I .基本的考え方

I -1 少額短期保険業者の検査・監督に関する基本的考え方

  • (1)少額短期保険業者の検査・監督の目的は、従来、特定の者を相手方として法律の根拠なく保険の引受けを行っていたいわゆる根拠法のない共済について、保険業法(以下「法」という。)の保険業に含め、規制の対象とすることで、保険業の公共性にかんがみ、保険業を行う者の業務の健全かつ適切な運営及び保険募集の公正を確保することにより、保険契約者等の保護を図り、もって国民生活の安定及び国民経済の健全な発展に資することにある(法第1条参照)。

    この目的を実現するため、保険業の定義を見直し、特定の者を相手方として保険の引受けを行う事業について、他の法律に特別の規定のあるもの、又は、会社、労働組合等がその役職員、構成員等を相手方とするもの等を除き、法の規制の対象とするとともに、少額短期保険業者の特例制度を創設するための法の改正(保険業法等の一部を改正する法律[平成17年5月2日法律第38号])が平成17年4月に行われたところである。

    法では、保険期間が2年以内の政令で定める期間以内で、保険金額が1,000万円を超えない範囲内において政令で定める金額以下の保険のみの引受けを行う事業を少額短期保険業とし、少額短期保険業を行う場合には、内閣総理大臣の登録が必要としている。

    登録に際して、(1) 株式会社又は相互会社でない場合(NPO法人等除く。)、(2) 資本金等の額が1,000万円に満たない場合、(3) 会社や役員に行政処分歴があるもの等の場合、(4) 保険契約の内容が保険契約者等の保護に欠ける恐れのあるもの等である場合、(5) 業務を的確に遂行することができる人的構成を有しない場合等は登録を拒否しなければならない。そのため本監督指針においては、登録時の審査にあたって留意すべき事項を具体的に示すこととした。

    少額短期保険業が健全に発展していくためには、少額短期保険業者が法令等を遵守した健全な業務運営を行うことにより、保険契約者が安心して保険商品を利用できることが不可欠である。したがって、登録後の少額短期保険業者の検査・監督にあたっては、保険契約者等の保護を図る観点から、継続的な情報収集等により、少額短期保険業を健全かつ適切に遂行する上で問題となる事象を早期に発見するとともに、必要に応じて行政処分等の監督上の措置を適時適切に行うことが重要である。

    また、少額短期保険業者は、保険会社と同様に保険契約者等の信任を確保するため、資本の充実や内部留保の確保を図り、リスクに応じた十分な財務基盤を保有することは極めて重要である。財務内容の改善が必要とされる少額短期保険業者にあっては、自己責任原則に基づき主体的に改善を図ることが求められ、当局としても、それを補完する役割を果たすものとして、経営の健全性を確保するため「保険金等の支払能力の充実の状況を示す比率」(以下「ソルベンシー・マージン比率」という。)という客観的な基準を用い、必要な対応を迅速かつ適切に行っていくことで少額短期保険業者の経営の早期是正を促していく必要がある。

    本監督指針では、業務の適切性及び財務の健全性を確保するため、少額短期保険業者に対して検査・監督を行っていく際の着眼点等を記載することとした。

  • (2)金融庁としては、発足当初より、明確なルールに基づく透明かつ公正な行政を確立することを基本としている。

    このため、監督をはじめ検査・監視を含む各分野において、行政の効率性・実効性の向上を図り、更なるルールの明確化や行政手続き面での整備等を行うこととしている。

    また、少額短期保険業者の経営の透明性を高め、市場規律により経営の自己規正を促し、保険契約者等の自己責任原則の確立を図るため、少額短期保険業者のディスクロージャーの充実を継続的に推進することも重要である。

  • (3)行政の透明性や公正性は、今後も行政運営の基本である。しかしながら、ルールを明確化しようとするばかり過度に詳細なチェックリスト等を策定し、問題の根本原因やこれが広がりをもって他の問題として生じる可能性を踏まえた実質的な検証等を行うことなく、網羅的な検証項目に基づいた事後的かつ一律の検証を機械的に反復・継続するに止まれば、かえって、少額短期保険業者において、経営全体や問題の根本原因を踏まえた真に重要な課題の把握、再発防止に向けた根本原因の解決、将来に向けた早め早めの対応や、より良い実務に向けた創意工夫の発揮が進まない等の弊害を惹起しかねない。

    金融庁及び財務局(福岡財務支局及び沖縄総合事務局を含む。以下同じ。)としては、各業者の規模・特性や財務の健全性・コンプライアンス等に係る重大な問題が発生する蓋然性等に応じて、実態把握や対話等によるオン・オフ一体のモニタリングを継続的に行い、必要に応じて監督上の措置を発動すること等により重大な問題の発生を事前に予防し、併せて、対話等を通じ少額短期保険業者によるより良い実務に向けた様々な取組みを促していく。

    (参考)「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」(平成30年6月29日)

    (4)少額短期保険業者の検査・監督に携わる職員は、(1)から(3)の基本的考え方を踏まえつつ、業務遂行に当たって、以下の事項を行動規範とし、行政の信認の確保に努めることとする。

    • マル1国民からの負託と職務倫理の保持

      自らの業務が国民から負託された職責に基づくものであって、その遂行に当たっては、Ⅰ-1(1)における少額短期保険業者の検査・監督の目的を最優先の課題として行う必要があることを意識するとともに、職務に係る倫理の保持に努め、金融行政に対する国民の信頼を確保することを目指す。

