III. 監督上の評価項目と諸手続(共通編)
III-1 経営管理(共通編)
市場が健全な発展を実現していくためには、金融商品取引業者自らが法令等遵守態勢の整備等に努め、投資者保護に欠けることのないよう経営を行うことが重要である。日常の監督事務においては、金融商品取引業者の業務執行に対する経営陣の監督が有効に機能しているか、経営陣に対する監視統制が有効に機能しているかといった観点から、望ましいと考えられる金融商品取引業者の経営管理のあり方について検証していく必要がある。
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(1)主な着眼点
金融商品取引業者の経営管理が有効に機能するためには、金融商品取引業者の全役職員が、金融商品取引業者が金融商品市場の担い手として重大な社会的責任を有することを認識した上で、自らに与えられた役割を十分理解しその業務運営に参画していくことが必要である。その中でも特に、代表取締役、取締役・取締役会、監査役・監査役会、内部監査部門の担う責務は重要である。
代表取締役が、金融商品取引業者を代表する権限を付与された取締役として、金融商品取引業者の経営の最高責任を担うことは言うまでもない。取締役会は、金融商品取引業者の経営の最高意思決定機関として、業務執行の具体的な決定を行う権限を有するとともに、代表取締役や担当取締役の行う業務執行を監視し独断的経営を抑止する機能を併せ持つ。監査役・監査役会は、上記のような金融商品取引業者の経営上重要な責務を有する取締役等の業務執行を監査するための広範かつ強力な権限を付託されており、経営監視において重要な職責を有する。
さらに、上場会社は、平成26年の会社法改正及び金融商品取引所の規程において、社外取締役の確保について規定されているほか、同規程においては、コーポレートガバナンス・コードを尊重してコーポレート・ガバナンスの充実に取り組むよう努めることとされており、非上場会社に比べ、より高い水準の経営管理(ガバナンス)が要求されている。
こうしたことから、上場会社である金融商品取引業者の経営管理態勢のモニタリングにおいては、コーポレートガバナンス・コードの各原則において求められている水準の経営管理態勢を構築するに当たり、コーポレートガバナンス・コードに則って、適切に取組みを進めているかに留意し、その機能が適切に発揮されているかどうかを検証することとする。
なお、親会社が上場会社である金融商品取引業者については、その経営管理の検証に必要な範囲内で、コーポレートガバナンス・コードへの取組状況を含め親会社の経営管理態勢を確認するものとする。
(注)コーポレートガバナンス・コードは、いわゆる「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)、及び「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法を採用していることに留意することとする。
なお、各上場市場においてコーポレートガバナンス・コードの各原則の適用範囲が定められていることに留意することとする。
上記を踏まえ、金融商品取引業者の経営にとって重大な役割を果たすべき代表取締役、取締役・取締役会、監査役・監査役会が、その機能を適切に発揮し、与えられた責務を全うしているかどうかを、例えば以下の点に留意して検証することとする。
(注)指名委員会等設置会社である金融商品取引業者については、取締役会、各委員会、執行役等の機関等、また、監査等委員会設置会社である金融商品取引業者については、取締役会、監査等委員会の機関等が、それぞれ与えられた権限等を適切に行使しているかどうかといった観点から検証する必要がある。この場合においては、本監督指針の趣旨を踏まえ、実態に即して検証を行うこととする。
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代表取締役
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イ. 代表取締役は、業務推進に係る事柄のみならず、法令等遵守及び内部管理態勢の確立・整備に係る事柄を経営の最重要課題の一つとして位置付け、その実践のための具体的方針の策定及び徹底に、誠実にかつ率先垂範して取り組んでいるか。
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ロ. 代表取締役は、リスク管理部門を軽視することが企業収益に重大な影響を与えることを十分認識し、リスク管理部門を重視しているか。
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ハ. 代表取締役は、内部監査の重要性を認識し、内部監査の目的を適切に設定するとともに、内部監査部門の機能が十分発揮できる機能を構築(内部監査部門の独立性の確保を含む。)し、定期的にその機能状況を確認しているか。また、被監査部門等におけるリスク管理の状況等を踏まえた上で、監査方針、重点項目等の内部監査計画の基本事項を承認しているか。更に、内部監査の結果等については適切な措置を講じているか。
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ニ. 代表取締役は、断固たる態度で反社会的勢力との関係を遮断し排除していくことが、金融商品取引業者に対する公共の信頼を維持し、金融商品取引業者の業務の適切性及び健全性の確保のため不可欠であることを十分認識し、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ。以下「政府指針」という。)の内容を踏まえて取締役会で決定された基本方針を社内外に宣言しているか。
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取締役・取締役会
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イ. 取締役は、業務執行にあたる代表取締役等の独断専行を牽制・抑止し、取締役会における業務執行の意思決定及び取締役の業務執行の監督に積極的に参加しているか。
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ロ. 取締役会は、金融商品取引業者が目指すべき全体像等に基づいた経営方針を明確に定めているか。更に、経営方針に沿った経営計画を明確に定め、それを組織全体に周知しているか。また、その達成度合いを定期的に検証し、必要に応じ見直しを行っているか。
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ハ. 取締役会は、業務推進に係る事柄のみならず、法令等遵守及び内部管理態勢の確立・整備に係る事柄を経営の最重要課題の一つとして位置付け、その実践のための具体的方針の策定及び徹底に、誠実にかつ率先垂範して取り組んでいるか。また、当該方針について社内で周知を図っているか。さらに、政府指針を踏まえた基本方針を決定し、それを実現するための体制を整備するとともに、定期的にその有効性を検証するなど、法令等遵守・リスク管理事項として、反社会的勢力による被害の防止を明確に位置付けているか。
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ニ. 取締役会は、リスク管理部門を軽視することが企業収益に重大な影響を与えることを十分認識し、リスク管理部門を重視しているか。特に、担当取締役はリスクの所在及びリスクの種類を理解した上で、各種リスクの測定、モニタリング、管理等の手法について、深い認識と理解を有しているか。
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ホ. 取締役会は、戦略目標を踏まえた各種リスク管理の方針を明確に定めているか。また、リスク管理の方針を、定期的に、あるいは戦略目標の変化やリスク管理手法の発達等にあわせて随時見直しているか。更に、定期的にリスクの情報に係る報告を受けて必要な意思決定を行うなど、把握されたリスク情報を業務の執行及び管理体制の整備等に活用しているか。
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ヘ. 取締役会は、顧客資産の分別管理が投資者保護ひいては金融商品市場の健全な発展に資するものであることを理解した上で、顧客資産の分別管理の重要性を認識しているか。また、顧客資産の分別管理の状況について、定期的あるいは随時に報告を受けるなどして、顧客資産の分別管理が適切に行われるための体制の整備等に活用しているか。
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ト. 取締役会は、内部監査の重要性を認識し、内部監査の目的を適切に設定するとともに、内部監査部門の機能が十分発揮できる機能を構築(内部監査部門の独立性の確保を含む。)し、定期的にその機能状況を確認しているか。また、被監査部門等におけるリスク管理の状況等を踏まえた上で、監査方針、重点項目等の内部監査計画の基本事項を承認しているか。更に、内部監査の結果等については適切な措置を講じているか。
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監査役・監査役会
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イ. 監査役会は、制度の趣旨に則り、その独立性が確保されているか。
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ロ. 監査役会は、付与された広範な権限を適切に行使し、会計監査に加え業務監査を実施しているか。
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ハ. 監査役会が組織される場合であっても、各監査役は、あくまでも独任制の機関であることを自覚し、自己の責任に基づき積極的な監査を実施しているか。
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ニ. 監査役会は、外部監査の内容に応じてその結果の報告を受けるなどして、自らの監査の実効性の確保に努めているか。
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内部監査部門
内部監査は、金融商品取引業者の経営目標の実現に寄与することを目的として、被監査部門から独立した立場で、業務執行状況や内部管理・内部統制の適切性、有効性、合理性等を検証・評価し、これに基づいて経営陣に対して助言・勧告等を行うものであり、金融商品取引業者の自律的な企業運営を確保していく上で、最も重要な企業活動の一つである。このような重要性に鑑み、金融商品取引業者の内部監査が有効に機能しているかどうかを、例えば以下の点に留意して検証することとする。
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イ. 内部監査部門は、被監査部門に対して十分な牽制機能が働くよう被監査部門から独立し、かつ実効性ある内部監査が実施できる体制となっているか。
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ロ. 内部監査部門は、金融商品取引業者の全ての業務を監査対象として、被監査部門におけるリスクの管理状況及びリスクの種類等を把握した上で、内部監査計画を立案しているか。
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ハ. 内部監査部門は、内部監査計画に基づき、被監査部門に対して効率的かつ実効性ある内部監査を実施しているか。
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ニ. 内部監査部門は、内部監査において把握・指摘した重要な事項を遅滞なく代表取締役及び取締役会に報告しているか。
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ホ. 内部監査部門は、内部監査における指摘事項に関する被監査部門の改善状況を適切に管理し、その後の内部監査計画に反映しているか。
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外部監査の活用
金融商品取引業者に制度上義務付けられる会計監査人による財務諸表等監査以外に、外部監査人による業務監査(本社、グループ等による監査を含む。)を義務付けるものではない。しかしながら、企業収益の獲得及びリスク管理、あるいは内部管理態勢の実効性を確保するためには、会計監査人等によるこれら外部監査は、金融商品取引業者自らの内部監査と同様に、その有効な活用が確保されることが望ましいことから、例えば以下の点に留意して検証することとする。
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イ. 外部監査において把握・指摘された重要な事項は、遅滞なく取締役会又は監査役会に報告されているか。
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ロ. 被監査部門は、外部監査における指摘事項を一定期間内に改善しているか。また内部監査部門は、その改善状況を適切に把握・検証しているか。
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(2)監督手法・対応
下記のヒアリング及び通常の監督事務を通じて、経営管理について検証することとする。
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経営上の課題等に関するヒアリング
経営上の課題、経営戦略及びその諸リスク、ガバナンスの状況等に関し、必要に応じ、ヒアリングを行うこととする。また、必要に応じて、経営陣に対して直接にトップヒアリングを行うこととする。
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内部監査ヒアリング等
内部監査の機能発揮状況を把握する観点から、必要に応じ、金融商品取引業者の内部監査部門に対し、内部監査態勢、内部監査の実施状況及び問題点の是正状況等につきヒアリングを実施することとする。
また、特に必要があると認められる場合には、金融商品取引業者の監査役、社外取締役に対してもヒアリングを実施することとする。
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日常の監督事務を通じた経営管理の検証
上記のヒアリングに加え、例えば、検査における指摘事項に対する業務改善報告のフォローアップ、金融商品事故等届出書の受理等の日常の監督事務を通じても、経営管理の有効性について検証することとする。
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モニタリング結果の記録
上記モニタリング結果を踏まえ、特記すべき事項についてはその記録を作成・保存することにより、その後の監督事務における有効な活用を図ることとする。
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監督手法・対応
経営管理の有効性等に疑義が生じた場合には、原因及び改善策等について、深度あるヒアリングや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な業務改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
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III-2 業務の適切性(共通編)
III-2-1 法令等遵守態勢
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(1)法令等遵守(コンプライアンス)態勢の整備
我が国金融・経済の発展のためには、公正、透明で効率的な市場の下で、金融商品・サービスが適切な方法で提供される必要があり、金融商品取引業者に対する利用者の信頼は、そのための最も重要な要素の一つである。金融商品取引業者は、法令や業務上の諸規則を厳格に遵守し、健全かつ適切な業務運営に努めることが強く求められている。金融商品取引業者のコンプライアンス態勢の整備については、その業容に応じて、例えば以下のような点に留意して検証することとする。
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コンプライアンスが経営の最重要課題の一つとして位置付けられ、その実践に係る基本的な方針、更に具体的な実践計画(コンプライアンス・プログラム)や行動規範(倫理規程、コンプライアンス・マニュアル)等が策定されているか。また、これらの方針等は役職員に対してその存在及び内容について周知徹底が図られ、十分に理解されるとともに日常の業務運営において実践されているか。
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実践計画や行動規範は、定期的又は必要に応じ随時に、評価及びフォローアップが行われているか。また、内容の見直しが行われているか。
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コンプライアンス関連の情報が、営業を行う部門(主として収益をあげるための業務を行う全ての部門をいう。以下「営業部門」という。)、コンプライアンス担当部署/担当者、経営陣の間で、的確に連絡・報告される体制となっているか。
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コンプライアンスに関する研修・教育体制が確立・充実され、役職員のコンプライアンス意識の醸成・向上に努めているか。また、研修の評価及びフォローアップが適宜行われ、内容の見直しを行うなど、実効性の確保に努めているか。
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金融商品取引業者の内部管理態勢を強化し、適正な業務の遂行に資するため、金融商品取引業者における法令諸規則等の遵守状況を管理する業務を担う者(金商法施行令第15条の4第1号に規定する者をいう。)の機能が十分に発揮される態勢となっているか。例えば、内部管理部門の独立性を確保するとともに、営業部門に対する牽制機能を十分発揮するための権限を付与する等しているか。また、内部管理責任者等の機能の発揮状況について、内部監査部門により、その評価及びフォローアップが行われているか。
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(2)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された金融商品取引業者の法令等遵守態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な業務改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-2 金融商品事故等に対する監督上の対応
金融商品事故等(注)に対する監督上の対応については、以下のとおり取り扱うこととする。
(注)金融商品事故等とは、次のいずれかをいう。以下同じ。
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(a)金商業等府令第199条第7号に規定する法令等に反する行為
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(b)金融商品取引業者又はその役職員が告発等を受けたとき。
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(c)その他金融商品取引業者の業務の健全かつ適切な運営に支障を来す行為又はそのおそれのある行為であって、上記(a)又は(b)に掲げる行為に準ずるもの。
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(1)主な着眼点
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金融商品事故等の発覚の第一報
金融商品取引業者において金融商品事故等が発覚し、第一報があった場合は、以下の点を確認するものとする。なお、金融商品取引業者から第一報がなく届出書の提出があった場合にも、同様の取扱いとする。
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イ. コンプライアンス規程等に則り内部管理部門、内部監査部門へ迅速な報告及び取締役会等への報告を行っているか。
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ロ. 刑罰法令に抵触しているおそれのある事実については、警察等関係機関等へ通報しているか。
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ハ. 当該事故等の発生部署とは独立した部署(内部監査部門等)において当該事故等の調査・解明を実施しているか。
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業務の適切性の検証
金融商品事故等と金融商品取引業者の業務の適切性の関係については、以下の着眼点に基づき検証を行うこととする。
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イ. 当該事故等への役員の関与はないか、組織的な関与はないか。
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ロ. 当該事故等の内容が金融商品取引業者の経営等にどのような影響を与えるか、顧客や金融商品市場にどのような影響を与えるか。
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ハ. 内部牽制機能が適切に発揮されているか。
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ニ. 再発防止のための改善策の策定や自浄機能が十分か、責任の所在が明確化されているか。例えば、金融商品事故等の発生の原因を分析の上、経営陣の積極的な関与の下で再発防止策を策定し、営業部門等にこれらの措置を周知しているか。
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ホ. 当該事故等の発覚後の対応が適切か。
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ヘ. 当該事故等による損失の全部又は一部を補てんするために財産上の利益の提供を行う場合に、提供する財産上の利益及びその算定根拠の記録簿を整備しているか。また、その実行状況を、営業部門から独立した内部管理部門等においてチェックする体制が整備されているか。
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(2)監督手法・対応
金融商品取引業者からの報告や届出書の提出等により金融商品事故等があったことを把握した場合には、事実関係、発生原因分析、改善・対応策等についてヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-3 勧誘・説明態勢
III-2-3-1 適合性原則・誠実公正義務
金融商品取引業者は、金商法第40条の規定に基づき、顧客の知識、経験、財産の状況、投資目的やリスク管理判断能力等に応じた取引内容や取引条件に留意し、顧客属性等に則した適正な投資勧誘の履行を確保する必要がある。また、金融商品取引業者は、適正な投資勧誘の履行を確保するために整備した態勢に基づいて、顧客に対する誠実公正義務を果たす必要がある。
そのため、金融商品取引業者は、投資勧誘の前提として、提供する金融商品の内容を適切に把握するための態勢を確立する必要がある。また、顧客の属性等及び取引実態を的確に把握し得る顧客管理態勢を確立することが重要である。さらに、金融商品の内容が顧客の属性等に適合することの合理的な理由があるかどうかの検討・評価を行うことが必要である。その上で、顧客に対してこのような合理的な理由を欠く投資勧誘行為や、不適当又は不誠実な投資勧誘が行われないようにする必要がある。
以上を踏まえ、例えば以下のような点に留意して検証することとする。なお、投資勧誘の方法としては、営業店に来訪した顧客への勧誘、電話による顧客への勧誘、インターネットを利用した勧誘等の様々な方法が考えられるところではあるが、それぞれの特性に応じた適切な勧誘の方法を検討する必要があることもあわせて留意する。
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(1)主な着眼点
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金融商品の内容の適切な把握
金融商品取引業者が提供する個別の金融商品について、そのリスク、リターン、コスト等といった顧客が金融商品への投資を行う上で必要な情報を十分に分析・特定しているか。その上で、当該金融商品の特性等に応じ、商品の組成者等とも連携しつつ、研修の実施、顧客への説明書類の整備などを通じ、投資勧誘に携わる役職員が当該情報を正確に理解し、適切に顧客に説明できる態勢を整備しているか。
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顧客の属性等及び取引実態の的確な把握並びに顧客情報の管理の徹底
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イ. 顧客の投資目的、投資経験等の顧客属性等を適時適切に把握するため、顧客カード等については、顧客の投資目的を十分確認して作成し、顧客カード等に登録された顧客の投資目的を金融商品取引業者と顧客の双方で共有しているか。また、顧客の申出等により、顧客の資産・収入の状況又は投資目的が変化したことを把握した場合には、それ以降の投資勧誘に際して顧客カード等の登録内容の変更を行うか否かを顧客に確認した上で変更を行い、変更後の登録内容を金融商品取引業者と顧客の双方で共有するなど、適切な顧客情報の管理を行っているか。
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ロ. 顧客の取引実態の把握については、例えば、顧客口座ごとの売買損益、評価損益、取引回数、手数料の状況等といった取引状況を、顧客の取引実態の把握の参考としているか。
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ハ. 取引実態の把握において、取引内容を直接顧客に確認する必要があると判断した顧客については、例えば各営業部門における管理責任者等(担当者以外の責任者で内部管理責任者、部店長等を含む。以下同じ。)による顧客面談等を適時・適切に実施し、取引実態の的確な把握に努めているか。また、契約締結以降も、長期にわたって取引が継続するデリバティブ取引等の実態の把握について、同様の取組みをしているか。
