III 主要行等監督上の評価項目
III -4 金融仲介機能の発揮
III -4-1 基本的役割
金融機関は、中小企業(小規模事業者を含む。以下III-5までにおいて同じ。)や住宅ローン借入者など個々の借り手の状況をきめ細かく把握し、他業態も含め関係する他の金融機関等と十分連携を図りながら、円滑な資金供給(新規の信用供与を含む。以下同じ。)や貸付けの条件の変更等(注1)に努めることが求められる。
特に、金融機関は、株式会社地域経済活性化支援機構法(平成21年法律第63号)第64条の規定(注2)の趣旨を十分に踏まえ、地域経済の活性化及び地域における金融の円滑化などについて、適切かつ積極的な取組みが求められることに留意する必要がある。
このような観点から、金融機関は、資金供給者としての役割のみならず、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮を通じて、中小企業をはじめとする顧客企業の経営改善等に向けた取組みを先延ばしすることなく最大限支援していくことも求められる(顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮については、III-5-1を参照)。
特に、急激な経営環境の変化により資本の充実が必要となった企業に対する支援においては、貸付けの条件の変更等だけでなく、資本性借入金(注3)や出資等も活用し、顧客企業の経営改善等につなげていくことが強く求められる。
また、「経営者保証に関するガイドライン」の趣旨を踏まえ、経営者保証に依存しない融資の一層の促進を図るとともに、「経営者保証に関するガイドライン」で示された合理性が認められる保証契約の在り方に基づく対応を行っていくことが必要である(III-9-2参照)。
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(注1)「貸付けの条件の変更等」とは、貸付けの条件の変更、旧債の借換え、DES(デット・エクイティ・スワップ)その他の債務の弁済に係る負担の軽減に資する措置をいう。
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(注2)株式会社地域経済活性化支援機構法第64条では、「機構及び金融機関等は、事業者の事業の再生又は地域経済の活性化に資する事業活動を支援するに当たっては、地域における総合的な経済力の向上を通じた地域経済の活性化及び地域における金融の円滑化に資するよう、相互の連携に努めなければならない。」とされている。
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(注3)「資本性借入金」とは、貸出条件が資本に準じた十分な資本的性質が認められる借入金として、債務者の評価において、資本とみなして取り扱うことが可能なものをいう。なお、あくまでも借入金の実態的な性質に着目したものであり、債務者の属性(企業の規模等)、債権者の属性(金融機関、事業法人、個人等)や資金使途等により制限されるものではなく、基本的には、償還条件、金利設定、劣後性といった観点から、資本類似性が判断される。一般に、
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償還条件については、契約時における償還期間が5年を超え、期限一括償還又は同等に評価できる長期の据置期間が設定されていること
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金利設定については、資本に準じて配当可能利益に応じた金利設定となっていること(業績連動型など、債務者が厳しい状況にある期間は、これに応じて金利負担が抑えられるような仕組みが講じられていること)
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劣後性については、法的破綻時の劣後性が確保されていること(又は、少なくとも法的破綻に至るまでの間において、他の債権に先んじて回収されない仕組みが備わっていること)
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が求められると考えられる。
III -4-2 主な着眼点
上記の基本的役割を踏まえ、各金融機関が金融仲介機能を組織全体として継続的に発揮するための態勢整備の状況も含め、各金融機関の取組み状況を検証することが必要である。このため、以下の着眼点に基づき検証していく(顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮に関する着眼点は、III-5-2を参照)。
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(1)中小企業や住宅ローン借入者など個々の借り手の状況をきめ細かく把握し、円滑な資金供給や貸付けの条件の変更等に努めているか。また、他業態も含め関係する他の金融機関等がある場合には、当該他の金融機関等と十分連携を図りながら、円滑な資金供給や貸付けの条件の変更等に努めているか。
