森金融庁長官記者会見の概要

(平成13年3月12日(月)17時02分~17時43分)

【質疑応答】

問)

長官の方から何かございますか。

答)

私の方から特に申し上げることはございません。

問)

今日、東証の平均株価終値が1万2,171円ということで大幅に値を下げたんですけれども、景気の現状に対する長官のご認識と金融機関への影響についてお伺いしたいんですが。

答)

確かに、本日一方において、昨年の10~12月期のGDPも発表になり、それによれば、年率換算3.2%というまずまずの緩やかな回復を示していたわけですけれども、しかし、問題は足元ということで、ご承知のように1月に入ってから、米国の景気後退という要因、更には日本の企業の業績予測の下方修正といったことが重なりまして、ここに来て景気の先行きについて懸念が持たれている現状かと思います。敢えて例えれば、緩やかな回復をしてきて、階段を昇ってきてたところが、急に踊り場にさしかかって、今、もがき苦しんでいる状況ではないかと思います。

こういう矢先の景況感というのは、当然我が国経済の動脈の役割をしております金融機関にも大きな影響があるわけでございまして、大まかに言えば、一つは、このまま景気が本当に悪化するならば、不良債権が増大するのではないか、それが金融機関の経営に与える影響というものが、当然予測されるわけです。

もう一つは、今ご質問された記者の方は株価という点に触れられましたけれども、当然株価の下落というものは、下落そのものが今年の3月期の損益に直に影響するわけではございません。しかし、来年度時価会計が導入されれば、当然配当可能利益に影響してくる話でございますので、金融機関は更に収益向上の努力をしなければならないということになろうかと思います。

ただ、本日の株の動きなどを見てますと、日経平均は確かに4百数十円下がっておりますけれども、TOPIXで見た場合はさほど下がっておらず、確か終値でいきましても、1,200は維持しておるわけでございまして、バブル崩壊後の最安値時のTOPIX980からすれば、まだ相当上の水準にあるということも、是非、報道機関の皆様方が国民の皆様に知らせて頂きたい、そんな狼狽するような状況では決してないと、私は思っております。

問)

明日の年度末金融の円滑化に関する意見交換会で、今の現状等を踏まえた説明と不良債権の直接処理に対する考え方等の説明もされると思うんですけれども、その辺についてお話をお伺いしたいのですが。

答)

明日の金融機関の代表者に集まって頂いての意見交換会というのは、直接には年度末を控えて、金融の円滑化を各金融機関、各業態の代表者にお願いするとともに、意見交換をするのが主たる会合の目的でございまして、これまでは年末金融について金融の円滑化をお願いする同じような会合を開いておりまして、こういう経済の状況にも鑑み、大臣のご発案で年度末にも開くことにしたわけでございます。

そうした中で、当然現在のデフレ下での経済状況についての懸念は話題になると思いますし、今、お聞きになられた記者の方が触れられた不良債権の直接処理、これは大臣が仰り、またいろいろマスメディアの方々も報道されております、極めて今日的な話題でございますので、当然大臣の方から、そのことについての考え方、すなわち、こうした日本経済の苦境を乗り切っていくには、構造改革というものが重要であり、それは産業側の過剰債務問題と金融機関側の不良債権の問題が表裏の関係にある、それを一体的にどう解決していくのかというような話は、当然大臣はされるのではないかというふうに思っております。

問)

9日に与党が緊急経済対策をまとめまして、その中でも不良債権処理の迅速化というか、的確化というような話も含まれているのですが、現在、金融庁が取り組まれている不良債権処理のスキーム、枠組みとの考え方との一致点、ないしは相違点みたいなものを伺いたいのですが。

答)

基本的に、先週金曜日に与党からお示し頂きました緊急経済対策の中に触れられております不良債権の的確かつ迅速な処理というコンセプトと申しますか、考え方というのは、当金融庁がこれまで検討課題として取り組んで来ている考え方と軌を一にするものだと考えております。

ただ、大臣も申されております通り、誤解のないように申し上げれば、現在、金融機関からのヒアリング、あるいは産業側の、先程申しましたように、産業再生との一体性ということを頭におきながら、所管官庁でございます国土交通省や、あるいは経済産業省との意見交換、そういうものを通じて、過剰債務と不良債権の直接処理というものを一体的に進めるための環境整備案というものを懸命に検討しているところでございます。しかし、これはこの3月末で今年度が終わるわけですけれども、今年度中に何かというようなことを考えているわけでは全くないわけでございまして、そういう意味ではやや中期的に日本経済の信認というものを、抜本的に回復するための枠組み作りというものを構築致しまして、今申し上げたような問題を進めるに当たっての環境整備のための仕組みを作って、敢えて言えば、来年3月の決算期に向けて、企業と金融機関が、その2つは、金融機関は当然企業のアドバイザー役になるわけでございますので、関係が深いわけですけれども、自主的に、金融機関からすれば直接処理、産業・企業側からすれば過剰債務の削減そして再生、そうしたものを進めていくということを期待しているわけでございます。

