VI  外国銀行支店の監督

VI -1 意義

我が国に支店や出張所等の営業所(以下それらを総称して「支店」という。)を設置する外国銀行については、我が国の銀行法や関連法令諸規則の及ばない外国の本店に直接従属しており、本店の経営・管理方法や業務の種類・内容・所属する事業部門によっては、1つの支店の中に並存する業務部門間や複数の支店を展開する場合の各支店相互間の統括管理関係が十分に機能しないおそれがある。

したがって、外国銀行の支店の業務の健全性と適切性を監督する際には、外国銀行の経営上の特色や支店業務の個別性・多様性に応じて、支店において実際に行われている業務運営の実態とこれに伴うリスクの把握に努め、必要に応じて、外国銀行の本店や母国監督当局等との連絡・協議、あるいは、銀行法等に基づく所要の報告徴求を行うなどの監督対応が重要である。

  • (注) 下記に述べる監督上の主な着眼点は外国銀行支店の特色を踏まえ特に留意すべき点を記述したものであるが、その監督にあたっては、下記の着眼点を含め、支店の業務等に応じて、必要に応じて、本監督指針の他の部分を適宜参照し、これに準じるものとする。

VI -2 主な着眼点

  • (1)本店及び支店経営陣等による支店経営・業務運営の適正な管理

    • マル1本店又は地域統括部署(以下「本店等」という)がグループ全体の経営方針・経営計画等を策定する際に、我が国に支店を設置する意義やそのグループ内での位置づけが明確にされているか。支店の業務戦略・業務計画は、こうしたグループ全体の方針・計画と整合的であり、かつ、持続可能なものとなっているか。

    • マル2支店経営・業務に精通する支店経営陣及び本店派遣行員の選任と適正な配置が行われているか(我が国における支店業務の運営に十分な資質・経験を有する経営陣や業務運営・管理責任者の選任が図られているか。)。

    • マル3支店の適切な運営を確保するために、支店の経営陣及び業務運営・管理責任者に対して本店等による適正かつ適切な権限の委譲・責任分掌体制の明確化が図られているか。また、支店内においても、経営陣が適切な経営管理を行えるよう、権限及び責任が適正かつ適切に配分されているか(適法性及び実効性を具備した組織・職務権限規程等の策定と周知徹底が図られているか。)。

    • マル4支店の業務運営実態やリスクに合致した本店等による支店の監督・管理及び監視体制の整備・維持が図られているか(本店の経営管理・国際業務統括部門等による海外支店の監督・管理及び監視体制の適切性・十分性が確保されているか。)。また、我が国において複数の支店を設置している場合、我が国における代表者は我が国における支店全体の戦略方針や収益目標等の計画を把握した上で、これと整合的な内部管理態勢を整備しているかを検証する観点から、各支店から必要な報告を受ける等、統括的に管理しているか。

    • マル5支店の業務運営・管理上の問題や不祥事件等が発生した場合の本店等及び関連する監督当局等に対する迅速かつ適切な連絡・報告体制が整備されているか。

    • マル6支店の内部管理態勢は、銀行全体での支店の位置づけやその業務戦略・業務計画を踏まえ、実際の業務内容やリスク特性等も勘案して、十分なものとなっているか。

    • マル7本店等は、支店の業務・財務内容の把握にとどまらず、支店の抱えるリスクの特性を十分に理解した上で、支店のリスクの状況を適切に把握し、必要な対応を行うこととなっているか。

    • マル8支店の経営陣は、上記マル1マル7に照らして不十分な点がないかを確認し、必要に応じ、本店等と協議の上で適切に対応しているか。

  • (2)法令等遵守態勢の整備

    • マル1我が国の銀行法、並びに、業務に関連する内外の法令諸規則の遵守の徹底を図るための支店の法令等遵守態勢(実効性を有する組織・管理規程等の整備、人的構成及び体制の構築を含む。)が確立・維持されているか。

    • マル2支店の役職員による銀行法その他の関連法令諸規則の精通度合いを継続的に確認し、必要に応じて研修・教育を適切に実施するための態勢を整備しているか。

    • マル3法令違反の発生や不適切な業務運営の実態等が発覚した場合に、迅速かつ適切に報告・対処することが可能な体制が確立・維持されているか(支店の業務運営責任者や営業部門等の活動に対する独立した内部けん制・監視機能が整備されているか。)。

    • マル4なお、何らかの事情や理由等により、支店の役職員が我が国の法令諸規則に精通していない場合には、これに適切に対応し、所要の指導や監視を徹底するための本店等及び支店による体制の構築や継続的な取組みが図られているか。

  • (3)リスク管理態勢の整備

    • マル1信用リスク、市場リスク、流動性リスク、オペレーショナル・リスク(事務リスク、システムリスクを含む。)といった各種リスクについて、支店の業務運営実態に即した管理体制が整備されているか。また、本店による当該リスク管理に係る適切かつ十分な監督及びモニタリングが実施されているか。

