部 国際関係の動き

第19章 国際的な課題への対応(総論)

節 国際的な意見発信

2008年以降の世界的な金融危機への反省から、G20、FSB(金融安定理事会)等の場を通じ、国際的に包括的な金融規制改革が進められてきた。多くの改革項目は設計段階から実施段階へと移行しつつあり、バーゼルIIIに関する残された見直し項目についても、2016年内の最終化が目指されている。

こうした規制改革は、金融システムの強靭性を高める上で一定の成果があったと考えられるが、改革の全体像が概ね明らかとなった今、以下のような点についても検証が必要と考えられる。

  • 1.安定と成長の両立

    改革の諸要素を全体として見たときに、経済の持続的成長と金融システムの安定を両立できるものとなっているか。

  • 2.規制の副作用の検証

    規制は、金融機関の規制回避行動を通じた歪み、複数の規制の複合的な効果、規制対象分野とは別の分野への波及等の形で、想定外の副作用も生み出しうる。市場流動性の低下、新興国市場に対する金融サービス提供の縮小などについての指摘もある中、規制の複合的な効果・影響についての検証が必要ではないか。

  • 3.次の危機への対応

    過去の危機への対応に集中するあまり、市場構造の新たな変化への対応がおろそかとなっていないか。

  • 4.規制と監督の役割分担

    過去のバランスシートに着目した静的な規制に依存する傾向があるが、規制の副作用を抑える意味でも、次の危機に備える意味でも、ビジネスモデルの持続可能性等に着目した動的な監督によってこれを補っていく必要があるのではないか。

2015事務年度においては、G20、FSB等の当局者同士の場のみならず、公開の国際会議での講演や海外メディアへの寄稿等を通じて、こうした点について繰り返し問題提起を行った。

金融庁長官が行った主な英文講演等

日付

講演等

主な内容

2015年

10月13日

トムソン・ロイター汎アジア規制サミット

マル1成長と安定との両立、マル2規制の複合的な影響の検証、マル3「次の危機」への対応、の重要性

10月20日

チャタムハウス・大和総研共催セミナー

我が国の金融危機の教訓

11月25日

IBA年次総会

我が国の資本市場改革、在日外国金融機関の検査・監督、国際金融規制改革

12月15日

フィナンシャル・タイムズ紙(寄稿)

我が国の長期停滞の経験からみた、世界経済の持続的成長を実現するための課題

2016年

月10日

日本証券サミット

コーポレート・ガバナンス改革等、我が国資本市場改革の進捗状況と今後の展望

月13日

ISDA年次総会

静態的な規制が中心の枠組みを動態的な監督によって補っていく必要性

国際倒産再建協会年次総会

我が国の事業再生の枠組みの発展と今日の取組み

(注)これらの講演内容は、金融庁ウェブサイト(http://www.fsa.go.jp/common/conference/danwa/index_kouen.html)に掲載している。

最近では、国際的にもこうした問題意識を共有する議論が見られるようになっており、G20首脳宣言等においても、経済の持続的成長が規制改革の目標であること、規制改革の複合的な影響の評価が必要であること、バーゼルIIIの最終化に当たっても全体的な負担水準を大きく引き上げないようにすべきことなどが明示的に言及されるようになっている。

G20首脳宣言における金融規制改革に関する記載

首脳宣言

金融規制改革に関する記載

G20杭州サミット首脳宣言
(2016年9月4日・5日)

開かれた強じんな金融システムの構築は、持続可能な成長と発展を支える上で極めて重要である。

我々は、(中略)重大で意図せざるいかなる影響にも対処すること等により、我々の全体的な目的との整合性を確保するため、改革の実施と影響に対する監視を引き続き向上させる

我々は、公平な競争条件を促進しつつ、銀行セクターにおける資本賦課の全体水準を更に大きく引き上げることなくバーゼルIIIの枠組みを2016年末までに最終化するためのバーゼル銀行監督委員会(BCBS)の作業に対する支持を再確認する。

節 国内の課題と国際的課題の一体的対応

2015事務年度においては、我が国金融システムの抱える課題と国際的な金融規制改革が対処しようとしている課題に共通する要素について、国内規制・監督担当者と国際交渉担当者が一体的なチームを編成し、我が国として必要と考える対応を踏まえて国際交渉において提言を行うとともに、国際的な議論を国内での対応の参考に活用する、内外一体のアプローチを、全庁的な取組みとして推進した。

例えば、銀行勘定の金利リスクにかかる問題は、我が国においても国際的にも監督上の重要な課題であり、国内規制・監督担当者と国際交渉担当者でプロジェクト・チームを編成し、日本銀行からの参加も得て、累次にわたる検討を実施した。BCBS(バーゼル銀行監督委員会)から、2016年4月に公表された同リスクの基準にかかる最終文書では、第2の柱(金融機関の自己管理と監督上の検証)に基づく各国当局による適切な監督対応や情報開示の充実等、我が国等の主張に沿った内容で最終化された。

第20章 金融危機再発防止に向けた国際的な取組み

2008年の秋以降本格化した世界的な金融危機を受け、2008年11月に第1回G20首脳会合がワシントンで開催された。その後、G20・FSB(金融安定理事会)・各基準設定主体といった様々な場において、金融危機の再発防止に向けた金融規制改革が議論されてきており、これまでに多くの合意がなされてきている。今後は、これらの合意が実施段階を迎えるにあたって、規制の影響評価等を進めていくことが課題となっており、当庁はこうした国際的な合意の実施・課題に対する対処に積極的に参画している。

節 首脳・閣僚級の国際会議(G20・G7)

I 概要

2008年9月のリーマン・ショックに代表される金融危機をきっかけに、金融危機への対応や金融規制・監督の改革等を議論するために、それまでのG7を中心とした枠組みではなく、新興国も交えた首脳レベルの会合が必要とされ、ワシントンにおいて第1回G20首脳会合(サミット)が開催された。それ以降、G20は、国際経済協力に関する「第一のフォーラム」として定例化されており、金融規制は引き続き主要な議題とされている。近年は年に1回のサミットと、年に数回の財務大臣・中央銀行総裁レベルの会合が行われている。

2015年11月の第10回G20アンタルヤ・サミットでは、金融危機への対応として進められてきた金融規制改革が概ね達成されたことが歓迎され、また、今後の課題は、新たなリスクに注意を払いつつ、政策枠組みの残された部分の最終化や、合意した事項の完全な実施が中心であると、各国が一致した。

G7においても引き続き国際的な金融規制改革に関する議論が行われることもあり、財務大臣・中央銀行総裁レベルの会合等が開催されている。2016年は日本が議長国を務め、2016年5月20・21日にG7仙台財務大臣・中央銀行総裁会議(以下、G7仙台会合)、2016年5月26・27日にG7伊勢志摩サミットが開催された。

※G20メンバーは、G7(日、米、英、独、仏、伊、加)、アルゼンチン、豪、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、韓国、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ、トルコ、欧州連合、で構成されている。

なお、G20及びG7の議長国は1年ごとに各国の持ち回りとなっている。G20の議長国については、2015年はトルコ、2016年は中国であり、2017年は独が議長国に選出されている。一方、G7については、2015年は独、2016年は日本であり、2017年は伊が議長国に選出されている。

II 活動状況

  • 1.2015事務年度の主な首脳・閣僚級会議の開催状況

    マル1G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2015年9月4・5日、トルコ・アンカラ)

    マル2G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2015年10月8日、米・ワシントン)

    マル3G20サミット(2015年11月15・16日、トルコ・アンタルヤ)

    マル4G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2016年2月26・27日、中国・上海)

    マル5G20財務大臣・中央銀行総裁会議(2016年4月14・15日、米・ワシントン)

    マル6G7仙台財務大臣・中央銀行総裁会議(2016年5月20・21日)

    マル7G7伊勢志摩サミット(2016年5月26・27日)

  • 2.2015年11月のG20首脳会合で合意された事項

    2015年11月15・16日にトルコ・アンタルヤで開催されたG20サミットでは、金融規制改革について、主に以下の事項が合意された。

    • )金融機関の強じん性の強化及び金融システムの安定性の向上は、成長及び発展を支える上で極めて重要であることを確認。

    • )グローバル金融システムの強じん性を向上させるため、金融規制改革の課題の中核的な要素を更に完了させたことを確認。

    • )「大きすぎて潰せない」問題の終結に向けた重要なステップとして、グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)の総損失吸収力(TLAC)についての共通の国際基準を最終化したことを確認。

    • )中央清算機関(CCP)の強じん性、再建計画及び破綻処理可能性に関する更なる作業に期待するとともに、FSBに対して次のサミットまでに報告を求める。

    • )金融システムにおいて新たに生じつつあるリスク及び脆弱性を引き続き監視し、必要に応じ対処。

    • )シャドーバンキングの監視・規制を更に強化。

    • )コルレス銀行サービスの減少に対する適宜の評価・対処について、更なる進捗を期待。

    • )店頭デリバティブの実施に関し、国・地域に対して、サンクトペテルブルク宣言に則り、正当化されるときには、相互の規制に委ねることを奨励。

    • )グローバルな金融規制枠組みを完全かつ整合的に実施することにコミット。

    • (10)改革の実施及びその影響に関するFSBの最初の年次報告を歓迎。

    • (11)重大で意図せざるいかなる影響への対処を含め、規制改革の実施及びその影響等を引き続き監視・評価。

  • 3.2016年のG7について

    G7仙台会合においては、規制の複合的影響評価やサイバーセキュリティ、フィンテック、G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則に関する議論が行われた。G7仙台会合後は議論の内容をまとめた議長サマリーが公表され、G7伊勢志摩サミット首脳宣言では金融規制に関するパラグラフが盛り込まれている。首脳宣言では、主に以下の事項が合意された。