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投資勧誘に際しての合理的な理由についての検討・評価
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イ. 顧客に対する金融商品の勧誘に先立ち、勧誘対象となる個別の金融商品や当該顧客との一連の取引の頻度・金額が、把握した顧客属性や投資目的に適うものであることの合理的な理由があるかについて検討・評価を行っているか。
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ロ. その検討・評価を確保する観点から、金融商品の特性等に応じ、あらかじめ、商品の組成者等とも連携しつつ、どのような考慮要素や手続をもって行うかの方法を定めているか。
例えば、元本の安全性を重視するとしている顧客に対して通貨選択型ファンドなどのリスクの高い商品を販売する等、顧客の投資目的に適合しない不適切な勧誘が行われることがないよう、顧客属性等に応じて一定の金融商品の投資勧誘を管理職による承認制とするなどの慎重な販売管理を行っているか。
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不適当又は不誠実な投資勧誘行為
顧客に対する不適当又は不誠実な投資勧誘行為として、例えば、以下のような金融商品の勧誘行為が行われていないか。
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イ. 金融商品取引業者の利益を追求する結果として、顧客との一連の取引の経過をみたときに、顧客属性や投資目的に適合しない高頻度の金融商品の売買を勧誘し、顧客に過度の手数料を負担させる行為(合理的な理由を欠く高頻度か否かの判断にあたっては、顧客の年間の平均投資残高に対する支払手数料の累計額の割合、当該顧客の過去の取引頻度等について、通常の投資行動から著しく逸脱したものではないか留意するものとする。)
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ロ. 顧客に対し、顧客属性や本来の投資目的に適合しない金融商品を勧誘するため、当該金融商品に適合するような投資目的への変更を、当該顧客にその変更の意味や理由を正確に理解させることなく求める行為
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ハ. 顧客属性や投資目的を踏まえると複数の金融商品が顧客に適合する可能性のある状況において、合理的な理由がないにもかかわらず、手数料の高い金融商品を勧誘する行為
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内部管理部門による検証
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イ. 内部管理部門においては、上記①②③④の検証を行うとともに、それを踏まえた態勢の見直しを行う等、その実効性を確保しているか。
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ロ. また、上記②ハの営業部門における管理責任者等が行う顧客面談等に係る具体的な方法を定め、当該方法を役職員に周知徹底するとともに、顧客面談等の状況を把握・検証し、当該方法の見直し等、その実効性を確保する態勢を構築するよう努めているか。
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一般投資家の申出による特定投資家への移行
金商法第34条の3第1項の規定に基づき、「一般投資家」である顧客より「特定投資家」への移行の申出を受けた際には、顧客の知識、経験、財産の状況、投資目的に照らして「特定投資家」として取り扱うことがふさわしいか否かを考慮した上で、承諾の可否について判断しているか。
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(2)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された適合性の原則等に関する金融商品取引業者の態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-3-2 営業員管理態勢
金融商品取引業者は、顧客属性等に則した適正な勧誘の履行を確保する観点から、営業員の勧誘実態等の把握及び法令遵守の徹底が重要であるが、その徹底に当たっては、以下の点に特に留意するものとする。
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(1)主な着眼点
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営業員の勧誘実態等の把握及びその適正化
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イ. 勧誘実態の把握について、例えば、各営業部門における管理責任者等は、必要に応じて顧客と直接面談等を行うことにより、その実態の把握に努め、適切な措置を講じているか。
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ロ. 特定投資家向け有価証券の取扱いにあたっては、各営業部門における管理責任者等において、特定投資家の範囲に中小法人等が含まれていることに鑑み、金商法第40条の5第1項及び第2項に規定する告知又は書面交付について過不足のない対応が行われているかなど、その実態の把握に努め、適切な措置を講じているか。
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ハ. 内部管理部門においては、上記イ及びロの勧誘実態等の把握に係る具体的な方法を定め、当該方法を役職員に周知徹底するとともに、必要に応じて、その状況を把握・検証し、当該方法の見直し等、その実効性を確保する態勢を構築しているか。
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役職員の法令遵守意識の徹底
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イ. 役職員の法令等遵守意識の徹底について、研修の目的及び対象者等を考慮した事例研修及び外部研修等を実施し、役職員の法令等遵守意識の向上を図っているか。
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ロ. 内部管理部門においては、各種研修の内容及び実施状況を把握・検証し、内容等を見直しする等、その実効性を高める措置を講じているか。
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(2)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された金融商品取引業者の営業員管理態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-3-3 広告等の規制
金融商品取引業者が行う広告等(金商業等府令第73条第1項に規定する広告等をいう。以下同じ。)の表示は、投資者への投資勧誘の導入部分に当たり、明瞭かつ正確な表示による情報提供が、適正な投資勧誘の履行を確保する観点から最も重要であるが、その徹底に当たっては、以下の点に特に留意するものとする。
(注)なお、広告等には、勧誘資料やインターネットのホームページ、郵便、信書便、ファックス、電子メール、ビラ、パンフレット等による多数の者に対する情報提供が含まれるが、実際に広告等に該当するか否かの判断は、投資者との電子メール等のやり取り、イメージCM、ロゴ等を記載した粗品の提供などの外形ではなく、実態をみて個別具体的に判断する必要がある。
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(1)主な着眼点
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顧客判断に影響を及ぼすこととなる重要事項に関する留意事項
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イ. 顧客が支払うべき手数料、報酬、その他の対価又は費用が無料又は実際のものよりも著しく低額であるかのように誤解させるような表示をしていないか。
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ロ. 元本欠損が生ずるおそれがある場合又は当初元本を上回る損失が生ずるおそれがある場合には、その旨を明確に表示しているか。
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明瞭かつ正確な表示
広告等において金商法第37条に規定する項目を表示する場合に、金商業等府令第73条第1項に規定する明瞭かつ正確な表示がなされているか否かの判断に当たっては、具体的に以下の点に留意することとする。
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イ. 当該広告等に表示される他の事項に係る文字と比較して、使用する文字の大きさ、形状及び色彩において、不当に目立ちにくい表示を行っていないか。
特に、金利や相場等の指標の変動を直接の原因として損失が生ずることとなるおそれのある場合の当該指標、損失が生ずるおそれがある旨・その理由、及び元本超過損が生ずるおそれがある場合の、その直接の原因、元本超過損が生ずるおそれがある旨・その理由は、広告上の文字又は数字の中で最も大きなものと著しく異ならない大きさで表示しているか。
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ロ. 取引の長所に係る表示のみを強調し、短所に係る表示が目立ちにくい表示を行っていないか。
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ハ. 当該広告等を画面上に表示して行う場合に、表示すべき事項の全てを判読するために必要な表示時間が確保されているか。
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誇大広告に関する留意事項
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イ. 有価証券等の価格、数値、対価の額の動向を断定的に表現したり、確実に利益を得られるように誤解させて、投資意欲を不当に刺激するような表示をしていないか。
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ロ. 利回りの保証若しくは損失の全部若しくは一部の負担を行う旨の表示又はこれを行っていると誤解させるような表示をしていないか。
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ハ. 申込みの期間、対象者数等が限定されていない場合に、これらが限定されていると誤解させるような表示を行っていないか。
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ニ. 登録を行っていること等により、内閣総理大臣、金融庁長官、その他の公的機関が、金融商品取引業者を推薦し、又はその広告等の内容を保証しているかのように誤解させるような表示をしていないか。
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ホ. 不当景品類及び不当表示防止法、屋外広告物法に基づく都道府県の条例その他の法令に違反する又は違反するおそれのある表示をしていないか。
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へ. 社会的に過剰宣伝であるとの批判を浴びるような表示をしていないか。
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顧客を集めての勧誘
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イ. セミナー等(講演会、学習会、説明会等の名目の如何を問わない。以下同じ。)を開催して、一般顧客等を集め、当該一般顧客等に対して金融商品取引契約の締結の勧誘(勧誘を目的とした具体的商品の説明を含む。)を行う場合には、当該セミナー等に係る広告等及び送付する案内状等に、金融商品取引契約の締結を勧誘する目的があることをあらかじめ明示しているか。
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ロ. 上記イの「金融商品取引契約の締結を勧誘する目的があることをあらかじめ明示」することには、セミナー等の名称が、金融商品取引に関連するものであることを明確に表していることのみでは足りず、勧誘する目的がある旨を明確に表示している必要がある。
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広告等審査体制
金商法第37条の規定を遵守する観点から、広告等の審査を行う広告等審査担当者が配置され、審査基準に基づいた適正な審査が実施されているか。
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(2)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故報告等を通じて把握された、金融商品取引業者の広告等に関する課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-3-4 顧客に対する説明態勢
金融商品取引の中には、相当程度の専門知識が要求されるものがあるが、一般顧客は必ずしも専門知識や経験等が十分ではないと考えられることから、金融商品取引業者が判断材料となる情報を正確かつ公平に顧客等へ開示するなど、説明責任が履行される必要がある。従って、顧客に対する説明等においては、以下の点に留意するものとする。
(注)なお、「説明等」には、セミナー等の開催により顧客を集め、実質的に勧誘を行うような場合の当該セミナー等における説明も含まれることに留意する必要がある。
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(1)説明態勢に関する主な着眼点
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適合性原則を踏まえた説明態勢の整備
契約締結前交付書面の交付の際等において、顧客の知識、経験、財産の状況、及び取引の目的に照らして当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度を適切に選択し、適合性原則を踏まえた適切な説明がなされる態勢が整備されているか。
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適切な商品・サービス説明等の実施
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イ. 取引を行うメリットのみを強調し、取引による損失の発生やリスク等のデメリットの説明が不足していないか。
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ロ. セールストーク等に虚偽や断定的な判断の表示となるようなものはないか。
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ハ. 商品や取引を説明する際の説明内容は客観的なものか、恣意的、主観的なものになっていないか。
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ニ. 商品や取引の内容(基本的な商品性、及びリスクの内容、種類や変動要因等)を十分理解させるように説明しているか。
特に、契約締結前交付書面に係る記載順に関する規定の趣旨等を踏まえ、顧客判断に影響を及ぼす重要な事項を先に説明するなど、顧客が理解をする意欲を失わないよう努めているか。
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ホ. 当該金融商品取引に関して誤解を与える説明をしていないか。特に、金融商品取引業者等によって元本が保証されているとの誤解を与えるおそれのある説明をしていないか。また、デリバティブ取引等について、相場の変動等により追証(顧客が預託する保証金の総額が必要額より不足した場合に追加しなくてはならない保証金をいう。以下同じ。)が発生するおそれがあるにも関わらず、そのおそれが著しく少ない又は追証の額が実際の商品性に比して著しく小さいとの誤解を与えるおそれのある説明をしていないか。
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ヘ. 市場動向の急変や市場に重大なインパクトを与える事象の発生が、投資信託の基準価額に重大な影響を与えた場合において、顧客に対して適時適切な情報提供に努め、顧客の投資判断をきめ細かくサポートしているか。
また、投資信託委託会社(投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」という。)第2条第11項に規定する投資信託委託会社をいう。VI-2-3-4において同じ。)は、市場動向の急変時や市場に重大なインパクトを与える事象の発生時において、運用状況等についてのレポートを速やかに作成し、販売した金融商品取引業者に提供しているか。
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ト. 第三者が作成した相場予測等を記載した資料(新聞記事、アナリストレポート等を含む。)を用いて勧誘を行う場合において、当該相場予測等の内容が偏ったもののみを恣意的に利用していないか。
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チ. その他、顧客に不当な負担となる、あるいは経済合理性に欠ける商品や取引の勧誘、又は投資判断上の重要な事項の説明不足はないか。
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約定内容等の説明
金融商品取引の約定後に、約定内容(約定日時、約定金額又は約定数値等)について顧客から提示要請があった場合に、契約締結時の書面交付等により、当該情報を顧客に対して適切に提示しているか。
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インターネットを通じた説明の方法
金商業等府令第117条第1項第1号に規定する「当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明」について、金融商品取引をインターネットを通じて行う場合においては、顧客がその操作する電子計算機の画面上に表示される説明事項を読み、その内容を理解した上で画面上のボタンをクリックする等の方法で、顧客が理解した旨を確認することにより、当該説明を行ったものと考えられる。
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(2)説明書類に係る留意事項
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金商法第46条の4又は第47条の3に規定する説明書類 (III-2-3-4(2)、III-3-1(10)及び V -2-2-2(2)において「説明書類」という。)については、常に、顧客の求めに応じ閲覧できる状態にあるよう金融商品取引業者に指示するものとする。その際、可能な限りインターネットを利用して表示するよう促すものとする。
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②説明書類については、法令に規定する事項に、各金融商品取引業者の判断で、開示すべき事項を追加することは妨げないものとする。
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(3)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故報告等を通じて把握された、金融商品取引業者の顧客に対する説明態勢等に係る課題については、上記の着眼点に基づきながら、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-4 顧客等に関する情報管理態勢
顧客に関する情報は、金融商品取引の基礎をなすものであり、その適切な管理が確保されることが極めて重要である。
そのうち特に、個人である顧客に関する情報については、個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)、金商業等府令、個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)、同ガイドライン(外国にある第三者への提供編)、同ガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編)及び同ガイドライン(仮名加工情報・匿名加工情報編)(以下、合わせて「保護法ガイドライン」という。)、金融分野における個人情報保護に関するガイドライン(以下「金融分野ガイドライン」という。)並びに金融分野における個人情報保護に関するガイドラインの安全管理措置等についての実務指針(以下「実務指針」という。)の規定に基づく適切な取扱いが確保される必要がある。
また、金融商品取引業者は、法人関係情報(金商業等府令第1条第4項第14号に掲げる法人関係情報をいう。以下同じ。)を入手し得る立場であることから、その厳格な管理とインサイダー取引等の不公正な取引の防止が求められる。
以上のように、金融商品取引業者は、顧客に関する情報及び法人関係情報(以下「顧客等に関する情報」という。)を適切に管理し得る態勢を確立することが重要であり、例えば以下の点に留意して検証することとする。
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(1)顧客等に関する情報管理態勢に係る留意事項
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経営陣は、顧客等に関する情報へのアクセス及びその利用は業務遂行上の必要性のある役職員に限定されるべきという原則(以下「Need to Know原則」という。)を踏まえ、顧客等に関する情報管理の適切性を確保する必要性及び重要性を認識し、業務の内容・規模等に応じて、そのための組織体制の確立(部門間における適切な牽制の確保を含む。)、社内規程の策定、金融グループ内の他の金融機関(持株会社を含む。)との連携等、内部管理態勢の整備を図っているか。
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顧客等に関する情報の取扱いについて、具体的な取扱基準を定めた上で、研修等により役職員に周知徹底を図っているか。当該取扱基準は、顧客等に関する情報に関し、金融商品取引業者の社内若しくは社外、又は社内の同一の部門内若しくは異なる部門間、いずれの共有についても、Need to Know原則を踏まえたものとなっているか。また、当該情報の他者への伝達については、上記の法令、保護法ガイドライン、金融分野ガイドライン、実務指針の規定等に従い手続きが行われるよう十分な検討を行った上で取扱基準を定めているか。
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顧客等に関する情報へのアクセス管理の徹底(アクセス権限を有する者の範囲がNeed to Know原則を逸脱したものとなることやアクセス権限を付与された本人以外が使用することの防止等)、内部関係者による顧客等に関する情報の持ち出しの防止に係る対策、外部からの不正アクセスの防御等情報管理システムの堅牢化などの対策を含め、顧客等に関する情報を適切に管理するための態勢が構築されており、コンプライアンス部門の関与のもと当該顧客等に関する情報の管理状況を適時・適切に検証できる体制となっているか。
また、特定職員に集中する権限等の分散や、幅広い権限等を有する職員への管理・牽制の強化を図る等、顧客等に関する情報を利用した不正行為を防止するための適切な措置を図っているか。
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顧客等に関する情報の取扱いを委託(注)する場合は、以下の措置を講じているか。
(注)「委託」とは、契約の形態や種類を問わず、金融商品取引業者が他の者に顧客等に関する情報の取扱いの全部又は一部を行わせることを内容とする契約の一切を含む。
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イ. 外部委託先の管理について、責任部署を明確化し、外部委託先における業務の実施状況を定期的又は必要に応じてモニタリングする等、外部委託先において顧客等に関する情報管理が適切に行われていることを確認しているか。
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ロ. 外部委託先において漏えい事故等が発生した場合に、適切な対応がなされ、速やかに委託元に報告される体制になっていることを確認しているか。
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ハ. 外部委託先による顧客等に関する情報へのアクセス権限について、委託業務の内容に応じて必要な範囲内に制限しているか。
その上で、外部委託先においてアクセス権限が付与される従業員及びその権限の範囲が特定されていることを確認しているか。
更に、アクセス権限を付与された本人以外が当該権限を使用すること等を防止するため、外部委託先において定期的又は随時に、利用状況の確認(権限が付与された本人と実際の利用者との突号を含む。)が行われている等、アクセス管理の徹底が図られていることを確認しているか。 -
ニ. 二段階以上の委託が行われた場合には、外部委託先が再委託先等の事業者に対して十分な監督を行っているかについて確認しているか。また、必要に応じ、再委託先等の事業者に対して自社による直接の監督を行っているか。
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顧客等に関する情報の漏えい等が発生した場合に、適切に責任部署へ報告され、二次被害等の発生防止の観点から、対象となった顧客等への説明、当局への報告及び公表が迅速かつ適切に行われる体制が整備されているか。
