第2部 金融に関する制度の企画及び立案
第3章 金融・資本市場等に関する制度の企画・立案等の取組み
第1節 金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成24年法律第86号)の施行に伴う関係政令・内閣府令等の整備(店頭デリバティブ取引等に関する規制)
I 経緯
資本市場を取り巻く環境の変化を踏まえ、我が国市場の国際競争力の強化並びに金融商品の取引の公正性及び透明性の確保を図るため、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が、平成24年9月6日に成立し、同月12日に公布された。
これを受け、改正法のうち公布後3年以内に施行することとされている事項(店頭デリバティブ規制の整備)について、関係政令・内閣府令等の整備を行った。
II 概要
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1.公布後3年以内施行(店頭デリバティブ規制の整備)関係政令・内閣府令等の整備(26年11月19日公布、27年9月1日施行(政令の附則第2項及び第3項については公布日から施行))(資料3-1-1参照)
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(1)改正法では、以下の制度整備を行った。
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ア.金融商品取引業者等が、一定の店頭デリバティブ取引を行うに当たり、金融商品取引業者等が提供する電子情報処理組織を使用することを義務付けた。
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イ.外国から電子情報処理組織を提供する者については、内閣総理大臣の許可により、金融商品取引業者等を相手方とする店頭デリバティブ取引等を可能とする制度を整備した。
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(2)これを受け、政令・内閣府令等では、以下の措置を講じた。
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ア.金融商品取引業者のうち電子情報処理組織の提供を行う者の要件等(最低資本金、資本金額又は出資の総額の計算等)について規定。
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イ.電子情報処理組織使用義務の対象取引及び対象者等について規定した。
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第2節 金融商品取引法の一部を改正する法律(平成27年法律第32号)の施行に伴う関係政令・内閣府令等の整備(いわゆるプロ向けファンドに関する規制)
I 経緯
適格機関投資家等特例業務(いわゆるプロ向けファンド)をめぐる昨今の状況を踏まえ、ファンドへの信頼を確保し、成長資金を円滑に供給しつつ、投資者の保護を図るため、適格機関投資家等特例業務を行う届出者の要件や届出書の内容の拡充・公表、届出者に対する行為規制、問題業者への行政対応や罰則の強化等に係る施策を盛り込んだ「金融商品取引法の一部を改正する法律(平成27年法律第32号)」が27年5月27日に成立し、同年6月3日に公布された。
これを受け、関係政令及び内閣府令等の整備を行った(28年2月3日公布、同年3月1日施行)。
II 概要
主な改正内容は、以下のとおりである。(資料3-2-1参照)
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1.金融商品取引法施行令の改正
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(1)適格投資家向け投資運用業に係る投資家の範囲
適格投資家向け投資運用業に係る投資家(適格投資家)の範囲に、金融商品取引業者の役員、使用人、親会社等に準ずる者を追加した。
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(2)適格機関投資家等特例業務に係る投資家の範囲
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ア.適格機関投資家等特例業務を行う者が、当該業務として金融商品取引業の登録を受けることなく、出資又は拠出の勧誘を行うことができる対象を、上場会社など投資判断能力を有すると見込まれる一定の者や特例業務届出者と密接に関連する者等に限定した。
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イ.適格機関投資家等特例業務が、出資等の額の100分の80を超える額を充てて非上場有価証券等に対する投資を行うものであるなどの一定の要件を満たす場合には、出資又は拠出を行うことができる対象に、上記アのほか、投資に関する知識及び経験を有するものを追加(以下、ベンチャー・ファンド特例)した。
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ウ.上記イの投資に関する知識及び経験を有するものを相手方として適格機関投資家等特例業務を行う場合(適格機関投資家等特例業務のうち投資者の保護を図ることが特に必要なもの)には、当該業務に係る契約の契約書の写しを内閣総理大臣に提出しなければならないこととした。
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(3)適格機関投資家等特例業務に係る事業報告書の提出期限
外国法人等の適格機関投資家等特例業務に係る事業報告書の提出期限を、事業年度経過後、原則3か月とした。
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(4)適格機関投資家等特例業務に係る説明書類の縦覧開始期間
適格機関投資家等特例業務に係る説明書類の縦覧を開始するまでの期間を、事業年度経過後、原則4か月とした。
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2.金融商品取引業等に関する内閣府令の改正
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(1)業務の運営の状況が公益に反し又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの
特例業務届出者が該当することのないようにしなければならない業務の運営の状況として、適格機関投資家等特例業務において、適格機関投資家が特例業務届出者の子会社等のみであることその他の事情を勘案して金融商品取引法第63条第1項各号に掲げる行為を適切に行っていないと認められる状況を追加した。
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(2)運用財産相互間取引の禁止の適用除外
特例業務届出者がベンチャー・ファンド特例の要件を満たす場合における運用財産相互間取引の禁止の適用除外に係る要件等を規定した。
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(3)運用報告書の対象期間
特例業務届出者がベンチャー・ファンド特例の要件を満たす場合であって、その交付する運用報告書の対象期間の定めが契約書に記載されているときにおける当該対象期間は、1年以内とした。
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(4)投資判断能力を有すると見込まれる一定の者等の範囲
上記の政令の改正概要1(2)アの投資判断能力を有すると見込まれる一定 の者等の範囲として、特例業務届出者の親子会社等、投資性金融資産を1億円以上保有し、かつ証券口座開設後1年経過した個人等を規定した。
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(5)投資に関する知識及び経験を有するものの範囲
上記の政令の改正概要1(2)イの投資に関する知識及び経験を有するものとして、上場会社の役員、新規事業の立上げ等の業務に直接携わった経験があり、専門的な知識や能力を有する者等を規定した。
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(6)投資に関する知識及び経験を有するものを相手方とするための要件
ベンチャー・ファンド特例の適用を受ける特例業務届出者が、出資等の額の100分の80を超える額を投資しなければならない非上場有価証券の内容等を規定した。
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(7)適格機関投資家等特例業務として認められない場合
投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして適格機関投資家等特例業務として認められない場合として、以下の場合を規定した。
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ア.出資又は拠出をする適格機関投資家が投資事業有限責任組合のみであって、当該投資事業有限責任組合が5億円以上の運用資産残高(借入れを除く)を有しない場合
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イ.特例業務届出者と密接に関連する者等からの出資割合が2分の1以上である場合
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(8)適格機関投資家等特例業務を行う者の届出事項等
内閣府令で定める届出事項として、適格機関投資家等特例業務に係る出資対象事業の内容、出資の勧誘対象、出資する全ての適格機関投資家の名称、種別、数を規定した。
また、当局及び届出者が公表する事項として、特例業務届出者の代表者、業務の種別、所在地及び電話番号並びに適格機関投資家の数等を規定した。
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(9)適格機関投資家等特例業務を行う者の事業報告書及び説明書類の内容
事業報告書及び説明書類の内容として、業務や財務の状況、出資者の状況等を規定した。
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(10)ベンチャー・ファンド特例の適用を受ける場合に契約で定める事項等
ベンチャー・ファンド特例の適用を受ける場合に契約で定める事項として、以下の事項等を規定した。
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ア.財務諸表等を作成し、公認会計士又は監査法人の監査を受け、出資者に対し監査報告書を提供すること。
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イ.出資者に対し、事業の運営及び財産の運用状況を報告すること。
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ウ.出資者の同意を得て、ファンド資産運用者を選解任することができること。
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エ.契約を変更する場合には出資者の同意を得なければならないこと。
また、内閣総理大臣への契約書の写しの提出期限を、届出等を行った日から3月以内とした。
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(11)特例業務届出者の廃業等の届出
特例業務届出者が廃業等の届出を行う場合として、欠格事由に該当することとなった場合等を規定した。
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第3節 情報開示、会計基準及び会計監査の質の向上に向けた取組み
I 開示諸制度の整備
有価証券取引の実務や投資家・発行者等のニーズを踏まえ、投資家にとって分かりやすく、真に必要な投資情報の開示を求める観点から、時宜に応じた開示諸制度の整備を行っている。
具体的には、以下のような制度整備を行った。
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1.企業と投資家との建設的な対話を促進するための制度整備
「『日本再興戦略』改訂2015」及び「平成27事務年度金融行政方針」を踏まえ、平成27年10月、金融担当大臣より「企業の情報開示のあり方等に関する検討」を行うよう諮問がなされ、金融審議会の下にディスクロージャーワーキング・グループが設置された。当該ワーキング・グループにおいては、企業と投資家との建設的な対話を促進する観点も踏まえつつ、効果的・効率的な情報開示のあり方等について幅広く検討が行われ、28年4月、報告書が公表された。(資料3-3-1及び資料3-3-2参照)
当該報告書においては、
開示内容の整理・共通化・合理化を行うことにより、会社法に基づく事業報告等と金融商品取引法に基づく有価証券報告書の開示内容の共通化や、両者の一体的な書類としての開示等をより容易にすること
より適切な株主総会日程の設定を容易とするための開示の見直しや、事業報告等の早期提供のための株主総会資料の電子化の推進に取り組むこと
フェア・ディスクロージャー・ルール(※)の導入に向けた検討を実施すること
などが提言されている。
※企業又はその関係者が、公表前の重要な内部情報を特定の第三者に提供する場合、当該情報を原則として同時に公表しなければならないとするルール。
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2.特定投資家向け取得勧誘における社債券等の転売制限の緩和
プロ向け市場の活性化の一環として、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」等を改正し、特定投資家向け取得勧誘における社債券等の転売制限の方式について、従来の方式に加え、転売制限に関する事項を社債要項等に記載し、金融商品取引業者等が投資家に当該内容を説明した上で、投資家がその遵守に同意することを取得条件とする方式を利用できることとした(27年9月25日公布・施行)。
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3.外国法人等に係る適格機関投資家の届出書類の見直し
適格機関投資家の届出に係る適正性を確保するため、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」を改正し、外国法人等が適格機関投資家の届出を行う場合、届出者が代理人に代理権限を付与したことを証する書面(委任状等)を届出書類に添付しなければならないこととした(27年9月25日公布・施行)。
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4.株式報酬付与時の届出義務に係る制度整備
「『日本再興戦略』改訂2015」において、コーポレートガバナンスの強化に関する施策の一環として、経営陣に中長期の企業価値創造を引き出すためのインセンティブを付与することができるよう株式による報酬、業績に連動した報酬等の柔軟な活用を可能とするための仕組みの整備等を図ることとされた。
このような取組みの一環として、株式報酬として一定期間の譲渡制限が付された現物株式(いわゆるリストリクテッド・ストック)の割り当てをする場合に、役員等に対する報酬の支給の一種であることに鑑み、ストックオプションの付与と同様に、第三者割当の定義から除外し、有価証券届出書における「第三者割当の場合の特記事項」の記載を不要とする改正等を行うこととし、28年6月、改正案に関する意見募集(パブリック・コメント)を開始した。
II 開示諸制度の運用
企業等が提出する開示書類について、投資者が投資判断を行うために必要な情報が、正確かつ分かりやすく、適正に開示されることを確保するため、金融庁では、各財務局と連携して、開示書類の審査及び違反行為への適切な対応を行っている。
具体的には、以下のような対応を行っている。
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1.有価証券報告書等の審査
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(1)有価証券報告書レビューの実施
有価証券報告書等の記載内容の適正性を確保するため、有価証券報告書レビューとして、特定の重点テーマ(退職給付及びセグメント情報)に着目し、対象企業を抽出して行う審査のほか、適時開示や金融庁に提供された情報等を活用した審査を行った。
また、上記の有価証券報告書レビューにおいて把握された事象等を踏まえ、有価証券報告書の作成に当たり留意すべき事項(28年3月期以降)及び28年3月期以降の有価証券報告書レビューの実施について公表したほか、26年度に実施した有価証券報告書レビューの結果について公表した。(資料3-3-3、資料3-3-4及び資料3-3-5参照)
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(2)その他開示書類の審査
有価証券報告書以外の開示書類についても、適正な開示が確保されるよう、各財務局において受理時の審査を行っており、例えば、上場会社の提出する有価証券届出書を対象にした大規模な第三者割当に該当する場合の有価証券届出書や、公開買付者が提出する公開買付届出書などの記載内容の適正性が確保されているか審査を行い、必要に応じて提出者に訂正を促した。
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2.課徴金納付命令に係る審判手続開始決定
