森金融庁長官記者会見の概要

(平成13年8月27日(月)17時03分~17時32分)

【質疑応答】

問)

長官の方から何かございますでしょうか。

答)

特にございません。

問)

昨日放送のテレビ番組の中で、柳澤大臣が要注意先債権の引当について「過去の貸倒実績に現在のいろいろな指標を組み込めないか」という趣旨の発言をされていますけれども、このことについて、現在のいろいろな指標を組み込むというのはどのような方法を想定していらっしゃるのか、また、いつ頃からそのような方法を適用されるのかについてお願いします。

答)

私も今仰られた報道番組を見ておりまして、ただ、皆さんもご覧になった方はお分かりの通り、非常に短い時間に大臣が集約されて仰られたので、なかなか一般には分かりにくい面があったかなあと思っておりますけれども、まず一つ、これはいわゆる銀行は皆さんご承知の通り、BIS規制の上で標準的手法を採る銀行と、内部格付手法を採る銀行に分かれますね。昨日大臣の仰られた話というのは、あくまで主要行等、内部格付手法を採る銀行の話だと思っていただきたいと思うのです。

その上で申し上げますと、正常先、一般要注意先、要管理先と、こういうふうに信用の度合いに応じて債務者区分が下がって行くわけですけれども、正常先もグルーピングは一本ではございません。我が国の主要行も「正常1」、「正常2」、「正常3」、まあ名前は正常1のことをいろいろ符号を付したりしておりますけれども、そういうふうに細分化しておりまして、各グルーピング、分類別に過去3年の貸倒実績率を計算しまして、その貸倒実績率を元にして予想損失率を出しまして、引当率を出しているということです。

要注意につきましても同様でございまして、一般要注意先についても一本ではございませんので、「一般要注意1」、「一般要注意2」というふうに分かれているわけです。こういうグループ別に過去の貸倒実績を計算しまして、それから予想損失率をはじいて引当率を出していると。そうした場合に大臣の仰られたことは、内部格付手法のそういうグループ、どういう企業をこのグループに入れるかという時に、いろんな財務手法からの信用リスクというだけではなくて、市場の発する信号、即ち格付機関による格付け、つまり外部格付、外部レーティングとか、あるいは株価とか、いわゆるそういう市場の発する信号、あるいは指標と言っても良いかも知れませんが、そうした指標をそういうグルーピングする時の各グループの指標の中に取り入れたらどうかということではないかと思います。従って、例えば「一般要注意1」というのがレーティングがこれくらい、「一般要注意2」というのがレーティングがこれくらいと、こういうふうに例えばそういう指標を取り入れた場合はそうなるわけですけれども、そうなれば市場の発する信号が芳しくない企業については、その他の指標から見ればより上級のグルーピングに属しているかもしれませんけれども、そういう外部レーティングで一段下がるということにもなる。そうなれば、引当率というのはより大きくなる。そういうようなことを仰られた、そういう形にして市場の声というものを引当率というものに反映させていきたいということを大臣は仰られたことかと思います。

これは、現在の金融検査マニュアルでそのようなやり方をすることは、まさしく望ましいことでもございますので、大臣の仰られます通り、そういう内部格付手法を採る銀行に対して、内部格付けのグルーピングの際のどういう指標を取り入れるかという時は、そういう市場の発する信号のようなものも取り入れたらいかがですかという、そういう要請を出来るだけ早く機会を捉えて、主要行に要請して行きたいというふうに考えております。

問)

これまで、債務者区分と引当に関しては、公認会計士協会の実務指針、それを受けた当局の金融検査マニュアルといった、世界的にも通用するような基準で債務者区分をし、その貸倒実績に基づいて将来の予想損失率を出して引当をしていると、そういうお話だったかと思いますけれども、これまでのやり方と、今回大臣が仰ったやり方と比べた場合に、これまでのやり方で引当が不足していたと、そのような認識でいらっしゃるのでしょうか。

答)