また、情報漏えい等が発生した原因を分析し、再発防止に向けた対策が講じられているか。更には、他社における漏えい事故等を踏まえ、類似事例の再発防止のために必要な措置の検討を行っているか。
顧客に重大な影響を及ぼす可能性があるなど、経営上重要な事案については、対応方針の意思決定に経営陣が適切に関与しているか。 -
独立した内部監査部門等において、定期的又は随時に、顧客等に関する情報管理に係る幅広い業務を対象にした監査を行っているか。当該業務が金融グループ全体で統一的に行われている場合、グループ内の他の金融機関(持株会社を含む。)の内部監査部門等との連携が図られているか。
また、顧客等に関する情報管理に係る監査に従事する職員の専門性を高めるため、研修の実施等の方策を適切に講じているか。
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(2)個人情報管理に係る留意事項
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個人である顧客に関する情報については、金商業等府令第123条第1項第6号の規定に基づきその安全管理、従業者の監督及び当該情報の取扱いを委託する場合にはその委託先の監督について、当該情報の漏えい、滅失又は毀損の防止を図るために必要かつ適切な措置として以下の措置が講じられているか。
(安全管理について必要かつ適切な措置)
イ.金融分野ガイドライン第8条の規定に基づく措置
ロ.実務指針 I 及び別添2の規定に基づく措置
(従業者の監督について必要かつ適切な措置)
ハ.金融分野ガイドライン第9条の規定に基づく措置
ニ.実務指針 II の規定に基づく措置
(委託先の監督について必要かつ適切な措置)
ホ.金融分野ガイドライン第10条の規定に基づく措置
ヘ.実務指針 III の規定に基づく措置
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個人である顧客に関する人種、信条、門地、本籍地、保健医療又は犯罪経歴についての情報その他の特別の非公開情報(注)を、金商業等府令第123条第1項第7号の規定に基づき金融分野ガイドライン第5条第1項各号に列挙する場合を除き、利用しないことを確保するための措置が講じられているか。
(注)その他特別の非公開情報とは、以下の情報をいう。
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(a)労働組合への加盟に関する情報
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(b)民族に関する情報
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(c)性生活に関する情報
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(d)個人情報の保護に関する法律施行令第2条第4号に定める事項に関する情報
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(e)個人情報の保護に関する法律施行令第2条第5号に定める事項に関する情報
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(f)犯罪により害を被った事実に関する情報
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(g)社会的身分に関する情報
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金融商品取引業者は、クレジットカード決済による有価証券の売買の受託等について、金商法第44条の2により原則禁止されているが、金商業等府令第148条又は第149条第1号イからハに定める要件を全て満たした場合には、例外的に認められているところである。
この場合において、クレジットカード情報(カード番号、有効期限等)を含む個人情報(以下「クレジット カード情報等」という。)は、情報が漏えいした場合、不正使用によるなりすまし購入など二次被害が発生する可能性が高いため、金融商品取引業者は、上記・に加え、特に以下の措置を講じているか。イ.クレジットカード情報等について、利用目的その他の事情を勘案した適切な保存期間を設定し、保存場所を限定し、保存期間経過後適切かつ速やかに廃棄しているか。
ロ.業務上必要とする場合を除き、クレジットカード情報等をコンピューター画面に表示する際には、カード番号を全て表示させない等の適切な措置を講じているか。
ハ.クレジットカード情報等を保護するためのルール及びシステムが有効に機能しているかについて、定期的又は随時に点検・立入検査を行っているか。
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個人データの第三者提供に関して、金融分野ガイドライン第12条等を遵守するための措置が講じられているか。特に、その業務の性質や方法に応じて、以下の点にも留意しつつ、個人である顧客から適切な同意の取得が図られているか。
イ.金融分野ガイドライン第3条を踏まえ、個人である顧客からPC・スマートフォン等の非対面による方法で第三者提供の同意を取得する場合、同意文言や文字の大きさ、画面仕様その他同意の取得方法を工夫することにより、第三者提供先、当該提供先に提供される情報の内容及び当該提供先における利用目的について、個人である顧客が明確に認識できるような仕様としているか。
ロ.過去に個人である顧客から第三者提供の同意を取得している場合であっても、第三者提供先や情報の内容が異なる場合、又はあらかじめ特定された第三者提供先における利用目的の達成に必要な範囲を超えた提供となる場合には、改めて個人である顧客の同意を取得しているか。
ハ.第三者提供先が複数に及ぶ場合や、第三者提供先により情報の利用目的が異なる場合、個人である顧客において個人データの提供先が複数に及ぶことや各提供先における利用目的が認識できるよう、同意の対象となる第三者提供先の範囲や同意の取得方法、時機等を適切に検討しているか。
二.第三者提供の同意の取得にあたって、優越的地位の濫用や個人である顧客との利益相反等の弊害が生じるおそれがないよう留意しているか。例えば、個人である顧客が、第三者提供先や第三者提供先における利用目的、提供される情報の内容について、過剰な範囲の同意を強いられる等していないか。
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(3)法人関係情報を利用したインサイダー取引等の不公正な取引の防止に係る留意事項
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プライベート部門(営業部門のうち、恒常的に法人関係情報を取得することが想定される部門をいう。)とパブリック部門(営業部門のうち、プライベート部門以外の部門をいい、例えば、有価証券の売買その他の取引等の勧誘やその取引の媒介・取次ぎ・代理を行う部門や、自己取引又は委託取引の執行を行う部門などが考えられる。)との間に、チャイニーズウォール(情報管理のための組織上、物理上又はシステム上の障壁をいう。以下同じ。)を設ける等、法人関係情報を利用したインサイダー取引等の不公正な取引を防止するための適切な措置を講じているか。例外的にウォールクロス(チャイニーズウォールを跨いだ情報共有をいう。以下同じ。)を行う場合、情報共有を行った各部門の役職員の氏名、日付、関連銘柄等を記録し、コンプライアンス部門の事前承認を要する等の、法人関係情報の不正利用を実効的に防止する観点から必要となる手続を具体的に定めているか。
また、経営管理上の必要性から役員等に法人関係情報へのアクセスを認めている場合、当該役員等による法人関係情報の漏えいや不正利用を実効的に防止する観点から必要となる措置が講じられているか。
(注)「組織上の障壁」としては、例えば、部門やレポーティングラインの分離、役職員の兼職の制限等の措置を講じることが、「物理上の障壁」としては、例えば、法人関係情報を管理する部署への入出制限や文書管理等の措置を講じることが、「システム上の障壁」としては、例えば、法人関係情報へのアクセス権限の管理等の措置を講じることが考えられる。 -
役職員及びその関係者による、有価証券の売買その他の取引等に係る社内規則を整備し、当該社内規則に従い事前承認等の手続きを要することとした取引については、コンプライアンス部門による適切な関与を行わせる等し、また、必要に応じて見直しを行う等、適切な内部管理態勢を構築しているか。当該社内規則に従い事前承認等の手続きを要することとした取引については、コンプライアンス部門による適切な関与を行わせる等し、また、
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役職員によるインサイダー取引等の不公正な取引の防止に向け、職業倫理の強化、関係法令や社内規則の周知徹底等、法令等遵守意識の強化に向けた取り組みを行っているか。
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法人関係情報を入手し得る立場にある、金融商品取引業者の役職員及びその関係者による有価証券の売買その他の取引等の実態把握を行い、必要に応じてその方法の見直しを行う等、適切な措置を講じているか。
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金融商品取引業者が海外営業拠点を有している場合や国際的に活動する金融グループに属している場合、法人関係情報の管理について、例えば国内だけでなく、グローバルのグループベースで組織的・一元的な方針、手続き、システム等による管理を行うなど、各国法規制を遵守しつつ、グローバルに提供される業務の内容・規模等にふさわしい水準の適切な管理態勢が確立されているか。
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(4)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された金融商品取引業者の顧客等に関する情報管理態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-5 苦情等への対処(金融ADR制度への対応も含む。)
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(1)相談・苦情・紛争等(苦情等)対処の必要性
金融商品・サービスは、リスクを内在することが多く、その専門性・不可視性等ともあいまってトラブルが生じる可能性が高いと考えられる。このため、金融商品・サービスの販売・提供に関しては、トラブルを未然に防止し顧客保護を図る観点から情報提供等の事前の措置を十分に講じることに加え、苦情等への事後的な対処が重要となる。
近年、金融商品・サービスの多様化・複雑化によりトラブルの可能性も高まっており、顧客保護を図り、顧客からの信頼性を確保する観点から、苦情等への事後的な対処がさらに重要になってきている。
このような観点を踏まえ、簡易・迅速に金融商品・サービスに関する苦情処理・紛争解決を行うための枠組みとして金融ADR制度(ADRについては、(注)参照)が導入されており、金融商品取引業者においては、金融ADR制度も踏まえつつ、適切に苦情等に対処していく必要がある。
(注)ADR(Alternative Dispute Resolution)
訴訟に代わる、あっせん・調停・仲裁等の当事者の合意に基づく紛争の解決方法であり、事案の性質や当事者の事情等に応じた迅速・簡便・柔軟な紛争解決が期待される。
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(2)対象範囲
金融商品取引業者の業務に関する申出としては、相談のほか、いわゆる苦情・紛争などの顧客からの不満の表明など、様々な態様のものがありうる。金融商品取引業者には、これらの様々な態様の申出に対して適切に対処していくことが重要であり、かかる対処を可能とするための適切な内部管理態勢を整備することが求められる。
加えて、金融商品取引業者には、金融ADR制度において、苦情と紛争のそれぞれについて適切な態勢を整備することが求められている。
もっとも、これら苦情・紛争の区別は相対的で相互に連続性を有するものである。特に、金融ADR制度においては、指定ADR機関において苦情処理手続と紛争解決手続の連携の確保が求められていることを踏まえ、金融商品取引業者においては、顧客からの申出を形式的に「苦情」「紛争」に切り分けて個別事案に対処するのではなく、両者の相対性・連続性を勘案し、適切に対処していくことが重要である。
III-2-5-1 苦情等対処に関する内部管理態勢の確立
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(1)意義
苦情等への迅速・公平かつ適切な対処は、顧客に対する説明責任を事後的に補完する意味合いを持つ重要な活動の一つでもあり、金融商品・サービスへの顧客の信頼性を確保するため重要なものである。金融商品取引業者は、金融ADR制度において求められる措置・対応を含め、顧客から申出があった苦情等に対し、自ら迅速・公平かつ適切に対処すべく内部管理態勢を整備する必要がある。
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(2)主な着眼点
金融商品取引業者が、苦情等対処に関する内部管理態勢を整備するに当たり、業務の規模・特性に応じて、適切かつ実効性ある態勢を整備しているかを検証する。その際、機械的・画一的な運用に陥らないよう配慮しつつ、例えば、以下の点に留意することとする。
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経営陣の役割
取締役会は、苦情等対処機能に関する全社的な内部管理態勢の確立について、適切に機能を発揮しているか。
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社内規則等
イ.社内規則等において、苦情等に対し迅速・公平かつ適切な対応・処理を可能とするよう、苦情等に係る担当部署、その責任・権限及び苦情等の処理手続を定めるとともに、顧客の意見等を業務運営に反映するよう、業務改善に関する手続を定めているか。
ロ.苦情等対処に関し社内規則等に基づいて業務が運営されるよう、研修その他の方策(マニュアル等の配布を含む。)により、社内に周知・徹底をする等の態勢を整備しているか。
特に、顧客からの苦情等が多発している場合には、まず社内規則(苦情等対処に関するものに限らない。)等の営業店に対する周知・徹底状況を確認し、実施態勢面の原因と問題点を検証することとしているか。
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苦情等対処の実施態勢
イ.苦情等への対処に関し、適切に担当者を配置しているか。
ロ.顧客からの苦情等について、関係部署が連携のうえ、速やかに処理を行う態勢を整備しているか。特に、苦情等対処における主管部署及び担当者が、個々の職員が抱える顧客からの苦情等の把握に努め、速やかに関係部署に報告を行う態勢を整備しているか。
ハ.苦情等の解決に向けた進捗管理を適切に行い、長期未済案件の発生を防止するとともに、未済案件の速やかな解消を行う態勢を整備しているか。
ニ.苦情等の発生状況に応じ、受付窓口における対応の充実を図るとともに、顧客利便に配慮したアクセス時間・アクセス手段(例えば、電話、郵便、ファックス、電子メール等)を設定する等、広く苦情等を受け付ける態勢を整備しているか。また、これら受付窓口、申出の方式等について広く公開するとともに、顧客の多様性に配慮しつつ分かりやすく周知する態勢を整備しているか。
ホ.苦情等対処に当たっては、個人情報について、個人情報保護法、保護法ガイドライン、金融分野ガイドライン及び実務指針の規定に基づく適切な取扱いを確保するための態勢を整備しているか (III-2-4(顧客情報の管理)参照)。
ヘ.金融商品仲介業者等を含め、業務の外部委託先が行う委託業務に関する苦情等について、金融商品取引業者自身への直接の連絡体制を設けるなど、迅速かつ適切に対処するための態勢を整備しているか (III-2-7(2)、III-2-10(1)、VI-2-2-4-2(4)及び VII-2-1-5(2)参照)。
ト.苦情等対処に当たっては、損失補てん等の禁止(金商法第39条)規定との関係を踏まえ、適切な対応をとるための態勢を整備しているか。
チ.反社会的勢力による苦情等を装った圧力を通常の苦情等と区別し、断固たる対応をとるため、関係部署への速やかな連絡や(必要に応じて)警察等関係機関との連携等を適切に行える態勢を整備しているか (III-2-11(反社会的勢力による被害の防止)参照)。
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顧客への対応
イ.苦情等への対処について、単に処理手続の問題と捉えるにとどまらず、事後的な説明態勢の問題として位置付け、苦情等の内容に応じ顧客から事情を十分にヒアリングしつつ、可能な限り顧客の理解と納得を得て解決することを目指しているか。
ロ.苦情等を申し出た顧客に対し、申出時から処理後まで、顧客特性にも配慮しつつ、苦情等対処の手続の進行に応じた適切な説明(例えば、苦情等対処手続の説明、申出を受理した旨の通知、進捗状況の説明、結果の説明等)を必要に応じて行う態勢を整備しているか。
ハ.申出のあった苦情等について、自ら対処するばかりでなく、苦情等の内容や顧客の要望等に応じて適切な外部機関等を顧客に紹介するとともに、その標準的な手続の概要等の情報を提供する態勢を整備しているか。
なお、複数ある苦情処理・紛争解決の手段は任意に選択しうるものであり、外部機関等の紹介に当たっては、顧客の選択を不当に制約することとならないよう留意する必要がある。
ニ.外部機関等において、苦情等対処に関する手続が係属している間にあっても、当該手続の他方当事者である顧客に対し、必要に応じ、適切な対応(一般的な資料の提供や説明など顧客に対して通常に行う対応等)を行う態勢を整備しているか。
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情報共有・業務改善等
イ.苦情等及びその対処結果等が類型化の上で内部管理部門や営業部門に報告されるとともに、重要案件は速やかに監査部門や経営陣に報告されるなど、事案に応じ必要な関係者間で情報共有が図られる態勢を整備しているか。
ロ.苦情等の内容及び対処結果について、自ら対処したものに加え、外部機関等が介在して対処したものを含め、適切かつ正確に記録・保存しているか。また、これらの苦情等の内容及び対処結果について、指定ADR機関より提供された情報等も活用しつつ、分析し、その分析結果を継続的に顧客対応・事務処理についての態勢の改善や苦情等の再発防止策・未然防止策の策定等に活用する態勢を整備しているか。
ハ.勧誘態勢や事務処理の改善や再発防止等の策定等に取り組んだ後に販売、契約した商品、取引に関する苦情等の状況を確認し、当該取組みの効果を確認する態勢を整備しているか。
ニ.苦情等対処の実効性を確保するため、監査等の内部けん制機能が十分発揮されるよう態勢を整備しているか。
ホ.苦情等対処の結果を業務運営に反映させる際、業務改善・再発防止等必要な措置を講じることの判断並びに苦情等対処態勢の在り方についての検討及び継続的な見直しについて、経営陣が指揮する態勢を整備しているか。
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外部機関等との関係
イ.苦情等の迅速な解決を図るべく、外部機関等に対し適切に協力する態勢を整備しているか。
ロ.外部機関等に対して、自ら紛争解決手続の申立てを行う際、自らの手続を十分に尽くさずに安易に申立てを行うのではなく、顧客からの苦情等の申出に対し、十分な対応を行い、かつ申立ての必要性につき社内で適切な検討を経る態勢を整備しているか。
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III-2-5-2 金融ADR制度への対応
III-2-5-2-1 指定ADR機関が存在する場合
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(1)意義
顧客保護の充実及び金融商品・サービスへの顧客の信頼性の向上を図るためには、金融商品取引業者と顧客との実質的な平等を確保し、中立・公正かつ実効的に苦情等の解決を図ることが重要である。そこで、金融ADR制度において、指定ADR機関によって、専門家等関与のもと、第三者的立場からの苦情処理・紛争解決が行われることとされている。
なお、金融ADR制度においては、苦情処理・紛争解決への対応について、主に金融商品取引業者と指定ADR機関との間の手続実施基本契約(金商法第156条の38第13項)によって規律されているところである。
金融商品取引業者においては、指定ADR機関において苦情処理・紛争解決を行う趣旨を踏まえつつ、手続実施基本契約で規定される義務等に関し、適切に対応する必要がある。
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(2)主な着眼点
金融商品取引業者が、金融ADR制度への対応に当たり、業務の規模・特性に応じて適切かつ実効性ある態勢を整備しているかを検証する。その際、機械的・画一的な運用に陥らないよう配慮しつつ、例えば、以下の点に留意することとする。
なお、「 III-2-5-1 苦情等対処に関する内部管理態勢の確立」における留意点も参照すること。
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総論
イ.手続実施基本契約
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a.紛争解決等業務の種別(金商法第156条の38第12項に規定する紛争解決等業務の種別をいう。)ごとに存在する指定ADR機関との間で、速やかに手続実施基本契約を締結しているか。
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b.例えば、指定ADR機関の指定取消しや新たな指定ADR機関の指定などの異動があった場合であっても、顧客利便の観点から最善の策を選択し、速やかに必要な措置(新たな苦情処理措置・紛争解決措置の実施、手続実施基本契約の締結など)を講じるとともに、顧客へ周知する等の適切な対応を行っているか。
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c.指定ADR機関と締結した手続実施基本契約の内容を誠実に履行する態勢を整備しているか。
ロ.公表・周知・顧客への対応
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a.手続実施基本契約を締結した相手方である指定ADR機関の商号又は名称、及び連絡先を適切に公表しているか。
公表の方法について、例えば、ホームページへの掲載、ポスターの店頭掲示、パンフレットの作成・配布又はマスメディアを通じての広報活動等、業務の規模・特性に応じた措置をとることが必要である。仮に、ホームページに掲載したとしても、これを閲覧できない顧客も想定される場合には、そのような顧客にも配慮する必要がある。
公表する際は、顧客にとって分かりやすいように表示しているか(例えば、ホームページで公表する場合において、顧客が容易に金融ADR制度の利用に関するページにアクセスできるような表示が望ましい。)。
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b.契約締結前交付書面の交付に関し、金融ADR制度についての説明を行っているか。
また、顧客から苦情の申出があった場合には、真摯な対応をとるとともに、当事者間の話合いでは顧客の理解が得られない場合や、損害賠償金額の確定が困難である場合には、改めて金融ADR制度について説明を行っているか。
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c.手続実施基本契約も踏まえつつ、顧客に対し、指定ADR機関による標準的な手続のフローや指定ADR機関の利用の効果(時効の完成猶予等)等必要な情報の周知を行う態勢を整備しているか。
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d.保険会社が組成した保険商品を金融商品取引業者が販売する場合、当該商品を組成した保険会社や、当該商品を販売した金融商品取引業者といった、業態の異なる複数の業者が関係することになるため、顧客の問題意識を把握した上で、問題の発生原因に応じた適切な指定ADR機関を紹介するなど、丁寧な対応を行っているか。
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(注)保険商品の場合、金融商品取引業者(保険募集人)による販売時の説明等の問題であっても、所属保険会社等は、保険業法第283条第1項の規定により保険募集人が保険募集について保険契約者に加えた損害を賠償する責任を負う(同条第2項に掲げる場合を除く)とされていることから、顧客は、金融商品取引業者が手続実施基本契約を締結する指定ADR機関のみならず、保険会社が手続実施基本契約を締結する指定ADR機関に対しても、原則として申立てを行うことができることに留意する。
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苦情処理手続・紛争解決手続についての留意事項
金融商品取引業者が手続実施基本契約により手続応諾・資料提出・特別調停案尊重等の各義務を負担することを踏まえ、検証に当たっては、例えば、以下の点に留意することとする。
イ.共通事項
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a.指定ADR機関から手続応諾・資料提出等の求めがあった場合、正当な理由がない限り、速やかにこれに応じる態勢を整備しているか。
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b.指定ADR機関からの手続応諾・資料提出等の求めに対し拒絶する場合、苦情・紛争の原因となった部署のみが安易に判断し拒絶するのではなく、組織として適切に検討を実施する態勢を整備しているか。また、可能な限り、その判断の理由(正当な理由)について説明する態勢を整備しているか。
ロ.紛争解決手続への対応
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a.紛争解決委員から和解案の受諾勧告又は特別調停案の提示がされた場合、速やかに受諾の可否を判断する態勢を整備しているか。
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b.和解案又は特別調停案を受諾した場合、担当部署において速やかに対応するとともに、その履行状況等を監査部門等が事後検証する態勢を整備しているか。