違反行為の的確な抑止を図り、規制の実効性を確保するため、重要な事項について虚偽の記載のある開示書類を提出した発行者に対して、課徴金納付命令に係る審判手続開始決定を行った。
27事務年度の課徴金納付命令に係る審判手続開始決定の内訳は以下のとおりである。
審判手続開始決定の理由
件数
有価証券報告書等の虚偽記載
6件
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3.無届けで募集を行っている者に対する警告書の発出
近年、未公開株、私募債、ファンド等の取引に関して、高齢者を中心にトラブルが多発している。こうした事例の中には、実際には有価証券の募集に該当し有価証券届出書の提出が必要であるにもかかわらず、当該届出を行わないまま、有価証券の勧誘・販売を行っている事例が見られる。
このため、無届募集が疑われる事案について、各財務局を通じて実態把握に努め、無届けで募集を行っている発行者に対し、有価証券届出書の提出の慫慂や警告書の発出を行うとともに、金融庁ウェブサイトにおいて公表し、投資者に対して注意を呼びかけている。
27事務年度には1件の警告書を発出した。(資料3-3-6参照)
III EDINET(電子開示システム)の開発状況等
EDINETについては、「有価証券報告書等に関する業務の業務・システム最適化計画」に基づき、XBRL(※)データの利活用の向上等を図ることを目的として、国際水準を踏まえたXBRLの対象範囲の拡大、検索・分析機能の向上等の開発を行い、25年9月より現行システムを稼働している。
なお、27年度のEDINETの稼働率は100%であり、アクセス(検索)件数は年間2億6千万件を超えるなど、EDINETにより提出された企業情報等は、安定的に多くの投資家等に利用されている。
※XBRL(eXtensible Business Reporting Language):財務情報等を効率的に作成・流通・利用できるよう、国際的に標準化されたコンピュータ言語。
IV 会計基準の品質向上に向けた取組み
国際会計基準(IFRS)の任意適用企業数(適用予定企業数を含む)は、28年6月末時点で120社となっている。このうち、上場企業である116社の時価総額は全上場企業の時価総額の約21.2%となっている。(資料3-3-7参照)
我が国において用いられる会計基準の品質向上のためには、今後とも、国際的に用いられているIFRSの任意適用の促進に取り組むとともに、あるべきIFRSの内容についての我が国の考え方を意見発信してIFRSに適切に反映させるよう努めていく必要がある。このため、IFRSに基づく会計監査の実務を担える人材や、IFRSに関して国際的な場で意見発信できる人材の裾野の拡大が必要である。また、日本基準についても、更なる高品質化のための取組みが必要である。
なお、「平成27事務年度金融行政方針」においても、「こうした取組みを一体的に進め、我が国上場企業等において使用される会計基準の品質が、より高水準なものとなることを目指す」とされた。
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1.会計基準にかかる我が国の対応と国際的動向
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(1)IFRS任意適用の拡大促進に向けた取組み
「『日本再興戦略』改訂2015」を受けて、IFRS適用企業やIFRSへの移行を検討している企業の実務に資する観点から、28年3月、「国際会計基準(IFRS)に基づく連結財務諸表の開示例」を改訂、公表した。(資料3-3-8参照)
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(2)IFRSに関する国際的な意見発信の強化(※)
IFRSに関する意見発信の一環として、企業会計基準委員会(ASBJ)において修正国際基準の公表が行われた(27年6月公表)ことを受けて、必要な関係府令等の改正を実施した(同年9月公布)。(資料3-3-9参照)
また、ASBJと連携し、のれんの会計処理及びリサイクリング(その他の包括利益に計上した項目を純利益に振り替える会計処理)について、我が国の考えるあるべきIFRSについての国際的な意見発信を継続して行った。
※「2.国際的な会計基準設定プロセスへの関与」も参照
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(3)国際会計人材の育成
企業会計審議会・会計部会等の場で、
国際会計基準に関する意見発信の強化のため、国際的な場で効果的に意見発信できる人材の育成、及び
企業の国際会計基準への円滑な移行の確保のため、国際会計基準に関する知識・経験が豊富な人材の裾野の拡大、
に向けて、関係者において必要な取組みについて議論、取組みを強化していくことを確認した。
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(4)日本基準の高品質化
ASBJにおける収益認識基準の高品質化に向けた検討を支援し、ASBJにおいては、28年2月、収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見募集が公表された。
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2.国際的な会計基準設定プロセスへの関与
IFRSは、単一で高品質な国際基準を実現するという目標を掲げるIFRS財団により策定されており、本財団は国際会計基準審議会(IASB)、IFRS財団評議員会等で構成されている。IASBは、IFRSを開発する独立した基準設定主体であり、基準の開発および改訂の検討項目の設定、プロジェクト計画の策定等を行う権限を有しており、16名の構成メンバーのうち1名が日本人となっている。一方、IFRS財団評議員会は、IASBの活動状況の監督、財団の資金調達等を担っており、22名の構成メンバーのうち2名が日本人となっている。さらに、IASBと各国会計基準設定主体の連携の枠組みである会計基準アドバイザリー・フォーラム(ASAF)には、当初より日本から企業会計基準委員会(ASBJ)がメンバーとして参加しており、ASBJは、海外当局と共同でASAF会合においてディスカッション・ペーパーを公表する等、基準開発に積極的に参画している。
また、IFRS財団のガバナンスを監視する機関として、各国資本市場当局の代表者から構成されるIFRS財団モニタリング・ボード(MB)が設置され、当初より金融庁は恒久メンバーとして参加している(※)。MBでは、24年2月に公表されたIFRS財団のガバナンス改革に関する報告書に掲げられた提言に基づき、MBの更なる機能強化のためメンバー枠の拡大に向けた審査が実施されたほか、IFRS財団評議員会が実施した体制と有効性に関するレビュー、MBの活動の透明性向上について議論が行われた。
さらに、金融庁は、証券市場における会計上の問題を検討している証券監督者国際機構(IOSCO)等の国際会議にもメンバーとして参加し、海外当局との連携強化を図るとともに、国内関係者とも協調して積極的な意見発信を行っている。
※金融庁の河野金融国際審議官が22年10月から暫定議長、25年2月からは議長を務め、27年2月には、議長再任が決定された。
V 会計監査の信頼性確保に向けた取組み
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1.会計監査の在り方に関する懇談会
会計監査については、これまで、その充実に向けて累次の取組みが行われてきたところである。しかしながら、最近の不正会計事案などを契機として、改めて会計監査の信頼性が問われている状況に至っている。
このため、今後の会計監査の在り方について、経済界、学者、会計士、アナリストなど関係各界の有識者から提言を得ることを目的として、「会計監査の在り方に関する懇談会」を設置し(27年10月)、会計監査の信頼性を確保するために必要な取組みについて幅広い議論が行われ、28年3月、以下の施策を含む提言が公表された。(資料3-3-10参照)
監査法人のマネジメントの強化のための監査法人のガバナンス・コードの策定
大手・準大手監査法人との定期的な対話の実施
企業や監査法人等による会計監査に関する情報提供の充実
監査法人のローテーション制度について、導入に伴うメリット・デメリット等に関する調査・分析の実施
こうした取組みにより、有効なガバナンスとマネジメントのもとで高品質な会計監査を提供する監査法人が、企業や株主から適切に評価され、更に高品質な会計監査の提供を目指すという好循環の確立を図る必要があるとされている。
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2.国際監査基準(ISA)への対応
金融庁は、適正な会計監査の確保に向けた監査基準等の整備のため、監査基準をめぐる国際的な議論の把握を行うとともに、証券監督者国際機構(IOSCO)、監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)を通じて、国際監査・保証基準審議会(IAASB)の基準設定プロセスに参画している。
VI 公認会計士・監査法人等に対する監督
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1.公認会計士・監査法人等に対する処分
公認会計士・監査法人による監査は、財務書類の信頼性確保のために極めて重要な役割を果たすものであり、適正な会計監査の確保を図ることが重要である。このため、金融庁は、公認会計士・監査法人等の非違事例等について、法令に基づく厳正な処分を行うなど、公認会計士・監査法人等に対する適切な監督に努めている。
27事務年度においては、重大な虚偽が認められた企業の財務書類について相当の注意を怠り重大な虚偽がないものとして証明し、かつ、運営が著しく不当であるとして公認会計士・監査審査会から処分勧告が行われた1監査法人に対して、新規業務にかかる業務停止命令、課徴金納付命令及び業務改善命令を発出するなど、以下の処分を行っている。
処分年月
処分対象
処分内容
処分理由
27年7月
監査法人セントラル
業務改善命令
著しく不当な業務運営
27年10月
公認会計士1名
業務停止2月
信用失墜行為
(税理士法に基づく業務停止処分)27年10月
公認会計士1名
業務停止2月
信用失墜行為
(税理士法に基づく業務停止処分)27年10月
公認会計士1名
業務停止4月
信用失墜行為
(税理士法に基づく業務停止処分)27年12月
仁智監査法人
業務改善命令
著しく不当な業務運営
27年12月
新日本有限責任監査法人
新規業務停止3月、業務改善命令、課徴金納付命令2,111百万円
過失による虚偽証明、著しく不当な業務運営
公認会計士1名
公認会計士2名
公認会計士4名業務停止6月
業務停止3月
業務停止1月過失による虚偽証明
28年3月
公認会計士1名
業務停止1月
信用失墜行為
(税理士法に基づく業務停止処分)28年3月
公認会計士1名
業務停止4月
信用失墜行為
(税理士法に基づく業務停止処分)28年4月
明誠有限責任監査法人
業務改善命令
著しく不当な業務運営
(参考) 24年
6月末25年
6月末26年
6月末27年
6月末28年
6月末公認会計士の登録数(人)
23,132
24,965
26,274
27,360
28,353
監査法人の数(法人)
215
216
220
218
217
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2.外国監査法人等の検査監督
金融庁及び公認会計士・監査審査会では、「外国監査法人等に対する検査監督の考え方」を公表し、外国監査法人等の所属する国の監査制度や監査人監督体制の同等性が確認され、情報交換等の監査監督上の協力に関する書簡などが交換され、相互主義が担保される場合には、当該国の当局が行う報告徴収又は検査に依拠することとしている(相互依拠)。(資料3-3-11、3-3-12参照)
28年4月には、フランス会計監査役高等評議会(H3C)との間で情報交換等の監査監督上の協力に関する書簡を交換した。
金融庁及び公認会計士・監査審査会は、引き続き、相互依拠に向けた外国監査法人等に対する検査監督体制の整備のため、諸外国の当局との情報交換等の取組みを進めていく。
VII 公認会計士の魅力向上に向けた取組み
公認会計士及び公認会計士試験合格者が経済社会の幅広い分野で活用されることを目指して、21年以降、金融庁、公認会計士・監査審査会、日本公認会計士協会、日本経済団体連合会、金融4団体による意見交換会を開催してきたところ。金融庁においては、課題解決に向けて必要な当面の対応策について、アクションプランとして策定しており、組織内会計士のネットワークの強化、会計大学院協会との連携及び若年層を対象とした広報活動などの施策を盛り込んでいる。(資料3-3-13参照)
27事務年度は、引き続き、アクションプランに基づき、上記の施策や、組織内会計士の活躍状況の記載を更に充実させた試験合格者等向けパンフレットの作成、組織内会計士による大学での講演の実施など、関係団体と連携しつつ、公認会計士の魅力向上に向けた取組みを行った。
第4節 その他金融・資本市場等に関する各種施策等
I 金融商品取引業等に関する諸制度の整備
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1.私設取引システム(PTS)等による取引所金融商品市場外での取引に係る価格公表制度の見直し
取引所金融商品市場外での売買等に関する報告等につき、当該売買等に関する報告を行うPTS業務の認可を受けた金融商品取引業者(PTS業者)及び当該報告を受けて売買等に関する公表を行う日本証券業協会の負担軽減のため、PTS業者による個別銘柄のリアルタイム報告(5分以内)を不要とする等の金融商品取引業協会等に関する内閣府令の改正を行った(注1)(平成26年7月14日公布、28年9月5日施行予定)。
(注1)本件に関して、日本証券業協会においても取引所金融商品市場外での売買等に関する自主規制規則を見直し、PTS業者が日本証券業協会のシステムを利用して個別銘柄のリアルタイム公表(5分以内)を行う等の改正が行われた。同規則の施行後においては取引所金融商品市場外での売買等に関する情報については、従来と同様に日本証券業協会のウェブサイトを通じてリアルタイムで取得することができる。
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2.インサイダー取引規制の見直し
金融審議会金融分科会報告「近年の違反事案及び金融・企業実務を踏まえたインサイダー取引規制をめぐる制度整備について」(25年2月27日)における提言を踏まえ、いわゆる「知る前契約」「知る前計画」に係るインサイダー取引規制の適用除外について、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令の改正を行った(27年9月2日公布、同月16日施行)。
具体的には、これまで適用除外とされてきた類型に当てはまらない取引であっても、インサイダー取引規制上問題のない取引については、これを円滑に行うことができるよう、次の~を要件とするより包括的な適用除外規定を設けることとした。
未公表の重要事実を知る前に締結・決定された契約・計画の存在
裁量性の排除のため、売買等の具体的な内容が、あらかじめ特定されている、又は定められた計算式等で機械的に決定されること
契約・計画に従って売買等が執行されること
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3.投資型クラウドファンディングに係るクレジットカード決済について
金融商品取引法では、信用取引以外の方法で行う金銭の貸付けその他信用の供与を条件とする売買の受託等を、原則として禁止しており、クレジットカード決済も原則認められていない。
但し、投資家保護上の問題が少ないと認められるものについては例外を認めており、具体的には、累積投資契約について、信用供与額が10万円以下で翌月一括払いを満たす場合であれば、クレジットカード決済を可能としているところ。
そこで、投資型クラウドファンディングについても、累積投資契約と同様、信用供与額が10万円以下で翌月一括払いを満たす場合には、クレジットカード決済を行うことができるよう、金融商品取引業等に関する内閣府令の改正を行った(28年6月30日公布、同日施行)。
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4.投資一任契約における契約締結時交付書面の交付義務緩和
投資一任契約に基づく個々の有価証券売買等の取引については、投資判断を金融商品取引業者等に一任しており、個別取引の詳細を都度確認するニーズが低いと考えられること及び最長3ヶ月に1回交付される取引残高報告書で期中の個別取引の詳細を確認できることから、顧客の事前承諾を得ている場合には、契約締結時交付書面の交付省略を認める旨の金融商品取引業等に関する内閣府令の改正を行った(28年6月30日公布、同日施行)。
II 金融商品取引所をめぐる動き
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1.JPX日経インデックス400について
日本取引所グループ及び東京証券取引所は、日本経済新聞社と共同で、収益性やコーポレートガバナンス等、グローバルな投資要件を満たした、「投資者にとって魅力の高い会社」で構成される株価指数「JPX日経インデックス400」を26年1月から算出している。
その算出当初から、本インデックスに連動したETFの上場や公募投信の運用がなされ、現在は、東京証券取引所に6商品のETFが上場し、50以上の公募投信が運用されている。海外でも、26年9月にロンドン証券取引所等にETFが上場され、28年6月末では7カ国でETFが上場されている。また、大阪取引所において26年11月からは、本インデックスの先物取引が開始されている。
III 証券・デリバティブ決済システムをめぐる動き
