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五味金融庁長官記者会見の概要

(平成17年3月7日(月)17時02分~17時28分 場所:金融庁会見室)

【質疑応答】

問)

先週、コクドの堤前会長が証券取引法違反の疑いで逮捕されました。去年この関係で事実関係が公表されて以来、同じような企業の不適切な情報開示が相次いで明らかになりました。今回の堤前会長の逮捕についての受け止め方と企業のディスクロージャーに今後何を求めていくのか、改めてお聞かせください。

答)

現在捜査中の特定事案について所感を述べるということは控えた方がよいと思います。

一般論で申し上げますが、市場の公正が確保されるということは、投資家に自己責任を求めるという上では、大変重要なことでございます。従って、投資家保護という観点からは、一般論でございますけれども、悪質な法令違反に該当する行為があるならば、司法当局或いは証券取引等監視委員会において厳正に対処することは、非常に重要であると考えています。

企業に対して求めていくことというお尋ねがございましたけれども、資本市場というのは、企業の皆さんにとっても、自らの資金調達の場として大変重要な機能を果たしているものであるわけです。従って不適切なディスクロージャーを行って自らの大切な資金調達の場である市場の信頼に傷を付けてしまうのは、決して正しい選択であろうはずはないと私は思っております。金融庁といたしましては、そういったこともございますので、昨年末以降、ディスクロージャー制度の信頼性確保に向けた対応という考え方を発表させていただいて、そこに盛り込まれた対応策を強力に推進をいたしておりますし、引き続いてこうした対策を進めることで証券市場に対する信頼性の確保ということに努めていきたいと考えています。

問)

こうした企業の不適切な情報開示に関連しまして、金融庁では継続開示義務違反に対する課徴金の導入を検討していたと思いますが、今国会では提出の見通しが立たない状況だと伺っています。

また、代理店制度を導入する銀行法の改正案についても今月中旬の国会提出が厳しいという状況という話も聞いております。

改めて金融庁がこの通常国会に提出する法案の内容と検討状況、そして提出の時期の見通しなどについて、簡単に整理してお聞かせください。

答)

最初にお話がございました継続開示義務違反に対する課徴金制度、この件に関しましては従来から御説明していますが、課徴金制度を現在の証券取引法の体系の下で継続開示義務違反に対して導入するためには、継続開示義務違反によって会社に生ずる経済的利得、これを定量化する必要がございます。しかしながらこの点については、継続開示義務違反による利得というのは抽象的・間接的であって、利得があるとは言えないのではないかなどの指摘があるというのが現状でございます。金融庁といたしましては、継続開示義務違反に対する課徴金導入の検討自体を断念するわけではございませんけれども、このように経済的利得を巡って政府部内で調整が出来ていないという状況の下で今国会に提出する予定の証券取引法改正案に盛り込んでいくということは困難であると考えておりまして、現在、最終的な取扱いについて、与党と御相談を進めているところでございます。

それからもう一つの銀行代理店制度に関連したお話でございますが、この点は規制改革の一環として今通常国会への法案提出に向けた準備を進めております。ただ、3月2日の自由民主党の財務金融部会・金融調査会合同会議において、その取扱いについては、当面、財務金融部会長と金融調査会長が預かるということとなったわけでございます。金融庁といたしましては、こうした状況でございますので、与党における御議論なども踏まえながら、引続き法案提出に向けた準備を進めていきたいと考えております。

法案の概要といたしましては、銀行法については今申し上げました状況でございますのと、証券取引法の改正につきましては、主な内容としては立会外取引の一部についてこれをTOBの規制の対象とするということ、外国企業の英文開示が可能とするような改正、更には上場会社の親会社の状況を開示するといった規定、こういったものを盛り込む予定にしております。

なお保険業法の改正については、セーフティネット関連の改正と無認可共済について、これを保険業法の中で必要な規制がかけられるようにする、そういった改正を予定しております。

問)

立会外取引のTOB規制について、そこそこ機関投資家を中心に利用されているわけであるのですが、どういった点に金融庁としては留意しながらマーケットの公正性を保ち、しかも自由なトレーディング環境というのを確保していきたいと思いますか。

答)

立会外取引規制に関しましては、金融審議会の第一部会で3月3日でございますが、私共の方から御説明を申し上げました。それは立会外取引の内、相対取引に類似した取引について公開買付規制の適用対象とするという、こうした改正を盛り込むことを検討しているという御報告をしたところであります。審議会のメンバーの皆様からは、この点について特段の御異論と言いますか、それはなかったというふうに聞いております。

