佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成19年11月26日(月)17時00分~17時35分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

私の方からは特にございません。

【質疑応答】

問)

新興市場についてですけれども、ジャスダック等の新興市場の再編問題が最近浮上しております。日証協はジャスダックや他の証券取引所との統合を視野に4案を提示していますけれども、金融庁として今後の新興市場のあり方と再編についてお考えをお聞かせ下さい。

答)

日本証券業協会において、自主規制等のあり方について検討するため特別委員会が設置をされたというように承知をしております。先日のこの委員会において、ジャスダック証券取引所と他の取引所との統合を含む4つの案が提示されたと承知しております。現時点において、具体的な方向性が出ているというふうには伺っておりません。

新興市場というのは、成長性のある企業への適切な資金供給を通じて、我が国経済の成長にも寄与しうるものであろうと思います。新興市場のあり方を含む取引所の再編そのものについては、基本的に各取引所の経営判断がまずは大事だと思いますが、先ほど申し上げましたとおり新興市場を含む我が国資本市場については、公正・円滑な取引がきちんと行われる場として経済全体の重要なインフラの一つを構成するものでありますので、現在における議論の状況は注視をしていきたいと思っております。

問)

サブプライムについてお伺いします。先週の木曜日に金融庁から9月末時点の国内の金融機関の保有残高、損失の金額等の発表がありました。9月末時点で保有が1兆3,000億円、損失が2,300億円でしたけれども、すでに主要銀行の損失の来年3月までの見込みは、3,000億円を超えるというようなことが言われています。そういう意味で金融庁が把握している数字が今後さらに大きくなるということが考えられると思いますけれども、その辺の見立てと、中小金融機関、例えば先週にも明らかになりましたけれども、瀧野川信金などでは今後の支援ということも踏まえて、優先出資を引き受けるような枠組を入れるなどの動きがあります。こういった意味で中小金融機関への影響と今後の見通しについてお聞かせ下さい。

答)

先週の木曜日、11月22日に、当庁から9月末時点での我が国預金取扱金融機関のサブプライム関連商品等の保有残高として、約1兆3,000億円、そして9月期における実現損、評価損がそれぞれ約1,200億円、約1,100億円という数字を公表させていただいたところであります。今ご指摘いただきましたように、例えば主要6行だけで来年3月期、この現在進行中の会計年度の下期まで含めると、サブプライムの関連損失が、3,000億円を超えるといった水準に昇るという報道も一部されていると承知しております。サブプライム関連商品につきましては、この9月決算を閉めた以降、9月末より後、10月以降において、一部の金融機関において追加の損失を見込んでいるというふうに承知をいたしております。したがって、損失額という意味では先週金融庁が公表いたしました実現損、1,200億円に追加が有り得るということだと思いますし、評価損1,100億円についても今後のマーケットの動向によってその金額がさらに大きくなるということは論理的に有り得るということですし、最近の市場の動向を見るとある程度大きくなっているということだと思います。

ただし、以下の点に鑑みますと、預金取扱金融機関全体として見て、これらの商品等にかかるリスクについては、対応可能な状況にあると考えています。

第一点目ですけれども、この問題は元々グローバルな広がりの中で問題を捉える必要があると思いますけれども、ご案内のとおり、グローバルに見たときに、この原資産であるサブプライム・ローンの市場というのは150兆円程度あるというふうに言われておりまして、これを元に組成されている証券化商品の規模というのは、これよりさらに大きいのではないかと言われております。つまり、このサブプライム・ローン150兆円の例えば7~8割が証券化されていて、ただし証券化されるときにサブプライム以外の原資産もその証券化商品の中に取り込んで商品を作っていますので、言ってみれば、サブプライムを含んだ証券化商品というのは、この150兆円よりも相当大きな数字になるのではないかいうふうに言われているわけです。そういった相当大きなグローバルな証券化商品の規模に対して、我が国の預金取扱金融機関が9月末時点で保有しているサブプライム関連証券化商品の総額が、大手行合計で1.2兆円、預金取扱機関合計で1.3兆円ということですから、このグローバルな広がりの中で、我が国の金融機関のエクスポージャーというのは相当に限定をされているということが言えようかと思います。