問)

方向性としては、今月末までにある程度の形は作っていこうということですか。

答)

厳密に今月末になるか、来月初めになるかというのは、私たちにとってはそれはあまり意味のないことです。つまり、何も決算でしたら、3月31日で日が1日変わると来年度になるわけですけれども、私が先程申しました通り、そういうものである以上、その発表が今月末なるのか、来月初めになるのか、それは分かりません。それはそこにターゲットは設けておりません、正直申しまして。ただ、一生懸命、与党からもご指示の通り、金曜日に示された課題でございますし、何か、そういう環境整備の策というものをできるだけ早くお示ししたいと思っております。

問)

経済対策の中で、民間による株式買上機構の構想が出ているんですけれども、マーケットなんかでは疑問の声なんかも出ておりますが、その辺どのようにお考えですか。

答)

金曜日に与党から、お示し頂きました民間のイニシアティブによる持ち合い株買い上げ機構の構想と、そういうものを今ご質問されたかと思うのですけれども、基本的に金融機関のリスクというものを取り除いていくためには、持ち合い株の解消というのは、極めて重要な課題だと、我々もかねてより思っております。

また、金融機関の側も、銀行の側もここ2、3年そういう意識の下で着実に持ち合い株の解消に既に努めてきているところでございます。ただ、このような株式市場の状況の中では、一つは今の株価水準では銀行の側からしても、なかなか損切りはできないという面もありますし、また持ち合い株を売りに出すこと自体が株価を下げるという面もあるということから、持ち合い株の安定的な受け手としての、このような機関ができるのならば、株価に対する押し下げ要因というものが取り除けるのではないかという面もあるかと思います。

ただ、基本的には日本の金融システムの安定という観点から、株を持っているリスクを取り除くというところが基本にあるのではないかと思います。これについて、その実現性をどう思うかというご質問かと思いますけれども、民間のイニシアティブでこういうものができれば、結構なことだとは思いますけれども、その辺は全くまだ民間サイドに聞いておりませんし、その辺をこの構想をどう思われるかというところから、まず民間から聞きたいと思いますし、また、民間サイドがこういう構想に立ち向かうには、何か味付けがなくてはということであれば、どういう味付けが必要なのかということも聞いてみたいと思っております。

いずれに致しましても、与党から森総理、すなわち政府へお示し頂いた、極めて貴重な対策案でございますので、それを踏まえて、民間サイドと意見交換してみたいと思っております。

問)

今の民間サイドと話し合いたいというのは、明日の意見交換の場でそのテーマを持ち出すということですか。

答)

いえ、明日とは全然関係ございません。明日はそれはちょっと聞かれる方も準備もできていないでしょうし、それはそういう場は考えておりません。

問)

先程、長官が味付けと仰ったのは、行政として何かお手伝いできるものがあればと、そういうことでしょうか。

答)

いや、それが行政の分野なのか、それ以外の分野なのか、そこは本当に聞いてみなければ、よく分かりません。ただ、私が味付けという言葉を使わせて頂いたのは、与党3党の緊急経済対策を注意深く見ました時に、民間ファンドによる株式買上機構を創設し、これらに対応する体制を構築することが急務であると含蓄のある表現をなさっているものですから、そういう何か味付けというものが必要なのかどうかということも含めて、民間と意見交換してみたいということでございます。

問)

来年の3月期に向けてということでしょうか。

答)

どの問題でしょうか。

問)

この買上機構構想の問題についてですが。

答)

来年の3月と申し上げたのは、あくまで不良債権の直接処理の話で、先程言っただけでございまして、これ(買上機構)は、そういう期限性というものは、何も頭にございません。できるだけ早く民間サイドのご意見を聞いてみたいというふうに思っております。

問)

買い上げ機関というのは、株を移転する時に、譲渡益が課税されると思うのですが、その問題については、与党の対策では明確になっていないのですけれども、金融庁として民間の買取機構に移転する時の譲渡益課税を免除して欲しい、減免して欲しいという要望があった時には、税務当局もそういうことは考え得る選択肢だとお考えでしょうか。

答)

ちょっと仮定の議論には、この場では、お答え控えさせていただきますけれども、そういう問題も含めて、民間サイドの意見を聞いてみたいと思います。そういう希望が果たして出てくるのかどうか。

問)

与党の経済対策の中には、証券税制の改正の話があったと思うのですが、金融庁としては、税の時期、まあ大体年の後半だと思いますが、それより前に自民党税調、あるいは税務当局に働きかけていくつもりはありますでしょうか。

答)