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c.和解案又は特別調停案の受諾を拒絶する場合、業務規程(金商法第156条の44第1項)等を踏まえ、速やかにその理由を説明するとともに、訴訟提起等の必要な対応を行う態勢を整備しているか。
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III-2-5-2-2 指定ADR機関が存在しない場合
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(1)意義
金融ADR制度においては、指定ADR機関が存在しない場合においても、代わりに苦情処理措置・紛争解決措置を講ずることが法令上求められている。金融商品取引業者においては、これらの措置を適切に実施し、金融商品・サービスに関する苦情・紛争を簡易・迅速に解決することにより、顧客保護の充実を確保し、金融商品・サービスへの顧客の信頼性の向上に努める必要がある。
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(2)主な着眼点
金融商品取引業者が、苦情処理措置・紛争解決措置を講じる場合、金融ADR制度の趣旨を踏まえ、顧客からの苦情・紛争の申出に関し、業務の規模・特性に応じ、適切に対応する態勢を整備しているかを検証する。その際、機械的・画一的な運用に陥らないよう配慮しつつ、例えば、以下の点に留意することとする。
なお、「 III-2-5-1 苦情等対処に関する内部管理態勢の確立」における留意点も参照すること。
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総論
イ.苦情処理措置・紛争解決措置の選択
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a.登録を受けた業務の種別(第一種金融商品取引業、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業又は投資運用業の別をいう。)ごとに、業務の内容、苦情等の発生状況及び営業地域等を踏まえて、法令で規定されている以下の各事項のうちの一つ又は複数を苦情処理措置・紛争解決措置として適切に選択しているか。なお、その際は、例えば、顧客が苦情・紛争を申し出るに当たり、顧客にとって地理的にアクセスしやすい環境を整備するなど、顧客の利便の向上に資するような取組みを行うことが望ましい。
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(a)苦情処理措置
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i )苦情処理に従事する従業員への助言・指導を一定の経験を有する消費生活専門相談員等に行わせること
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ii )自社で業務運営体制・社内規則を整備し、公表等すること
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iii )金融商品取引業協会、認定投資者保護団体を利用すること
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iv )国民生活センター、消費生活センターを利用すること
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v )他の業態の指定ADR機関を利用すること
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vi )苦情処理業務を公正かつ適確に遂行できる法人を利用すること
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(b)紛争解決措置
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i )裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律に定める認証紛争解決手続を利用すること
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ii )金融商品取引業協会、認定投資者保護団体を利用すること
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iii )弁護士会を利用すること
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iv )国民生活センター、消費生活センターを利用すること
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v )他の業態の指定ADR機関を利用すること
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vi )紛争解決業務を公正かつ適確に遂行できる法人を利用すること
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b.苦情・紛争の処理状況等のモニタリング等を継続的に行い、必要に応じ、苦情処理措置・紛争解決措置について、検討及び見直しを行う態勢を整備しているか。
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c.「苦情処理業務・紛争解決業務を公正かつ適確に遂行できる法人」((a) vi ・(b) vi )を利用する場合、当該法人が苦情処理業務・紛争解決業務を公正かつ適確に遂行するに足りる経理的基礎及び人的構成を有する法人であること(金商業等府令第115条の2第1項第5号、同条第2項第5号)について、相当の資料等に基づいて、合理的に判断しているか。
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d.外部機関を利用する場合、必ずしも当該外部機関との間において業務委託契約等の締結までは求められていないが、標準的な手続のフローや、費用負担に関する事項等について予め取決めを行っておくことが望ましい。
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e.外部機関の手続を利用する際に費用が発生する場合について、顧客の費用負担が過大とならないような措置を講じる等、苦情処理と紛争解決の申立ての障害とならないような措置を講じているか。
ロ.運用
苦情処理措置・紛争解決措置の適用範囲を過度に限定的なものとするなど、不適切な運用を行っていないか。なお、苦情処理措置と紛争解決措置との間で適切な連携を確保しているかについても留意する必要がある(III-2-5(2)参照)。
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苦情処理措置(自社で態勢整備を行う場合)についての留意事項
イ.消費生活専門相談員等による従業員への助言・指導態勢を整備する場合
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a.定期的に消費生活専門相談員等による研修を実施する等、苦情処理に従事する従業員のスキルを向上させる態勢を整備しているか。
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b.消費生活専門相談員等との連絡体制を築く等、個別事案の処理に関し、必要に応じ、消費生活専門相談員等の専門知識・経験を活用する態勢を整備しているか。
ロ.自社で業務運営体制・社内規則を整備する場合
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a.苦情の発生状況に応じ、業務運営体制及び社内規則を適切に整備するとともに、当該体制・規則に基づき、公正かつ適確に苦情処理を行う態勢を整備しているか。
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b.苦情の申出先を顧客に適切に周知するとともに、苦情処理に係る業務運営体制及び社内規則を適切に公表しているか。
周知・公表の内容として、必ずしも社内規則の全文を公表する必要はないものの、顧客が、苦情処理が適切な手続に則って行われているかどうか自ら確認できるようにするため、苦情処理における連絡先及び標準的な業務フロー等を明確に示すことが重要であることから、それに関連する部分を公表しているかに留意する必要がある。
なお、周知・公表の方法について、III-2-5-2-1(2)ロを参照のこと。
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苦情処理措置(外部機関を利用する場合)及び紛争解決措置の留意事項
イ.周知・公表等
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a.金融商品取引業者が外部機関を利用している場合、顧客保護の観点から、例えば、顧客が苦情・紛争を申し出るに当たり、外部機関を利用できることや、外部機関の名称及び連絡先、その利用方法等、外部機関に関する情報について、顧客にとって分かりやすいように、周知・公表を行うことが望ましい。
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b.契約締結前交付書面の交付に関し、金融ADR制度についての説明を行っているか。
また、顧客からの苦情の申出があった場合には、真摯な対応をとるとともに、当事者間の話合いでは顧客の理解が得られない場合や、損害賠償金額の確定が困難である場合には、改めて金融ADR制度について説明を行っているか。
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c.苦情処理・紛争解決の申立てが、地理又は苦情・紛争内容その他の事由により、顧客に紹介した外部機関の取扱範囲外のものであるとき、又は他の外部機関等(苦情処理措置・紛争解決措置として金融商品取引業者が利用している外部機関に限らない。)による取扱いがふさわしいときは、他の外部機関等を顧客に紹介する態勢を整備しているか。
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d.保険会社が組成した保険商品を金融商品取引業者が販売する場合については、III-2-5-2-1(2)ロ.d.を参照すること。
ロ.手続への対応
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a.外部機関から苦情処理・紛争解決の手続への応諾、事実関係の調査又は関係資料の提出等を要請された場合、当該外部機関の規則等も踏まえつつ、速やかにこれに応じる態勢を整備しているか。
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b.苦情処理・紛争解決の手続への応諾、事実関係の調査又は関係資料の提供等の要請を拒絶する場合、苦情・紛争の原因となった部署のみが安易に判断し拒絶するのではなく、苦情・紛争内容、事実・資料の性質及び外部機関の規則等を踏まえて、組織として適切に検討を実施する態勢を整備しているか。また、当該外部機関の規則等も踏まえつつ、可能な限り拒絶の理由について説明する態勢を整備しているか。
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c.紛争解決の手続を開始した外部機関から和解案、あっせん案等の解決案(以下、d及びeにおいて「解決案」という。)が提示された場合、当該外部機関の規則等も踏まえつつ、速やかに受諾の可否を判断する態勢を整備しているか。
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d.解決案を受諾した場合、担当部署において速やかに対応するとともに、その履行状況等を監査部門等が事後検証する態勢を整備しているか。
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e.解決案の受諾を拒絶する場合、当該外部機関の規則等も踏まえつつ、速やかにその理由を説明するとともに、必要な対応を行う態勢を整備しているか。
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III-2-5-3 各種書面への記載
金融商品取引業者は、各種書面(契約締結前交付書面、事業報告書、説明書類等)において金融ADR制度への対応内容を記載することが義務付けられている。それら書面には、指定ADR機関が存在しない場合は、苦情処理措置・紛争解決措置の内容を記載する必要があるが、例えば、金融商品取引業者が外部機関を利用している場合、当該外部機関(苦情処理・紛争解決に係る業務の一部を他の機関に委託している場合、当該他の機関も含む。)の名称及び連絡先など、実態に即して適切な事項を記載するべきことに留意する。
III-2-5-4 行政上の対応
日常の監督事務等を通じて把握された、金融商品取引業者の苦情等対処態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
また、指定ADR機関が存在する場合において、金融商品取引業者が手続応諾の求めに応じない場合等であっても、一義的には金融商品取引業者と指定ADR機関との手続実施基本契約に係る不履行の問題であることに留意しつつ、金融商品取引業者の対応を注視するものとする。
なお、一般に顧客と金融商品取引業者との間で生じる個別の紛争は、私法上の契約に係る問題であり、基本的にADRや司法の場を含め、当事者間で解決されるべき事柄であることに留意する必要がある。
III-2-6 取引時確認等の措置
市場の仲介者等として重要な役割を果たしている金融商品取引業者が、例えば総会屋利益供与事件や、テロ資金供与、マネー・ローンダリング等の組織的犯罪等に関与し、あるいは利用されるようなことはあってはならないことである。
金融商品取引業者が、組織的犯罪、資金洗浄(マネー・ローンダリング)、テロ資金供与に利用され、犯罪収益等の拡大に貢献すること等を防ぐには、全社的に高度で強固な法令等遵守態勢を構築する必要がある。
特に、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯収法」という。)に基づく取引時確認、取引記録等の保存、疑わしい取引の届出等の措置(犯収法第11条に基づく取引時確認等の措置をいう。以下「取引時確認等の措置」という。)に関する内部管理態勢を構築することは、組織犯罪による金融サービスの濫用を防止し、我が国金融・資本市場に対する信頼を確保するためにも重要な意義を有している。
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(1)主な着眼点
犯収法に基づく取引時確認等の措置及びリスクベース・アプローチを含む「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下「マネロン・テロ資金供与対策ガイドライン」という。)記載の措置の的確な実施態勢については、以下のような点に留意して検証することとする。
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(注1)取引時確認等の措置の的確な実施に当たっては、「犯罪収益移転防止法に関する留意事項について」(平成24年10月金融庁)を参考にすること。
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(注2)リスクベース・アプローチとは、自己のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスクを特定・評価し、これを実効的に低減するため、当該リスクに見合った対策を講ずることをいう。
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犯収法に基づき、テロ資金供与やマネー・ローンダリング等に利用されるリスクについて調査・分析し、その結果を勘案した措置を的確に実施するための態勢が整備されているか。
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イ. 犯収法第3条第3項に基づき国家公安委員会が作成・公表する犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案し、取引・商品特性や取引形態、取引に関係する国・地域、顧客属性等の観点から、自らが行う取引がテロ資金供与やマネー・ローンダリング等に利用されるリスクについて適切に調査・分析した上で、その結果を記載した書面等(以下「特定事業者作成書面等」という。)を作成し、定期的に見直しを行っているか。
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ロ. 特定事業者作成書面等の内容を勘案し、必要な情報を収集・分析するとともに、保存している確認記録及び取引記録等について継続的に精査しているか。
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ハ. 犯収法第4条第2項前段に定める厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引若しくは犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則(以下「犯収法施行規則」という。)第5条に定める顧客管理を行う上で特別の注意を要する取引又はこれら以外の取引で犯罪収益移転危険度調査書の内容を勘案してテロ資金供与やマネー・ローンダリング等の危険性の程度が高いと認められる取引を行う際には、統括管理者(犯収法第11条第3号に基づく統括管理者をいう。以下同じ。)が承認を行い、また、情報の収集・分析を行った結果を記載した書面等を作成し、確認記録又は取引記録等と併せて保存しているか。
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犯収法に基づく取引時確認を的確に実施するための態勢が整備されているか。
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イ. 社内規則等において、取引時確認を行うための社内体制や手続きが明確に定められているか。また、役職員に対して、その内容について周知徹底を行い、その理解が十分に図られているか。
特に、以下の点について明確化することが考えられる。
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a. 取引時確認を実施する担当部署、責任者とその役割
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b. 担当部署が行った取引時確認の適切性の判断、その実施状況の把握・検証・分析等、社内における取引時確認事務を統括する部署、責任者(当該業務に関する社内的な最終判断を行う者を含む。)とその役割
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c. 上記a、bの部署における報告体制(その他関係部署の連携体制も含む。)
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d. 顧客の取引時確認に関する記録及び顧客との取引に係る記録の適時・適切な作成・保存(個人番号及び基礎年金番号の適切な取扱いを含む。)
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ロ. 取引時確認を行うに当たって、顧客の属性を適切に把握するとともに、本人確認書類の提出等により、その信憑性・妥当性の確認が行われているか。顧客に関して特に問題等が認められた場合、適正に対応・管理を行っているか。
また、顧客から取得した取引時確認情報については、顧客取引の継続的なモニタリング等を通じて、その属性の把握に常時努め、最新のものとすることが確保されているか。
例えば、顧客の属性を把握するために講じる措置としては、以下の方法が考えられる。
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a. 電話番号又は電子メールのアドレスが同一である顧客口座の名寄せを定期的に行い、それらのうち、住所や姓の異なる顧客口座を抽出する等の方法を行った上で、当該顧客の取引実態の把握や顧客本人への連絡等により、取引の相手方が本人であることを確認する。
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b. 住所等の取引時確認情報の変更に関して、例えば、変更等が生じた場合は金融商品取引業者に連絡が必要であること等を顧客に対して定期的に周知する等の方法により適時把握する。
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ハ. 社内規則等において、顧客受入方針が適切に定められているか。また、取引時確認手続きの実施などを通じて把握された顧客の属性などに関して、顧客受入方針が的確に適用されているか。
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ニ. 法人顧客との取引における実質的支配者の確認や、外国PEPs(注)該当性の確認を行っているか。
(注)犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令(以下「犯収法施行令」という。)第12条第3項各号及び犯収法施行規則第15条各号に掲げる外国の元首及び外国政府等において重要な地位を占める者等をいう。
とりわけ、犯収法第4条第2項前段及び犯収法施行令第12条各項に基づく下記a.~d.のような厳格な顧客管理を行う必要性が特に高いと認められる取引を行う場合には、顧客の本人特定事項を、通常と同様の方法に加え、追加で本人確認書類又は補完書類の提示を受ける等、通常の取引よりも厳格な方法で確認するなど、適正に(再)取引時確認が行われているか。また、資産及び収入の状況の確認が義務づけられている場合について、適正に確認が行われているか。
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a. 取引の相手方が関連取引時確認に係る顧客等又は代表者等になりすましている疑いがある場合における当該取引
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b. 関連取引時確認が行われた際に当該関連取引時確認に係る事項を偽っていた疑いがある顧客等との取引
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c. 犯収法施行令第12条第2項に定める、犯罪による収益の移転防止に関する制度の整備が十分に行われていないと認められる国又は地域に居住し又は所在する顧客等との特定取引等
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d. 外国PEPsに該当する顧客等との特定取引
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ホ. 顧客の取引時確認に当たって、取引形態(例えば、インターネットによる非対面取引等)を考慮した措置が講じられているか。
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へ. 役職員の採用に当たって、テロ資金供与やマネー・ローンダリング対策の適切な実施の観点も含めて選考が行われているか。また、管理職レベルのテロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策のコンプライアンス担当者など、統括管理者として適切な者を選任・配置しているか。
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ト. 役職員に対して、取引時確認に関する研修・教育が定期的かつ継続的に実施されているか。また、研修等を受けた役職員の理解状況について、日常業務における実践も踏まえ、評価及びフォローアップが適宜行われているか。
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チ. 取引時確認の実施に関して、社内における定期的な点検や内部監査を通じ、その実施状況を把握・検証し、実施方法の見直しを行う等、その実効性が確保されているか。
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犯収法に基づく疑わしい取引の届出を的確に実施するための態勢が整備されているか。
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イ. 社内規則等において、疑わしい取引の届出を行うための社内体制や手続きが明確に定められているか。また、役職員に対して、その内容について周知徹底を行い、その理解が十分に図られているか。
特に、以下の点について明確化することが考えられる。
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a. 疑わしい取引を把握する部署、責任者とその役割
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b. 上記イにおいて把握された疑わしい取引の適切性の判断、その実施状況の把握・検証・分析等、社内における疑わしい取引の把握を統括する部署、責任者(当該届出に関する社内的な最終判断を行う者を含む。)とその役割
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c. 上記a、bの部署における報告体制(その他関係部署の連携体制も含む。)
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ロ. 疑わしい取引に該当すると判断された場合には、統括部署において、速やかに当局に届出を行うこととされているか。
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ハ. 疑わしい取引の届出に該当するか否かの判断を行うに当たって、取引時確認情報、顧客属性、取引態様、取引時の状況その他の金融商品取引業者が取得・保有している具体的な情報及び犯罪収益移転危険度調査書を総合的に勘案し、犯収法第8条第2項及び犯収法施行規則第26条、第27条に基づく適切な検討の上、届出の必要性の判断が行われているか。また、その取引等に関して特に問題等が認められた場合、適正に対応・管理を行っているか。
(注1) 考慮すべき顧客属性及び取引態様としては、国籍(例:FATFが公表するマネー・ローンダリング対策に非協力的な国・地域)、外国PEPs該当性、顧客が行っている事業等、取引金額・回数等、国内外の取引の別が考えられる。
