市場へのメッセージ(令和2年1月31日)

<目次>

  1. 海外に居住するイノテック株式会社との契約締結交渉者の役職員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について
  2. 日本フォームサービス株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
  3. 日産自動車株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について

1.海外に居住するイノテック株式会社との契約締結交渉者の役職員による内部者取引に対する課徴金納付命令の勧告について

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、令和元年12月6日、取引調査の結果に基づいて、以下の事案について課徴金納付命令勧告を行いました。

【事案の概要】
 本件は、イノテック株式会社(以下「イノテック」といいます。)が平成29年8月29日に発表した、香港の法人との間の株式の取得を伴う業務上の提携に関するインサイダー取引の事案です。課徴金納付命令対象者(以下「対象者」といいます。)は、イノテックとの間で業務上の提携の交渉を行っていた香港法人の役職員であり、対象者は、その契約締結の交渉に関し、本件重要事実を知りながら、その公表前に、対象者自身の計算と、対象者が株式を100%保有する法人の計算で、イノテック株式を買い付けていました。
 
【本事案の特徴】
 本事案は、重要事実は日本の上場会社と外国法人との間の業務上の提携であり、対象者が当該外国法人の役職員であるという、クロスボーダーのインサイダー取引に係る事案でした。対象者は、海外の証券会社に開設した自身名義の証券口座及び自身が株式を100%保有する法人名義の口座を使って、日本国内で本件取引を行いましたが、証券監視委では、このような海外からの発注による取引の実態解明も積極的に行っています。
 我が国証券市場における海外投資家の取引が増加しているなか、証券監視委としては、このようなクロスボーダー取引について、今後とも、海外当局や国内の自主規制機関等との連携により市場監視を進め、証券市場における違反行為が認められた場合には、引き続き厳正に対処していく所存です。
 なお、本事案での課徴金額は1億9625万円であり、インサイダー取引に対する課徴金額としては過去最高額となっています。

2. 日本フォームサービス株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について

 証券監視委は、日本フォームサービス株式会社(以下本節において「当社」といいます。)における有価証券報告書等の虚偽記載について検査した結果、下記のとおり法令違反の事実が認められたことから、令和元年12月6日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。

【事案の概要】
 当社は、前社長による粉飾の指示のもと、次の「1」のとおり、有価証券報告書に記載が義務付けられているコーポレート・ガバナンスの状況に関する情報において、実体とは異なる記載を行いました。さらに、「2」のとおり、担当の役職員が不適正な会計処理を行いました。この結果、当社は重要な事項について虚偽の記載がある有価証券報告書等を提出しました。
 
1.不適正な記述情報の概要
 有価証券報告書において、コーポレート・ガバナンスの状況(提出会社の企業統治の体制、内部統制システム及びリスク管理体制の整備状況等)について開示することが求められていますが、当社は、企業統治の体制等について、下記のように実態と異なる開示を行っていました。
  • 企業統治の体制に関して、取締役会は、実際には、年3回しか開催されておらず、また、取締役会において重要事項の大部分が付議・議論されていなかったにもかかわらず、「原則月1回開催の定例の取締役会を開催し、重要事項はすべて付議され」と記載していました。
  • 内部統制システムの整備状況に関して、コンプライアンス担当取締役を任命した事実はないにもかかわらず、「コンプライアンス担当取締役を任命し」と記載していました。
  • 監査役と会計監査人との相互連携について、監査役は会計監査人と意見交換をした事実はないにもかかわらず、「監査人との連携を図るために、決算期並びに必要な都度ミーティングを行い、現状の監査状況及び業務執行に対して意見交換を行っております」と記載していました。
 
