佐藤金融庁長官記者会見の概要

(平成20年3月17日(月)17時03分~17時38分 場所:金融庁会見室)

【長官より発言】

冒頭、私から一点ご報告がございます。既にご案内のことではあろうかと思いますが、有価証券報告書等の法定開示書類を電子的に提出・縦覧するシステムであるEDINET(エディネット:開示用電子情報処理組織)について、平成18年8月から進めていました新しいシステムの開発作業を終了いたしまして、本日、3月17日9時から新EDINETとして稼動を開始いたしました。

新EDINETの主要なポイントは、第一に、XBRL(注)導入による高度な情報の利用活用の実現、いわば「見る」開示情報から「使う」開示情報へという変化かと思います。第二点として、検索機能の強化等による利便性の向上、第三点として、セキュリティの強化、第四点として、システム運用効率の向上による行政コストの削減といったことでございます。

特に、新EDINETの最大のポイントは、有価証券報告書等におけるXBRLの導入であります。これにより、EDINETは上場企業等約5,000社及びファンド等約3,000本の財務情報をXBRL形式で投資者等に提供する、世界で最も進んだ、かつ最大規模のXBRLシステムとなりました。

金融庁は、昨年末に取りまとめられた「金融・資本市場競争力強化プラン」に盛り込まれた施策について、スピーディかつ着実に実施していきたいというふうに考えているわけですけれども、このXBRLの導入も、その施策の一つとして位置づけられているところでありまして、新EDINETの稼動により、投資者等による開示情報の利用・活用の水準が飛躍的に向上し、我が国金融商品市場の活性化につながることを期待しているところでございます。

私からは以上です。

【質疑応答】

問)

先週、足利銀行の受皿に野村證券系のグループが選定されたのですが、最終段階で競り合った候補との比較において少しあまりよくわからない部分があったりするものですから、選定の透明性という観点で、今後、もう少し比較できるような材料を提供される用意があるのかどうかという点をお伺いしたいのと、今日、栃木県の福田知事とお会いになられたかと思いますが、知事の方からどのようなご要望がありまして、それに対して長官の方からどのようにお答えになられたのかお聞かせください。

答)

ご案内のとおり、足利銀行の受皿選定に当たりましては、3つの基本的な審査基準に則って、厳正かつ公平な審査を行ってきたところでございます。3つの審査基準とは、金融機関としての持続可能性、地域における金融仲介機能の発揮、そして公的負担の極小化ということでございます。

三段階で進めさせていただきましたが、第一段階においては応募のあった8者の受皿候補について、関係法令及び受皿に求める基本的な条件に照らして審査を行い、基本的な応募資格を有していると認められた7社の受皿候補について、第二段階に進んでいただくこととしたということでございます。第二段階におきましては、特に金融機関としての持続可能性及び地域における金融仲介機能の発揮、先ほど申し上げた3つの基本的な審査基準のうちの2つ、この2つに特に重点をおいて審査を行ったところでございます。具体的には、それぞれ評価項目を作成し、それに基づいて審査を実施いたしました。その結果、受皿候補としての適格性が相対的に優れていると認められた2社の受皿候補について、第三段階に進んでいただいたということでございます。第三段階においては、金融機関としての持続可能性及び地域における金融仲介機能の発揮という今の2つの基準に加えまして、公的負担の極小化という観点も含めた審査を行いました。その際、公的負担の極小化の観点からは、受皿候補から提出された株式譲受金額や受皿決定後に締結される株式売買契約に定められる契約条件等について、審査を行ったところでございます。

この結果、受皿としての適格性や譲受の条件において最も優れている野村ネクストグループ(野村フィナンシャル・パートナーズ株式会社及びネクスト・キャピタル・パートナーズ株式会社を中心に構成される企業連合。以下同じ。)を最終的に選定したということでございます。参考までに申し上げますと、最終的に提示された株式譲受金額については、野村ネクストグループの提示した金額の方が、他の候補より高かったということでございます。

お尋ねの、各受皿候補に関する評価の内容や、株式譲受金額の差額等について明らかにすること、あるいは選に漏れた受皿候補の名称を申し上げることは、当該受皿候補の競争上の地位その他正当な利益を損なう恐れがあることから、明らかにできないことをご理解いただきたいと思います。いずれにいたしましても、金融庁としては審査の過程についてできる限りの範囲で説明を行ってまいりたいと考えております。

