VII .グループベースでの監督等

 VII -1 監督にあたっての基本的考え方

海外事業展開を含めた保険グループの形成は、例えば、グループ内でリスクの分散・軽減や事業上のシナジーによる経営の効率化、サービスの向上等に資することが考えられる。他方、グループ内のリスクの伝播やリスクの集中等のグループ化に伴う新たなリスクが顕在化する可能性や、事業構造や組織構造の複雑化に対応した経営管理が求められる点にも留意が必要である。こうした点を踏まえ、保険グループにおいては、保険会社個社としての経営管理態勢及びリスク管理態勢の高度化に加え、我が国におけるIAIGか否かにかかわらず、グループ全体としての経営管理態勢及びリスク管理態勢の高度化を図っていく必要がある。

なお、グループ全体としての経営管理態勢及びリスク管理態勢の高度化のあり方は一様に定まるものではなく、経営管理会社による集権的な態勢からグループ内会社の所在法域の制度や市場環境、事業内容に応じた自律的な管理を尊重するより分権的な態勢まで、多様な形態が採られうる。これらのガバナンスモデルに優劣をつけるものではなく、保険グループの形成に伴うリスクへの対応の観点や事業・組織構造の複雑性を踏まえ、実効性のある態勢整備が図られていることが重要である。

VII -2 グループの経営管理

VII -2-1 意義

保険グループ全体の健全性及び業務の適切性の確保のためには、まずは当該保険グループを構成する各グループ内会社において、経営陣が自らの役割を十分に理解し、経営に対する規律付けを含め、有効かつ責任ある経営管理の態勢が構築され、適切に遂行されていることが重要である。

更に、経営管理会社は、グループ全体としての適切な経営管理の態勢構築・遂行に責任ある役割を果たさなければならない。そのためには、経営管理会社の代表取締役、取締役・取締役会、代表執行役、執行役、監査役(指名委員会等設置会社にあっては監査委員、監査等委員会設置会社にあっては監査等委員)・監査役会(指名委員会等設置会社にあっては監査委員会、監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会)、管理者及び内部監査部門が果たす責務が重大である。

また、内部管理に関する業務が、共通の役職員によって行われている場合には、そうした兼職態勢が健全かつ有効に機能している必要がある。

以上を踏まえ、保険グループの経営管理のモニタリングに当たっては、Ⅱ-1-2に掲げる着眼点のほかに、例えば以下のような着眼点に基づき、その機能が適切に発揮されているかどうかを検証することとする。

VII -2-2 主な着眼点

  • (1) 経営管理会社の経営管理
    • ① 経営管理会社の代表取締役、取締役、代表執行役、執行役、監査役、管理者においては、保険グループの規模、複雑性、国際性、グループとして有するリスクに鑑み、その役割を果たすために必要な知識・経験を有しているか。

    • ② 経営管理会社の取締役及び取締役会等は、グループの構造を理解しリスクの特定・管理の高度化に資するよう、グループの経営構造及び相互関係について文書化するとともに、グループ内会社と経営管理会社間の指揮命令、報告態勢を明確にしているか。

    • ③ 経営管理会社の取締役及び取締役会等は、グループ全体の組織の構造、各グループ内会社の事業及びリスクについて十分理解したうえで、保険グループ全体の事業運営をより効果的に監督するための適切な経営管理態勢を構築しているか。

    • ④ 経営管理会社の取締役会等は、グループ全体の目標及びその目標を達成するための事業戦略を策定し、または監督するに際し、以下の点に留意しているか。
      • ア.海外事業展開を進めている保険グループにおいては、海外子会社等が事業を行っている法域における法律や規制及び事業を行うことにより発生するリスク

      • イ.グループの中長期にわたる財務の健全性

      • ウ.保険契約者とその他利害関係者との利害

      • エ.顧客の公平な取り扱い

      • オ.グループ内会社の利益と目標

    • ⑤ 経営管理会社の取締役会等は、グループ内会社間や業務部署間の潜在的な利益相反を特定し、回避し、管理するためのプロセスを定めているか。

  • (2) 経営管理会社の監査機能(注)