    • マル2業務運営上のリスクの発生を早期に発見し、適切に対処・是正するために設置された支店内部の管理(コントロール)態勢(実効性を有する組織・管理規程等の整備、人的構成及び体制の構築を含む。)が適切かつ十分に整備されているか。

    • マル3リスク管理上の問題等が顕在化した場合に、迅速かつ適切に報告・対処することが可能な体制が確立・維持されているか(支店の業務運営責任者や営業部門等の活動に対する独立した内部けん制・監視機能が整備されているか。)。

    • マル4グループの複数拠点が関与する取引(例えば、与信取引や市場取引等において、与信審査や約定等を行う拠点と、勘定店としてこれを管理する拠点が異なる場合等)について、銀行全体における本店等及び支店の機能・役割は明確となっているか。また、その機能・役割は、グループ全体のリスク管理態勢において合理的かつ妥当なものか。

  • (4)支店業務の検査・監査とフォローアップの実施

    • マル1支店業務の検査(自店検査を含む。)及び内部監査の実効性が確保されているか。特に、本店等又は支店の内部監査部門は、支店の業務内容やリスク特性等を勘案の上で、適切に内部監査を実施する態勢となっているか。また、本店等及び支店の経営陣は、内部監査の結果等を踏まえて適切な措置を講じているか。

    • マル2検査(自店検査を含む。)及び内部監査部署には、銀行法その他業務に関連する法令諸規則に精通した担当者及び責任者を配置しているか。

    • マル3支店の業務運営の実態やリスクに応じた業務監査が実施されているか。また、リスク度合いや必要に応じて、外部の専門家等を活用しているか。

    • マル4支店の検査・監査の指摘事項等に対する改善及びフォローアップが確実に実施されているか(改善及びフォローアップを確実に実施・完了させるための行内の責任分担・分掌は明確化されているか。)。

  • (5)適正な情報管理態勢の構築

    • マル1支店及び本店による支店の情報管理態勢(実効性を有する情報管理規程の整備と役職員への周知徹底、人的構成及び体制の構築を含む。)が適切かつ十分に整備されているか。

    • マル2支店の業務に関連する情報管理上の問題や顧客情報漏えい事故等が発生した場合に、支店及び本店による迅速かつ的確な対応や顧客、関係当事者、監督当局等に対する迅速かつ適切な説明等が確実に実行されるための態勢が整備されているか。

    • マル3情報管理上の問題や顧客情報漏えい事故等が発生した原因を調査・分析し、的確かつ適切な改善計画等を策定し、確実に実施しているか。

    • マル4特に、顧客情報管理については、 III -3-3-3「顧客情報管理」を参考に、支店業務に見合う管理態勢を整備しているか。

  • (6)苦情処理機能の充実・強化

    • マル1支店の業務で発生する苦情等の事例の蓄積と分析を行い、契約時点等における説明態勢の改善を図る取組みを行うこととしているか。

    • マル2反社会的勢力との絶縁など、民事介入暴力に対する適切な対応態勢が整備されているか。特に、送金・資金決済業務、与信関連取引を含め、犯収法に基づく疑わしい取引の届出を的確に行うための法務問題に関する一元的な管理態勢が整備され、機能しているか。

  • (7)支店事務の外部委託

    • マル1支店が業務を営むために必要な事務の一部又は全部を支店以外に委託する場合には、 III -3-3-4「外部委託」を参考に、支店の業務委託の実態及びリスクに応じた管理態勢等が適正に整備されているか。

    • マル2特に、外部委託は、支店の業務を営むために事務(オペレーション)の一部又は全部を当該支店以外に委託することであり、支店の経営管理や支店業務のマネジメント機能(重要な人事政策を含む。)を外部で行わせるものではないことに留意する。

  • (8)業務提供関係会社への業務の委託

    外国銀行の支店がその業務を金融商品取引業等に関する内閣府令第32条第2号に規定する者(以下本項において「業務提供関係会社」という。)に委託する場合には、銀行業務の健全かつ適切な運営の確保の観点から、以下の点に留意する必要がある。

    • マル1委託業務の範囲及び具体的な内容については、銀行の業務に係る事務のうち、その業務の基本に係ることのないものに限定されているか。その上で、基本に係らない業務を委託する場合であっても、当該業務が銀行業の遂行に密接に関連する業務であることにかんがみ、業務委託に伴う情報管理上のリスク及びオペレーティング・リスク、並びに、業務提供関係会社の業務遂行能力及び管理態勢など、委託業務の妥当性及び委託先の適切性が委託に際して十分に検討・検証されているか。

    • マル2当該委託業務に関する業務運営上の最終的な責任や規制上の責任は、当該業務提供関係会社による業務遂行に起因するものであっても、委託者である当該外国銀行の支店にあることに留意する。したがって、当該委託業務に係る支店による監督当局への対応を的確に実施するため、当該委託業務に係る責任者の設置や業務提供関係会社に対する管理態勢の整備・責任分掌の明確化が図られているか。

