佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成19年11月12日(月)17時01分~17時33分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

冒頭、私から二点ほどございます。

第一点は、単身赴任者の出張に係る宿泊料の取扱いに関してでございまして、先週金曜日、11月9日に既に記者発表を行ったところでございますけれども、平成18年度決算検査報告において、当庁に単身赴任している職員が自宅の近くにある用務先に出張した際に、自宅に宿泊して宿泊代を要していないにもかかわらず、宿泊料が支給されているケースがあるとの指摘を受けました。このような事態が発生していたことは誠に遺憾であり、厳粛に受け止めているところでございます。

過去5年分の調査結果に基づき、該当分については、11月2日までに全額が国庫に返納されたところでございますけれども、金融庁といたしましては、再発防止策を徹底することにより、再度このような事態が発生しないよう万全を期してまいりたいと考えております。

第二点目は、IOSCOの東京コンファレンスについてでございます。先週のこの会見でもご紹介申し上げましたけれども、去る11月8日、9日の両日、証券監督者国際機構、IOSCOの国際コンファレンスが東京で開催されました。会合には、世界の46の国又は地域及び5つの国際機関から総勢411名の方々にご参加いただきました。我が国の国際金融市場としてのプレゼンスを示すという点でこの会合を開催できたことは有意義なことであったと思っております。

また、この会合に先立ち開催されましたIOSCOの専門委員会の会合においては、サブプライム・ローン問題に端を発した最近の市場の混乱に対応して、タスクフォースの設置が決定されたと承知をいたしております。このタスクフォースにおいて、証券監督当局として取り組むべき課題についての検討がさらに深まることを期待しております。なお、専門委員会会合において、同委員会の下で市場仲介者に関する規制監督上の課題を検討するIOSCOの第三常設委員会、スタンディングコミッティー・スリーという委員会がございますが、この議長に我が金融庁監督局の森田宗男証券課長が就任することが議決されましたので併せてご報告申し上げます。

さらに、この一連の会合の機会を捉えまして、渡辺大臣が米国証券取引委員会、SECのコックス委員長と会談されたほか、私自身も米国、英国、ドイツ、中国、韓国、オーストラリア及びドバイの計7カ国・10当局のトップ、ないしトップ級の方々と個別に会談を持つ機会がございました。最近の市場の混乱や市場の国際競争力強化に向けた取組、さらには当局間の連携強化といった共通の話題について意見交換を行ったところでございます。

金融庁は、海外当局との連携強化を金融規制の質的向上に向けた具体的な施策の一つとして位置づけているところであります。今後とも、トップ同士を含む様々なレベルでの意見交換、あるいは国際会議や国際機関への積極的な参画を通じて、海外当局との連携の一層の強化に努めてまいりたいと考えております。

私からは以上でございます。

【質疑応答】

問)

幹事から数点お伺いいたします。

今お話がありましたIOSCOの会議についてですけれども、まずタスクフォースが設置されたということですが、これについては、コックス委員長も来年の2月を目途にレポートを出し、これをFSFを通じてG7に報告したいという話があったと思うのですが、具体的にタスクフォースはどういう人たちによって構成され、どこでどのように議論をし、何のためにやるものなのかというタスクフォースについてが一点と、今、長官が当局間の連携を強化するとおっしゃいましたけれども、今後当局間の連携の強化というのは具体的にどのようなものを出すのか教えて下さい。

答)

まずタスクフォースですけれども、構成メンバーは日本を含む専門委員会のメンバーで構成されるものと承知いたしております。専門委員会は日本のほか、オーストラリア、フランス、ドイツ、香港、イタリア、メキシコ、オランダ、オンタリオ(カナダ)、ケベック(同)、スペイン、スイス、イギリス、アメリカで構成されています。国際的な会議ですので、あらかじめどこでということは多分まだ決まっていないと思いますけれども、然るべき場所で会合を持つということ、あるいは最近は情報通信も発達していますので、そのような手段も使ってということになると思います。

主だった議論といたしましては、今般の市場の混乱の中で焦点になっている証券化商品に関して、一つは証券会社におけるリスク管理のあり方、二つ目には証券化商品についての情報開示、特に投資家に対する開示のあり方、それから、このような証券化商品の価格評価、バリエーションのあり方、さらには格付機関の役割等に関して議論をすると承知いたしております。このタスクフォースでございますけれども、ご質問にございましたように来年3月に行われる予定のFSF、金融安定化フォーラムの会合に一定の報告を行うということを目指した作業スケジュールを念頭に置いていると理解しております。

それから海外当局との連携でございますけれども、今回のようなマルチラテラルな会議の場、そして様々なバイラテラル、二国間の協議の場というのを使って意見交換をし、情報共有をし、共通の課題について力を合わせて検討をしていくということだろうと思います。バイラテラルな協議の中では、例えば年一回などある程度定期的に行うという枠組みができているケースもありますし、必要に応じてお互いから呼びかけてやるということもあると思います。いずれにせよ、トップのレベル、実務レベルなど様々なレベルで中身の濃い意思疎通を図っていくことが大事であろうと思っております。