    次に掲げる機関は、付与された広範な権限を適切に行使し、グループガバナンスの観点も踏まえ、業務監査を実施しているか。

    • ・監査等委員会設置会社における監査等委員会

      (注)「機能」とは、特定の活動を行うために権限を付与された主体を指す。個人・部門等の形式を問わず、また複数の部門に跨って権限が配分され全体として一つの機能を構成する場合もある。

    • ・監査役設置会社における監査役

    • ・監査役会設置会社における監査役会

    • ・指名委員会等設置会社における監査委員会

  • (3) グループ内部監査機能

    保険グループにおけるグループとしての内部監査態勢については、以下のような着眼点に基づき、検証することとする。

    • ① 経営管理会社の取締役会は、グループとしての内部監査の方針を策定し、経営管理会社の内部監査部門は、それを踏まえてグループ内の内部監査態勢を評価しているか。

    • ② 経営管理会社の内部監査部門は、内部監査で指摘した重要な事項について遅滞なく代表取締役及び取締役会等に報告しているか。また、内部監査で指摘した事項について、被監査部門における改善状況等を適切に把握する態勢となっているか。

    • ③ 経営管理会社の内部監査部門は、グループ全体の方針、プロセス及び統制を評価しているか。また、被監査部門に対して十分牽制機能が働くよう独立し、かつ、実効性ある内部監査が実施できる態勢となっているか。

    • ④ 経営管理会社の内部監査部門は、グループ内の被監査部門のリスクの種類・程度に応じ、頻度・深度に配慮した効率的かつ実効性ある内部監査計画を立案した上で、内部監査を実施しているか。

    • ⑤ 経営管理会社の内部監査部門は、グループ内の内部監査部門と連携しているか。

  • (4) グループ保険数理機能

    保険グループ全体としての財務の健全性を確保し維持していくため、グループ内会社において保険数理に関する事項の適切性を確保するための態勢が有効に機能している必要がある。このため、経営管理会社においては、グループ内会社を統括しグループ全体における保険数理に関する事項の適切性を確保する機能(グループ保険数理機能)を有していることが重要である。これを踏まえ、グループ保険数理機能については、以下のような着眼点に基づき、検証することとする。

    • ① グループ全体における保険数理に関する事項に関する方針が策定されているか。また、グループ保険数理機能は、それを踏まえ、グループ内会社における担当部門と連携しつつ、グループ全体及びグループ内会社における保険数理に関する事項を評価しているか。

    • ② グループ保険数理機能は、経営管理会社の取締役会等に対し、グループ全体の保険数理に関する事項及びそれらに関連した潜在的なリスク等に関し、少なくとも年1回は報告を行い、また独立した立場からの助言を行っているか。

    • ③ グループ保険数理機能は、グループ内会社又はグループ全体において、保険数理に関する事項に問題が認められた場合にはそれらを適切に指摘しているか。また、それらに対する改善策等の検討・実施に十分関与しているか。

    • ④ グループ保険数理機能は、グループ全体及びグループ内会社に適用される規制上の資本要件の充足性の評価、グループ全体の経済資本の評価やストレステスト等につき、適切に関与しているか。

VII -3 グループベースの統合的リスク管理

VII -3-1 意義

保険グループにおいては、グループを形成することにより、単体での経営に比べ多様なリスクを内包する、あるいは個々のグループ内会社が適切なリスク管理を行っていたとしても、グループベースで捉えた場合には特定の資産や領域にリスクの集中をもたらすことも考えらえる。一方、グループ内でリスクの分散が図られる結果、グループ全体のリスクが軽減されることも考えられる。したがって、事業戦略及び日常業務の両面においてグループレベルで重要な全てのリスクを管理する必要があり、グループ全体の健全性確保やリスク管理がより一層重要となっている。

VII -3-2 主な着眼点

  • (1)グループ内会社の相互関係により、グループ内会社に与えるリスクの影響が変わることに留意しているか。例えば、リスク及び資本の管理において、リスクの伝播、グループ内取引、リスクの集中、新規事業参入又は既存事業からの撤退、保証やリスクの移転、流動性、オフバランス取引のエクスポージャー等を考慮しているか。また、資本のダブル・ギアリング、マルチプル・ギアリング等についても考慮しているか。

