I  基本的考え方

I -1 金融検査・監督に関する基本的考え方

  • (1)金融検査・監督の目的は、信用を維持し、預金者等の保護を確保するとともに金融の円滑を図るため、銀行の業務の健全かつ適切な運営を期し、もって国民経済の健全な発展に資することにある(銀行法(以下「法」という。)第1条参照)。

  • (2)金融庁としては、発足当初より、明確なルールに基づく透明かつ公正な行政を確立することを基本としている。

    このため、監督をはじめ検査・監視を含む各分野において、行政の効率性・実効性の向上を図り、更なるルールの明確化や行政手続き面での整備等を行うこととしている。

    また、金融機関の経営の透明性を高め、市場規律により経営の自己規正を促し、預金者等の自己責任原則の確立を図るため、金融機関のディスクロージャーの充実を継続的に推進することも重要である。

  • (3)行政の透明性や公正性は、今後も行政運営の基本である。しかしながら、ルールを明確化しようとするばかり過度に詳細なチェックリスト等を策定し、問題の根本原因やこれが広がりをもって他の問題として生じる可能性を踏まえた実質的な検証等を行うことなく、網羅的な検証項目に基づいた事後的かつ一律の検証を機械的に反復・継続するに止まれば、かえって、金融機関において、経営全体や問題の根本原因を踏まえた真に重要な課題の把握、再発防止に向けた根本原因の解決、将来に向けた早め早めの対応や、より良い実務に向けた創意工夫の発揮が進まない等の弊害を惹起しかねない。

    金融庁としては、各金融機関の規模・特性や財務の健全性・コンプライアンス等に係る重大な問題が発生する蓋然性等に応じて、実態把握や対話等によるオン・オフ一体のモニタリングを継続的に行い、必要に応じて監督上の措置を発動すること等により重大な問題の発生を事前に予防し、併せて、対話等を通じ金融機関によるより良い実務に向けた様々な取組みを促していく。

    (参考)「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」(平成30年6月29日)

  • (4)金融機関の検査・監督に携わる職員は、(1)から(3)の基本的考え方を踏まえつつ、業務遂行に当たって、以下の事項を行動規範とし、行政の信認の確保に努めることとする。

    • マル1国民からの負託と職務倫理の保持

      自らの業務が国民から負託された職責に基づくものであって、その遂行に当たっては、Ⅰ-1(1)における金融検査・監督の目的を最優先の課題として行う必要があることを意識するとともに、職務に係る倫理の保持に努め、金融行政に対する国民の信頼を確保することを目指す。

    • マル2綱紀・品位、秘密の保持

      金融行政の遂行に当たり、綱紀・品位及び秘密の保持を徹底し、穏健冷静な態度で臨む。

    • マル3大局的かつ中長期的な視点

      金融サービスを利用する国民や企業の目線に立って、局所的・短期的な問題設定・解決のみに甘んじるのではなく、根本原因を把握し、大局的かつ中長期的な視点から、早め早めに問題解決に取り組む。

    • マル4公正性・公平性

      法令等に基づく適正な手続きに則り、各金融機関の状況を踏まえて、公正・公平に業務を遂行する。また、国内の金融機関等と、日本において営業を行っている外国金融機関の支店又は外国法人の子会社である金融機関等との間で、法令等に基づく合理的な理由なく、異なる取扱いを行わない。

    • マル5金融機関の自主的努力の尊重

      金融検査・監督の目的を達成するためには、金融機関による自主的な取組みと創意工夫が不可欠であることを自覚し、私企業である金融機関の業務の運営についての自主的な努力を尊重するよう配慮する。

    • マル6自己研鑽

      諸外国を含む金融に関する諸規制や金融機関の動向等のほか、金融という経済インフラを取り巻く幅広い社会・経済事象について、基本的知見を養う。また、対話等を行う自らの業務遂行に当たっては、各金融機関固有の実情に係る深い知見はもとより、経営分析、ガバナンス、リスク管理、資産運用等の課題に応じた高い専門性に基づいた分析等が必要であり、これらの能力の習得に向けた自己研鑽に日々努める。