    • )持続的な経済成長という目標の達成に資する、G20金融セクター改革の課題の、適時の、完全な、かつ、整合的な実施を支持するというコミットメントを改めて表明。

    • )関連する改革の複合的な影響及びセクターを越えた相互作用を含む、G20金融規制改革の影響分析を向上させるためのFSB等の作業を歓迎し、規制改革の実施及び影響に関するFSBの第2回G20向け年次報告を期待。

    • )金融イノベーションの、金融の安定性及び市場の健全性に対する潜在的な影響を管理しつつ、それらイノベーションの経済的利益を享受。

    • )金融分野におけるサイバーセキュリティを促進し、G7各国間での協力を強化するための、G7サイバー専門家グループの作業を歓迎。

    • )G20/OECDのコーポレート・ガバナンス原則の効果的な実施を歓迎し、支持。特に、その原則の評価メソドロジーの策定を期待。

III 当庁の対応

我が国は、国際的な金融規制改革において、国際的に合意された改革を着実に実施するとともに、

マル1中長期的に強固な金融システムを構築した上で、成長資金の供給に支障をもたらさないバランスの取れた規制とすること、

マル2規制導入にあたっては、十分な経過期間を確保した上で、着実に実施すべきものであること、

が重要であると主張してきた。

我が国は、これまでの国際合意に従って、バーゼルIIIや店頭デリバティブ市場改革を実施してきたほか、金融システムの安定及び金融危機の再発防止に向けて、国際的な金融規制改革の議論に引き続き建設的に参加・貢献していく。

節 金融安定理事会(FSB)

I 概要

  • 1.沿革

    1997年に発生したアジア通貨危機等の際、一国における金融危機が容易に各国に「伝染」(contagion)した経験を背景に、1999年2月のG7での合意に基づき、金融監督の国際的な協調体制を強化する観点から金融安定化フォーラム(FSF:Financial Stability Forum)が設立された。金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)は、2009年4月のG20ロンドン・サミットの合意を踏まえ、FSFが、より強固な組織基盤と拡大した能力を持つ組織として発展的に再構成されたものであり、FSBの発足会合は2009年6月に開催された。FSBは、スイス・バーゼルのBIS(国際決済銀行)内に事務局を有しており、2013年1月には、スイス法上の非営利法人として法人格を取得している。

  • 2.目的

    FSBは、

    マル1マクロ・プルーデンス的観点からの、国際金融システムに影響を及ぼす脆弱性の評価及びそれに対処するために必要な措置の特定・見直し、

    マル2金融の安定に責任を有する当局間の協調及び情報交換の促進、

    マル3金融規制に係る国際基準の遵守におけるベストプラクティスについての助言・監視

    などを主な目的としている。

  • 3.組織

    • )メンバーシップ(代表権)

      FSBは、全てのG20に所属する国及び地域、さらに香港、オランダ、シンガポール、スペイン、スイスの国内当局(監督当局、財務省、中央銀行)のほか、国際通貨基金(IMF)等の関係国際機関、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)等の金融分野の国際基準設定主体などから構成されている。1カ国は1~3の代表権を有しており、我が国からは金融庁、財務省及び日本銀行がメンバーとなっている。FSBの議長は、2011年11月よりマーク・カーニー英中銀総裁が務めており、2014年11月に再選された(任期は3年)。

    • )FSBの構成

      FSBは、年2回程度行われる本会合を最終的な意思決定会合としており、我が国においては、前述の通り、金融庁、財務省及び日本銀行がそれぞれ議席を有している。FSB本会合の下には、FSB全体の方針を議論する運営委員会(Steering Committee)が設置されており、さらにその下に規制監督上の協調に関する常設委(SRC)、脆弱性評価に関する常設委(SCAV)、基準の実施に関する常設委(SCSI)、予算等に関する常設委(SCBR)の4つの常設委員会(Standing Committee)や複数の部会が設置されており、それぞれFSBに参加している各国当局の幹部等により構成されている。また、必要に応じて、様々な専門部会が設置されており、個別具体的なテーマについての検討が行われている。

      その他、FSBは、金融システムの脆弱性及び金融システムの安定化に向けた取組みについて、FSBメンバー当局と非FSBメンバー当局との意見交換を促す観点から、アジア・アメリカ・欧州・中東及び北アフリカ・サブサハラアフリカ・CIS諸国の6つの地域諮問グループ(RCG)を設置している。

II 活動状況

  • 1.概要

    2015事務年度においては、計2回のFSB本会合が開催された。

  • 2.2015事務年度にFSBから公表された主な報告事項等

    • 「主要な金利指標改革の進捗状況」(2015年7月9日公表)

    • 「店頭デリバティブ市場改革の実施に関する第9次進捗状況報告書」(2015年7月24日公表)

    • 「企業の資金調達に係る構造とインセンティブ」(2015年9月22日公表)

    • 「金融危機と情報ギャップ」(2015年9月22日公表)

    • 「外貨エクスポージャーへの取組」(2015年9月22日公表)

    • 「中央清算機関(CCP)作業計画に係るプログレスリポート」(2015年9月22日公表)

    • 「CCP作業計画にかかる進捗報告書」(2015年9月22日公表)

    • 「外為指標 2014年9月の提言履行に係る進捗状況」(2015年10月1日公表)

    • 市中協議文書「グローバルなシステム上重要な銀行の秩序ある破綻処理の支援に必要な一時的資金調達に係るガイダンス」(2015年11月3日公表)

    • 「店頭デリバティブの取引報告に関するピアレビュー」(2015年11月4日公表)

    • 店頭デリバティブワーキング・グループ(ODWG)による第10次店頭デリバティブ市場改革の実施に関する進捗状況報告書(2015年11月4日公表)

    • 「コルレス銀行業務の減少への評価と対処のためのアクションに関する報告書」(2015年11月6日公表)

    • 「不正行為の減少のための方策」(2015年11月6日公表)

    • 「グローバルなシステム上重要な銀行の破綻時の損失吸収及び資本再構築に係る原則」(2015年11月9日公表)

    • G20への破綻処理に関する進捗状況報告書「破綻処理可能性に対する残された障害の除去」(2015年11月9日公表)

    • 「金融規制改革の実施と影響に関する年次報告書」(2015年11月9日公表)

    • 「気候変動関連リスクに関する開示タスクフォースのための提案」(2015年11月9日公表)

    • 「健全な報酬慣行に関する原則実施基準第4次進捗報告書」(2015年11月10日公表)

    • 「シャドーバンキングから強じんな市場型金融への転換 清算集中されない証券金融取引に関するヘアカット規制の枠組み」(2015年11月12日公表)

    • 「シャドーバンキング・モニタリングレポート(2015)」(2015年11月12日公表)

    • 「シャドーバンキングから強じんな市場型金融への転換 証券金融取引のグローバルなデータ収集・集計に関する基準とプロセス」(2015年11月18日公表)

    • 「シャドーバンキング主体のためのFSB政策枠組みの実施に関するテーマ別レビュー」(2016年5月25日公表)

    • 「システム上重要な保険会社向けの効果的な破綻処理の戦略及び計画の策定に関するガイダンス」(2016年6月6日公表)

  • 3.国際基準の策定に向けた取組み

    FSBは、世界的な金融危機時に顕在化した「大きすぎて潰せない(Too big to fail)」問題に対処し、納税者の負担を回避しつつ、秩序ある破綻処理を可能とするため、グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIB)に対して、予め十分な総損失吸収力(TLAC:Total Loss Absorbing Capacity)の確保を求める規制に関する最終合意文書を2015年11月9日に公表。最終合意文書は、同月15・16日のG20アンタルヤ・サミットへ提出された。

    その他、CCPに関して、CCPの強じん性(resilience)、再建計画の策定(recovery planning)、破綻処理可能性(resolvability)を促進するための作業が進められている。

  • 4.国際基準の遵守強化等に向けた取組み

    金融規制改革を巡る検討作業のほか、FSBは、国際基準の各国による遵守強化に向けた取組みとして、国際協調及び情報共有に関する基準の遵守促進に向けた取組みや、FSBメンバー国間のテーマ別及び国別レビューを実施している。

    テーマ別レビューは、金融規制、監督上の特定の国際基準・課題についてFSBメンバー各国の取組み状況を横断的にレビューするものであり、2015年は、破たん処理、店頭デリバティブの取引報告、シャドーバンキング主体のためのFSB政策枠組みに関するテーマ別ピアビューが実施された。国別レビューは、IMFによるFSAPの金融関連指摘事項についての実施状況を中心にレビューを行うもので、これまでに16カ国に対するレビューが完了している。現在は、日本、インド、ブラジルの3カ国を対象に実施中。

    2015年より、金融規制改革の実施と影響に関する年次報告書がされており、2016年は第2回目の年次報告書がG20杭州・サミットに提出される予定。

第21章 金融監督国際機構

金融庁は、金融機関の活動や金融取引の国際化等に的確に対応するため、各国の規制監督当局により構成される金融分野の業態別又は業態横断的な国際会議に積極的に参画している。その主要なものとして、業態別には、バーゼル銀行監督委員会(BCBS)、証券監督者国際機構(IOSCO)及び保険監督者国際機構(IAIS)が、業態横断的には、前章掲載のFSBなどが挙げられる。これらの会議においては、国際的な金融システムの安定を図る観点から、金融機関の監督等に関する国際的な原則・基準・指針等の国際的な監督ルールの策定が行われており、我が国としては、国際的なリーダーシップを発揮すべく、積極的な貢献に努めている。

節 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)

I 概要

  • 1.沿革

    バーゼル銀行監督委員会(BCBS:Basel Committee on Banking Supervision、以下「バーゼル委員会」という。)は、1974年6月の西ドイツ・ヘルシュタット銀行破綻に伴う国際金融市場の混乱を受けて、1975年、G10中央銀行総裁会議によって設立された。バーゼル委員会の会合は、主としてスイスのバーゼルにある国際決済銀行(BIS:Bank for International Settlements)本部において年4回程度開催されており、事務局もBIS内に設置されているが、中央銀行の集まりであるBISとは独立した存在として位置付けられている。

