佐藤金融庁長官記者会見の概要
(平成20年1月10日(木)17時05分~17時32分 場所:金融庁会見室)
【長官より発言】
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。
私の方からは特にございません。
【質疑応答】
- 問)
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幹事社からお願いします。年明けから東京市場で株安が続き、海外でも市場が荒れていますけれども、こういったマーケットの状況に対する受止めや認識と併せて、サブプライム問題の現時点での受止めを改めて伺えますか。
- 答)
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マーケットの動向は、様々な要因を背景として動いておりまして、その要因について断定的なコメントを申し上げるべきではないと思いますけれども、昨今のマーケットの動きについてはグローバルなスケールで投資資金が移動をしているということが言われていると思います。その資金は非常に大きな規模で株式市場、債券市場、そして商品市場の間を巡っているということで、それがそれぞれのマーケットにおける動きに反映されているということなのかもしれません。その中で資金が動く動き方の一つの要因としておそらく、フライト・トゥ・クオリティ(質への逃避)あるいは安全資産への傾斜といったことも要因になっているのではないかというふうに思います。また、さらに大きな背景としては、サブプライム問題を巡る不透明感というものがあり、またこの正常化には相当程度の時間がかかるのではないかという見方がある中で、実際に欧米の大手の金融機関が損失計上を発表したり、あるいは米国における実態経済の弱さを示すようなシグナルが出てきたり、そういったことが今後の企業業績全般についての慎重な見方につながったりといった要因が背景にあるということはマーケットの関係者の間で言われているということかと思います。そして、我が国の株式市場も同様の弱い動きをしているわけでありますけれども、やはり、一番大きな要因はこういうグローバルなマーケットの動向に強く影響を受けているということではないかと思っております。
サブプライム・ローン問題ですけれども、この点については、グローバルな調整、あるいは正常化に向けたさらに相当な努力、様々な取組みというものが必要とされている状況で、正常化にはまだ少し時間がかかるというのが一般的な認識であろうかと思います。こういった中で、こういうグローバルな状況というものが、我が国の金融システムそのものを不安定化させるということがないように金融庁としては注意深く対応をしていきたいと思っております。マーケットの動向を注意深くフォローすると同時に、個々の金融機関のリスク管理の状況についても引き続き注意深く見ていくということが大事であろうかと思います。ただ、先般も、9月末時点における預金取扱金融機関のサブプライム関連証券化商品に対するエクスポージャーの額、あるいはそれに対応する評価損の額、あるいは9月期までに発生した実現損の額というのを公表いたしましたけれども、エクスポージャーあるいは保有額としてトータルで1.4兆円ということで、この問題のグローバルな大きさからすると、相対的に限定をされているということでありますし、9月末以降、10月に入ってからもこの関連する証券化商品の値下り等によって評価損が拡大するといったようなことが起きているかとは思いますけれども、全体のエクスポージャーそのものが1.4兆円ということでございますので、その範囲内での動きということであり、かつまたこういった数字と比べたときに、我が国の金融機関の自己資本の厚み、そして年間のフローとしての利益の水準といったものを考え併せますと、このサブプライム・ローン問題が直接我が国の金融システムを揺るがすような、そういった大きな悪影響を及ぼすような状況にはないというふうに引き続き認識をしております。いずれにいたしましても、この問題については引き続き十分な注意を払ってフォローをしていきたいというふうに思っております。
- 問)
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今日、自賠審が開催されましたが、その議論の内容と今後の見通しについてお聞かせ願えますか。
- 答)
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自賠責保険審議会が本日開催されまして、20年度の自賠責保険に係る基準料率等についての審議が行われたというふうに伺っております。本日の審議会では、保険金支払が当初の想定を下回って推移したといったような要因で累積運用益等が当初見込みを上回っているためにその活用についても議論がなされたということでございます。議論の結果、累積運用益等の上ぶれ分を有効活用する形でこれを基準料率の引下げに当てることとし、現状よりも契約者負担を軽減するという方向性が示されたというふうに承知をしております。具体的な改定の内容については、次回の審議会のご審議を待つということになります。金融庁では、審議会でのご審議の結果を受けて決定がなされれば、それに対応した必要な手続きを進めていくことになろうかと思います。
- 問)
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今日示された自賠審の案とそれに対する議論はどういったものが出たのでしょうか。