(注2) 金融商品取引業者において、疑わしい取引の端緒となる情報の蓄積や形式的な基準を設けることも有用な手段として考えられるが、定型的な社内基準を設ける場合は、当該基準のみに依拠し、届出が形骸化することを防止するため、各取引の態様等を総合的に判断するための措置を講じることに留意する必要がある。
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ニ. 金融商品取引業者の行っている業務内容・業容に応じて、システム、マニュアル等により、疑わしい顧客や取引等を検出・監視・分析しているか。
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ホ. 役職員の採用に当たって、テロ資金供与やマネー・ローンダリング対策の適切な実施の観点も含めて選考が行われているか。また、管理職レベルのテロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策のコンプライアンス担当者など、統括管理者として適切な者を選任・配置しているか。
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ヘ. 役職員に対して、疑わしい取引の届出に関する研修・教育が定期的かつ継続的に実施されているか。当該研修等の機会を捉えて、疑わしい取引の届出に該当する可能性がある事例や金融商品取引業者が過去に届出を行った事例等について、「疑わしい取引の参考事例」(金融庁ホームページ参照)も参考にし、研修資料等として活用することも、役職員の理解の促進のために有用と考えられる。
また、研修等を受けた役職員の理解状況について、日常業務における実践も踏まえ、評価及びフォローアップが適宜行われているか。
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ト. 疑わしい取引の届出に関して、社内における定期的な点検や内部監査を通じて、その実施状況を把握・検証し、実施方法の見直し等を行う等、その実効性が確保されているか。
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取引時確認と疑わしい取引の届出が相互に関連性を有していることを十分に認識し、取引時確認の的確な実施により顧客の基礎的な情報を把握し、その上で当該情報及び顧客の取引態様等を総合的に勘案のうえ判断し、疑わしい取引の届出が行われるよう、一体的、一元的な社内態勢等が構築されているか。
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海外営業拠点(支店、現地法人等)のテロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策を的確に実施するための態勢が整備されているか。
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イ. 海外営業拠点においても、適用される現地の法令等が認める限度において、国内におけるのと同水準で、テロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策を適切に行っているか。
(注)特に、FATF勧告を適用していない又は適用が不十分である国・地域に所在する海外営業拠点においても、国内におけるのと同水準の態勢の整備が求められることに留意する必要がある。
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ロ. 現地のテロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策のために求められる義務の基準が、国内よりも高い基準である場合、海外営業拠点は現地のより高い基準に即した対応を行っているか。
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ハ. 適用される現地の法令等で禁止されているため、海外営業拠点が国内におけるのと同水準の適切なテロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策を講じることができない場合には、以下のような事項を速やかに金融庁又は本店所在地を管轄する財務局に情報提供しているか。
- 当該国・地域
- テロ資金供与及びマネー・ローンダリング対策を講じることができない具体的な理由
- テロ資金供与及びマネー・ローンダリングに利用されることを防止するための代替措置を取っている場合には、その内容
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(2)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された金融商品取引業者の取引時確認等の措置の履行又はマネロン・テロ資金供与対策ガイドライン記載の措置に関する内部管理態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な業務改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-7 事務リスク管理態勢
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(1)事務リスク管理
事務リスクとは、役職員が正確な事務を怠る、あるいは事故・不正等を起こすことにより顧客や金融商品取引業者が損失を被るリスクである。金融商品取引業者は、事務リスクに係る内部管理態勢を適切に整備し、業務の健全かつ適切な運営により、信頼性の確保に努める必要があることから、例えば以下の点に留意して検証することとする。
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主な着眼点
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イ. 全ての業務に事務リスクが所在していることを理解し、適切な事務リスク管理態勢が整備されているか。
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ロ. 事務リスクを軽減することの重要性を認識し、事務リスク軽減のための具体的な方策を講じているか。
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ハ. 事務リスクの管理部門は、例えば営業部門から独立するなど、十分に牽制機能が発揮されるよう体制が整備されているか。事務に係る諸規程が明確に定められているか。また、当該諸規程は必要に応じて適切に見直しが行われているか。
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ニ. 内部監査部門は、事務リスク管理態勢を監査するため、内部監査を適切に実施しているか。また、事務リスクの管理部門は、営業部店における事務管理態勢をチェックする措置を講じているか。両部門は、適宜連携を図り営業部店の事務水準の向上を図っているか。
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(2)事務の外部委託について
金融商品取引業者は事務の外部委託を行う場合でも、当該委託事務に係る最終的な責任を免れるものではないことから、顧客保護及び経営の健全性を確保するため、金融商品取引業者の業容に応じて、例えば以下の点に留意する必要がある。なお、以下の点はあくまで一般的な着眼点であり、委託事務の内容等に応じ、追加的に検証を必要とする場合があることに留意する。
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主な着眼点
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イ. 外部委託の対象とする事務や外部委託先の選定に関する方針・手続が明確に定められているか。
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ロ. 外部委託している事務のリスク管理が十分に行えるような態勢を構築しているか。
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ハ. 外部委託を行うことによって、検査や報告、記録の提出等監督当局に対する義務の履行等を妨げないような措置が講じられているか。
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ニ. 委託契約によっても金融商品取引業者と顧客との間の権利義務関係に変更がなく、当該金融商品取引業者が事務を行ったのと同様の権利が確保されていることが明らかか。
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ホ. 委託事務に関して契約どおりサービスの提供が受けられないときに、金融商品取引業者において顧客利便に支障が生じることを未然に防止するための態勢整備が行われているか。
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ヘ. 委託事務に係る苦情等について、顧客から金融商品取引業者への直接の連絡窓口を設けるなど適切な苦情相談体制が整備されているか。
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(3)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された金融商品取引業者の事務リスク管理態勢ないし事務の外部委託管理態勢に係る課題については、金融商品取引業者又はその業務委託先に対し深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-8 システムリスク管理態勢
システムリスクとは、コンピュータシステムのダウン又は誤作動等、システムの不備等に伴い顧客や金融商品取引業者が損失を被るリスクやコンピュータが不正に使用されることにより顧客や金融商品取引業者が損失を被るリスクをいうが、金融商品取引業者の経営再編に伴うシステム統合や新商品・サービスの拡大等に伴い、金融商品取引業者の情報システムは一段と高度化・複雑化し、更にコンピュータのネットワーク化の拡大に伴い、重要情報に対する不正なアクセスや漏えい等のリスクが大きくなっている。
システムが安全かつ安定的に稼動することは、金融商品市場及び金融商品取引業者に対する信頼を確保するための大前提であり、システムリスク管理態勢の充実強化は極めて重要である。
また、金融機関のIT戦略は、近年の金融を巡る環境変化も勘案すると、今や金融機関のビジネスモデルを左右する重要課題となっており、金融機関において経営戦略をIT戦略と一体的に考えていく必要性が増している。こうした観点から、経営者がリーダーシップを発揮し、ITと経営戦略を連携させ、企業価値の創出を実現するための仕組みである「ITガバナンス」が適切に機能することが極めて重要となっており、かかる点の重要性は金融商品取引業者等についても同様である。
(参考)金融機関のITガバナンスに関する対話のための論点・プラクティスの整理第2版(令和5年6月)
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(1)主な着眼点
システムリスク管理態勢の検証については、金融商品取引業者の業容に応じて、例えば以下の点に留意して検証することとする。
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システムリスクに対する認識等
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イ. 取締役会等において、システムリスクが十分認識され、全社的なリスク管理の基本方針が策定されているか。
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ロ. 取締役会等は、システム障害やサイバーセキュリティ事案(以下「システム障害等」という。)の未然防止と発生時の迅速な復旧対応について、経営上の重大な課題と認識し、態勢を整備しているか。
(注)サイバーセキュリティ事案とは、情報通信ネットワークや情報システム等の悪用により、サイバー空間を経由して行われる不正侵入、情報の窃取、改ざんや破壊、情報システムの作動停止や誤作動、不正プログラムの実行やDDoS攻撃等の、いわゆる「サイバー攻撃」により、サイバーセキュリティが脅かされる事案をいう。
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ハ. 取締役会等は、システムリスクの重要性を十分に認識した上で、システムに関する十分な知識・経験を有し業務を適切に遂行できる者を、システムを統括管理する役員として定めているか。
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ニ. 取締役会等は、システム障害等発生の危機時において、果たすべき責任やとるべき対応について具体的に定めているか。
また、必要に応じて自らが指揮を執る訓練を行う等して、その実効性を確保しているか。
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適切なリスク管理態勢の確立
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イ. システムリスク管理の基本方針が定められ、管理態勢が構築されているか。システムリスク管理の基本方針には、セキュリティポリシー(組織の情報資産を適切に保護するための基本方針)及び外部委託先に関する方針が含まれているか。
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ロ. システムリスク管理態勢の整備に当たっては、その内容について客観的な水準が判定できるものを根拠としているか。
また、システムリスク管理態勢は、システム障害等の把握・分析、リスク管理の実施結果や技術進展等に応じて、不断に見直しを実施しているか。
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システムリスク評価
システムリスク管理部門は、顧客チャネルの多様化による大量取引の発生や、ネットワークの拡充によるシステム障害等の影響の複雑化・広範化など、外部環境の変化によりリスクが多様化していることを踏まえ、定期的に又は適時にリスクを認識・評価しているか。
また、洗い出したリスクに対し、十分な対応策を講じているか。
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情報セキュリティ管理
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イ. 情報資産を適切に管理するために方針の策定、組織体制の整備、社内規程の策定、内部管理態勢の整備を図っているか。また、他社における不正・不祥事件も参考に、情報セキュリティ管理態勢のPDCAサイクルによる継続的な改善を図っているか。
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ロ. 情報の機密性、完全性、可用性を維持するために、情報セキュリティに係る管理者を定め、その役割・責任を明確にした上で、管理しているか。また、管理者は、システム、データ、ネットワーク管理上のセキュリティに関することについて統括しているか。
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ハ. コンピュータシステムの不正使用防止対策、不正アクセス防止対策、コンピュータウィルス等の不正プログラムの侵入防止対策等を実施しているか。
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ニ. 金融商品取引業者が責任を負うべき顧客の重要情報を網羅的に洗い出し、把握、管理しているか。
顧客の重要情報の洗い出しにあたっては、業務、システム、外部委託先を対象範囲とし、例えば、以下のようなデータを洗い出しの対象範囲としているか。
- ・通常の業務では使用しないシステム領域に格納されたデータ
- ・障害解析のためにシステムから出力された障害解析用データ
- ・ATM(店舗外含む)等に保存されている取引ログ 等
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ホ. 洗い出した顧客の重要情報について、重要度判定やリスク評価を実施しているか。
また、それぞれの重要度やリスクに応じ、以下のような情報管理ルールを策定しているか。
- ・情報の暗号化、マスキングのルール
- ・情報を利用する際の利用ルール
- ・記録媒体等の取扱いルール 等
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ヘ. 顧客の重要情報について、以下のような不正アクセス、不正情報取得、情報漏えい等を牽制、防止する仕組みを導入しているか。
- ・職員の権限に応じて必要な範囲に限定されたアクセス権限の付与
- ・アクセス記録の保存、検証
- ・開発担当者と運用担当者の分離、管理者と担当者の分離等の相互牽制体制 等
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ト. 機密情報について、暗号化やマスキング等の管理ルールを定めているか。また、暗号化プログラム、暗号鍵、暗号化プログラムの設計書等の管理に関するルールを定めているか。
なお、「機密情報」とは、暗証番号、パスワード、クレジットカード情報等、顧客に損失が発生する可能性のある情報をいう。
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チ. 機密情報の保有・廃棄、アクセス制限、外部持ち出し等について、業務上の必要性を十分に検討し、より厳格な取扱いをしているか。
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リ. 情報資産について、管理ルール等に基づいて適切に管理されていることを定期的にモニタリングし、管理態勢を継続的に見直しているか。
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ヌ. セキュリティ意識の向上を図るため、全役職員に対するセキュリティ教育(外部委託先におけるセキュリティ教育を含む)を行っているか。
(参考)セキュリティの確保に当たっては、「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」(公益財団法人金融情報システムセンター編)などがある。
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サイバーセキュリティ管理
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イ. 取締役会等は、サイバーセキュリティの重要性を認識し、「金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドライン」を踏まえ、必要な態勢を整備しているか。
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ロ. インターネット等の通信手段を利用した非対面の取引を行う場合には、例えば、以下のような取引のリスクに見合った適切な認証方式を導入しているか。
- ・可変式パスワードや電子証明書などの、固定式のID・パスワードのみに頼らない認証方式
- ・取引に利用しているパソコンのブラウザとは別の携帯電話等の機器を用いるなど、複数経路による取引認証
- ・ハードウェアトークン等でトランザクション署名を行うトランザクション認証 等
(注)不正アクセスによる顧客口座からの不正出金を防止するための措置を講じている場合(例えば、振込先金融機関口座(出金先口座)の指定・変更手続きにおいて、顧客口座と名義が異なる出金先口座への指定・変更を認めないこととし、更に転送不要郵便により顧客の住所地に口座指定・変更手続きのための書面を送付するなどにより、顧客口座と名義が異なる出金先口座への振込みを防止する措置を講じている場合)は、取引のリスクに見合った対応がなされているものと考えられる。
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ハ. インターネット等の通信手段を利用した非対面の取引を行う場合には、例えば、以下のような業務に応じた不正防止策を講じているか。
- ・取引時においてウィルス等の検知・駆除が行えるセキュリティ対策ソフトの利用者への提供
- ・利用者のパソコンのウィルス感染状況を金融商品取引業者側で検知し、警告を発するソフトの導入
- ・電子証明書をICカード等、取引に利用しているパソコンとは別の媒体・機器へ格納する方式の採用
- ・不正なログイン・異常な取引等を検知し、速やかに利用者に連絡する体制の整備 等
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(参考)
- ・インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン(令和3年7月20日:日本証券業協会)
- ・インターネット取引における不正アクセス等防止に向けたガイドライン(令和3年8月18日:金融先物取引業協会)
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システム企画・開発・運用管理
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イ. 経営戦略の一環としてシステム戦略方針を明確にした上で、中長期の開発計画を策定しているか。また、中長期の開発計画は、取締役会の承認を受けているか。
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ロ. 現行システムに内在するリスクを継続的に洗い出し、その維持・改善のための投資を計画的に行っているか。
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ハ. 開発案件の企画・開発・移行の承認ルールが明確になっているか。
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ニ. 開発プロジェクトごとに責任者を定め、開発計画に基づき進捗管理されているか。
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ホ. システム開発に当たっては、テスト計画を作成し、ユーザー部門も参加するなど、適切かつ十分にテストを行っているか。
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ヘ. 人材育成については、現行システムの仕組み及び開発技術の継承並びに専門性を持った人材の育成のための具体的な計画を策定し、実施しているか。
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システム監査
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イ. システム部門から独立した内部監査部門において、定期的なシステム監査が行われているか。
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ロ. システム関係に精通した要員による内部監査や、システム監査人等による外部監査の活用を行っているか。
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ハ. 監査の対象はシステムリスクに関する業務全体をカバーしているか。
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ニ. システム監査の結果は、適切に取締役会等に報告されているか。
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外部委託管理
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イ. 外部委託先(システム子会社を含む。)の選定に当たり、選定基準に基づき評価、検討の上、選定しているか。
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ロ. 外部委託契約において、外部委託先との役割分担・責任、監査権限、再委託手続、提供されるサービス水準等を定めているか。また、外部委託先の役職員が遵守すべきルールやセキュリティ要件を外部委託先へ提示し、契約書等に明記しているか。
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ハ. システムに係る外部委託業務(二段階以上の委託を含む)について、リスク管理が適切に行われているか。特に外部委託先が複数の場合、管理業務が複雑化することから、より高度なリスク管理が求められることを十分認識した体制となっているか。
システム関連事務を外部委託する場合についても、システムに係る外部委託に準じて、適切なリスク管理を行っているか。
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ニ. 外部委託した業務(二段階以上の委託を含む)について、委託元として委託業務が適切に行われていることを定期的にモニタリングしているか。
また、外部委託先における顧客データの運用状況を、委託元が監視、追跡できる態勢となっているか。
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コンティンジェンシープラン
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イ. コンティンジェンシープランが策定され、緊急時体制が構築されているか。
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ロ. コンティンジェンシープランの策定に当たっては、その内容について客観的な水準が判断できるもの(例えば「金融機関等におけるコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)策定のための手引書」(公益財団法人金融情報システムセンター編))を根拠としているか。
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ハ. コンティンジェンシープランの策定に当たっては、災害による緊急事態を想定するだけではなく、金融商品取引業者の内部又は外部に起因するシステム障害等も想定しているか。
また、バッチ処理が大幅に遅延した場合など、十分なリスクシナリオを想定しているか。
