金融行政の課題について
─ 世界的な金融市場の混乱と我が国金融・資本市場の競争力強化 ─

平成20年1月29日
金融庁長官 佐藤隆文


ご紹介を賜りました佐藤でございます。本日は投資顧問業協会の会合にお招きをいただきまして、まことにありがとうございます。本日は、金融行政についてお話をさせていただきたいと思います。

最近の映画館はロードショーというようなことで、大変高い料金を取る割には映画は1本しか上映されません。私が子供のころは大体2本立て、3本立てというのが当たり前で、ちょっと寂しい気もいたします。本日はそういうわけでもないですが、2本立てでお話をさせていただきたいと思います。

一つはサブプライム・ローンの関係、もう一つは、年末に取りまとめました金融・資本市場競争力強化プランについてです。

お手元に資料が配付されているかと思いますが、この資料をごらんいただきながら聞いていただければと思います。

I .サブプライム・ローン問題について

まず1つ目のテーマは、サブプライム・ローン問題です。

«サブプライム問題の広がり»

既にご存じのことかと思いますが、復習という意味で要点をお話しさせていただきます。ご案内のとおり、米国のサブプライム・ローン、信用力の低い借り手向けの住宅ローンですけれども、これに内在するリスクが、証券化(セキュリタイゼーション)という金融技術の普及に伴って世界中に拡散したということです。アメリカのやることですから規模が半端ではないということで、このサブプライム・ローンのマーケットだけで、日本円に直して140兆円ぐらいの規模があります。米国の住宅ローン市場は1000兆円の規模があり、そのうちの13~14%がサブプライムのマーケットだと言われています。ちなみに、日本の住宅ローンのマーケットは190兆円ぐらいですから、いかにこのサブプライム・ローンの規模が大きいかということが理解いただけるかと思います。

問題は、このサブプライム・ローンを原資産として、複雑な内容の証券化商品、一度だけ証券化するのではなくて、2度、3度と証券化をし、最初はABS(資産担保証券)という形ですが、その後2次証券化、3次証券化されてCDO(債務担保証券)といった形で世界中にこの金融商品が販売されたということです。

この結果、原資産にたどり着くのが非常に難しくなったこともあるでしょうし、価格について格付に過度に依存していたということもありますが、いずれにせよ、マーケットが不安定になりますと、この証券化商品のフェアバリュー(公正価値)を計算することが極端に困難となりまして、いわばマーケット全体のプライシング(価格発見)機能が著しく低下しているのが現状です。

また、ご案内のとおり、リスクの顕在化によって、証券化ビジネス等に関与していた欧米の大手金融機関が多額の損失を計上している。そして、リスクの所在、あるいはその規模が不確実ですので、欧米においてカウンターパーティー・リスク(取引相手に係るリスク)が非常に強く意識されるようになり、マーケット全体に疑心暗鬼が発生している。疑心暗鬼があるがゆえに取引が成立しない、取引が成立しないから価格がわからない、という悪循環に陥っていると思います。また、サブプライムの直接入った証券化商品だけでなく、それ以外の証券化商品一般にもその疑心暗鬼が広がっているということであります。

こういった金融市場における不確実性の高まり、あるいは米国における住宅価格の下落を含めて、米国の実体経済全体の下振れリスクの高まりを受けまして、世界の投資資金が質への逃避、フライト・トゥ・クオリティーという動きを強めているのが昨今の情勢であります。

その中で、グローバルな巨額の投資資金が、国境を越え異なる市場にまたがって大規模に移動していると思います。異なる市場と申し上げた意味は、株式市場、債券市場、為替市場、さらにはコモディティー市場(商品市場)といった異なるマーケットにまたがって移動しているということかと思います。

フライト・トゥ・クオリティーの中では、例えば投資資金が株式市場から債券市場、特にソブリンの債券へと移動すること、あるいは、投資対象が金融資産からオルタナティブ(代替)としてのコモディティー市場に移っていくということもあって、結果として、原油価格、金の価格の上昇も起きているわけであります。資料の2から6は、その辺の動きをグラフにしたものです。

資料の7をごらんいただきますと、先ほど申し上げた欧米の大手金融機関の状況が例示として書いてあります。大手金融機関で巨額の損失が顕在化し、決算発表にあわせて、これも巨額の資本増強、増資を発表しています。1社で兆円単位の損失を四半期で計上し、それにあわせて兆円単位の増資を行うという動きになっているわけであります。その出資者は、中東やアジアのソブリン・ウエルス・ファンドが中心になっています。

それから、ここにはLCFI(巨大複合金融機関)と呼ばれる、グローバルな活動をしている大手金融機関の話だけを挙げておりますけれども、グローバルな金融市場の混乱という意味では、例えば、ドイツにおいてはIKB(ドイツ産業銀行)、あるいはザクセン・ランデスバンク(ザクセン州立銀行)の経営悪化、英国ではノーザン・ロック銀行の経営悪化と取付け騒ぎも起きています。

こういった中で、当局による対応としては、中央銀行による流動性供給であるとか、政策金利の引下げが行われています。

«我が国の状況»