まず、現在予算関連法案として税法が審議されている時期でございますので、そういう中で既に一旦決着している問題を蒸し返すということは考えられない問題だと思います。

問題はそれが終わった後ということのご質問かと思うのですが、少なくとも金融庁は、株式の譲渡益課税につきまして、昨年末にある案を、考え方を固めまして、税務当局に要望したという実績がございます。それから後、与党3党の証券市場活性化対策の中間報告が、まず出て、そして今回緊急経済対策というものが同じ与党3党から示されたわけでございますが、その中身について再度、勉強・検討をさせていただきまして、その勉強・検討をまずさせていただくということが先決かと思います。それを踏まえてどう行動するかにつきましては、現時点ではまだ私自身何も考えておりません。まず、中身について検討させていただく。即ちポイントは現在の日本の証券市場、株式市場、まず一つは、間接金融からもっと直接金融にシフトするようなインフラ整備がどうやって図れていくかということが一つの課題であり、もう一つの課題は、日本の株式市場にずっと昭和50年代からシェアが下がり続けている個人部門という1,400兆円の資産がある個人部門をどう株式市場に導き入れていくかと、それについてどういう税制が有効であり、しかもまた公平中立といった税の基本から言っても許されるものであるかそういうことを検討していくことが先決だと思っております。

問)

今日、自民党の山中貞則さんがですね、記者団に対して党税調は11月だということを語られたわけですけれども、今の証券税制の改正だけではなくて、不良債権の処理とか、あるいはさっきの買上機構の話とか税に絡む話が多いと思うのですが、来年の3月期を考えていろいろ金融庁はお考えだと思うのですが、11月開催で間に合うと思われますでしょうか、その辺ご意見ございましたら。

答)

まず、今の記者が仰られた山中本部長のご発言の真意と申しますか、それについては私は承知しておりませんので、何かをつまり、11月まで何もないということを前提とした話というのは、しにくいというのが一点でございます。

つまり、そういうことにも全てどうなるか決まっているのかどうかというのが、私正直言って党のことでございますので、よく分からないということで、そこが一点。

もう一点は、中身によっては、何も法律改正ということではなく、例えばETFの創設みたいな話で、つまり上場株式投信の創設みたいな話でございますと、私は必ずしもそんな大袈裟な話ではなく、税法上の省令マターであると同時に、証取法上の政令マターということでございますので、私はあまりそちらの方の専門家ではございませんけれども、世の中の共感が得られれば、コンセンサスが得られれば、私は可能なのではないかと、そういうものもあるということを申し上げたいと思います。

問)

確認なのですけれども、先程与党の対策の不良債権処理の部分について長官が金融庁の考え方と軌を一にしているというふうに仰ったのですけれども、与党の対策の中にある程度具体的にですね、民事再生法とか倒産法制の見直しみたいなこととか、あるいは再建している企業への融資のあり方とか、幾つか具体的に触れられている点もございますけれども、その辺も含めてある程度金融庁が検討されている方向と同じというふうに理解して宜しいのでしょうか。

答)

具体的に触れている点につきましては、そこまで検討が行っているわけではございませんので、考え方として軌を一にすると申し上げたので具体的な点についてまで、先程の発言は含んではおりませんけれども、当然こういう具体的なことは検討すべき事柄だと思います。

ただ金融庁だけで、産業活力再生特別措置法にしろ、民事再生法にしろ、会社更生法にしろ、金融庁だけで完結的に何か対策を出せるという話ではございませんので、当然関係省庁との協議が必要でございますので、ただそういう協議も精力的に進めながらこうした具体案から何かいい環境整備策が出来るのならば、それを積極的に取り入れて行きたいとそういうふうに思っております。

問)

与党の対策の金融検査の弾力化という項目の中で、特に信用金庫、信用組合について、緩急併せた実施運用が肝要であるという指摘があるのですけれども、金融庁の方で現状の検査のやり方を見直すというようなお考えはありますでしょうか。

答)

これは皆様ご承知のとおり、現在の金融検査マニュアルの中で、金融機関の規模や特性を配慮して機械的、画一的な検査のやり方は慎みなさいということが実に11箇所に渡ってきめ細かく書いてあるわけでございまして、私としては、今回の3党の緊急経済対策に書かれております検査の仕方、つまり借り手である中小企業の特性等に配慮した、その実情を考慮した金融検査マニュアルの運用をしなさいよと申しますのは、これは当然のことでございますので、既に金融検査マニュアルにその旨書かれておりますし、そのように検査官の教育指導も折に触れ行っているところでございます。

更に敢えて言うならば、党のこうした文書も出ましたので、本年3月末に信用組合に対する立入検査が一巡した暁には、改めて信用組合の検査に関わる問題についての意見交換、さらには今回党から示された点を更に研修するという意味も込めまして、臨時の検査監理官会議も開催したいというふうに思っております。