それから、もう一点お尋ねの福田栃木県知事との面会でございますが、本日13時30分頃でございましたか、栃木県の福田知事と石坂県議会議長にお目にかかりました。知事及び議長からは、第一に約1年半の受皿選定作業の結果、受皿が選定されたことについて労いのお言葉を頂戴しました。また第二に、この選定作業の過程で栃木県の要望が提出されたわけでございますが、この要望が反映されていることについて謝意の表明をいただきました。第三に、足利銀行に今以上に良い銀行になってもらうために、今後、県としても野村ネクストグループと意見交換等を積極的に行っていきたいと、こういったお話がございました。私からは、改めて受皿選定の経緯を簡潔にご説明するとともに、7月1日を目途に受皿への譲渡が予定どおりにきちんと行われるよう、注意深くフォローしてまいりたいという旨をお話しいたしました。更に、受皿移行後においても、足利銀行が栃木県を中心とする地域において金融仲介機能を継続的に発揮できるよう、引き続きしっかりと監督をしていきたいという旨を申し上げました。以上です。

問)

先週、ニューヨーク連銀がアメリカの大手証券であるベアー・スターンズの緊急支援に動きまして、その後、JPモルガンチェースが買収ということに発展したのですが、サブプライム問題がアメリカの個別の大手金融機関の経営に圧迫し始めたと言えるわけですけれども、こういう事態について長官の今のご所感をお願いしたいのと、あと、アメリカのサブプライム問題の対応について、金融政策が中心で不十分ではないかと、要は急所を外しているのではないかという見方もあって、金融機関に公的資金を導入すべきというような声も最近大きくなっているのですが、その辺についてどういうふうにお考えかお願いします。

答)

ご指摘のとおり、先週末から昨日にかけて、米国において、ニューヨーク連銀がJPモルガンチェースを通じてベアー・スターンズに緊急の資金供給を行うこと、また本日になって、JPモルガンチェースがベアー・スターンズを買収すること、こういった取組みが公表されているということでございます。

個別金融機関を巡る問題については、コメントは差し控えさせていただきたいと思いますけれども、一般論として申し上げれば、これまでも申し上げてきておりますように、サブプライム・ローン問題を契機としたグローバルな金融市場の混乱が続いていて、その影響が引き続き拡大しているという状況にあるというふうに認識をしております。また、サブプライム・ローン問題の発端となった米国においては、これまでも金融政策を含め様々な対応がなされてきているところでありますが、これをめぐっての様々な方々のコメントの中に、公的資金の利用可能性といった点が含まれているということも承知をいたしております。このサブプライム・ローン問題、あるいはグローバルな市場の混乱に関しては、各国がそれぞれの事情に応じて金融市場の安定、金融システムの安定のために最善の措置を講じるべく、分析をし、検討をし、取組みを進めている最中であるというふうに承知をいたしております。公的資金の注入等の具体的な選択肢についてコメントすることは差し控えさせていただきたいと思います。いずれにせよ、各金融機関及び各国の当局が可能な限り早期に、かつ、的確に問題の所在と深度などの状況を把握し、問題に対して確固たる意思をもって対応していくということが重要であるというふうに思っております。

翻って我が国におきましては、金融庁として今後とも、この問題が我が国の金融市場・金融システムに及ぼす影響等について、警戒水準を維持しながら注意深くフォローしていきたいというふうに思っております。その際には、各金融機関のリスク管理の状況、また、株式やクレジット、為替といった様々な市場の動向について内外の関係当局とも連携しながら注意深く対応していきたいというふうに思っております。

問)

足利銀行のもう一つの候補との比較との点で、先週末もあったのですが、公表できない理由として、競争上の地位を脅かす恐れがあるですとか、今後のビジネスに影響があるということを理由にされていますけれども、例えば、野村陣営と比べて、株式譲受価格が数十億円低いということを公表することによって、どういったビジネス上の不利になるのか、これはどうしても理解ができないのですが、この辺可能なものを公表していくということが、透明性を高めることだと思います。本当に競争上の不利になるものについてはこういう理由で不利になるのでということで言わないということもあると思うのですが、全部言わないというのはやはり説明責任を果たしていないと思うのですが、基本的に金融庁は間違いを起こさないということを前提にした選定システムとしか思えないのですが、これについて、なぜこの競争上の地位を脅かすことになるのか、その辺の理由をお聞かせください。

答)

