広報コーナー 第21号
     
 
財務局長会議開催〈平成14年4月17日(水)〉
 
<特別検査等について>

(はじめに)
 去る4月12日、政府の「早急に取り組むべきデフレ対応策」(2月27日発表)を踏まえて、金融庁において、主要行に対する特別検査の結果及び主要行による平成14年3月期の財務内容の概要を公表するとともに、併せて、「より強固な金融システムの構築に向けた施策」及び「金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編」(案)を公表しました。

(特別検査の結果について)

<特別検査とは>

 特別検査は、昨年10月の「改革先行プログラム」を踏まえて、本年3月期決算において企業業績や市場のシグナルをタイムリーに反映した適正な債務者区分及び償却・引当を確保するため、市場の評価に著しい変化が生じている等の債務者に着目して、昨年10月末から主要行に対して実施したものです。

<特別検査の対象>
 検証の対象となった債務者は、上記主要13行(※)がメイン行となっている債務者のうち、株価や外部格付など市場の評価に著しい変化が生じている等、債務者区分が下位に変更される可能性が高い大口債務者です。なお、対象を主要行としたのは、大口債務者のメイン行のほとんどが主要行であるためです。
(第一勧業、富士、東京三菱、あさひ、UFJ、三井住友、大和、三菱信託、安田信託、UFJ信託、住友信託、中央三井信託、日本興業)

<特別検査の結果>
 上記方針のもと、検証を行うことが適当と考えられる一定の客観的条件に該当する債務者は、149社、与信額は12.9兆円ありました。
 このうち、約半数の71社(7.5兆円)が、昨年9月期と比べて債務者区分が下位に移り、そのうち34社(3.7兆円)は破綻懸念先以下になりました。これらによる不良債権処分損は1.9兆円となっています。
 
 
<特別検査の結果を踏まえた各行の対応>

 特別検査の結果、債務者区分が破綻懸念先とされた債務者は、昨年10月の「改革先行プログラム」において、(a)私的整理ガイドライン等による徹底的な再建計画策定、(b)民事再生法等の法的手続きによる会社再建、(c)RCC(整理回収機構)などへの債権売却等、のいずれかの措置を講ずることが求められており、これに沿った対応が行われます。既に、債務者との間で金融支援策が盛り込まれた経営改善計画について合意するなどの対応がなされています。

(主要行の14年3月期の財務内容の概要について)
 次に、特別検査の結果公表に合わせて主要行が公表した14年3月期の主な財務内容の概要をみますと、特別検査等を踏まえた結果、不良債権処分損は約7.8兆円と、昨年11月時点の業績予想約6.4兆円と比べると、約1.4兆円の増加(21%増)となっています。これは、特別検査による債務者区分の下位変更のほかに、特別検査を踏まえた自己査定の厳格化(特別検査対象債務者の準メイン行等)、特別検査対象外の債務者の業況悪化などの要因によるものと考えられます。また、自己資本比率は、国際基準行については 8%、国際基準行については4%を大きく上回る水準となる見通しです。
 なお、特別検査の結果による不良債権処分損が1.9兆円であるのに、財務内容の公表概要での同処分損は、昨年11月時点の見込みに比べて1.4兆円の増加にとどまっています。これは、下の図にも示した通り、各行が、特別検査の実施を踏まえ、既に昨年11月時点で自主的にその影響を織り込んでいたためです。

  不良債権処分損の見込額の推移


(「より強固な金融システムの構築に向けた方策」について)
 さらに、「より強固な金融システムの構築に向けた方策」については、ペイオフ解禁がされたこともあり、総理の指示を踏まえ、金融システムの安定を確保するため、不良債権処理等を更に促進するよう、切れ目なく施策を講じる観点から、金融庁としてとりまとめたものです。
 この新たな「施策」は、次の3つの項目からなっています。

<(a)不良債権処理の促進>

 第一に、不良債権の処理促進のため、昨年4月の緊急経済対策などを踏まえ、現在、主要行の新規に発生した破綻懸念先以下の債権について、3年以内にオフバランス化につながる措置を講ずるとの期限を設定しています。この枠組みの中で、オフバランス化を一層加速するため、主要行に対し、その破綻懸念先以下の債権のオフバランス化について、原則1年以内に5割、2年以内にその大宗(8割目途)との具体的な処理目標を設定するよう、要請することとしました。これについては、既に要請しているところです。
 また、この具体的処理目標を確実に実現するため、RCCの債権買取りや信託などの機能を積極的に活用するよう要請しているところです。これらにより不良債権が銀行からRCCの管理下に移されることとなり、昨年11月に設置されたRCCの企業再生本部などの機能も活用しつつ、一層円滑な不良債権処理、企業再生が進められることが期待されます。