いや、そういうことを言っているわけでは全然ございませんで、公認会計士協会の実務指針、あるいはそれを受けた金融検査マニュアルで細かくあるわけですけれども、そうした場合の債務者のグルーピングにつきまして、これは金融検査マニュアルの信用格付のところをお読み頂いても、あるいは一般貸倒引当金のところをお読み頂いても、皆さんご理解頂けると思いますけれども、ある程度やり方、そういう債務者区分のやり方について幅を持って書いてあるわけです。その中にそういう外部格付、例えば信用格付のところに何と書いてあるかと申しますと、「債務者の財務内容、格付機関による格付、信用調査機関の情報などに基づき、債務者の信用リスクの程度に応じて信用格付を行う。」と書いてあるわけですね。その中であえて言うならば、だからと言って格付機関による格付、今私が申しましたレーティングの話ですけれども、必ずそれを入れろとは書いてないわけで、今まで主要行について、そういうものについて入れていないところがございましたらそういうのも入れて、結果は同じかもしれません。同じになる場合が多いでしょう。だけれども、そういうのも入れて市場の声というものを引当率に反映させた方がよろしいのではないかということを言っているわけでございます。

問)

現行の検査マニュアルの趣旨を徹底させるということでしょうか。

答)

何と言いましょうか、ご質問になっている記者の方は何か求めているものは一つのように見えますけれども、会計基準というのは幅が広い、金融検査マニュアルも幅広いので、その中から市場の出す信号について、内部格付する時にもうちょっと市場の信号を尊重してグルーピングしてはいかがですかということを大臣が仰ったということかと思います。

だからと言って、これを取らなかったら、金融検査マニュアル違反だということで、検査官が何かぎりぎりこれを取らなればいかんとか、そういうような世界の話ではございません、これは。これは例示として出ているものでございますから、何も外部レーティングを内部格付手法に、例えば、うまく例が言えませんけれども、あるグルーピングのところに「BBB+」というものが入っていたか、入っていなかったか、入っていなかったらこの基準はおかしいとか、そんなことは言えないわけで、他の客観的な基準で作っていたら、それはそれで金融検査マニュアル違反ではないわけです。だけれども、今いろいろ市場の声の中にですね、「一般要注意であっても、将来の損失予想みたいなものを取り込むべきだ」という声がある。それに対して我々は会計基準というのはそんな将来の予想、つまり、あえて言うならば過去の貸倒実績率+α、「+α」というのは将来の経済を予想して「+α」をこれだけ付けなさいと、こんなようなことは会計基準では採り得ませんし、金融検査マニュアルでも採り得ないわけです。

しかし、ぎりぎりではどういうような市場の声を反映できるかということを考えた時に、グルーピング、このグルーピングの中には外部レーティング、外部格付とか、あるいは株価という要素も入っている。そのグルーピングの過去の貸倒実績率に基づいて予想損失率を出す。そうした時にグルーピングの「1」、「2」、「3」、「4」それに従って外部レーティングも下がって行くみたいなようなものを採り入れた方が市場の声が引当率により反映されるかなあということで、大臣が仰ったことかと思います。

問)

確認ですけれども、あくまでも現行のマニュアルの範囲内でということですか

答)

そうです。

問)

改定ということはないのですか。

答)

そんなことは有り得ません。現行のマニュアルの中に「格付機関による格付というものを採ってもいいですよ。信用調査機関の情報なども採ってもいいです」と書いてあるわけですから。

問)

趣旨を徹底することによる影響ですけれども、先程長官は結果は同じかもしれないということを仰いましたが…。

答)

いや、それは分かりません。それは全然分かりません。それはまだ、恐らく各銀行とも検討段階であって、そういうものを本格的に取り入れている銀行があるのかどうか私も承知しておりませんので、軽々なことは申し上げられないので、採り入れた結果どうなるかということもちょっと予断を持って言えません。ただまあ、アップトゥデイトな市場の声というものを、ある企業をとった場合ですね、ある債務者をとった場合に、より的確に債務者区分に反映できるかなと。ただ何遍も申しましたけれども、今私が債務者区分と言っているのは、いわゆる正常先、一般要注意といった大まかなことではなくて、その中でも更に細かい債務者区分のことを私は今申し上げているということが一つと、もう一つ、要管理は話は別です。要管理はしっかりと3ヶ月延滞、あるいは貸出条件緩和というものをきちっと検査局が定義をはっきりさせていますので、これはそういう市場の声とかいうもの、つまり市場の声が悪かったら要管理にするんだと、そんな話では全くございません。要管理は別の外部的な基準によって客観的に決まる話であって、市場の声で、例えば株価が額面を割ったら貸出条件緩和かもしれない、3ヶ月延滞をしていなくても要管理だと、そんな乱暴なことは会計基準では許されてません。それは出来ません。私が申し上げているのは、あくまで一般要注意以上、つまり一般要注意と正常の話です。

