環境変化に対応した保険商品の開発を促すため、適切な環境整備が求められている。時代に即した保険商品開発に係る規制の在り方の検討の一助とすべく、イギリス、ドイツおよび米国(ニューヨーク州)の保険商品審査制度と、保険会社等における実務の状況を調査した。これら 3 国を対象とした理由は、保険の先進的な市場のうち、伝統的に商品と料率に関する自由度の高いイギリス、過去には審査が厳格であり、EU 統合に伴い自由化が進んだドイツ、州単位に厳格な審査のある米国それぞれの事情に照らすことで、望ましい審査の在り方について幅広い論点を浮き彫りにできると考えるためである。
イギリスおよびドイツでは、保険約款および保険料率の事前認可を要しない。米国では、州ごとに監督制度が異なるが、基本的に商品および料率を事前届出制としている。本稿では、その中でも審査が厳格といわれるニューヨーク州の制度を検討の対象とする。
ニューヨーク州では、州法に基づく免許制度の下で、商品および料率の審査が行われる。ただし、契約者がリスク管理体制の整った企業である場合等に、審査不要とする複数の制度がある。審査不要制度の対象領域の市場は、企業分野の保険を中心に、拡大していると考えられる。
ドイツおよび米国において、業界団体あるいは専門の事業者の提供する拘束力のない標準的な契約条項が、複数の会社で利用される例がある。また、保険料算定の基礎となるロス・コストのデータが提供されている。
キーワード:保険、保険代理店、保険業法、保険募集制度
DP2025-3
「監査業界における生成AI利活用に伴う可能性及び監査品質上の課題についての考察」
野間 幹晴 金融庁金融研究センター特別研究員
生成AIを含むAIは、技術的な急速な発展を遂げており、社会のさまざまな分野に大きな影響を与えている。監査業界においても、生成AI等の導入や活用、その検討が浸透しつつある。監査業務における生成AI等の利活用は、効率化等により監査品質や監査の担い手不足などに対してポジティブな帰結をもたらすことが期待されている。一方、AIへの過度な依存やブラックボックス化、情報漏洩、ハルシネーションなど、監査人の能力や監査品質などの低減に繋がり得る課題があることも想定される。
監査における生成AI等の利活用に係る可能性や課題については、監査法人、業界団体、監査監督当局、国際機関等において議論されているほか、学術分野においても、監査実務における生成AIの活用可能性、AIが監査法人の人材採用に与えうる影響等に関する先行研究が行われている。例えば、Law and Shen (2025)では、AIが監査人の業務職務を代替するのか、それとも補完するのかという論点について分析が行われ、Fedyk et al. (2022)では、AIが監査品質と効率に対して与える影響について実態調査を行っている。
本研究では、これらの先行研究に加え、生成AI等の利活用の実態、各国の監査監督当局、国際機関の動向等を踏まえたうえで、監査業界における生成AI利活用に伴う可能性及び監査品質上の課題について考察する。
キーワード:生成AI、監査、監査品質
DP2025-2
「国際動向を踏まえた金融機関における実効性のある TLPT に関する考察」
北原 幸彦 金融庁金融研究センター研究官
昨今、金融機関を狙ったサイバー攻撃の脅威が増加しており、また、攻撃手法も日々高度化・巧妙化を続けている。金融機関においては、このような巧妙化し続けるサイバー攻撃に対応すべく、日ごろから自機関におけるサイバー攻撃リスクを把握するとともに、そのようなサイバー攻撃に対して単にシステム面での対策を行うだけでなく、攻撃に対する人の動きや対応プロセスの整備も含めて強化していくことが重要である。
こうした背景の中、現実に起こりうるサイバー攻撃に対して金融機関の対応態勢がどの程度有効に機能するかを検証し、その改善と、更なる高度化に向けた教訓を得るためのアプローチとして、脅威ベースのペネトレーションテスト(Threat-Led Penetration Testing、以下、「TLPT」)の有効性の評価が高まっている。日本国内においては、特に大手金融機関を中心に TLPT の実施が増えてきている一方で、海外では、欧米を中心に先行して TLPT の取組みが進められているとともに、関連した法制度や各種フレームワークの整備などが進んでいる。
本稿では、こうした諸外国の金融機関における TLPT の取組みに関連した動向や、法令・各種フレームワーク等の整備状況をまとめるとともに、そうした諸外国の動向を踏まえ、日本の金融機関が TLPT を実施するにあたって、そのあるべき姿や留意すべきポイントなどについて考察する。
キーワード:サイバー攻撃、サイバーセキュリティ、TLPT、脅威ベースのペネトレーションテスト
DP2025-1
「保険代理店にかかる海外制度調査 -大規模乗合代理店を中心として-」
中出 哲 金融庁金融研究センター特別研究員
山下 徹哉 金融庁金融研究センター特別研究員
𡈽岐 孝宏 金融庁金融研究センター特別研究員
鄭 燦玉 金融庁金融研究センター特別研究員
昨今、保険業界において、大規模な乗合損害保険代理店による保険金不正請求といった不祥事案が相次いでいる。こうした不祥事案への対応策の一つとして、金融庁は令和7年に保険業法改正案を国会へ提出した。今般の不祥事案に限らず、これまで、日本の保険募集制度は不祥事案等の過去の経験を踏まえて進化してきた。こうした流れは海外でも同様であり、それぞれの事情を踏まえて発展してきた諸外国の制度設計には、我が国の保険代理店制度の更なる進化に向けた検討にあたり参考となる点が存在すると考えられる。
本調査では、今般の不祥事案への対応のみならず、中長期的視点に立った検討にも資するべく、大規模乗合代理店を中心に、保険代理店における免許・登録制度や態勢整備規制、行為規制といった保険募集制度等に関し、米国、イギリス、ドイツ及び韓国の保険代理店制度を調査した。各国で共通する部分もあれば、背景に存在する市場の特徴や他の経済制度等による違いがある場合もあるので、外国の制度が日本にも適合するかは慎重に検討する必要はある。しかし、上記4か国の状況を知ることで世界の潮流を知ることができるとともに、我が国の制度の特徴も明らかになり、我が国における保険代理店制度のあり方を検討する上での示唆を得ることができた。そのため、まとめにおいて、本調査の中で特に興味深い点について取り上げた。
キーワード:保険、保険代理店、保険業法、保険募集制度