  • (2)リスク計量モデルを使用する場合には、グループとしての重要な戦略上及び事業上の意思決定を支援又は検証するツールとなりうることを十分認識し、グループ内で共通の内部モデルを使用するなど、グループ全体の統合リスク量を的確に計量する態勢を整備しているか。また、海外拠点を有する保険グループ及び外資系保険グループ(注)においては、必要に応じて、グループ共通の内部モデルに当該地域の特性に応じた修正を加えるなど、適切なリスク量を把握する態勢を整備しているか。

    (注)海外拠点を有する保険グループとは、保険グループのうち、海外に支店又は出資先外国法人を有するものをいう。また、外資系保険グループとは、保険グループに類似する企業集団であって、外国に本店又は主たる事務所を有する法人であって、保険会社を子会社とするもの、又は外国保険会社等をいう。

  • (3)グループの統合的リスク管理に関する枠組みは、グループ全体にわたって可能な限り一貫性のあるものとなっているか。グループ内会社が事業を行う法域における法令及び規制等により、統合的リスク管理上重要な相違点がある場合は、当該相違点は明確に認識されているか。

  • (4)保険グループ又は保険会社が、より大きなグループの一部を構成しているために生じるグループリスクが存在する場合には、そのリスクも考慮しているか。

  • (5)経営管理会社は、経営戦略及びリスク特性等に応じて、グループとしてリスクの特定及びリスク・プロファイル、リスク測定、リスク管理方針及びリスクとソルベンシーの自己評価等を含む統合的リスク管理を適切に実施しているか。

  • (6)経営管理会社は、グループリスク管理態勢を、定期的(少なくとも年1回)あるいは戦略目標の変更時等必要に応じ見直しているか。

    また、経営管理会社は、グループベースの統合的リスク管理態勢について、定期的に内部又は外部による独立的な評価を行っているか。

  • (7)定量又は定性的なリスク選好をグループ内及び必要に応じて外部に伝達及び周知するプロセスを確立及び維持しているか。

  • (8)例えば、グループ経営理念の設定周知、各種研修の実施、職員の適切な報酬体系の構築、エマージングリスク(現在は、認知していないリスクまたは発生の可能性が極めて低いリスクまたは影響が軽微であるリスクのうち、環境の変化により重要なリスクとなる可能性があるもの)の洗い出し及びその共有態勢の構築等を通じ、グループ全体のリスク文化を醸成する取組みを実施しているか。

  • (9)グループ内取引は、グループ内会社間のシナジー効果を生み出し、コストの最小化と利益の最大化、リスク管理の向上及び効果的な自己資本と資金調達の管理に資するものであるが、他方で、グループ内取引は、グループ内でのリスク移転や伝播を伴う側面があることから、健全性に重大な影響を及ぼす可能性があり、また、法令等に則した適切な対応等が行われていない場合には、グループ内において取引の公正性が歪められたり、業務の適切性が損なわれたりする可能性がある。

      

    従って、経営管理会社及び各グループ内会社は、以下のようなグループ内取引について法令等遵守及びリスク管理に係る適切な態勢が構築されていることが重要である。

    • ・グループ内会社間の配当

    • ・グループ内会社間の資本(信用状を含む)取引

    • ・グループ内会社間の貸付や借入等の流動性を補完する取引

    • ・グループ内会社間の投資取引

    • ・グループ内会社間の再保険

    • ・グループ内会社間のサービス提供取引

    • ・複数のグループ内会社が共同で実施する取引

    • ・グループ内会社間の委託受託取引

VII -3-3 グループベースの報告態勢

VII -3-3-1 意義

グループ内会社は、それぞれ法人として独立した存在であるが、グループ内会社で顕在化したリスクがグループ内の他の会社に波及し、グループ全体に損害が生じる可能性があることを踏まえれば、経営管理会社は、グループベースのリスク管理及びソルベンシーポジションを十分把握、理解していることが必要であり、これらを的確に監視、管理するため、グループベースのリスクとソルベンシーの自己評価を定期的に実施することに加え、例えば四半期に一度、直近のリスク管理の状況を取締役会等に報告すること等が求められる。