翻って、我が国の状況はどうかということですが、資料の8ページをごらん下さい。これは金融庁が我が国の預金取扱金融機関すべて、主要行、地域銀行、信金、信組等にヒアリングをした集計結果です。最終投資家として我が国の預金取扱金融機関が保有しているサブプライム関連の金融商品は、真ん中辺の一番下に挙がっていますように、1兆4000億円余りにとどまっています。これは9月末時点でとらえておりまして、その9月期までに実現した損失が1410億円ということ、それから、この9月末時点のエクスポージャー1兆4000億円に対して1350億円の評価損が発生しているということです。

先ほどごらんいただいたグローバルな欧米の大手金融機関が、1社で損失額だけで兆円単位のものが出ていることと比べますと、いかに我が国のサブプライム関連のエクスポージャーが限定されているかがわかります。エクスポージャーをお示ししていますので、損失額もその上限について予想がつくわけであります。

10月以降、さらにサブプライム関連あるいは関連のない証券化商品も含めてかなり情勢が悪化して価格が下がっていますので、この1350億円という評価損をはるかに上回る金額に拡大していると思います。拡大はしておりますけれども、エクスポージャーのトータルが1兆4000億円ですから、最終投資家としてこうむる損はこれが上限になるわけで、万が一全損ということを考えても、欧米に比べて明らかに損失の規模は小さいということであります。

もう一つ大事なことは、こういったエクスポージャーあるいは損失見込みに対して、我が国の金融機関の健全性ということですけれども、そこにもありますように、一番左のティア1自己資本、いわば中核的な自己資本が49兆円あるとか、あるいは年間の実質業務純益が6兆7000億円あるという各金融機関の体力と照らし合わせて見ても、日本の預金取扱金融機関がこのサブプライム・ローンの問題で受ける影響はある程度限定されています。

もう一つ、株価の下落が相当大規模に起きています。ただ、この株価下落による預金取扱金融機関の財務の健全性への影響もかなり限定されています。これは、日ごろ私どもあるいは各金融機関においてストレステストをやっているわけですが、かなり大胆な前提を置いたストレステストを行っても、問題のない健全性の水準は維持し得るというのが全体としての姿であります。

こうしたことを踏まえまして、金融庁としては、現時点においてサブプライム・ローン問題が我が国の金融システムに深刻な影響を与える状況にはないと認識をしています。ただ、グローバルな金融市場の混乱は続いており、正常化には相当な時間を要するということでもありますので、今後も、引き続き金融市場の動向に注意を払いつつ、各金融機関の財務状況を注意深くフォローしていく必要があると思っています。

«サブプライム問題の特徴と改善の方向性»

次に、このサブプライム・ローン問題の特徴と改善の方向性についてお話をさせていただきたいと思います。お手元の資料9ページをごらん下さい。

幾つか特徴があるわけですけれども、1つは、証券化ビジネスにおけるモラルハザードということかと思います。証券化をする結果、本来自分が負担していたリスクが直ちに切り離されるということで、その安易さから関係者にモラルハザードが発生したのではないか、オリジネーターのところで言えば、ずさんな貸出し審査しか行わなかったのではないか、あるいは、証券化商品の組成に関しても、アレンジャーが組成した後すぐに販売しますので、リスクが切り離されることでその辺のデュープロセス(踏むべき手続き)が十分であったのかといった疑問がわいてくるわけであります。

2つ目の特徴は、この証券化商品がグローバルに販売された結果、これは証券化、セキュリタイゼーションという金融技術の本質的な特徴でもありますが、原資産のリスクが広く薄く分散された―実は薄くはなかったわけですけれども―その結果、世界中の投資家に拡散して、リスクの所在が不明確になったという特徴です。先ほども触れましたが、リスクの所在や規模が不明確であることから、欧米を中心にカウンターパーティー・リスクが急激に高まり、疑心暗鬼が蔓延したということであろうかと思います。

3つ目は、証券化商品の複雑性に由来いたしますけれども、プライシング機能が失われた、あるいは価格形成の不確実性が高まったということです。ABSあるいはCDOといった複雑な内容の証券化商品が普及し、ここへ来て格付機関による格付への不信もあって、公正な価値の評価が困難になっているということで、市場の果たしている最も重要な機能であるプライシング、価格発見機能が不全に陥っているということかと思います。

4つ目の特徴は、流動性の不確実性です。証券化商品にかかわる金融機関の資金調達が困難になったことが構造問題として背景にあると思います。これは、9ページの表で、証券化というビジネスとは別に、その下にありますABCPプログラム、あるいはSIV(ストラクチャード・インベストメント・ビークル)という特別目的会社をつくって、そこでいわば長期のサブプライム関連商品に投資をしつつ、その資金調達は短期の資産担保CPで調達し、その長短のミスマッチを使って利ざやを抜くというビジネスモデルが、これもまた非常に広く普及した、蔓延したということです。一方で、資産サイドのサブプライム関連の証券化商品の価格が急激に下がりまして、このABCP、短期でのロールオーバーが困難になったということで、そういったスキームに対してそのスポンサーである大手銀行とか証券会社が流動性補完をするというコミットメントをしているようなケースも多かったこともあり、大手金融機関における流動性需要が急激に高まって短期金融市場が極めてタイトになりました。8月と12月にヨーロッパと米国の中央銀行が大量の資金供給をマーケットにしたということは、こういった現状が背景にあったということです。