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ニ. コンティンジェンシープランは、他の金融機関におけるシステム障害等の事例や中央防災会議等の検討結果を踏まえるなど、想定シナリオの見直しを適宜行っているか。
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ホ. コンティンジェンシープランに基づく訓練は、全社レベルで行い、外部委託先等と合同で、定期的に実施しているか。
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ヘ. 業務への影響が大きい重要なシステムについては、オフサイトバックアップシステム等を事前に準備し、災害、システム障害等が発生した場合に、速やかに業務を継続できる態勢を整備しているか。
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システム統合リスク・プロジェクトマネジメント
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イ. 金融商品取引業者の役職員は、システム統合リスクについて十分認識し、そのリスク管理態勢を整備しているか。
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ロ. テスト体制を整備しているか。また、テスト計画はシステム統合に伴う開発内容に適合したものとなっているか。
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ハ. 業務を外部委託する場合であっても、金融商品取引業者自らが主体的に関与する態勢を構築しているか。
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ニ. システム統合に係る重要事項の判断に際して、システム監査人による監査等の第三者機関による評価を活用しているか。
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ホ. 不測の事態に対応するため、コンティンジェンシープラン等を整備しているか。
(参考)システム統合リスク・プロジェクトマネジメントに関する検証に当たっての着眼点については、金融機関のITガバナンスに関する対話のための論点・プラクティスの整理(令和元年6月)別添「システム統合リスク管理態勢に関する考え方・着眼点(詳細編)」も参考となる。
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障害発生時の対応
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イ. システム障害等が発生した場合に、顧客に無用の混乱を生じさせないための適切な措置を講じるとともに、速やかに復旧や代替手段の稼働に向けた作業を実施することとなっているか。
また、システム障害等の発生に備え、最悪のシナリオを想定した上で、必要な対応を行う態勢となっているか。
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ロ. システム障害等の発生に備え、外部委託先を含めた報告態勢、指揮・命令系統が明確になっているか。
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ハ. 経営に重大な影響を及ぼすシステム障害等が発生した場合に、速やかに代表取締役をはじめとする取締役に報告するとともに、報告に当たっては、最悪のシナリオの下で生じうる最大リスク等を報告する態勢(例えば、顧客に重大な影響を及ぼす可能性がある場合、報告者の判断で過小報告することなく、最大の可能性を速やかに報告すること)となっているか。
また、必要に応じて、対策本部を立ち上げ、代表取締役等自らが適切な指示・命令を行い、速やかに問題の解決を図る態勢となっているか。
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ニ.システム障害等が発生した場合、障害の内容・発生原因、復旧見込等について必要に応じて公表するとともに、顧客からの問合せに的確に対応するため、コールセンターの開設等を迅速に行っているか。
また、システム障害等の発生に備え、関係業務部門への情報提供方法、内容が明確になっているか。
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ホ. システム障害等の発生原因の究明、復旧までの影響調査、改善措置、再発防止策等を的確に講じているか。
また、システム障害等の原因等の定期的な傾向分析を行い、それに応じた対応策をとっているか。
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ヘ. システム障害等の影響を極小化するために、例えば障害箇所を迂回するなどのシステム的な仕組みを整備しているか。
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ト. システム障害等が発生した場合、速やかに当局に報告する体制が整備されているか。
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(参考)システムリスクについての参考資料として、例えば「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」(公益財団法人金融情報システムセンター編)などがある。
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(2)監督手法・対応
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問題認識時
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された金融商品取引業者のシステムリスク管理態勢上の課題については、金融商品取引業者又はその業務委託先に対し深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。
また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条又は第52条第1項の規定に基づき業務改善命令等を発出する等の対応を行うものとする。
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システム統合時
金融商品取引業者が、合併等の経営再編に伴いシステム統合等を公表したとき、又はシステム統合等を公表した場合には、必要に応じて、システム統合に向けたスケジュール等及びその進捗状況について、システム統合等を円滑に実施するための具体的な計画、システム統合リスクに係る内部管理態勢(内部監査を含む。)、その他の事項について資料の提出を求めるとともに、合併等の公表後から当該システム統合完了までの間、金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を定期的に求めるものとする。
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(3)障害発生時
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コンピュータシステムの障害やサイバーセキュリティ事案の発生を認識次第、直ちに、その事実の当局あて報告を求めるとともに、「障害発生等報告書」(別紙様式 III-1)にて当局あて報告を求めるものとする。
また、復旧時、原因解明時には改めてその旨報告を求めることとする(ただし、復旧原因の解明がされていない場合でも1ヵ月以内に現状について報告を行うこと。)。
なお、財務局は金融商品取引業者から報告があった場合は直ちに金融庁担当課室に連絡すること。
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(注)報告すべきシステム障害等
その原因の如何を問わず、金融商品取引業者又は金融商品取引業者から業務の委託を受けた者等が現に使用しているシステム・機器(ハードウェア、ソフトウェア共)に発生した障害であって、金融商品取引、決済、入出金、資金繰り、財務状況把握、その他顧客利便等に影響があるもの又はそのおそれがあるもの。
ただし、一部のシステム・機器にこれらの影響が生じても他のシステム・機器が速やかに代替することで実質的にはこれらの影響が生じない場合(例えば、立会時間外に受注システムが停止した場合において、速やかに当該システムに相当する代替システムを起動させることによって受注が可能となり、立会時間に間に合った場合。)を除く。
なお、障害が発生していない場合であっても、サイバー攻撃の予告がなされ、又はサイバー攻撃が検知される等により、顧客や業務に影響を及ぼす、又は及ぼす可能性が高いと認められる時は、報告を要するものとする。
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必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づき追加の報告を求め、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
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III-2-9 危機管理態勢
近年、金融商品取引業者が抱えるリスクは多様化・複雑化しており、情報化の進展など金融商品取引業者を取り巻く経営環境の変化も相俟って、通常のリスク管理だけでは対処できないような危機が発生する可能性は否定できず、危機管理の重要性が高まっている。こうした多様なリスクが顕在化した場合であっても、金融商品取引業者は業務の公共性に鑑み、その機能を極力維持することで、市場ひいては社会における無用の混乱を抑止するよう努めることが望ましいと考えられる。以上を踏まえ、金融商品取引業者の監督に当たっては、その業容に応じ、例えば以下の点に留意して検証することとする。
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(1)主な着眼点
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平時における対応
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イ. 何が危機であるかを認識し、可能な限りその回避・予防に努める(不可避なものは予防策を講じる。)よう、平時より、定期的な点検・訓練を行うなど未然防止に向けた取組みに努めているか。
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ロ. 危機管理マニュアルを策定しているか。また、危機管理マニュアルは自社の業務の実態や自社を取り巻くリスク環境等に応じ、常時見直しを行うなど実効性が維持される態勢となっているか。なお、危機管理マニュアルの策定に当たっては、客観的な水準が判定されるものを根拠として設計されることが望ましい。
(参考)想定される危機の事例- ・自然災害(地震、風水害、異常気象、伝染病等)
- ・テロ・戦争(国外において遭遇する場合を含む。)
- ・事故(大規模停電、コンピュータ事故等)
- ・風評(口コミ、インターネット、電子メール、憶測記事等)
- ・対企業犯罪(脅迫、反社会的勢力の介入、データ盗難、役職員の誘拐等)
- ・業務上のトラブル(苦情・相談対応、データ入力ミス等)
- ・人事上のトラブル(役職員の事故・犯罪、内紛、セクシャルハラスメント等)
- ・労務上のトラブル(内部告発、過労死、職業病、人材流出等)
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ハ. 危機管理マニュアルには、危機発生の初期段階における的確な状況把握による客観的な状況判断を行うことの重要性や情報発信の重要性など、初期対応の重要性が盛り込まれているか。
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ニ. 危機管理マニュアルには、危機発生時における責任体制が明確化され、危機発生時の組織内及び関係者(関係当局を含む。)への報告・連絡体制等が整備されているか。また、海外への影響可能性及び危機のレベル・類型に応じた海外監督当局その他関係機関への連絡体制が整備されているか。危機発生時の体制整備は、危機のレベル・類型に応じて組織全体を統括する対策本部の下、部門別・営業店別に想定していることが望ましい。
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ホ. 日頃からきめ細かな情報発信及び情報収集に努めているか。
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危機発生時における対応
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イ. 危機的状況の発生又はその可能性が認められる場合には、事態が沈静化するまでの間、当該金融商品取引業者における危機対応の状況(危機管理態勢の整備状況、関係者への連絡状況、情報発信の状況)が危機のレベル・類型に応じて十分なものとなっているかについて、定期的にヒアリング又は現地の状況等を確認するなど実態把握に努めるとともに、必要に応じ金商法第56条の2第1項の規定に基づき報告徴求を行うこととする。
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ロ. 上記の場合には、速やかに金融庁担当課室に報告するなど、関係部局間における連携を密接に行うものとする。
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事態の沈静化後における対応
金融商品取引業者における危機的状況が沈静化した後、危機発生時の対応状況を検証する必要があると認められる場合には、当該金融商品取引業者に対して、事案の概要と金融商品取引業者の対応状況、発生原因分析及び再発防止に向けた取組みについて、金商法第56条の2第1項の規定に基づき報告徴求を行うこととする。
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風評に対する危機管理態勢
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イ. 風評リスクへの対応に係る態勢が整備されているか。また、風評発生時における本部各部及び営業店の対応方法に関する規定を設けているか。なお、他社や取引先に関する風評が発生した場合の対応方法についても検討しておくことが望ましい。
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ロ. 風評が伝達される媒体(例えば、インターネット、憶測記事等)に応じて、定期的に風評のチェックを行っているか。
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(2)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された金融商品取引業者の危機管理態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-10 金融商品仲介業者の法令違反の防止措置
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(1)金融商品仲介業者の法令違反の防止に係る留意事項
金融商品取引業者が金融商品仲介業者に業務の委託を行う際には、顧客属性等に則した適正な投資勧誘の履行を確保する観点から、当該金融商品仲介業者に対し、顧客の属性等及び取引実態を的確に把握し得る顧客管理態勢の確立につき指導するとともに、当該金融商品仲介業者の投資勧誘実態を把握したうえで法令遵守の徹底を求めることが重要であるが、その法令違反の防止態勢については、以下の点に特に留意して検証することとする。
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顧客属性等の的確な把握及び顧客情報の管理の徹底
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イ. 顧客の投資意向、投資経験等の顧客属性等について、顧客の同意を得たうえで顧客情報の共有及び適時の把握に必要な指導を行うとともに、投資勧誘に当たって、当該顧客属性等に則した適正な勧誘に努めるよう金融商品仲介業者に対して求める具体的取扱方法を定め、当該方法を金融商品仲介業者に周知し、徹底しているか。
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ロ. 顧客属性等の顧客情報の管理について、守秘義務等の観点から十分に検討を行った上で、金融商品仲介業者に対して求める具体的な取扱基準を定め、当該基準を金融商品仲介業者に周知し、徹底させているか。
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ハ. 管理担当部門においては、金融商品仲介業者による顧客属性等の把握状況及び顧客情報の管理の状況を把握するように努め、必要に応じて、顧客属性等に照らして適切な勧誘が行われているか等についての検証を行うとともに、顧客情報の管理方法の見直しを求める等、その実効性を確保する態勢構築に努めているか。
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金融商品仲介業者の投資勧誘実態の把握及びその適正化
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イ. 金融商品仲介業者による投資勧誘実態の把握について、例えば、管理担当部門の責任者等は、必要に応じて顧客と直接面談等を行うことにより、その実態の把握に努め、適切な措置を講じているか。
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ロ. 管理担当部門においては、金融商品仲介業者による投資勧誘実態の把握に係る具体的な方法を定め、当該方法を金融商品仲介業者に周知し、徹底させるとともに、必要に応じて、その実施状況を把握・検証し、当該方法の見直し等、その実効性を確保する態勢を構築させるよう努めているか。
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ハ. 管理担当部門においては、金融商品仲介業者による説明が適切に行われているか否かにつき状況を把握し、必要に応じて是正を求める等の措置を講じているか。
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金融商品仲介業者の法令遵守意識の徹底
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イ. 金融商品仲介業者の法令遵守意識の徹底について、研修の目的及び対象者等を考慮した事例研修及び外部研修等を実施し、金融商品仲介業者の法令遵守意識の向上に努めているか。
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ロ. 管理担当部門においては、金融商品仲介業者に対する各種研修の内容及び実施状況を把握・検証し、内容等を見直しする等、その実効性を高めるよう努めているか。
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(2)監督手法・対応
日常の監督事務や、事故届出等を通じて把握された金融商品取引業者による金融商品仲介業者の法令違反の防止措置に関する課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な業務改善状況を把握することとする。また、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく業務停止命令等の発出も含め、必要な対応を検討するものとする。
III-2-11 反社会的勢力による被害の防止
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(1)意義
反社会的勢力を社会から排除していくことは、社会の秩序や安全を確保する上で極めて重要な課題であり、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みを推進していくことは、企業にとって社会的責任を果たす観点から必要かつ重要なことである。特に、公共性を有し、経済的に重要な機能を営む金融商品取引業者においては、金融商品取引業者自身や役職員のみならず、顧客等の様々なステークホルダーが被害を受けることを防止するため、反社会的勢力を金融商品取引から排除していくことが求められる。
もとより金融商品取引業者として公共の信頼を維持し、業務の適切性及び健全性を確保するためには、反社会的勢力に対して屈することなく法令等に則して対応することが不可欠であり、金融商品取引業者においては、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)の趣旨を踏まえ、平素より、反社会的勢力との関係遮断に向けた態勢整備に取り組む必要がある。
特に、近時反社会的勢力の資金獲得活動が巧妙化しており、関係企業を使い通常の経済取引を装って巧みに取引関係を構築し、後々トラブルとなる事例も見られる。また、新興市場における新規株式公開や上場市場におけるエクイティ・ファイナンス等により、暴力団等の反社会的勢力が金融商品市場に介入し、資金獲得を図っている状況も窺われる。こうしたケースに適切に対処するには経営陣の断固たる対応、具体的な対応が必要である。
なお、役職員の安全が脅かされる等不測の事態が危惧されることを口実に問題解決に向けた具体的な取組みを遅らせることは、かえって金融商品取引業者や役職員自身等への最終的な被害を大きくし得ることに留意する必要がある。
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(参考)「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について」
(平成19年6月19日犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)
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反社会的勢力による被害を防止するための基本原則
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○組織としての対応
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○外部専門機関との連携
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○取引を含めた一切の関係遮断
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○有事における民事と刑事の法的対応
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○裏取引や資金提供の禁止
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反社会的勢力のとらえ方
暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人である「反社会的勢力」をとらえるに際しては、暴力団、暴力団関係企業、総会屋、社会運動標榜ゴロ、政治活動標榜ゴロ、特殊知能暴力集団等といった属性要件に着目するとともに、暴力的な要求行為、法的な責任を超えた不当な要求といった行為要件にも着目することが重要である(平成23年12月22日付警察庁次長通達「組織犯罪対策要綱」参照)。
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(2)主な着眼点
反社会的勢力とは一切の関係をもたず、反社会的勢力であることを知らずに関係を有してしまった場合には、相手方が反社会的勢力であると判明した時点で可能な限り速やかに関係を解消するための態勢整備及び反社会的勢力による不当要求に適切に対応するための態勢整備の検証については、個々の取引状況等を考慮しつつ、例えば以下のような点に留意することとする。
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組織としての対応
反社会的勢力との関係の遮断に組織的に対応する必要性・重要性を踏まえ、担当者や担当部署だけに任せることなく取締役等の経営陣が適切に関与し、組織として対応することとしているか。また、金融商品取引業者単体のみならず、グループ一体となって、反社会的勢力の排除に取り組むこととしているか。
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反社会的勢力対応部署による一元的な管理態勢の構築
反社会的勢力との関係を遮断するための対応を総括する部署(以下「反社会的勢力対応部署」という。)を整備し、反社会的勢力による被害を防止するための一元的な管理態勢が構築され、機能しているか。
特に、一元的な管理態勢の構築に当たっては、以下の点に十分留意しているか。
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イ.反社会的勢力対応部署において反社会的勢力に関する情報を積極的に収集・分析するとともに、当該情報を一元的に管理したデータベースを構築し、適切に更新(情報の追加、削除、変更等)する体制となっているか。また、当該情報の収集・分析等に際しては、グループ内で情報の共有に努め、自主規制機関等から提供された情報を適切に活用しているか。さらに、反社会的勢力に関する情報を取引先の審査や当該金融商品取引業者における株主の属性判断等を行う際に、活用する体制となっているか。
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ロ.反社会的勢力対応部署において対応マニュアルの整備や継続的な研修活動、警察・暴力追放運動推進センター・弁護士等の外部専門機関との平素からの緊密な連携体制の構築を行うなど、反社会的勢力との関係を遮断するための取組みの実効性を確保する体制となっているか。特に、平素より警察とのパイプを強化し、組織的な連絡体制と問題発生時の協力体制を構築することにより、脅迫・暴力行為の危険性が高く緊急を要する場合には直ちに警察に通報する体制となっているか。
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ハ.反社会的勢力との取引が判明した場合及び反社会的勢力による不当要求がなされた場合等において、当該情報を反社会的勢力対応部署へ迅速かつ適切に報告・相談する体制となっているか。また、反社会的勢力対応部署は、当該情報を迅速かつ適切に経営陣に対し報告する体制となっているか。さらに、反社会的勢力対応部署において実際に反社会的勢力に対応する担当者の安全を確保し担当部署を支援する体制となっているか。