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1.経緯
先般の世界的な金融危機を受け、G20ピッツバーグ・サミット首脳声明などにおける国際的に重要な問題として認識された課題(注)等に関して、我が国金融・資本市場において、早急に取り組むべき諸課題を整理した「金融・資本市場に係る制度整備について」(22年1月)、「「店頭デリバティブ市場規制にかかる検討会」における議論の取りまとめ」(23年12月)を公表した。
これらを踏まえ、22年5月に成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」において、一定の店頭デリバティブ取引に係る清算機関の利用義務付け及び取引情報保存・報告制度等を盛り込む改正を行った(24年5月関係政令公布、同年11月施行、24年7月内閣府令等公布、同年11月施行)。また、取引情報保存・報告制度の対象を拡大する内閣府令の改正を行った(26年11月公布、27年4月施行)。さらに、清算集中義務の対象を拡大する内閣府令等の改正を行った(26年6月公布、26年12月(対象者拡大部分)・27年7月(対象取引拡大部分)施行)。
(注)21年9月のG20ピッツバーグ・サミットでは、「標準化されたすべての店頭デリバティブ契約は、適当な場合には、取引所又は電子取引基盤を通じて取引され、中央清算機関を通じて決済されるべきである。店頭デリバティブ契約は、取引情報蓄積機関に報告されるべきである」旨、合意された。
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2.概要
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(1)店頭デリバティブ取引の決済の安定性・透明性の向上
清算集中義務の対象者及び対象商品の更なる拡大のために、内閣府令を改正し、以下の措置を講じた(26年11月19日公布、28年12月1日施行予定)。
清算集中義務の対象者に保険会社を追加
信託財産に属するものとして経理される取引のうち、過年度の各月末日における店頭デリバティブ取引に係る想定元本の合計額の平均額が3,000億円以上である信託財産に係るものを、清算集中の対象となる取引に追加
また、一定の店頭デリバティブ取引の電子取引基盤の利用義務付け等を盛り込んだ「金融商品取引法等の一部を改正する法律」が成立(24年9月)したことを受け、第1節II.1に記載したとおり、関係政令・内閣府令の整備を行った。
さらに、中央清算されない店頭デリバティブ取引への証拠金授受の義務付け等を盛り込んだ内閣府令等を整備した(28年3月公布、同年9月施行予定)。
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(2)国債取引等の証券決済・清算態勢の強化
国債については、「金融・資本市場に係る制度整備について」を踏まえ、市 場関係者において、22年6月に公表された「国債取引の決済リスク削減に関する工程表」に基づき、30年度の上期に国債の決済期間を短縮化(T+1)することを目指し、その実現に向けた課題等について議論が進められている。
株式等についても、市場関係者において、検討が進められており、27年12月に中間報告書がとりまとめられ、31年中のなるべく早い時期を目標に株式等の決済期間の短縮化(T+2)を実施することが決定された。
金融庁は、こうした検討に積極的に参加するとともに、半年毎に更新される工程表を、金融庁ウェブサイトで公表し広く周知する(27年12月)ことなどにより、市場関係者の取組みを支援してきた。
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IV 「地域の成長マネー供給促進フォーラム」の開催
地域の実情を踏まえつつ成長マネーの供給促進を図る観点から、地元ベンチャー企業の経営者をはじめとし、地域金融機関、ベンチャーキャピタル、証券取引所、証券会社、行政当局等の関係者が一堂に会し、資本市場をめぐる現状や課題について幅広く意見交換を行うとともに、地域への成長マネー供給に係る取組事例の紹介・共有等を図るため、「地域の成長マネー供給促進フォーラム」を、27年12月9日に仙台、28年2月12日に名古屋、同年6月10日に金沢で開催した。
第4章 預金取扱等金融機関・保険会社その他の金融に関する制度の企画・立案
第1節 情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年法律第62号)
I 経緯
情報通信技術の急速な進展等、最近における金融を取り巻く環境の変化に対応し、金融機能の強化を図ることが、喫緊の課題となっている。このような状況を踏まえ、金融グループにおける経営管理の充実、共通・重複業務の集約等を通じた金融仲介機能の強化、ITの進展に伴う技術革新への対応、仮想通貨への対応等に係る施策を盛り込んだ「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」が、平成28年5月25日に成立し、同年6月3日に公布された。
II 概要
主な改正内容は、以下のとおりである。(資料4―1―1参照)
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1.銀行法の一部改正
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(1)金融グループにおける経営管理の充実
銀行持株会社(銀行持株会社を有さないグループの場合は、グループ頂点の銀行)は、その属するグループの経営の基本方針の策定及びその適正な実施の確保等、当該グループの経営管理を行わなければならないこととする。
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(2)共通・重複業務の集約を通じた金融仲介機能の強化
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ア.持株会社による共通・重複業務の執行
銀行持株会社は、認可を受けて、銀行持株会社グループに属する二以上の会社(銀行を含む場合に限る。)に共通して必要とされる業務であって、当該業務を銀行持株会社が行うことが当該グループの業務の一体的かつ効率的な運営に資するものを、当該会社に代わって行うことができることとする。
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イ.子会社への業務集約の容易化
銀行持株会社グループに属する二以上の会社(銀行を含む場合に限る)が、共通する業務を当該グループに属する他の会社(業務委託先)に委託する場合において、銀行持株会社が当該業務の的確な遂行を確保するための措置を講ずる場合には、当該銀行には、業務委託先の管理のための規制を適用しないこととする。
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ウ.グループ内の資金融通の容易化
銀行が同一の銀行持株会社グループに属する他の銀行との間で取引を行う 場合であって、当該取引を行うことにより銀行の経営の健全性を損なうおそれがないこと等の要件を満たすものとして承認を受けた場合には、特定関係者との間の取引等の規制(いわゆるアームズ・レングス・ルール)を適用しないこととする。
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(3)ITの進展に伴う技術革新への対応
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ア.金融関連IT企業等への出資の容易化
銀行又は銀行持株会社は、認可を受けて、情報通信技術その他の技術を活用した銀行業の高度化若しくは利用者の利便の向上に資する業務又はこれに資すると見込まれる業務を営む会社の議決権について、基準議決権数を超える議決権を取得し、又は保有することができることとする。
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イ.決済関連事務等の受託の容易化
銀行の子会社である従属業務を営む会社(主として銀行の営む業務のためにその業務を営む会社)に求められる当該銀行に対する収入依存の要件を一部緩和することとする。
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(4)外国銀行代理業務に関する特則
銀行等が外国銀行代理業務を行おうとする場合、委託元である外国銀行ごとの個別の認可のほか、外国銀行グループごとの包括的な認可によることを可能とする特例を定めることとする。
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(5)その他
その他所要の規定の整備を行うこととする。
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2.資金決済に関する法律の一部改正
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(1)ITの進展等を踏まえた規制の合理化等
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ア.IT機器を利用した前払式支払手段に対応した利用者に対する情報提供方法に関する規定の整備
前払式支払手段に係る支払可能金額等の情報の利用者に対する提供方法に ついて、証票等の交付の有無を前提とした規定を改め、規定の合理化を行うこととする。
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イ.前払式支払手段の払戻し時の公告に関する規定の整備
前払式支払手段発行者が、その発行する前払式支払手段について払戻しを行う場合の公告に関する規定を整備することとする。
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ウ.前払式支払手段に係る苦情の処理に関する規定の整備
前払式支払手段発行者は、前払式支払手段の発行及び利用に関する利用者からの苦情の適切かつ迅速な処理のために必要な措置を講じなければならないことを明確化することとする。
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エ.前払式支払手段に係る発行保証金の額の算定に関する特例
前払式支払手段発行者は、発行保証金の額の算定の基準日について、毎年3月末日及び9月末日の基準日に加え、毎年6月末日及び12 月末日を基準日とすることを選択できることとする。
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オ.資金移動業の一部廃止に係る手続の整備
資金移動業者が、その資金移動業の一部を廃止した場合の手続を整備することとする。
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(2)仮想通貨交換業に係る制度整備
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ア.定義
「仮想通貨」の定義を定めることとする。
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イ.登録制の導入
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(ア)仮想通貨交換業(仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換等を業として行うことをいう。)は、登録を受けた法人でなければ行ってはならないこととする。
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(イ)仮想通貨交換業者の登録手続、登録拒否要件等を定めることとする。
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ウ.業務に関する規定の整備
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(ア)仮想通貨交換業者は、情報の安全管理のために必要な措置を講じなければならないこととする。
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(イ)仮想通貨交換業者は、利用者への情報提供など利用者の保護を図り、業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならないこととする。
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(ウ)仮想通貨交換業者は、利用者の財産を自己の財産と分別して管理し、その管理の状況について、定期に公認会計士又は監査法人の監査を受けなければならないこととする。
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(エ)仮想通貨交換業者に関し、金融分野における裁判外紛争解決制度(いわゆる金融ADR制度)を設けることとし、紛争解決機関との間で契約を締結する措置等を講じなければならないこととする。
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エ.監督規定の整備
仮想通貨交換業者に関し、帳簿書類及び報告書の作成、公認会計士又は監査法人の監査報告書等を添付した当該報告書の提出、立入検査、業務改善命令等の監督規定を設けることとする。
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オ.認定資金決済事業者協会に関する規定の整備
仮想通貨交換業者が設立した一般社団法人であって、仮想通貨交換業の適切な実施の確保を目的とすること等の要件に該当すると認められるものを、法令遵守のための会員に対する指導等を行う者として認定することができることとするなど、認定資金決済事業者協会に関する規定を設けることとする。
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カ.罰則
仮想通貨交換業者に関し、所要の罰則規定の整備を行うこととする。
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(3)その他
その他所要の規定の整備を行うこととする。
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III その他
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1.施行期日
この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとする。
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2.経過措置等
所要の経過措置等を定めることとする。
銀行法等の改正に伴い、仮想通貨交換業者を犯罪による収益の移転防止に関する法律の特定事業者に追加する等、関係法律の改正を行うこととする。
第2節 フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議
I 経緯・背景等
欧米等に比べ、我が国では、先進的なFinTechベンチャー企業やベンチャーキャピタルの登場が未だ必ずしも実現していないとの指摘がある。
我が国の強みを活かしつつ、海外展開を視野に入れたFinTechベンチャー企業の創出を図っていくためには、技術の担い手(研究者、技術者等)とビジネスの担い手(企業、資金供給者、法律・会計実務家等)など、幅広い分野の人材が集積し、これらの連携の中で、FinTechベンチャー企業の登場・成長が進んでいく環境(エコシステム)を整備していくことが重要である。
このため、「FinTechエコシステム」の実現に向けた方策を検討するとともに、こうした動きが金融業に与える影響等について議論することを目的として、平成28年4月27日に「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」(座長:福田慎一 東京大学大学院経済学研究科教授)を設置した。(資料4-2-1~4-2-4参照)
II 議論の状況
○第1回(28年5月16日開催)
事務局から、有識者会議を設置した趣旨・目的等について説明を行った後、伊藤委員からヒアリングを行い、その後、討議が行われた。
○第2回(28年6月14日開催)
松尾委員から「人工知能の動向と金融との関係」と題して、金子委員から「A brief history and ecosystem of Silicon Valley」と題してヒアリングを行った後、討議が行われた。
第3節 決済高度化官民推進会議
I 経緯・背景等
決済業務等の高度化は、経済の発展に大きな影響を及ぼすものであり、FinTechの動きが進展する中、利用者利便の向上や国際競争力強化の観点から、強力に決済インフラの改革や金融・ITイノベーションに向けた取組みを実行していくことが重要である。
平成27年12月に、金融審議会「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」でとりまとめた報告においても、こうした決済業務等の高度化に向けた取組みを官民挙げて実行に移していくための体制の整備が課題とされた。
こうしたことを受け、同ワーキング・グループ報告書で示された課題(アクションプラン)の実施状況をフォローアップし、FinTechの動きが進展する中で決済業務等の高度化に向けた取組みを継続的に進めるため、金融界・産業界・個人利用者・行政など決済に関する幅広いメンバーが、官民連携してフォロー・意見交換することを目的として、28年6月3日に「決済高度化官民推進会議」(座長:森下哲朗 上智大学法科大学院教授)を設置した。(資料4-3-1~4-3-4参照)
II 議論の状況
