市場へのメッセージ(令和元年12月16日)

<目次>

1.IFP Tokyo株式会社及びその役員1名による金融商品取引法違反行為に係る裁判所への禁止及び停止命令発出の申立てについて
2.株式会社明豊エンタープライズにおける有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
3. 「開示検査事例集」の公表について
4.最近の取引調査に基づく勧告について
 ・桂川電機株式外3銘柄に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について
 ・株式会社小僧寿しの従業者による内部者取引違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について

1. IFP Tokyo株式会社及びその役員1名による金融商品取引法違反行為に係る裁判所への禁止及び停止命令発出の申立てについて

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、令和元年7月30日、東京地方裁判所に対して、IFP Tokyo株式会社(以下本節において「当社」といいます。)及びその役員1名(以下当社とその役員を併せて「被申立人ら」といいます。)に金融商品取引法違反行為の禁止及び停止を命ずるよう申立てを行いました。
 
【事案の概要】
 被申立人らは、遅くとも平成28年3月以降、一般投資家に対し、海外集団投資スキーム持分に該当する複数の金融商品(以下「本件ファンド」といいます。)に係る取得勧誘を行っています。
 
 当社の代表取締役は、一般社団法人日本IFP協会(以下「IFP協会」といいます。)の協会員となっており、平成28年3月、IFP協会の当時の代表理事とともに当社を設立しています。
 協会員は、IFP協会が主催するセミナー等への参加のほか、IFP協会から有益な業界情報等の提供を受けることができるとされているところ、本件ファンドについては、何れもIFP協会からの情報提供を受け、当社において取扱いを開始しているものです。
 被申立人らは、本件ファンドの取得勧誘によって、平成28年3月から平成31年2月までの間に、少なくとも、延べ203名の一般投資家から約6億8000万円を出資させています。
 上記のような行為を業として行う場合には、金融商品取引法上の登録(第二種金融商品取引業の登録)を受ける必要がありますが、被申立人らは、この登録を受けることなく、上記行為を行っていました。
 
 被申立人らに対しては、令和元年10月17日に、東京地方裁判所から、金融商品取引法違反行為の禁止及び停止を命ずる決定が出されています。
 
 証券監視委においては、引き続き、関係機関とも連携しつつ、無登録業者に対して厳正に対処してまいります。投資者の皆様におかれては、無登録業者と取引を行うことがないように、注意してください。

2.株式会社明豊エンタープライズにおける有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について

 証券監視委は、株式会社明豊エンタープライズ(以下本節において「当社」といいます。)における有価証券報告書等の虚偽記載について検査した結果、下記のとおり法令違反の事実が認められたことから、令和元年10月23日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。
 
【事案の概要】
 当社は、当社の中国での住宅開発事業に関連したA社に対する長期未収入金や長期貸付金について、A社の返済が滞っていたことから、貸倒懸念債権として元本の回収可能額を見積もり、これらの債権の帳簿価額との差額を貸倒引当金として計上していました。
 金融商品に関する会計基準上、貸倒懸念債権については、債務者の財政状態及び経営成績を考慮する方法(いわゆる「財務内容評価法」)、または債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積もる方法(いわゆる「キャッシュ・フロー見積法」)のいずれかの方法を採ることとされていますが、当社は、キャッシュ・フロー見積法を採用していながら、これらの債権の元本回収に係るキャッシュ・フローを合理的に見積もることができておらず、過少な貸倒引当金を長期間にわたって計上し続けていました。
 当社は、これらの不適正な会計処理により、虚偽の記載がある有価証券報告書等を提出しました。
 
【不適正な会計処理が行われた原因・背景】
 証券監視委の検査の結果、本件の法令違反が行われた主な原因・背景は、下記の3点であると考えられます。
 ・業績悪化を回避しようとしていたこと。
 ・中国事業に関して、当時の代表取締役と交渉担当者が、会社と十分に情報共有せず、当社の取締役会も牽制機能を果たしていなかったこと。
 ・貸倒引当金を過少に計上した点に関し、当社において会計基準の知識及び適切な会計処理を行う意識の不足、不適切な債権管理があったこと。
 
