市場へのメッセージ(令和2年3月26日)

<目次>

  1. ジェイリース株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について
  2. 最近の取引調査に基づく勧告について
ビート・ホールディングス・リミテッド株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について
日本海洋掘削株式会社社員2名による内部者取引規制違反及び同社社員による重要事実に係る取引推奨行為規制違反に対する課徴金納付命令の勧告について

1. ジェイリース株式会社における有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について

 証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」といいます。)は、ジェイリース株式会社(以下「当社」といいます。)における有価証券報告書等の虚偽記載について検査した結果、下記のとおり法令違反の事実が認められたことから、令和2年2月4日に内閣総理大臣及び金融庁長官に対して課徴金納付命令勧告を行いました。

【事案の概要】
 当社は、家賃債務保証事業から発生した代位弁済立替金(求償債権)に係る貸倒引当金を過少に計上するという不適正な会計処理を行いました。この結果、当社は、過大な当期純利益、連結純資産等を計上した連結財務諸表を記載した有価証券報告書等を提出しました。
 当社の家賃債務保証事業は、当社が不動産の賃借人との間で家賃債務保証委託契約を、不動産オーナー又は不動産事業者(以下「不動産オーナー等」といいます。)との間で家賃保証契約を締結し、賃借人から保証料を受領するものです。保証契約期間において、賃借人に家賃の未払いが生じた場合、当社は、不動産オーナー等に対しては、賃借人に代わって未払い分の家賃を支払い、賃借人に対しては、不動産オーナー等に代わって未払い家賃の請求を行っています。
 金融商品に関する会計基準上、「債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」とされるものは、「貸倒懸念債権」として区分し、債権の条件に応じた貸倒見積高を算定しなければなりません。この「債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者に対する債権」には、「現に債務の弁済がおおむね1年以上延滞している場合」における債権や「債務の一部を条件どおりに弁済できない可能性の高い」債権(金融商品会計に関する実務指針)も含まれます。
 当社は、代位弁済立替金に係る賃借人に対する求償債権(以下「当該債権」といいます。)について、下記のとおり適切な管理を行っておらず、貸倒引当金を過少に計上しました。

1.経過期間(代位弁済(立替)の実行によって同債権が発生した日(「基準日」)からの期間)が1年以上3年以内の当該債権
当該債務には弁済が1年以上延滞しているものがあったにもかかわらず、当社は、これらを会計基準に従って「貸倒懸念債権」に分類しませんでした。

2.経過期間が1年以内の当該債権
当社が法的措置を含む回収対応をしている当該債権については、会計基準上、「債務の弁済に重大な問題が生じる可能性の高い債務者に対する債権」に該当し、「貸倒懸念債権」に区分する必要があったにもかかわらず、これを「一般債権」に区分していました。
 
【不適正な会計処理が行われた原因・背景】
 証券監視委の検査の結果、本件の不適正な会計処理が行われた主な原因・背景は、次のとおりであると考えられます。
  • 当社は、代位弁済立替金と一般的な貸付金とは回収状況に差があるという認識が不十分であったため、滞留債権の回収状況等のモニタリング体制が不十分だったこと。
  • 当社は、適切な会計処理を行わなければならないという認識が欠如していたこと。
  • 当社は、貸倒引当金算定に関する会計基準を十分に理解していなかったなど、会計処理の適正性を検証する体制が未整備だったこと。
 証券監視委は、開示規制違反に対して、引き続き厳正に対処してまいります。

2. 最近の取引調査に基づく勧告について

 証券監視委は、取引調査の結果に基づいて、以下の事案について課徴金納付命令勧告を行いました。
 
・R2.1.28 ビート・ホールディングス・リミテッド株式に係る相場操縦
・R2.1.28 日本海洋掘削株式会社社員2名による内部者取引規制違反及び同社社員による重要事実に係る取引推奨行為規制違反

ビート・ホールディングス・リミテッド株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について

【事案の概要及び事案の特色等】
 本件は、インターネットで株取引を行っていた個人投資家が、ビート・ホールディングス・リミテッド株式の売買を誘引する目的をもって、相場操縦行為を行った事案です。主な取引手法は次のとおりです。
(1)株価引上げ
 ・小口の買い注文による株価引上げ
 ・対当売買による株価引上げ
(2)売抜け
 ・(1)により誘因された他の投資者の買い注文によって売抜け
(3)終値関与
 ・大引けにかけて、(1)の手法により繰り返し株価を引き上げるとともに、引成(※)買い注文発注
 ※「引成(ひけなり)」とは、引け条件付きの成行注文のことであり、引け条件付き注文とは、前引けまたは大引けに執行されることを条件とした注文のことを言います。
 