問)

二点目ですけれども、サブプライム問題ですが、サブプライム関連の損失が11月に入ってもさらに拡大しております。サブプライム関連商品だけではなくて、通常のCDOなどにも損失がどんどん広がっている状況ですけれども、(株価も)本日は年初来安値を更新してマーケットも終わりました。これまで、「大きな損失はない」、「日本の金融システムを揺るがすようなことはない」という認識であったと思いますけれども、こうした証券化商品の格下げが続く中、影響が心配されないのかどうか。先週末にみずほ証券の件で報道にもありましたけれども、このような状況も踏まえ現状についてお聞かせ下さい。

答)

ご指摘いただきましたように、特に11月に入って海外の大手金融機関で相当規模のサブプライムに関する損失等が報告され公表されていると承知をいたしております。また、このサブプライム・ローンの問題が、サブプライムそのもののマーケットだけではなく、サブプライムとは直接は関係のないCDO等にも広がり、あるいは広くクレジット市場にも広がり、さらには為替市場や株式市場にも波及しているという状況であります。元々、サブプライム・ローン問題は相当複雑な商品を対象とし、なかなかリスクの所在やリスクの規模が明確に計測し難いという特徴を持っていたわけでありまして、今後の動向を注意深く見ていく必要があるということは、夏以来私どもも思っておりましたし、皆さんにも申し上げてきたところでありますけれども、日本の金融システムへの影響という意味では、現時点において日本の金融システムに深刻な影響を及ぼすような状況にあるとは承知しておりません。こういう現状認識については変更ございません。もちろん、今後の市場動向を注意深く見ていく必要がありますので、将来に亘って断定的なものの言い方をすべきではないということは当然であります。ただ、これも先般来申し上げていることですけれども、日本の金融システムは、不良債権比率の低下、そして、そこそこの水準の自己資本比率というものを維持しているといったことに見られますように、全体としてその健全性が高まっているということがございます。また日本の金融機関のサブプライム関連商品に対する直接のエクスポージャー、あるいはリスクというものは全体として見れば、相対的に限定をされている。自己資本の厚み、あるいは期間利益の規模、あるいは業務全体の規模に照らして相対的に限定されているという現状認識をしているということでございます。

いずれにいたしましても、このサブプライム・ローン問題に端を発した市場の混乱というのは、その正常化までには相当の時間を要するということが見込まれますので、金融庁としては、各金融機関がこのような市場の動きも踏まえて適切にリスク管理を行っていくことが極めて重要であると思っております。そのような観点から金融庁としても日ごろから金融機関との情報交換、あるいはリスク管理の状況等についてのヒアリングを進めてきているということでございまして、夏以降は特に密度の高いヒアリングを行ってきているということであります。

今後ともこうした取組を通じて、幅広い観点から金融市場の動向、そしてそれを受けた金融機関のリスク管理の状況について関係当局とも連携しながら十分に注意深く見ていきたいと思っております。

問)

サブプライムに関連してなんですけれども、今日、株価のほうが、8月17日のサブプライムショックで下げた安値を下回るという状況にあるのですけれども、こうした株価の状況についてどう思われますか。

答)

大きく捉えた場合に、米国のサブプライム・ローン問題に端を発したグローバルな市場の混乱の影響が、その一部を形成している全体の株式市場にも及んでいるということであろうかと思います。特定のマーケットにおける特定の日の株価の動きについて、具体的なコメントは避けたいと思いますけれども、いずれにせよ、マーケットの動向については、今後とも注意深く見ていく必要があると思います。

問)

IOSCOの関連で、各当局のトップと個別の会談ですけれども、アメリカのコックス委員長とは会談はされたのでしょうか。されたのであれば、中身について、サブプライム関連などの話は出たのでしょうか。

答)

コックス委員長とは渡辺大臣が面談をされていますけれども、私も7ヶ国、併せて10の当局のトップ級の方々とお目に掛かりました。具体的に申し上げますと、米国は、SECのコックス委員長、それから商品先物取引委員会(CFTC)のルッケン委員長代行、英国が金融サービス機構(UKFSA)のサンツCEO、ドイツがドイツ連銀のレムスベルガー理事、そしてドイツ連邦金融監督庁、BaFinのザニオ長官、オーストラリアが豪州証券投資委員会(ASIC)のダロイシオ委員長、前任のルーシー前委員長、それからオーストラリア財務省のマーフィー副次官、さらに中国の証券監督管理委員会の尚福林主席、韓国の金融監督委員会のキム・ヨンドク委員長、そしてドバイの金融サービス機構(FSA)のノットCEOでございます。個別の会談について具体的にその会談内容に言及するのは控えさせていただきたいと思いますけれども、全体を捉えて申し上げますと、会談の内容として一つ目は、サブプライム・ローン問題に端を発する最近の世界的な市場の混乱、その原因分析や、今後の見通し。そして二つ目に、各国での市場の競争力強化であるとか、金融規制の質的向上への取組みといった話題。そして三つ目に、規制当局間の連携強化といったテーマについて意見交換をさせていただいたということであります。