問)

株式市場の買取機構の件ですが、想定はしても仕方がないかも知れないですが、このままの株価の状況で3月末、例えば1万2千円台で終わってしまう。それを割り込む損失が出ている株式については強制的に買い取るというそういったようなことは想定出来るのですか。

答)

私は、何事もフォースするようなことは想定しておりません。強制するようなことはですね。会計上の取扱いも、現在株式に含み損があるという話と、損出しする話では全然違う話です、皆様ご承知のとおり。時価会計導入になったとしても、含み損である限りはB/Sの問題で止まります。これを売ってしまうとP/Lの問題になります、話が全然違います。

問)

買取機構の問題で、来年3月に向けた枠組み作りみたいなお話をされていますけれども、そういう意味ではこの3月期に金融庁としてどういう考えでこの問題に取り組むおつもりですか。要するに枠組みのない中で金融機関の不良債権問題、あるいは産業側の過剰債務問題、これをどういうふうにお考えでしょうか。

答)

この3月期ということで物を考えてみればですね、ある意味で金融機関自身がオフバランス化の重要性は何も行政当局に言われなくてもよく承知している話でございます。それは全銀協会長も記者会見で触れられているとおりでございますので、環境整備の何かがなくても出来る限りのそういう方向での取り組みというのはしていただけるものだろうと思っておりますし、また実際この場で前にもお話申しましたとおり、この直接処理というのはいかにも今度初めて取り組むような感じを世の中に与えておりますけれども、実際には過去において8割方は不良債権の処分損、不良債権の処理のうちの直接処理の8割を占めているというところからお分かりのとおり、私はそういうことで今年の3月期は過ぎていくと思いますし、また今の一つのフィクションかも知れませんが、8割、2割と、あまり8年半で平均すればという意味でございますから、今年の3月がどうなるかというのは私はちょっと自信はございませんけれども、問題は残った2割にもきちっとした間接処理と申しますか、間接償却と申しますか、引当てをして各金融機関とも保全に万全を尽くしていただきたいというふうに思っております。

問)

その時に健全化計画にして2割、3割収益が下振れとなる場合も、そこもかなり弾力的に考えるのでしょうか。

答)

これはそう短絡的に物事を2つを結びつけていただきたくないので、ルールを変えないという意味でございまして、ルールは何かというと、3割の乖離イコール行政処分ということでは全然ないわけでございまして、問題は3割乖離した後に市場の信認が果たして得られるかでございますから、私はきちっとした不良債権の処理をした結果として仮に3割を超えても市場の信認が得られてそのような事態にはならないという場合もあるのではないかというふうに申し上げております。

問)

不良債権の処理について、直間比率を8対2というのを処分損ベースでいつも仰るのですけれども、これは元本ベースというか簿価ベースで教えていただけますか。というのも、直接と間接とでは処理損の出るのは大分違うというふうに言われてますので、それで「8」も直接というのはちょっと理解し難いところでなんですが。

答)

それは恐らく一つ一つの担保がどれくらい付いているかとか、そういったところを計っていかなければ出ないのだろうと思います、正確な数字は。簿価ベースで直間を出せと言われてもですね。即ち、不良債権処分損の中の直接処理でいくらかという時には、皆さんにいつも決算期毎にお配りしている不良債権の中の、いわゆる直接償却「等」としている部分と、元々引当てに積んでいた部分があるわけで、それは引当金の取り崩し額という形で、あの紙には出ていませんが計算すれば出てくる数字でございますからそれを足したものを不良債権処分損、即ち処理額のうちの直接処理によった額ということでしたわけでございます。これを簿価に直そうとすると保証や担保という問題はあるわけですから、過去にそういう直接処理したものの担保価値がいくらかと、そういうことを辿っていかないとなかなか出て来ないのでないかと思います。ただ今仰った記者の方の問題意識は、私も共有しておりますのでもう一度よくチェックいたしまして、何かサジェスティブなことが言えますれば申し上げたいと思います。

問)

今日、自民党の緊急金融システム安定化対策本部で銀行の資本注入を定めた早期健全化法を延長する必要はないのかというようなことが出たらしいのですけれども、長官改めてそれについてのお考えをお示し頂きたいと思います。

答)

私は、その場で柳澤大臣も仰られたと聞いておりますけれども、再資本注入の必要性はないということを大臣もその場で仰られ、また少なくともそうではないという話にはならなかったというふうに聞いております。失礼しました、党の話なものですから、会見の場で私が伝聞で何か言うのは不正確かと思いますので、党の中で記者ブリーフをしたのかしないのかも私も聞いておりませんので、ちょっと発言を控えさせてください。

いずれにいたしましても金融庁といたしましては、早期健全化法の延長ということは考えておりません。

(以上)

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