○第1回(28年6月8日開催)
事務局から、推進会議を設置した趣旨・目的等について説明を行った後、全国銀行協会の田村委員から決済高度化に向けた全銀協の取組状況についての報告が行われ、その後、討議が行われた。
第4節 FinTechサポートデスク
I 経緯
平成27年9月に公表した「平成27事務年度 金融行政方針」において、金融庁としては、FinTechの動きに速やかに対応し、将来の金融ビジネスにおける優位性を確保するため、民間部門と協働しつつ、FinTechの動向を出来る限り先取りして把握していくこととしている。
これを受け、同年12月、FinTechに関する一元的な相談・情報交換窓口として「FinTechサポートデスク」を金融庁に設置し、IT技術の進展が金融業に与える影響を前広に分析するとともに、金融イノベーションを促している。
II 概要
「FinTechサポートデスク」においては、事業者からの相談に応じて、事業実施の支援を行うとともに、FinTechに関するビジネスや事業者のニーズ把握を進めている。
設置以後、7ヶ月で計91件の問い合わせが寄せられている。月平均では13件の問い合わせが寄せられており、そのうちの多く(8割弱)は事業計画に基づいた、法令解釈に係る具体的な相談が占めている。法令解釈に係る相談のうち、3割弱は銀行代理・金融商品仲介・保険販売等、既存金融機関の顧客接点を担うサービスに関する相談が占めている。このほか、仮想通貨に関する相談が2割、クラウドファンディングに関する相談が1割強寄せられている。(資料4‐4‐1参照)
法令解釈に係る相談(70件)のうち、既に対応が終了した案件(46件)については、平均して4営業日前後で対応している。
第5節 振り込め詐欺救済法に基づく預保納付金の活用について
I 振り込め詐欺救済法の概要
振り込め詐欺救済法は、振り込め詐欺等の預貯金口座への振込みを利用した犯罪の被害者に対して、振り込んだ先の口座(犯罪利用口座)に一定の残高が残っている場合に、当該残高を原資として返金を行うことにより被害の回復を図ること等を目的とした法律であり、平成20年6月に施行されている。
本法律に定める手続の対象となる預貯金口座は、詐欺やヤミ金融など「人の財産を害する罪の犯罪行為」(いわゆる財産犯)において振込先として利用された口座である。同法上の救済手続は、こうした口座の凍結とその後の失権手続、被害者への返金手続の2段階で構成されている。
以上の救済手続を経ても、被害者からの返金申請がなかった場合など、返金しきれずに残金が発生する場合もある。この残金については、同法上、預金保険機構に納付されることとされている(以下「預保納付金」という。)。
この預保納付金について、預金保険機構は、まず、犯罪とは無関係であるにもかかわらず誤って預貯金口座を失権されてしまった名義人(口座名義人)を事後的に救済することができるよう、その一定割合を留保(保管)することが法令上義務付けられている。他方、預保納付金のうち、上記により留保(保管)されたもの以外の額については、同法上、「主務省令で定めるところにより、犯罪被害者等の支援の充実のために支出する」ものとされている。(資料4-5-1参照)
II 預保納付金事業について
預保納付金の具体的使途については、22年10月以降、金融庁、内閣府、財務省の政務で構成されるプロジェクトチームにおいて議論がなされた。その結果、預保納付金を「犯罪被害者等の子どもに対する奨学金貸与」及び「犯罪被害者等支援団体に対する助成」の両事業に活用することとされた(内閣府・財務省令で規定)。
預保納付金事業は、公募を通じて選定された公益財団法人日本財団を事業の担い手として24年度より開始されている。
(参考)現行事業の概要
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奨学金事業(高校生から大学院生等を対象とした無利子貸与、返済期間は30年以内)
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大学生:月額8万円、大学院生:月額10万円
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高校生:月額5万円(私立)、3万円(国公立)
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入学時に一時金を貸与(大学生は30万円)
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団体助成事業
犯罪被害者等を支援する団体を対象に、当該団体の財政基盤を支える仕組みを作る事業や犯罪被害者等への支援拡充のための資機材を整備する事業等について、助成を行っている。
III 預保納付金事業の見直しについて
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1.預保納付金事業の見直し
預保納付金事業については、政府の第3次犯罪被害者等基本計画(計画期間:28~32年度)の策定に向けた議論を通じて、その見直しを求める意見が寄せられてきた。こうした状況を踏まえ、27年11月に、金融庁、内閣府、財務省の政務で構成されるプロジェクトチームを設置し、議論が行われ、28年3月に報告書が取りまとめられた。同報告書で示された預保納付金事業の主な見直し内容は、以下のとおり。(資料4-5-2参照)
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奨学金事業(高校生から大学院生等を対象とした給付)
貸与制から給付制に移行する。
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大学生:月額5万円、大学院生:月額5万円
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高校生:月額2.5万円(私立)、1.7万円(国公立)
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入学時に一時金を支給(大学生は30万円)
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団体助成事業
団体助成事業において、現在、原則として人件費は対象となっていないところ、犯罪被害者等支援団体に定着することが見込まれる人材については、相談員としての要件を満たすまでに必要な育成費(雇用経費)を助成対象に追加。
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2.内閣府・財務省令の改正
事業の内容は内閣府・財務省令で規定していることから、上記の見直し内容に基づき、これを改正した(28年6月22日公布、29年4月1日施行予定)。
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3.担い手の再選定
今般の給付制の導入等の見直しにより、事業の内容が変わることから、担い手の再選定手続きを開始した(28年6月22日担い手募集開始)。
第6節 保険業法に関する制度の整備
I 保険業法等の一部を改正する法律(平成26年法律第45号)の施行
近年の保険会社を巡る経営環境の大きな変化を踏まえ、新たな環境に対応するために保険募集規制を整備することや、保険業の発展を通じて経済活性化への貢献を実現していくことが喫緊の課題となっている。
このような状況を踏まえ、保険の信頼性を確保するための施策及び保険会社等の海外への積極的な業務展開を推進するなど、保険業を活性化するための施策等を盛り込んだ「保険業法等の一部を改正する法律案」が、26年5月23日に成立し、同月30日に公布された。
これを受け、2年以内に施行することとされている、情報提供義務、意向把握義務の導入、保険募集人等に対する体制整備義務の導入に係る規定について、28年5月29日に施行された。また、金融庁では、円滑な施行に向け、保険会社等と双方向の議論や各種セミナーにおける講演、出版物への寄稿等を行った。
II 不妊治療に係る保険の引受けについての制度の整備
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1.経緯
不妊治療への社会的関心は高まっているが、その治療内容によっては多額の費用を要することから、当該費用をてん補するための保険に対する需要が高まりつつあることを受け、内閣府令の改正を行った。
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2.概要
不妊治療に係る保険の引受けについて、内閣府令を改正(28年3月31日公布、同年4月1日施行)し、不妊治療を要する身体の状態を事由とした保険の引受けができることとした。
第7節 金融庁への役員等の氏名届出等に係る内閣府令等及び監督指針の改正
金融機関が、金融庁に対して新規に登録等を申請する場合には、一般的に、役員等の氏名の記載が必要とされている。金融機関の役員等に変更がある際にも、各業法において、その旨の届出が必要とされている。
他方、当該申請・届出における、婚姻前の氏名の使用については、本人確認の手続を含め、各業法等に特段規定がなかった。
これらの状況を踏まえ、金融機関が金融庁に役員等の氏名届出等を行う際に、現在の戸籍上の氏名とともに、婚姻前の氏名を併記することを可能とする旨の内閣府令等及び監督指針の改正を行った(平成28年3月1日公布・施行)。(資料4-7-1参照)
第5章 審議会等の活動状況
第1節 金融審議会
I 金融審議会の構成
金融審議会は、国内金融等に関する重要事項の調査審議等をつかさどる内閣総理大臣、金融庁長官及び財務大臣の諮問機関として設置され(金融庁設置法第6条、第7条)、現在その傘下に金融分科会とその下部機関、金利調整分科会、自動車損害賠償責任保険制度部会、公認会計士制度部会が設置されている。(資料5-1-1~2参照)
II 平成27事務年度の開催実績
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1.総会・金融分科会合同会合
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(1)第35回総会・第23回金融分科会合同会合(平成27年10月23日開催)
審議会に対して、「企業の情報開示のあり方等に関する検討」に関する諮問が行われ、「ディスクロージャーワーキング・グループ」が設置された。(資料5-1-3参照)
また、「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」及び「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」の検討状況等について、報告がなされた。
その後、27年9月に公表された「金融行政方針」について事務局より説明がなされた。
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(2)第36回総会・第24回金融分科会合同会合(28年2月8日開催)
「決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ」及び「金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ」における審議の結果について報告がなされた。
また、「ディスクロージャーワーキング・グループ」の検討状況等について、報告がなされた。
その後、最近の金融行政の動向として、「国際的な金融規制改革の動向」について、事務局より説明がなされた。
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(3)第37回総会・第25回金融分科会合同会合(28年4月19日開催)
審議会に対して、「市場・取引所を巡る諸問題に関する検討」に関する諮問が行われ、「市場ワーキング・グループ」が設置された。(資料5-1-4参照)
また、27年10月の諮問事項に関し、「ディスクロージャーワーキング・グループ」における審議の結果について報告がなされた。
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2.ワーキング・グループ
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(1)決済業務等の高度化に関するワーキング・グループ
27年7月以降、7回にわたり、「中間整理」(当ワーキング・グループの前身となったスタディ・グループが取りまとめ、同年4月公表)で指摘された課題や仮想通貨について、審議を重ね、同年12月22日、報告書がとりまとめられた。(資料5-1-5~6参照)
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(2)金融グループを巡る制度のあり方に関するワーキング・グループ
27年5月以降、9回にわたり、関係者からのヒアリングを行いながら、金融グループにおける経営管理機能の充実とグループ全体での戦略的かつ柔軟な業務運営の促進との視点を踏まえ審議を重ね、同年12月22日、報告書がとりまとめられた。(資料5-1-7~8参照)
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(3)ディスクロージャーワーキング・グループ
27年11月以降、5回にわたり、開示の内容や開示の日程・手続のあり方、非財務情報の開示の充実等について審議を重ね、28年4月18日、報告書がとりまとめられた。(資料5-1-9~10参照)
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(4)市場ワーキング・グループ
28年5月以降、2回にわたり、取引の高速化への対応、市場間競争のあり方といった課題について、審議を行った。(資料5-1-11~12参照)
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第2節 自動車損害賠償責任保険審議会
I 設置
自動車損害賠償責任保険審議会(以下、「自賠審」という。)は、自動車損害賠償保障法(以下、「自賠法」という。)第31条を設立根拠として金融庁に設置され、内閣総理大臣の諮問に応じて調査審議を行っている。
(注)内閣総理大臣の諮問事項
自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)を含む損害保険事業の免許
自賠責保険にかかる約款又は算出方法書の変更認可又は変更命令
基準料率等について、自賠法等による変更命令
基準料率の審査期間の短縮、審査期間内における変更又は撤回命令 等
II 自動車損害賠償責任保険審議会の組織(資料5-2-1参照)
自賠審は委員13人をもって組織され、委員は、学識経験のある者(7名)、自動車交通又は自動車事故に関し深い知識及び経験を有する者(3名)、保険業に関し深い知識及び経験を有する者(3名)から内閣総理大臣によって任命されることとなっている。
このほか、特別の事項を調査審議させるため必要があるときは、特別委員を置くことができ、金融庁長官によって任命されることとなっている。
会長は委員のうちから互選により決定されることとなっており、現会長は、落合誠一氏(東京大学名誉教授)である。
III 自動車損害賠償責任保険審議会の審議状況
平成28 年1月21 日に、第135 回自賠審が開催され、自賠責保険の基準料率の検証結果を踏まえた基準料率の改定の必要性等について審議が行われた。
審議においては、損害保険料率算出機構から27年度の自賠責保険の基準料率の検証結果が報告されたが、その内容は、27年度の予定損害率95.9%、28 年度の予定損害率95.4%というものであり、25年4月の基準料率改定時における予定損害率100.2%との乖離は27年度で▲4.3%、28年度で▲4.8%にとどまっており、基準料率の改定は必要ないものとされた。
その他、自動車安全特別会計、民間保険会社、JA共済それぞれにおける27年度の自賠責保険運用益の使途等について報告がなされた。
(注)損害率=(支払保険金/収入純保険料)×100
第3節 企業会計審議会
I 企業会計審議会の構成
企業会計審議会(会長:安藤英義 専修大学大学院教授)は、会計を巡る事項、監査基準の設定、その他企業会計制度の整備改善について調査審議等することとされており、その下に、会計部会、監査部会、内部統制部会の各部会が設置されている。(資料5-3-1参照)
II 平成27事務年度の審議状況
○第3回・会計部会(27年11月19日開催)
IFRSの任意適用企業の拡大促進及びIFRSに関する国際的な意見発信の強化に向けて、IFRSに基づく会計監査の実務を担える人材や、IFRSに関して国際的な場で意見発信できる人材の裾野の拡大が必要であり、企業や監査法人、日本公認会計士協会等において取組みを強化すべきであるとされた。
第4節 金融トラブル連絡調整協議会
I 経緯
金融トラブル連絡調整協議会(座長:山本和彦一橋大学大学院法学研究科教授)は、金融審議会答申(平成12年6月)を踏まえ、同審議会答申で早期に実施すべきとされた項目の実施を担保するとともに、業態の枠を超えた情報・意見交換を行い、金融分野における裁判外紛争処理制度の改善のため、消費者行政機関(内閣府等)、消費者団体、業界団体・自主規制機関、弁護士会及び関係行政機関(金融庁等)の担当者による任意の自主的な協議会として同年9月に設置されたものである。(資料5-4-1参照)
(参考)早期に実施すべきとされた項目は、
個別紛争処理における機関間連携の強化
苦情・紛争処理手続の透明化
苦情・紛争処理事案のフォローアップ体制の充実
苦情・紛争処理実績に関する積極的公表
広報活動を含む消費者アクセスの改善
の各点である。
II 議論の状況
12年9月7日の第1回会合以降、審議会答申の目的を達成するために、これまで51回の協議会を開催してきた。
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1.第50回金融トラブル連絡調整協議会