<(b)主要銀行グループ通年・専担検査の導入>

 第二に、持株会社方式による経営統合など主要行を中心とする金融機関のグループ化の流れを踏まえ、現行の主要行検査部門を主要銀行グループ別に再編し、各部門が1年を通じて同一グループ内の金融機関を継続的かつ専担的に検査することにより、実質常駐検査体制を導入します(平成14年検査事務年度が始まる14年 7月より導入予定です)。
 さらに、内部監査体制や市場関連リスク、システムリスクといった専門性の高い分野については、民間出身の専門家を登用した専門班を別途編成し、各グループを横断的に検査することとします。
 こうした検査体制の再編・強化により、主要銀行グループを一体的に捉えた専門性の高い検査を継続的かつ専担的に実施することが可能となり、検査の実効性・効率性を高めることができると考えています。

<(c)金融機関の合併促進>

 第三に、金融機関の経営基盤の一層の強化と中小企業金融の円滑化を図るため、主として地域金融機関を念頭において、合併促進を中心とした施策を早急に検討することとしました。
 これは、金融機関の合併等が、収益性の改善や財務・経営基盤の充実を通じて金融システムの一層の強化に資すると期待されるほか、中小企業金融の円滑化にもつながり得ると考えられることから、今後なお合併等によるメリットを追求できる余地が大きいと考えられる、主として地域金融機関を念頭において検討することとしたものです。
 具体的な施策については、地域金融機関のニーズを聴取しつつ、必要に応じ関係省庁とも協議しながら、幅広い観点から検討していきます。

(別紙)経営実態に応じた検査の運用確保等

 これら3つの施策に併せて、中小・零細企業等の経営実態の把握の向上による適切な検査の運用確保のため、「金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編」(案)を作成し、パブリックコメントに付しました。
 この「別冊」は、金融検査マニュアルにおける中小・零細企業等の債務者区分の判断に関する記述の解説である「検証のポイント」及びこれら検証ポイントの具体的な適用事例としての「検証のポイントに関する運用例」からなっています。
 また、検査の効率性向上の観点から、資産内容に特に問題がなく、前回検査の結果が良好な金融機関に対しては、与信額が一定額以下の債務者について、原則として自己査定に委ねることとしました。こうした取扱いは、現行の金融検査においても、既に主任検査官の判断により行われているものであり、今回の措置はそうした取扱いの明確化をしたものです。
 なお、一定金額以下の債務者とは、債務者の規模に関わりなく、与信額2千万円、又は資本の部合計(会員勘定計)の1%のいずれか小さい額未満の者とすることを考えています。

(結び)
 今回の特別検査の結果や14年3月期の主要行の財務内容の概要に示されているように、不良債権処理の具体的進捗が図られたところですが、金融庁としては、引き続き、より強固な金融システムの構築に向けて、全力を尽くしてまいります。
 
「早急に取り組むべきデフレ対応策」(金融庁関連部分)について(2月27日)
主要行に対する特別検査の結果について(4月12日)
主要13行による平成14年3月期の財務内容の公表概要(4月12日)
より強固な金融システムの構築に向けた施策(4月12日)
金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編等の作成、整備について(4月12日)
柳澤金融担当大臣会見の模様(4月12日)
金融早分かりQ&A(特別検査について)

 
<財務局長会議>

 4月17日、金融庁は本事務年度第4回目の財務局長会議を開催した。会議においては、柳澤金融担当大臣、村田金融担当副大臣からのご挨拶のほか、長官からペイオフ解禁に向けての各財務(支)局等のこれまでの尽力に謝意を述べるとともに、引き続き地域金融機関の安定のため適切な監督等を行っていただきたい旨の挨拶があった。また、各財務(支)局長等からデフレ対応策における貸し渋り対策のフォロー、地域銀行における要注意先債権等の健全債権化に向けた取組みについて報告があったほか、当庁各局及び証券取引等監視委員会から、「より強固な金融システムの構築に向けた施策」の概要、主要行に対する特別検査の結果、金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編(案)の作成・整備、不良債権処理の促進(RCCの機能の積極的な活用)、証券取引等監視委員会における民間専門家の採用状況等についての説明及び意見交換が行われた。

