II  金融機関の監督上の評価項目

II -1 貸付けの条件の変更等の申込みに対する対応等

II -1-1 意義

  • (1)最近の我が国の経済金融情勢及び雇用環境の下において、中小企業者及び住宅資金借入者は引き続き厳しい状況にある。このような状況のもと、中小企業者の事業活動の円滑な遂行及びこれを通じた雇用の安定並びに住宅資金借入者の生活の安定を図る観点から、法第3条から第5条までにおいて金融機関の努力義務が規定されている。

  • (2)法第3条においては、金融機関は、中小企業者に対する信用供与については、中小企業者の特性及びその事業の状況を勘案しつつ、できる限り、柔軟にこれを行うよう努めるものとされている。また、法第4条第1項及び第5条第1項においては、金融機関は、当該金融機関に対して債務を有する債務者であって、当該債務の弁済に支障を生じており、又は生ずるおそれがあるものから当該債務の弁済に係る負担の軽減の申込みがあった場合には、中小企業者の事業についての改善若しくは再生の可能性等又は住宅資金借入者の財産及び収入の状況を勘案しつつ、できる限り、貸付けの条件の変更等(貸付けの条件の変更、旧債の借換え、中小企業者の株式の取得であって債務を消滅させるためにするものその他の債務の弁済に係る負担の軽減に資する措置をいう。以下同じ。)に努めるものとされている。

  • (3)また、金融機関の判断に第三者の目を導入し、できる限り、円滑に貸付けの条件の変更等を行うため、法第4条第4項及び第5条第2項において、金融機関は、他の金融機関、株式会社日本政策金融公庫その他これらに類する者として主務省令で定めるもの、信用保証協会その他これに類する者として主務省令で定めるもの、独立行政法人住宅金融支援機構その他これらに類する者として主務省令で定めるものとの緊密な連携を図るよう努めるものとされている。

  • (4)このように、法第3条から第5条までは金融機関による金融の円滑化、特に貸付けの条件の変更等に向けた努力義務を規定するものであり、各金融機関は、法の趣旨にかんがみ、債務者の貸付けの条件の変更等の申込み等に対し、適切な対応を行うことが求められる。

II -1-2 主な着眼点

法第3条から第5条までに規定される金融機関の努力義務の実施状況については、例えば以下のような着眼点に基づき、債務者の貸付けの条件の変更等の申込みに対する対応状況等を検証することとする。

II -1-2-1 債務者が中小企業者又は住宅資金借入者である場合

  • (1)債務者から貸付けの条件の変更等の申込みに関する相談を受けた場合には、当該相談に真摯に対応しているか。当該相談に係る貸付けの条件の変更等の申込みを妨げていないか。また、債務者から貸付けの条件の変更等の申込みがあった場合には、債務者の意思に反して当該申込みを取り下げさせていないか。

  • (2)債務者から口頭で貸付けの条件の変更等の申込みがあった場合には、当該申込みの内容を記録しているか。

  • (3)貸付けの条件の変更等に条件を付す場合には、その内容を可能な限り速やかに債務者に提示し、十分に説明しているか。

  • (4)貸付けの条件の変更等の申込みを謝絶する場合には、これまでの取引関係並びに債務者の知識及び経験等を踏まえ、債務者に謝絶に至った理由を可能な限り具体的に、かつ、丁寧に説明しているか(注)。

    • (注) 特に、長期的な取引関係を継続してきた債務者からの貸付けの条件の変更等の申込みを謝絶する場合、信義則の観点から、債務者の理解と納得が得られるよう、可能な限り速やかに、かつ、十分に説明を行っているか。

  • (5)貸付けの条件の変更等の申込みを謝絶した場合又は債務者が当該申込みを取り下げた場合には、当該謝絶又は取下げに至った理由を可能な限り具体的に記録し、保存しているか(中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する内閣府令(平成21年内閣府令第72号。以下「内閣府令」という。)第6条第1項第5号イ及び同条第2項等参照)。

  • (6)貸付けの条件の変更等に関する苦情相談を受けた場合には、当該苦情相談の内容を可能な限り具体的に記録し、保存しているか(内閣府令第6条第1項第5号ロ及び同条第2項等参照)。

II -1-2-2 債務者が中小企業者である場合

  • (1)貸付けの条件の変更等に係る債務者との協議に当たり、経営再建計画の策定に向けて真摯に議論しているか。また、経営再建計画を策定する意思のある債務者から要請がある場合には、経営再建計画の策定を支援しているか。