VII -3-3-2 報告対象とするグループの範囲

  • (1)報告対象とするグループの範囲は、必ずしもグループ内の全ての法人を対象とする必要はないが、保険持株会社(中間持株会社を含む)、兄弟会社、子会社、関連会社のいずれを問わず、その会社の行う取引のリスクが保険会社へ波及していくことを考慮し、非保険事業体も含めた実質的な関係(例えば、資本参加や影響力、契約上の拘束力、相互関連性、リスクのエクスポージャー、リスクの集中、リスク移転、グループ内取引など)に着目し、グループの範囲を定めているか。

    なお、ここでいうグループとは、会計や税務目的など、他の目的のために定義されたグループとは異なる場合があることに留意する。

  • (2)再編や新規事業への参入、既存事業からの撤退並びに市場環境の変化等を踏まえ、必要に応じてグループの範囲の適切性を確認しているか。

    VII -3-3-3 報告体制と役割

  • (1)経営管理会社は、業務やリスク特性、規模、複雑性に応じて、グループベースのリスクを統合的に管理する部門、同部門の長及び担当役員を明確化したうえで、グループ内会社及び関連部門との間の役割分担を明確化しているか。リスクを統合的に管理する部門は、グループ内会社及び関連部門に対する牽制機能を確保しているか。

  • (2)経営管理会社の取締役会等は、グループベースの必要な経済資本の充足状況、ソルベンシー・マージン規制に基づく資本の充足状況の報告を踏まえ、必要な意思決定を行うなど、把握した情報を業務の執行及び管理体制の整備等に活用しているか。

VII -3-4 グループベースの資産負債の総合的な管理

経営管理会社は、グループの資産負債の総合的な管理に関する方針等を策定し、有効なガバナンス機能を発揮し、当該方針等と整合的なグループ及びグループ内会社の資産負債の総合的な管理態勢を適切に整備することが重要である。

VII -3-5 グループベースの保険引受リスク管理態勢

VII -3-5-1 意義

海外拠点を有する保険グループにおいては、各国間の保険に関する法令及び慣行が異なり、その差異を十分考慮したグループ運営が重要である一方、経営管理会社が、グループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、保険引受、料率設定、準備金計上、及び再保険プロセス等に関するグループベースの保険引受リスク管理態勢を適切に整備することが重要である。またグループ内会社においても、グループベースの保険引受リスク管理態勢と整合的な保険引受リスク管理態勢を適切に整備することが重要である。

VII -3-5-2 主な着眼点

  • (1)経営管理会社は、グループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、グループの保険引受に関する方針等を整備し、各グループ内会社は当該方針等と整合的な保険引受に関する規程を整備及び適用しているか。

  • (2)経営管理会社は、グループベースの保険引受リスク管理態勢及びグループ内会社内における保険引受リスク管理態勢が整備されていることをモニタリングするための態勢を適切に整備しているか。

  • (3)各国間の保険数理に関する法令及び慣行は異なるものの、グループ内会社間で整合的な保険数理に基づくグループベースの財務情報を把握できなければ、現状認識及びそれに基づく意思決定を誤ってしまうおそれがある。そこで経営管理会社は、例えば以下のような事項を含む、グループとしての保険数理に関する方針及び実務に関する基準等を策定しているか。

    • ・保険負債計算の前提条件

    • ・保険負債の計算方法

    • ・保険負債の計算に使用するデータの内容

    • ・再保険を考慮した保険負債計算の計算方法

    • ・上記の事項及び計算に使用するモデルの妥当性を検証するプロセス

    • ・財務上のソルベンシー評価のための将来キャッシュフロー予測において使用される保険数理に関するモデルに係るモデルリスク管理

    • ・グループ全体において、当該方針及び実務に関する基準等が適切に遵守されているかをモニタリングするための態勢

  • (4)グループベースの財務状況を適正に分析及び把握し健全性を確保する観点から、グループベースの保険数理に基づく財務の現状及び将来の分析に関して、直近の実績等、保険引受、及び再保険戦略等を踏まえ、経営管理会社の取締役会等に適切に報告されているか。また上記の分析上、重要な要素となる保険負債及び再保険回収資産の評価の妥当性について検証が行われ、合わせて報告されているか。