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(2)株式会社地域経済活性化支援機構法第64条の規定の趣旨を踏まえ、事業者の事業の再生又は地域経済の活性化に資する事業活動を支援するに当たっては、地域における総合的な経済力の向上を通じた地域経済の活性化及び地域における金融の円滑化に資するよう、地域経済活性化支援機構との連携を図るとともに、自らも円滑な資金供給や貸付けの条件の変更等に努めているか。
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(3)停止条件又は解除条件付保証契約、ABL、金利の一定の上乗せ等の経営者保証の機能を代替する融資手法のメニューの充実を図るよう努めているか。
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(4)法人個人の一体性の解消が図られている、あるいは、解消等を図ろうとしている主債務者が資金調達を要請した場合において、「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、主債務者の経営状況、資金使途、回収可能性等を総合的に判断する中で、経営者保証を求めない可能性、(3)のような代替的な融資手法を活用する可能性について、検討するよう努めているか。
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(5)保証契約を締結する場合や一部の既存の保証契約(注)がある場合には、どの部分が十分ではないために保証契約が必要なのか、どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか、の客観的合理的理由について、顧客の知識、経験等に応じ、その理解と納得を得ることを目的とした説明を行うこととしているか。
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(注)M&A・事業承継など主たる株主等が変更になることを金融機関が把握した保証契約及び令和5年3月以前に締結した根保証契約
III -4-3 監督手法・対応
各種ヒアリングの機会を通じ、上記の監督上の着眼点に基づき、各金融機関における取組み状況をフォローアップしつつ、金融仲介機能が十全に発揮されるよう、金融機関を促していく。
トップヒアリングにおいては、金融機関経営者から、金融仲介機能の発揮に関し、経営陣の主導性の発揮状況等を確認する。
また、必要に応じ、営業現場の責任者等から、顧客企業との接触状況を含め、個別具体的な実践(現場における課題や本部との連携の状況を含む。)まで踏み込んで確認する。
III -5 顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮
III -5-1 基本的考え方
顧客企業(個人事業主を含む。以下同じ。)の事業拡大や経営改善等に当たっては、まずもって、当該企業の経営者が自らの経営の目標や課題を明確に見定め、これを実現・解決するために意欲を持って主体的に取り組んでいくことが重要である。
金融機関は、資金供給者としての役割にとどまらず、必要に応じて、外部専門家・外部機関等とのネットワークを活用し、経営再建計画の策定支援、貸付けの条件の変更等を行った後の継続的なモニタリング、経営相談、指導といったコンサルティング機能を発揮することにより、顧客企業の主体的な取組みに向けた自助努力を、最大限支援していくことが求められている。
特に、貸付残高が多いなど、顧客企業から主たる相談相手としての役割を期待されている主たる取引金融機関については、コンサルティング機能をより一層積極的に発揮し、顧客企業が経営課題を認識した上で経営改善、事業再生等に向けて自助努力できるよう、最大限支援していくことが期待される。
このような顧客企業と主要行等双方の取組みが相乗効果を発揮することにより、顧客企業の事業拡大や経営改善等が着実に図られるとともに、顧客企業の返済能力が改善・向上し、将来の健全な資金需要が拡大していくことを通じて、金融機関の収益力や財務の健全性の向上も図られるという流れを定着させていくことが重要である。
主要行等のコンサルティング機能は、顧客企業の経営課題を把握・分析した上で、適切な助言などにより顧客企業自身の課題認識を深めつつ、主体的な取組みを促し、同時に、最適なソリューションを提案・実行する、という形で発揮されることが一般的であるとみられる。その際、業況悪化の未然防止や早期改善等の観点から、顧客企業の状況の変化の兆候を適時適切に把握し、早め早めの対応を促すことが重要である。以下に主要行等に期待される顧客企業に対するコンサルティング機能を具体的に示すこととする。
なお、これは、当局及び主要行等、さらには顧客企業の認識の共有に資するために、本来は、顧客企業の状況や主要行等の規模・特性等に応じて種々多様であるコンサルティング機能を包括的に示したものである。コンサルティング機能の具体的な内容は、各金融機関において自らの規模・特性、利用者の期待やニーズ等を踏まえ、自主的な経営判断により決定されるべきものであり、金融機関に対して、これら全てを一律・網羅的に求めるものではないことに留意する必要がある。
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(1)日常的・継続的な関係強化と経営の目標や課題の把握・分析
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経営の目標や課題の把握・分析とライフステージ等の見極め・予兆管理