こうした特徴を持っている今回のサブプライム問題は、福田総理もダボス会議で「21世紀型危機」というような呼び方をされていましたが、マーケット発の危機であるという意味において、まさに21世紀型の新しい危機であろうかと思います。我が国の1990年代の不良債権問題は、経済全体のリスクが銀行セクターに集中していたことを主因として起きました。したがって、個々の金融機関の財務状況、リスク管理の状況を詳細に見ていくことによって解決の糸口がつかめたわけですけれども、今回の場合はマーケット発の危機でありますので、単純ではない、なかなか複雑な構造になっているという意味でも、まさに21世紀型の危機であろうかと思います。その背景には、証券化という金融技術が広く普及をし、それが一般化したということがあります。

このことについての改善の方向性は、一つには証券化というビジネスに対する信頼の回復が不可欠で、証券化商品における先ほど申し上げたようなモラルハザードを防止するための仕組みづくりが重要かと思います。証券化ビジネスにおける各段階の当事者、すなわち住宅ローンの借り手と貸し手、証券化商品の組成者(アレンジャー)、組成の段階で関与する格付会社、その証券化商品の販売者(ディストリビューター)、そして最終的に証券化商品を購入する投資家、それぞれの段階できちんとしたデュープロセスが踏まれるような枠組み、あるいはインセンティブ構造をつくっていくことが重要ではないかと思います。

また、非常に多数の当事者がかかわる証券化ビジネスですので、各プロセスにおいて十分な情報提供がなされることが重要だと思います。それがなされることによって、問題が起きたときや、あるいはフェアバリューを算出しようとするときの情報の追跡可能性(トレーサビリティー)がある程度確保できるのではないかということです。また、格付の問題、格付手法や格付の意味合いについての誤解があったこともあります。さらには、価格評価の客観性・公正性、そしてまたディスクロージャー、さらには会計基準も絡んできていて、まさに21世紀型の危機として非常に複雑な要因があるということかと思います。

こういう証券化ビジネスの構造的な面で信頼度を高めることが大きな課題の一つですけれども、他方、グローバルな、あるいは各国における金融システムの安定化も当面非常に大きな課題であろうかと思います。このためには、我が国の1990年代から2000年代初頭にかけての苦く長い経験から得られた教訓も生かすべきではないかと思います。大きなリスクを抱えた欧米の金融機関が正確な資産評価を行い、適切な損失の計上を行って、かつ、それを速やかにディスクロージャーすることがマーケットの疑心暗鬼を消すために重要でしょうし、また、そういった損失を計上した結果自己資本不足に陥った場合には、所要の資本増強、増資が不可欠ということです。

そういう方向での動きが実際に起きているという面もありますけれども、いずれにいたしましても、大事なことは問題の早期認識と早期対応です。このことは、問題を抱えている個々の金融機関においてそうであるのと同様に、問題を抱えている国の当局においても、早期認識と早期対応が望まれるということです。

お手元の資料10ページと11ページは、昨年の夏以降の主だった出来事を時系列で並べているものです。ご参考までにお示しさせていただきました。

II.我が国金融・資本市場の競争力強化

次に、2本立てのうちの2本目のテーマ「我が国金融・資本市場の競争力強化」です。

12ページに記載しております、なぜ今この金融・資本市場の競争力強化が我が国にとってプライオリティー(優先順位)の高い課題になっているかということについては、当たり前のこととして認識されている事柄ですが、あえてそこに書きましたのは、少子高齢化が進展する中で、我が国の経済が今後とも持続的に成長するためには、家計部門の金融資産に適切な投資機会を提供すること、また、内外の企業等に成長資金の供給を行っていくことが必要ですし、また、金融サービス業という産業が高い付加価値を生み出す産業として日本経済に貢献していくことも期待されているからです。

こういったことから、昨年末、我が国の競争力強化を図るための包括的なパッケージとして、「金融・資本市場競争力強化プラン」を策定いたしました。今後は、このプランを、スピード感を持ってかつ着実に推進していくことが重要であると思います。

«日本市場の長所と短所»

昨今、株式市場の低迷をとらえて、マスコミ等の論調では、日本はなぜだめなのかというような記事ばかりが目立ちますけれども、こうしたプランをきちんと実行していくに当たっては、我々が自信喪失に陥らないということも大変大事ではないかと思っております。もちろん、さまざまな問題を抱えていることは事実ですが、既に持っている日本の大変すぐれた資質、あるいは構造的に非常に恵まれた部分を改めて認識しつつ、こうした課題に取り組んでいくことが大事だと思っていまして、日本の金融セクターを担っていただいている皆様にも、改めてそういう心構えで、官民挙げてこのプランの実現に取り組んでいけたらと思っているわけであります。

ちなみに、我が国の金融資本市場の魅力も幾つかあります。一つには、世界第2位の巨大な実体経済があり、これがそれなりに円滑に運営をされていることであります。ランクづけするというか、順位を考えるのがマスコミは好きですけれども、我々日本人も割合と好きなのかもしれませんが、もちろん、新興経済大国が急追しているのは事実ですけれども、日本自身がこれだけ大きなGDPを維持していることは一つの事実であります。