先週の公表は損失額とか評価損だけではなく、1.3兆円というエクスポージャーの額を公表させていただいたというところがポイントでございます。先ほども今後追加の損失が有り得るということを申し上げましたけれども、基本的にはオフバランスでとんでもないポジションを持っていない限り、基本的には今後追加損失があるとしても、この1.3兆円というエクスポージャーの範囲内での話になるということが一つのポイントであろうかと思います。そこで、今度は国内金融機関の財務の健全性ということに第二点目として目を転じますと、大手行をはじめとする金融機関の自己資本の規模、これは主要行で23兆円、預金取扱金融機関で40兆円という規模ですけれども、それに照らした場合、あるいは業務純益、主要行で4兆円弱、預金取扱金融機関で6兆円規模、こういった規模に照らして考えたときには、先ほど申し上げたような日本の金融機関のサブプライム関連商品に対するエクスポージャー、あるいは関連損失というのはかなり限定をされているという評価ができるのではないかというように思います。

以上二つの大きな理由によりまして、改めて申し上げますけれども、現時点においてはサブプライム・ローン問題が我が国の金融システムに深刻な影響を与えるような状況にはないというふうに認識をしております。

それから、ご質問にありました瀧野川信金ですけれども、19年9月末仮決算における自己資本比率を9.4%というふうに公表しておりまして、当然のことながら健全性の基準は満たしています。さらに、同信金によりますと、直近の状況におきましても有価証券の評価損は自己資本で十分吸収できるという趣旨の公表をされているということかと思います。その上で、この瀧野川信金においては今後さらに国際金融市場の混乱が深まり、万一、資本増強が必要となった場合は、信金中央金庫への支援要請を含め必要に応じ検討するという旨を公表していると承知をいたしております。これは、金融庁がかねてからその重要性を指摘してきました早期発見・早期対処、リスクの発生を早期に認知し、早め早めの経営対応を目指すというこの取組みの一環であるというふうに思っております。

以上申し上げましたけれども、ご案内のとおり他方でグローバルな金融市場の混乱は続いているということであって、欧米を中心としてその影響もサブプライム・ローンと直接関わりのない証券化商品等の市場にも広範に及んでいます。また、欧米の金融機関の一部が巨額の損失を公表しているという状況にあります。市場の正常化にはある程度の時間がかかるというふうに言われている中で、金融庁としては引き続き警戒を怠ることなく、中小金融機関への影響も含めて幅広い観点から金融機関のリスク管理の状況、そして金融市場の動向について、関係当局と連携しつつ、十分に注視をしていきたいと思っております。

問)

足利銀行について、先週の木曜日に第三段階までに残っている候補が金額を提示、最終計画案を提示しました。これまで、詳細は従前から発表されておりませんが、個別名とか中身の細かい数字は別として、今回出てきた複数の案をご覧になって率直なご感想をお聞かせください。金額がそんなに大差がないとなると、どういった点を重視なさるのでしょうか。今までの三原則はありましたが、その三原則以外の点でもう少し具体的にお聞かせ願えればと思います。

答)

事実関係としましては、先週11月22日に、第二段階を通過した全ての受皿候補から譲受条件等の提出を受けました。受皿選定作業においては、受皿候補の公正な競争及び審査の公平性、中立性を確保することが極めて重要でございます。ご案内のとおり、金融庁としては受皿候補の数や名称は言うまでもなく、受皿候補から提出を受けた事業計画書の内容についても公表しないこととしておりますので、これらに関する直接のコメントは差し控えさせていただきたいと思います。

審査の基準ですが、第三段階においても従来から申し上げております三つの基本的な審査基準、すなわち、「金融機関としての持続可能性」、「地域における金融仲介機能の発揮」、そして「公的負担の極小化」、これらに則って審査を行うことに変わりはありません。ただ、第三段階で、三つ目の「公的負担の極小化」という、金額に係わる部分についての審査がより具体的なものになっていくという点は新しい要素かと思います。金融庁としては、この受皿選定手続きの透明性、公平性を確保することが重要であるというふうに考えております。したがって、全体の大きな枠組み、すなわち、受皿の検討開始にあたって、三つの基本的な審査基準の話は、あるいは、三段階で受皿選定を進めるといったことは明らかにさせていただいておりますし、また、足利銀行の受皿選定に関するワーキンググループを設置して、そこでの委員の方々のご意見を随時伺いながら、厳正、公正な審査に取り組んでおります。最終的に受皿を決定した段階においては、今後の足利銀行の経営、あるいは落選した受皿候補の競争上の地位、その他正当な利益に支障を与えない範囲内で、受皿選定の経緯やその理由について、できるだけわかりやすく説明を行いたいというふうに思っております。具体的にどういった説明をさせていただくかについては、今後検討してまいりたいと思っております。

