証券取引等監視委員会メ-ルマガジン (第119号)

平成30年11月30日
証券監視委ウェブサイト
https://www.fsa.go.jp/sesc/index.htm

 

<目次>
市場へのメッセージ
1. 株式会社アサツーディ・ケイ株券に係る内部者取引事件の告発について
2. 東洋証券株式会社に対する検査結果に基づく勧告について
3. デルタインベストメント株式会社に対する検査結果に基づく勧告について
4. 最近の開示検査に基づく勧告について
・株式会社UKCホールディングスに係る有価証券報告書等の虚偽記載
5. 最近の取引調査に基づく勧告について
・第一稀元素化学工業株式外6銘柄に係る偽計事案


市場へのメッセージ


1. 株式会社アサツーディ・ケイ株券に係る内部者取引事件の告発について

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、平成30年10月30日、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)違反(内部者取引、情報伝達・取引推奨)の嫌疑で、犯則嫌疑者1名を東京地方検察庁に告発いたしました。
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2018/2018/20181030-3.htm

【事案の概要】

 犯則嫌疑者は、東京証券取引所市場第一部に株券を上場している株式会社アサツーディ・ケイ(以下「アサツー」といいます。)の執行役員を務めていたものですが、平成29年9月下旬頃、その職務に関し、アサツーの代表取締役らがその職務に関しビーシーピーイー マディソン ケイマン エルピー(BCPE Madison Cayman, L.P.)からの伝達により知った、アサツーの株券の公開買付けを行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実を知りました。

 その上で、犯則嫌疑者は、

第1 法定の除外事由がないのに、前記事実の公表前である同月下旬頃、証券会社を介し、東京証券取引所において、他人名義でアサツーの株券合計約2万6000株を代金合計約8200万円で買い付けました。

 さらに犯則嫌疑者は、

第2 あらかじめアサツーの株券を買い付けさせて利益を得させる目的をもって、前記事実の公表前である同月下旬頃、知人に対し、アサツーの株券の買付けを勧め、さらに、その頃、同人に対し、同事実を伝達したものであり、これらにより同人が、法定の除外事由がないのに、同事実の公表前である同月下旬頃、証券会社を介し、東京証券取引所において、アサツーの株券合計300株を代金合計約90万円で買い付けました。

【本件公開買付け等事実】

 本件公開買付け等事実は、本件公開買付者であるビーシーピーイー マディソン ケイマン エルピーがアサツー株券の公開買付けを行うことについての決定をしたことであり、平成29年10月2日午後5時20分、同社が、「ビーシーピーイー マディソン ケイマン エルピーによる株式会社アサツーディ・ケイ(証券コード9747)の株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」として公表したものです。

【本件の意義】

 本件は、被公開買付会社である(株)アサツーディ・ケイの執行役員であった犯則嫌疑者が、株価上昇確実な本件公開買付けの事実を職務に関し知り、その公表前に、他人名義の証券口座を利用して借名で大量のアサツー株券を買い付けて多額の利益を得ており、さらには、知人に取引推奨・情報伝達も行って知人にも利益を得させた事案であり、悪質性が認められます。

 証券監視委は、引き続き、市場の公正性・透明性の確保に向けて、本件のような重大で悪質な違反行為に対し、厳正に対応していきます。


2.東洋証券株式会社に対する検査結果に基づく勧告について

 証券監視委は、平成30年10月30日、金融庁に対して、東洋証券株式会社(以下本節において「当社」といいます。)に行政処分を行うよう勧告いたしました。
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2018/2018/20181030-2.htm

【事案の概要等】

 当社は、近年、市況の堅調な米国株式の営業に注力していましたが、今回、その米国株式の営業において、主に高齢顧客に対し、多数の営業員が、米国株式の乗換取引の勧誘に応じてもらうために、売却する米国株式の損益について、損失の額を実際の額よりも過少に伝える、損失が発生しているにもかかわらず利益が発生している旨を伝えるなどといった虚偽表示や、誤解を生ぜしめるべき表示を行っていた事実が認められました。

 このような行為が行われていた背景には、営業部門の責任者が、米国株式の取引に関して不適切な勧誘行為が行われている旨が社内検査で何度も指摘されていたにもかかわらず、これを是正せず、営業員に手数料目標の達成を強く求め続けていたこと、また、経営陣が、上記社内検査の結果を把握していながら、再発防止のための実効的な改善措置について何ら指示しておらず、結果的に営業優先の企業風土を醸成していたことなどの事情が存在すると認められました。