この立会外取引というのは大変重要な役割を果たしております。当初から機関投資家の株式のポートフォリオの入れ替えですとか、或いは自社株の取得ですとか、色々な形で利用する際に株価の大きな変動を避けられて、かつ取引所のルールの下で行われる取引ということで導入されたわけです。ですから、こうした機能というものは生かしておく必要があると。ただ立会外取引というやり方は取引所の市場外の相対取引と非常に類似した形態をとることも可能だということでございますので、この点に着目をして、会社支配権の獲得を目的とした買付けであれば、その場合には特に株主に公平に株券を売却する機会を与えるという公開買付制度の趣旨にもとることになってしまいます。つまり市場外取引と同等のことを立会外取引という市場の中の取引で行って良いということになるわけです。こうしたことを放置すれば公開買付制度というものを設けた趣旨が形骸化していくという惧れがあるということから、こういった相対取引と類似した取引によって株券等所有割合の3分の1を超えて株券を取得する場合は、公開買付規制の対象としようということでございます。立会外取引を全て例外なく公開買付制度の対象とするという改正を考えているわけではございません。その内、相対取引と類似した取引というもので、保有割合の3分の1を超えて取得をしようとするケース、こういったケースに限定をして公開買付規制の対象としようというふうに考えておりまして、これで投資家の保護と言いますか、株主に平等なチャンスが与えられるという市場の要請と、それから立会外取引というものが持っているマーケットにおける大切な機能と、その両方のバランスが取れるのではないかと考えています。

問)

立会外の限定したTOB規制ということで証券取引法を改正すると思うのですが、素朴な疑問で、これが企業買収を、支配を目的とした3分の1超を目指しているということを区別したり、相対に類似したものを区別したりというのがその時点で区別できるという根拠があって、それでもって今回の規制になっているのか。それとも事後チェックでもって、例えば違反した場合なのですけれども、そういうのを検証していくということになるのか。区別がきちんとできるものなのかどうかという点について、金融庁としてきちんと精査して改正をするということになるのでしょうか。

答)

具体的な改正の考え方としましては、いわゆる取引所有価証券市場内の有価証券売買というものは、今は公開買付規制の適用対象にならないと、全てならないというふうになっているわけです。この点について、そういった公開買付規制の適用対象とならない市場内取引の中から、立会外取引の内、相対取引に類似する取引を行うことができるもの、こういう形態の立会外取引というものを抜き出しまして、このような取引については、競売買の方法以外の方法による売買等として内閣総理大臣が定めるものといったような位置付けにして、下位の命令でそれを具体的に指定をしていくということで、この部分は相対取引に類似する取引を行うことができるという、これは客観基準と言って良いと思います。心の中で何を考えていたかという話とは別でございます。

それからもう一つは、そのようにして内閣総理大臣が定めまして立会外取引でも公開買付規制の適用対象になるというような類型の取引、そういった類型の取引の内から買付後の株券等所有割合が3分の1を超えない範囲、この範囲まではそういった類型に該当するものであっても公開買付規制の適用対象からは除外をするということです。これは数値基準です。従って3分の1、これを超えなければ立会外取引で、しかも指定を受けているTOBの対象になるとして受けている取引であってもTOB規制の対象からは外れるという、こういったような改正内容を今考えています。

御質問に直接答えたかどうかは分かりませんが、規定の中に外形的、客観的な基準というものを作りまして、実際に株式の取得をしようとする方が、TOB規制に掛るか、掛らないかがよく分からないというようなことがないように工夫はいたします。もちろんその上で、違反行為が別途であるにも関わらず、その公開買付規制に沿った手続きを取らずに取引をしたというようなことがあれば、これは当然のことですが事後チェックの中で厳正に対応をしていくということになります。

問)

今回のライブドアとフジテレビの一件は、日本の資本市場のあり方にとって色々な課題を投げかけているとよく言われますが、金融庁だけだと、証券取引法だけで、商法なり会社法なり色々またがってくると思うのですが、今後各省庁との連携のあり方について、とりあえず応急措置はするのですが、今後の日本の資本市場はどうあるべきかということについて、どういう連携を取っていくべきかについてお聞かせください。

答)

日本の資本市場はどうあるべきかと言えば、資本市場における資産の運用と資金の調達というのが効率的にかつ公正に行われるという形を作るということが非常に重要だろうと思います。今の御質問にありましたように、市場における公正性の確保、或いは、市場を効率的に運用するための様々な制度の企画というのは、金融庁の権限で認められているものでございますが、例えば、会社法の言わば一般則で会社というものがどうあるべきかといったような事柄に関しては、金融庁にはその制度企画の権限がございませんし、また、権限行使によって、その違反行為を摘発していくという具体的な権限もないわけでございます。これは、独占禁止法しかり、或いは税法しかりでございます。