顧客企業の財務情報や各種の定性情報を基に、顧客企業の経営の目標や課題を把握する。
そのうえで、以下のような点を総合的に勘案して、顧客企業の経営の目標や課題を分析し、顧客企業のライフステージ(発展段階)や事業の持続可能性の程度(以下「ライフステージ等」という。)等を適切かつ慎重に見極める。
- 顧客企業の経営資源、事業拡大や経営改善に向けた意欲、経営の目標や課題を実現・解決する能力
- 外部環境の見通し
- 顧客企業の関係者(取引先、信用保証協会、他の金融機関、外部専門家、外部機関等)の協力姿勢
- 金融機関の取引地位(総借入残高に占める自らのシェア)や取引状況(設備資金/運転資金の別、取引期間の長短等)
- 金融機関の財務の健全性確保の観点
また、顧客企業が取り得るソリューションが多いうちから、主要行等が顧客企業の経営者の目線に立って丁寧に対話し、その経営判断をサポートすることが重要である。そのため、主要行等は、収益力の低下、過剰債務等による財務内容の悪化、資金繰りの悪化等が生じたため、経営に支障が生じ、又は生じるおそれがある状況(以下、III-5において「有事」という。)へ移行する兆候があるかどうか継続的に把握することにも努める。なお、顧客企業における平時から有事への移行は、自然災害や取引先の倒産等によって突発的に生じるだけでなく、事業環境や社会環境の変化に伴い段階的に生じることが十分に想定される。そのため、主要行等は、必要に応じて、自ら有事への段階的移行過程にあることを認識していない者を含めた顧客企業に対し、有事への段階的な移行過程にあることの認識を深めるよう働きかけていく。
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顧客企業による経営の目標や課題の認識・主体的な取組みの促進
顧客企業が自らの経営の目標や課題を正確かつ十分に認識できていない場合も含め、経営の目標や課題への認識を深めるよう適切に助言し、顧客企業がその実現・解決に向けて主体的に取り組むよう促す。また、必要に応じて、他の金融機関、信用保証協会、外部専門家、外部機関等と連携し、顧客企業に対し認識を深めるよう働きかけるとともに主体的な取組みを促す。
(参考)中小企業である顧客企業が自らの経営の目標や課題を正確かつ十分に認識できるよう助言するにあたっては、当該顧客企業に対し、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」の活用を促していくことも有効である。
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(2)最適なソリューションの提案
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顧客企業の経営目標の実現や経営課題の解決に向けて、顧客企業のライフステージ等を適切かつ慎重に見極めた上で、当該ライフステージ等に応じ、顧客企業の立場に立って適時に最適なソリューションを提案する。その際、必要に応じて、他の金融機関、信用保証協会、外部専門家、外部機関等と連携するとともに、国や地方公共団体の中小企業支援施策を活用する。
また、今後、顧客企業を取り巻く状況が変化することを想定し、有事に移行してしまったときに提供可能なソリューションについても積極的に情報提供を行う等、顧客企業の状況の変化の兆候を把握し、顧客企業に早め早めの対応を促す。
特に、顧客企業が事業再生、業種転換、事業承継、廃業等の支援を必要とする状況にある場合や、支援にあたり債権者間の調整を必要とする場合には、当該支援の実効性を高める観点から、外部専門家・外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見・機能を積極的に活用する。
なお、ソリューションの提案にあたっては、認定経営革新等支援機関(中小企業等経営強化法第31条第1項の認定を受けた者をいう。以下、同じ。)との連携を図ることも有効である。
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顧客企業のライフステージ等の類型 | 金融機関が提案するソリューション | |
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外部専門家・外部機関等との連携 | ||
創業・新事業開拓を目指す顧客企業 |
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成長段階における更なる飛躍が見込まれる顧客企業 |
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経営改善が必要な顧客企業 (自助努力により経営改善が見込まれる顧客企業など) |
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事業再生や業種転換が必要な顧客企業 (抜本的な事業再生や業種転換により経営の改善が見込まれる顧客企業など) |
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事業の持続可能性が見込まれない顧客企業 (事業の存続がいたずらに長引くことで、却って、経営者の生活再建や当該顧客企業の取引先の事業等に悪影響が見込まれる先など) |