2つ目には、1500兆円に及ぶ家計の金融資産が存在していることであります。ということは、逆にこれをきちんと運用できないと、少子高齢化の中で生活水準を維持していくことがままならなくなるだろうとは思いますし、この1500兆円を超える家計の金融資産が存在していることも非常に大きなアドバンテージであろうかと思います。

さらに言えば、世界最高水準の技術を有する企業群の集積があります。やや製造業に偏っているという説もありますが、そういう企業群が存在している、そして、今後も高い成長が見込まれるアジア地域あるいは新興市場諸国と地理的に非常に近接をしていることも、有利な点として活用していく視点はあってよいのだろうと思います。

そういったことまで視野を広げて我が国の基本的な国の成り立ちを見てみますと、法的枠組みが非常に安定している、そしてまた、治安面・社会面で高い安定度が維持されていることもプラス要因でしょう。また、学力低下が言われていますが、全体的・平均的に見ればそれなりの高い教育水準があるということでしょうし、これはやや離れていきますけれども、日本の大都市、特に東京などは、都市としての魅力が相当程度あるのではないかと思います。生活環境のよさです。先ほどの治安の話もそうですが、例えば、食べるものが大変おいしい。和洋中どの分野の料理でも世界最高水準のものが比較的手軽に味わえるということもありますし、エンターテインメントも多様なものがありますし、ひどい大気汚染はないですし、都市としてのさまざまな優位性もあろうかと思います。

他方で、謙虚に日本市場の弱みについても認識する必要は当然あるかと思います。多くの方が共通しておっしゃるのは、金融分野の専門人材の不足です。法務、会計、金融工学、高度金融実務といった面での人材不足が強く言われています。また、英語の通用度が低いということも言われており、特に金融と英語の両方に高いレベルで通じている人材が極端に不足していることがしばしば指摘されています。

«4つの柱»

競争力強化プランは4つの大きな柱で成り立っています。

1つ目の柱は、取引の場としての金融・資本市場の信頼と活力です。市場の公正性・透明性を確保しつつ、多様な資金運用・資金調達の機会を提供できるような場を整備することです。

2つ目の柱が、金融サービス業の活力と競争を促すビジネス環境ということで、マーケットで実際にビジネスを行うプレーヤーが能力を十二分に発揮できるようなビジネス環境を整備しようというコンセプトです。

3つ目が、より良い規制環境ということ。これは金融庁自身のあり方ということで、昨年の夏以来、ベター・レギュレーションということで取り組んでいますが、1つ目の柱、2つ目の柱と整合的であって、かつ時代の要請にマッチした規制のあり方になるように、私ども当局も常時心がけていかなければならないという柱であります。

4つ目の柱は、その他市場をめぐる周辺環境ということで、先ほども申し上げました、専門性の高い人材を確保していく、あるいは、金融業として高いレベルの業務を行えるような都市インフラを充実することが意識されています。

1.金融・資本市場の信頼と活力

14ページをお開きください。1つ目の柱、市場の信頼と活力です。幾つか柱を並べていますけれども、1つ目は、取引所における取扱商品の多様化です。特に、ETF(上場投資信託)の多様化ということで、ご案内のとおり、ETFは簡便で、かつ、効果的な分散投資を可能とする投資手段で、多様なETFを組成できるよう制度的な手当てを行い、株式、債券や金融デリバティブから商品デリバティブまで、幅広い投資を可能にしたいということであります。

また、金融商品取引所と商品取引所の相互乗入れも視野に入れています。国際的に見ますと、あるいはグローバルに見ますと、取引所の資本提携を通じたグループ化がかなり進展しています。したがって、取引所の間のグループ化などを可能とする、そして、株式、債券から金融デリバティブ、商品デリバティブまで総合的で幅広い品ぞろえをグループとして可能にするといった趣旨です。

2つ目の項目として、プロ向け市場の整備を掲げています。現行のプロ私募の制度は適格機関投資家が対象ですが、私どもが今イメージしておりますのは、取引参加者を金商法上の特定投資家まで拡大して、新たなプロ向け取引市場を育てていきたいということであります。当然のことながら、市場参加者がプロに限定されますので、開示規制等は緩和されて活発な取引が促されるということです。PTS(私設取引システム)の制度の活用も考えられるのかもしれません。

3つ目の項目は、「貯蓄から投資へ」の流れを強化するための証券税制です。証券税制の着地は、昨年末いろいろ報道されましたのでご承知のとおりですが、税制に限らず、金融庁としては1500兆円を超える個人金融資産について、適切な投資運用の場を整備することがプライオリティーの高い課題であると考えています。かなり成果が上がってきている部分もあります。例えば、投資信託の規模が相当膨らんできている、あるいは販売チャネルが多様化している、先ほどちょっと申し上げましたような投資信託の多様化もさらに進んでいくということです。この「貯蓄から投資へ」の流れはまだ道半ばだと私どもは思っていますので、さらに進めていく必要があろうかと思います。

株式市場に関して言いますと、ご案内のとおり、我が国の場合、外国人の株式保有比率が30%弱ぐらいまで上がってきているわけですが、売買、取引量で見ると6割に達していまして、そのこと自体をどうこう言うよりは、株式市場の安定的な発展のためには、国内の個人投資家が投資信託や株式を通じて市場に参加していただくことが、安定性という意味からも重要でしょうし、1500兆円のうち半分が預貯金に向かっている状況を改善していく上でも、当然必要なことではないかと思っています。

