佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成20年3月10日(月)17時03分~17時32分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

こんにちは。私の方からは特にございません。

【質疑応答】

問)

先週、アメリカの財務省が、全世界の金融機関のサブプライム・ローン関係の損失額について、20兆円を超える規模になるという集計結果を明らかにしましたけれども、この数字についての長官のご見解と、この内訳がはっきりしないのですが、日本の金融機関の分というのは、もしこの数字が適当であるとすればどのくらいになるのかというのを、もしわかれば教えていただけないでしょうか。

答)

先般、米国の財務省高官が講演の場において、これまでに世界の金融機関が開示したサブプライム関連損失は約20兆円を超えるところに及んでいる、というふうな発言をされたということを承知いたしております。このような発言は、サブプライム・ローン問題を契機としたグローバルな金融市場の混乱が続いていて、その影響が拡大しているという、我が金融庁の認識とあまり異ならない認識が背景にあるのではないかというふうに思うわけですけれども、集計の前提条件であるとか内容について当方において詳しく承知しているわけではない、というものであります。一方で、金融庁の方で、世界の大手金融機関がこれまでにサブプライム関連損失として開示している計数を集計してみると、米国系の金融機関で約12兆円、欧州系の金融機関で約8兆円、アジアとかカナダとかの金融機関で約1.4兆円ということで、全体合計すると、21兆から22兆という数字になります。おそらく各金融機関によって拾っている範囲が必ずしも統一されているわけではないという前提で考える必要があるとは思いますけれども、21兆から22兆というような数字になりますので、先ほど、米国財務省高官の発言で20兆円超というふうにおっしゃっている数字と大きな乖離はないのかな、というふうに印象を受けております。

また、我が国の金融機関におけるサブプライム関連の損失につきましては、金融庁の方で、すべての預金取扱金融機関に対するヒアリング、これは一定の共通の基準に基づいた集計をやっているわけですけども、その結果に基づいて、先般、我が国のすべての預金取扱金融機関について、12月末時点で、それまでに認識されている、あるいは計上されている損失額の合計として約6,000億円という数字を発表させていただいたところであります。また、同じ12月末の時点で捉えますと、我が国の預金取扱金融機関が有しているサブプライム関連商品へのエクスポージャー(保有額)は全体で約1.5兆円という規模である、ということも併せて公表させていただきました。この数字と先ほどの数字とお比べいただいてもわかりますけれども、海外の状況に比して我が国の預金取扱金融機関のサブプライム関連の損失額やエクスポージャーというのは、かなり限定をされている、相対的に限定をされている、また我が国金融機関自身の期間利益や自己資本の厚みといった金融機関自身の体力と比べても相対的に限定されている、ということが言えるわけであります。

なお、ご案内のとおり、我が国においてはこの他に、大手損害保険会社の一部や大手証券会社の一部が一定程度の損失を認識する、あるいは計上するということも起きているわけですけれども、これらについても、概ね各金融機関において十分対応可能、コントロール可能な範囲内のものであるというふうに現時点で認識をしているということでございます。従いまして、これまで同様、現時点においても、この問題が直接我が国の金融システムに深刻な影響を与えるような状況にあるというふうには考えておりません。

いずれにいたしましても、先ほど申しましたように、グローバルな市場の混乱は続いておりますので、金融庁としては今後とも警戒水準を維持しつつ、金融機関のリスク管理の状況、株式・クレジット・為替といった様々な市場の動向等について、内外の関係当局とも連携しながら、注意深くフォローしていきたいというふうに思っております。

問)

新銀行東京ですけれども、これまで融資についていろいろ報道されて、石原知事もずさんな実態があったのではないかというような見方をされているのですが、銀行側も旧経営陣の責任を追及する構えを見せています。金融庁としてこれまで融資の実態についてどのように把握されてきたのかいう点と、今後の新銀行東京に対する検査・監督上の対応についてどうされるのかお聞かせ下さい。

答)

新銀行東京は、去る2月20日に東京都に対する追加出資400億円の要請をし、また再建計画を策定して公表したと承知しております。また、同行は従来より経営悪化の要因として、不良債権を増加させた融資の取組みなど旧経営陣の責任に言及するとともに、その責任追及を表明しておりまして、ちょうど本日、その調査報告書を公表されたと承知をいたしております。こういった点を含めまして、同行についてはさまざまな論調があることは承知をいたしておりますけれども、個別銀行の経営に関する事柄でございますので、個別具体的なコメントは差し控えさせていただきたいと思います。