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事業承継が必要な顧客企業 |
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(注1)この図表の例示に当てはまらない対応が必要となる場合もある。例えば、金融機関が適切な融資等を実行するために必要な信頼関係の構築が困難な顧客企業(金融機関からの真摯な働きかけにもかかわらず財務内容の正確な開示に向けた誠実な対応が見られない顧客企業、反社会的勢力との関係が疑われる顧客企業など)の場合は、金融機関の財務の健全性や業務の適切な運営の確保の観点を念頭に置きつつ、債権保全の必要性を検討するとともに、必要に応じて、税理士や弁護士等と連携しながら、適切かつ速やかな対応を実施することも考えられる。
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(注2)上記の図表のうち「M&A支援(マッチング支援やPMI支援等)」を行う場合には、専門的な人材の内部育成や、ノウハウを持つ外部人材の採用、外部専門家・外部機関等との連携など、実施する支援業務の内容に応じ、その健全かつ適切な運営の確保を念頭に置きつつ、所要の体制整備を図ることが重要である。
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(注3)上記の図表のうち「事業再生や業種転換が必要な顧客企業」に対してコンサルティングを行う場合には、中小企業の再生支援のために、以下のような税制特例措置が講じられたことにより、提供できるソリューションの幅が広がっていることに留意する必要がある。
- 企業再生税制による再生の円滑化を図るための特例(事業再生ファンドを通じた債権放棄への企業再生税制の適用)
- 合理的な再生計画に基づく、保証人となっている経営者による私財提供に係る譲渡所得の非課税措置
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(3)経営改善・事業再生等の支援が必要な顧客企業に対する留意点
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経営再建計画の策定支援
(2)に掲げるソリューションのうち経営再建計画の策定が必要となるものについて、金融機関と顧客企業、必要に応じて他の金融機関、信用保証協会、外部専門家、外部機関等との間で合意された場合(金融機関から提案されたソリューションが顧客企業、必要に応じて他の金融機関、信用保証協会、外部専門家、外部機関等との協議等を踏まえて修正された後に合意に至る場合を含む。)、速やかに、当該ソリューションを織り込んだ経営再建計画の策定に取り組むこととなる。
経営再建計画は、顧客企業が本質的な経営課題を認識し改善に向けて主体的に取り組んでいくためにも、できる限り、顧客企業が自力で策定することが望ましい。その際、金融機関は、経営再建計画の合理性や実現可能性、(2)に掲げるソリューションを適切に織り込んでいるか等について、顧客企業と協力しながら確認するよう努める。
ただし、顧客企業が自力で経営再建計画を策定できない場合や主要行等の積極的な関与が有効であると考えられる場合には、顧客企業の理解を得つつ、経営再建計画の策定を積極的に支援(顧客企業の実態を踏まえて経営再建計画を策定するために必要な資料を金融機関が作成することを含む。)する。その際、顧客企業の経営改善に寄与する内容となるよう、顧客企業の置かれた状況を十分に踏まえた計画策定支援を行う。また、金融機関単独では経営再建計画の策定支援が困難であると見込まれる場合であっても、外部専門家・外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見・機能を積極的に活用し、計画策定を積極的に支援する必要があることに留意する。
なお、経営再建計画の策定にあたっては、中小企業の人員や財務諸表の作成能力等を勘案し、大企業の場合と同様な大部で精緻な経営再建計画等の策定に拘ることなく、簡素・定性的であっても、顧客企業の経営改善や事業再生等に向けて、実効性のある課題解決の方向性を提案することを目指す。また、主要行等が、国や地方公共団体の中小企業支援施策を活用して金融機関が資金繰りの管理や自社の経営状況の把握などの基本的な経営改善の計画(基本的な事項に関する経営改善計画、以下「基本的経営改善計画」という。)等の策定支援を行う場合には、優越的地位の濫用の防止にも留意しつつ、当該支援施策の活用が真に顧客企業のニーズに合致したものであることを確認する必要がある。
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(注1)顧客企業に対し貸付けの条件の変更等を行った場合であっても、経営再建計画や課題解決の方向性が、実現可能性の高い抜本的な経営再建計画に該当する場合には(該当要件については、本監督指針III-3-2-4-3銀行法及び再生法に基づく債権の額の開示区分を参照のこと。)、当該経営再建計画や課題解決の方向性に基づく貸出金は貸出条件緩和債権には該当しないこととなる。