  • 2.目的

    バーゼル委員会は、銀行監督に関する共通の基準・指針を策定する観点から、以下のような課題を中心として、幅広く検討を行っている。

    マル1国際的に活動する銀行の自己資本比率規制等、国際的な基準の設定

    マル2銀行監督をめぐる諸問題に関する話し合いの場の提供

  • 3.組織(資料21-1-1参照)

    • )メンバーシップ

      バーゼル委員会は、G20が国際経済協力の枠組みとして本格稼動を始める中で2009年及び2014年に段階的にメンバーシップを拡大し、現在、日本、アルゼンチン、豪、ベルギー、ブラジル、加、中国、仏、独、香港特別行政区、インド、インドネシア、伊、韓国、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ロシア、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英、米及びEUの銀行監督当局及び中央銀行から構成されている。我が国からは、金融庁及び日本銀行が出席している。バーゼル委員会の議長は、2011年7月からはスウェーデン中央銀行のイングベス総裁が務めている。

    • )小委員会の構成

      バーゼル委員会の下には、政策企画部会(PDG:Policy Development Group)、監督・基準実施部会(SIG:Supervision and Implementation Group)、会計専門家部会(AEG:Accounting Experts Group)等数多くの部会が設置されており、それぞれバーゼル委員会に参加している各国・地域等の銀行監督当局及び中央銀行の専門家等により構成されている。我が国は、バーゼル委員会に設置されているほぼ全ての小委員会に出席し、国際的な銀行監督ルールの策定や銀行の健全なリスク管理指針の確立等に積極的な貢献を行っている。

  • 4.性格

    バーゼル委員会は、法的には国際的な監督権限を有しておらず、その合意文書等も法的拘束力を有するものではない。しかしながら、バーゼル委員会が公表している監督上の基準・指針等は、各国の監督当局が自国内においてより実効性の高い銀行監督を国際的に整合性のある形で行うための環境整備に資するものとして、世界各国において幅広く取り入れられている。

    なお、バーゼル委員会の目的、主たる運営手続については、バーゼル委員会の規約(チャーター)で定められている。

II 活動状況

  • 1.概要

    バーゼル委員会は、銀行監督に関する共通の基準・指針等を策定する観点から、以下のような課題を中心として、幅広く検討を行っている。

    • )バーゼルIII

      2008年9月のリーマン・ショックを契機として、国際的な金融規制改革はG20首脳レベルでの主要な課題となり、中でも、国際的に活動する銀行の自己資本及び流動性に係る新たな基準の設定は、中核的課題とされた。こうした新たな基準の大枠は、2010年11月のソウル・サミットに報告・了承され、その詳細が、同年12月、「バーゼルIIIテキスト」として公表された。

      そのうち、自己資本比率については、国際的に活動する銀行の健全性を測るリスク・ベースの指標として機能しているものであるが、バーゼルIIIを踏まえ、従来の普通株式等Tier1比率2%から、最低水準とバッファーを加えて、同比率7%と大幅に水準が引き上げられたほか、資本の算入要件についても厳格化が図られている。また、その実施については、新規制への円滑な移行を確保する観点から、2013年1月から段階的に実施し、2019年より完全実施するスケジュールが国際的に合意されている。

      こうしたリスク・ベースの指標である自己資本比率を補完するものとして、二つの流動性基準(流動性カバレッジ比率、安定調達比率)及びレバレッジ比率(詳細は、2.(4)参照)の導入が定められている。流動性基準については、2013年1月に流動性カバレッジ比率の最終規則文書が公表され、2015年から段階的に実施する(比率の最低水準を当初60%とし、翌年から10%ずつ引き上げ2019年に100%とする)こととなった。2014年10月には、安定調達比率の最終規則文書が公表され、2018年から実施することとなった。

    • )システム上重要な金融機関

      システム上重要な金融機関(SIFIs:Systemically Important Financial Institutions)に対する規制・監督上の措置については、2010年11月にG20ソウル・サミットへ提出・公表されたFSB報告書「システム上重要な金融機関がもたらすモラルハザードの抑制」において、「グローバルな」システム上重要な金融機関(G‐SIFIs:Global Systemically Important Financial Institutions)への規制・監督上の措置の検討を先行することとされた。

      これを受け、バーゼル委員会では、グローバルなシステム上重要な銀行(G‐SIBs:Global Systemically Important Banks)のマル1特定手法、マル2追加的資本上乗せ規制などが検討され、2011年11月に規則文書が公表された(2013年7月、本規則文書を更新した文書が公表)。追加的資本上乗せ規制については、2016年1月から段階的に適用が開始され、2019年1月までに完全実施される予定である。

      また、2012年10月、バーゼル委員会より、国内のシステム上重要な銀行(D‐SIBs:Domestic Systemically Important Banks)の取扱いに関する12の原則を示した枠組み文書が公表された。

    • )その他

      バーゼル委員会は、各国におけるバーゼルIII規制の着実な実施を促すため、その状況を調査・評価することとしており、2012年10月には我が国におけるバーゼルIIIの実施状況に関する報告書を公表した。この中で、我が国の国内規制は国際合意を遵守していると総合的に高く評価された。

  • 2.最近の主な動き

    2014年11月のG20ブリスベン・サミットでは、これまでに合意したテーマについて概ね作業が完了した旨の首脳宣言が出され、バーゼル委員会においても、全体としては、既に合意した各種規制を各国が着実に実行に移していく段階に入っている。

    一方で、残された課題としては、リスクアセット計測手法の見直しやレバレッジ比率規制などに関する議論が行なわれており、最終化にあたっては、規制の相互連関や複合的影響にも留意することとされている。これらの金融危機後の規制改革については、2016年1月に開催された中央銀行総裁・銀行監督当局長官グループ(GHOS)会合において、資本賦課の全体水準を大きく引き上げることなく、2016年中に見直し作業を完了させることが合意されている。

    • )信用リスクの計測手法

      • 標準的手法

        バーゼル委員会は、リスク感応度の向上や比較可能性の向上等の観点から信用リスクに関する標準的手法の見直し作業を行っており、2015年12月に信用リスクに関する標準的手法の見直しについての第2次市中協議文書を公表している。

      • 内部モデル手法

        大手行は、一般に銀行独自の内部モデルを用いたリスク計測結果に基づき自己資本比率を算出しているが(内部格付手法)、その結果にはばらつきが見られるところ、バーゼル委員会は、G20の指示を受けて、銀行の自己資本比率規制の簡素さや比較可能性を向上させるべく検討を行っている。

        2016年3月には、内部モデル手法の利用を制約する方向の市中協議文書を公表しており、今後市中からのコメント及び包括的な定量的影響度調査の結果を踏まえて検討を進め、2016年中に最終化する予定となっている。

    • )オペレーショナルリスクの計測手法

      バーゼル委員会は、オペレーショナルリスクの計測手法に関し、従来のBIA(基礎的手法)・TSA(粗利益配分手法)を統合し、新しい標準的手法の導入を検討しており、2016年3月にオペレーショナルリスクに関する新しい標準的手法についての第2次市中協議文書を公表している。なお、モデル手法である先進的計測手法(AMA)の廃止も提案されている。

    • )資本フロア

      バーゼル委員会は、2014年12月に資本フロア(所要自己資本額の下限)の見直しに関する市中協議文書を公表しており、リスクアセットの信頼性や比較可能性を向上させる観点から、資本フロアの参照基準を、現行のバーゼルIから標準的手法に変更することを提案している。2016年3月に公表された市中協議文書において、リスクアセット全体を対象に、標準的手法対比60~90%の資本フロアを導入することが提案されているほか、代替案として、リスクカテゴリー毎等のより粒度の細かいフロアとすることも提案されている。

    • )レバレッジ比率規制

      銀行システムにおけるレバレッジの過大な積み上がりを抑制すること、及び簡易な指標とすることにより、リスク・ベースの指標(自己資本比率規制)を補完することを目的としたレバレッジ比率規制の導入が進められている(開示は2015年1月から開始)。

      2016年1月のGHOSにおいて、全ての銀行に対するレバレッジ比率の最低水準をTier1比3%とすることで合意されが、G-SIBsに対する上乗せ(デザインや水準)についても引き続き議論される予定となっている。これも含めて、2018年1月から第1の柱へ移行することを視野に、2016年末までに規制のデザイン及び水準について最終的な調整を行う予定となっている。

    • )システム上重要な銀行に対する対応

      2015年11月、FSBからG‐SIBsの新たなリストが公表された。本リストに基づいたG‐SIBsに対する追加的資本上乗せは2017年から適用される(リストは毎年更新されており、翌々年の資本上乗せ規制の前提となる)。資本上乗せは2016年から段階的に実施されており、2019年から完全実施される予定となっている。

      我が国では、2015年12月に3メガバンクをG-SIBsに指定するとともに、3メガバンクに加え、三井住友トラスト・ホールディングス、農林中央金庫、大和証券グループ本社、野村ホールディングスをD-SIBsに指定した。

      バーゼル委員会は、2016年6月に、我が国のG-SIBsに係る規制の整備状況についてRCAP(Regulatory Consistency Assessment Program:整合性評価プログラム)を実施し、報告書を公表した。この中で、我が国は国際合意を総合的に遵守しているとの高い評価を受けた。

    • )最終化された主要項目

      • 銀行勘定の金利リスク

        2013年4月からバーゼル委員会にて検討を開始した銀行勘定の金利リスクに関する規制・監督の枠組みについては、2015年6月、マル1リスク量の計測を定式化し、自己資本比率の分母に勘案する第1の柱案及びマル2現行の監督枠組みは維持しつつ監督対応の深化を図る第2の柱案の両論併記による市中協議が実施されたが、市中からのコメント(第2の柱案支持)を踏まえ、最終的にマル2第2の柱案が採用された最終文書が2016年4月に公表された。