税制改正については、ご案内のとおり、上場株式等の配当と譲渡益の税率について、平成20年末をもって軽減税率10%を廃止し、21年からは20%になるということですが、その際、平成21年、22年の2年間にわたって500万円以下の譲渡益、そして100万円以下の配当については軽減税率10%が適用されるということで決着したことと、もう一つ重要なことは、譲渡損と配当との間の損益通算が恒久措置として可能になったことであります。

下へまいりまして、市場の公正性・透明性の確保という側面です。不公正取引等に対する課徴金の拡充・強化ということで、例えば、インサイダー取引や相場操縦などに関しての金額水準を引き上げる、また、新たに課徴金の対象を広げていくということです。先週末以来問題になっております大量保有報告書の虚偽記載も課徴金の対象にできるようにしていくことが考えられますし、また、除斥期間を現行3年から5年に延長することも考えているところです。

さらには、証券取引等監視委員会等の市場監視部門の体制強化ということも課題です。金融庁が発足しました平成12年度には、監視委員会の定員は112人でしたが、今年度末の3月末では341人ということで、国家公務員の定員削減が全体として進められている中で、例外的に増員を認められている状況です。今後も、量の面、質の面、両方にわたってこの体制強化をしていくことが必要であります。

2.金融サービス業の活力と競争を促すビジネス環境

15ページ、4つの柱のうちの2つ目の柱、金融サービス業の活力と競争を促すビジネス環境についてです。

1つ目は、銀行・証券・保険の間のファイアーウオール規制の見直しです。利益相反による弊害や銀行等による優越的地位濫用の防止について実効性を確保した上で、顧客利便の向上、金融グループとしての統合的内部管理をしていく、あるいはそういう要請にこたえるということで、新たな規制の枠組みを提供したいということです。具体的には、役職員の兼職規制を撤廃する、また、銀行・証券間の非公開情報の共有の制限を緩和することが含まれております。当然、これらと並行して、証券会社や銀行等において利益相反の管理態勢の整備を義務づけることも盛り込まれる予定です。

2つ目の項目は、銀行・保険会社グループの業務範囲の拡大です。財務の健全性や的確なリスク管理など、一定の要件を満たす銀行グループの銀行兄弟会社に対して新たな業務を解禁する枠組みを導入します。現状は、銀行の子会社と銀行の兄弟会社の業務範囲については法令で同一内容を限定列挙しているという形ですが、ここを少し柔軟なものにしようということです。また、商品取引、イスラム金融、排出権取引などをその業務範囲に加えること、あるいはそれらの業務範囲を拡大していくことを考えております。

商品取引に関しては、新しい枠組みのもとで、銀行の兄弟会社に商品の現物取引を解禁しようということです。

次に、イスラム金融は、イスラム金融を銀行等の子会社、兄弟会社に解禁しようということです。イスラム金融は、利子を取ることが禁じられている中で、商品売買やリースの形式を用いることによって、実質的には与信と同視し得る取引を実現するものですが、近年、海外においてこのイスラム金融の取引が広く台頭し、今後も急速にその市場の拡大が見込まれます。実質的に与信と同視し得るという要件の充足を条件に、イスラム金融を銀行・保険会社グループの業務範囲に加えることが適当という判断をいたしているわけであります。

排出権取引については、これを銀行等の本体に解禁しようということです。排出権取引のインフラである国際取引ログは、間もなく本格稼働する見込みです。将来、取引の活発化が見込まれるわけでして、排出権取引を銀行・保険会社本体の業務として明確に位置づける方向で検討しています。

3つ目の大きな項目として、海外ファンドマネジャーの誘致という目的意識を持った「PEリスクの排除」という項目です。パーマネント・エスタブリッシュメント(恒久的施設、PE)の認定に係るリスクにつきまして、海外ファンドと投資一任契約を締結する国内ファンドマネジャーが当該ファンドから独立した関係にある場合には、当該ファンドマネジャーを代理人PEとしないことが年末の税制改正の要綱に盛り込まれました。今後、国内のファンドマネジャーが海外投資家との間においてより積極的に業務を行うことができるよう、独立の要件等について明確化を図るため、現在関係当局と協議をしているところです。

3.より良い規制環境(ベター・レギュレーション)

競争力強化プランの3つ目の柱はベター・レギュレーションです。16ページにベター・レギュレーションの4つの柱を掲げています。昨年の夏以来、世の中にご説明申し上げていますので、若干繰り返しになりますが、なぜ今ベター・レギュレーションなのかということについて確認をしておきたいと思います。

それには二つの理由があります。一つは、金融セクターをめぐる局面の変化ということです。資料の17ページをごらんいただきますと、金融行政上の大きな3つの目的、すなわち金融システムの安定、利用者保護・利用者利便の向上、公正・透明で活力ある市場の確立、この3つの分野それぞれにおいて一定の枠組みの整備、あるいは実態面での改善が進捗したと思っておりまして、現在はこれまでの経験・教訓を定着させ、さらに進化させる局面にあると思います。ミニマム・スタンダード(最低水準)をクリアすることで満足するのではなくて、ベスト・プラクティス(最良慣行)を各金融機関自身で追求していただくため、各金融機関の自己責任と自助努力を尊重する枠組みが必要である、これがベター・レギュレーションが必要である理由の1つ目です。

