佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成19年12月27日(木)17時00分~17時29分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

私の方からは特にございません。よろしくお願いします。

【質疑応答】

問)

幹事社から二問お願いします。一問目ですが、先週末に金融・資本市場競争力強化プランが正式に発表されました。包括的な金融改革プランとして非常に期待されておりますが、改めて今回のプランの評価と期待をお聞かせ下さい。

答)

先般、12月21日に金融・資本市場競争力強化プランを取りまとめ公表することができました。これは、それまでかなり長い時間をかけて、金融審議会でのご議論など様々な関係者のご協力をいただきながら、この我が国の金融・資本市場の競争力をいかに強化していくかという点についての検討を進めてきた成果でございます。ご案内のとおり、このプランの四つの大きな柱は、第一に信頼と活力のある市場の構築、第二に金融サービス業の活力と競争を促すビジネス環境の整備、そして第三によりよい規制環境、ベター・レギュレーションの実現、第四に市場を巡るその他様々な周辺環境の整備ということでございます。今般のプランは相当包括的なものであると思っておりまして、競争力強化に向けたこういったプランを策定できたことは、時宜に適ったものであり、また大変意義深いものだというふうに思っております。

大事なことはこのプランをきちんと実施に移していくことによって成果を出していくということだと思います。金融庁としては、内外から資金・情報・人材が幅広く集積する魅力ある質の高い金融資本市場の構築に向けて、このプランに盛り込まれた施策についてスピード感をもって実施に移していきたいと思っております。さらに、こういった取組によって整備された環境のもとで次に大事なことは、プレーヤーである金融業、金融機関自身の取組でございます。金融機関自身の自主的な取組が重要であるということは論を俟たないわけでございます。それぞれの金融機関が自己責任に基づいて創意工夫をこらし、多様で質の高いサービスの提供に努めていただく、ベストプラクティスを競い合っていただくことが不可欠でございまして、こういったプレーヤーの努力を通じて初めて具体的な成果というものに結びついていくと思っております。

問)

次に、今年最後の会見ということで、この一年を振り返っての総括をお願いいたします。金融庁、金融行政にとって平成19年がどのような1年だったか、また長官ご自身としても就任から半年経過されたご感想を併せてお聞かせ下さい。

答)

この1年、大変盛り沢山の出来事があり、あるいは政策面での成果というものがでた年ではなかったかと思っております。ご案内のとおり、金融庁には金融システムの安定、利用者保護・利用者利便の向上、そして公正・透明で活力ある市場の確立という三つの大きな行政目的・任務が課せられております。

五点ほど振り返って申し上げたいと思いますが、第一点目は金融システムの安定に係る話でございますが、まずはサブプライム・ローン問題でございます。夏以来、サブプライム・ローン問題の顕在化によりまして、欧米の一部の金融機関等において多額の損失が発生するといったことを含め国際金融市場は深刻な影響を受けたわけであります。また、現に受けているということであります。金融資本市場への影響は、サブプライム・ローンと直接は関わりのない証券化商品の市場全体や、さらには短期金融市場、為替市場、そして株式市場にも及んだわけでございます。言ってみれば、市場を発信源とする混乱ということでございまして、ある意味で21世紀型の危機というものが起きたと思います。現時点において、この問題が我が国の金融システムに深刻な影響を与える状況にあるとは考えておりませんけれども、このグローバルな金融市場の混乱というものは続いているということでございます。金融庁としては警戒を怠ることなく引き続き金融機関のリスク管理の状況、また金融市場の動向等について注意深く見ていきたいと思っております。

この金融システムの安定という話題に関しては、預金取扱金融機関に対するバーゼル II の適用というものが、本年の3月期から開始されたということがございます。このバーゼル II の適用は、諸外国に先行して我が国が実施に入ったということでございまして、ご案内のとおり、このバーセル II の基本理念というのはリスク計測の精緻化、さらには市場規律の活用といったことを通じて、各金融機関がリスク管理の高度化に自発的に取組む強いインセンティブを与えるものであります。経営の高度化に向けた各金融機関のさらなる自助努力を期待しているということでございます。

第二点目は、市場の関係でございますけれども、この関係では先ほどご質問いただいた金融・資本市場競争力強化プランというものを12月21日に取りまとめ、公表することができたということがおそらく最大のイベントであったと思っております。我が国の金融セクター全体がいわば、安定を重視したものから活力を重視したものに移行する局面にもあったということでございまして、強化プランはこういった我が国金融セクターの局面シフトにも対応する時宜に適ったものであると思っております。先ほど申し上げましたように、プランに盛り込まれた具体的な施策を、スピード感をもって着実に実施していくということが大事だと思っております。