      • トレーディング勘定の抜本的見直し

        2009年に公表されたマーケットリスク規制の見直し(いわゆるバーゼル2.5)が応急措置に止まっていたとの問題意識から、トレーディング勘定の抜本的見直しが行われ、マル1トレーディング勘定と銀行勘定の境界の見直しと勘定間の規制裁定の防止措置、マル2内部モデルの精緻化とより厳格なモデル承認プロセス、マル3内部モデルのフォールバックとして標準的方式のリスク感応度の向上、の3点を主な見直しポイントとして2016年1月のGHOSにおいて最終合意され、同月に最終規則が公表された。

節 証券監督者国際機構(IOSCO)

I 概要

  • 1.沿革及び現状

    • )証券監督者国際機構(IOSCO:International Organization of Securities Commissions)は、世界各国・地域の証券監督当局、証券取引所等から構成される国際的な機関である。加盟機関の総数は、普通会員(Ordinary Member:証券規制当局)、準会員(Associate Member:その他当局)及び協力会員(Affiliate Member:自主規制機関等)あわせて210機関(2016年6月末現在)となっている。IOSCOの本部事務局は、マドリード(スペイン)に置かれている(1986年から2000年末まではモントリオール(カナダ))。

    • )我が国は、1988年11月のメルボルン(オーストラリア)における第13回年次総会で、当時の大蔵省が普通会員としてIOSCOに加盟した。現在は、金融庁が、2000年7月の発足と同時にそれまでの金融監督庁(準会員)及び大蔵省(普通会員)の加盟地位を承継するかたちで、普通会員となっている。その他、1993年10月のメキシコ・シティー(メキシコ)における第18回年次総会で証券取引等監視委員会が準会員として加盟したほか、商品先物取引を所掌している経済産業省及び農林水産省が普通会員、日本取引所グループ及び日本証券業協会が協力会員となっている。

    • )IOSCOは毎年1回年次総会を開催しており、2015年6月にロンドン、2016年5月にリマで開催された。次回は、2017年にキングストン(ジャマイカ)で開催される予定である。なお、我が国においても、1994年10月に東京で第19回年次総会が開催されている。

  • 2.活動

    IOSCOは、以下の3つを目的としている。

    マル1投資家保護、市場の公正性・効率性・透明性の確保、システミック・リスクへの対処のために、証券分野の規制・監督等に関する国際基準の策定・実施等を行うこと

    マル2投資家保護や、証券市場への信頼性向上のために、当局間において、情報交換や、監督・不公正取引の監視における協力を行うこと

    マル3各国における市場の発展支援、市場インフラの強化、規制の適切な実施のために、各メンバーの経験を共有すること

    IOSCOは、「証券規制の目的と原則」をはじめとする証券市場規制に係る国際原則、指針や基準等を定めている。これらは基本的にメンバーを法的に拘束するものではないが、メンバーはこれらを踏まえて自ら行動し、原則の遵守等に取り組むことが促されている。

    その他、メンバー間の情報交換協力を促進するため策定されたIOSCO多国間情報交換枠組み(以下「IOSCO・MMOU」という。)については、2010年6月の代表委員会決議により、2013年1月までにすべてのメンバーがIOSCO・MMOUへ署名(将来的な署名約束を含む)することが義務付けられ、各メンバーはIOSCO・MMOUに規定されている情報交換協力が実施できるような法制を整備することが求められている。

  • 3.組織(資料21-2-1参照)

    • )総会(Presidents Committee)

      総会は、すべての普通会員の代表者で構成され、年1回、年次総会時に開催される。

    • )代表理事会(IOSCO Board)

      代表理事会は、2012年5月の北京総会において、既存の理事会や専門委員会等を統合して設立された会議体である。証券分野における国際的な規制上の課題への対処や、予算の承認等、IOSCOのガバナンス確保、証券分野における能力開発等に関する検討・調整を行うこととしており、その下に各種の委員会や作業部会が設置されている(主な委員会等の活動状況についてはII参照)。

      代表理事会は、当庁を含む34当局で構成されている。現在の議長は、香港証券先物委員会(SFC)のオルダーCEOである。副議長は、ベルギー金融サービス市場局(FSMA)のセルベー委員長と、マレーシア証券委員会(SC)シン委員長の2名が務めている。いずれの任期も、2018年の総会までとされている。

      <参考:代表理事会に統合された過去の主な会議体>

      ○理事会(Executive Committee)

      理事会は、主に定款の変更、予算・メンバーシップの承認など、組織運営上の必要な決定を行う会議体であり、専門委員会、新興市場委員会、各地域委員会の議長のほか、各地域委員会選出会員及び代表委員会により選出された9の普通会員で構成されていた。

      ○専門委員会(Technical Committee)

      専門委員会は、理事会により設置されたIOSCOの政策立案の中心となる機関であり、国際的な証券・先物取引に関する主要な規制上の課題を検討し、そうした課題に対する実務的な対応を調整することを目的としたものである。世界の中でも規模が大きく、より先進的かつ国際的な市場を監督する18の当局(当庁を含む)で構成されていた。

    • )地域委員会(Regional Committee)

      代表委員会の下には、アジア・太平洋地域委員会、米州地域委員会、ヨーロッパ地域委員会、アフリカ・中東地域委員会の4つの地域委員会が置かれており、それぞれの地域固有の問題が議論されている。我が国はアジア・太平洋地域委員会(APRC:Asia Pacific Regional Committee)に属しており、同委員会は、年2回程度開催されている。APRCは28当局から構成されており、現在の議長は、当庁の氷見野金融国際審議官が務めている。

  • 4.我が国の対応

    我が国は、代表理事会、アジア・太平洋地域委員会及びその他の委員会等のメンバーとして、国際的な証券規制の原則の策定等に積極的に参画・貢献している。例えば、2015年9月には投資管理に関する委員会(Committee 5)の副議長に当庁の専門官(課長補佐レベル)が就任するとともに、同委員会の会合を10月に東京で開催した。

II 活動状況

  • 1.概要

    IOSCOは近年、証券規制に関する国際基準設定主体としての役割の維持、法執行に関するクロスボーダーの協力の改善(IOSCO・MMOUの推進)に取り組んでおり、G20首脳会合のマンデートを受け、シャドーバンキング、店頭デリバティブ規制、システミック・リスクの軽減、市場の健全性など、証券分野の規制上の個別課題を検討する作業や、IOSCOメンバーの監督や法執行の分野での国際協力の水準を高める作業等に重点を置いて活動している。

  • 2.会計・監査・開示に関する委員会(Committee 1)

    会計・監査・開示に関する委員会は、会計基準、監査基準及び開示制度に関する諸課題について検討を行っている。会計及び監査分野では、国際会計基準(IFRS)及び国際監査基準(ISA)等の開発の過程で、新たな基準の公開草案が公表される毎に各々の基準設定主体に対してコメント・レターを発出している。開示分野では、上場企業による投資家向け開示情報の質及び透明性を高める観点等から、議論を行っている。2015年11月に「公開企業の監査を行う監査法人の透明性」と題する最終報告書、2016年5月に「監査委員会による監査人の監視に関する調査報告書」、同年6月には「会計基準で求められていない財務数値に関する提言」と題する最終報告書を公表した。

  • 3.流通市場に関する委員会(Committee 2)

    流通市場に関する委員会は、証券等の流通市場に関する諸課題について検討を行っている。2015年12月には、「取引所等において電子取引システムのリスクを効果的に管理し、事業継続を計画するためのメカニズム」と題する最終報告書を公表した。

  • 4.市場仲介者に関する委員会(Committee 3)

    市場仲介者に関する委員会は、証券会社等の市場仲介者の金融商品販売態勢や規制・監督の現状等を各国調査し、調査報告書の公表や、必要に応じて、市場仲介者・監督当局に向けた国際的な原則の策定を行っている。2015年12月には、「2015年 クラウドファンディングに関する調査結果報告書」と題する報告書、また「市場仲介業者の事業継続及び復旧計画」及び「大規模な市場仲介業者における信用力評価及び外部格付の利用に関するサウンド・プラクティス」と題する最終報告書を公表した。

  • 5.法執行・情報交換に関する委員会(Committee 4)

    法執行・情報交換に関する委員会は、国際的な証券犯罪に対応するための各国当局間の情報交換や法執行面での協力のあり方について議論を行っている。現在、情報交換に関する非協力的な国・地域の当局との対話や、効果的な不公正取引の抑止の手段などについて議論を行っている。

    また、Committee 4と同時に開催されるIOSCO・MMOUの審査グループ(SG)において、MMOU署名申請当局の審査を行っている。SGでは、IOSCO・MMOUのB署名当局(審査基準を満たさなかった当局)が署名当局となることを目指し、審査作業を行っている。

  • 6.投資管理に関する委員会(Committee 5)

    投資管理に関する委員会は、集団投資スキーム等の資産運用業界の諸課題、資産運用業界におけるシステミック・リスクに対応する規制のあり方等について検討を行っている。2015年11月には「CIS資産のカストディに関する基準」と題する最終報告書を公表した。

  • 7.格付会社に関する委員会(Committee 6)

    格付会社に関する委員会は、格付会社の規制・監督に関する諸課題について検討を行っている。

  • 8.商品先物市場に関する委員会(Committee 7)

    商品先物市場に関する委員会は、商品先物市場の透明性の向上等について検討を行っている。G20の要請を受け2012年10月に公表した「石油価格報告機関に関する原則」の、実施状況に関する報告書を2014年9月に公表した。これに引き続き、2015年9月には、同原則の遵守状況の評価結果を取りまとめた第2次報告書を公表した。また、2016年5月に、「商品デリバティブ市場価格への倉庫及び受渡施設の影響」に関する報告書を公表した。

  • 9.金融教育及び投資家保護に関する委員会(Committee 8)

    金融教育及び投資家保護に関する委員会は、2013年6月に新設された委員会で、投資家教育の促進及び金融リテラシーの向上に係るIOSCOの役割や戦略的取組み等について検討を行っている。

  • 10エマージング・リスク委員会(CER)