27年12月4日、第50回金融トラブル連絡調整協議会が開催された。同協議会では、指定紛争解決機関の業務実施状況(27年度上半期)及び「利用者からの信頼を向上させるための対応」等について報告・意見交換等を行った。(資料5-4-2参照)
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2.第51回金融トラブル連絡調整協議会
28年6月9日、第51回金融トラブル連絡調整協議会が開催された。同協議会では、指定紛争解決機関の業務実施状況(27年度)及び「指定紛争解決機関がない業態の苦情・紛争解決の対応」及び「金融ADRの当面の主要課題を考えて」(石戸谷委員)等について報告・意見交換等を行った。(資料5-4-3参照)
第6章 政府全体の施策における金融庁の取組み
第1節 政府の成長戦略等における金融庁の取組み
I 「日本再興戦略2016」(平成28年6月2日閣議決定)
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1.経緯
25年6月、アベノミクスにおける「三本の矢」(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)の「三番目の矢」として、産業競争力会議での議論を経て、「日本再興戦略」(25年6月14日閣議決定)が取りまとめられた。その改訂版として、26年6月に「『日本再興戦略』改訂2014」(26年6月24日閣議決定)、27年6月に「『日本再興戦略』改訂2015」(27年6月30日閣議決定)がそれぞれ策定された。
そして、28年6月、回り始めた経済の好循環を、持続的な成長路線に結びつけ、「戦後最大の名目GDP600兆円」の実現を目指していくとして、「日本再興戦略2016」が策定された(28年6月2日閣議決定)。
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2.金融庁関連の施策(資料6-1-1参照)
「日本再興戦略2016」においては、金融庁関連の主な施策として、以下の施策が盛り込まれている。
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(1)「攻めの経営」の促進
○コーポレートガバナンス改革による企業価値の向上
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コーポレートガバナンス改革は、引き続き、アベノミクスのトップアジェンダであり、今後はコーポレートガバナンス改革を「形式」から「実質」へと深化させていくことが最優先課題である。そのためには、機関投資家サイドからの上場企業に対する働きかけの実効性を高めていくことが有効であり、これにより、中長期的な視点に立った「建設的な対話」の実現を強力に推進していく。
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(2)活力ある金融・資本市場の実現
○成長資金の供給に資するポートフォリオ・リバランスの促進と市場環境の整備等
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より良い資金の流れを実現し、国民の安定的な資産形成につながるポートフォリオ・リバランスを促進するため、家計と金融機関の双方に対して働きかけを行っていく。
○FinTechをめぐる戦略的対応
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FinTechと呼ばれる金融・IT融合の動きの進展に対し、利用者保護や不正の防止等の観点も踏まえつつ、FinTechによる金融革新の推進や制度面での対応を進め、利用者利便の向上や我が国経済の成長力強化につなげていく。
○金融仲介機能の質の改善
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金融機関が、経済・市場の環境変化に適時適切に対応し、金融仲介機能の安定的な発揮を通じて我が国産業・企業の競争力・生産性の向上等を金融面から支援していく。
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(参考:「日本再興戦略2016」の構成)
第1 総論
第2 具体的施策
I | 新たな有望成長市場の創出、ローカルアベノミクスの深化等 |
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II | 生産性革命を実現する規制・制度改革 |
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2.未来投資に向けた制度改革
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2-1.「攻めの経営」の促進
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2-2.活力ある金融・資本市場の実現
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III | イノベーション・ベンチャー創出力の強化、チャレンジ精神にあふれる人材の創出等 |
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IV | 海外の成長市場の取り込み |
V | 改革のモメンタム~「改革2020」の推進~ |
II 「経済財政運営と改革の基本方針2016」(平成28年6月2日閣議決定)
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1.経緯
経済・財政一体改革を推進し、当面の経済財政運営と29年度予算編成に向けた考え方を示すため、経済財政諮問会議での議論を経て、「経済財政運営と改革の基本方針2016」(28年6月2日閣議決定)が取りまとめられた(骨太の方針)。
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2.金融庁関連の施策
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(1)企業の成長力・収益力の強化と活用
ESG(環境、社会、ガバナンス)や人材投資、研究開発投資などの無形資産への投資を含む取組や、資本効率の向上に向けた取組により、中長期的な成長力や収益力を強化することが重要である。そのため、取引所等の関係者と協力し、コーポレート・ガバナンスの実効性の向上に向けて取り組むとともに、企業と投資家の対話の充実に向けた具体策を検討する。
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(2)ストックを活用した消費・投資喚起
老後の生活等に備えた自助による資産形成を支援するためにも、NISAの利便性を向上させるとともに、平成35年までの投資可能期間を恒久化することを検討する。
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(参考:「経済財政運営と改革の基本方針2016」の構成)
第1章 現下の日本経済の課題と考え方
第2章 成長と分配の好循環の実現
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2.成長戦略の加速等
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(1)生産性革命に向けた取組の加速
企業の成長力・収益力の強化と活用
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3.個人消費の喚起
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(3)ストックを活用した消費・投資喚起
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第3章 経済・財政一体改革の推進
第4章 当面の経済財政運営と平成29年度予算編成に向けた考え方
III 「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015改訂版)」(平成27年12月24日閣議決定)
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1.経緯
まち・ひと・しごと創生本部において、26年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の改訂版として「まち・ひと・しごと創生総合戦略改訂2015」(27年12月24日閣議決定)が策定された。また、地方創生を本格展開し、各分野の施策を推進するため、「まち・ひと・しごと創生基本方針2016」(28年6月2日閣議決定)が策定された。
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2.「まち・ひと・しごと創生総合戦略改訂2015」における金融庁関連の施策
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(1)リスク性資金の充実に向けた環境整備
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金融機関等によるローカルベンチマーク等の活用により、地域企業の経営改善・ガバナンスを強化。こうしたことにより、地方に投資を呼び込む環境を整備する。
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地域経済活性化支援機構(REVIC)や政府系金融機関の活用の促進に加え、証券会社やプライベートエクイティファンド等による取組を促進する。
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(2)「プロフェッショナル人材戦略拠点」の整備等
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「プロフェッショナル人材戦略拠点」や金融機関等との連携を通じて、日本人材機構が、地域企業等へのコンサルティング、経営改善・生産性向上等に資する経営人材の紹介等を実施する。
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(参考:「まち・ひと・しごと創生総合戦略(2015改訂版)」の構成)
I. | 基本的な考え方 |
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II. | 政策の企画・実行に当たっての基本方針 |
III. | 今後の施策の方向性 |
IV. | 地方創生に向けた多様な支援 -「地方創生版・三本の矢」- |
IV 「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年6月2日閣議決定)
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1.経緯
アベノミクスの「新・三本の矢」(「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」)の実現を目的とする「一億総活躍社会」の実現に向けた具体的施策のとりまとめとして、一億総活躍国民会議での議論を経て、「ニッポン一億プラン」が策定された。
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2.金融庁関連の施策
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(1)未来投資に向けた制度改革(コーポレートガバナンスの強化)
コーポレートガバナンスの強化は、改革リストのトップアジェンダである。コーポレートガバナンス・コードの適用、独立社外取締役を選任する企業の増加、機関投資家のスチュワードシップ・コードの受入れなど、旧来型の内向きの経営マインドの一掃に取組んできた。形式だけではなく、実効的にガバナンスを機能させなければ、企業が「攻めの経営」に転じていくことは難しい。企業の情報開示の実効性・効率性を国際水準に照らしても高いものにするなど、更なる改革に着手し、企業と投資家の建設的な対話を促進する。
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(2)女性活躍の推進
旅券・金融機関口座等の旧姓使用の現状と課題について調査を行い、必要な取組を進める。
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(参考:「ニッポン一億総活躍プラン」の構成)
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1.成長と分配の好循環メカニズムの提示
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2.一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題である働き方改革の方向
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3.「希望出生率1.8」に向けた取組の方向
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(3)女性活躍
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4.「介護離職ゼロ」に向けた取組の方向
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5.「戦後最大の名目GDP600兆円」に向けた取組の方向
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(14)生産性革命を実現する規制・制度改革
(未来投資に向けた制度改革)
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6.10年先の未来を見据えたロードマップ
第2節 金融に関する税制
I 平成28年度税制改正について
平成28年度税制改正要望にあたり、
- 家計の資産形成の支援と成長資金の供給拡大
- 地域経済の活性化に資する中小企業の事業再生支援
- 「国際金融センター」としての利便性向上と活性化
を柱とし、種々の税制改正要望を行った。
この結果、平成28年度税制改正大綱(27年12月24日閣議決定)において以下の内容が盛り込まれた(資料6-2-1参照)。主要な項目は以下のとおり。
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1.NISAの更なる利用拡大に向けた利便性向上
NISAについては、マイナンバー制度の導入に伴い、口座開設手続き等の簡素化を図る観点から、以下の措置が認められた。
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口座開設の際等に必要な非課税適用確認書の交付申請書について、30年以降、基準日(勘定設定期間開始の前年の1月1日)における住民票の写し等の添付を不要とし、併せて30年以後の勘定設定期間を統合する。
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29年10月1日において、29年分の非課税管理勘定を設定しており、個人番号を告知している者については、30年以後の勘定設定期間に係る非課税適用確認書の交付申請書を提出したものとみなす。
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2.マイナンバーの導入に伴う手続きの簡素化
マイナンバー制度の活用により証券投資に係る税務手続きの簡素化を図る観点から、以下の措置が認められた。
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既に金融機関に対して個人番号を告知済みの者が、同一の金融機関において口座開設手続き等を行う際に、当該金融機関等で帳簿により当該個人の個人番号等を確認できる場合には、個人番号の告知等が不要とされる。
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3.金融所得課税の一体化
金融商品については、28年1月から、商品間の損益通算の範囲が、現行の株式等の配当・譲渡所得から公社債等の利子・譲渡所得等まで拡大された。
デリバティブ取引については損益通算が認められていないが、投資家が多様な金融商品に投資しやすい環境を整備する観点から、平成28年度与党税制改正大綱においては、以下の記載が盛り込まれた。
「デリバティブを含む金融所得課税の更なる一体化については、投資家が多様な金融商品に投資しやすい環境を整備し、証券・金融、商品を一括して取り扱う総合取引所の実現にも資する観点から、多様なスキームによる意図的な租税回避行為を防止するための実効性ある方策の必要性を踏まえ、検討する。」
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4.事業再生ファンドに係る企業再生税制の特例の延長
中小事業者の再生を引き続き支援する行う観点から、以下の措置が認められた。
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28年3月末とされている期限を、31年3月末まで3年延長する。
(注)本特例の適用対象となる中小事業者の範囲を、中小企業金融円滑化法の施行の日(21年12月4日)から28年3月31日までの間に、金融機関から受けた事業資金の貸付けに係る債務の弁済について、条件変更を受けた中小事業者とする。