2つ目の理由は、金融規制の質が当該規制の適用されるマーケットの競争力を左右する重要な要素であるということです。金融・資本市場競争力強化プランにおいてこのベター・レギュレーションを柱の一つに位置づけていることも、こういった問題認識からで、現に、海外の主要な金融市場、ニューヨークとかロンドンを所管する当局も、こういう意識をかなり強く持っているということです。

具体的な4つの柱ですけれども、18ページをごらんいただきますと、「ルール・ベースとプリンシプル・ベースの監督の最適な組合せ」ということが書いてあります。ルール・ベースの監督というのは、ある程度詳細なルールや規則を制定し、それらを個別事例に適用していく枠組みです。金融機関にとっての予見可能性が向上する、あるいは行政の恣意性が排除されるというメリットがあります。他方、プリンシプル・ベースの監督というのは、金融機関が尊重すべき重要な幾つかの原則や規範を示した上で、あるいは共有した上で、それに沿った行政対応を行うというアプローチです。金融機関の自主的な取組みの推進あるいは経営の自由度が確保されるといったメリットがあります。

金融庁としては、この二つのアプローチは二者択一のものではなくて、むしろ相互補完的であると思っております。例えば、ルール・ベースの監督は、行政権限に基づいて金融機関に対して不利益処分を行うような場合、あるいは日常的には監督対象になっていない不特定多数の市場関係者に共通のルールを適用するような場合に不可欠であります。他方、プリンシプル・ベースの監督は、金融機関の経営管理態勢等の整備を促す場合、あるいは新しい金融商品・サービスや販売方法に直ちに適用できるルールが存在しない場合に、プリンシプルに沿って考えていくような場合に有用であります。この中で、自主規制機関の役割も、プリンシプル・ベースの監督の実効性を高める上で非常に重要だと思っております。

年末にまとめた競争力強化プランでは、特にこのプリンシプルの策定について記載をしております。金融サービス提供者が目指す最良慣行(ベスト・プラクティス)のよりどころとなり、また関係者のルール解釈の基礎となる原則(プリンシプル)について金融サービス提供者と議論を行い、共通認識を得た上で取りまとめると記載されています。既にプリンシプルについての当局と業界団体の皆様との間の議論を昨年末にスタートさせたところです。

次の19ページには、2つ目の柱である「優先課題の早期認識と効果的対応」ということが書いてあります。イギリスのFSA、監督当局では、よくリスク・フォーカスト、フォワード・ルッキングのアプローチといった呼び方もいたします。深刻な問題が潜んでいる分野、あるいは将来大きなリスクが顕在化する可能性がある分野を早目早目に分析し、抽出した上で、それに対して早目の行政資源の配分を行うということです。金融庁としては、既にそういった心構えで対応に努めているわけで、そこに幾つかの具体例も掲げております。

このフォワード・ルッキングな行政対応をするためには、監督当局の体制強化が不可欠です。一つには、市場関係者あるいは内外の関係機関との対話や連携が不可欠ですし、そういったことを常時こなしていくための組織が必要ということで、平成20年度の機構定員措置でリスク担当の参事官を設置することができるようになったところであります。

次の20ページは、「金融機関の自助努力尊重と金融機関へのインセンティブの重視」ということを掲げております。これは、先ほどの我が国金融セクターの局面シフトのところでも触れましたが、今の局面は、各金融機関自身に、自らの責任感覚に基づいて自主的に創意工夫を行っていただくことが重要ですので、創意工夫を尊重する監督のあり方、あるいは、そういった努力が自然と促されていく枠組み、すなわち、そういった自主的な努力をすれば、自らの経営にとってプラスになるという因果関係を意識していただけるような、そういうインセンティブを内包した仕組みや枠組みが重要であるという問題意識であります。これは、銀行監督の世界ですが、バーゼル II 、新しい自己資本比率規制を他の先進国に先駆けて最も早く実施に移したことにも、そういった心構えが背景にありますし、また、金融検査における評定制度もこのインセンティブを内包した取組みであろうかと思います。

21ページの4つ目の柱は、「行政対応の透明性・予測可能性の向上」です。当局からの情報発信を強化する、あるいは金融機関の皆様からのご意見・アドバイス等をよく聞くことも含めまして、金融機関の側あるいは監督される側から見た、当局の考え方なり基本的な判断の基準あるいは当局のアクションなりについて予測可能性を高める努力をしていきたいと思います。そこに掲げていますようなさまざまな具体的な取組みを既に行っていたり、さらに強化することで対応していきたいと思っております。

次の22ページは、こういう4つの柱を具体的に進めていく上で心がけるべき幾つかの取り組みを掲げています。1つは、金融機関等との対話の充実です。2つ目に情報発信の強化。3つ目に海外当局との連携強化。4つ目に調査機能の強化による市場動向の的確な把握、これは先ほど申し上げた、リスク・フォーカスト、フォワード・ルッキングなアプローチをしていく上で不可欠です。そして最後、5番目に職員の資質向上。さまざまな取組みによってこの職員の資質向上をしていくことも不可欠であろうかと思います。