    エマージング・リスク委員会(CER)は、証券当局がシステミック・リスクをモニターし軽減するための方法や、エマージング・リスクの特定手法等について検討している。2016年3月には、「証券市場のリスク・アウトルック2016」を公表した。

  • 11アセスメント委員会(Assessment Committee)

    アセスメント委員会はIOSCOにおいて策定された原則・国際基準の実施等に関する議論を行っている。2015年7月には、「証券規制に関するIOSCO原則第16条及び第26条に基づく投資家への開示の適時性と頻度に関する遵守状況のテーマ別レビュー」を公表、9月には「マネー・マーケット・ファンド(MMF)規制のピアレビュー」、「証券化におけるインセンティブ・アラインメント提言導入のピアレビュー」と題する最終報告書を公表した。

  • 12サイバーセキュリティについて

    各委員会の横断的な検討の結果として、2016年4月に「証券市場におけるサイバーセキュリティ」と題する報告書を公表した。本レポートにおいて、マル1 サイバーセキュリティ及びフィンテックの注視、マル2 情報共有プラットフォームの開発及び保守、マル3 年次円卓会合開催及びマル4 机上訓練の主導をマンデートとする、組織の設置が提言された。かかる提言を踏まえ、現在IOSCOでは、新たにサイバーリスクに係る組織の設置が検討されている。

III その他

  • 1.証券分野における情報交換枠組みの構築

    クロスボーダー取引が増大する等、各国証券市場の一体化が進んでいる中で、証券市場及び証券取引を適切に規制・監督するためには、各国証券規制当局間の情報交換が不可欠である。

    我が国は、これまで中国証券監督管理委員会(CSRC)(1997年)、シンガポール通貨監督庁(MAS)(2001年)、米国証券取引委員会(SEC)及び米国商品先物取引委員会(CFTC)(2002年)、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)(2004年)、香港証券先物委員会(SFC)(2005年)並びにニュージーランド証券委員会(2006年)との間で、証券分野における情報交換枠組みに署名している。また、2006年1月には米国証券取引委員会(SEC)及び米国商品先物取引委員会(CFTC)との情報交換枠組みについて金融先物をその対象に加える改訂を行った。更に、欧州証券市場監督局(ESMA)とは、格付会社に関する当局間の協力のための書簡の交換(2011年)及び清算機関に関する覚書への署名(2015年)、欧州の証券監督当局29当局とは、クロスボーダーで活動するファンド業者に対する監督協力に関する覚書への署名(2013年)、米国商品先物取引委員会(CFTC)とは、クロスボーダーで活動する規制業者に対する監督協力に関する覚書への署名(2014年)をそれぞれ行った。

  • 2.多国間情報交換枠組み

    これら二当局間の情報交換枠組みに加えて、2006年5月、IOSCO・MMOUに署名するための申請を行い、IOSCOによる審査を経て、2008年2月に署名当局となった。2016年4月末現在、109の証券当局がIOSCO・MMOUに署名している。

    その後、新たな規制・執行上の課題が生じていることから、2012年以降、IOSCO・MMOUを強化するための改訂が議論されている。

    外国の証券当局との間でこのような情報交換枠組みを構築することにより、インサイダー取引や相場操縦のような不公正取引に関する情報や証券監督上必要となる情報等を必要に応じて相互に提供することが可能となり、我が国及び署名相手国の証券市場の公正性・透明性の確保に寄与することとなる。

節 店頭デリバティブ市場改革に係る国際的な枠組み

I 概要

2009年のピッツバーグ・サミット首脳宣言において、以下の事項を行うことに合意した。

マル1標準化された店頭デリバティブ取引の

)適当な場合における取引所又は電子取引基盤(ETP)を通じた取引

)中央清算機関(CCP)を通じた決済

マル2店頭デリバティブ契約の取引情報蓄積機関(TR)への報告

これを受けて、IOSCO等の国際基準設定主体で国際原則が策定されるとともに、各国においても規制が整備・実施されているところである。

II 活動状況

  • 1.FSB 店頭デリバティブ作業グループ(ODWG)

    上記合意に基づき、各国が取り組んでいる店頭デリバティブ市場改革(2012年末期限)の進捗状況をモニタリングする目的で設立され、定期的に改革の進捗状況を纏めたプログレスレポートを公表している。直近では2015年11月に第10次報告書が公表されている。

  • 2.店頭デリバティブ主要当局者会合(ODRG)

    規制の実施に関する各国相互理解及び国際協調に向けた共通理解の促進を目 的に、米証券取引委員会(SEC)・商品先物取引委員会(CFTC)の呼びかけにより設置された公式会合。主にクロスボーダー規制に係る議論を行っており、直近では2015年11月、G20アンタルヤ・サミット向けに、これまでのODRGでの議論の概要に関する報告書を提出した。

  • 3.マージン規制作業部会(WGMR)

    中央清算機関(CCP)で清算されない店頭デリバティブ取引については、システミック・リスクを低減するとともに、CCPへの証拠金拠出を回避するインセンティブを抑制することを通じてCCPの利用を促進するという観点から、BCBSとIOSCOが共同作業部会(WGMR)を設置して、規制の在り方を検討している。これまで2012年7月(第一次)及び2013年2月(第二次)の二度にわたり市中協議文書を公表し、2013年9月に最終報告書を公表、2015年3月に最終報告書の改訂を公表した。現在も作業部会等において、マージン規制の着実な実施に向けて議論が続けられている。

  • 4.CPMI-IOSCO

    G20の提言を踏まえ、IOSCOとBISの決済・市場インフラ委員会(CPMI:Committee on Payments and Market Infrastructures、2014年9月に支払・決済システム委員会(CPSS:Committee on Payment and Settlement Systems)から改称)が共同で、資金決済システム、証券決済システム及び清算機関に係る既存の国際基準の包括的な見直しを実施し、2012年4月にこれらを1つにまとめた「金融市場インフラのための原則」(FMI原則)を公表した。その後CPMI-IOSCOは、FMI原則の実施状況のモニタリングやFMIに対する規制のあり方について継続的な議論を行っている。実施モニタリングについては、2015年11月に当局の責務(当局等向け原則の実施状況検証)に係る報告書、同年12月に豪州に係るレベル2(各国国内法・規制枠組みの内容とFMI原則の整合性の検証)評価報告書を公表した。また、2015年11月に「金融市場インフラのためのサイバー攻撃耐性に係るガイダンス」、及び2015年12月に「固有商品識別子の調和」に係る報告書について市中協議を実施した。

節 保険監督者国際機構(IAIS)

I 概要

  • 1.沿革

    保険監督者国際機構(IAIS:International Association of Insurance Supervisors)は、1994年に設立され、世界の各国・地域の保険監督当局等約200機関(メンバー)で構成されており、日本は、1998年よりメンバーとして参加している。

  • 2.目的

    IAISは、1994年に以下の目的のために設立された。

    マル1効果的かつ国際的に整合的な保険監督の促進による、保険契約者の利益及び保護に資する公正で安全かつ安定的な保険市場の発展と維持

    マル2国際的な金融安定化への貢献

  • 3.組織(資料21-4-1参照)

    • )総会

      総会はIAISの全てのメンバーで構成されており、毎年1回、年次総会が開催される。

    • )執行委員会

      議長は、ビクトリア・サポルタ氏(BOE プルーデンス政策機構局長)、共同副議長は、浜野金融庁総務企画局国際政策管理官とジュリー・マクピーク氏(テネシー州長官)が務めている(2016年6月現在)。

      新たな監督原則、基準、指針等の採択をはじめとした、主要な決定を行う最高意思決定機関であり、地域構成のバランスを考慮した24の国・地域(北米:5、西欧:5、アジア:5、オセアニア:1、ラテンアメリカ:2、アフリカ南部:1、北アフリカ・中東・:2、中東欧:1、オフショア:2)から構成されている。我が国は、1998年よりメンバーとして参加している。

    • )金融安定・専門委員会

      マイケル・マクレイス議長(米連邦保険局 局長(2016年6月現在))。執行委員会の下で金融安定に関する基準や監督基準の策定等を所掌している。

      金融安定・専門委員会の下には、G-SIIs政策措置、資本規制検討作業、破綻処理作業、会計・監査、ガバナンスなど個別分野ごとに小委員会が設置されており、それぞれ監督原則、基準、指針の策定にあたっている。

    • )その他の委員会等

      監督基準の実施に関する議論を行う実施委員会のほか、クロスボーダー監督上の諸問題、監督実務について意見交換を行う上級監督者フォーラムなどが設置されている。

  • 4.我が国の対応

    金融庁は現在、執行委員会(共同副議長)、金融安定・専門委員会及びその他主要な小委員会等に主要メンバーとして出席し、国際的な保険監督の基準や原則の策定等に積極的に参画・貢献している。

II 活動状況

  • 1.金融危機を踏まえた対応

    • )グローバルなシステム上重要な保険会社(G-SIIs:Global Systemically Important Insurers)の選定

      IAISは、2013年7月にグローバルなシステム上重要な保険会社(G-SIIs)の選定手法及び政策措置を2013年7月に公表する際、同手法に基づき保険会社9社をG-SIIsに選定し、それ以降、毎年11月に更新リストを公表している。2015年11月の更新リストでは、前年のリストからジェネラリ(伊)が外れ、エイゴン(蘭)が追加された9社(注)が選定された(日系保険会社は含まれず)。

      (注)エイゴン(蘭)、アリアンツ(独)、アクサ(仏)、AIG(米)、アビバ(英)、メットライフ(米)、平安(中)、プルデンシャル(米)、プルデンシャル(英)の9社。再保険会社の選定は、先送りされている。

      IAISでは、当該G-SIIs選定手法について、保険や再保険、その他の金融活動など国際的な保険会社の全ての業務を適切に選定に反映するために2014年11月以降、見直し作業を実施。また、2015年7月から、G-SIIs選定手法の中核的な概念である「非伝統的保険(CDS、金融保証など)・非保険業務(銀行業務など)」(NTNI:Non-Traditional Non-Insurance activities and products)の定義についても見直し作業を実施。