  • (2)貸付けの条件の変更等に際して、経営再建計画を策定した場合には、当該経営再建計画の進捗状況を適切に管理するとともに、必要に応じて、当該債務者に対して助言を行っているか。

  • (3)他の金融機関(法第4条第4項第1号に規定する日本政策金融公庫その他これらに類する者として主務省令で定めるもの(以下「公庫等」という。)を含む。)から借入れを行っている債務者から貸付けの条件の変更等の申込みがあった場合には、守秘義務に留意しつつ、当該債務者の同意を前提に、当該金融機関(同項第2号に掲げる者(以下「信用保証協会等」という。)が関係している場合には、信用保証協会等を含む。)間で相互に貸付けの条件の変更等に係る情報の確認を行うなど、緊密な連携を図るよう努めているか。特に、貸付残高の多い金融機関は、貸付けの条件の変更等に係る情報の確認を積極的に行うなど、緊密な連携を図るよう最大限努めているか(注)。

  • (4)貸付けの条件の変更等の申込みを受けた他の金融機関(公庫等及び信用保証協会等を含む。)から当該申込みを行った債務者の貸付けの条件の変更等に係る情報について照会を受けた場合には、守秘義務に留意しつつ、当該債務者の同意を前提に、これに応じるよう努めているか。特に、貸付残高の多い金融機関は、貸付けの条件の変更等に係る情報の照会に積極的に応じるよう努めているか(注)。

  • (5)債務者から貸付けの条件の変更等の申込みがあった場合であって、他の金融機関(公庫等を含む。)が当該債務者に対して貸付けの条件の変更等に応じたことが確認できたときは、当該債務者の事業についての改善又は再生の可能性、他の金融機関(公庫等を含む。)が貸付けの条件の変更等に応じたこと等を勘案しつつ、できる限り、貸付けの条件の変更等を行うよう努めているか(注)。

    • (注) (3)から(5)までについては、独占禁止法違反行為とならないよう留意すること。主な留意点は以下のとおり。

      • ‐金融機関(公庫等及び信用保証協会等を含む。)間で情報の確認を行うに際しては、個別の申込み案件毎に行うこと。

      • ‐金融機関(公庫等及び信用保証協会等を含む。)間で情報の確認を行うに際しては、個別の申込み案件に係る事項に限り取り扱うこと。

      • ‐貸付けの条件の変更等を実行するか否かの最終的な判断は、各金融機関の責任において行うこと。

  • (6)信用保証協会の保証なしでは貸付けの条件の変更等が困難と判断する場合において、債務者が条件変更対応保証(内閣府令別紙様式第1号記載上の注意7等に規定する条件変更対応保証をいう。以下同じ。)の利用を希望するときは、債務者の事業についての改善又は再生の可能性を説明する文書を作成し、信用保証協会に対して交付しているか。また、条件変更対応保証の利用に先立って、債務者の事業についての改善又は再生に向けた真摯な検討を行うなど、その制度の趣旨を踏まえた対応がなされているか。

  • (7)貸付けの条件の変更等を行った債務者に対して適切に信用供与を行っているか。例えば、貸付けの条件の変更等の履歴があることのみをもって、新規融資や貸付けの条件の変更等の申込みを謝絶していないか。

II -1-2-3 債務者が住宅資金借入者である場合

  • (1)債務者から貸付けの条件の変更等の申込みがあった場合には、当該債務者の将来にわたる無理のない返済に向けて、当該債務者の財産及び収入の状況を十分に勘案しつつ、きめ細かく相談に応じているか。

  • (2)債務者から貸付けの条件の変更等の申込みがあった場合であって、法第5条第2項に規定する独立行政法人住宅金融支援機構その他これらに類する者として主務省令で定めるもの(以下「住宅金融支援機構等」という。)が当該債務者に対して貸付けの条件の変更等に応じたことが確認できたときは、当該債務者の財産及び収入の状況、住宅金融支援機構等が貸付けの条件の変更等に応じたこと等を勘案しつつ、できる限り、貸付けの条件の変更等を行うよう努めているか(注)。