- 答)
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私は直接出席しておりませんので、詳細は承知しておりませんけれども、具体的な案というのは今後、損害保険料率算出機構が新たな基準料率を届け出るというプロセスがございまして、この届出の後に再度審議会でご審議をいただくという段取りになっているということでございます。したがって、数字の面を含めた具体的な案が今日示されたということではないというふうに承知しております。
- 問)
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自賠責審議会の質問ですが、昨日、(監督局)保険課に問い合わせたところ、日程に関しては調整中で審議会が行われた後にホームページで公表しますという回答を得たのですが、他の金融審などは日程なども発表されて、かつ傍聴できるものができるものが原則なのに対して、なぜ自賠審だけこういうような取扱いなのですか。
- 答)
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のちほど確認してみたいと思います。ちょっと今、この時点でお答えできる材料を持ち合わせていません。
- 問)
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株安の件ですが、グローバルな資金に影響を受けていることと、サブプライム問題を指摘されましたけれども、日本のサブプライム問題が相対的に限定されているにもかかわらず、日本株が世界の株と比べて下げが大きいのですが、そのあたりの背景なり要因なりについてどのようにご覧になっておりますでしょうか。
- 答)
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ご指摘のように、日本株の下げ幅が大きいというのは、私どもとしても一つの問題として認識しておくべき点だろうと思っております。おそらく、様々な要因があって、具体的なコメントは避けるべきだと思いますけれども、我が国の株式市場はご案内のとおり、日々の取引量で見ると外国人投資家のウェートが5割を超え、6割というような数字になっているということで、海外の投資家のビヘイビアの影響を強く受けるといったようなことは、一つの検討すべき、研究すべきポイントかなというふうには思っております。あとあえて申しあげれば、今般の一連のサブプライム問題の顕在化の過程で、同時に円高が進行しているということもあり、我が国の優良な企業の相当部分が輸出を武器としているといった側面も着目されているのかなという感じはいたします。ただ、今申し上げましたのは、あくまで例示でございまして、どういった要因でこういう動きになっているのかということを特定するのは避けるべきだろうと思っております。
- 問)
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取引量が新興市場に限らず、全体の市場の取引量が過去15年前から比べても、日本は変わらない、若しくは下がっている。海外の主要マーケットを見ると格段に増えていると思いますが、そういった意味での地盤沈下は最近、とみに言われると思いますが、今回強化プランをまとめられましたけれども、商品を多様化するとか、いくつか項目はあるかと思いますが、この強化プランというものが、こういう昨今言われている地盤沈下というものを抜本的に解決するものになるのかどうか、ならないとするならば、このままではいいとは誰も思っていないと思うのですが、長官ご自身、今後、抜本的に何をどうしなければいけないと思っていらっしゃいますか。
- 答)
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このプランを策定しただけで、事態が改善するということはあり得ないと思います。この策定されたプランをより具体的なものに結実させていくということが、まず当面は最も優先順位の高い作業であると思います。プランのうち、一部は法改正が必要なものもありますし、法改正にいたらなくても、様々な枠組みの整備が必要な点もあると思います。そういうものについては、できるものから可及的速やかに取り組んでいくということが大事でありまして、そういう意味で、強化プランの4つの柱のうちの前の2つ、つまり、取引の場、取引所を含む取引の場を整備して使い勝手のよいものにしていくというテーマと、2つ目の金融業に関わっている金融仲介者、金融機関にとってのビジネス環境を改善するといったテーマの2つのテーマについては、早急に枠組みの整備をしていくことだろうと思います。それから、3つ目の柱であるベターレギュレーション(金融規制の質的向上)については、そういったところに適用される規制の枠組みをより洗練されたものにしていくということで、これは、当局自身がやればよい話ですから、容易なテーマではありませんが、当局自身の努力は既に始まっていて、それを加速させていくということだろうと思います。4つ目にこれら3つ以外の周辺部分、人材の話であるとか都市機能の話であるとか言った項目も掲げているわけですけれども、こういったものを総合的に整備していくということです。