      IAISでは、2015年11月にG-SIIs選定手法、NTNI定義見直しの双方について市中協議を実施し、市中からのコメントを踏まえて、2016年6月に両者の最終文書を公表。

      2016年のG-SIIs選定は、再保険会社も含めて、見直し後のG-SIIs選定手法に基づき、行われる予定。

    • )G-SIIsに対する政策措置の検討

      G-SIIsに対しては、監督当局は、マル1「監督の強化」(グループ監督・流動性管理計画など)、マル2「破たん処理可能性の向上」(FSB:Key Attributesの適用)、マル3「より高い損失吸収力の賦課(資本上乗せ基準)」(HLA:Higher Loss Absorbency)、からなる政策措置を行うこととされている。

      IAISは、2014年10月にHLAの基礎となる簡素な資本要件として「基礎的資本要件」(BCR:Basic Capital Requirements)の最終文書を公表。

      HLAの枠組みは、2015年11月に一旦最終化されたが、今後も必要に応じて見直しがなされる予定。なお、BCRを基礎として、HLAを賦課する方式は2019年からG-SIIsに適用される予定であるが、後述する「国際資本基準」(ICS:Insurance Capital Standard)の完成後は、基礎がBCRからICSに置き換えられる予定。

    • )国際的に活動する保険グループ(IAIGs)の監督のための共通枠組み(ComFrame)及び国際資本基準(ICS)の検討

      IAISでは、金融危機を踏まえ、「国際的に活動する保険グループ(IAIGs)」の監督のための共通枠組み(Common Framework for the Supervision ofIAIGs:ComFrame)を検討している。

      ComFrameは、マル1適用範囲(IAIGsの選定基準等)、マル2IAIGsが満たすべき基準(ソルベンシー、ERM、ガバナンス等)、マル3監督当局が満たすべき基準(クロスボーダーでの監督上の協力等)の3つの柱から構成される。マル2に含まれるICSについては、2014年12月に第1次市中協議文書を公表し、2015年に1回目も影響度調査を実施。本年5月に2回目の影響度調査を開始した。今後、2017年にICSの標準的手法の枠組み(version1.0)、2019年に内部モデルの扱いを含むICS(version2.0)の策定を予定している。

      ComFrameについても、最終的には、ICSと同時に2019年に採択され、2020年からIAIGsに適用される見通しである。

  • 2.保険監督原則、基準、指針実施のための技術支援

    IAISは、新興市場国の保険監督の水準向上を図るため、地域セミナーの開催や研修教材の作成を行っている。我が国は、これらの活動を支援するための専門家を雇用する費用等をIAISに拠出するなどの積極的な協力を行っている。

節 金融サービス利用者保護国際組織(FinCoNet)

金融サービス利用者保護国際組織(FinCoNet)は、金融サービス利用者保護に関する情報・意見交換のために、金融消費者保護に関する監督当局間の非公式ネットワークとして、2003年に設立。2013年11月の年次総会(於:リスボン)において、金融消費者保護の監督当局による国際組織として設立された。現在、20カ国や6機関(IAIS、欧州委員会、OECD、世界銀行等)が加盟し、議長はバーナンド・シェリダンアイルランド中央銀行金融サービス利用者保護局長が務めている(2016年6月)。

当庁は、2013年11月の年次総会(於:リスボン)で、当該組織の執行評議会(Governing Council)メンバーに選任され、組織作りの作業に貢献してきた。

2015年事務年度においては、2015年10月にケープタウンで開催された年次総会での議論を経て、3つの常設委員会(監督ツールボックス、貸金業者による責任ある貸出、モバイル技術・技術革新)における作業を、今後、どのように発展させていくかが課題となっている。

なお、2017年に日本で年次総会が開催される予定である。

第22章 金融に関するその他の国際的フォーラム

マクロ経済に対する金融セクターの安全性の重要性が増していること等から、前章に述べた規制監督当局により構成される国際的フォーラム以外においても金融に関する検討が活発化している。こうした動きに加え、WTO等の場における金融サービス貿易の自由化交渉も進展している。金融庁は、我が国の立場を反映させるとともに、国際的な金融システムの安定化及び金融サービス貿易の自由化等に資するため、各種フォーラム等に積極的に参加している。

節 国際通貨基金(IMF)

I 概要

国際通貨基金(IMF:International Monetary Fund)は、1944年7月、米国ブレトン・ウッズにおいて開催された連合国通貨金融会議において調印されたIMF協定に基づき、1946年3月に設立された国際機関である。その目的は、マル1通貨に関する国際協力を促進すること、マル2為替の安定を促進すること、マル3加盟国の国際収支不均衡を是正させるため基金の一般資金を一時的に加盟国に利用させること等である。本部所在地は、ワシントンD.C.。専務理事はラガルド元フランス経済・財政・産業大臣である。最高意思決定機関は総務会(全加盟国の大臣級からなる)であり、原則として年1回総会を開催するが、通常業務については、我が国任命理事を含め、24名の理事からなる理事会が意思決定機関となっている。

II 活動状況

  • 1.IMF4条協議

    IMFはIMF協定第4条に基づき、年1回加盟国に対して、調査専門スタッフを中心とするミッションを派遣した上で、当該国の経済状態、経済・金融政策等に関する報告書を作成し、理事会で討議を行っている。我が国に対する協議については、通常毎年夏に理事会が開催され、その結果がPIN(Public Information Notice)として発表されるとともに、理事会で検討された4条協議報告書が公表されている。

    2016年の当庁との協議では、主に金融セクターの安定性について意見交換が行われた。当庁は、IMFに対し、我が国の金融セクターの状況や当庁の施策等について説明・議論を行い、我が国金融セクターの状況・課題が適切に理解されるよう努めている。

  • 2.金融セクター評価プログラム(FSAP:Financial Sector Assessment Program)

    IMFは加盟国に対し、金融セクター評価プログラム(FSAP:Financial Sector Assessment Program)を実施している。これは、加盟国の銀行・証券・保険を含む各セクターに対し、国際基準の遵守状況や規制監督の枠組み・運用等についてレビューし、金融セクターの安定性を評価するもので、1999年から加盟国に対し順次実施されている(基本的に各加盟国に対して5年に一回行われる)。なお、我が国に対するFSAPの結果は、2003年9月(第一回)、2012年8月(第二回)にそれぞれ公表されている。

  • 3.その他IMFの刊行物(WEO、GFSR等)

    通常年2回刊行される「世界経済見通し(WEO:World Economic Outlook)」及び「国際金融安定性報告書」(GFSR:Global Financial Stability Report)においては、世界の金融システムの状況や政策対応に関する記述がなされている。直近のレポート(2016年4月)では、生産性向上のための構造改革の必要性や、マイナス金利導入に伴う影響等について分析が行われている。

節 経済協力開発機構(OECD)

I 概要

米国による戦後の欧州復興支援策であるマーシャルプランの受入機関として設立された欧州経済協力機構(OEEC:Organization for European Economic Co-operation)が、欧州と北米が対等のパートナーとして自由主義経済の発展のために協力を行う機構として発展的に改組され、1961年に経済協力開発機構(OECD:Organization for Economic Co-operation and Development)が設立された。その目的は、マル1経済成長、マル2開発、マル3貿易の成長・拡大への貢献であり、現在、日本(1964年加盟)を含む34カ国が加盟している。事務総長はメキシコ出身のアンヘル・グリア氏が務めている(2006年~)。

II 活動状況

  • 1.閣僚理事会

    OECDの年間の活動報告がなされるとともに、次年度の活動について討議される。通例、日本からは外務省、経済産業省、内閣府等から関係閣僚が出席。

  • 2.経済開発検討委員会(EDRC:Economic and Development Review Committee)

    OECD加盟各国等の経済情勢、経済政策全般について、定期的に国別相互審査と望ましい政策の勧告を行っている。審査は、加盟34カ国及び重要な非加盟国について、1年半~2年に1回程度行われており、金融セクターについての分析も含まれる。我が国については、直近では2015年4月に対日経済審査報告書が公表された。

  • 3.経済政策委員会(EPC:Economic Policy Committee)

    OECD事務局の責任において、加盟各国の経済情勢を評価した上で、経済見通し(OECD Economic Outlook)を検討・公表するとともに、必要な経済政策の提言を行っている(年2回)。

  • 4.コーポレート・ガバナンス委員会

    G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則に基づくピアレビューの実施のほかOECD非加盟国に対する普及活動等を行っている。

    2015年11月より、同委員会の副議長を金融庁の神田国際担当参事官(2016年6月現在)が務めている。

  • 5.その他の委員会等

    保険及び私的年金委員会(IPPC:Insurance and Private Pensions Committee)、金融資本市場委員会(CMF:Committee on Financial Markets)等があり、それぞれテーマに応じた分析や知識の普及活動が行われている。最近では、2012年4月に、金融教育に関する国際ネットワーク(INFE)で「金融教育のための国家戦略に関するハイレベル原則」が公表されたほか、長期投資に係るG20とOECDの共同作業部会が設置され、2013年9月に「機関投資家による長期投資ファイナンスに関するG20/OECDハイレベル原則」がG20サミットで承認され、公表された。

  • 6.OECDを通じた金融庁によるアジア新興市場国への知的支援

    OECDでは、非加盟国の金融セクター改革等の知的支援を行っているが、金融庁では2008年度よりOECD事務局に職員を派遣するとともに、ODA予算の拠出により、アジア新興市場国の金融セクター改革等の知的支援を行っている。

節 世界貿易機関(WTO)