 このように、投資者保護上問題のある行為に対しては、今後も厳正に対処していきます。


3. デルタインベストメント株式会社に対する検査結果に基づく勧告について

 証券監視委は、平成30年10月30日、金融庁に対して、デルタインベストメント株式会社(以下本節において「当社」といいます。)に行政処分を行うよう勧告いたしました。
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2018/2018/20181030-1.htm

【事案の概要等】

 福岡財務支局が当社を検査したところ、無登録業者に対する名義貸しと投資助言・代理業を適確に遂行するに足りる人的構成が確保されていない状況及び投資助言・代理業を適確に遂行するための必要な体制が整備されていない状況が認められました。

 このように、投資者保護上問題のある行為に対しては、今後も厳正に対処していきます。

(参考)
 金融商品取引業を行うには金商法上の登録を受ける必要があるところ、金融商品取引業者等が他人に名義貸しを行うことは、登録制度の潜脱につながることから、金商法により禁止されています。また、金融商品取引業を適確に遂行する観点から、金商法で人的構成の確保及び必要な体制の整備が求められております。
 
 なお、当社に対しては、平成30年11月13日に、福岡財務支局長から登録取消し及び業務改善命令の行政処分が発出されています。
https://lfb.mof.go.jp/fukuoka/kinyuu/pagefukuokahp016000050.html


4. 最近の開示検査に基づく勧告について

 証券監視委は、株式会社UKCホールディングス(以下本節において「当社」といいます。)に係る有価証券報告書の虚偽記載等についての開示検査を行った結果、有価証券報告書等に重要な虚偽記載が認められたことから、平成30年10月23日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2018/2018/20181023.html

【事案の概要】

 当社の海外連結子会社(以下「A社」といいます。)が行った液晶テレビ用パネル(以下「LCDパネル」といいます。)の販売取引について、当社は、貸倒引当金の計上を適正に行わなかったほか、LCDパネルを仕入れた事実及び販売した事実がないにもかかわらず同取引を行ったものと偽り、架空取引により売上の過大計上を行うなど、不適正な会計処理を行いました。これにより、当社は、過大な当期純利益等を計上した連結財務諸表を記載した有価証券報告書等を提出しました。

【不適正な会計処理】

上記の不適正な会計処理は次のとおりです。

(1) A社が有する滞留売掛金に対する貸倒引当金の過少計上

[1] 販売先に対する売掛金に係る回収期間の延長等

 A社は、LCDパネル販売先のうちの1社(以下「B社」といいます。)において多額の損失が発生したことから、LCDパネルの販売代金に係る売掛金のうち、回収が支払期限より遅延するおそれのある売掛金(以下「滞留売掛金」といいます。)が発生する見込みである旨を、当社経営陣に報告しました。

 当該報告を受けて、当社経営陣は、滞留売掛金に係る貸倒引当金の計上の回避を指示しました。これを受け、A社は、B社に対して有する売掛金の回収期間(回収サイト)を60日から180日に延伸する等、あたかも売掛金の未回収分が発生していないように見せかける措置を行いました。

 その結果、当社は、発生が見込まれる滞留売掛金のうち、回収が本来の回収期間(60日)よりも遅延する売掛金に対する貸倒引当金を計上しませんでした。

[2] 売掛金の「書き換え」

 上記[1]の回収期間の延伸に追加して、A社は、当社経営陣と協議を行い、B社のグループ会社が製造するテレビの販売に係る商流を変更し、A社がB社のグループから当該テレビの販売代金の支払を受けることができるようにしました。これにより、A社は、B社グループからテレビの販売代金として受け取った資金をLCDパネルに係る売掛金の回収代金に書き換える処理(書き換え)を行うことで当該売掛金を回収したと偽り、当該売掛金に対する貸倒引当金を適正に計上しませんでした。

[3] 前渡金を利用した売掛金の回収偽装

 A社のLCDパネル取引において、A社のLCDパネルの仕入先としてB社グループの代表が実質支配するペーパーカンパニー(以下「C社」といいます。)が参入しました。A社は、LCDパネルの仕入代金としてC社に対して支払っていた前渡金をB社グループに還流させ、A社のB社グループに対するLCDパネルに係る売掛金の回収に充当させる回収偽装を行いました。