VII -3-6 グループベースの再保険に関するリスク管理

VII -3-6-1 意義

再保険はグループベースの保険引受リスクの最適化に役立つ一方、その取引及びリスク管理は複雑になることが多い。経営管理会社は、このような再保険の特徴を十分考慮した上で、グループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、グループベースの再保険に関するリスク管理態勢を適切に整備することが重要である。またグループ内会社においても、グループベースの再保険に関するリスク管理態勢と整合的な再保険に関するリスク管理態勢を適切に整備することが重要である。

VII -3-6-2 主な着眼点

  • (1)経営管理会社は、グループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、グループの再保険に関する方針等を整備し、各グループ内会社は当該方針等と整合的な再保険に関する規程を整備及び適用しているか。

  • (2)グループベースの再保険に関するリスク管理態勢を整備するにあたっては、以下の点を考慮しているか。

    • ・グループベースのリスク量とリスク選好等又は資本管理戦略の相互関係

    • ・グループ再保険戦略及びグループ内会社の実務

    • ・グループ内会社が適用を受ける法令及び慣行

    • ・再保険に係るカウンターパーティの信用リスクに対するリミット又はリスク選好等

    • ・リスク移転商品を含む代替的リスク移転手法の活用

    • ・ストレス下における再保険を通じたリスク移転の実効性

  • (3)経営管理会社は、グループベースの再保険に関するリスク管理態勢及びグループ内会社における再保険に関するリスク管理態勢が整備されていることをモニタリングするための態勢を適切に整備しているか。

VII -3-7 グループベースの資産運用リスク管理態勢

VII -3-7-1 意義

運用対象となる金融商品の中には、変動性が高いもの、複雑な構造のもの、及び流動性が低いものなど、リスクが相対的に高いものが存在し、一部のグループ内会社等がリスクの高い商品に投資した結果、保険グループ全体の健全性が低下する場合も想定される。経営管理会社は、このような事態が生じないようグループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、グループベースの資産運用リスク管理態勢(証券化商品等のクレジット資産について、外部格付に過度に依存しないための態勢を含む。)を適切に整備することが重要である。グループ内会社においても、グループベースの資産運用リスク管理態勢と整合的な資産運用リスク管理態勢を適切に整備することが重要である。

VII -3-7-2 主な着眼点

  • (1)経営管理会社は、グループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、グループの資産運用に関する方針等を整備し、各グループ内会社は当該方針等と整合的な資産運用に関する規程を整備及び適用しているか。

  • (2)グループベースの資産運用リスク管理態勢を整備するにあたっては、各海外拠点の現地法制を十分考慮しているか。

  • (3)エクスポージャー(オフバランス項目に係るものを含む)が集中するリスクを、グループ内会社レベル及びグループ全体レベルの双方で、リスク選好や限度額等を設定するなどして、適切に管理する態勢が整備されているか。特に金融機関に対するエクスポージャーは、金融市場混乱時にはリスクを増幅させるおそれがあることを考慮しているか。

  • (4)グループベースの資産運用リスク管理態勢及びグループ内会社における資産運用リスク管理態勢が整備されていることをモニタリングするための態勢を適切に整備しているか。

VII -3-8 グループベースの流動性リスク管理態勢

VII -3-8-1 意義

グループベースのソルベンシーが十分であったとしても、資金流動性が枯渇し支払い不能となりグループ内会社が破綻したり、また市場流動性が低い商品に一部のグループ内会社等が投資した結果、保険グループ全体が流動性の危機に直面したりする可能性があり、流動性リスク管理は極めて重要である。そのため、経営管理会社は、グループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、グループベースの流動性リスク管理態勢を適切に整備するとともに、グループ内会社においても、グループベースの流動性リスク管理態勢と整合的な流動性リスク管理態勢を適切に整備することが重要である。