    • マル7適切かつ密接な組織内外の関係者との連携

      実効性の高い検査・監督を実現するためには、自らの所管に限らない広い視野が重要であり、庁内外の様々な主体と適切かつ密接に連携する。

I -2 監督指針を巡るこれまでの経緯

  • (1)通達の見直しと事務ガイドラインの制定

    平成10年6月の金融監督庁の発足を前に、旧大蔵省は、ルールに基づく透明かつ公正な金融行政への転換の一環として、金融関係の通達等の全面的な見直し等を行った上で、行政の統一的な運営を図るための法令解釈、部内手続き及び業務の健全性に関する着眼点等を、行政部内の職員向けの手引書である「事務ガイドライン」として取りまとめ、公表した。

  • (2)主要行等及び中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針の策定

    中小・地域金融機関(注1)については、平成15年3月に公表された「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」を踏まえ、平成16年5月、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」が策定された。

    主要行については、「金融再生プログラム」(平成14年10月)等に基づき、平成17年3月末までに不良債権比率を半減させるという目標に向けた取組みを推進中であったことから、主要行向けの総合的な監督指針は、不良債権問題が終結した段階で、策定することとされた。

    その後、不良債権問題の正常化という目標が達成され、金融行政が不良債権問題への緊急対応から脱却し、将来の望ましい金融システムを目指す未来志向の局面(フェーズ)へと移行していく節目を迎えたことを受けて、平成17年10月、利用者満足度が高く、国際的にも高い評価が得られるような金融システムの実現を目指し、主要行等(注2)を対象とした本監督指針が策定された。

    これらは、中小・地域金融機関及び主要行等の監督を担う金融庁及び財務局の職員向けの手引書として、金融監督の基本的考え方、監督上の評価項目、事務処理上の留意点について、従来の事務ガイドラインの内容も踏まえ、体系的に整理したものである。

    (注1)中小・地域金融機関とは、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫及び信用組合を指すが、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」においては、労働金庫、信用保証協会についても規定している。

    (注2)主要行等とは、いわゆる主要行及びSBI新生銀行、あおぞら銀行、ゆうちょ銀行を指す。

  • (3)検査・監督の見直しを踏まえた監督指針の改訂

    平成20年には、サブプライムローン問題を発端としたアメリカ大手投資銀行の破綻や、これに連鎖したグローバルな金融危機の発生等の混乱が生じたものの、我が国の金融市場は概ね安定的に推移してきた。しかしながら、その後、少子高齢化による国内市場の縮小や世界的な低金利環境の継続、技術革新を通じた新たな競争等により、金融機関の経営環境は厳しさを増し、また、金融機関を巡るリスクの性質と所在の変化が加速している。こうした環境変化の下で、金融機関においては、自らの創意工夫により、持続可能なビジネスモデルを構築し将来にわたる健全性を確保し、また、将来を見据えた適切なコンプライアンス・リスク管理態勢を構築すること等の必要性がこれまで以上に高まっている。

    金融庁においても、環境変化や新たな課題の発生に機動的・予防的に対応していく観点から、財務の健全性やコンプライアンス等に係る重大な問題発生の蓋然性等の将来を見据えた分析に基づく早め早めの対応を行うため、検査・監督のあり方について様々な見直しを行っている。

    平成30年6月に、金融行政の基本的な考え方や検査・監督の進め方、当局の態勢整備について整理し「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」を策定し、ここにおいて、金融機関のチェックリストによる形式的確認を改め、創意工夫を進めやすくする観点から、検査マニュアルは廃止することとしている。

    また、同年7月には、金融機関の継続的なモニタリング等を効果的・効率的に行うための組織再編を行い、これまで立入検査を検査局、各種ヒアリング等を監督局が担当していた組織体制を変更し、オン・オフのモニタリングの一体化を進めている。