問)

民族系の金融機関についてですが、先週末に朝銀関東信用組合が破綻を申請しました。また、いわゆる民族系金融機関に関して、ずさんと言われても仕方がないような経営の実態というものが様々な形で報じられています。このことに関連して、いわゆる民族系の金融機関に対する検査あるいは監督体制というものは、これまで十分だったというふうに思っているのでしょうか。

答)

先週金曜日に民族系の信組から破綻の申し出がございまして、ご承知の通り金融整理管財人を派遣して、財産及び管理を命ずる処分を行ったわけですけれども、財研の記者の皆様方も交代が激しくて、あるいは徹底してなければ、どうしてもこの席で一言言わせていただきますけれども、かつて国民銀行が、いわば報道破綻になったわけですけれども、あの時以来、大臣も申されていて、私も当時、金融再生委員会の事務局長として皆様方にもお願いしたのでございますけれども、是非、破綻報道の前打ちというのは厳に謹んで頂きたい。従って、店が閉まる午後3時までは是非報道を控えていただきたいということをかねがねお願いしているわけでございまして、そういう意味で、金曜日に一部の報道機関がそれより前に報道したことに対して、極めて遺憾に考えていることを申し上げさせて頂きたいというふうに思います。

その上に立って、ただ今のご質問にお答えするならば、民族系の信用組合と言えども、それ以外の信用組合と法的には全く同じでございまして、日本の協同組合による金融事業に関する法律等に基づいて出来ている信用組合でございます。そしてそういう信用組合は、昨年の4月に地方公共団体から国に監督が移管いたしまして、そして昨事務年度、即ち昨年の7月から今年の6月末、正確に言えば7月5日が最後だったと思いますけれども、全部の信用組合に検査をし、検査通知も発出いたしました。そして国の検査におきましては、民族系もその他の信用組合も差別することなく、厳しく行っております。そうした中で昨年12月、あるいは今年になっても民族系の信用組合のいくつかが破綻をいたしたことは大変残念なわけですけれども、その経営がどうであったかということにつきましては、現在、金融整理管財人をそれぞれ破綻したところ全てに送っておりますので、その調査結果を待ちたいと思いますし、また旧経営陣の刑事面及び民事面での訴追ということについても、金融整理管財人の大きな責務でございまして、これも懸命に今やっていただいているところでございます。その結果を待ちたいというふうに思っております。

問)

検査マニュアルをお持ちのようなのでちょっと確認して頂きたいのですけれども、貸倒実績率から予想損失率を算定する過程において、将来の発生見込みにかかる必要な修正を行うというのは今でも入っているのでしょうか。

答)

入っていますね。

問)

それはどういう理解なのでしょうか。

答)

それは主観的なものではなくて、あくまで客観的な要素が入り得る場合ですね。

問)

例えばどういうことなんですか、これは。

答)

例えばと言われても客観的な要素というのにどういうものが入り得るかというのは、まあ検査局長の懇談もあると思いますので、よく検査局に聞いてください。

あまり私があやふやなことを言って誤解を招いてもいけませんので。

一つ言えることは、今後景気が悪くなりそうだみたいな主観的なものは絶対あり得ません。予想損失をはじくときは。

問)

多くの大手行はアメリカで商売をしていて、FRBの検査も受けていると思うのですけれども、まあそんなに多くでもない少ない大手行ですけれども、彼らはやはり検査の考え方は大分違うところがあると思うんです。つまり将来のキャッシュ・フローがこの債権からどれだけ生まれて、それをどうやって現在価値に引き直して、今のエクスポージャーとの差を引当にするかという考え方というので対応しないと、なかなかFRBの検査というのは邦銀といえども許してもらえないのではないかと。

向こうはプロジェクト・ファイナンスで、こっちはコーポレート・ファイナンスだから、五目そばだから海老と竹の子がいつ腐るかなんて分からないよと、これではやはりなかなか通用しないと思うのですけれども、各行はどういうふうに対応しているのでしょうか。

答)