審査基準について、もう少し具体的にというご要望でございますので、若干補足をさせていただきますと、まず、一つ目の「金融機関としての持続可能性」という点については、金融機関としての使命、役割を十分理解した経営理念や方針、そして、経営管理態勢、ガバナンスをしっかり確立できるといったこと。それから、自律性のあるリスク管理態勢を構築できること。さらには、十分な自己資本を確保するとともに、安定的な収益力を定着させることによって、財務の健全性を維持・向上できること。こういったことが一つ目の基準の構成要素であります。二つ目の「地域における金融仲介機能の発揮」ということでございますが、これについても三つぐらいにブレイクダウンできると思います。一つは栃木県を中心とする地域において、金融仲介機能を継続的に発揮することについて、明確なコミットメントが存在していること。二つ目に一時国有化の下で進められてきた収益力の強化、資産内容の健全化及び業務運営の効率化、これらの成果をベースとして、これらをさらに発展させることのできる業務執行態勢、人事管理政策を確立させる。三つ目に、地域の利用者の信頼を得つつ、地域密着型金融を推進すること、利用者利便の向上や地域の活性化に継続的に貢献できることが必要であります。そして、大きな三つ目の審査基準につきましては、「公的負担の極小化」ということでございますが、これは、企業価値の適正な評価というふうに置き換えてもよろしいかと思いますが、足利銀行の企業開示を適正に評価していただくこと。それから、もう一つは足利銀行の譲受に必要な資金を確実に調達できること。こういったことが構成要素になっております。以上です。

問)

足利銀行の決算の発表がありましたが、これについて感想といいますか、またご意見を伺えますでしょうか。

答)

今、手元に具体的な数字等を持ち合わせておりませんけれども、これまで、経営の健全化に関する計画、3年間の計画に沿った取組が行われて、その成果がいわば、今年の3月期、平成19年3月期の決算までに結果として現れているということだろうと思います。取引先との関係をより盤石なものにしていく。あるいは、個人向け商品等の販売にしっかりと取り組む。そして、資産内容の健全化を進める。そして、さらには銀行の中の経営管理をより自主性の高いものにしていく。こういった取組が成されて、それなりの成果が出てきているということだろうと思います。この本9月期の決算についても、こういった大きな方向性に沿った成果が出てきているというふうに思います。

問)

サブプライムの関連ですが、一つはこの問題は7月からヒアリングなどで状況としては把握されてきたと思いますが、この段階で公表するという判断に至った理由を伺いたいのと、今回、新生銀行やあおぞら銀行等が入っておりませんが、それがなぜ抜けているのか、及び今後、そういったところを入れたものを公表していくのか。あるいは証券会社も入っていませんが、金融グループに入っているものは除いては、そういうものも含めて公表していくのか。あるいは今後の公表の頻度について、こういった決算に合わせてということなのか、随時、そういった状況を合わせて公表していくのか、そのあたりを伺えればと思います。

答)

まず、なぜこの時期だったのかということについては、一つは9月期の決算が発表されるという中で、個別行ごとにサブプライム関連についての言及も含まれるという状況がございまして、この9月期決算、この9月末という区切りのいいところで全体の状況を共通の基準に沿って集計をして、公表をさせていただくということは、我が国のこの問題に係る状況について、情報発信をしていくということで意義の大きなことである、という判断をしたということであります。それから、今回の数字は、基本的に預金取扱金融機関ということで、エクスポージャーにして約1.3兆円という数字を公表したわけですけれども、その中に、新生銀行、あおぞら銀行が含まれていないというのは、たまたま、いわゆる主要行というグルーピングの中には入っていないということでありますので、そこは、グルーピングの仕方の問題であろうかと思います。

それから、保険会社、証券会社の状況ですが、まず、この今回の預金取扱金融機関のエクスポージャーなり、損失額を集計するにあたっても、事務的には相当な苦労があったということをご理解いただきたいと思います。つまり、どういう共通の基準で、どの範囲のものを集計していくのかというところが、非常に難しいわけです。そして、今回の集計値は証券化商品でサブプライムという原資産が何らか含まれているものということで、そういう共通項で拾ったということです。