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5.経営者の私財提供に係る譲渡所得の非課税措置の延長
中小事業者の再生を引き続き支援する行う観点から、以下の措置が認められた。
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28年3月末とされている期限を、31年3月末まで3年延長する。
(注)本特例の適用対象となる中小事業者の範囲を、中小企業金融円滑化法の施行の日(21年12月4日)から28年3月31日までの間に、金融機関から受けた事業資金の貸付けに係る債務の弁済について、条件変更を受けた中小事業者とする。
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6.日本版スクークに係る非課税措置の延長
利子を生じる社債の取扱いが禁じられているイスラム投資家による投資を促進し、日本市場の活性化を図る観点から、以下の措置が認められた。
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日本版スクークに係る海外投資家への配当及び信託からの不動産の買戻しに係る登録免許税に関する非課税措置の適用期限を3年延長する。
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7.協同組合の特性を踏まえた法人税に係る軽減税率
協同組合の特性等に十分に配慮し、法人税の基本税率との税率差を維持する観点から、協同組合に対する軽減税率について引下げを行うよう要望し、平成28年度与党税制改正大綱においては、以下の記載が盛り込まれた。
「協同組合等課税については、組合によって事業規模や事業内容が区々であるが、同一の制度が適用されている。そうした実態を丁寧に検証しつつ、組合制度の趣旨も踏まえながら、検討を行う。その上で、特に軽減税率のあり方について、事業分量配当の損金算入制度が適用される中で過剰な支援となっていないかといった点も勘案しつつ、平成27年度税制改正における受取配当等益金不算入の見直しの影響も考慮しながら、今般の法人税改革の趣旨に沿って、引き続き検討を行う。」
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8.火災保険等に係る異常危険準備金制度の充実
損害保険会社では、大型台風、雪害、洪水等の自然災害への保険金支払いが近年増大しており、巨大自然災害に対する保険金の支払いに耐えうる、十分な異常危険準備金残高の確保・維持が必要不可欠との観点から、以下の措置が認められた。
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保険会社等の異常危険準備金制度について、火災保険等に係る特例積立率の適用期限を3年延長する。
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9.投資法人(インフラファンド)に係る税制優遇措置の拡充
再生可能エネルギーの普及促進や金融資本市場の競争力強化の観点から、以下の措置が認められた。
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再生可能エネルギー発電設備を主たる投資対象資産とするインフラファンドの導管性要件に係る時限措置(10年以内に総資産に占める再エネ設備の割合を50%以下とすること)について、期限を「20年以内」に延長する。
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10.外国子会社合算税制(CFC税制)の抜本的見直し
我が国の金融機関が健全な海外事業展開を行うための環境を整備する観点から、適用除外基準の見直し、及びCFC税制の抜本的見直しを要望した。前者については、英国ロイズ市場で保険業を行う特定外国子会社等の実体基準、管理支配基準、非関連者基準について、適用方法の見直しが措置された。後者については、平成28年度与党税制改正大綱において、以下の記載が盛り込まれた。
「喫緊の課題となっている航空機リース事業の取扱いやトリガー税率のあり方、租税回避リスクの高い所得への対応等を含め、外国子会社の経済実体に即して課税を行うべきとするBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクト最終報告書の基本的な考え方を踏まえ、軽課税国に所在する外国子会社を利用した租税回避の防止という本税制の趣旨、日本の産業競争力や経済への影響、適正な執行の確保等に留意しつつ、総合的な検討を行い、結論を得る。」
II NISA(少額投資非課税制度)の普及・定着に向けた取組みについて
NISAは、個人投資家のすそ野を拡大し、家計の安定的な資産形成の支援と経済成長に必要な成長資金の供給拡大の両立を図るため、毎年120万円(27年までは100万円)を上限とする上場株式、公募株式投資信託等の新規購入分を対象に、その配当や譲渡益を最長5年間、非課税とする制度であり、26年1月より導入された。28年3月末時点において、NISAの口座開設数は約1,012万口座、買付額は約7兆7,554億円となっている。
また、28年1月からは、0歳から19歳の未成年者にNISA口座の開設を認めるジュニアNISA(未成年者少額投資非課税制度)が導入され、4月から投資が可能となった(年間投資上限額は80万円)。28年3月末時点において、ジュニアNISAの口座開設数は約8万口座となっている。
金融庁としては、投資家のすそ野の拡大に向けて、特に若年層や投資未経験者層へのNISAの普及・定着を図る観点から、引き続き、様々な取組みを進めていくこととしている。
27事務年度は、特に以下の取組みを行った。
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制度の効果検証の実施
27年12月末時点で制度の開始から2年が経過したことを踏まえ、NISAの利用状況や金融機関において販売されている商品内容及び販売態勢等について、「国民のNISAの利用状況等に関するアンケート調査」(28年2月)や金融機関へのヒアリング等を通じて、制度の総合的な効果検証を実施した。
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周知・広報活動の実施
若年層や投資未経験者層へ投資家のすそ野を拡大させるため、NISAや投資に関する基礎的な情報、ライフプランや資産運用のシミュレーションツール、有識者によるコラムなどのコンテンツを盛り込んだ「NISA特設サイト」を当庁ウェブサイト内に開設(28年5月30日)したほか、以下の取組みを実施した。
‐ 政府広報オンラインに制度の概要や趣旨などについての記事を掲載
‐ 日本経済新聞社「資産形成応援プロジェクト」への協力
‐ 「NISAの日」シンポジウム(28年2月13日)において、当庁幹部による講演等を実施したほか、新聞・雑誌等による取材、セミナー等における講演依頼に随時対応
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利用状況の調査
四半期毎に全金融機関を対象としたNISA・ジュニアNISA口座の開設・利用状況調査(資料6-2-2参照)を実施し公表した。
第3節 規制・制度改革等に関する取組み
I 規制・制度改革に関する取組み
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1.概要
「規制改革会議」(内閣総理大臣の諮問機関、平成25年1月設置)やその下に設置された5つのWGにおいて、規制・制度改革に関する議論がすすめられ、これを踏まえた政府の方針が、「規制改革実施計画」として毎年取りまとめられている。28年も「規制改革実施計画」が取りまとめられ、閣議決定された(28年6月2日)。
なお、この間、広く国民や企業等からの提案を受け付ける目的で、25年3月より開設された「規制改革ホットライン」には、規制改革提案が定期的に寄せられており、当該提案の是非についても随時検討を行っている。
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2.25年6月、26年6月、27年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」や規制改革ホットラインに寄せられた提案を踏まえた金融庁の本事務年度における主な対応
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(1)「規制改革実施計画」(25年6月14日閣議決定、26年6月24日閣議決定、27年6月30日閣議決定)に盛り込まれた規制の見直し
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電磁的な方法により利用される前払式支払手段の発行の廃止に伴う払戻しの公告の方法を柔軟化するため、資金決済に関する法律を改正した。
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銀行の連結決算状況表等の提出期限を緩和した(平成27年度中間決算分より適用)。
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銀行の特定子会社のGP業務の併営について対応するため、金融商品取引法施行令等を改正した。
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銀行が銀行代理業者である場合の銀行代理業者の許可申請書の変更届出の記載事項や添付書類の内容等の簡略化について対応するため、銀行法等を改正した。
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(2)「規制改革ホットライン」に寄せられた提案に関する規制の見直し
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「規制改革ホットライン」に寄せられた提案を踏まえて、「金融関連IT企業等への出資の容易化」や「銀行グループ内外での決済関連事務等の受託の容易化」等を盛り込んだ、「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」を国会に提出し、28年5月25日に成立、同年6月3日に公布された。
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(3)「規制レビュー」への対応
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「規制レビュー」とは、各府省が所管する多数の規制をより適時に実効性ある形で見直していくため、所管府省自身が主体的・積極的に規制改革に取り組むよう構築されたシステム。
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「規制レビュー」の一環として本年実施した取組としては、まず、規制に関わる「法律ごとの見直し年度・周期」を修正した。また、見直し年度・周期が訪れた規制等について、規制シートを作成した。
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3.28年6月2日に新たに閣議決定された「規制改革実施計画」における金融庁関連の施策
規制改革会議では、成長戦略及び国民の選択肢拡大につながる規制改革が中心に検討され、その結果が「規制改革に関する第4次答申~終わりなき挑戦~」として公表された(28年5月19日)。それを踏まえて、「健康・医療」、「雇用」、「農業」、「投資促進等」及び「地域活性化」の5つの分野から構成される「規制改革実施計画」が閣議決定された(28年6月2日)。「規制改革実施計画」に定められた措置については、内閣府が毎年度末にその実施状況に関するフォローアップを行い、その結果を規制改革会議に報告するとともに、公表することとされている。
金融庁所管の主な施策として盛り込まれているものは下記のとおり。
【投資促進等分野】
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投資型クラウドファンディングに係る決済手段の多様化
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臨時報告書提出事由(海外募集)の見直し
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投資一任口座で行う投信取引における取引報告書の交付義務の緩和
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II 産業競争力強化法に基づく要望・照会への対応
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1.本制度の概要
産業競争力強化法(26年1月20日施行)において、新事業へチャレンジする事業者を後押しするため、「グレーゾーン解消制度」及び「企業実証特例制度」が創設された。
「グレーゾーン解消制度」は、新しく事業活動を実施しようとする事業者が、具体的な事業計画に則し、あらかじめ規制の適用の有無を確認することができる制度であり、「企業実証特例制度」は、新しく事業活動を実施しようとする事業者が、一定の要件を満たすことを条件として、企業単位で規制の特例措置を認める制度である。
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2.本制度の実績
27事務年度においては、グレーゾーン解消制度に基づく照会3件に対応した。なお、企業実証特例制度に基づく要望は寄せられなかった。
III 地域再生に関する取組み
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1.概要
政府においては、地方公共団体が行う自主的かつ自立的な取組みによる地域経済の活性化、地域における雇用機会の創出その他の地域の活力の再生を総合的かつ効果的に推進するため、地域再生法(平成17年法律第24号)第4条第1項の規定に基づき、政府における施策の推進を図るための基本的な方針として、地域再生基本方針(平成17年4月22日閣議決定。最終変更:28年4月20日)を定めている。
当該基本方針においては、地域再生計画と連動して各府省庁が実施する施策が記載されており、内閣府地方創生推進事務局が、当該再生計画と連動する施策及び各府省庁が実施する地域再生に資する施策を集約し、ウェブサイトに掲載している。(資料6-3-1参照)
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2.地域再生計画の認定
27事務年度において、内閣府地方創生推進事務局が全国の地方公共団体から受け付けた地域再生計画の認定申請(第33回<27年8月18日~8月31日>、第34回<27年9月1日~27年9月18日>、第35回<27年11月16日~11月27日>、第36回<28年1月4日~1月27日>、第37回<28年4月18日~4月28日>、第38回及び第39回<28年6月13日~6月17日>)には、当庁関連の地域再生計画は含まれていなかった。
第4節 コーポレートガバナンスの実効性の向上について
I スチュワードシップ・コードについて
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1.経緯等
「日本再興戦略」(平成25年6月閣議決定)を受けて、金融庁に有識者検討会が設置され、26年2月、「スチュワードシップ・コード」が策定・公表された。(資料6-4-1)
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2.コードの概要
スチュワードシップ・コードは、機関投資家が、資金の最終的な出し手からの付託を受け、企業との建設的な対話を通じて企業の持続的成長を促すことが目的。
「スチュワードシップ責任を果たすための方針の策定・公表」などの7つの原則を柱としている。
(注1)スチュワードシップ・コードは、法令とは異なり、法的拘束力を有する規範ではない。本コードの趣旨に賛同し、これを受け入れる機関投資家は、その旨を表明(公表)することが求められる。28年5月25日時点で計207の内外の機関投資家が受入れを表明。
(注2)スチュワードシップ・コードは、「Comply or Explain」という手法を採用しており、本コードの受入れを表明した機関投資家は、本コードの各原則を「実施するか、実施しない場合には、その理由を説明する」ことが求められる。
II コーポレートガバナンス・コードについて
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1.経緯等
「『日本再興戦略』改訂2014」(26年6月閣議決定)を受けて、金融庁と東京証券取引所を共同事務局とする「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」が設置され、27年3月、コーポレートガバナンス・コード原案が取りまとめられた。これを受けて、東京証券取引所は「コーポレートガバナンス・コード」を策定し、同年6月より全ての上場企業に対して適用を開始。(資料6-4-2)
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2.コードの概要
コーポレートガバナンス・コードは、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための諸原則。
本コードは、健全な企業家精神の発揮を促し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることを目的としており、以下の5つの基本原則を柱としている。
株主の権利・平等性の確保
株主以外のステークホルダーとの適切な協働
適切な情報開示と透明性の確保
取締役会等の責務
株主との対話