全部を公表しないというおっしゃり方はちょっとあまりだと思いますけれども、金額についての差額の話は、野村ネクストグループについては1,200億円という譲受金額を公表しているわけであります。差額を公表すれば、当然のことながら選に漏れた候補がいくらの譲受金額を提示したかということが簡単に出てくるということでございまして、そのことは、いわば選に漏れた候補がどれくらいの評価をし、どれくらいの資金調達能力を有していたのかといったようなことを判断する材料にもなりかねないわけでありまして、そういった意味からやはり競争上の地位、あるいは選に漏れたグループ等が今後ビジネスを行っていく上で不利な材料になることは十分に考えられるということであろうかと思います。もちろん、私どもとしても可能な範囲でできるだけの説明を申し上げていくということは大事なことであると思いますし、心構えとしてそういう心構えで対応してきたと思っておりますし、これからも対応していきたいというふうに思っておりますけれども、その中で、公にできない部分があるということについてはご理解をいただきたいと思います。

できるだけ皆様への説明責任を果たすという観点から、先日もこの第二段階における受皿候補を評価する際の評価項目というのを比較的詳細にご説明を申し上げ、それぞれの項目について点数をつけて作業をしてきたということも申しあげたわけであります。この評価項目を、ちょっと繰り返しになりますけれども申し上げますと、第一に受皿候補の適格性及び事業計画の実行可能性ということで四点ほど、即ち、一つは受皿候補及びその経営陣の適格性。二つ目に関係法令に関する知識・理解度、関係法令に対する適合性の検証。三つ目に企業価値の評価態勢、譲受のための資金調達の確実性。四つ目に事業計画の全体としての実行可能性。それから大きな二つ目の項目として、金融機関としての持続可能性という観点から、やはり四点ほど。即ち、経営管理態勢、ガバナンス。二つ目に法令等遵守態勢、顧客保護等管理態勢。三つ目にリスク管理態勢。四つ目に自己資本の十分性及び資本政策。そして、三つ目の項目として地域における金融仲介機能の発揮という観点から、これも四点ほどございますが、一つ目に経営戦略、地域金融機関としてのビジネスモデルの実効性、地域金融に対する継続的なコミットメントを含むということでございます。二つ目に地域密着型金融の推進態勢。三つ目に地域における利用者利便の向上策。四つ目に地域活性化への貢献策といった項目でございます。これらの項目について、かなり詳細に、かつ時間を十分にかけてヒアリング等を行い、評価を行ったということでございます。この評点結果でございますけれども、トータルしたところの合計の点数は野村ネクストグループが他の候補よりも高かったということも合わせて申し上げておきたいと思います。

こういったことで、厳正、公正な作業を精力をつぎこんでやってきたということでございまして、今後とも可能な部分についてはお尋ねに答える形で対応していきたいというふうに思いますけれども、やはり、公にできない部分があるという点についてもご理解を賜りたいと思います。

問)

評価項目自体は公表されていますけれども、例えば資金調達など具体的なところではなく、今回特に重視されたといいますか、特にどの項目で野村が優れていたか、どのくらい差があったかなどいわゆる差の部分については1,200億円という譲受価格しか明らかになっていないと思います。そのような意味で確かに評価項目は並んでいたのですが、全体的に野村が上だったから選ばれたのだと思いますが、その中の内訳といいますか、細かいところはともかくとしてもある程度説明していただくわけにはいかないのでしょうか。

答)

先ほども申し上げましたように、具体的にどの点で優れていた、どこの点で劣っていたということを、選から漏れた候補者について、漏れたことが確定しているこの時点で世の中に公にするということは、今後、落ちた候補者がこれから将来に向けてビジネスを行っていく際に、競争上の地位をより不利なものにするということにつながりかねないのではないかと思っておりますので、ご理解を賜りたいと思っております。

問)

野村グループは今回の譲受について純投資であると強調しております。7月1日から始まる新生足利銀行に良い意味、悪い意味でどのような影響を野村グループが与えると期待されているのか伺いたいと思います。

答)

純投資だということを仮におっしゃったとすると、その具体的な意味合いと申しましょうか、どのような狙いでそのようなことをおっしゃったのか私は承知しておりませんので、そのこと自体についてお答えは差し控えたいと思います。いずれにいたしましても、事業計画において相当詳細に、この銀行が将来にわたって継続的に栃木県を中心とする地域において金融仲介機能をしっかりと果たしていくというプランが相当細かく書き込まれているわけでありまして、そのような中で利用者の信頼を得て、利用者に対して質の高いサービスを提供し、その対価として収益があがり、その収益が安定することによって金融機関としての持続可能性も高まるといった形での業務運営がなされていくということを期待しているわけであります。そのような意味では出資者、株主としての野村ネクストグループが自らコミットをした事業計画や譲受条件等に忠実に企業価値のさらなる向上に向けて努力をしていっていただくことを期待しているということかと思います。

問)

