I .基本的考え方

I -1 保険検査・監督に関する基本的考え方

  • (1)保険検査・監督の目的は、保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資することにある(保険業法(以下「法」という。)第1条参照)。

  • (2)金融庁としては、発足当初より、明確なルールに基づく透明かつ公正な行政を確立することを基本としている。
     このため、監督をはじめ検査・監視を含む各分野において、行政の効率性・実効性の向上を図り、更なるルールの明確化や行政手続き面での整備等を行うこととしている。
     また、保険会社(法第2条第2項に規定する「保険会社」、同条第7項に規定する「外国保険会社等」、法第219 条第1項に規定する「引受社員」及び法第223条第1項に規定する「免許特定法人」をいう。以下同じ。)の経営の透明性を高め、市場規律により経営の自己規正を促し、保険契約者等の自己責任原則の確立を図るため、保険会社のディスクロージャーの充実を継続的に推進することも重要である。

  • (3)行政の透明性や公正性は、今後も行政運営の基本である。しかしながら、ルールを明確化しようとするばかり過度に詳細なチェックリスト等を策定し、問題の根本原因やこれが広がりをもって他の問題として生じる可能性を踏まえた実質的な検証等を行うことなく、網羅的な検証項目に基づいた事後的かつ一律の検証を機械的に反復・継続するに止まれば、かえって、保険会社において、経営全体や問題の根本原因を踏まえた真に重要な課題の把握、再発防止に向けた根本原因の解決、将来に向けた早め早めの対応や、より良い実務に向けた創意工夫の発揮が進まない等の弊害を惹起しかねない。
     金融庁としては、各社の規模・特性や財務の健全性・コンプライアンス等に係る重大な問題が発生する蓋然性等に応じて、実態把握や対話等によるオン・オフ一体のモニタリングを継続的に行い、必要に応じて監督上の措置を発動すること等により重大な問題の発生を事前に予防し、併せて、対話等を通じ保険会社によるより良い実務に向けた様々な取組みを促していく。
     (参考)「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」(平成30 年6月29日)

  • (4)保険会社の検査・監督に携わる職員は、(1)から(3)の基本的考え方を踏まえつつ、業務遂行に当たって、以下の事項を行動規範とし、行政の信認の確保に努めることとする。

    • マル1国民からの負託と職務倫理の保持
       自らの業務が国民から負託された職責に基づくものであって、その遂行に当たっては、Ⅰ-1(1)における保険検査・監督の目的を最優先の課題として行う必要があることを意識するとともに、職務に係る倫理の保持に努め、金融行政に対する国民の信頼を確保することを目指す。

    • マル2綱紀・品位、秘密の保持
       金融行政の遂行に当たり、綱紀・品位及び秘密の保持を徹底し、穏健冷静な態度で臨む。

    • マル3大局的かつ中長期的な視点
       金融サービスを利用する国民や企業の目線に立って、局所的・短期的な問題設定・解決のみに甘んじるのではなく、根本原因を把握し、大局的かつ中長期的な視点から、早め早めに問題解決に取り組む。

    • マル4公正性・公平性
       法令等に基づく適正な手続きに則り、各社の状況を踏まえて、公正・公平に業務を遂行し、保険会社間で、法令等に基づく合理的な理由なく、異なる取扱いを行わない。

    • マル5保険会社の自主的努力の尊重
       保険検査・監督の目的を達成するためには、保険会社による自主的な取組みと創意工夫が不可欠であることを自覚し、私企業である保険会社の業務の運営についての自主的な努力を尊重するよう配慮する。

    • マル6自己研鑽
       諸外国を含む保険に関する諸規制や保険会社の動向等のほか、金融という経済インフラを取り巻く幅広い社会・経済事象について、基本的知見を養う。また、対話等を行う自らの業務遂行に当たっては、各社固有の実情に係る深い知見はもとより、経営分析、ガバナンス、リスク管理、資産運用等の課題に応じた高い専門性に基づいた分析等が必要であり、これらの能力の習得に向けた自己研鑽に日々努める。

    • マル7適切かつ密接な組織内外の関係者との連携
       実効性の高い検査・監督を実現するためには、自らの所管に限らない広い視野が重要であり、庁内外の様々な主体と適切かつ密接に連携する。

I -2 監督指針を巡るこれまでの経緯

  • (1)通達の見直しと事務ガイドラインの制定
     平成10年6月の金融監督庁の発足を前に、旧大蔵省は、ルールに基づく透明かつ公正な金融行政への転換の一環として、保険会社の通達等の全面的な見直し等を行った上で、行政の統一的な運営を図るための法令解釈、部内手続き及び業務の健全性に関する着眼点等を、行政部内の職員向けの手引書である「事務ガイドライン」として取りまとめ、公表した。