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(注2)仮に中小・零細企業等が経営改善計画等を策定していない場合であっても、債務者の技術力、販売力や成長性等を総合的に勘案し、債務者の実態に即して「金融機関が作成した経営改善に関する資料」がある場合には、これを「実現可能性の高い抜本的な計画」とみなして、「貸出条件緩和債権」には該当しないこととなる(III-3-2-4-3銀行法及び再生法に基づく債権の額の開示区分を参照のこと。)。
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新規の信用供与
積極的かつ適切に金融仲介機能を発揮する観点から、貸付けの条件の変更等を行った顧客企業から新規の信用供与の申込みがあった場合であって、新規の信用供与により新たな収益機会の獲得や中長期的な経費削減等が見込まれ、それが顧客企業の業況や財務等の改善につながることで債務償還能力の向上に資すると判断される場合には、積極的かつ適時適切に新規の信用供与を行うよう努める。
経営改善・事業再生支援に関する積極的な取組み等
主要行等は、自身が主たる取引金融機関である顧客企業に対しては丁寧に対話を行ったうえで実情に応じた経営改善支援や事業再生支援等に積極的に取り組んでいく。
また、上記のほか、貸付残高が少ない顧客企業や、保全されている債権の割合が高い顧客企業、信用保証協会の保証付き融資の割合が高い顧客企業に対しても、自身の経営資源の状況等を踏まえつつ、必要に応じて早めに他の金融機関や信用保証協会、外部専門家、外部機関等と連携し、顧客企業の実情に応じた経営改善支援や事業再生支援等に取り組んでいく。
なお、主要行等が顧客企業の主たる取引金融機関である場合において、当該主要行等が地域経済活性化支援機構又は東日本大震災事業者再生支援機構の機能を活用して当該顧客企業の事業再生支援を行うときは、当該主要行等が主体的かつ継続的に関与していく。
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(4)顧客企業等との協働によるソリューションの実行及び進捗状況の管理
顧客企業や連携先とともに、ソリューションの合理性や実行可能性を検証・確認した上で、協働してソリューションを実行する。
ソリューションの実行後においても、必要に応じて連携先と協力しながら、ソリューションの実行状況を継続的にモニタリングするとともに、経営相談や経営指導を行っていくなど、進捗状況を適切に管理する。
特に、国や地方公共団体の中小企業支援施策を活用しつつ、基本的経営改善計画の策定を金融機関が支援した場合には、当該金融機関が率先して当該計画の進捗状況について適切にモニタリングを行う。
また、顧客企業へ貸付けを行っている金融機関が複数存在することを認識している場合は、必要に応じ、それらの金融機関や信用保証協会と連携を図りながら進捗状況の管理を行うこととする。
なお、進捗状況の管理を行っている間に、ソリューションの策定当初には予期し得なかった外部環境の大きな変化等を察知した場合には、実行しているソリューションについて見直しの要否を顧客企業や連携先とともに検討する。見直しが必要な場合は、そうした変化や見直しの必要性等を顧客企業が認識できるよう適切な助言を行った上で、ソリューションの見直し(経営再建計画の再策定を含む。)を提案し、顧客企業や連携先と協働して実行する。
(注)ソリューションの実行に当たっては、上記(3)にも留意する。
III -5-2 主な着眼点
以上を踏まえ、各主要行等が顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮に関する取組みを組織全体として継続的に推進するための態勢整備等の状況について、以下の着眼点に基づき検証していく。
なお、以下の着眼点に定める具体的な内容や水準については、各主要行等において、自らの規模や特性、利用者の期待やニーズ等を踏まえ、自主的な経営判断により決定されるべきものであり、金融機関に一律・画一的な対応を求めるものではないことに留意する必要がある。
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(1)経営陣は、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮に関する取組みの評価・改善に積極的に取り組み、必要に応じて規定等を見直すなど、本監督指針の定めを組織全体として継続的かつ着実に遂行できるよう、職員への周知徹底も含め必要な態勢の整備に努めているか。
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(2)営業店における人材やノウハウの不足の補完や自金融機関における経営資源の有効活用のために、本部による営業店支援態勢の整備に努めているか。例えば、営業店が顧客企業との日常的・継続的な関係を通じて把握した経営状況・経営課題(有事への移行の予兆を含む)等について、本部と当該内容を共有し、必要に応じて営業店と本部が一体となって実効性ある支援に取り組むなど、適切な役割分担のもとで、顧客企業の経営課題に応じた最適なソリューションを提供するための態勢整備に努めているか。