4.市場をめぐる周辺環境

競争力強化プランの4つ目の柱が市場をめぐる周辺環境の整備です。一つは、国際的にも通用する金融・法務・会計等々の専門人材の育成・集積です。この点に関しましては、金融庁に「金融専門人材に関する研究会」を設置したところで、今年の春ごろをめどに基本的なコンセプトについての案を策定し、夏ごろをめどに論点を取りまとめたいと思っています。さらには、高度かつ実践的な金融教育も不可欠であろうかと思います。金融・経営関係の専門職大学院など、大学・大学院への支援もこの中に含まれます。

国際金融センターとしての都市機能の向上に関しては、金融機関のみならず、法務、会計等の周辺専門サービスも含めたさまざまな市場関係者の集積を促していくこと、また、内外のビジネスマン、プレーヤーが安全・快適に活動できる都市環境の整備を推進していくこともこの中に入ってくると思っております。

«結果を出すのはプレーヤー»

以上が、我が国の金融・資本市場の競争力強化プランについてのお話であります。この点が金融庁としては今一番PRしたい点でして、かつ、国全体としても大変高いプライオリティーを持った課題であると思っております。このことが実際に実現するためには、当局、あるいは制度設計の面でだけ話が進んでも、最終的な成果には何ら結びつかないわけでありまして、こういった新しい枠組みの整備あるいは新しい規制環境のもとで、ぜひ個々の民間のプレーヤーの皆様に最大限のエネルギーをここに投下していただいて、活力のある、また世界に冠たる金融・資本市場としての実を上げていただくことが不可欠であろうかと思います。

投資顧問業協会のメンバーである皆様方は、まさにそういった非常に大きな役割を担っていただいている皆様ですので、改めましてこの競争力強化プランのスピーディーかつ着実な実現に向けてのご協力というか、主体的取組みを期待申し上げたいと思います。この期待を申し上げることをもちまして、私のお話の終わりにさせていただきたいと思います。ご清聴どうもありがとうございました。

【質疑応答】

(質問)

18ページのルール・ベースの監督とプリンシプル・ベースの監督のことにつきまして1点ご質問させてください。昨今、金融庁さんから、また金融庁幹部の方と協会幹部とのお話合いにおいても、この点のお話がありました。本日の出席者は運用機関の経営陣でもありますので、今後、個社において、どういう考え方で、特にこのプリンシプル・ベースの監督について、一般的に以前から言われております市場の公平性、投資家保護、また信頼性向上というのは、当然ながら各経営者が考えていかなければいけないところでございますけれども、それに加えまして、こちらのほうで金融機関の経営管理、リスク管理、コンプライアンス等の態勢や新しい金融商品等についても触れておりますので、長官の考え方、また今後の金融庁の方向性についてご教示いただければ幸いでございます。

(回答)

先ほどもちょっと申し上げましたけれども、民間の各業界団体の皆様と私どもとの間の意見交換と申しましょうか、プリンシプルについての考え方の整理をする会合を持たせていただいております。一つには、このプリンシプルというのは、その本質からしても、当局があらかじめつくって、それを民間プレーヤーの皆様に押しつけるという性格のものではなくて、先ほどの局面シフトのところでも申し上げましたけれども、まさに個々の金融機関が投資家保護、顧客保護に十分留意をしながら高いパフォーマンスを実現し、その成果を顧客の皆様の利益に結びつけていただく、その結果として収益を上げていただくという流れであります。まさに民間プレーヤーの皆様がどういうことを考えておられるのか、その考える際の共通の枠組みとして、私どもには、金融行政の大きな3つの目標があり、また、それをある程度ブレークダウンした法令や監督指針等々があるわけです。そういったものとの整合性をぶつけ合いながら、そこからいわば共通の利益として共有できる部分をしっかりと抽出し、それを、当局から言われたものではなくて、自らのプリンシプルとしてしっかりとお持ちいただくことが大事だということで、こうしたプロセスをとらせていただいています。

当然のことながら、民間プレーヤーの皆様は、それぞれの会社として収益を上げることも目的であるわけです。他方、当局は金融システムの安定、利用者保護・投資家保護、あるいは市場の透明性・公正性を確保するといったところに、民間の方と比べればより大きな重点が置かれていまして、その辺の共通項を見つけ出し、見つけ出した共通項をしっかりと共有することが大変重要であろうかと思っております。

私は必ずしもこの投資顧問業という分野についてそれほど詳しくはありませんけれども、やはり最良慣行をきちんと行って、当然、善管注意義務は大前提としてしっかり守っていただく中で、できるだけ高いパフォーマンスを実現するように、顧客の代理人として実現するように最善の努力を果たしていただいているかどうか、そういったことをみずから点検するような仕組みがあるかどうか、また、そういった仕組みを含めて業界全体として共通認識が形成されているかどうかといったところが、私どもの立場からすると関心事です。

そういった点を含めて、恐らく銀行の場合、保険会社の場合、証券会社の場合、投資顧問業の場合、投資信託委託会社の場合、それぞれ重点の置き方に差が出てくることもあろうかと思いますけれども、いずれにせよ、その商売の内容にふさわしい実効性のあるプリンシプルを形成していくことが大事だろうと思っております。

(質問)