  • (2)保険会社向けの総合的な監督指針の策定
     法は、保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資することを目的としている。さらに、高齢化・少子化の時代を迎え、保険は、社会保障において公的部門を補完する役割を果たすものとなっており、また、eリスク、土壌汚染リスク等新たなリスクの増大に伴って、企業活動等における多様なリスクに対応する手段としての機能が拡大している。
     このような状況のなかで、多様化、高度化する消費者ニーズに柔軟に応え られる商品開発、価格設定が行われる環境を整備することが求められる。また、保険契約者等が多様なチャネルを通して、適切かつ十分な情報に基づいて、保険商品を購入できる環境を整備することも求められる。そのため、業務上の規制・慣行を法の目的に照らし常に見直していくことが求められる。また、保険会社のコンプライアンスを更に徹底していくことが求められる。
     このような趣旨に基づき、本監督指針においては、保険会社の監督事務に 関し、その基本的考え方、監督上の評価項目、事務処理上の留意点について、従来の事務ガイドラインの内容も踏まえ、体系的に整理した。 本監督指針は、保険会社の実態を十分に踏まえ、様々なケースに対応でき るように作成したものであり、本監督指針に記載されている監督上の評価項目の全てを各々の保険会社に一律に求めているものではない。
     従って、本監督指針の適用にあたっては、各評価項目の字義通りの対応が 行われていない場合であっても、保険会社の財務の健全性及び業務の適切性等の確保の観点から問題のない限り、不適切とするものではないことに留意し、機械的・画一的な運用に陥らないように配慮する必要がある。一方、評価項目に係る機能が形式的に具備されていたとしても、保険会社の財務の健全性又は業務の適切性等の確保の観点からは必ずしも十分とは言えない場合もあることに留意する必要がある。

  • (3)検査・監督の見直しを踏まえた監督指針の改訂
     平成20年には、サブプライムローン問題を発端としたアメリカ大手投資銀行の破綻や、これに連鎖したグローバルな金融危機の発生等の混乱が生じたものの、我が国の金融市場は概ね安定的に推移してきた。しかしながら、その後、少子高齢化による国内市場の縮小や世界的な低金利環境の継続、技術革新を通じた新たな競争等により、保険会社の経営環境が厳しさを増し、また、保険会社を巡るリスクの性質と所在の変化が加速している。こうした環境変化の下で、保険会社においては、自らの創意工夫により、持続可能なビジネスモデルを構築し将来にわたる健全性を確保し、また、将来を見据えた適切なコンプライアンス・リスク管理態勢を構築すること等の必要性がこれまで以上に高まっている。
     金融庁においても、環境変化や新たな課題の発生に機動的・予防的に対応していく観点から、財務の健全性やコンプライアンス等に係る重大な問題発生の蓋然性等の将来を見据えた分析に基づく早め早めの対応を行うため、検査・監督のあり方について様々な見直しを行っている。
     平成30年6月に、金融行政の基本的な考え方や検査・監督の進め方、当局の態勢整備について整理し「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」を策定し、ここにおいて、保険会社のチェックリストによる形式的確認を改め、創意工夫を進めやすくする観点から、検査マニュアルは廃止することとしている。
     また、同年7月には、保険会社の継続的なモニタリング等を効果的・効率的に行うための組織再編を行い、これまで立入検査を検査局、各種ヒアリング等を監督局が担当していた組織体制を変更し、オン・オフのモニタリングの一体化を進めている。
     こうした見直しの一環として、令和元年12月に、保険検査マニュアルの廃止と併せて、本監督指針についても、上記の見直しを踏まえた必要な改正等を行っている。具体的には、実態把握や対話等を通じたオン・オフ一体のモニタリングのあり方や監督指針の位置付け等を改めて整理、過度に細かく特定の方法が記載されている等保険会社の創意工夫を妨げる可能性がある規定について修正等を行った。こうした点については、今後も引き続き検討していく。

I -3 保険会社向け監督指針の位置付け

  • (1)監督指針は、保険会社の検査・監督を担う職員向けの手引書として、検査・監督に関する基本的考え方、事務処理上の留意点、監督上の評価項目等を体系的に整理したものである。

  • (2)金融庁は、検査・監督に関する方針として、本監督指針のほかに、分野別の「考え方と進め方」や各種原則(プリンシプル)、年度単位の方針、業界団体等への要請等の様々な文書を示しているが、検査・監督を行うに当たっては、各文書の趣旨・目的を踏まえた用い方をするとともに、保険会社に対し当該趣旨を丁寧に説明することとする。

  • (3)金融庁担当課室においては、本監督指針に基づき保険会社の検査・監督事務を実施するものとする。その際、本監督指針が、保険会社の自主的な努力を尊重しつつ、その業務の健全かつ適切な運営を確保することを目的とするものであることにかんがみ、本監督指針の運用に当たっては、各社の個別の状況等を十分踏まえ、機械的・画一的な取扱いとならないよう配慮するものとする。

  • (4)我が国では、平成5年の金融制度改革による業態別子会社での相互参入の解禁や、平成10 年の金融持株会社の解禁、金融システム改革法による子会社規定の整備等を経て、複数の業態を含む金融グループが形成されている。

     保険会社による複数の業態(注)を含む金融グループの形成は、保険会社の経営体質の強化やサービスの向上に寄与する可能性がある一方で、組織の複雑化による経営の非効率化、利益相反行為の発生、抱き合せ販売行為の誘因の増大、グループ内のリスクの波及、グループにおけるリスクの集中等が生じるおそれがある。
     かかる特性を踏まえれば、かかる金融グループにおいては、個別の保険会社の健全性等を確保するのみならず、グループ全体の経営管理態勢やグループとしての財務の健全性、業務の適切性について実態把握を行うことが重要である。
     また、保険会社が他の業態の金融機関や外国の金融グループ、事業会社の子会社等である場合においても、保険主要株主への監督権限のほか、深度あるヒアリング等により、保険会社に上記で挙げたリスクの波及やリスクの集中等が生じるおそれがないか検証することが重要である。

     なお、金融グループの態様は様々であって、グループが抱えるリスクの特性やリスクの波及の過程も異なる結果、グループにおける経営管理態勢も自ずと異なるため、各々の金融グループの実態を踏まえ、その態勢を検証する必要がある点には留意する。

     (注)少額短期保険業者は保険会社と同一の業態として取り扱う。

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