    • マル2綱紀・品位、秘密の保持

      金融行政の遂行に当たり、綱紀・品位及び秘密の保持を徹底し、穏健冷静な態度で臨む。

    • マル3大局的かつ中長期的な視点

      金融サービスを利用する国民や企業の目線に立って、局所的・短期的な問題設定・解決のみに甘んじるのではなく、根本原因を把握し、大局的かつ中長期的な視点から、早め早めに問題解決に取り組む。

    • マル4公正性・公平性

      法令等に基づく適正な手続きに則り、各業者の状況を踏まえて、公正・公平に業務を遂行し、少額短期保険業者間で、法令等に基づく合理的な理由なく、異なる取扱いを行わない。

    • マル5少額短期保険業者の自主的努力の尊重

      少額短期保険業者の検査・監督の目的を達成するためには、少額短期保険業者による自主的な取組みと創意工夫が不可欠であることを自覚し、私企業である少額短期保険業者の業務の運営についての自主的な努力を尊重するよう配慮する。

    • マル6自己研鑽

      諸外国を含む保険に関する諸規制や少額短期保険業者の動向等のほか、金融という経済インフラを取り巻く幅広い社会・経済事象について、基本的知見を養う。また、対話等を行う自らの業務遂行に当たっては、各業者固有の実情に係る深い知見はもとより、経営分析、ガバナンス、リスク管理等の課題に応じた高い専門性に基づいた分析等が必要であり、これらの能力の習得に向けた自己研鑽に日々努める。

    • マル7適切かつ密接な組織内外の関係者との連携

      実効性の高い検査・監督を実現するためには、自らの所管に限らない広い視野が重要であり、金融庁及び財務局内外の様々な主体と適切かつ密接に連携する。

I -2 監督指針策定の趣旨

  • (1)これまで金融行政は、ルールに基づく事後チェック型行政を徹底してきており、保険契約者の自己選択と保険契約者等保護を根底に置いた保険会社等の自助努力を促進する行政を進めてきた。

    金融庁においては、環境変化や新たな課題の発生に機動的・予防的に対応していく観点から、財務の健全性やコンプライアンス等に係る重大な問題発生の蓋然性等の将来を見据えた分析に基づく早め早めの対応を行うため、検査・監督のあり方について様々な見直しを行っている。

    平成30年6月に、金融行政の基本的な考え方や検査・監督の進め方、当局の態勢整備について整理し「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」を策定し、ここにおいて、保険会社等のチェックリストによる形式的確認を改め、創意工夫を進めやすくする観点から、検査マニュアルは廃止することとしている。

    また、同年7月には、保険会社等の継続的なモニタリング等を効果的・効率的に行うための組織再編を行い、これまで立入検査を検査局、各種ヒアリング等を監督局が担当していた組織体制を変更し、オン・オフのモニタリングの一体化を進めている。

    こうした見直しの一環として、令和元年12月に、保険検査マニュアルの廃止と併せて、本監督指針についても、上記の見直しを踏まえた必要な改正等を行っている。具体的には、実態把握や対話等を通じたオン・オフ一体のモニタリングのあり方や監督指針の位置付け等を改めて整理、過度に細かく特定の方法が記載されている等少額短期保険業者の創意工夫を妨げる可能性がある規定について修正等を行った。こうした点については、今後も引き続き検討していく。

  • (2)本監督指針は、「保険会社向けの総合的な監督指針」(以下、「総合指針」という。)の別冊として位置付け、体系的に整備しているものである。

    本監督指針に記載がない項目であっても、少額短期保険業者は保険会社と同様、法が適用されることから、「総合指針」の項目を参照しつつ対応することが求められる。

    本監督指針は、取扱保険商品や会社の規模等が多種多様な状態にあると予想される少額短期保険業者に対して検査・監督上の評価項目の全てを一律に求めているものではなく、特に体制面の着眼点において総合指針を準用している場合、事業者の事情に併せて、小規模な事業者である場合は、必ずしも独立した部署の設立を求めるものではないよう実情に応じて判断することとする。

    したがって、本監督指針の適用にあたっては、各評価項目の字義通りの対応が行われていない場合であっても、少額短期保険業者としての対応が業務の適切性及び財務の健全性等の確保の観点から問題のない限り、不適切とするものではないことに留意し、機械的・画一的な運用に陥らないように配慮する必要がある。

    一方、評価項目に係る機能が形式的に具備されていたとしても、少額短期保険業者の業務の適切性又は財務の健全性等の確保の観点からは必ずしも十分とは言えない場合もあることに留意する必要がある。

I -3 少額短期保険業者向け監督指針の位置付け

  • (1)本監督指針は、少額短期保険業者の検査・監督を担う職員向けの手引書として、検査・監督に関する基本的考え方、事務処理上の留意点、具体的な監督手法、監督上の評価項目等を体系的に整理したものである。

  • (2)金融庁は、検査・監督に関する方針として、本監督指針のほかに、分野別の「考え方と進め方」や各種原則(プリンシプル)、年度単位の方針、業界団体等への要請等の様々な文書を示しているが、検査・監督を行うに当たっては、各文書の趣旨・目的を踏まえた用い方をするとともに、少額短期保険業者に対し当該趣旨を丁寧に説明することとする。

  • (3)財務局は、本監督指針に基づき管轄少額短期保険業者の検査・監督事務を実施するものとし、金融庁にあっても同様の取扱いとする。その際、本監督指針が、少額短期保険業者の自主的な努力を尊重しつつ、その業務の健全かつ適切な運営を確保することを目的とするものであることにかんがみ、本監督指針の運用に当たっては、各業者の個別の状況等を十分踏まえ、機械的・画一的な取扱いとならないよう配慮するものとする。

  • (4)複数の業態を含む金融グループへの対応については、「総合指針Ⅰ-3-(4)」に準じて取扱うものとする。

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