引き続き足利銀行なのですが、野村グループに決まったことで企業価値のさらなる向上に期待ということですが、受皿が証券会社グループであるということで地方銀行に証券会社の資本が入ることになります。新しく期待される効果なり期待なりといった点についてはいかがでしょうか。

答)

一番基本的なところは、先ほど申し上げましたように栃木県を中心とする地域において継続的・持続的にしっかりとした金融仲介機能を果たしていただくということかと思います。その具体的な中身の中で様々な顧客のニーズに対応していくために新しいサービスを提供していくといったことも当然考えられるということであろうかと思います。その顧客のニーズというのもこれから多様化していくことが十分考えられますので、そのような多様な顧客ニーズにきちんと対応できるような多様なサービスを提供していっていただくということは、顧客の満足度という点からもプラスでありましょうし、企業価値の向上という観点からもプラスに作用し得る話かと思います。受皿候補として、その属性そのものについてや、どのような業態かということについて、私どもは審査の過程で特別な意識を持って配慮したということではありませんけれども、全体の経営を進めていく中で多様なサービスを提供していく上で、そのことがプラスになるのであれば、それは経営判断の問題として進めていっていただき、それが顧客サービスの水準向上等につながるということであれば良いことではないかと思います。

問)

本日のマーケットなのですが、株価もかなり下落しましたし、円も95円くらいまでいきました。マーケットの動向の背景についてはいろいろな方がいろいろなことをおっしゃっているので敢えて聞きませんが、年度末が近いということもあって、日本経済、あるいは金融システムに対する影響について長官はどのようにお考えでしょうか。

答)

マーケットは今ご指摘いただいたとおり非常に大きく変動しているということかと思いますし、その大きな背景として、サブプライム・ローン問題、及びそれに端を発したグローバルなマーケットの混乱、その中ではグローバルな信用収縮への懸念であるとか、金融市場全体における不確実性の高まりといったことが、市場関係者等の方々から指摘されているという状況かと思います。

従来から申し上げておりますように、このような各マーケットの動きについては注意深くウォッチをしながら、それが我が国の金融システムの安定、あるいは金融市場の安定に重大な懸念材料となるといったことがないように、最大限の注意を払って警戒水準を維持していきたいと思っているところであります。

円高と株安が相当大きく進んでいるということでございますが、円高が銀行の財務に及ぼす直接の影響ということで考えますと、一般的には、銀行が例えば外貨建ての融資を行う場合には外貨建てで資金を調達するなど、資産と負債の通貨を合わせるといったことを基本としたリスク管理を行っていると承知いたしておりますので、円高が直接銀行の財務に与える影響というのは限定的かと思っております。もちろん外貨資産のトレーディングからくる損益、外貨での収益が円換算したときに小さくなるなどという要因ももちろんあるということではあります。

それから株価の方でございますけれども、株価が金融機関の経営に与える影響については、各金融機関ごとにポートフォリオの内容が異なりますので一概に申し上げることは避けるべきだと思いますけれども、全体として見ますと、近年我が国の金融機関は株式の保有を減らしてきておりまして、株価変動による財務への影響は以前と比べますと比較的に小さくなっているということかと思います。簡単な試算でございますけれども、現在株価は昨年9月末の日経平均で16,785円と比較した時に約30%下落しております。この30%の下落を一定の仮定をおいて機械的に織り込んでみますと、例えば主要行等については9月末の自己資本比率が平均で13.1%でございましたけれども、ここから0.6ポイントの下落、地域銀行については9月末の自己資本比率10.5%から0.3ポイントの下落、また信用金庫、信用組合につきましては9月末の自己資本比率11.5%から0.3ポイントの下落ということでございまして、現在のレベルの株安が、全体として見たときには、預金取扱金融機関の財務の健全性に著しい問題を引き起こすという状況にはなっていないということかと思います。ただ、先ほども申し上げましたように、各金融機関ごとにポートフォリオの内容が異なっておりますので、金融庁としては引き続き各金融機関の財務の状況、リスク管理の状況等について注意深くヒアリングや意見交換を通じてフォローをしていきたいと思っております。

問)

今の数値は去年の9月末と今日の終値を比較したものでしょうか。

答)

約30%ということで申し上げましたのは、本日の終値11,726円が9月末の16,785円と比べると約30.1%の下落ということでございます。すみません。これは今日の前場終値と比べているということでございます。

(注)XBRL:eXtensible Business Reporting Language とは、財務情報等を効率的に作成・流通・利用できるように、国際的に標準化されたコンピュータ言語。XBRLは国際標準として、各国・各分野において導入が進められている。

(以上)

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