  • (9)兼職体制が導入された内部管理部門の態勢整備

    外国銀行のグループ証券子会社や有価証券関連業務を行う支店等を我が国に設置している金融グループにおいて、兼職体制を導入している外国銀行の支店の内部管理態勢の適切性・十分性の点検・改善・充実については、別途、 V -3-3-6「銀行とその証券子会社等の関係」を参照のこと。

  • (10)報酬体系

    支店の報酬体系の設計・運用については、一義的には母国当局において、役職員によるリスクテイクへのインセンティブが過度なものとならないよう、グループベースで適切な監督が行われるものである。

    一方、母国当局による監督に適切に協力する等の観点から、支店の報酬体系の設計・運用の状況についても、モニタリングを行うこととする。特に、支店の役職員による過度なリスクテイクを誘発するおそれ等が見られる場合は、リスク管理上の問題についてより深度ある検証を行うとともに、母国当局に対する積極的な問題提起など、必要な対応を行っていくこととする。

  • (11)預金者の保護その他の信用秩序の維持(預金業務を取扱う場合の外国銀行支店の免許時の審査基準及び監督上の留意点等)

    • マル1外国銀行支店における資産の運用に当たっては、海外の拠点への過度な運用の依存が行われる場合には、外国銀行支店が自身の資産の運用内容について把握しにくい、我が国の監督当局において外国銀行支店の資産の運用内容が適切か検証しにくい等の問題点がある。

    • マル2そこで、外国銀行支店においては、特に預金によって集めた資金については、当該外国銀行支店においてその資金の運用方法について十分に把握し、過度にグループ間の他の拠点への運用に依存しないようにする等、預金者の取引の安全の必要性等も踏まえて、銀行業務を的確かつ公正に遂行することができる態勢を整える必要がある。

    • マル3以上を踏まえ、外国銀行支店の免許の審査にあたっては、グループ間の他の拠点への資金運用に過度に依拠することがないか否かを判断する必要があり、その際には、例えば、支店設置後の計画において、国内で受け入れた預金の大部分が海外拠点において運用することとなっていないか等について確認することとする。

      (注) 外国銀行支店において、リテール預金を取扱う場合には、外国銀行支店に対して預金保険が適用されていない現状の下、リテール預金の性質が個人の生活に直接関わる資金であること等のリテール預金の特質も十分に踏まえ、かかる資金については一般により安全な資金運用態勢が求められる点に留意する。

    • マル4また、外国銀行支店が設置された後についても、本支店勘定をはじめとしたグループ内での回金状況、資産の国内での保有状況、取扱う預金の内容及び方法等を確認し、例えば、国内で受け入れた預金の大部分が恒常的に本支店勘定等により海外に持ち出されていないか、グループ間の他の海外拠点への資金運用に過度に依拠していないか等について検証することとする。

    • マル5なお、外国銀行支店が預金業務を行うにあたっては、施行規則第30条の2第1号及び第2号の事項に加えて、

      • イ.当該預金商品が外国銀行の本国における預金保険制度の対象となっているか否か、対象となっている場合にはその制度の内容

      • ロ.外国銀行支店の支払能力の最終的な源泉は外国銀行全体であり、当該外国銀行全体の健全性については当該外国銀行を所管する外国当局が監督していること

      等、預金者にとって参考となる事項について、顧客の知識、経験等に応じた適切な説明を行う態勢が整備されているか検証する。

VI -3 監督手法・対応

  • (1)上記 VI -2の各項目について、当該支店の業務等の特性も踏まえつつ、必要に応じ、定期的かつ継続的にヒアリングを行うこととする。また、外国銀行の母国本店等と直接的に対話を行う機会をとらえ、グループ全体及び支店における課題等に関する認識の共有に努める。あわせて、必要に応じ、本店等又は支店の内部監査部門が実施した当該支店に対する内部監査の結果についてヒアリングを行う。

    また、業務運営の国際化やグループ全体での業務内容の多様化の進展に伴い、海外監督当局との連携強化の必要性が増すとともに、規制・基準の収斂の動きが加速している状況を踏まえ、母国監督当局との協力の枠組みを積極的に活用しつつ、母国監督当局や関係する海外監督当局との連携及び情報交換等を行うこととする。

    その上でこれらを通じて把握したグループ全体の課題等を踏まえ、それら課題等が支店経営・業務運営に及ぼす影響及び当該影響への対応状況について深度あるヒアリングを行うこととする。

  • (2)上記(1)のオフサイト・モニタリング、検査結果及び不祥事件等届出書等により、外国銀行の支店の業務運営や内部管理態勢等に問題があると認められる場合には、必要に応じ、法第24条第1項に基づき外国銀行の支店に報告を求めるとともに、法第48条に基づき、外国銀行支店の母国本店にも報告を求め、重大な問題があると認められる場合には、法第26条に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。

  • (3)また、 II -5-3「意見交換制度」等を通じて外国銀行の母国本店との直接のコミュニケーションや問題認識の共有等を図るとともに、必要に応じ、母国監督当局等との協議を行う。

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