柳澤金融担当大臣挨拶

 財務局長会議の開催に当たり、私から、現下の金融行政について一言申し上げます。
 まず、金融機関を取り巻く最近の金融・経済情勢をみますと、厳しい雇用情勢など景気は依然厳しい状況にありますが、一部に底入れに向けた動きがみられ、また株式市場も2月以降若干回復するなど、変化の兆しも現れつつあります。
 金融行政については、まず、去る4月1日からペイオフが解禁となりました。ペイオフ解禁は、構造改革のための重要な政策として行われるものであり、預金者、金融機関、そして金融行政にとって新たな時代への出発点になります。
 ペイオフ解禁に伴い、預金者は自己責任に基づき金融機関を選択する一方、金融機関はそうした預金者の信頼を得られるよう、緊張感をもって一層の健全性・収益力の確保と金融の円滑化に取り組む必要があります。その意味で、今回のみずほ銀行のシステム障害は誠に遺憾であり、徹底した原因究明、再発防止策の策定、責任の明確化が必要であると考えております。
 ペイオフの時代にあって、金融庁としても、引き続き、金融機関に対し、的確な検査を実施するとともに、適切な監督等を行うことを通じ、日本銀行とも緊密に連携しつつ、金融システムの安定の確保に万全を期して参りたいと考えております。
 次に、最近の具体的施策としては、2月27日に発表された政府の「早急に取り組むべきデフレ対応策」の一環として、不良債権処理の促進、金融システムの安定、市場対策、貸し渋り対策等に全力を尽くしてきているところであります。
 先週金曜日には、主要行に対する特別検査の結果及び主要行による14年3月期の財務内容の概要を公表しました。特別検査により、市場の評価に著しい変化が生じている等の債務者について、適正な債務者区分及び償却・引当が確保されること等を通じて、不良債権処理の具体的進捗が図られたと考えております。
 さらに、金融システムの安定のため、不良債権処理等を更に促進するよう、切れ目なく施策を講じる観点から、特別検査の結果等の公表に合わせて「より強固な金融システムの構築に向けた施策」を発表したところであります。今後、この新たな施策に沿って、不良債権処理の促進、主要銀行グループ通年・専担検査の導入、金融機関の合併促進に取り組んでまいります。
 併せて、中小・零細企業等の経営実態に応じた検査の運用確保のため、「金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編」(案)を公表するとともに、検査の効率性の観点から、資産内容に特に問題がなく、前回の検査の結果が良好な金融機関に対しては、与信額が一定額以下の債務者について、原則として自己査定に委ねることといたしました。
 財務局長の皆様方におかれましては、地域金融機関の安定を図るという重要な責務を肝に銘じ、引き続き金融庁と緊密に連携しつつ、検査・監督・監視事務の円滑な遂行に最善を尽くしていただきたいと思います。
 最後になりますが、財務局職員の方々のご健闘とご健康を祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。
 

村田金融担当副大臣挨拶

 財務局長会議の開催に当たり、私から、一言申し上げます。
 金融行政全般につきましては、既に柳澤大臣が触れられておりますので、私からは、最近の金融行政のうち、証券市場関係について申し上げます。
 金融庁においては、昨年8月の「証券市場の構造改革プログラム」等を踏まえ、投資家の証券市場への信頼向上のためのインフラ整備等に積極的に取り組んでいるところです。
 その一環として、昨年12月下旬以降、一部証券会社の空売り規制違反等を契機として、インフラ整備をさらに徹底する観点から、空売り等への総合的取組みを行っているところであります。
 まず、空売り規制の見直しを行い、信用取引に対して「明示・確認義務」を課すとともに、空売りの価格規制について、従来の「直近公表価格未満」に代えて、原則「直近公表価格以下」での売付けを禁止することとしました。
 加えて、信用・貸借取引に係る制度の見直しを行い、証券取引所等により、制度貸借における「市場への注意喚起」の機動的発動等の措置が講じられたるとともに、最低入札料率の導入等株券調達コストの見直しが図られたところであります。さらに、監視委員会による空売り規制違反に対する監視の一層の強化等を行うなど、当局による規制・監督・監視及び証券取引所等の自主規制機関において、かなり広範にわたり対応を行ったところであります。
 次に、証券市場の構造改革のためには、個人投資家にとって魅力ある投資信託の実現を推進することが重要であります。
 このため、今般、投資信託目論見書の記載内容の改善を図ったほか、特定業種の株価指数に連動するタイプ等ETFの範囲を拡大しました。加えて、この4月からは、銀行等の金融機関においてもETFの取扱いが可能となりました。
 さらに、投資家教育の推進が必要であります。すなわち、4月1日にペイオフが解禁されたこともあり、投資家が自らの判断と責任で主体的に金融商品を選択して、そのメリットを享受できるよう、金融商品についての仕組み、リターンとリスクの関係、取引ルール等に対する知識・理解が深められることが重要であります。
 こうした観点から、個人投資家に対する十分な情報提供を行うため、金融庁としても、パンフレットの配布やホームページを通じた情報提供、個人投資家との意見交換会の開催等の活動を行っているところであり、今後とも、国民への金融・証券に関する情報提供等に積極的に努めてまいります。
 財務局においても、各般の機会を捉えて、こうした取り組みを積極的に行っていただくようお願いします。
 最後になりましたが、財務局職員の皆様のご健勝をお祈りして、私の挨拶とさせていただきます。
 