ただ、今申し上げた一連の話は、当局サイドとしてやっていくべき話を申しあげたわけですけれども、この我が国の金融・資本市場の活力を増していく、国際的な地位を高めていくために、最も重要なことは、こういった改善された取引の場、マーケットの中で実際にビジネスを行う民間の金融機関、あるいは個々の取引所も含めてだろうと思いますけれども、こういった民間主体の強い意欲とエネルギーというものが発揮されるということが必要不可欠だと思います。その意味で、このプランの内容ももちろんですけれども、このプランが掲げている趣旨というものを、個々の金融機関、マーケットに参加する金融機関、あるいは取引所に十分に理解をしていただいて、民間のエネルギーをそこに集中させ、実際のビジネスに結実していっていただくということが不可欠でありまして、これなしには効果が現れてくるということはないというふうに思っております。その意味でも、民間当事者への働きかけということも、金融庁として引き続き力を入れていく必要があろうかと思います。
- 問)
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改めて、なぜ海外、主要マーケットに比べて、競争力が低下してしまったのか、リスク態勢が十分ではないですとか、先だっても大臣が総理に報告されていましたけれども、金融の国際競争力を失った理由というのを質問いたしましたけれども、長官ご自身、現状、なぜこうなってしまったのか、民間サイドで言いますとどういった大きな要因があるというふうに思っていらっしゃいますか。
- 答)
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このテーマだけで何冊も本が出てもおかしくないような、非常に大きなテーマでありますので、個人的なコメントと言われても、こういった場で何かを申しあげるのは非常に躊躇するところであります。ただ、これは渡辺大臣が総理にご報告なさったポイントの中にも含まれていると思いますけれども、一つは時代背景というのがあって、我が国の場合には様々な要因で80年代後半から90年代初頭にかけて、資産の実質的な経済価値から大きく乖離した高い値段というのが一般化してしまった。それが蔓延してしまった。その蔓延というのを前提に様々な行動が取られた。結果としてほどなくバブルが崩壊し、大量の不良債権が積み上がった、また、そういう事実というものが顕在化したという局面を迎えたわけでありまして、こういった構造的な問題を改革していくというプロセスがいわゆる不良債権問題の処理であったのかというふうに思っております。したがって、その過程では資産の価値、財貨・サービスの価値を正当に評価するというプロセスが不可欠であるわけで、そういう態勢を整備していくということが、非常に高い優先順位を持った課題であって、この期間が相当長く続いたということであります。90年代を超えて、21世紀に入ってもなお、1、2年、2、3年の間はこの課題が残っていたということだと思います。そういった取組みを進めていく中で、いわばバブルの本質というのはリスクテイクの基盤であるところの基礎的なリスク管理、リスク評価、本当の経済価値の算出というベースができてなかったということでありますので、そのベースを作るということに時間がかかったということもありますし、そのベースができていない中で、新たな大規模なリスクテイクを行うということはなかなか容易ではなかったということが一つにはあるのではないかというふうに思っています。他にも様々な要因があって我が国の金融・資本市場が他の外国の市場に比べて、相対的に地位を低下させてきたということだろうと思いますけれども、あくまでも、今、申し上げました不良債権処理というのは、一つの局面というか一つの要因、そして、一つの時代背景ということで紹介をさせていただきました。
- 問)
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保険法の見直しの件で、現物給付について見送るということについて合意したのでしょうか。
- 答)
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そういう報道が今日、一部報道であったというふうに承知をいたしております。現在、金融審議会第二部会のもとに設置されている保険の基本問題に関するワーキング・グループというのがありますが、ここにおいて、法務省の方で検討が行われている保険法の改正に関して保険業法の方の世界である保険会社に対する監督規制のあり方という観点からの対応について検討が行われているという状況です。金融審の保険ワーキング・グループの審議においては、主な論点の一つとして、ご指摘いただいた生命保険契約における保険給付の内容としての現物給付というテーマが掲げられております。これは、法務省の法制審議会において、現物給付を保険給付とする生命保険契約等も保険法の適用対象とするか否かについて検討されているという流れに対応したものだと承知をしております。これまでの保険ワーキング・グループの審議においては、この論点について保険業法上、生命保険契約及び障害・疾病保険について、現物給付を認めるべきではないという意見が大勢であったというふうに聞いております。もっともこの論点については、まさに法務省の法制審議会、そして我が金融庁の金融審議会保険ワーキング・グループにおいて審議が行われている真っ只中でありますので、まだ、この断定的なことを申しうる段階にはないというふうに思います。
(以上)