2.不適正な会計処理のうち金額が多額のものの概要
(1)子会社における売上の前倒し計上等
当社の連結子会社は、太陽光設置設備工事を平成29年7月に受注し、同年12月に完成させました。当社は、工事の売上の計上時期に係る基準について、工事完成基準を採用していたため、工事売上及び工事原価を、工事が完成した平成29年12月第1四半期に一括して計上する必要があったにもかかわらず、当社は当該連結子会社に指示し、同社が同年9月までに受領した工事代金を、工事売上として同年6月第3四半期及び同年9月第4四半期に前倒し計上させた。また、工事原価については、平成29年9月期から平成30年9月期までに、工事売上と関係なく恣意的に計上させました。
(2)未完成品を顧客からの預かり在庫とする売上の前倒し計上
当社は、オープンラック等の製品につき、製造が完了していないにもかかわらず、顧客から製品保管依頼書を入手する、製品の保管場所に空き箱を混在させるなどして、顧客に販売済みの製品を当社に保管しているように偽装して、実現していない売上を前倒しで計上しました。
 
【不適正な会計処理が行われた原因・背景】
 証券監視委の検査の結果、本件の法令違反が行われた主な原因・背景は、次のとおりであると考えられます。
  • 前社長は、取引銀行と良好な関係を保つためには粉飾を行っても構わないと考えていたなど、適正な財務報告を行うという意識が全く欠如していたこと。また、他の取締役や幹部職員も前社長の考えに異議を唱えることなく、当社には、粉飾を許容する企業風土が醸成されていたこと。
  • 取締役会は形骸化し、取締役の業務執行等に対する監督機能は発揮されず、また、監査役による監査もほとんど行われていなかったなど、ガバナンスが全く機能していなかったこと。
 こうした状況のもと、経営利益等をマイナスにしないようにとの前社長の指示によって、他の役員及び幹部社員は粉飾の方法を考え、実施しました。
 さらに、これらの不適正な会計処理は、会計監査人であった大手門会計事務所の極めて不適切な監査手続によるものであることが認められました。
 なお、公認会計士・審査会は、課徴金納付命令勧告を行った日に、「監査法人大手門会計事務所に対する検査結果に基づく勧告について」を公表しております。
 
 証券監視委は、開示規制違反に対して、引き続き厳正に対処してまいります。

3.日産自動車株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について

 証券監視委は、日産自動車株式会社(以下本節において「当社」といいます。)における有価証券報告書等の虚偽記載について検査した結果、下記のとおり法令違反の事実が認められたことから、令和元年12月10日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。

【事案の概要】
 当社は、有価証券報告書に記載が義務付けられている役員報酬に関する情報において、実体とは異なる記載を行いました。この結果、当社は重要な事項について虚偽の記載がある有価証券報告書等を提出しました。
 有価証券報告書における役員報酬の開示については、連結報酬等の総額が1億円以上である役員につき、役員ごとに報酬等の額を開示することが義務付けられています(企業内容等の開示に関する内閣府令・第三号様式)。開示すべき「報酬等」については、「報酬、賞与その他のその職務遂行の対価としてその会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事業年度に受け、又は受ける見込みの額が明らかになったもの」と定められており、実際に支払われたものであるか否かに関わらず、最近事業年度に係る職務執行の対価として認められるものは開示する必要があります。しかしながら、当社は、(1)及び(2)のとおり、開示すべき報酬の開示を行っておらず、また、それらの役員を含む役員区分ごとの報酬等の総額等についても虚偽の記載を行いました。

(1)金銭報酬について
当社は、当時の代表取締役の金銭報酬について、開示する金額を真実の報酬額の半分程度になるよう、同者に対する支払い済みの金額のみを開示する一方で、その残余の額を役員報酬とは別名目で支払うこととし、当該残余の額の開示を行いませんでした。
また、当時の他の代表取締役の金銭報酬について、連結報酬等の総額が1億円以上であったにもかかわらず、開示を行いませんでした。

(2)株価連動型インセンティブ受領権金銭報酬(SAR)について
当社のSARは、当社の取締役に対する報酬として、株主総会において取締役に付与することが決議され、あらかじめ決められた行使価額と、取締役が権利を行使した日の前日株価との差額が支払われることになっていました。
当社は、SARに関して、SARの公正価値(当該事業年度期末時点の株価を用いて算出した額)を報酬等として開示していた一方で、取締役が権利行使時に実際に受け取った支給額と既に開示されたSAR公正価値との差額の開示を行いませんでした。
   
 証券監視委は、開示規制違反に対して、引き続き厳正に対処してまいります。

<発行>
証券取引等監視委員会 事務局 総務課
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