    • (注) 独占禁止法違反行為とならないよう留意すること。主な留意点は以下のとおり。

      • ‐住宅金融支援機構等との間で情報の確認を行うに際しては、個別の申込み案件毎に行うこと。

      • ‐住宅金融支援機構等との間で情報の確認を行うに際しては、個別の申込み案件に係る事項に限り取り扱うこと。

      • ‐貸付けの条件の変更等を実行するか否かの最終的な判断は、各金融機関の責任において行うこと。

II -2 金融機関の態勢の整備等

II -2-1 意義

金融機関が法第4条及び第5条の規定に基づく措置を円滑に行うために、法第6条においては、金融機関における当該措置の実施に関する方針の策定、当該措置の状況を適切に把握するための態勢の整備等が求められており、金融機関においてはこれらを適切に行うことが重要である。当該方針の策定、態勢の整備等は、形式的なものにとどまるものではなく、法の趣旨を踏まえた高い実効性を有するものであることが必要である。

II -2-2 主な着眼点

法第6条に規定する法第4条及び第5条の規定に基づく措置の実施に関する方針(以下「基本方針」という。)の策定、当該措置の状況を適切に把握するための態勢の整備等については、例えば、以下のような着眼点に基づき検証することとする。

II -2-2-1 債務者が中小企業者又は住宅資金借入者である場合

  • (1)基本方針を策定しているか。当該基本方針には、貸付けの条件の変更等に関する取組み方針や態勢整備(経営陣による主導性とコミットメントを含む。)について、可能な限り具体的に記載しているか。また、法の施行日前における対応との違いがある場合には、その内容を明確に、かつ、具体的に記載しているか。

    さらに、当該基本方針を金融機関内に周知するとともに、その実施状況を定期的に検証し、必要に応じて当該基本方針を見直しているか(内閣府令第6条第1項第1号等)。

  • (2)貸付けの条件の変更等の申込みに対する対応状況を適切に把握するための態勢を整備しているか(内閣府令第6条第1項第2号等)。

  • (3)債務者の利便向上のため、本部に貸付けの条件の変更等に係る苦情相談窓口を独立して設置(注)するとともに、各営業店において貸付けの条件の変更等に係る苦情相談を受け付ける態勢を整備しているか(内閣府令第6条第1項第3号等)。

    • (注) 既存の苦情相談窓口に、貸付けの条件の変更等に関する苦情相談を受け付ける窓口を設置することでも差し支えない。

  • (4)営業店の評価、その他業績評価等の基準が、基本方針と整合的なものとなっているか。当該基本方針に沿わない対応を慫慂するような評価基準となっていないか。

II -2-2-2 債務者が中小企業者である場合

  • (1)本部及び営業店において、貸付けの条件の変更等を行った債務者の経営状況に関する期中管理(経営改善努力を行っている債務者に対して継続的なモニタリング、経営相談、経営指導等を行うことをいう。以下同じ。)を適切に行うための態勢を整備しているか(注)(内閣府令第6条第1項第4号等)。

    • (注) 期中管理に当たっては、いたずらに資料を督促するなどして債務者に過度の負担をかけることのないよう配意すること。

II -3 リスク管理債権額の開示に関する留意事項

金融機関が債務者に対して貸付けの条件の変更等を行う場合であって、当該債務者が経営再建計画を策定しているとき(他の金融機関(公庫等を含む。)が行う貸付けの条件の変更等に伴って当該債務者が経営再建計画を策定しているとき及び信用保証協会による条件変更対応保証の付与又は既存の保証の条件変更に伴って当該債務者が経営再建計画を策定しているときを含む。)は、当該計画が主要行等向けの総合的な監督指針 III -3-2-4-3(2)マル3ハ.(注1)及び(注2)、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針 III -4-9-4-3(2)マル3ハ.(注1)及び(注2)、系統金融機関向けの総合的な監督指針 III -4-10-4-3(2)マル3ウ(注1)及び(注2)又は漁協系統信用事業における総合的な監督指針 III -4-8-4-2(2)マル3ハ.(注1)及び(注2)の要件を満たしていると認められるものであれば、金融機関が当該債務者に対して行う貸付けの条件の変更等に係る貸出金は貸出条件緩和債権には該当しないことに留意する。

II -4 監督手法・対応

  • (1)金融機関におけるこの法の規定に基づく措置等の状況について、ヒアリング及び通常の監督事務等を通じて把握する。

  • (2)この法の規定に基づく措置等の状況について、改善が必要と認められる金融機関に対しては、必要に応じて銀行法(昭和56年法律第59号)第24条その他の法令の規定に基づき報告を求めることを通じて、改善を促すものとする。また、重大な問題があると認められる場合には、銀行法第26条第1項その他の法令の規定に基づく業務改善命令又は業務停止命令の発動を検討するものとする。

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