〈財務局長会議で挨拶する村田副大臣〉

  
<金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律について>


.経緯等
 昨年9月の米国同時多発テロ事件の発生以降、国際社会においてテロ資金対策が重要な課題となり、我が国も、昨年10月30日に「テロリズムに対する資金供与の防止に関する国際条約」(以下「テロ資金供与防止条約」という。)の署名を行い、同条約の早期締結を目指すこととなった。
 同条約においては、(a)テロ資金提供・収集行為の犯罪化、(b)テロ資金の没収及び没収のための凍結、(c)テロ資金に関する金融機関等の疑わしい取引の報告義務、(d)金融機関等の顧客等の身元確認義務、(e)金融機関等の取引記録の保存義務等について所要の措置を講ずることとされており、金融庁としては、(d)・(e)に関して所要の法整備を行うこととなった(注1)。そして、関係各方面の意見を踏まえ検討を行い、3月12日に「金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律案」を国会に提出した。同法案は、4月11日に衆議院で可決され、同月22日に参議院で可決され、成立した(同月26日公布)。
 
(注1 )(a)〜(c)に関しては、法務省が提出した「公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律案」、また、(d)・(e)に関しては、本法律のほか、財務省・経済産業省が提出した「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律」により、所要の措置が講じられている。


.法律の目的

 本法律の目的は、金融機関等による顧客等の本人確認及び取引記録の保存に関する措置を定めることにより、(a)テロ資金供与防止条約の的確な実施を確保することに加え、(b)テロ資金やマネー・ローンダリングに関する疑わしい取引の届出(注2)の実効性を確保し、かつ、(c)捜査機関による効率的な資金トレースを可能にすること等によりテロ資金の提供(注3)やマネー・ローンダリングが金融機関等を通じて行われることを防止するための金融機関等の顧客管理体制の整備の促進を図ることである。
 
(注2 )組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第54条及び第55条に規定する疑わしい取引の届出をいう。
(注3 )公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律第1条に規定する公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供をいう。


.法律の概要

 本法律の概要は、以下のとおりである。なお、この法律は多様な金融機関等の行う取引等を対象としており、制度の柔軟性・実効性を確保するため、具体的な定めの相当部分を政省令に委任している。政省令事項の概要(5月15日現在。関係各方面の意見を聴取しつつなお検討中であり、今後の変更があり得る)は、4.を参照。
 
(1 )対象金融機関等
 本法律の目的に照らし、現行の疑わしい取引の届出義務が課されている金融機関等(注4)を中心として、広く本人確認等を義務づけることとした。対象となる金融機関等は、以下のとおりである。
 
(対 象金融機関等)銀行、信用金庫、信用金庫連合会、労働金庫、労働金庫連合会、信用協同組合、信用協同組合連合会、農業協同組合、農業協同組合連合会、漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、農林中央金庫、商工組合中央金庫、保険会社、外国保険会社等、証券会社、外国証券会社、証券金融会社、投資信託委託業者、共済水産業協同組合連合会、信託会社、無尽会社、抵当証券業者、商品投資販売業者、小口債権販売業者(含む特定債権等譲受業者)、不動産特定共同事業者、貸金業者、短資業者、住宅金融会社、商品取引員、金融先物取引業者、保管振替機関、保管振替機関に関する参加者、振替機関、両替業者等
 
(注4 )これらの金融機関等の範囲は、マネー・ローンダリング防止に関する国際的なフォーラムであるFATF(Financial ActionTask Force:金融活動作業部会)の「40の勧告」に掲げられている金融機関等と一致する。