そしてこれに先立つもう一つ大きなイベントとして、市場の基盤を整備するという意味で本年の9月末に金融商品取引法が全面施行されたということがございます。ご案内のとおり、この法律は規制の横断化・柔軟化による利用者保護 ―柔軟化というコンセプトは、イノベーションを阻害しない形での利用者保護の徹底という趣旨でございますが、その利用者保護― と、それからもう1つ大きな柱、市場の公正性・透明性の確保を図る、万全を期するという意味で非常に重要な法制であると思います。期を画する法制であろうかと思いますので、これの円滑な定着と共に適切な運用に心がけていきたいと思っております。また、先の通常国会では、改正公認会計士法が成立をいたしました。会計監査の充実強化を図り、企業開示に対する国民の信頼をより確かなものにするということを目的にしているといくことでございまして、これもいわば市場の基盤整備の一環と捉えることができるかと思います。

この金融商品取引法の施行というのを第三点目と位置づけますと、利用者保護の分野に目を転じまして、第四点目でございますけれども、一つは改正貸金業法の施行という取組みを進めてきているということでございます。本年4月に多重債務者対策プログラムを策定し、相談窓口の整備・強化、あるいはセーフティーネット貸付の提供といった取組みも進めてきたわけであります。また少し色合いが違いますけれども、やはり先の通常国会で電子記録債権法が成立をいたしました。これは、電子的な手段による債権譲渡を可能とするということを通じて、事業者の方々の資金調達の改善に資するということで、利用者利便に大きく資するものであろうかと思います。さらにまた、利用者利便という観点から、12月22日に銀行等による保険商品の窓販が全面解禁されたということでございまして、販売チャネルの多様化を通じた利用者利便の向上というものとして位置づけられようかと思います。

最後の第五点目は、いわば金融庁自身の仕事の仕方についての話でございますけれども、ベター・レギュレーション、金融規制の質的向上という取組でございます。これは先ほどの金融・資本市場競争力強化プランの四つの柱の一つとしても位置づけられておりますけれども、この競争力強化プランの中では次の五点に集約をして折り込まれているということでございます。第一、対話の充実とプリンシプルの共有、第二、規制監督の透明性・予測可能性の向上、第三、海外当局との連携、第四、市場動向等の的確な把握と効果的な行政対応、第五、職員の資質向上、といった項目でございます。

金融庁は皆様方とともに来年から新庁舎において新しいスタートを切ることになります。金融システムの安定、利用者保護・利用者利便の向上、公正・透明で活力のある市場の構築という金融行政の三つの基本的な目的は不変でございまして、これらの各般の施策に引き続き職員一丸となって、しっかりと取り組んでいきたいと思っております。

長官就任後の半年についての感想は、浅学菲才の身にはあまりに多くの課題があるというのが実感でございますが、国民のための行政という原点を忘れることなく、引き続き精進してまいりたいと思っております。

問)

日本証券業協会なのですけれども、保有するジャスダック株の売却について大阪証券取引所と交渉を始めるということを決めたのですが、ジャスダック再編の動きが始まったことに対する長官の受止めと、国際競争力強化もさることながら、国内の取引所の再編について長官はどのようなご認識を持っていらっしゃるのかについて教えて下さい。

答)

本日の発表は、日本証券業協会会長コメントという形で、「日本証券業協会と大阪証券取引所との間で、ジャスダック証券取引所株式の売却についての協議を進めることとし、今後、条件面等の内容を詰めていく」という内容であったと承知をいたしております。これは、日本証券業協会で自主規制等のあり方について検討をするため、特別委員会を設置し議論が行われてきて、本日の委員会において、このような方向性を打ち出されたということだろうと思います。

取引所の再編については、第一義的に各取引所の経営判断に属する事柄でございます。したがって、関係当事者においてまずは判断されることだと思っております。当局の立場からは、様々な局面があるかもしれませんけれども、市場に混乱を生じさせないということに十二分に配慮していただくということが不可欠であろうと思いますし、将来を見据えたときに、我が国の市場全体、我が国全体として新興市場をしっかりと発展させていくという前向きな観点に立って全体を考えていくことが重要ではないかと思っております。

問)

ジャスダック関連なのですけれども、日本証券業協会など自主規制の役割が高まっていく中で、日本証券業協会のような組織がジャスダックというところの株を持っているのは好ましくないのではないか、という意見もあるようですけれども、その点についてのご見解をお聞かせ下さい。

答)

自主規制機関としての役割と取引所の株主という立場、この二つについての関係について日本証券業協会ご自身が様々な検討をなさったのだろうと想像をいたしております。大事なことは、それぞれの役割がきちんとしたデュープロセスを経てしっかりと執り行われるということであろうかと思います。個別具体の経緯、事柄についてはコメントを差し控えたいと思います。

問)