 これにより、当社は、A社のB社グループに対するLCDパネルに係る売掛金等に対する貸倒引当金を適正に計上しませんでした。

(2) A社による架空売上の計上

 上記(1)[3]の回収偽装により、A社のC社に対する前渡金残高が大幅に増加しました。そこで、当社は、前渡金に係る実態を調べたところ、上記(1)[3]のとおり、当該前渡金がA社のB社グループに対する売掛金の回収に充当されていることを把握しました。

 当社は、A社に対し、C社に対する前渡金残高を減少させるよう指示しました。当社からの当該指示を受けて、A社は、実際には行っていなかったC社からの架空仕入及びB社グループへの架空売上を計上し、当該架空仕入のためにA社がC社に支払う代金をA社のC社に対する前渡金残高の一部と相殺する処理を行い、C社に対する前渡金残高の減少を装いました。この架空取引により、売上の過大計上が行われました。

【不適正な会計処理が発生した背景・原因】

 検査の結果によれば、本件の不適正な会計処理の背景・原因として

・海外取引先の与信管理に当社が関与せず各グループ会社に委ねられていたなど、海外ビジネスに係るリスク管理態勢が脆弱であったこと

・少なくとも、本事案に絡む海外子会社における業務執行の監督について、当社経営陣が行うことになっていたが当該監督機能は形骸化しており、また、当社取締役会による監督も機能不全であったこと(内部統制の不備)

・当社のコンプライアンスを推進する部門に専任で従事する職員が不在であるなど、当社の管理部門が脆弱であったこと

といったことが考えられます。


5. 最近の取引調査に基づく勧告について

 証券監視委は、取引調査の結果に基づいて、以下の事案について課徴金納付命令勧告を行いました。

・H30.10.5 第一稀元素化学工業株式外6銘柄に係る偽計事案
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2018/2018/20181005-1.htm

【事案の概要】

 本件は、インターネットで株取引を行っていた個人投資家が、第一稀元素化学工業株式外6銘柄(以下「対象銘柄」といいます。)の各株式につき、特殊見せ玉を用いて、偽計を行ったという事案です。

 「特殊見せ玉」とは、見慣れない言葉かと思いますが、一般的な見せ玉と比べ、相場に与える影響が大きく異なることから「特殊見せ玉」と表記しました。一般的な見せ玉は、例えば、最良買い気配付近に大口の買い注文を発注する手法を使って、売り注文に比べて買い注文が多く発注されているようにするなどして、買い優勢の発注状況を作出することで他の投資家の買い注文を誘引しようとするものです。それに対し、本件の見せ玉は、第三者が、例えば引け条件付き成行(以下「引成」といいます。)売り注文を発注している銘柄を見つけ出し、約定させる意思のない引成買い注文を発注する手法を使って、買い側と売り側の引成注文の発注株数が同程度である引けの発注状況を作出して、他の投資家の売買を抑止しようとするものであり、他の投資家を誘引しようとするものではないことが特徴です。そのため、証券監視委ウェブサイトの概要図では、「誘わない見せ玉」とも記載しています。

 また、「偽計」という言葉を初めて目にした方もいらっしゃるかも知れませんが、金商法第158条において、「有価証券の売買のため……偽計を用いてはならない」と規定されており、偽計とは、他人に錯誤を生じさせる詐欺的ないし不公正な策略、手段をいうと解されています。

 本件における取引手法を紹介します。

 「引成注文」とは、前場または後場の「引け」においてのみ有効となる成行注文のことをいいます(引成注文を用いた相場操縦の勧告事例としては、昨年11月21日に証券監視委が勧告しました「セントラル硝子株式外4銘柄に係る相場操縦」事案があります。当該事案の詳細は、下記、証券監視委ウェブサイトをご覧下さい)。なお、本稿では、簡潔に説明する観点から、買い側の引成注文の発注株数が売り側の引成注文の発注株数を上回っている状況を、課徴金納付命令対象者(以下「対象者」といいます。)が認識した場合の取引手法について記載します(売り側の引成注文の発注株数が買い側の引成注文の発注株数を上回るケースでは、買い側と売り側が逆になりますが、取引手法の考え方は変わりません)。
http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2017/2017/20171121-2.htm