 課徴金納付命令対象者は、違反行為期間中、株価引上げを2,571回、ザラ場の対当売買を77回、終値関与を17回行っていました。

【証券監視委からのメッセージ】
 インターネット取引の普及及び発注システムの進歩等により、個人投資家・機関投資家を問わず、迅速かつ大量の発注・取消が可能となっている中、相場操縦規制違反は後を絶ちません。
 証券監視委は、これまでに相場操縦規制違反について多数の告発・勧告を行ってきており、個人投資家による相場操縦行為も含め、証券市場の公正性・健全性を損なう不公正取引に対しては、厳正な調査を実施し、法令違反が認められた場合には、課徴金勧告や刑事告発を行っています。
 
 本件が広く周知されることにより、相場操縦の抑止効果が発揮されることを期待しています。

日本海洋掘削株式会社社員2名による内部者取引規制違反及び同社社員による重要事実に係る取引推奨行為規制違反に対する課徴金納付命令の勧告について

【事案の概要】
 本件は、日本海洋掘削株式会社(以下「日本海洋掘削」といいます。)が平成30年6月22日に公表した、更生手続開始の申立てを行うことについての決定をした旨の重要事実(以下「本件事実」といいます。)に関するインサイダー取引及び本件事実に係る取引推奨行為違反です。
 本件は、課徴金納付命令対象者(以下「対象者」といいます。)が3名の事案です。
  • 対象者(1)について
対象者(1)は、日本海洋掘削の社員ですが、職務に関し、日本海洋掘削の業務執行を決定する機関が、更生手続開始の申立てを行うことについての決定をした旨の本件事実を知りながら、本件事実の公表前に、自己の計算において、日本海洋掘削株式を売り付けたものです(インサイダー取引規制違反)。
  • 対象者(2)について
対象者(2)は、日本海洋掘削の社員であった者から、当該社員が職務に関し知った、日本海洋掘削の業務執行を決定する機関が、更生手続開始の申立てを行うことについての決定をした旨の本件事実の伝達を受けながら、本件事実の公表前に、自己の計算において、日本海洋掘削株式を売り付けたものです(インサイダー取引規制違反)。
  • 対象者(3)について
対象者(3)は、日本海洋掘削の社員ですが、職務に関し、日本海洋掘削の業務執行を決定する機関が、更生手続開始の申立てを行うことについての決定をした旨の本件事実を知りながら、被推奨者に対し、本件事実の公表前に、日本海洋掘削株式を売付けさせることにより同人の損失の発生を回避させる目的をもって、同株式の売付けを勧めたものです(取引推奨行為規制違反)。

【事案の特色等】
 本件は、①上場会社社員自ら、勤務する会社に係る本件事実を職務に関して知りながら、当該事実が公表される前に当該上場会社の株式を売り付けたインサイダー取引規制違反、②職務に関して本件事実を知った上場会社の社員であった者から伝達を受けた者(この者も当該上場会社社員)が、当該事実が公表される前に当該上場会社の株式を売り付けたインサイダー取引規制違反、③職務に関して本件事実を知った上場会社の社員による取引推奨規制違反、についての勧告事案です(被推奨者も当該上場会社社員)。
 本件を含め、上場会社役職員によるインサイダー取引を未然に防止するため、上場会社の皆様におかれては、改めて、情報伝達・取引推奨行為に係る、内部情報管理体制の整備と、役職員に対する法令順守に関する研修等の必要性を認識していただきたいと思います。
 また、本件は取引推奨規制違反でも課徴金勧告を行っております。
 取引推奨行為については、平成26年4月に施行された「情報伝達・取引推奨規制」(金融商品取引法第167条の2)に基づき、取引推奨行為を行った者に対して課徴金納付命令を勧告することとされています。「情報伝達」と「取引推奨」の違いは、重要事実を伝えたか否かであり、「情報伝達」は重要事実を伝えたことが要件とされている一方、「取引推奨」は重要事実を伝えたことが要件とされていません。従いまして、本件事案の対象者(3)は、被推奨者に対し、重要事実の伝達をしていなくても、被推奨者における損失発生を回避する目的で、重要事実公表前に当該株式の売付けを勧めたため、取引推奨行為規制の対象となりました。
 ※「情報伝達・取引推奨規制」について、令和元年6月20日公表の課徴金事例集61ページのコラムで採り上げていますので併せてご覧ください。
 
 本件が広く周知されることにより、インサイダー取引行為や取引推奨行為の抑止効果が発揮されることを期待しています。 

<発行>
証券取引等監視委員会 事務局 総務課
    (情報公開・個人情報保護係)
〒100-8922 
東京都千代田区霞が関3-2-1
中央合同庁舎第7号館
電話番号:03-3506-6000(代表)

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