 証券監視委は、開示規制違反に対して、引き続き厳正に対処してまいります。

3.「開示検査事例集」の公表について

 証券監視委は、令和元年10月23日、「開示検査事例集」を公表いたしました。
 
○開示検査事例集について
 「開示検査事例集」は、適正な情報開示に向けた市場関係者の自主的な取組みを促す観点から、証券監視委による開示検査の最近の取組みや開示検査によって判明した開示規制違反の内容、その背景・原因及び是正策等の概要を取りまとめたものです。
 今般公表しました「開示検査事例集」は、昨年のものに最近の開示検査事例を追加し、課徴金納付命令勧告を行った事例だけでなく、勧告は行わないものの、開示規制違反の背景・原因を追究した上でその再発防止策を会社と共有した事例、会社に対して訂正報告書等の自発的な提出を促した事例等、さまざまな事例を積極的にご紹介するとともに、市場関係者への皆様へのメッセージも掲載しております。また、今年度版より監視委コラムを増設し、最近の検査事例を通じてクローズアップされた不正会計の実態等について解説しております。
 
○最近の開示検査について
 平成30事務年度(平成30年7月~令和元年6月)に実施した開示検査は38件であり、そのうち、22件の開示検査が終了しました。終了した22件のうち、10件は課徴金納付命令勧告を行い、3件は訂正報告書等の自発的な提出を促しました。
 平成30事務年度に課徴金納付命令勧告を行った10件の事案のうち9件の事案において、売上の過大計上が認められました。そのうち3件の事案については、上場会社が、その実態を適切に確認・検証を行わないまま、実在しない架空取引の商流に参加し、当該架空取引による売上を計上するといった不適正な会計処理を行うことによって、連結財務諸表等に重要な虚偽記載を行っていました。
 本年の「開示検査事例集」でも、これまで同様、多様な事例を紹介しております。また、課徴金納付命令勧告を行った事例に限らず、最近1年間に開示検査を終了した事例については、冒頭にまとめて掲載しております。
 
○市場関係者へのメッセージ
 証券監視委としては、「開示検査事例集」を通じて、市場関係者の皆様に、開示規制違反の手法、背景・原因等について理解を深めていただくことで、上場会社とその会計監査人である公認会計士・監査法人とのコミュニケーションや投資家の皆様と投資先である上場会社との対話がますます活発に行われることを期待しています。そして、その活発なコミュニケーションや対話は、開示規制違反の未然防止・再発防止につながるものと考えております。

4. 最近の取引調査に基づく勧告について

 
 証券監視委は、取引調査の結果に基づいて、以下の事案について課徴金納付命令勧告を行いました。
 
・R1.9.20   桂川電機株式外3銘柄に係る相場操縦
・R1.10.11 株式会社小僧寿しの従業者による内部者取引違反行為


桂川電機株式外3銘柄に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について

 
【事案の概要】
 本件は、インターネットで株取引を行っていた個人投資家が、新都ホールディングス株式、ダントーホールディングス株式、桂川電機株式及び児玉化学工業株式の売買を誘引する目的をもって、相場操縦行為を行った事案です。各株式の売買状況は次のとおりです。
 新都ホールディングス株式、ダントーホールディングス株式及び桂川電機株式の3銘柄については、下値に買い注文を大量に発注したうえで、高指値の買い注文を発注して株価を引き上げるなどの方法により、
(1)新都ホールディングス株式については、平成29年10月2日、合計308,700株の買付けの委託を行うとともに、合計101,300株を買い付ける一方、合計121,300株を売り付け、
(2)ダントーホールディングス株式については、平成29年10月17日、合計100,000株の買付けの委託を行うとともに、合計70,000株を買い付ける一方、合計78,000株を売り付け、
(3)桂川電機株式については、平成29年10月25日、合計44,000株の買付けの委託を行うとともに、合計40,000株を買い付ける一方、合計45,000株を売り付け、
また、児玉化学工業株式については、平成29年9月12日、
(1)下値に買い注文を大量に発注するなどの方法により、合計138,000株の買付けの委託を行うとともに、合計42,000株を買い付ける一方、合計62,000株を売り付けたほか、
(2)上値に売り注文を大量に発注するなどの方法により、合計120,000株の売付けの委託を行うとともに、合計30,000株を売り付ける一方、合計30,000株を買い付け、
4銘柄の取引合計で約128万円の売買差益を得たという事案です。
 