二つございまして、まず、長官のおっしゃった第1部につきまして、このところモノラインという話が出てきており、余りよくわからない話になってきますが、モノラインに対して、ひょっとしてその再保険に日本の保険、損保がかかわっているのではないかと、これも疑心暗鬼のところですが、その件に関しまして何かご認識がございましたらお教えいただきたい。

もう一つは、行政のお立場ですので、司法に対してはコメントしづらい面もあるかもしれませんが、裁判所の判断が去年もいろいろ物議を醸しております。日本では、ファンドマネジャーが違法なのではないか、もしくは、法的にある程度制限されなければだめなのではないかという見方がされまして、我々も非常に困惑しているところです。当局と司法が、何かすり合わせといいますか、何か対応を打っておられるのか、もしくは対応があるのか、という点についてご説明いただければと思います。

(回答)

まず、いわゆるモノライン保険会社ですけれども、これはある意味で米国に特有なのかもしれませんが、金融保証を専ら行う保険会社です。今般のサブプライム問題との関係でいけば、サブプライム・ローンを原資産とする証券化商品について、ちなみに他の証券化商品、それから規模的には地方債、米国の公共債等に対する保証のほうが多いわけですが、とにかくこのサブプライム・ローン関連の証券化商品に対して金融保証を付していたことで損失が膨らみ、その保証能力について疑念が呈されているということであり、また、それらの実態を踏まえて、格付会社がこれらモノライン保険会社の格付を引き下げているということであります。このことが、世界に広がっている証券化商品のプライシング、あるいはその証券化商品自体の格下げにもつながっているということで、かなり広がりのある問題であろうかと思います。このモノライン会社の帰趨は非常に注意深く見ていかなければならないことだろうと思います。

我が国の預金取扱金融機関については、先ほど申し上げたようなエクスポージャーの規模ということで、このモノラインの関係も我が国の金融システムに深刻な影響を与えるような要素になる話ではないだろうと私どもとしては認識をしています。ただ、非常にグローバル化した今の金融市場ですから、いろいろなルートでいろいろな因果関係が働くというのが、証券化商品の普及した現代の金融市場の特徴です。このモノラインの関係でいいますと、3つぐらいのルートでこの影響が及んでくるだろうと思います。一つは、日本の例えば保険会社がモノライン会社と全く同様の金融保証というビジネスをやっていた場合。もう一つは、ご質問の中にもありましたように、米国のモノライン会社が引き受けた保険について再保険を引き受けているケース。さらには、同様の効果を持ちますけれども、典型的にはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)のプロテクションを販売しているといったケースであります。

このモノラインに関連するエクスポージャーと申しましょうか、かかわりについても、私どもとしては注意深く見ていかなくてはいけないと思っておりますが、現在までのところ、モノラインとかかわりを持っている、あるいはそれなりのエクスポージャーがあるのは、我が国で言えば、ごく少数の大手の損害保険会社に限られていまして、それぞれの損保会社の事業規模、利益の水準、あるいは自己資本の厚みといったこと全体をとらえますと、個々の会社で吸収可能と申しましょうか、コントロールできる範囲内のものであるのではないかと思っております。

2つ目のご質問の、ファンドについて日本の企業社会が持っているイメージは、むしろ、ファンドに対して日本の企業社会が閉鎖的であるというパーセプション(見方)がひとり歩きをして海外に広まっている面が強いのではないかと、個人的には思っています。ファンドに対する金融庁の基本的な認識を申し上げさせていただければ、ファンドというのは、一つには非常に多様なものです。いわゆるカテゴリーとしても、ヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、ベンチャーファンド、事業再生ファンドなど、さまざまなものがあるわけですし、また、それぞれのカテゴリーの中でも、個別のファンドによって投資哲学であるとか、投資手法であるとか、非常に多様なものを持っているということであります。したがって、ファンドの存在については、その多様性とともに理解をする必要があるということが一つです。

2つ目に非常に重要なことは、ファンドは金融市場において非常にポジティブな役割を果たしている、担っているという側面を忘れてはならないということだと思います。マーケット全体に大きな厚みをもたらす、あるいは金融市場におけるイノベーションを促す役割も担っているわけでして、先ほど申し上げた多様性とともに、このポジティブな役割もあわせて認識をする必要があると思っております。

もちろん、ファンドとして市場参加者のひとりとして、市場の透明性・公正性が維持されるための市場ルールはきちんと守っていただかなければならないでしょうし、また、投資家保護、利用者保護といった観点も、それが当てはまる場合には当然重要です。こういったルール遵守を大前提とした上で、先ほど申し上げましたように、ファンドが担っているポジティブな役割をきちんと認識する必要があると思っています。

そして、相対的には小さな会社に対して、それほど大きくはないファンドが行った TOB(株式公開買付け)の提案に関して、一連の出来事をとらえて、メディアの報道等ではこういうプロセス、こういう出来事が日本の企業社会のあたかも典型であるかのような報道が広まっているなと思っているわけです。例えば、日本を代表するトヨタ自動車だとかキヤノンといった時価総額の大きな企業では、外国人の持ち株比率は30%、40%を超えていることもあるわけで、外国人投資家に対して閉鎖的な態度を強く打ち出して持続的な経営ができるというものではないのだろうと思っております。

したがって、個別事案についてのさまざまな出来事あるいは判例をとらえて、それがすべてであるかのような粗雑な一般化は避けたほうがよいのではないかと思っているところであります。

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