一般論として申し上げますと、銀行が経営の健全性を維持しつつ、預金者・利用者に支障を生じないように取組みを行っていくということが重要でございます。適切なガバナンスあるいはリスク管理の重要性といった点については、金融庁として各銀行に一般的に留意を促してきているということでございます。その一般論を申し上げた上で、この銀行に関して言えば、いずれにせよ、今後とも更なる経営改善を進めていただくことが重要であると思っておりまして、金融庁としてもその努力を注視してまいりたいと思っております。

問)

今の話にもあったように、東京都側といいますか石原知事は、旧経営陣の当時の経営の問題だということを最近しきりに言っておりまして、旧経営陣の責任にしようとしているわけですけれども、当然、当時経済界からの推薦も受けましたが、それを認めたといいますか、そもそもこういう銀行を作ろうということから考えても、一方的に旧経営陣の責任にしようとしているという姿勢はどうしたものかという論調もあるかと思うのですけれども、そういう意味で銀行を監督する、または主要株主という点への視点というのもあるかと思うのですけれども、今の都側のこういった対応はどのように考えていらっしゃいますか。

答)

まさに先ほど申し上げましたように、それぞれの銀行がきちんとしたリスク管理、きちんとした経営管理を行っていく中で、その一環として主要な株主との対話・連携といったことも重要な課題の一つであろうかと思います。そういった点を含めまして、今まさに新銀行東京において、主要株主である東京都との間の様々なやりとりが行われている最中でございますので、その具体的な内容等について金融庁の方でコメントを申し上げるということは差し控えるべきであろうかと思います。

問)

一般論で構わないのですけれども、開業3年であのデフォルトの率ですとか、執行役が6人中4人も替わっていて、そういう意味で役員も含めれば十数人も替わっているという、当時の役員がほとんど残っていないというかなり異常とも思われるような事態になっているわけですけれども、一般論として、新しく銀行ができて、頻繁に役員が替わってここまでデフォルト率が高いというのはどう見ていらっしゃいますか。

答)

一般論として、それぞれの金融機関が会社としてのガバナンスというものをきちんと維持した上で規律のある経営が行われるということが極めて重要であろうかと思います。当然のことながら、一般的に各金融機関の経営、あるいは一般的に会社経営においては、取締役会等々含めて様々な議論が内部で行われるということが当然のことであろうかと思います。そういう中で、会社としての経営方針というものが形成をされていくということであろうかと思います。そういったことの結果として、経営陣の交代ということが起きるということはままあることではありますけれども、この銀行に即してその是非等についてコメントすることは、やはり差し控えた方がよろしいかと思います。

問)

新銀行東京ですけれども、開業から3年で、事実上このビジネスモデルが崩壊に近いという状態にまで追い込まれているのですけれども、この開業を認可した金融庁の手続きというか、中身に対する瑕疵というものはなかったと考えていらっしゃるのでしょうか。

答)

この銀行については、いわゆる銀行免許を付与するというプロセスではなくて、東京都が設立した準備会社がBNPパリバ信託銀行を買収するという形で発足をしたということでございます。発足して直ちに企図されていた業務を始めるということについては慎重であるべきだということで、1年間の業務停止をかけた上で、その期間の間に銀行業を具体的に実施するための準備を行っていただいたということでございます。その過程において、金融庁としては相談にのったり、対話をしてきたということであろうかと思います。

金融庁はご案内のとおり、金融システムの安定、そして金融機関の預金者の保護、あるいは利用者の保護ということを金融行政の主要な目的として掲げ、それを責務としているわけでございますので、そういった観点から日頃より金融機関の監督に努めているということでございます。その中で、大きな哲学として、個々の金融機関の自己責任と、それから市場規律ということを大前提として、そのような金融行政に努めていくということを従来から申し上げており、かつ、行政のあり方の基本方針として公表をさせていただいているということでございます。したがいまして、個々の金融機関において、そのような自助努力が行われている局面においては、できるだけそのような自助努力を尊重するということも大事であると思っております。例えば、新銀行東京は自助努力として、昨年の6月でございますが、経費の削減や融資拡大路線からの転換などを織り込んだ中期経営計画を策定し、その取組みを進めてきたというところでございます。