それを前提として、発生している損失ということで、視野を広げますと、保有しているサブプライム関連の証券化商品の売却損、評価損だけではなく、一部は自ら、主として欧米において、証券化ビジネス、セキュリタイゼーションというビジネスを行う、すなわち、サブプライム・ローンという原資産を自ら購入して、証券化をし、それを販売するという商売を直接やっていて、そのことに関連して、評価損、あるいは売却損が出てきたということもあるでしょうし、あるいはSIV(ストラクチャード投資ヴィークル)ないしABCPコンデュイット(導管体)といわれているようなスキームを使ってビジネスを行っていたというところもあるわけです。こういうビジネスを直接やっているというのは、基本的に欧米のマーケットにおいてであるわけですが、我が国の金融機関でこういう関わりを有しているのは比較的大きなところ、自己資本の厚いところでありまして、それぞれの金融機関において、自己責任に基づいて、しっかりとしたリスク管理を行っていただく中で、取り組んでいただくべきものだろうというふうに思っています。これとは別に、保険会社は引き受けた保険、あるいはデリバティブズの関係で損失が一部出てくるといったことがあるかと思いますけれども、これも大手の保険会社を中心とした世界の話になっている。現時点においては、そういったことになっているということだろうと思いますので、ここにおいてもそれぞれの金融機関、証券会社、保険会社を含めた金融機関において、しっかりとしたリスク管理を行っていただくということが大事だと思います。

今後、どれくらいの頻度で集計をし、公表をするかということについては、今後の話でございますので、今この時点で具体的なことを申し上げるのは差し控えたいというふうに思いますけれども、節目において必要な情報提供・情報発信に努めていくということは金融庁の基本的な方針であるということでございます。

問)

今、サブプライム以外の証券化商品のところですが、欧米では影響が及んでいるという話がありましたけれども、国内金融機関のサブプライム以外の証券化商品の影響の9月末、あるいは3月末の規模感と、それぞれの金融機関でリスク対応可能といった、原資産ベースの集計でおっしゃったかと思いますが、サブプライム以外の証券化商品を含めた金融機関の影響についてのご認識をお願いします。

答)

日本国内の証券化商品というのは、もちろん証券化ビジネスというのは世界の金融機関でかなり普及していますので、日本の金融機関でも行われていますけれども、日本で証券化されている証券化商品というのは、例えば、売掛債権であるとか、あるいは日本国内の住宅ローンであるとかということで、信用度の非常に高いもの、あるいはものによっては短期の債権等が中心であって、基本的な構図がサブプライム関連の証券化商品とは大きく異なるということがあると思います。したがって、日本国内で組成されている証券化商品について、サブプライム・ローンと同様の問題が生じているという報告は現時点で私自身は受けておりません。この証券化商品全体のグローバルな規模というのは、そもそも諸外国の当局も把握はしていないと思いますし、この証券化という金融技術がこれだけ一般化し、これだけ金融機関のビジネスの中に取り込まれている、使われているという実態の中で、それについて何か問題視をして集計をするというアプローチは、今のところ取られていないのではないかというふうに思います。要するに、サブプライムと全く関係のないごく当たり前の証券化商品というものもあるわけでしょうし、サブプライムに限定した形ではありましたけれども、こういう形でサブプライムの入った証券化商品のエクスポージャーを集計ベースでまとめたというのも、おそらく世界の主要な監督当局の中で、私が現時点で知る限りでは、日本が初めてではないかというふうに思っております。

いわゆるマーケット全体で、この疑心暗鬼、あるいは不確実性に対する意識が高まっている結果として、サブプライムが入っている証券化商品に類似しているのではないかという思いを抱かれている金融商品については、取引が成立しにくくなってきている、あるいは値段がつきにくくなってきているという状況があるのは事実だろうと思います。したがって、サブプライムの入った証券化商品だけではなくて、その周辺部分にも影響が広がってきているという実態はまさにあるのではないかと思います。そこで大事なことは、どこの金融機関がどれくらいのエクスポージャーを持っているかが見えてくるということや、マーケットで価格が成立するような状況に早く改善をしていく、その中で、価格発見機能というのが回復をされていく、あるいはそのマーケットにおける流動性といったことも改善していく、ということが強く望まれているという状況だろうと思います。

(以上)

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