<取引手法の例>

[1] 真実の需給バランス
特殊見せ玉(引成売り注文)発注前の引成注文状況
:【大幅買い優勢】引成売り注文<引成買い注文
→ 大幅買い優勢により引値上昇予想
→ 引値上昇予想による新たな売買

(A) 株式を保有している投資家→引値が高くなりそうだから引けで売ろう
(B) 株式を保有していない投資家→引値が高くなりそうだからその前に買って引けで売ろう

[2] 虚偽の需給バランス作出
特殊見せ玉(引成売り注文)発注後の引成注文状況
:【売買均衡】引成売り注文=引成買い注文
→ 売買均衡により引値は変わらない予想
→ 引値上昇予想による新たな売買を阻害

(a) 株式を保有している投資家→引けで売ると下がるからやめよう
(b) 株式を保有していない投資家→引けで高く売れないから買うのはやめよう

[3] 仕込みの買付け

[4] 引成売抜け注文発注・特殊見せ玉(引成売り注文)約定回避

[5] 引けの需給バランス
引けにおける引成注文状況
:【買い優勢】引成売り注文<引成買い注文
→ 買い優勢により引値上昇
→ 仕込みで買い付けた価格より高い価格(引値)で売抜けに成功

 対象者は、対象銘柄の株式につき特殊見せ玉を発注する以前、各株式の立会市場において、他の投資家が発注した成行注文のうち、買い側の引成注文の発注株数が売り側の引成注文の発注株数を上回る状況であり([1]真実の需給バランス:引成売り注文<引成買い注文)、当該発注状況を見た第三者が発注株数の少ない側に引成注文を発注するなどして、新たな売買([1]AB)を行うことが想定される状態の際、約定意思がなく、引け直前に指値注文に変更して約定を回避するつもりであるにもかかわらず、発注株数の少ない側に引成注文を発注することによって、あたかも約定意思があるかのように装い、引成買い注文と引成売り注文の発注株数が同程度である状況を作出して([2]虚偽の需給バランス作出:引成売り注文=引成買い注文)、第三者に対して引けまで当該発注状況が維持されるであろうとの錯誤を生じさせ、第三者の新たな売買を阻害([2]ab)した上で、本件各引成注文を、引け直前に引け条件付き指値注文に変更して約定を回避する([4]特殊見せ玉約定回避)ことによって、引けにおいて、引成買い注文の発注株数が引成売り注文の発注株数を上回る状況([5]引けの需給バランス:引成売り注文<引成買い注文)にすることで、自らに有利な売買([3]仕込みの買付け→[5]仕込みで買い付けた価格より高い引値で売抜け)を行うことを企てたものです。証券監視委は、対象者のこうした行為は、他人に錯誤を生じさせる詐欺的な手段であり、偽計を用いた行為であると認定しました。

 今回の事例をより具体的に言えば、引けにおける需給バランスが大幅な買い優勢の場合、引値上昇が想定され、当該株式を既に保有している投資家は、引値が高くなるという期待の下、引けで売ろうとする本来の投資行動が、対象者が特殊見せ玉(引成売り注文)発注により売買均衡状態を作り上げることで、引値が高くなることが期待できなくなり、引けでの売付けはやめようということになります。また、当該株式を保有していない投資家であれば、引値が高くなるという期待の下、その前に買って引けで売ろうという本来の投資行動が、引けで高く売れることが期待できなくなり、買付けはやめようということになります。いずれの投資家も、対象者による特殊見せ玉により新たな取引の機会を奪われることになってしまいます。

 こうして、他の投資家の取引を実質的に排除したうえで、対象者は引け直前に、当該銘柄を買付けるのとほぼ同時に、発注していた特殊見せ玉(引成売り注文)を指値注文に変更して約定を回避することにより、引けにおける需給バランスを再び買い優勢として場が引けるようにし、買い付けた銘柄を高値で売り抜けることを企てていました。

【事案の特色等】

 本件は、真実の需給バランスに基づいた第三者の取引を排除するために「誘わない見せ玉」を発注し、引け直前に約定を回避して高値で売り抜ける取引手法に対して、「偽計」を適用した初めての勧告事案です。

 本件が広く周知されることにより、不公正取引の抑止効果が発揮されることを期待しています。

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<発 行>
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