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適切な事前審査の実施
反社会的勢力との取引を未然に防止するため、反社会的勢力に関する情報等を活用した適切な事前審査を実施するとともに、契約書や取引約款への暴力団排除条項の導入を徹底するなど、反社会的勢力が取引先となることを防止しているか。
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適切な事後検証の実施
反社会的勢力との関係遮断を徹底する観点から、既存の契約の適切な事後検証を行うための態勢が整備されているか。
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反社会的勢力との取引解消に向けた取組み
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イ.反社会的勢力との取引が判明した旨の情報が反社会的勢力対応部署を経由して迅速かつ適切に取締役等の経営陣に報告され、経営陣の適切な指示・関与のもと対応を行うこととしているか。
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ロ.平素から警察・暴力追放運動推進センター・弁護士等の外部専門機関と緊密に連携しつつ、反社会的勢力との取引の解消を推進しているか。
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ハ.事後検証の実施等により、取引開始後に取引の相手方が反社会的勢力であると判明した場合には、関係の遮断を図るなど、反社会的勢力への利益供与にならないよう配意しているか。
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ニ.いかなる理由であれ、反社会的勢力であることが判明した場合には、資金提供や不適切・異例な取引を行わない態勢を整備しているか。
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反社会的勢力による不当要求への対処
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イ.反社会的勢力により不当要求がなされた旨の情報が反社会的勢力対応部署を経由して迅速かつ適切に取締役等の経営陣に報告され、経営陣の適切な指示・関与のもと対応を行うこととしているか。
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ロ.反社会的勢力からの不当要求があった場合には積極的に警察・暴力追放運動推進センター・弁護士等の外部専門機関に相談するとともに、暴力追放運動推進センター等が示している不当要求対応要領等を踏まえた対応を行うこととしているか。特に、脅迫・暴力行為の危険性が高く緊急を要する場合には直ちに警察に通報を行うこととしているか。
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ハ.反社会的勢力からの不当要求に対しては、あらゆる民事上の法的対抗手段を講ずるとともに、積極的に被害届を提出するなど、刑事事件化も躊躇しない対応を行うこととしているか。
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ニ.反社会的勢力からの不当要求が、事業活動上の不祥事や役職員の不祥事を理由とする場合には、反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査することとしているか。
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株主情報の管理
定期的に自社株の取引状況や株主の属性情報等を確認するなど、株主情報の管理を適切に行っているか。
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(3)監督手法・対応
検査結果や日常の監督事務等を通じて把握された金融商品取引業者の反社会的勢力との関係を遮断するための態勢上の課題については、深度あるヒアリングを行うことや、必要に応じて金商法第56条の2第1項に基づく報告を求めることを通じて、金融商品取引業者における自主的な改善状況を把握することとする。その際、反社会的勢力への資金提供や反社会的勢力との不適切な取引関係を認識しているにも関わらず関係解消に向けた適切な対応が図られないなど内部管理態勢が極めて脆弱であり、公益又は投資者保護の観点から重大な問題があると認められる場合には、金商法第51条の規定に基づく業務改善命令を発出する等の対応を行うものとする。更に、重大・悪質な法令等違反行為が認められる等の場合には、金商法第52条第1項の規定に基づく厳正な処分について、必要な対応を検討するものとする。
III-2-12 企業の社会的責任(CSR)についての情報開示等
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(1)意義
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CSRは、一般的に、企業が多様な利害関係者(以下「ステークホルダー」という。)との関係の中で認識する経済・環境・社会面の責任と、それに基づく取組みと解されており、それを通じて企業の持続可能性を高めることにその意義があると考えられている。
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金融商品取引業者のCSRについては、その取組みはもとより、情報開示についても、本来、私企業である金融商品取引業者が自己責任原則に則った経営判断に基づき行うものであり、その評価も市場規律の下、利用者を含む多様なステークホルダーに委ねられているものである。
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しかしながら、CSRについての情報開示が分かりやすい形で適時適切に行われることは、利用者が金融商品取引業者を選択する際、その金融商品取引業者及び提供されている金融商品・サービスの持続可能性等を判断する上での有用な情報を得やすくなることに繋がると考えられる。そのような観点から、金融商品取引業者がCSRについての情報開示を行う場合の着眼点を明らかにし、最低限の枠組みを示すことで、利用者にとって有益かつ適切な情報開示を促すこととする。
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(2)主な着眼点
金融商品取引業者のCSRについて、利用者を含む多様なステークホルダーが適切に評価でき、金融商品取引業者の利用者の利便性の向上に資するよう、以下のような点から適切な情報開示がなされているか。
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目的適合性
CSR報告が、経済・環境・社会の各分野にわたる包括的なものであり、記述内容についても網羅的かつ社会的背景等を反映しているなど、利用者を含む多様なステークホルダーのニーズに的確に対応するという目的に適合したものとなっているか。また、適切なタイミングで効果的な開示がなされているか。
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信頼性
CSR報告が、透明性が高いプロセスを通じて作成され、データや情報が正確かつ中立的で検証可能なものとなっているなど、多くのステークホルダーに受け入れられる信頼性の高いものとなっているか。
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分かりやすさ
CSR報告が、利用者を含む多様なステークホルダーに理解されるよう、可能な限り分かりやすいものとなっているか。また、内容の一貫性が維持されるなど、当該金融商品取引業者の過去の報告との比較可能性に十分留意したものとなっているか。
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(3)監督手法・対応
金融商品取引業者によるCSRを重視した取組みやその情報開示は、金融商品取引業者が自己責任原則に則った経営判断に基づき任意に行うものであり、上記着眼点を踏まえた報告がなされていない場合においても、監督上の措置を講ずることはない。
ただし、利用者の誤解を招きかねないような、不正確かつ不適切な情報開示を行っている場合については、業務の適切性の観点から検証することとする。
III-2-13 障害者への対応
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(1)障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)により、事業者には、障害者に対する不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の義務が課せられているところである。
また、金融商品取引業者については、「金融庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(平成28年告示第3号。以下「障害者差別解消対応指針」という。)において、これらの具体的な取扱いが示されている。
障害者への対応に当たって、顧客保護及び利用者利便の観点も含め、障害者差別解消法及び障害者差別解消対応指針に則り適切な対応を行う、対応状況を把握・検証し対応方法の見直しを行うなど、内部管理態勢が整備されているかといった点に留意して検証することとする。
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(2)監督手法・対応
日常の監督事務や、障害者からの苦情等を通じて把握された金融商品取引業者における障害者への対応に係る課題については、深度あるヒアリングを行うことにより内部管理態勢の整備状況を確認することとする。また、金融商品取引業者の内部管理態勢の整備状況に疑義が生じた場合には、必要に応じ、報告(金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を含む。)を求めて検証することとする。当該整備状況に問題が認められる場合には改善を促すこととする。
III-2-14 暗号等資産に関する留意事項
暗号等資産(金商法第2条第24項第3の2号に規定する暗号等資産をいう。以下同じ。)の設計・仕様は様々であるところ、移転記録が公開されず、取引の追跡困難な暗号等資産が存在する等、テロ資金供与やマネー・ローンダリングに利用されるリスクが高いものも存在する。また、一般的に、暗号等資産は、その価値の裏付けとなる資産等がないため本源的な価値を観念し難く、価格の変動が大きいことを踏まえると、顧客の適合性について慎重に確認する必要がある。加えて、暗号等資産の管理については、システムの誤作動やサイバー攻撃などのシステムリスクも存在する。
これらの点を踏まえ、金融商品取引業者等における有価証券の売買その他の取引等に関する暗号等資産の取扱いについては、例えば、以下の点に留意して監督を行うものとする。
なお、金融商品取引業者等が金融商品取引に関し顧客から預託を受けた暗号資産(資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)第2条第14項に規定する暗号資産をいう。以下同じ。)を管理する場合には、資金決済法第63条の2の登録が必要であることに留意する。
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(1)暗号等資産の特性等を踏まえたリスクの特定・評価・低減
暗号等資産の特性及び自己の業務体制に照らして、投資者の保護又は金融商品取引業の適正かつ確実な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる暗号等資産等(金商法第185条の23第1項に規定する暗号等資産等をいう。以下同じ。)を取引の対象としないため、例えば下記のような措置を講じているか。
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新たな暗号等資産等を取引の対象とするに当たっては、当該暗号等資産等を取引の対象とすることにより生じ得るリスク(以下「取引リスク」という。)を特定・評価し、顧客保護及び業務の適正かつ確実な遂行の観点から、当該暗号等資産等を取引の対象とすることの可否を的確に審査する態勢を整備しているか。
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既に取引の対象となっている暗号等資産等に関し、定期的に取引リスクの内容を見直した上で、必要に応じ、当該暗号等資産等の取引対象の可否を改めて審査することとしているか。
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暗号等資産等を新たに取引の対象とする場合には、当該暗号等資産等の取引対象の可否に係る審査結果を踏まえ、取締役会の承認を得るなど組織的に決定をしているか。
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暗号等資産等の取引対象の適否を審査する部門は、営業部門から独立させた上で、専門的知見を有する人材を配置するなど、取引リスクを適切に検証できる体制を整備しているか。
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(2)マネー・ローンダリング及びテロ資金供与への対応
取り扱う暗号等資産の範囲については、当該暗号等資産がマネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用されるおそれ等を踏まえ、慎重に判断することとしているか。例えば、移転記録の追跡が著しく困難である暗号等資産については、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に利用されるおそれが特に高いことから、有価証券の売買その他の取引等の対価として受領したり、当該暗号等資産による配当等が行われる有価証券を取り扱ったりすることがないよう留意する。
また、暗号等資産を対価とする有価証券の売買その他の取引等を行う場合、III-2-6及びマネロン・テロ資金供与対策ガイドラインに基づき、暗号等資産を取り扱うことに伴うマネー・ローンダリング及びテロ資金供与リスクを実効的に低減する態勢が構築されるとともに、当該取引が疑わしい取引に該当するおそれがないか、適切に確認が行われているか。特に、取引の相手方の属性や暗号等資産の管理方法等に関し、取引の相手方が暗号等資産の真の保有者であることについて疑わしい点がないかを適切に検討の上、届出の必要性の判断が行われているか。
さらに、暗号等資産の発行者、管理者その他の関係者が制裁対象者及び反社会的勢力等に該当しないかの確認が適切に行われる態勢にあるか。 -
(3)勧誘・説明態勢
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暗号等資産関連業務に関する留意点
金融商品取引業者が、金商法第43条の6及び金商業等府令第146条の3に規定する暗号等資産関連業務を行うときは、金商業等府令第146条の4に規定する事項について、書面を交付する等して適切に説明を行っているか留意するものとする。
このうち、金商業等府令第146条の4第2項第4号に規定する「暗号等資産の概要及び特性」及び同項第5号に規定する「暗号等資産の性質に関し顧客の注意を喚起すべき事項」としては、例えば、以下の事項が考えられる。-
イ.暗号等資産の主な用途
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ロ.暗号等資産の保有又は移転の仕組みに関する事項
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ハ.暗号等資産の総発行量及び発行可能な数量に上限がある場合はその上限
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ニ.暗号等資産の流通状況
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ホ.暗号等資産に内在するリスク
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また、金商法第43条の6第2項に定める「暗号等資産の性質…についてその顧客を誤認させるような表示」として、例えば、以下の事項が考えられる。
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イ.暗号等資産の価格変動を理由に損失が発生するおそれがあるにも関わらず、これを誤認させるような表示
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ロ.暗号等資産の仕組み上、一定の期間、移転が制限されるにもかかわらず、これを誤認させるような表示
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ハ.暗号等資産の発行者の財務状況や発行者の行う事業の進捗状況等に関して、顧客を誤認させるような表示
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有価証券の売買その他の取引等に関して、顧客が暗号等資産を配当や対価として受け取ること等が予定される場合には、暗号等資産に関する顧客の知識や取引経験を確認する等して適合性を確認するとともに、暗号等資産の仕組みや性質、価格変動リスク等に関して上記①も踏まえ適切に説明を行っているか留意するものとする。
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(4)財務の健全性の確保
第一種金融商品取引業者が暗号等資産の保有等をする場合は、上記(1)から(3)までに記載の点に加えて、その価格変動リスク等が財務の健全性に与える影響についても検証する必要があることから、当該暗号等資産の特性のほか、当該暗号等資産の保有等に係る業務の内容・特性・規模等に照らして、IV―2に基づいて、当該暗号等資産の保有等に伴う各種リスクを適時かつ的確に把握し、当該リスクを適切に管理するなど財務の健全性の確保のための必要な態勢を構築しているか。
III-2-15 長期に亘り業務を休止した場合等の監督上の対応について
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(1) 金融商品取引業者が金融商品取引業を行うことができることとなった日から三月以内に業務(金融商品取引業者が二以上の種別の業務を行う場合は、その行ういずれか一の業務であっても対象となる。Ⅲ-2-15において同じ。)を開始しないとき、又は引き続き三月以上その業務を休止したときに該当するおそれがあると認められる場合は、当該金融商品取引業者の事業の実態を踏まえつつ、当該金融商品取引業者に対して、その正当性について、深度あるヒアリングや、必要に応じて金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めることを通じて、速やかに理由を把握することとする。
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(2) 上記の検証の結果、例えば、以下のような状況が認められた場合は、「正当な理由がない」ものと考えられる(ただし、これらは例示に過ぎず、当該例示に限られるものではない。)。
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業務の開始又は再開するための事業計画等が合理的な根拠に基づいて作成されておらず、その見通しが立たないと認められる場合
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引き続き三月以上業務を休止することにより、投資者に不測の損害が及ぶおそれがあると認められる場合
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(3) 金融商品取引業者が正当な理由もなく業務を開始せず又は休止したと認められた場合には、金商法第50条第1項第1号の規定に基づく業務の休止に係る届出又は第50条の2第1項第2号の規定に基づく業務の廃止に係る届出(金融商品取引業者が二以上の種別の業務を行う場合におけるその行ういずれか一の業務の廃止については、第31条第4項の規定に基づく変更登録)の慫慂や、第51条の規定に基づく業務改善命令の発出を含め、必要な対応を行うものとする。更に、業務の開始又は再開が見込まれないことが明らかな場合等業務を開始せず又は休止することに正当な理由がなく、その改善も期待できない場合には金商法第52条の規定に基づく業務停止命令等の発出又は第54条の規定に基づく登録取消しの発出等の対応も検討するものとする。
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III-3 諸手続(共通編)
III-3-1 登録
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(1)商号
申請に係る商号が改正法附則第25条第2項に抵触しないか確認するものとする。
また、投資者等の誤認を防ぐ観点から、過去に存在した証券会社、金融先物取引業者、投資信託委託業者、投資顧問業者等の名称は、事業譲渡等により業務に継続性が認められる業者が使用する場合などを除き、極力使用されないことを確保することとする。
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(2)営業所又は事務所
登録申請書に記載する営業所又は事務所とは、金融商品取引業の全部又は一部を行うために開設する一定の施設又は設備をいい、駐在員事務所、連絡事務所その他金融商品取引業以外の用に供する施設は除くものとする。
なお、無人の営業所又は事務所については、各財務局管内に所在する店舗数及びこれらを統括する営業所又は事務所の名称等を記入させることとする。
また、無人の営業所又は事務所についても、金商法第36条の2第1項の規定による標識の掲示を行う必要があることに留意するものとする。
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(3)本店等の名称及び所在地
登録申請書に記載する「本店等の名称及び所在地」(金商業等府令第7条第12号、第44条第13号及び第258条第4号)は、「本店その他の営業所又は事務所(外国法人にあっては、本店及び国内における主たる営業所又は事務所その他の営業所又は事務所)の名称及び所在地」(金商業等府令別紙様式第1号別添6、別紙様式第9号別添4及び別紙様式第24号別添2)の記載に当たって、本店等を最初に(外国法人にあっては、本店を最初に、国内における主たる営業所又は事務所をその次に)記載することによることとしているか確認するものとする。
なお、登記事項証明書上の本店が主たる営業所又は事務所としての機能を有さないなど、当該本店と主たる営業所又は事務所とが異なる場合には、当該主たる営業所又は事務所を最初に記載する必要があることに留意する。
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(4)登録申請書の添付書類
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住民票の抄本には、次の項目が記載されているものを提出させるものとする。
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イ. 住所
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ロ. 氏名
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ハ. 生年月日
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国内に在留する外国人が提出した在留カードの写し又は特別永住者証明書の写し及び国内に在留しない外国人が提出した本国の住民票の写し又はこれに準ずる書面(英文等の場合には訳文を添付)は、金商業等府令第9条第2号ロ、第3号ロ及び第9号イ(1)に規定する「これに代わる書面」に該当する。
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(5)登録までの間の留意事項等
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登録申請者に対しては、金融商品取引業者登録簿に登録されるまでは一切の業務を行わないように注意喚起するものとする。
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登録申請者が金融庁所管の法令にかかわる他の事業を行っており、当該事業に係る行政処分が行われている場合には、その内容について確認するとともに、必要に応じ、ヒアリング等によりその改善措置の状況を確認するものとする。
なお、当該行政処分が法令遵守態勢に係る場合には、III-2-1に留意するものとする。
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(6)登録番号の取扱い
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登録番号は、財務局長ごとに一連番号を付す(ただし、4、9、13、42、83、103、893は欠番とする。)ものとし、金融商品取引業者登録簿に記載する登録番号は次のとおりとする。
例)○○財務局長(金商)第○○号
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登録がその効力を失った場合の登録番号は欠番とし、補充は行わないものとする。
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登録番号を別紙様式 III-2による金融商品取引業者登録番号台帳により管理するものとする。
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(7)登録申請者への通知
金融商品取引業者登録簿に登録した場合は、別紙様式 III-3による登録済通知書を登録申請者に交付するものとする。
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(8)登録の拒否(II-5-6参照)
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登録を拒否する場合は、拒否の理由並びに金融庁長官に対する審査請求及び国を相手方とする処分の取消しの訴えを提起できる旨等を記載した別紙様式 III-4による登録拒否通知書を登録申請者に交付するものとする。