(2

)本人確認義務、本人確認記録の作成義務等
 金融機関等に顧客管理体制の整備を求めるという観点から、金融機関等は、顧客等との間で預金口座の開設等、一定の取引(注5)を行うに際しては、運転免許証等の公的書類の提示を受ける等の方法(注6)により、顧客等の氏名、住居及び生年月日といった本人特定事項(注7)を確認(以下「本人確認」という。)しなければならないとした。また、ペーパーカンパニー対策等の観点から、金融機関等との間で現に取引の任に当たっている自然人と顧客等が異なるときは、顧客等の本人確認に加え、その自然人も本人確認することとした。
 そして、金融機関等は、本人確認を行った場合、直ちに本人確認記録を作成するとともに、口座を閉鎖した日等から7年間(注8)これを保存しなければならないこととした。
 更に、本人確認の際に顧客等が本人特定事項を偽った場合、金融機関等は、真実の本人特定事項を把握することができず、金融機関等に本人確認を義務づける趣旨が没却されてしまうことから、金融機関等が本人確認を行う場合、顧客等が虚偽を申し立てることを禁止することとした。
 
(注5 )本人確認の対象となる取引は、政令で定める予定である(4.(1)参照)。
(注6 )本人確認の方法は、主務省令で定める予定である(4.(2)参照)。
(注7 )法人の顧客等については、名称及び本店又は主たる事務所の所在地とする。
(注8 )本人確認記録と取引記録の保存期間については、公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律案に規定するテロ資金提供等の罪(法定刑は、10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金)の公訴時効が7年であること(刑事訴訟法第250条第3号)等を勘案して、7年としたものである。

(3

)取引記録の作成義務等
 テロ資金の提供やマネー・ローンダリングが行われたことが判明した場合、捜査機関による事後的な資金トレースが効率的に行われることが重要となる。そこで、金融機関等は、顧客等との間で「金融等業務」(注9)に係る取引を行う場合、少額の取引等を除き、直ちに当該取引の記録を作成するとともに、当該取引の行われた日から7年間(注8)これを保存しなければならないこととした。
 
(注9 )金融等業務は、現行の疑わしい取引の届出制度の対象業務と同じ考え方に基づき、政令で定める予定である。基本的には、農業協同組合等、金融ではない業務も営む金融機関等については、これを除いた業務とし、それ以外の金融機関等については業務全体とする予定である。

(4

)その他
 
(a)  郵便貯金、簡易生命保険等、郵政官署の行う金融取引について、これらもテロ資金供与やマネー・ローンダリングに利用されるおそれがあるため、本法の本人確認等の規定を準用することとした。
(b)  金融機関等は、顧客等が取引を行う際に本人確認に応じないときは、当該顧客等がこれに応ずるまでの間、当該取引に係る義務の履行を拒むことができることとした。
(c)  金融機関等による本人確認義務等の的確な履行を確保することにより、本法律の実効性を高めるため、所管行政庁による統一的な監督規定を置くとともに、金融機関等の是正命令違反、虚偽報告、検査忌避等に罰則を課すこととした。また本人確認の際、隠ぺい目的で虚偽の申立てをした顧客等に罰則を課すこととした。


.主な政省令事項(5月15日現在の案。関係各方面の意見を聴取しつつなお検討中であり、今後、パブリックコメント等所要の手続を経て成案を得ることとなる。)
 

(1

)本人確認の対象取引(政令事項)
 基本的な考え方は、FATF((注4)参照)における議論の結果を踏まえ、(a)金融機関等と顧客等の間の継続的な取引関係の開始時、(b)一定金額以上の単発取引及び(c)本人特定事項の真偽に疑いがある顧客等との取引を本人確認の対象取引とする。具体的には、(a)の例として、銀行等の預金口座の開設、信託取引の開始、貯蓄性のある保険契約の締結、有価証券の売買、金銭の貸付け、貸金庫の貸与の開始等、(b)の例として、200万円を超える大口現金取引等とする予定である。なお、(a)については、テロ資金提供等やマネー・ローンダリングの防止という本法律の目的からみて過剰に金融取引を規制することとならないよう配慮していくこととする。また、一度、本人確認を行った顧客等については、上記の取引((c)を除く)を行う場合であっても、再度の公的証明書の提示等を要しないこととする予定である。

(2

)本人確認方法(省令事項)本人確認方法は、対面・非対面という取引形態の違い(注10)、また本人確認に使用する書類の性質の違いを考慮して、下記のようにする予定である。

(店舗等で行う対面の取引の場合)
 