【事案の特色等】
 課徴金納付命令対象者(以下「対象者」といいます。)による相場操縦の手法は、概ね次の(1)から(5)のとおりです。違反行為開始前に当該各株式を買い付け(仕込みの買付け)、その後
(1)買い見せ玉の発注
 他の投資家からの最良買い気配付近の高値の買い注文を誘い込む目的で、買い付ける意思のない買い注文を、10本値内に重層的に買い見せ玉として発注
(2)株価引上げ
 最良売り気配より高い指値の買い注文による買付けを行って、株価引上げ
(3)売抜け
 上記(1)の見せ玉や(2)の株価引上げに誘引された他の投資家が発注した高値の買い注文に対して、仕込みや(2)で買い付けた株式の全てを高値で売抜け
(4)買い見せ玉の約定回避
 上記(1)で発注していた買い見せ玉の指値を、株価の下落に合わせて、繰り返し下値に変更又は取消すことで約定を回避
(5)買い見せ玉の仕込みへの転用
 株価が下落すると、(4)で約定回避していた買い見せ玉の指値を上値に変更して仕込みに転用し、株価引上げを伴う仕込みの買付けを行って、次の取引を開始
 なお、児玉化学工業株式については他の3銘柄と異なり、買い見せ玉に加え、売り見せ玉による手法(違反行為前に空売りによる仕込みの売付けを行った後、売り見せ玉を発注し誘引された他の投資家の安値の売り注文に対して仕込みで売り付けた株式を安値で返済)も行い、その後売り見せ玉の約定回避を行っていました(同株式については買い見せ玉発注後の株価引上げ行為は見られませんでした)。
 
 証券監視委は、これまでに相場操縦規制違反について多数の告発・勧告を行ってきたところですが、相場操縦規制違反は後を絶たない状況にあり、その要因・背景としては以下のようなものが考えられます。
・インターネット取引の普及及び発注システムの進歩等により、個人投資家であっても、迅速かつ大量の発注・取消が可能となっているため、見せ玉等の手法を用いて人為的に相場を変動させれば、容易に売買差益を稼げる、又は損失回避を図ることができるとの誘惑
・市場では膨大な取引が行われているため、個人が行う小規模の相場操縦行為までは市場監視の目も届かないだろうとの誤解
相場操縦行為は証券市場の公正性・健全性を損なうものであり、証券監視委は、証券市場に対する投資家の信頼を確保するため、厳正な調査を実施しており、調査の結果、法令違反が認められた場合には、課徴金勧告や刑事告発を行っています。
 
 本件が広く周知されることにより、相場操縦の抑止効果が発揮されることを期待しています。

株式会社小僧寿しの従業者による内部者取引違反行為に対する課徴金納付命令の勧告について

 
【事案の概要】
 本件は、株式会社小僧寿しに従事していた者が、その職務に関し、同社の連結経常利益等が下方修正となる見込みであり、直近の予想値に比較して投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとなる差異が生じた旨の重要事実を知りながら、その公表前に小僧寿し株式を売り付けたものです。
 
【事案の特色等】
 本事案は、比較的シンプルな構造のインサイダー取引事案です。上場会社において、重要事実を知り得る立場にある者がインサイダー取引を行った場合、発覚しないことはないということを、改めて、強く認識していただければ幸いです。また、各上場会社にはインサイダー取引未然防止のために社内規程が整備されていると思いますので、今一度、社内規程を精読のうえ未然防止に努めていただきたいと思います。 
 なお、本事案での課徴金額は1449万であり、内部者取引違反行為に対する課徴金額としては8番目、内部者取引違反行為で個人に対する課徴金額としては5番目の金額となっています。
 
 本件が広く周知されることにより、インサイダー取引の抑止効果が発揮されることを期待しています。

<発行>
証券取引等監視委員会 事務局 総務課
    (情報公開・個人情報保護係)
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東京都千代田区霞が関3-2-1
中央合同庁舎第7号館
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