I 概要

世界貿易機関(WTO:World Trade Organization)は1995年に設立された国際機関であり、貿易ルールの決定、貿易に関する国際紛争の解決を目的とする。事務局はジュネーブにあり、162カ国・地域が加盟している(2016年6月時点)。最高意思決定機関たる閣僚会議は少なくとも2年に1回開催されるが、通常は、全加盟国の代表により構成される一般理事会が任務を遂行している。金融を含むサービス分野に関するルールは、サービスの貿易に関する一般協定(GATS:General Agreement on Trade in Services)に規定されている。GATSは、最恵国待遇(MFN)を原則とし、各国の「約束表」に記載されている分野について、市場アクセス(他の加盟国のサービス及びサービス提供者に対し、参入制限等をしないこと)及び内国民待遇(内外無差別)を保障する義務を負う等の枠組みを定めている。

II 活動状況(金融サービス分野)

  • 1.ドーハ・ラウンド

    2001年11月のドーハ閣僚会議で、サービス分野を含むWTO発足後初の「ドーハ・ラウンド」の開始が決定され、2000年2月にサービス分野の自由化交渉が開始された。金融サービス分野についても、四極(日、米、加、欧州委員会)を中心とした自由化推進派が新興市場国(中国、インド、ブラジル、ASEAN等)に対して金融サービス自由化を促す構図で、各国が自由化リクエストを交換し、オファーの改善を求めて二国間交渉を行っていた。しかし、農業及び非農産品の市場アクセス(NAMA:Non-Agriculture Market Access)交渉において主要国の立場が膠着状態に陥り、2006年7月に交渉が一旦中断し、その後、サービス交渉も含め、ラウンド交渉は決裂した。

  • 2.新サービス貿易(TiSA:Trade in Services Agreement)協定

    GATS発効後約20年が経過し、GATS以上の自由化を実現するための協定が必要との認識が有志国において醸成され、ドーハ・ラウンドとは別の取組みとして2012年より、WTOに加盟する有志国が、新しいサービス貿易の一層の自由化に向けた議論を開始。2013年6月よりTiSAとして本格的な交渉へと移行した。米国やEUなどの大国・地域の他、今後市場として魅力のある新興国が参加していることから、グローバルな貿易・投資ルールの形成が可能となり、二国間・少数国間FTAにより形成された各々異なるルールの共通化とコスト負担の削減が期待されている。2016年6月現在で23ヶ国・地域(注)が交渉に参加し、2016年末の合意を目指して、金融を含むサービス貿易について議論を行っている。

    (注)日本,米国,EU,カナダ,豪州,韓国,香港,台湾,パキスタン,ニュージーランド,イスラエル,トルコ,メキシコ,チリ,コロンビア,ペルー,コスタリカ,パナマ,ノルウェー,スイス,アイスランド,リヒテンシュタイン,モーリシャスが参加

節 経済連携協定(EPA)等

I 概要

  • 1.二国間EPA等

    経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement)は、経済関係の深い二国間及び地域内における国境を越えた物品・人・サービス・資本・情報の移動の自由化を促進し、経済活動全般の連携の強化あるいは一体化を実現することを目的としている。従来、自由貿易体制の維持・強化の役割は、主に世界貿易機関(WTO)が担ってきたが、多国間での利害調整が複雑化しているため、近年、多くの国が多角的貿易体制を補完すべく、特定の二国間及び地域内における貿易自由化交渉に取り組んでいる。

    我が国は、既にシンガポール(2002年11月発効)、メキシコ(2005年4月発効)、マレーシア(2006年7月発効)、チリ(2007年9月発効)、タイ(2007年11月発効)、インドネシア(2008年7月発効)、ブルネイ(2008年7月発効)、フィリピン(2008年12月発効)、ASEAN全体(2008年12月から順次発効)、ベトナム(2009年10月発効)、スイス(2009年9月発効)、インド(2011年8月発効)、ペルー(2012年3月発効)、オーストラリア(2015年1月発効)及びモンゴル(2016年6月発効)との間でEPAが発効している。

  • 2.環太平洋パートナーシップ(TPP:Trans Pacific Partnership)協定

    2010年3月に交渉が開始されたTPPは、日本を含む12カ国が参加し、アジア太平洋地域における高い水準の貿易自由化を目標に、物品の関税撤廃に加え、金融サービスを含む非関税分野のルール作りや新しい分野(環境、労働等)を含む包括的協定として2015年10月に大筋合意、2015年2月に12カ国間の署名に至った。金融サービス章では、内国民待遇、最恵国待遇等のWTO協定と同種の規律のみならず経営幹部等の国籍要件の禁止など自由化促進のための規律が定められている。

II 活動状況

現在、EU、東アジア地域包括的経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)、トルコ、カナダ、コロンビア、ASEANとの間でEPA交渉、中国・韓国との間でFTA交渉を行っている(韓国とのEPA交渉は2004年以降中断、湾岸協力理事会諸国との交渉は2009年以降中断。)(資料22-4-1参照)。

自由化交渉においては、日本の金融機関の海外進出や更なる業務展開のため、他国におけるビジネス環境を改善することを目指し、外国資本の出資比率制限、新規免許発給制限等、金融機関が他国へ進出する際の規制の撤廃あるいは緩和を求め、金融セクターの自由化を促している。また、規制の内容や運用の不透明性は、日本の金融機関の萎縮に繋がる恐れがあるため、相手国金融規制当局との間で、透明性の向上等についても積極的に議論を行ってきている。

さらに、国際的な金融安定化や相互に進出している金融機関の監督、両国・地域の金融市場の発展に向けた関係の強化を目指し、EPAに基づく金融当局間の協力や対話の枠組みを設定することにも積極的に取り組んできている。EPAにより、既存の対話の枠組みを強化するとともに、これまで金融規制当局間の関係が確立されていなかった国・地域との間で、このような対話を継続する枠組みを設けることにより、幹部職員をはじめ様々なレベルを通じてコミュニケーションを深め、規制監督当局間の連携を強化している。

節 金融活動作業部会(FATF)

I 概要

  • 1.金融活動作業部会(FATF)

    金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)は、マネー・ローンダリング対策における国際協調を推進するため、1989年7月のアルシュ・サミット経済宣言を受けて設立された政府間機関であり、事務局はパリのOECD内に置かれている。2001年9月の米国同時多発テロ事件以降は、G7財務大臣声明を受けてテロ資金供与対策にも取り組んでいる。

    メンバーは、OECD加盟国を中心に、現在35カ国・2地域が参加(下記参照)。FATFは、条約に基づく恒久的な国際機関ではなく、政府間の合意に基づき、その活動内容と存続の要否が見直される。現在は、2012年4月のFATF大臣会合での承認により、2020年までの活動期間延長が決定されている。

    参加国・地域(2016年6月30日現在)

    アルゼンチン、豪、オーストリア、ベルギー、ブラジル、加、中国、デンマーク、フィンランド、仏、独、ギリシャ、香港、アイスランド、インド、アイルランド、伊、日本、韓国、ルクセンブルク、マレーシア、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポルトガル、ロシア、シンガポール、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英、米、欧州委員会、湾岸協力理事会

    FATFの主な役割は、以下のとおり。

    マル1マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関する国際基準(FATF勧告)の策定及び見直し

    マル2FATF参加国間におけるFATF勧告の遵守状況の監視及び相互審査

    マル3国際的なマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の拡大・向上

    マル4FATF非参加国・地域におけるFATF勧告遵守の慫慂

    マル5マネー・ローンダリング及びテロ資金供与の手口及び傾向に関する研究

  • 2.「40の勧告」及び「9の特別勧告」から「40の勧告」への改訂(FATF勧告)

    国際基準であるFATF勧告は、マネー・ローンダリング対策の基本的枠組みである「40の勧告」及びテロリズムとテロ行為に対する資金供与対策の基本的枠組みである「9の特別勧告」により構成されてきた。第4次相互審査に向けて、「40の勧告」と「9の特別勧告」を改訂、統合、整理し、双方の対策をカバーする改訂「40の勧告」が2012年2月のFATF全体会合において採択・公表された。

  • 3.FATF相互審査

    FATFは、参加国におけるFATF勧告遵守状況に関し、参加国間にて相互審査を実施しており、その審査報告書は、FATF全体会合での議論を経て採択される。

    第4次相互審査において、被審査国は、審査報告書の採択後、「通常のフォローアップ」又は「強化されたフォローアップ」のプロセスに置かれる。フォローアッププロセスは5年サイクルで行われ、いずれのフォローアッププロセスに置かれた場合でも、相互審査の5年後にフォローアップ審査が実施される。なお、フォローアップ審査までの間、「通常のフォローアップ」においては相互審査から2年半後に、「強化されたフォローアップ」においては全体会合において決定された頻度で(一般的にはフォローアップ審査までに3回)、不備事項の改善状況等をFATFに対して報告する必要がある。

  • 4.マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に非協力的な国・地域の特定

    FATF勧告の遵守が不十分な国・地域(非FATFメンバーを含む)に対して是正措置を求めるなど、非協力的な国・地域に関する問題はFATFの一作業部会であるICRG(International Cooperation Review Group)が取り扱っている。

    FATFは、2007年10月以降、ICRGプロセスにおいて特定された非協力的な国・地域に関し、マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に重大な戦略上の欠陥があること等、各国に対してリスクの認識を促す旨の声明を発出している。

II 活動状況

  • 1.FATF第3次相互審査

    FATF勧告の遵守状況に関する我が国の第3次相互審査は、2008年に実施され、全49勧告中25勧告において履行の不備が指摘された。審査から2年後にあたるFATF2010年10月会合において、我が国対応の進捗について第1回フォローアップ報告を行い、本事務年度は第13回フォローアップ報告を行った。

  • 2.FATF第4次相互審査

    第3次相互審査基準におけるFATF勧告履行上の様々な問題点を踏まえ、2009年10月のFATF全体会合での採択に基づき第4次相互審査基準の改訂作業が開始された。作業部会での議論の末、2012年2月のFATF全体会合において改訂FATF勧告が採択・公表された。この改訂勧告に基づき、2014年より、加盟国・地域のマル1形式基準の遵守(法令整備等の評価「Technical Compliance」)及びマル2実効性(マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策システムの評価「Effectiveness」)について、審査が順次実施されている。