ちょっと今の質問の趣旨の確認なのですけれども、あえて言えば債権の市場価値みたいなものを基準にして引当しろという意味ですか。

問)

その通りです。

答)

だから、それはですから日本ではとり得ない考え方ですね。債権というのは銀行にとってみれば売るために持っているわけではございませんで、信用供与、付与、与信のために持っているんですね。つまり、基本的に債務者に特段の異常が発生しない限りは最後まで持ち続けますし、最後まで返済を求める、通常の銀行貸出業務を行う、それを基にやっているわけでして、最近、今ご質問のあった記者の方と同じようなことを仰られる記者の方がいらっしゃいます。つまり、これから引当というものを市場価値、市場での売却価値で引当率を決めてはどうかということを仰られる方がいるのですが、これは根本的に日本の会計基準では受け入れられないところです。銀行の貸出金というのは、その貸出金を将来どこか良い値段の時に売ることを前提として銀行は持っているわけではございません。融資活動、融資というものを業務の根本に据えて銀行というものはやっているわけでして、従ってあくまで引当率というのは信用リスク、その銀行の貸倒れのリスクを測るために持っているもので、銀行の貸倒れリスクというものを引当率だとすれば、それは市場価値、100マイナスXでしか、それだけ割り引いてしか売れないとした時に、Xが引当率だというのが今仰られた記者の方の趣旨かと思うのですが、そういうわけにはいかない。必ず、この与信が将来貸倒れするリスクがどれくらいあると、だからグルーピングをして過去の貸倒実績率で客観的に測っているわけですね。そういう面で今ご質問のあった記者の方の質問は大変グッド・ポイントなんですけれども、そしてまたそういうことも最近言われ出しているわけですけれども、銀行の引当率を計算する上に、そういう債権の市場価値、市場売却価値みたいなものはですね、とてもとり得ない。日本の会計、銀行会計基準とは矛盾するものだというふうに思っています。

問)

仰ることは大変良く分かるんですけれども、日本の銀行というのは、でもアメリカで活動する銀行は日米両国の検査を受けなければいけない。そしてそれをちゃんとパスしなければいけない。相当考え方にやはり違いがあると思うのですけれども、そもそも論を今さら聞くのもおかしいのですけれども、どうやってそこをクリアしているのかなあと。「両方とも適正な引当でございます」と「立派なものです」という通知を頂いているのかどうかということになると、私はちょっと疑問があるのですけれども、長官はそういう問題について国際担当の皆さんからどういうふうなことを聞いていらっしゃるのでしょうか。

答)

正直言って仰っているのは、国際基準行の海外支店に対する検査ということかと思います。その実態について私は必ずしも十分に把握しておりませんので、本日の席で、それに対しての回答は控えさせていただきますが、ただ基本的には、今、不良債権というものに焦点が当たって、アメリカのS&Lの処理というのは債権の売却が主体であったという話も中心になり、それが今ご質問になった記者の質問にもつながるわけです。債権の価値を測るのに債権の売却価値と言いますか、市場価値というものを引当率を測るのにそういうことも考えられるのではないかという質問につながっていると思うのですけれども、私はやはり一つ大きな違いがあるのは、アメリカの場合は直接金融が主体でございまして、日本の大手行の貸出みたいな、一般論で申しますと、いわゆる大企業向け貸出というのがアメリカでそんなに多いとは思えません。そして、貸出先の借り手のサイズとか、そういうものというのはかなり日本の間接金融中心の主要行の借り手とは差があるのではないかと。

そういう中にあって、さらにファイナンスの仕方が一方はプロジェクト・ファイナンスだと。一方はコーポレート・ファィナンスだと、この違い、これも大きい。即ちやはり直接金融主体と間接金融主体という点とが大きくアメリカの銀行と日本の銀行の、そういうことを論じる時にはその違い、そして規模の違い、さらに言えばファイナンシングの仕方、プロジェクト・ファイナンスかコーポレート・ファイナンスか、コーポレート・ファイナンスであるからこそ、どうしても不動産担保融資に日本の場合はなりがちだというところ、こういうところも随分違うと思います。

今、私はその違いを申し上げただけで、今ご質問になった記者の方へは、その違いが検査にどう反映されているかということかと思うのですけれども、それはまたの機会にお話させていただきます。

(以上)

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