但し、捜査当局に私共の権限行使の過程で、把握された事態について通報しておく必要があるというようなことがございますれば、それは、これまでもそのように通報しておりますし、また、商法、民法といったような、言わば、根本法、基本法のあり方ということを法制審議会等で御検討になる際には、私共も意見を言う機会を与えていただいて、実際の資本市場や金融取引を所管する立場から、必要なことはお伝えもし、議論もさせていただいております。

資本市場なり金融取引全般というのは、確かに金融庁が委ねられている金融行政の権限だけで全てが成り立っているわけではなくて、当然一般則があり、公正取引についての規制があり、或いは税法上どういう扱いになるかということによって、投資判断も変わってくるといった場面もあります。そのほかにも色々とございましょう。

従って、資本取引や金融取引が益々高度化していく、或いは、技術革新でそこに情報技術といったものが入ってくる、こういうような場面では、関係する行政当局の連携というのもこれまで以上に強めていく必要がある、そのことがひいては資本市場や金融市場というものが、国民生活の発展に正しくその効用を発揮するために必要であると考えています。

問)

偽造カードについてお伺いしたいのですが、生体認証の仕組みがメガバンクの中でほぼ二分される見通しになっています。利用者の立場からすると、非常に不便であるということになります。例えば、ビデオデッキのVHSとベータが市場の中で自然に淘汰されて、VHSが主流になったように、見守っていくというのが適切なのか、ある程度当局と業界がいい意味での調整をして、ある程度どちらかに動かしていくのが望ましいのか、そもそも可能なのか、全体的な認識をお聞かせください。

答)

基本論で申し上げますと、それぞれの金融機関が今の問題について、どんな技術或いは、どのような方策を取る事によって必要な対策を講じるかという点は、一義的には、それぞれの金融機関が、顧客のニーズをよく見た上で判断をして、そして自らの経営責任でこれをどうするかを決めていく、そういう話であろうと思います。

今の生体認証方式の標準化というのは、これからそういった問題提起、現にあなたはその問題提起をなさったわけですが、そういった標準化という問題提起がこれからなされてくる可能性、これは金融機関側からもそういう話が出て来ることはございましょうし、或いは生体認証を作っていくメーカー側からもそうした要求が出てくる可能性がございます。そうした問題提起がなされた場合というのは、確かに、これは技術の状況とか、利用者のニーズとかをよく考えてそのバランス上これは大事な検討課題となることはあり得ると思います。私もそう思います。ただ、金融庁の立場から、その標準化を指導するというのは、やはり行き過ぎではないか、金融機関の判断がまず第一義に来るということであろうと思います。

ただし、金融庁は、少なくともその実態というのは把握しておく必要があるし、それを見守りながら、必要な話合いの場を設けるとか、或いは他に工夫の余地が無いのかどうかについて業界と色々お話をしていく、或いは御要請をするということは、利用者の利便という観点からは、私共の仕事の一つであろうと思います。そこで、強権を発動するつもりはございませんが、言わば第三者的立場であり、利用者の代理人として、何をするべきかという視点からは、やるべきことはあるかもしれません。色々な工夫があり得ると思います。例えば、これは生体認証の例ではございませんが、ICカードというものを取り入れていますけれども、このICカードは、実際にそれが利用できるATMは全てではないわけです。そうした時に、ICカードが使えないATMでは、そのカードは一切使えないということになってしまうのか、何か工夫の余地は無いのかという議論はする余地があって、こういう話というのは行政側からどうなんでしょうねという問題提起をしたって構わないと思うのです。現実にこの点については、業界の方でどのような工夫が進んでいるかと言うと、ICカードを導入する時にICカードの上に磁気テープも残していく。残して置くけれども、磁気ストライプでは、取引限度額が非常に低く設定できるようにしておくということで、磁気ストライプの方が安全性が低いということだけれども、安全性の低さに応じて、万一被害にあった時も被害額を極小化できるような工夫をする。だけどICチップは付いていますから、ICカードが利用可能なATMに行けば、必要なだけのお金を取引することができるというような、顧客の利便性とセキュリティーというものをこういう形で両立させるというような運用が行われているような例もあります。

この生体認証の場合に、それがどうかというのは私まだイメージが沸きませんが、各企業が判断なさっていく過程で顧客利便というのは、自ずと無視できないわけですから、そういったような工夫も含めて、標準化ということが現実の問題ということになってくるのであれば、していっていただけるものだと思うし、私共も関心をもって見守りたいと思います。

(以上)

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