  • 3.マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に非協力的な国・地域の特定

    2009年4月のロンドン・サミットにおけるG20からの要請に基づき、4つの地域(アフリカ/中東、米州、アジア/太平洋、欧州/ユーラシア)毎の分析グループを設立し、非協力国・地域の特定作業を開始した。2009年9月のG20ピッツバーグ・サミットにおいて、FATFは非協力国・地域特定のための手続き、各国のFATF勧告遵守状況の概観等について報告を行った。

    2015事務年度においては、2015年10月の声明により、引き続き、対抗措置の適用対象国としてイラン及び北朝鮮が特定されているほか、対抗措置適用対象外のカテゴリーとして、ミャンマーが特定されている。また、2016年2月の声明により、上記の対抗措置適用対象外のカテゴリーから、ミャンマーがリストより削除された。

  • 4.テロ資金対策の強化

    2015年11月のパリでのテロ事件を受け、FATFは2016年2月にテロ資金対策に係る新しい統合戦略を公表した。統合戦略においては、テロ資金供与リスクの理解に向け調査・分析を実施した上で、FATF勧告の改定の必要性について検討を行うこととされており、対象として顧客管理の敷居値などが挙げられている。なお、2016年5月に仙台で開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁会議において、「テロ資金供与対策に関するG7行動計画」が採択・公表され、G7においても基準強化に向けた検証を行うこととなった。

第23章 海外の金融当局との関係

節 金融監督者間の連携強化

金融取引のグローバル化の進展に応じて、国際的に高度な金融取引を展開する金融機関の検査・監督を適切に行っていくためには、海外の金融当局等との連携を強化していくことが極めて重要である。ベター・レギュレーションにおける海外当局との連携強化の方針を踏まえ、個別案件ごとに連絡を取り合っているほか、定期的に金融当局等との協議を行い、各国金融セクターの現状や国際的な市場動向、規制・監督上の重要事項等について意見交換を実施するほか、必要に応じて、監督協力に関する覚書締結・書簡交換等を行っている。

I 二国間協議等

金融庁は、2015事務年度においては、EU、スイス、韓国、台湾、インドネシア等多くの国・地域の金融当局との間で二国間協議等を実施し、金融規制や経済情勢等に関する意見交換を行った。

II 米国の店頭デリバティブ規制

2012年7月、米国商品先物取引委員会(CFTC)は、ドッド・フランク法(2010年7月)に基づき、非証券店頭デリバティブ取引(スワップ取引:金利スワップ及びindex型を含む10銘柄以上を対象としたCDS等)に係る具体的なクロスボーダー規則案を公表した。

当該規制案によると、非米国金融機関が、米国人と一定額以上の店頭デリバティブ取引を行う場合には、CFTCにスワップ・ディーラーとして登録し、米国の規制に服さなければならないとされていたため、日欧等の当局が当該規制案に対する懸念を表明。

上記を踏まえ、2013年7月にCFTCのクロスボーダー規制の最終版が公表された。CFTCは、外国規制が米国規制と同等であることを条件として、外国規制の遵守をもって、米国規制を遵守したとみなす「代替的コンプライアンス措置」を設けており、一定の企業及び取引に当該措置が適用される。

2013年12月、CFTCは、日本を含む6カ国・地域(日本、香港、豪州、欧州、スイス、カナダ)の店頭デリバティブ規制に係る米国規制との同等性評価の結果を公表。日本の店頭デリバティブ規制に関する法令・監督制度については、CFTCと議論を重ねてきた結果、概ね同等との評価がなされた。しかしながら、米国で活動する、又は将来的に活動を予定している本邦の金融機関等については、代替的コンプライアンス措置あるいは米国での活動の法的位置づけがなお未確定・不明確なケースがあり、今後も、CFTCと継続的に調整・検討する予定である。

III 欧州の店頭デリバティブ規制

2012年8月16日に、欧州委員会(EC)より、店頭デリバティブ取引の清算集中・取引情報報告に関するEU規則(EMIR)が施行された。また、2013年3月15日に、欧州証券市場監督局(ESMA)より、EMIRの技術的細則にあたるテクニカルスタンダードが公表され、同日施行された。

EMIRでは、EU域外の中央清算機関(CCP)がEU域内の金融機関に対して清算サービスを提供するためには、ESMAから認証を受ける必要があると規定されており、その前提として、CCPに関する欧州域外国の法令及び監督・執行の枠組みが欧州のそれらと同等であるとECが判断する必要がある。

ESMAは、2013年9月1日の欧州域外国CCPの同等性評価に関する技術的助言をECに提出し、9月3日に公表。2014年10月、わが国の清算機関に係る法令及び監督・執行制度は、欧州規制と同等であると評価された。

2015年2月、ESMAとの間でCCPに関する監督協力に関する覚書を締結し、2015年4月、当庁管轄のCCPは、ESMAから外国CCPとして認証を受けた。

IV アジア地域ファンドパスポート(ARFP)

2010年以降、APECにおいて、アジア地域ファンドパスポート(ARFP)についての検討が行われてきた。ARFPは、APEC加盟国のうち参加を表明した国が、投資家保護上の要件を満たしたファンド(投資信託等)について、相互に販売を容易にするため、規制の共通化を図るための枠組みである。

ARFPのルールの検討に当たっては、当庁も関与して具体的な検討を行ってきたところ、ルール案における投資者保護のための措置も明確となったことから、2015年9月のAPEC財務大臣会合において、日本、オーストラリア、韓国、ニュージーランド、タイ及びフィリピンの6カ国が参加表明文書に署名を行った。その後、2016年4月、日本、オーストラリア、韓国及びニュージーランドの4カ国が、同年6月、タイが、ARFPの協力覚書(MOC)に署名を行い、同月30日に同MOCが発効した。

節 アジア等の新興市場国への取組み

金融庁は、アジア等の新興市場国に対し、各国の金融インフラの発展状況に応じて、マル1ソフト面のインフラ整備、マル2ハード面のインフラ整備、マル3行政運営の知見・経験の共有といった支援を行い、地域全体の市場機能の向上や成長に貢献している。

I 金融インフラ整備支援

  • 1.概要

    アジア等の新興市場国の金融当局との間で金融技術協力の枠組みを構築した上で、研修開催やハイレベル面会等を通じて技術協力を実施し、金融制度の整備や金融当局の能力向上を支援している。

  • 2.活動実績

    金融庁は、これまでにミャンマー、ベトナム、インドネシア、タイ等の7ヶ国14当局との間で金融技術協力に係る覚書締結(書簡交換)を実施し、金融技術協力の枠組みを構築した上で、日系金融機関等の意見も幅広く聴取しつつ、長期専門家の派遣や先方関心事項に対応した現地金融当局職員対象の研修開催等、各国への技術支援を実施している。

    とりわけ、ミャンマーにおいては、当庁からミャンマー金融当局へ派遣中の長期専門家や財務省財務総合政策研究所等と協働して、証券取引法令の整備や証券取引所の設立を支援し、ヤンゴン証券取引所の開所(2015年12月)や取引開始(2016年3月)が実現した。

    (参考)ミャンマーにおける証券取引所設立支援の経緯

    2013年12月   職員をミャンマー財務省に派遣(JICA専門家)
    2014年  

    ミャンマー財務省との間で金融技術協力に係る覚書を締結。

    証券取引所の設立を優先事項に位置付。

     

    以来、ミャンマーの金融当局職員等を対象とする累次の現地研修を開催し、証券規制・監督等に関するノウハウを提供。また、現地及び東京での累次のハイレベル面会を通じ、証券取引所の設立に向けたプロジェクトマネジメント等について意見交換。

     
    2014年   ミャンマー証券取引委員会(証券当局)発足
    2016年   ヤンゴン証券取引所において取引開始

    また、アジア等の新興市場国の銀行・証券・保険監督当局の職員を招へいし、それぞれの分野における日本の規制・監督制度や取組み等の一般的な内容について幅広く講義を行う「銀行・証券・保険監督者セミナー」を実施している。

II グローバル金融連携センター(GLOPAC)

  • 1.概要

    グローバル金融連携センター(GLOPAC:Global Financial Partnership Center)は、マル1金融市場に係る諸課題について検討を行い、金融インフラ整備支援に活用すること、及びマル2海外金融当局との協力体制を強化することを主な目的としている。2014年4月に金融庁内に設置されたアジア金融連携センター(AFPAC)を2016年4月にグローバル金融連携センターへ改組し、アジアのみならず、中東やアフリカ、中南米も対象地域に追加した。

  • 2.活動実績

    2014年7月以降、インド、ウズベキスタン、カンボジア、スリランカ、タイ、ドバイ、フィリピン、ベトナム、ボツワナ、マレーシア、ミャンマー、モンゴル、ラオス(13の国と地域)の金融当局者を招聘し、2016年6月末までに計48名の研究員・インターン生がAFPAC及びGLOPACの研修プログラムを修了した。

    長期滞在の研究員については、概ね2~3ヶ月間の滞在期間中、金融庁の組織・業務概要や金融規制の枠組み、検査・監督実務等に関する基本的な講義を提供し、その後、各研究員のニーズや関心に応じて、庁内職員によるテーマ別研修や意見交換等を行っているほか、外部関係機関等を訪問する機会も提供している。研修プログラムの中で、研究員は、母国の金融システムの現状や課題、GLOPACのプログラムを通じて学んだ内容や今後の課題等について、庁内で報告会を行うほか、国内で開催される国際シンポジウム等において発表する研究員もいる。

    また、研究員等との継続的なネットワーク構築・強化のため、受け入れた研究員等(卒業生)に対する、GLOPACが発行するニュースレターの送付、金融庁職員が外国出張する際のフォローアップ面談の実施、当庁等が主催する国際シンポジウムへのパネリストとしての招へい等を通じ、プログラム修了後のフォローアップを行っている。

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