(注3)コーポレートガバナンス・コードも、「Comply or Explain」の手法を採用しており、取引所規則に基づき、各上場企業は、本コードの原則を「実施するか、実施しない場合には、その理由を説明する」ことが求められる。
III スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議について
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1.経緯等
「『日本再興戦略』改訂2015」(27年6月閣議決定)を受けて、両コードの普及・定着状況をフォローアップするとともに、上場企業のコーポレートガバナンスの更なる充実に向けて、必要な施策を議論・提言することを目的として、27年8月、東証とともに「フォローアップ会議」を設置。(資料6-4-3)
「フォローアップ会議」については、「平成27事務年度金融行政方針」において、「企業経営者、内外投資家、研究者等の有識者による議論・提言や、ベストプラクティスを情報発信しながら、上場会社全体のコーポレートガバナンスの更なる充実を促していく」とされた。
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2.これまでの開催実績等
「フォローアップ会議」は、「取締役会をめぐる論点」や「政策保有株式をめぐる論点」、「企業と機関投資家の間の建設的な対話」について議論(28年6月末までに8回開催)。
28年2月には、取締役会のあり方についての意見書が取りまとめられており、以下の考え方が示されている。(資料6-4-4)
CEOの選解任は、上場会社にとって最も重要な戦略的意思決定であり、そのプロセスには、客観性・適時性・透明性が求められる。
適切な資質・多様性を備えたメンバーによる独立した客観的な取締役会の構成、戦略性を重視した取締役会の運営、継続的な取締役会の実効性の評価が重要である。
IV ガバナンス改革の進捗状況
企業側については、以下のような進捗が見られる。(資料6-4-5)
上場企業の約8割が、73あるコーポレートガバナンス・コードの原則の9割以上を実施。
独立社外取締役を選任する上場企業は大きく増加。
指名・報酬にかかる任意の諮問委員会を設置する上場企業の数が大きく増加するなど、機関設計を見直す企業が増加。
政策保有株式について、3メガバンクグループが当面の削減目標を公表するなど、縮減に向けた動き。
投資家側については、多くの企業が、スチュワードシップ・コード導入後、投資家の行動に変化があったと評価するなど、「物言わぬ株主」と見られてきた国内投資家にも変化の兆しが表れてきている。
第5節 中小企業等の経営改善・体質強化の支援
I 背景
中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(平成21年12月成立・施行。以下、「中小企業金融円滑化法」という。)の期限到来(25年3月末)に際して、金融機関に対し、引き続き、貸付条件の変更等に努めるよう促すととともに、中小企業の経営改善につながる支援に軸足を移していくとの方針を明確化した。こうした方針に基づき、中小企業庁等と連携して、 政府全体として中小企業金融円滑化法終了に対応する体制の構築、 金融機関による円滑な資金供給の促進、 中小企業・小規模事業者に対する経営支援の強化、 個々の借り手への説明・周知等を柱とする総合的な対策を策定・推進してきた。
II 主な取組み
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1.金融行政方針等に基づく検査・監督
27年9月に公表した金融行政方針において、担保・保証に依存する融資姿勢を改め、取引先企業の事業の内容や成長可能性等を適切に評価(事業性評価)し、融資や本業支援等を通じて、地域産業・企業の生産性向上や円滑な新陳代謝の促進を図り、地方創生に貢献していくことが期待される旨を明記し、金融機関に対し、そうした取組みを促した。また、各金融機関における取引先企業の事業性評価及びそれに基づく融資や本業支援等の取組み状況について確認した。
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2.認定支援機関による経営支援
24年8月末に中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律(以下、「新促法」という。)(中小企業庁と共管)が改正され(中小企業経営力強化支援法施行に伴うもの)、財務、会計等の専門的知識を有する者(商工会・商工会議所、税理士、金融機関等)を経営革新等支援機関として国が認定し、認定を受けた経営革新等支援機関(以下、「認定支援機関」という。)は、中小企業・小規模事業者に対し、経営状況の分析(運転資金の確保や業務効率化等)、事業計画策定及び実施に係る指導・助言等の支援を実施してきた。
また、28年5月24日に新促法が改正され、名称を中小企業等経営強化法とするとともに、中小企業の経営力向上の支援が法目的に追加され、認定支援機関の支援対象が経営力向上に取り組む中小企業等に拡大された(28年7月1日施行)。
なお、28年6月30日現在、25,212件の認定支援機関を認定している(うち金融機関485件)。
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3.地域経済活性化支援機構(REVIC)の積極的な活用
26年9月に公表したモニタリング基本方針に基づき、地域金融機関に対しては、取引先企業への経営課題の解決策の提案及び実行支援に際し、REVICが有する機能(専門家の派遣、企業に対する直接の再生支援、事業再生・地域活性化ファンドへの出資・運営等)を積極的に活用するよう、各種ヒアリング等の機会を通じて促した。
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4.中小企業金融をはじめとした企業金融等の円滑化
中小企業金融をはじめとした企業金融等の円滑化については、第3部第9章第7節「中小企業金融をはじめとした企業金融等の円滑化」を参照。
第6節 東日本大震災への対応
I 二重債務問題に係る金融庁関連の施策
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1.個人債務者の私的整理に関するガイドライン
東日本大震災の被災地域におけるいわゆる「二重債務問題」への政府の対応策を示した「二重債務問題への対応方針」(平成23年6月17日)の公表を受け、全国銀行協会を事務局として、金融界、中小企業団体、法曹界及び学識経験者等で構成される研究会が発足し、関係者間の協議を経て、同年7月15日に、民間における個人向けの私的整理による債務免除のルールを定めた「個人債務者の私的整理に関するガイドライン(以下、「個人版私的整理ガイドライン」という。)」が取りまとめられた。(資料6-6-1~5参照)同年8月1日には、ガイドラインの運用のため一般社団法人「個人版私的整理ガイドライン運営委員会」が設立され、同月22日よりガイドラインの適用が開始された。同年10月26日、24年1月25日、同年12月19日には、同委員会によりガイドラインの運用の改善が図られている。(資料6-6-6~8参照)
27事務年度においても、引き続き、このような民間の取組みを支援するため、債務者が弁護士費用等を負担することなくガイドライン運営委員会を利用できるようにするための国庫補助や周知広報等の必要な対応を行っている。
具体的には、個人版私的整理ガイドラインの活用促進に関して、マスメディアを通じた広報(新聞折込チラシ、新聞広告、テレビCM、交通広告等)、住宅再建ワンストップ相談会の開催など、より効果的な周知広報となるよう、様々な施策を実施した。
(参考)個人版私的整理ガイドラインの運用状況(28年6月24日時点)
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個別の相談件数:5,688件
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債務整理に向けて準備中:2件
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成立件数:1,347件
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2.東日本大震災事業者再生支援機構及び産業復興相談センター・産業復興機構の活用促進
東日本大震災で被災された事業者のいわゆる二重債務問題に関しては、事業者の債務の負担を軽減しつつ、その再生を図るため、東日本大震災事業者再生支援機構及び産業復興相談センター・産業復興機構が設立されており、金融庁としては、金融機関が、これらの機構等の積極的な活用を含め、被災者の事業や生活の再建に向けた支援に継続的に貢献していくよう強く促してきた。
さらに、27年9月18日に公表した「平成27事務年度金融行政方針」においても、東日本大震災からの復興を加速し、被災地域において持続可能な経済・産業を再構築する観点から、金融機関に対して、被災地域の状況やニーズをきめ細かく把握・分析した上で、東日本大震災事業者再生支援機構等の活用を含めた、被災事業者等にとって最適な解決策の提案・実行支援を行うよう促した。
(参考) (28年6月30日時点) 岩手産業
復興機構宮城産業
復興機構福島産業
復興機構茨城県産業
復興機構千葉産業
復興機構設立
23年11月11日
23年12月27日
23年12月28日
23年11月30日
24年3月28日
買取決定
106先
140先
44先
20先
16先
東日本大震災事業者再生支援機構
設立
24年2月22日
支援決定
688先
II 金融機能強化法(震災特例)の運用状況
金融機能強化法の震災特例に基づき、国の資本参加を行った金融機関から経営強化計画の履行状況報告がなされ、27年3月期(12金融機関)については同年8月21日に、同年9月期(11金融機関)については28年2月26日に、報告内容を公表した。
また、金融機能強化法の震災特例に基づき国の資本参加を行ったじもとホールディングス(仙台銀行・きらやか銀行)の新しい経営強化計画等については、27年8月21日に公表した。
III その他
27年7月以降においても、震災発生当日の金融上の措置の要請(資料6-6-9参照)を含め、今般の震災を受けて実施した施策について、金融庁ウェブサイトへの掲載等により周知を図った。
第7節 平成28年熊本地震への対応
I 金融庁及び金融機関等における対応について
平成28年熊本地震(前震:4月14日、本震:同月16日)への対応として、金融庁は、4月15日に、熊本県内の関係金融機関等に対し、被災者の便宜を考慮した適時的確な措置を講じるよう要請したほか、以下のような一連の対応を行った。(資料6-7-1参照)
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被災者からの相談を受け付ける「平成28年熊本地震金融庁相談ダイヤ ル」(フリーダイヤル)を設置
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住宅ローン等の債務を抱えた被災者の支援に向けて「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下「ガイドライン」という。)」を周知
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貸金業法施行規則を改正し、総量規制の例外となる緊急貸付の借入期間を3ヶ月から6ヶ月に延長するなど借入手続き等を弾力化
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被災企業が提出期限までに有価証券報告書等を提出することができない場合には、各財務(支)局において個別企業ごとに提出期限の延長を承認することで対応
また、金融機関等においても、以下のような対応を行った。(資料6-7-2参照)
【銀行・信用金庫・信用組合】
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通帳等紛失時の預金払戻しに係る本人確認の便宜扱い、定期預金等の期限前払戻し
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義援金口座への振込みに係る手数料の無料化
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手形の不渡処分の猶予
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返済の一時停止や震災関連融資等に柔軟に対応
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ガイドラインに係る被災者からの相談への対応
【損害保険会社】
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保険料の払込み猶予、継続契約の締結手続の猶予
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多数の損害調査員の現地派遣による保険金支払いの迅速化
【生命保険会社】
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地震による免責条項を適用せずに保険金支払い
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保険料の払込み猶予
【地域経済活性化支援機構(REVIC)】
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地域金融機関等と連携し、被災事業者の事業再建をはじめ被災地の復旧・復興を支援する一環として熊本事務所を開設
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被災地の地域金融機関に対し、震災復興・復旧支援等に係る助言を行うための専門家を派遣
金融庁としては、引き続き、金融機関が被災地における取引先企業のニーズを的確に把握し、きめ細かな対応を行うよう促していくとともに、被災者や被災企業の支援に向けて取り組んでいくこととしている。
II ガイドラインの活用促進について
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1.ガイドラインの策定
東日本大震災の経験を踏まえ、他の自然災害による被災者についても同様の支援が受けられるよう、全国銀行協会を事務局として、金融界、中小企業団体、法曹界、学識経験者等で構成される研究会において、全国の自然災害により既往債務の弁済が困難となった被災者が、法的な倒産手続きによる不利益を回避しつつ、債務免除を受けることを可能とするガイドラインが同年12月に策定され、28年4月より適用が開始された。(資料6-7-3~4)
ガイドラインの対象となる債務者は、同研究会が設置された27年9月2日以降に「災害救助法」の適用を受けた全国の自然災害による個人の被災者であり、ガイドラインによる債務整理のメリットは、以下のとおりとなっている。
財産の一部を、ローンの支払に充てずに、手元に残すことが可能。
破産等の手続とは異なり、債務整理をしたことは、個人信用情報として登録されないため、その後の新たな借入れに影響が及ばない。
国の補助により弁護士等の「登録支援専門家」による手続支援を無料で受けることが可能。
金融庁としては、ガイドラインに基づく手続を支援する弁護士等の「登録支援専門家」にかかる費用を補助するための予算措置を講じるとともに、ガイドラインの運用支援と制度周知に努めている。
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2.平成28年熊本地震における対応
今般の熊本地震においては、被災者によるガイドラインの活用を促進するため、市町村窓口や避難所への広報用チラシの備え置きを実施するなど、周知広報に努めている。
また、金融機関においても、店頭窓口への広報用チラシの備え置きや取引先への配布などの周知広報が行われている。
なお、ガイドラインによる債務整理において、より被災者に寄り添った支援ができるよう、法令上の手当てにより、以下の措置が講じられている。
各自治体が配分する義援金について、他の財産とは別枠で手元に残すことが可能。
通常、債務者の自己負担となる特定調停の申立手数料を無料化。
第8節 消費者行政に関する取組み
I 経緯等
消費者基本法において、「政府は、消費者政策の計画的な推進を図るため、消費者政策の推進に関する基本的な計画(以下「消費者基本計画」という。)を定めなければならない」こととされていることを踏まえ、平成27年3月24日、27年度から31年度までの5年間を対象とする新たな消費者基本計画が閣議決定された。
消費者基本計画には、5年間で取り組むべき施策として、消費者の安全の確保、表示の充実と信頼の確保、適正な取引の実現、消費者が主役となって選択・行動できる社会の形成、消費者の被害救済、利益保護の枠組みの整備、国や地方の消費者行政の体制整備が挙げられている。
II 工程表の作成等
消費者基本計画においては、「本計画に基づいて関係府省庁等が講ずべき具体的施策について、本計画の対象期間中の取組予定を示した工程表」を策定することとされており、消費者基本計画と併せて消費者基本計画工程表(以下「工程表」という。)が策定された。
工程表においては、各府省庁等の間で連携が必要な施策についてのそれらの関係を明確にするとともに、効果把握のための指標として、本計画に示したKPI(重要業績評価指標)を可能な限り施策ごとに更に具体化することとされている。
また、本計画を実効性のあるものとするために、本計画に基づく施策の実施状況について、十分な検証・評価・監視を行うこととされている。具体的には、各施策の27年度の実施状況について、消費者庁が金融庁を含む関係府省庁の協力を得て取りまとめ、28年5月24日、「平成27年度消費者政策の実施の状況(消費者白書)」として公表された。また、消費者政策会議(閣僚級会議)において、消費者委員会の意見を聴取した上で、28 年7月19日、工程表が改定された。