VII -3-8-2 主な着眼点

  • (1)経営管理会社は、グループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、グループの流動性リスク管理に関する方針等を整備し、各グループ内会社は当該方針等と整合的な流動性リスク管理に関する規程を整備及び適用しているか。

  • (2)経営管理会社は、グループベースにおいて、流動性リスクに関するリスク選好、リスク許容度、リスク・リミット等を設定し、その遵守状況を確認しているか。また、流動性に関するストレステストを実施しているか。

  • (3)流動性に関するストレステストの実施にあたっては、複数の主体が共通の行動を取ること等により、ストレスが増幅されるような状況を想定する必要がある場合は、そのような状況を適切に考慮しているか。

  • (4)流動性に関するストレステストの実施にあたっては、以下のような事項を必要に応じて勘案しているか。

    • ・流動性資産の保有状況及びストレス下におけるその利用可能性

    • ・ストレス下における流動性資産の減価(ヘアカット)

    • ・ストレス下の保険料や利息収入

    • ・大量解約や巨大災害の発生等に伴う保険金等の請求

    • ・保険グループの格下げ

    • ・経営管理会社及びグループ内会社間の資金の移転可能性

    • ・外貨に係る外国為替市場等の流動性

    • ・保有資産及び資金調達手段の相関関係及び分散状況

    • ・追加証拠金及び追加担保の可能性

    • ・クレジットラインや有担無担の短期資金調達の利用可能性

  • (5)流動性に関するストレステスト等において、ストレス下の資金流出がストレス下の資金流入及び流動性資産を超過することが判明した場合は、利用可能でありかつ適切なヘアカットを設定した上で十分な価値を有する流動性資産を準備しているか。

    また、短期間に流動性資産が必要となる場合(例えば、日次又は週次)は、長期間に必要となる場合よりも、より流動性が高い資産が必要となるかもしれない点に留意しているか。

  • (6)経営管理会社は、グループベースで流動性危機時の対応策を策定するとともに、適時に見直しを実施しているか。

  • (7)経営管理会社は、グループベースの流動性リスクに係る管理の状況について、リスクとソルベンシーの自己評価と合わせるなどして、定期的に取締役会等に報告しているか。

VII -3-9 グループベースのオペレーショナル・リスク管理態勢

経営管理会社は、グループ内会社に対する具体的かつ有効なガバナンスの観点から、グループベースの「オペレーショナル・リスク管理態勢」を適切に整備するとともに、グループ内会社においても、グループベースの「オペレーショナル・リスク管理態勢」と整合的な「オペレーショナル・リスク管理態勢」を適切に整備することが重要である。

 VII -4 グループベースの業務の適切性

VII -4-1 グループコンプライアンス(法令等遵守)態勢

経営管理会社によるグループのコンプライアンス態勢の整備については、以下のような着眼点に基づき、検証することとする。

  • ① 経営管理会社の取締役会等は、法令等遵守をグループ経営上の重要課題の一つとして位置付け、率先して経営管理会社及びグループ内会社の法令等遵守態勢の構築に取り組んでいるか。

  • ② 経営管理会社の取締役会等において、法令等遵守に係るグループの基本方針が策定され、グループ内会社に周知徹底されているか。また、その内容は単に倫理規定に止まらず、具体的な行動指針や基準を示すものとなっているか。

  • ③ 経営管理会社に、グループの規模、特性及びグループ内会社の業務内容等に応じ、グループのコンプライアンスに関する事項を統括して管理する部門(以下「コンプライアンス統括部門」という。)を設置し、グループあるいはグループ内会社の法令等遵守態勢を適切に管理することとしているか。

  • ④ コンプライアンス統括部門は、適時適切にグループにおける法令等遵守状況を把握し、経営管理会社の取締役会等に少なくとも四半期に一度報告しているか。

  • ⑤ 経営管理会社の取締役会等は、法令等遵守状況の報告に基づき、必要な意思決定を行うなど、把握された情報を業務の改善及びグループ内の法令等遵守態勢の整備に活用しているか。