(a)  運転免許証など写真付きの公的証明書や各種健康保険証等の第三者が入手できない公的証明書による場合は、その提示を受ける方法
(b)  住民票など第三者も入手できる公的証明書による場合は、その提示を受けることに加え、金融機関から当該証明書に記載された顧客等の住所に宛てて、関係書類等を書留郵便等により送付する方法
(インターネット等による非対面取引の場合)
 運転免許証、各種健康保険証等の公的証明書の現物又はコピー(注11)の送付を受け、当該公的証明書又はコピーに記載された顧客等の住所に宛てて、関係書類等を書留郵便等により送付する方法又は電子証明書等を利用する方法
 
(注10 )対面取引に当たるかどうかは、有人店舗において行われる取引に限定せず、本人確認の実質的な確実さを担保できるかによって判断する予定。
(注11 )本人確認書類のコピーの送付を受ける場合は、金融機関等が当該コピーを7年間保存することとする予定。

(3

)経過措置(政令事項)
 テロ・マネロン防止の要請と金融取引の円滑を阻害しないとの要請の双方を考慮して、本法律施行前から取引関係のある顧客等について、本法令に定める本人確認方法に準ずる方法により顧客等の本人特定事項の確認を行っていれば、本人確認済とみなす予定である。


.今後の日程
 本法律が金融取引に広く関係するものであることを踏まえ、政省令を含む制度の全体像についてできるだけ早く成案を得、十分な周知期間・準備期間をとって、来年1月から施行することを予定している。(注12)
 
(注12 )本法律は、公布の日から起算して9月を超えない範囲で施行することとされている。

○金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律
 

 

 
<主な出来事>(4月)
 
1日(月) 「ペイオフ解禁について」金融担当大臣談話公表
「資産流動化に関する法律施行令等の一部を改正する政令案」の公表(パブリック・コメント)
自動車損害賠償保障法の規定による指定紛争処理機関の指定
「金融庁における政策評価に関する基本計画」及び「事後評価の実施計画」の策定・公表
3日(水) 日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会開催(第7回)
4日(木) 事務ガイドライン(「金融監督にあたっての留意事項について(第一分冊:預金取扱い金融機関関係)」)の一部改正
事務ガイドライン(「金融監督にあたっての留意事項について(第二分冊:保険会社関係)」)の一部改正
事務ガイドライン(「金融監督にあたっての留意事項について(第三分冊:金融会社関係)」)の一部改正
事務ガイドライン(「証券会社、投資信託委託業者及び投資法人並びに証券投資顧問業者等の監督等にあたっての留意事項について」)の一部改正
「弱体化した銀行に対する監督上のガイダンス」をバーゼル委員会が公表
5日(金) 投資一任契約に係る業務の認可
だいしん信用組合及び加賀信用組合に対する管理の終了期限の延長を公表
11日(木) 企業会計審議会第二部会開催(第28回)
金融税制に関する研究会開催(第3回)
12日(金) 主要行に対する特別検査の結果の公表
主要13行による平成14年3月期の財務内容の公表概要」の公表
「より強固な金融システムの構築に向けた施策」の公表
「金融検査マニュアル別冊・中小企業融資編等の作成、整備について」の公表(パブリック・コメント)
「投資信託委託業者・投資顧問業者に係る検査マニュアル(案)について(投信・投資顧問検査マニュアルワーキンググループとりまとめ)の公表(パブリック・コメント)
企業会計審議会固定資産部会開催(第22回)
15日(月) 東京商銀信用組合に係る管理を命ずる処分の取消し
19日(金) 「有価証券届出書等の開示書類の電子化に係る証券取引法施行令の一部を改正する政令案」の公表(パブリック・コメント)
信用組合京都商銀に対する管理の終了期限の延長
企業会計審議会固定資産部会の公開草案」の公表(パブリック・コメント)
企業会計審議会第一部会開催(第19回)
22日(月) だいしん信用組合に係る管理を命ずる処分の取消し
金融税制に関する研究会開催(第4回)
25日(木) 日動火災海上保険株式会社に対する行政処分
金融トラブル連絡調整協議会開催(第12回)
「金融分野の業界団体・自主規制機関における苦情・紛争解決支援モデル」の公表
大臣、東京証券取引所視察
26日(金) さくらフレンド証券株式会社に対する行政処分
「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令案等」の公表(パブリック・コメント)
30日(火) 大栄信用組合に係る管理を命ずる処分の取消し

 

大臣、東京証券取引所視察〈平成14年4月25日(木)〉