III 消費者基本計画における金融庁関連の施策
消費者基本計画及び工程表には、金融庁所管に係る施策として、以下の施策等が盛り込まれている。(資料6-8-1参照)
(注)以下の番号は、消費者基本計画の番号に対応。
3 適正な取引の実現
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(2)商品・サービスに応じた取引の適正化
詐欺的な事案に対する対応
投資型クラウドファンディングを取り扱う金融商品取引業者等に係る制度の整備
金融商品取引法に基づく適格機関投資家等特例業務(プロ向けファンド)に関する制度の見直しの検討
サーバ型電子マネーの利用に係る環境整備
仮想通貨と法定通貨の交換業者に対する規制の整備
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(4)詐欺等の犯罪の未然防止、取締り
特殊詐欺の取締り、被害防止の推進
偽造キャッシュカード等による被害の防止等への対応
4 消費者が主役となって選択・行動できる社会の形成
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(2)消費者教育の推進
消費者教育の総合的、体系的かつ効果的な推進
学校における消費者教育の推進
地域における消費者教育の推進
金融経済教育の推進
5 消費者の被害救済、利益保護の枠組みの整備
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(1)被害救済、苦情処理及び紛争解決の促進
金融ADR(裁判外紛争解決)制度の円滑な運営
「振り込め詐欺救済法」に基づく被害者の救済支援等
多重債務問題改善プログラムの実施
6 国や地方の消費者行政の体制整備
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(1)国の組織体制の充実・強化
消費者からの情報・相談の受付体制の充実
第9節 障害者施策への対応
I 概要
障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。)は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項や、国の行政機関、地方公共団体等及び民間事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置などについて定めることによって、すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現につなげることを目的としている。
障害者差別解消法に基づき、平成27年2月24日、障害を理由とする差別の解消に向けた、政府の施策の総合的かつ一体的な実施に関する基本的な考え方を示した「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)が閣議決定された。
障害者差別解消法の施行(28年4月1日)に向けて、各府省庁においては、基本方針に即して、障害者に対する不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供等について、各府省庁の職員が適切に対応するために必要な要領(以下「対応要領」という。)及び各府省庁所管の事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めることとなっており、金融庁においても対応要領及び対応指針を制定した。
II 対応要領、対応指針の作成等
対応要領及び対応指針の作成に当たっては、障害者や事業者等の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう、障害者差別解消法に規定されている。金融庁は、対応要領案及び対応指針案に関するヒアリングにおいて障害者団体等から意見を聴取したほか、パブリック・コメント手続を実施して広く意見の募集を行った。
これらを踏まえ、職員向けの対応要領は金融庁訓令「金融庁における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」(資料6-9-1参照)として制定するとともに周知を行い、また、事業者向けの対応指針は金融庁告示「金融庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」(資料6-9-2参照)として制定するとともに広く周知を行った。(28年4月1日施行)
第10節 金融経済教育の取組み
I 概要
金融経済教育については、以下の報告書や提言等においてその重要性が述べられており、金融庁としても、様々な機会を活用しながら金融経済教育を推進している。(資料6-10-1参照)
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多重債務問題改善プログラム(平成19年4月20日、多重債務者対策本部決定)
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金融・資本市場競争力強化プラン(19年12月21日、金融庁)
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金融経済教育研究会報告書(25年4月30日、金融庁)
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金融・資本市場活性化に向けての提言(25年12月13日、金融庁・財務省)
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金融・資本市場活性化に向けて重点的に取り組むべき事項(提言)(26年6月12日、金融庁・財務省)
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消費者基本計画(27年3月24日、閣議決定)
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日本再興戦略2016(28年6月2日、閣議決定)
II 金融経済教育の推進を含む具体的な取組み状況
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1.金融経済教育推進会議
金融経済教育を推進するため、25年6月、金融広報中央委員会に「金融経済教育推進会議」が設置され(有識者、関係団体のほか、金融庁、消費者庁、文部科学省が参画)、その後、26事務年度には、第4回推進会議(26年12月2日開催)で「金融リテラシー・マップ」(注)(高校生以下の部分)の改訂案等について、第5回推進会議(27年6月1日開催)で「金融リテラシー・マップ」(大学生以上の部分)の改訂案等について議論された。
27事務年度に開催された第6回推進会議(27年12月7日開催)では、社会人向け金融経済教育の基本的考え方や関係団体内部研修への相互参加・相互講師派遣について議論されたほか、当庁から「土曜学習」について紹介することなどにより、その取組みの充実に向けた議論も行われた。
(注)金融経済教育研究会報告書において示された「最低限身に付けるべき金融リテラシー(4分野・15項目)」の内容を項目別・年齢層別に具体化・体系化したもの(金融経済教育推進会議において26年6月に策定、27年6月に改訂)。
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2.大学における金融経済教育
大学生に対し、金融庁をはじめとした関係団体が連携して、26年4月から「金融リテラシー・マップ」に基づいた授業をオムニバス形式で実施(資料6-10-2参照)。また、その取組みを拡大するため、大学に対する働きかけも行った。
27年度:5大学で実施
(東京家政学院大学、青山学院大学、金沢星稜大学、県立広島大学、 神戸国際大学)
28年度:8大学で実施
(前期:東京家政学院大学、青山学院大学、慶應義塾大学、県立広島大学)
(後期:武蔵野大学、金沢星稜大学、神戸国際大学、東北学院大学)
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3.ガイドブックの改定・配布
金融取引の基礎知識をまとめたガイドブック「基礎から学べる金融ガイド」について、「金融リテラシー・マップ」の内容を反映した改定を行うとともに、未公開株取引等に関するトラブル防止について解説した「『未公開株』等被害にあわないためのガイドブック」を改定し、全国の高校・大学・地方公共団体等へ配布した。(資料6-10-3参照)
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4.事前相談業務等の実施
金融経済教育研究会報告書において、「最低限身に付けるべき金融リテラシー(4分野・15項目)」として「外部の知見の適切な活用」が提示された。金融商品を利用選択するにあたり、予防的・中立的なアドバイスの提供体制を構築するため、26年5月から、金融庁金融サービス利用者相談室において「事前相談(予防的なガイド)」を開設し、27事務年度は1,071件の相談を受け付けた。
なお、家計管理と生活設計について考える相談会「そこが知りたい!今後の生活設計~身につけよう!くらしの金融知識~」についても東京都及び関係団体と連携して開催した(27年9月3~5日)。
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5.電子マネーに関する消費者被害の未然防止に向けた対応
プリペイドカードに関する消費者被害が26年以降増加していることから、金融庁としても被害防止に向けて様々な手段を用いて取り組んでいる。例えば、「基礎から学べる金融ガイド」を改定する際に、電子マネーに関する消費者被害の項目を追加して、金融庁等のウェブサイトに掲載するとともに全国の高校・大学・地方公共団体等に配布した。また、文部科学省等の協力を得て、消費者被害防止のための啓発チラシ(「『プリペイドカードを買ってきて』は詐欺」)を全国の高校へ配布した。さらに政府広報も実施するなど、様々な手段で注意喚起を行っている。(資料6-10-4参照)
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6.シンポジウムの開催
地域住民を対象に、金融トラブルに巻き込まれないよう注意を促すことを目的とした「金融トラブルから身を守るためのシンポジウム」を、仙台市、さいたま市、名古屋市、大阪市、広島市の計5箇所で開催した。
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7.金融知識普及功績者表彰等
金融経済教育に関する活動をより一層推進するため、日本銀行とともに国民の金融に係る知識の普及・向上に功績のあった者及び団体に対してその功績を顕彰している(27年度 22件)。(資料6-10-5参照)
また、金融広報中央委員会が行う「おかねの作文」コンクール等に対し、作品の審査や金融担当大臣賞の授与等について協力を行っている。
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8.後援名義の付与
金融知識の普及・啓発を目的として金融関係団体等が実施する各種講演会・セミナー等の活動に対し、「金融庁後援」名義を付与し、金融知識の普及活動を後押しした(27事務年度 後援23件)。(資料6-10-6参照)
第11節 金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に関する取組み
I 金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針
「金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針」(平成27年7月2日公表)において、以下の五つの方針を掲げ、金融システム全体の強靭性の向上に取り組んでいくこととしている。(資料6-11-1参照)
サイバーセキュリティに係る金融機関との建設的な対話と一斉把握
金融機関同士の情報共有の枠組みの実効性向上
業界横断的演習の継続的な実施
金融分野のサイバーセキュリティ強化に向けた人材育成
金融庁としての態勢構築
II 取組み実績
27事務年度は、主に下記について重点的に取り組んだ。
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1.サイバーセキュリティ対策に係る建設的な対話と一斉把握
27事務年度においては、地域銀行、証券会社、生損保等を対象に、サイバーセキュリティ対策の実態把握を行った。
実態把握の結果を総括すると、一部の金融機関においては、経営陣の積極的な関与の下、概ねサイバーセキュリティ対策の態勢整備が進んでいる状況が認められた。他方、サイバーセキュリティ対策の早急な態勢整備が必要である金融機関も少なからず認められた。態勢整備が遅れている根本的な要因については、経営陣の関与が受動的であることが共通してあげられる。(資料6-11-2参照)
実態把握の結果については、個別あるいは業界団体を通じて各金融機関に還元し、サイバーセキュリティ対策の改善を促した。
また、金融機関におけるサイバーセキュリティにかかる各種対策・整備の考え方に関する理解を深め、サイバーセキュリティ対策の効果的・効率的な底上げを図ることを目的として、28年4月以降、各財務局において、第二地銀、信金・信組等を対象にサイバーセキュリティワークショップを開催した(同年6月末までに22回実施)。
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2.情報共有の取組み
金融機関等の取組みを向上させ、金融業界全体のサイバーセキュリティを強化していくためには、金融機関自身の不断の取組み(「自助」)や内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)をはじめ関係省庁からの情報提供(「公助」)だけではなく、金融機関同士で情報共有・分析を行う「共助」が有効である。
金融庁としては、金融ISAC をはじめとした情報共有機関等を活用して、情報収集・提供及びこれを踏まえた取組みの高度化(脆弱性情報の迅速な把握・防御技術の導入等)を進めていくことの意義について、金融機関に対して周知してきたところであり、金融ISACへの加盟状況は、着実に進んでいる(28年6月1日時点で237社)。(資料6-11-3参照)
(注)27年9月にサイバーセキュリティ戦略本部が策定した「サイバーセキュリティ2015」においても、金融庁が金融機関に対して、金融ISACを含む情報共有機関等を通じた情報収集・共有体制の構築を促していくこととされている。
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3.国際的なサイバーセキュリティに関する取組み
G7各国の金融当局間で、「G7サイバーエキスパートグループ」が設置され、金融分野におけるサイバーセキュリティの促進やG7各国間での協力強化を進めている。
第7章 銀行等保有株式取得機構による保有株式の買取り
銀行等保有株式取得機構(以下「機構」という。)は、「銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律(平成13年法律第131号)」による銀行の株式保有制限(銀行の株式保有をTier1以下に制限)の導入に伴い、銀行の保有する株式の買取り等の業務を行うことにより、銀行の株式の処分等の円滑を図ることを目的として、平成14年に設立された認可法人である。
機構の設立後、18年9月末までに買い取られた株式については、その後処分が進められていたが、株式市場の極めて不安定な状況を踏まえ、20年10月15日以降、市場の状況が改善するまで市中売却は凍結されている。
また、20年9月以降の株式市場の極めて不安定な状況を踏まえ、「銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律」の改正により、以下のような措置が取られた。
株式買取再開等(21年3月9日公布、同月10日施行)
18年9月末までとされていた機構による株式買取期限を24年3月末まで延長し、株式の買取りを再開した。また、従来、事業法人が保有する銀行株の機構への売却は、銀行による当該事業法人の株式売却後にのみ可能であったが、事業法人による銀行株売却を先行して行えるよう手当てを行った。
これらの措置を踏まえ、機構の借入れの際に付される政府保証枠を「2兆円」から「20兆円」に拡大した(20年度第2次補正予算で手当て、21年度以降も継続)。
買取対象の拡大(21年7月3日公布、同月6日施行)
上記株式買取再開にかかる法改正の審議の際、参議院財政金融委員会において「資産の買取り等を含めた多様な措置について、検討を行うこと」との附帯決議がなされたこと、及びその後の経済情勢等を踏まえ、一定の信用力等があることを条件に、金融機関が保有する優先株・優先出資証券、ETF、J-REIT及び事業法人が保有する金融機関の優先株・優先出資証券を、機構の買取対象に追加した。
買取期限の延長(24年3月31日公布、同日施行)
東日本大震災の影響や、欧州債務危機を端緒とする世界的な金融資本市場の混乱等が続いている状況に鑑み、経済・株式市場が互いに悪影響を及ぼし、悪化することを防ぐため、銀行等保有株式取得機構が株式処分の受け皿として、また、ひいては金融資本市場のセーフティネットとしての役割を果たすことは引き続き重要であること、バーゼルIIIの実施に伴い所要自己資本等が段階的に引き上げられること等から、銀行等の保有株式等の処分のニーズは依然として高いといった事情を踏まえ、機構による株式等の買取期限を、29年3月末まで5年間延長した。
これらの措置を受け、27事務年度(27年7月~28年6月末)において、機構は、1,713億円(買取再開後の累計11,996億円)の株式等の買取りを行っている。