    こうした見直しの一環として、令和元年12月に、金融検査マニュアルの廃止と併せて、本監督指針についても、上記の見直しを踏まえた必要な改正等を行っている。具体的には、実態把握や対話等を通じたオン・オフ一体のモニタリングのあり方や監督指針の位置付け等を改めて整理、過度に細かく特定の方法が記載されている等金融機関の創意工夫を妨げる可能性がある規定について修正等を行った。こうした点については、今後も引き続き検討していく。

I -3 主要行等向け監督指針の位置付け

  • (1)監督指針は、主要行等の検査・監督を担う職員向けの手引書として、検査・監督に関する基本的考え方、事務処理上の留意点、監督上の評価項目等を体系的に整理したものである。

  • (2)金融庁は、検査・監督に関する方針として、本監督指針のほかに、分野別の「考え方と進め方」や各種原則(プリンシプル)、年度単位の方針、業界団体等への要請等の様々な文書を示しているが、検査・監督を行うに当たっては、各文書の趣旨・目的を踏まえた用い方をするとともに、金融機関に対し当該趣旨を丁寧に説明することとする。

  • (3)また、事務の便宜上、本監督指針は、①長期信用銀行、②外国銀行支店、③信託兼営銀行、④銀行業への新規参入の取扱い(免許付与、主要株主認可)等についても、一括して整理してある。

    (注)信託兼営銀行における信託勘定に係る業務については、別途「信託会社等に関する総合的な監督指針」によることとなる。

  • (4)金融庁担当課室においては、本監督指針に基づき主要行等の検査・監督事務を実施するものとする。その際、本監督指針が、金融機関の自主的な努力を尊重しつつ、その業務の健全かつ適切な運営を確保することを目的とするものであることにかんがみ、本監督指針の運用に当たっては、各銀行の個別の状況等を十分踏まえ、機械的・画一的な取扱いとならないよう配慮するものとする。

  • (5)金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律及び預金保険法に基づき公的資本増強を受けた銀行等・銀行持株会社に対するフォローアップとの関係

    • マル1金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律(以下「早期健全化法」という。)に基づき公的資本増強を受けた銀行・銀行持株会社に対するフォローアップ事務は、本監督指針とは別に定められている、一連の金融再生委員会の決定や金融庁作成のガイドライン(注)に基づき行われることに留意する。なお、預金保険法第102条第1項第1号に基づき公的資本増強を受けた銀行等・銀行持株会社に対するフォローアップ事務については、これらを準用することとする。

      (注)主要なルールは、以下のとおりである。

      • イ.金融再生委員会決定

        • a.早期健全化法により資本増強を受けた金融機関のフォローアップ(骨子)(平成11年6月29日)

        • b.転換権付優先株の転換権行使について(平成11年6月29日)

        • c.経営健全化計画の見直しについての基本的考え方(平成11年9月30日)

        • d.資本増強行に対するフォローアップに係る行政上の措置について(平成11年9月30日)

      • ロ.金融庁作成ガイドライン

        • a.資本増強行に対するフォローアップに係る行政上の措置についての考え方の明確化について(平成13年6月11日)

        • b.公的資金による資本増強行(主要行)に対するガバナンスの強化について(平成15年4月4日(平成15年8月7日一部改正))

        • c.公的資金による資本増強行(地域銀行等)に対するガバナンスの強化について(平成15年6月30日)

        • d.資本増強行に対するフォローアップに係る行政上の措置についての 考え方の明確化について(その2)(平成16年7月30日)

    • マル2早期健全化法及び預金保険法に基づく公的資本増強行においては、経営健全化計画の策定・公表、経営健全化計画の履行状況報告の公表等が行われるとともに、上記マル1のルールに基づくフォローアップ及び行政処分が行われているので、本監督指針による銀行法等に基づく監督事務においても、可能な限りこれらの成果を活用する等により、効率的・効果的な監督事務の確保に努めることとする(Ⅱ-1(3)参照)。

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