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登録拒否通知書には、拒否の理由及び拒否の理由に該当する金商法第29条の4第1項各号のうちの該当する号又は登録申請書及び添付書類のうち重要な事項についての虚偽の記載のある箇所若しくは重要な事実の記載の欠けている箇所を具体的に明らかにするものとする。
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(9)金融商品取引業者登録簿
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金融商品取引業者登録簿は、登録申請書の写しの第2面から第11面までにより作成するものとする。
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登録申請書記載事項に係る変更届出書が提出された場合には、当該届出書に添付される登録申請書の変更面と金融商品取引業者登録簿の当該面を差し替えるものとする。
なお、新株予約権又は新株予約権付社債を発行している金融商品取引業者の新株予約権の行使による資本金の額の変更届出書については、毎月末における資本金の額を翌月15日までに提出させ、1ヵ月ごとに当該金融商品取引業者登録簿を差し替えるものとする。
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本庁監理金融商品取引業者から登録申請書記載事項に係る変更届出書の提出があった場合には、本庁は1ヵ月分を取りまとめて翌月20日までに、当該金融商品取引業者の登録を行った財務局に対して登録申請書の変更面を送付するものとする。
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金融商品取引業者登録簿の縦覧日は、行政機関の休日に関する法律第1条に規定する行政機関の休日以外の日とし、縦覧時間は、財務局長が指定する時間内とする。ただし、金融商品取引業者登録簿の整理その他必要がある場合は、縦覧日又は縦覧時間を変更できるものとする。
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金融商品取引業者登録簿の縦覧者には、別紙様式 III-5による金融商品取引業者登録簿縦覧表に所定の事項を記入させるものとする。
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金融商品取引業者登録簿は、財務局長が指定する縦覧場所以外に持ち出してはならないものとする。
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縦覧者が次に該当する場合は、縦覧を停止又は拒否することができるものとする。
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イ. 上記からまで又は当局の指示に従わない者
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ロ. 金融商品取引業者登録簿を汚損若しくは破損し、又はそのおそれがあると認められる者
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ハ. 他の縦覧者等に迷惑を及ぼし、又はそのおそれがあると認められる者
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他の財務局長が登録を行った金融商品取引業者に係る縦覧の申請があった場合は、登録を行った財務局において縦覧が可能である旨を申請者に伝えるものとする。ただし、申請者に登録を行った財務局が遠隔地になるなどのやむを得ない事情があるときには、当該他の財務局長に登録事項を照会し、縦覧に応じるものとする。
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III-3-2 届出
金商法に定める各種届出等の受理又は処理に関しては、以下に掲げる点に留意して取り扱うこととする。
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(1)管轄財務局長の管轄区域を越える本店等の位置の変更
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財務局の管轄区域を越える本店等の位置を変更した届出書を受理した財務局長は、金商業等府令第20条第2項に規定する当該変更届出書及び金融商品取引業者登録簿のうち当該金融商品取引業者に係る部分と併せてその他の書類として、登録申請書及びその添付書類並びに直前に行った検査の報告書の写しを添付して、新たに登録を行うこととなる財務局長に送付するものとする。
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上記書類の送付を受けた財務局長は、当該金融商品取引業者の登録を行った場合には従前の登録を行った財務局長に対して登録済通知書の写しを送付するものとする。
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登録済通知書の写しの送付を受けた従前の登録を行った財務局長は、当該金融商品取引業者の登録を抹消するものとする。
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(2)対象議決権保有届出書の提出に係る留意事項
国内に在留する外国人が提出した住民票の抄本(国籍等の記載のあるものに限る。)、在留カードの写し又は特別永住者証明書の写し及び国内に在留しない外国人が提出した本国の住民票の写し又はこれに準ずる書面(英文等の場合には訳文を添付)は、金商業等府令第38条第1号に規定する「これに代わる書面」に該当する。
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(3)廃業等の届出に係る留意事項
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金融商品取引業者から金商法第50条第1項第7号、第50条の2第7項及び金商業等府令第199条第5号の規定に基づく届出書を受理した場合には、検査を行うなどによって、次の点について確認するものとする。
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イ. 届出を行った金融商品取引業者につき、金商法第52条第1項の規定による登録取消しの事由の存しないこと。
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ロ. 顧客に対する債務の弁済が完全に行われる確実な見込みがあること。
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ハ. 顧客に対する債権債務の残高照合等の手段により、簿外債務のないことが確認されていること。
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金融商品取引業者から金商業等府令第199条第11号トの規定に基づく届出書の提出があった場合で、金融商品仲介業者に委託を行わなくなった理由が当該金融商品仲介業者が金融商品仲介業務を廃止するためであるときは、当該金融商品仲介業者につき、金商法第66条の20第1項の規定による登録取消の事由が存しないことを当該金融商品取引業者が確認しているかを届出書の提出時に確認することとする。
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(4)買収等による株主構成の重要な変更等
金融商品取引業者その他の者からの届出又は報告等により、金融商品取引業者又は当該金融商品取引業者を子会社とする持株会社((4)において「持株会社」という。)の買収等に伴い、当該金融商品取引業者若しくは持株会社の株主構成に重要な変更等が生じ、又は生じるおそれがあることを知った場合であって、当該金融商品取引業者若しくは持株会社の役員や重要な使用人の構成、事業内容、経営方針又は事業の決定方法等に重要な変更が生じ、又は生じるおそれがあると認められるときは、当該金融商品取引業者又は持株会社の事業の実態を踏まえつつ、深度あるヒアリングや、必要に応じて、金商法第56条の2第1項の規定に基づく報告を求めること等を通じて、事業の内容や業務執行体制等の変更の有無を把握し、業務を適切に遂行するための人的構成や体制が引き続き整備されているかについて登録審査と同様に検証することとする。
検証の結果、業務執行体制を含む適切な体制の確保等を図る必要があると認められる場合には、当該体制の確保に要する期間を勘案した一定の期限を付した上で、必要に応じて、金商法第50条第1項第1号の規定に基づく業務の休止に係る届出の慫慂や、体制整備を目的とした第51条の規定に基づく業務改善命令又は第52条の規定に基づく業務の全部又は一部停止命令を発出する等の対応を行う。
III-3-3 業務に関する帳簿書類関係
業務に関する帳簿書類(以下「帳簿書類」という(VI-3-2-4、VI-3-5-3、VIII-2-3及び-2-3を除く。)。)は、金融商品取引業者の業務又は財産の状況を正確に反映させ、業務の適切性や財務の健全性を検証することなどによって、投資者保護に資するため法令にその作成及び保存義務が規定されているものである。帳簿書類の検証に当たっては、これらの趣旨を踏まえ、以下の点に留意して行うものとする。
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(1)基本的留意事項
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帳簿書類について、一の帳簿書類が合理的な範囲において、他の帳簿書類を兼ねること、又はその一部を別帳とすること若しくは金商業等府令第157条及び第181条に規定する名称と異なる名称を用いることがそれぞれできるものとする。ただし、それぞれの帳簿書類の種類に応じた記載事項がすべて記載されている場合に限る。
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III-3-3において、外国法人については、本店とあるのはその国内における主たる営業所又は事務所と、支店とあるのはその他の営業所又は事務所とそれぞれ読み替えるものとする。
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自己の取引の発注に係る注文伝票を作成する場合において、金商業等府令第158条中「受注」とあるのは「発注」と読み替えて作成するものとする。
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帳簿書類の記載事項のうち、該当する事項に直接合致しないものについては、当該事項に準ずるものを記載し、該当する事項がないものについては記載を要しない。
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金商業等府令第157条第1項第1号イ(4)に規定する書面(金商法第37条の4第1項に規定する契約締結時等交付書面)の写しについては、当該書面と同時に機械的処理により作成されるものであって、当該書面の記載事項がすべて記載された他の帳簿書類をもってこれに代えることができる。
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注文伝票、媒介又は代理に係る取引記録、募集若しくは売出し又は私募に係る取引記録、募集若しくは売出しの取扱い又は私募の取扱いに係る取引記録及び投資顧問契約又は投資一任契約の締結の代理又は媒介に係る取引記録の作成に当たり、取引を行う際に取引契約書を取り交わす場合には、それぞれの帳簿書類の記載事項がすべて記載されている取引契約書をもってそれぞれの帳簿書類とすることができる。当該取引契約書は別つづりとする。
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帳簿書類の記載事項については、当該金融商品取引業者において統一した取扱いをしているコード又は略号その他の記号により記載することができる。
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帳簿書類の記載事項の一部について、当該記載事項が記載された取引契約書と契約番号等により関連付けがされており、併せて管理・保存されている場合には、これらを一体として当該帳簿書類とすることができる。
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金商業等府令第157条第3項ただし書及び同第181条第4項ただし書の各後段は、同条第1項各号に掲げる帳簿書類が外国に設けた営業所又は事務所において作成されたか否かにかかわらず、それが電磁的記録をもって作成され、かつ、国内に設けた営業所若しくは事務所において当該電磁的記録に記録された事項を表示したものを遅滞なく閲覧することができる状態に置いているときは、当該帳簿書類を国外において保存することを認めるものである。ただし、金融商品取引業者において、顧客等に関する情報管理態勢(Ⅲ-2-4)やシステムリスク管理態勢(Ⅲ-2-8)等に十分留意されている必要があり、また、当該国外において不正アクセスに限らず第三者への情報流出やシステムの安定稼働への支障が生じるリスクについても適切に勘案されている必要がある。
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(2)帳簿書類のマイクロフィルムによる作成・保存
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帳簿書類の作成後3年を経過し、かつ、この間に検査部局により帳簿書類の検査が行われている場合には、一般に妥当と認められている作成基準により作成したマイクロフィルムをもって保存することができるものとする。
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次に掲げる場合には、帳簿書類を当初からマイクロフィルムにより作成・保存できるものとする。
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イ. 対象となる帳簿書類が、金商業等府令第157条第1項第1号イ(4)、第9号、第11号、第16号(ロ及びハに限る。)及び第17号(イを除く。)に掲げるものである場合
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ロ. 検査部局による検査等に際し、各営業所において合理的期間内に書面による帳簿の作成が可能である場合
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ハ. マイクロフィルムの作成・保存に関する責任者をおき、管理の手続が整備されている場合
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(3)帳簿書類の本店における集中保管
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帳簿書類の保管場所については、作成後3年を経過し、かつ、この間に検査部局による検査が行われている場合には、本店(事務センター等を含む。下記において同じ。)において集中保管することができるものとする。
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帳簿書類の保管場所については、次に掲げる要件が満たされていることを条件として本店及び金融商品取引業者が帳簿書類の作成を委託している会社において作成時から集中保管することができるものとする。
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イ. 顧客の照会に対し、速やかに回答できる体制となっていること。
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ロ. 帳簿書類の閲覧が本支店において合理的期間内に可能な体制となっていること。
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ハ. 内部監査に支障がないこと。
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(4)注文伝票のコンピュータへの直接入力による作成
注文伝票をコンピュータへ直接入力することによって作成する場合には、以下の点に留意するものとする。
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受注(自己の取引の発注の場合は、発注)と同時に、注文内容をコンピュータへ入力すること。
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顧客の照会に対し、速やかに回答できるようになっていること。
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入力データのバックアップを作成・保存すること。
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入力時刻が自動的に記録されるシステムとなっていること。
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入力事績の取消・修正を行った場合その取消・修正記録がそのまま残されるシステムとなっていること。
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注文内容を電話により執行店に連絡するケース、コンピュータシステム稼働終了後に翌日の注文を受注するケース、災害等によりコンピュータが使用不能となるケース等受注と同時にコンピュータに直接入力して作成することが不可能な場合は、従来どおり、受注時に手書きで注文伝票を作成すること。ただし、受注時に作成した手書きの注文伝票とその注文内容を後で入力して作成した約定結果等が記載されたコンピュータ作成の注文伝票を併せて保存する場合は手書きの注文伝票に追記を行う必要はない。
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内部監査に対応できるシステムとなっていること。
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(5)発注伝票のコンピュータへの直接入力による作成
発注伝票をコンピュータへ直接入力することによって作成する場合には、以下の点に留意するものとする。
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発注と同時に、発注内容をコンピュータへ入力すること。
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災害等によりコンピュ-タが使用不能となるケ-ス等発注と同時にコンピュ-タに直接入力して作成することが不可能な場合は、発注時に手書きで発注伝票を作成すること。ただし、発注時に作成した手書きの発注伝票とその発注内容を後で入力して作成した発注内容等が記載されたコンピュ-タ作成の発注伝票を併せて保存する場合は、手書きの発注伝票に追記を行う必要はない。
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上記及びのほか、上記(4)からまで及びに準ずるものとする。
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(6)帳簿書類の電子媒体による保存
帳簿書類を電子媒体により保存する場合には、以下の点に留意するものとする。
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手書きにより作成された帳簿書類については、画像データとして保存すること。
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保存に使用する電子媒体は金商業等府令第157条第2項及び第181条第3項に規定する保存期間の耐久性を有すること。
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データ保存に使用する電子媒体の一つを「原本」として定め、その旨を明示すること(帳簿書類の保存状態の判定はこの「原本」に準拠して行うものとする。)。
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上記の「原本」のバックアップを作成し、これを「副本」として保存すること。
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顧客の照会に対し、速やかに回答できるシステムとなっていること。
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保存されているデータにつき合理的期間内にハードコピーによる帳簿の作成が可能なシステムとなっていること。
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入力データの取消・修正を行った場合、その取消・修正記録がそのまま残されるシステムとなっていること。
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内部監査に対応できるシステムとなっていること。
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作成・保存に関する責任者をおき、当該作成・保存に関する社内規則が整備されていること。
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電算システムにより作成した帳簿書類のハードコピーに手書きによる追記・補完等を行った場合は、当該ハードコピーを画像データとして保存することとし、画像データとして保存を行わないときは、当該ハードコピーを原本として保存すること。
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III-3-4 産業競争力強化法関係
強化法等に定める事業再編に関する計画、特定事業再編に関する計画及び中小企業承継事業再生に関する計画の記載事項については、金融商品取引業者の計算書類等の記載方法に則し、以下の点に留意するものとする。
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(1)事業再編の実施に関する指針(以下「実施指針」という。)一.の事業再編による生産性及び財務内容の健全性の向上に関する目標の設定に関する事項
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実施指針一.イ.(2)の「有形固定資産回転率」は、例えば、営業収益を有形固定資産の帳簿価額で除した値を指す。
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実施指針一.イ.(3)の「従業員一人当たり付加価値額の値」は、例えば、従業員1人当たりの営業利益、人件費及び減価償却費の和を指す。
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実施指針一.ロ.(1)の「有利子負債合計額」は、例えば、負債性の資金調達手段のすべてを指す。
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実施指針一.ロ.(2)の「経常収入」は、例えば、営業収入と営業外収入の合計額を指し、「経常支出」は、例えば、営業費用と営業外費用の合計額を指す。
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(2)実施指針二.イ.の事業再編の定義に関する事項
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実施指針二.イ.(3)の「売上高」は、例えば、営業収益を指す。
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実施指針二.イ.(5)の「当該商品又は役務の提供に係る販売費」は、例えば、販売費・一般管理費を指す。
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(3)実施指針二.ロ.(3)の過剰供給構造にある業種又は事業分野の基準
実施指針二.ロ.(3)(ii)の「売上高営業利益率」における「売上高」は、例えば、営業収益を指す。
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(4)実施指針三.の特定事業再編による生産性及び財務内容の健全性の向上に関する目標の設定に関する事項
実施指針三.イ.(2)及び(3)並びにロ.(1)については、上記(1)を準用する。
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(5)実施指針四.イ.の特定事業再編の定義に関する事項
実施指針四.イ.(4)及び(5)の「売上高」は、例えば、営業収益を指す。
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(6)中小企業承継事業再生の実施に関する指針(以下「再生実施指針」という。)一.の中小企業承継事業再生による事業の強化に関する目標の設定に関する事項
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再生実施指針一.イ.の「有利子負債合計額」は、例えば、負債性の資金調達手段のすべてを指す。
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再生実施指針一.ロ.の「経常収入」は、例えば、営業収入と営業外収入の合計額を指し、「経常支出」は、例えば、営業費用と営業外費用の合計額を指す。
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業務の開始又は再開するための事業計画等が合理的な根拠に基づいて作成されておらず、その見通しが立たないと認められる場合
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業務の開始又は再開するための事業計画等が合理的な根拠に基づいて作成されておらず、その見通しが立たないと認められる場合
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