問)

為替に関してですが、この1ヶ月で随分円高になった印象があるのですが、これは企業の業績やそれも含めた日本の景気、それから他の日本の金融機関に対してどの程度影響があるものなのかお聞かせ下さい。

答)

様々な市場の指標によって、それぞれ企業活動を行ったり、あるいは金融業務に従事している金融機関に影響が出てくるということは考えられるわけですけれども、具体的なこの時点での、各金融機関なり各企業への影響ということを、特定の日の市場の動きを捉えて申し上げるということは差し控えさせていただきます。

問)

サブプライムの問題の正常化するまで「相当な時間」というのは、これはどの程度なのでしょうか。

答)

そこに十分な根拠を持って明快な答えを出すことができればいいと思いますけれども、それほど容易な問題ではないというふうに思っています。先ほども申し上げましたように、サブプライム・ローンという貸出債権、これに含まれているリスクが証券化という金融技術の普及と相俟って非常に広くグローバルに世界のマーケットに分散しています。その分散している姿にあって個々のマーケットのどの投資家、あるいは金融機関がどれくらいのリスクを抱えているのかということについて、明確な全体像が現時点ではまだ捉えきれていません。またそれに加えて、証券化商品には非常に複雑な構造を持ったものも含まれていますし、そういった商品についてのプライシングという機能がマーケットにおいて低下しているということもあるわけでございます。また、SIV(ストラクチャード投資ヴィークル)あるいはコンデュイット(導管体)といったスキームの中で流動性補完について銀行がコミットをしているといったことも一般化しておりますので、流動性についての不確実性ということも広まっているということで、こういった様々な困難な要素を孕んでおります。こういったことを少しずつ乗り越えてマーケットが正常化していくには、まずはそれぞれの取引当事者においてしっかりした取組が進められる必要があって、おそらくそれには相当な時間がかかると思われます。

問)

サブプライム問題の関連ですが、協同組織金融機関、一部の信金が損失を受けて赤字になったということが出てきておりますが、特に大手銀行に比べて、証券運用の比率が高いという問題も持っておりますので、この形態を持った金融機関に対して特別に留意を払っているとか、こういったところを見ているとか、お考えをお持ちでしょうか。

答)

一部の協同組織金融機関が、先般サブプライム・ローンの関連で損失を計上するということが公表されたわけでありますが、当該金融機関の場合は九月末の仮決算時点において、自己資本比率も9%を超えるということで健全性の基準は十分満たしているということが一つはあろうかと思います。それから、これは先ほども申し上げましたけれども、このようなマーケットの激しい動きを踏まえた中で、各金融機関が的確なリスク管理を進めていただくということが極めて重要だと思っておりまして、夏以来、金融庁としてはかなり注意を払って、特定の業態に限らず個々の金融機関におけるリスク管理の状況についてモニタリングを、普段よりはより詳細に行ってきているところであります。そういう中で、各金融機関における財務の状況やリスク管理の取組について、できるだけ最新の状況の把握に努めているということであります。そういった作業を踏まえた上で、先ほども申し上げましたけれども、この問題が我が国の金融システムに深刻な悪影響を及ぼすような状況には、現時点においてはないというふうに承知しております。

問)

株式市場の低迷が続いていることと、正常化には時間を要するという状況の中で、証券優遇税制の再延長の必要性を求める声がまた強まるのではないか、というふうに言われていますが、どうお考えでしょうか。

答)

金融庁としての証券優遇税制の必要性についての認識は、従来から申し上げておりますように、「貯蓄から投資へ」の流れというのがまだ道半ばであって、この流れをより一層推進して広く国民に投資機会を提供することを通じ、国民が経済成長の果実を享受し、国民一人一人が、豊かさを実感できるような社会を作ることに貢献していきたいという思いでございます。従いまして、その時々の株式市況によって左右されるという性格のものでは必ずしもないわけでありますけれども、現在の状況を見てみますと、やはり日本の株式市場というのは、日々の取引量等に着目してみたときに、例えば6割程度が外国人投資家による取引であるといったようなことがありまして、むしろここで広く個人投資家を含めた日本の国民による、直接あるいは投資信託を経由した形での市場への参画というものが広がることによって、より安定的な構造を持った株式市場になれるのではないかという期待を持っているわけであります。そういったことで、証券優遇税制が是非必要であるという考え方で、金融庁としてはこの優遇税制の存続を、あるいは恒久化をお願いしているということでありまして、引き続きこういった点を訴えていって、関係の皆様のご理解を得られるように努力をしていきたいというふうに思っております。

(以上)

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