先ほどの1年の総括の中で、ベター・レギュレーションについては、強化プランでも今後ますます強化されていくということだったと思うのですけれども、金融機関との対話の充実でありますとか、プリンシプルの共有について、この半年間の進捗度合い、金融機関の捉え方について長官自身はどのように認識されていますでしょうか。

答)

もう少ししたら、全体の進捗状況を振り返ってみたいと思っているところでございますので、現時点ではあまりきちんとしたコメントができないわけですけれども、ベター・レギュレーションの具体的な内容やその趣旨、背景にある考え方といった点を含めて、夏以降、各業界団体の会合の場で金融機関の経営者のみなさんにお話をさせていただき、また意見交換ということもさせていただいてきている中で、そのこと自身が一つの大事な対話であろうかと思いますし、そのような中でそれぞれの立場から忌憚のない意見を披瀝し合うということが大事だろうと思います。

ご案内のとおり、この対話ということについては、当局にとっても大変に意味のあることですし、監督される金融機関にとっても意味のある話であると、夏以来、私から申し上げてきております。つまり、当局にとっては、実際のビジネスの現場でどのようなことが行われているのか、あるいはマーケットの新しいトレンドとしてどのようなことが出てきているのか、このような点をアップ・トゥ・デート(適時)に把握する上で非常に重要なチャネルであるということでしょうし、また規制を受ける金融機関側からすると、日ごろから当局と様々なやり取りをすることによって、当局が抱いている問題意識、あるいは当局として考えている方向感といったものについて把握することが可能ですから、そのような意味で金融機関側から見た当局の対応の予測可能性、透明性が高まるというメリットがあるのだろうと思います。

一連のやり取りを通じていく中で、自然と大きな規範、プリンシプルというものについて、規制する側とされる側との間で共有できるような部分が広がっていくのではないかという期待を抱いているわけであります。法律に書いてあるからやらなければならないという意識だけではなく、この国の金融システムの安定、あるいは利用者保護・利用者利便の向上、市場の透明性・公正性の確保といった大きな目的のために、何が望ましいのかという方向性について共有できるということが大変重要ではないかと思っておりまして、このような点も繰り返しお話をさせていただいているところでございます。ぜひ、このような趣旨を金融機関のみなさまにもご理解いただき、共有していただくことによって、対話の実がでてくるように我々も努力したいと思いますし、そうなることを期待しているというところでございます。

問)

ソブリン・ウェルス・ファンドについてですけれども、アメリカの金融機関にも多額の資金が入っていて、一方、日本の事業会社などにもお金が入っている状況だと思うのですが、当局として、今現在、日本にいろいろなファンドなどを経由して入っているものもあるかと思うのですけれども、いわゆる政府系のお金というものについて、実態はどこまで把握されているのでしょうか。

答)

いわゆるソブリン・ウェルス・ファンドが世界の金融・資本市場の中で非常に大きな位置を占めてきていて、アジア・中東地域でかなり大きな規模の、いわゆるソブリン・ウェルス・ファンドが存在していて、アクティブな活動をなさっているということについては承知をいたしております。その投資活動全体について詳細を承知しているわけではありませんで、断片的な情報は入ってきておりますけれども、そのような現状認識については、これからもう少し全体像をできるだけ捉えて分析をしていくという取組が必要であろうかと思っております。ご案内のとおり、我が国からは財務大臣が出席された先のG7で、ソブリン・ウェルス・ファンドによる投資資金が世界経済の成長に大きな役割を果たしているという認識、同時に、ソブリン・ウェルス・ファンドの組織構造、リスク管理、透明性や説明責任といった分野でベストプラクティスを策定することに意義があるのではないかといった問題意識、また、そのような問題意識からIMF、世界銀行、OECDに対して、このような問題を検討することを要請するといった内容の共同声明が出されているわけであります。

いずれにいたしましても、ベター・レギュレーションの中にも入っておりますけれども、マーケットの動向、なかんずくグローバルなマーケットの動向をきちんとフォローして、そのマーケットの動きがどのような影響を我が国の市場や我が国の金融システムに及ぼすのかという点についてできるだけ早め早めに分析をすることが極めて重要だと理解しております。そのような意味で、先ほども申し上げましたように、幅広く情報収集に努めるということでありましょうし、ソブリン・ウェルス・ファンドの状況やこれに関する国際機関の検討について十分注意して見てまいりたいと思っております。

このようなソブリン・ウェルス・ファンドから出資を受ける金融機関も含めた個々の企業の個別事案につきましては、優れてそれぞれの企業の高度な経営判断ということであろうかと思います。金融機関の場合であっても、各金融機関が自らのおかれた状況、あるいはビジネスモデルの展開などの戦略を踏まえて慎重に検討していくことになるのではないかと思います。

それではよいお年を。

(以上)

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