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(3)個々の顧客企業の経営改善・事業再生等の支援に当たっては、顧客企業に密着して、顧客企業の経営課題に応じた最適なソリューションを、顧客企業の立場に立って提案し、実行支援しているか。また、顧客企業の有事への移行の予兆を把握し、顧客企業に早め早めの対応を促すための態勢整備に努めているか。その際、関係する他の金融機関及び関係機関等がある場合には、当該他の金融機関及び関係機関等と連携を行うための会議を開催するなど十分連携・協力を図るよう努めているか。
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(4)自金融機関における専門的な人材やノウハウの不足の補完や、中長期的な人材育成やノウハウ蓄積の観点を踏まえつつ、必要に応じ、適時適切に、外部専門家(税理士、弁護士、公認会計士、中小企業診断士、経営指導員等)、外部機関(地方公共団体、経済産業局、商工会議所、商工会、中小企業団体中央会、よろず支援拠点、JETRO、JBIC、地域経済活性化支援機構、東日本大震災事業者再生支援機構、中小企業活性化協議会、中小企業基盤整備機構、認定経営革新等支援機関、事業再生ファンド、地域活性化ファンド等)、信用保証協会、他の金融機関等と連携できるよう、本部や営業店等において連携態勢の整備に努めているか。
特に、顧客企業が事業再生、業種転換、事業承継、廃業等の支援を必要とする状況にある場合や、支援にあたり債権者間の調整を必要とする場合には、判断を先送りせず、外部専門家・外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見・機能を積極的に活用しているか。取引金融機関として、外部専門家・外部機関等や中小企業の事業再生等に関するガイドライン等を活用して顧客企業の事業再生支援を行う場合には、積極的な対応をしているか。また、取引金融機関は、仮に顧客企業の事業再生が困難であると判断した場合には、外部専門家・外部機関等の第三者の見解を十分に踏まえ必要な支援を行っているか。また、他の金融機関が外部専門家・外部機関等を活用して事業再生支援を行う場合、積極的に連携・協力するよう努めているか。
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加えて、主たる取引金融機関として、地域経済活性化支援機構又は東日本大震災事業者再生支援機構の機能を活用して顧客企業の事業再生支援を行う場合には、主体的かつ継続的に関与しているか。
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(注)具体的な連携先は、各金融機関において、自らの規模や特性、利用者の期待やニーズ等を踏まえ、自主的な経営判断により決定されるべきものである。金融機関に対し、括弧内に例示している先全てと連携するよう求めるものではなく、またこれら以外の先との連携を排除するものではないことに留意する必要がある。
また、金融機関が保有する顧客企業の経営に関する情報を連携先と共有する場合には、顧客企業の同意が前提となることに留意する必要がある。 -
(5)コンサルティング機能の発揮に関する取組みを支えるための専門的な金融手法や知識等のノウハウを持つ人材の育成・確保や活用に努めているか。また、そうしたノウハウや各種の情報を収集・蓄積するとともに、営業店と本部の適切な連携により組織全体で共有するよう努めているか。
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(6)職員のモチベーションの向上に資するため、顧客企業に対するコンサルティング機能の発揮に関する取組みを業務上の評価(営業店の評価を含む。)に適正に反映しているか。
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(7)定期的かつ必要に応じ、内部監査等を実施することにより、コンサルティング機能を発揮するための態勢が整備されていることを確認しているか。
また、当該監査等の結果を踏まえ、必要に応じて推進態勢を改善・充実していくなど、監査等を有効に活用する態勢が整備されているか。
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(8)主要行等が、国や地方公共団体の中小企業支援施策を活用して基本的経営改善計画の策定支援を行う場合には、優越的地位の濫用の防止に留意しつつ、当該支援施策の活用が真に顧客企業のニーズに合致したものであることを確認する態勢にあるか。また、策定する基本的経営改善計画が、顧客企業の経営改善に効果的な内容となるよう顧客企業の置かれた状況を十分に踏まえた内容となっているか。
III -5-3 監督手法・対応
本監督指針を踏まえた金融機関のコンサルティング機能の発揮に関する取組み状況について、ヒアリング等の監督事務を通じて把握する。
トップヒアリングにおいては、金融機関経営者から、コンサルティング機能の発揮に関する取組み状況、本監督指針に定める態勢整備の状況及びそれらに関する経営陣の主導性の発揮状況等を確認するとともに、これらの取組みの着実な実施を促す。
各種ヒアリングにおいては、営業現場の責任者等から、顧客企業との接触状況を含めたコンサルティング機能の発揮の個別具体的な実践(現場における課題や本部との連携の状況を含む)まで踏み込んで確認する。