具体的な監督上の対応等については、ご案内のとおり、自己資本比率に基づく早期是正措置、あるいは早期是正措置に至る前の段階での早期警戒制度といったものを私どもは運用しているわけでございまして、そういった枠組みを活用した監督にも努めているということでございます。いずれにいたしましても、今後とも同行が更なる経営改善を進めていただくということが極めて重要でございまして、金融庁としてもその努力を注視してまいりたいと思っております。

問)

新銀行東京の自助努力、基本的には自己責任の部分だとは思うのですが、これもある程度一般論で構わないのですが、3年間でここまで損失が拡大した中で、今回ビジネスモデルが大きく変わるということではなくて、店舗の縮小ですとか、そういう意味ではリストラ等を進めるということが中心となると思うのですけれども、こういった内容で今回新たに400億円を入れたことで抜本的な改善になるのか、そもそもこれは公のお金が入った銀行で、他の銀行とは違っていると思うのですけれども、そういった意味で自助努力は重要だとは思うのですが、今回の計画というもので抜本的に改善になるのかということを、一般論で結構ですのでお願いします。

答)

ご質問はおよそ一般論とは理解しにくい内容であるという印象を受けますが、先ほど申し上げましたように、先般2月20日に東京都に対する追加出資の要請に加えまして、新銀行東京自身が再建計画を公表しているわけであります。この再建計画の中には、事業規模の縮小、資産・負債の圧縮といったことが含まれておりますが、それに加えまして新しいアプローチでの中小企業支援の取組みということも掲げているわけでございます。新銀行東京自身が、自助努力の一環としてそういう計画を作り、まさにこれからそういった取組みを実施に移していくという局面にこれから入っていくわけでございますので、その時点で将来予想についてなんらか予断を持たせるようなコメントをすべきではない、アプリオリに何か評価をすべきではないと思っております。いずれにいたしましても、こういった計画をお作りになったわけですから、この計画を踏まえて経営改善に努力をしていただくということが重要であろうかと思います。

問)

東京証券取引所と東京穀物商品取引所で相次いでシステムトラブルを起こしましたけれども、これについて金融庁としていかがお考えかということと、今後の指導なり何なりについてお考えを教えてください。

答)

本日、東京証券取引所において一部の取引が停止せざるを得ないようなシステムトラブルがまた発生したということは、改めて極めて遺憾であります。取引所市場の円滑な運営の観点から、また、取引所の取引に参加する投資家保護の観点からも問題であるというふうに思っております。東京証券取引所に対しては、金融商品取引法第151条の規定に基づく報告命令を本日付で発出したところでございまして、今後、その状況をフォローアップしていくということになろうかと思います。これはいつもの基本動作でございますけれども、まずは発生原因を正確に実態に即して確認をする。また、その発生時の顧客等に及ぼした不利益についても顧客対応がどのように行われているかフォローをする、そして、障害が発生した責任の所在を明確にする。更には、一番重要なことは再発防止のためにどのような措置を講ずるのかといった点が重要な作業になっていくというふうに考えております。

問)

先ほどの新銀行東京に関連してお伺いしたいのですが、検査にこれまで入っていないということで、一部こういう状況であれば、金融庁の役割として入るべきではないかという論調もございますが、これについてどのようにお答えになるのかということと、もう一つは、先ほど言われましたようにこういう自助努力の計画を作って努力した局面ではそれに配慮することも必要であるというお話でしたけれども、これは検査についてもあてはまるのかという点も教えてください。

答)

検査については従来からお答えを申しあげていますけれども、個別の金融機関に対する検査の実施時期等について、お答えは差し控えさせていただいているということでございます。一般論として申し上げれば、金融検査の実施にあたっては、当局の組織、人員に制約がある中で、検査全体を効率的、効果的に行う観点から、各金融機関の経営状況や金融機関自身が自主的に取り組んでいる業務改善の実施状況などの様々な要件を総合的に勘案した上で、検査の実施先及び実施日を決定しているというところでございます。

金融検査にはご案内のとおり、補強性の原則というものが存在をしております。これは、自己責任原則に基づく金融機関自身の内部管理、そして会計監査人等による厳正な外部監査を前提としつつ、更に市場による規律、市場規律というものもあるわけですが、それらを補強するという意味で当局の検査が存在しているということでございます。したがいまして、このような観点から申し上げれば、会計監査人の厳正な外部監査の結果を受け、金融機関の自主的な内部管理態勢の改善に向けた取組みが行われている場合などにおいては、まず、それを尊重するという考え方も、これも一般論でございますけれども、そういう局面というのも十分にありうるということであろうかと思います。

(以上)

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