  • ⑥ コンプライアンス統括部門は、グループ内会社等や業務部署間の利益相反関係の明確化・役職員に対する周知徹底や、潜在的な利益相反のリスクの明確化を行い、それらに対する具体的な対応や回避策を定めているか。

VII -4-2 グループ外部委託態勢

経営管理会社は、外部委託を行う際には、外部委託に伴う潜在的な各種のリスクの伝播等の影響を勘案し、顧客保護又は経営の健全性を確保する観点を踏まえた委託方針を作成するとともに、例えば重要な外部委託については経営管理会社による承認プロセスを設ける等、その経営の健全性の確保の観点から、必要な態勢整備(委託契約等において外部委託先に対して態勢整備を求めることを含む。)を図っているか。その際、以下に示す点に留意しているか。

  • ① 委託先の選定

    保険グループの経営の合理性や当該グループのレピュテーション等の観点から問題ないか等の観点から、委託先の選定を行っているか。

  • ② 契約内容

    契約内容は、例えば、以下の項目について明確に示されるなど十分な内容となっているか。また、当該契約内容が文書で担保されているか。

    • ア.提供されるサービスの内容及びレベル並びに解約等の手続き
    • イ.委託契約に沿ってサービスが提供されない場合における委託先の責務。委託に関連して発生するおそれのある損害の負担の関係(必要に応じて担保提供等の損害負担の履行確保等の対応を含む。)
    • ウ.グループ内会社が、当該委託業務及びそれに関する委託先の経営状況に関して委託先より受ける報告の内容
  • ③ 管理態勢

    委託業務に関する管理者の設置、モニタリング、検証態勢(委託契約において、委託先に対して業務の適切性に係る検証を行うことができる旨の規定を盛り込む等の対応を含む。)等の管理態勢が整備されているか。

  • ④ 情報提供

    委託事務の履行状況等に関し委託先から経営管理会社又はグループ内会社への定期的な報告に加え、必要に応じグループ全体として適切な情報が迅速に得られる態勢となっているか。

  • ⑤ 監査

    経営管理会社又はグループ内会社において、外部委託業務についても監査の対象としているか。

  • ⑥ 緊急時等の対応

    委託契約に沿ったサービスの提供が行われない場合にも、保険グループ全体の業務に大きな支障が生じないよう対応が検討されているか。また、保険グループ全体のレピュテーションに与える影響等を考慮しているか。

  • ⑦ グループ内会社への外部委託

    委託契約が経営管理会社とグループ内会社との間において締結される場合に、契約の内容が実質的に委託先への支援となっており、アームズ・レングス・ルールに違反していないか。

 VII -5 その他

VII -5-1 再建・処理計画の策定

VII -5-1-1 意義

保険グループのうち、大規模で複雑な業務(国際的な活動を含む)を行うものについては、当該保険グループが危機に直面した場合には、保険契約者の保護にも大きな影響を及ぼすことが想定される。更には、事業構造によっては、その影響が当該保険グループのみならず、金融システム全体にも及ぶ可能性もある。こうしたことを踏まえ、監督上、危機管理の一環として、これをできる限り未然に防止していくことが重要であり、我が国においても、保険グループの規模・特性を踏まえつつ、再建計画や処理計画に関する取組みを進めていく必要がある。

VII -5-1-2 着眼点と監督手法・対応

  • (1)再建計画は、大きなストレスが発現し保険グループの健全性が大きく損なわれる事態に至った場合に効果的な対応を行うためのオプションやプロセスについて、平時から一定の整理を行っておくものである。これにより、平時におけるリスクの所在のより的確な理解、更にはストレス発現時における迅速な対応を可能とすることが期待される。

    一方で、保険グループを取り巻くリスクは多様であり、発生しうるストレスシナリオをすべて網羅することは必ずしも現実的ではない。また、現実にストレスが発現した状況では、再建計画における事前の想定がそのまま妥当するとは限らず、当該状況において最適と考えられる選択肢を検討するこ とが必要となる可能性がある。再建計画の策定に当たっては、こうした点にも留意しつつ、実効性のある内容とすることが重要である。

    こうした着眼点を踏まえ、我が国におけるIAIG及び必要に応じてその他の大規模で複雑な業務(国際的な活動を含む)を行う保険グループの経営管理会社に対しては、法第128条又は法第271条の27に基づき、年1回又は事業やグループ構造等に重要な変更があった場合に、再建計画等の策定・提出を求めるものとする。再建計画等の内容は、各保険グループの構造やビジネスモデルの実態に応じて異なるものとなるが、IAISの議論等を踏まえ、例えば、以下の項目が含まれているか確認するものとする。

    • ・再建計画の概要

    • ・保険グループの構造の分析

    • ・再建計画発動に係るトリガー

    • ・ストレスシナリオの分析

    • ・リカバリー・オプションの分析

    • ・グループ内及び対外的なコミュニケーション戦略

    • ・再建計画に係るガバナンス(再建計画に必要な情報の取得・管理に必要な態勢・システム等を含む)

  • (2)我が国におけるIAIG については、ComFrameの趣旨を踏まえ、必要と認められる場合には、海外当局と連携しつつ、当局にて処理計画を策定することとする。処理計画の必要性は、当該IAIGが活動する法域の数、グループ全体の事業構造及び組織構造の複雑性、破綻時に金融・経済システムに対して与える影響等を勘案しつつ、総合的に判断するものとする。

    処理計画を策定する場合には、計画の見直し及びこれらの処理の実行可能性の評価を、年1回又は当該保険会社の事業・グループ構造等に重要な変更があった場合に、当局にて実施するものとする。

VII -5-2 海外当局との連携によるグループ監督

海外当局に対して、海外当局による保険グループの監督に資する情報を提供するとともに、積極的な意見交換の働きかけを行うこととする。具体的には、以下のような措置を講じることで、連携を確保することとする。

  • (1)海外拠点を有する保険グループの場合

    海外拠点を有する保険グループにおいては、以下のような措置を講じ、海外当局との連携を図ることとする。

    • マル1 Ⅲ-1-2「検査・監督事務の具体的手法」の内容に即してモニタリングを行う際には、海外当局との連携にも特に留意し、海外当局との間でグループの経営管理会社あるいはグループの財務の健全性及び業務の適切性等に関する積極的な情報交換を行うこととする。

    • マル2  海外拠点の業務に重大な影響を及ぼす保険グループ監督政策については、海外現地当局へ通知するよう努めることとする。また、海外拠点に影響を与えるような措置を実施する場合には、事前に海外現地当局と協議するよう努めることとする。

    • マル3 海外当局から海外拠点の設置等に関する許認可等についての意見照会等があった場合には、これに積極的かつ適切に対応することとする。

  • (2)外資系保険グループの場合

    外資系保険グループにおいては、以下のような措置を講じ、海外当局との連携を図ることとする。

    • マル1 外資系保険グループの国内拠点の設置について許認可等を付与する場合、当該外資系保険グループの経営管理を行う会社の所在地当局である海外当局からの同意を求めるよう努めることとする。海外当局からの積極的な応答が得られない場合や応答が不適切な場合には、必要に応じ、その是正を求めるか、許認可等に条件を付すこととする。

    • マル2 海外当局に報告する必要があると思われる外資系保険グループの在日拠点における監督上の問題点を発見した場合、あるいは国内拠点から当該外資系保険グループの経営管理を行う会社への不正確な情報の伝達を発見した場合には、海外当局への積極的な連絡を行うこととする。

    • マル3 本監督指針に掲げられる監督上の留意点に関して、海外にある当該外資系保険グループの経営管理を行う会社に対して何らかの対応が講じられる必要があると認められる場合には、海外当局に事前に通知し、協力を求めることに努めることとする。

    • マル4 国内にある当該外資系保険グループを構成する各会社に行政処分を発動する場合には、可能な限り海外監督当局に事前に通知し、連携強化に努めることとする。

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