森金融庁長官記者会見の概要

平成13年9月14日(金)
15時00分~15時30分
近畿財務局8階大会議室

【森金融庁長官】

金融庁長官の森でございます。本日はお忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。

それでは一言、私、今年の1月6日に金融再生委員会事務局長から金融庁長官に就任いたしました。金融庁の仕事につきましては、地方においては財務局にお願いしているわけでございます。本来財務局に来て幹部の方々たちと意見交換しなければいけないのですけれども、その時間が無かったということ、更に地元の金融機関の方々からいろいろな意見をお聞きしたいと思いながらそういう機会がなかったということもありまして、今回やっと当地に参らしていただき、財務局幹部との意思の疎通及び、これから地元の金融機関の方々たちと意見交換を行いたいと、こういうふうに思っております。以上です。

【質疑応答】

問)

早速ですが、今日は質問項目をいろいろ予定しておりましたが、急遽大手スーパーのマイカルが自主再建を断念し、法的整理へというそういう見通しが立ったことを受けまして、ちょっと質問項目を変えさせていただきます。マイカルの自主再建断念、法的整理へというのを受けまして、特に金融機関に与える影響について、率直な所感などをお聞かせいただければと思います。

答)

マイカルについて、かねていろいろ報道されている中で、マイカルが自主再建ということで、いろいろ外資を含め、業務提携なりその他の努力をされている、そういうふうに私は承知しておりました。現時点において、今お訊ねになった記者がおっしゃられたような報道が流れていることは、先程承知致しましたけれども、事実関係につきまして、何も私のところには届いておりませんので、今の段階でコメントすることは適当でないというふうに思いますので、ご勘弁の程お願い致します。

問)

今、マイカルそのものについてのコメントは差し控えたいとのことですが、そうした報道を受けてですね、東証では株価が1万円台を回復する動き、米国のテロ事件では1万円を割り込んでいた株価がこうした形で1万円を回復したわけですが、今後の金融市場あるいは株価の動向についてのお考えをお願いします。

答)

株価水準というのは、いろんな経済指標の中でも大変重要な指標でございまして、かつ株価の下落が時価会計が導入されたあとはご承知のとおり、金融機関の剰余金に影響するわけでございますので極めて注意深く見守っております。

ご承知のとおり、確か10,200円ぐらいの水準の時にアメリカで大変不幸なかつ卑劣なテロ事件が起きまして、それに伴います当然下向きの影響を、アメリカ経済、そもそも減速感を強めていた時にこういうことが起こった訳ですから、やはり世界全体に先行きに対する不安感というものは増しているのであろうと、それが欧州の株式市場に影響し、更に翌日の日本の市場にも影響いたしまして、日経平均でマイナス6.6%ぐらい下げました。それから、欧州の方で翌日やや回復し、日本でもほぼ横ばいで今日の株価になっている訳でございます。

私は基本的に、ニューヨーク市場が開いた時にどれほどのインパクトをもった動きがあるのか、やはり、そこを注目していきたいというふうに思っております。いずれにいたしましても投資家の皆様には冷静な判断、行動を期待したいというふうに思っております。

問)

マイカルに関連してちょっと一般的なお話を伺いたいのですが、おそらくマイカルは、銀行の資産査定上は要注意先とか正常先とかその辺の分類をされていたのではないかと推察されるのですが、これが自主再建断念・法的整理することになりますと、例えば要注意先から破綻先へという事態になるということで、銀行の自己査定上の問題としてちょっと甘いのではないかとか、もう少し要注意先に一律に引当てを増やすべきではないかというような議論が出てくるのではないかと考えられるのですが、こういう話について長官はどういうふうにお考えですか。

答)

マイカルという個社の名誉のこともありますので、事実関係を把握していない私としては、マイカルのことにはコメントできない訳ですので、今の記者の方のご質問を一般的なものとして受け止めて考えますと、大臣も確かおっしゃっていると思いますけども、法的整理になったものを、例えばその債権額を100といたしまして、一体その履歴が、どこから落ちてくるのかと、破綻懸念先から落ちてくるのか、要注意先から落ちてくるのか、さらに正常先から落ちてくるのかというのをサンプル調査したことがございますけれども、やはり、ある程度は要注意・正常先から落ちております。

そして、落ちていることが不思議かといえば、あえて言えば、そういう突然死みたいなものは決して珍しくない訳でございまして、それは銀行にとって非常に予想を越えたことなのかというと、実は正常先にも要注意先にも引当金というものが付いております。すなわち、そういうような突然死を前提として過去3年間の貸倒れ実績率を、正常先も、要注意先も、それぞれ貸倒れ実績率を各銀行とも計っておりまして、その貸倒れ実績率に基づいて予想損失を出しております。

そして、サンプル調査で出てきた、そういう突然死による現実の損失額というのは、その予想損失の中に入っております。どうしてそういうことになるかといいますと、大手銀行ですと、正常先は例えば0.5%位かなと、要注意先になると5%位かなと、要管理になると15%位あるかなと言われておりますね。

ところが、それに掛ける、何と言うんでしょうか、元々が正常先というのはものすごく大きいですね、要注意先もものすごく大きい。預金取扱金融機関全体でいえば100兆円ほどあります。100兆円に例えば5%掛ければ5兆円出てくる訳でございまして、従ってそういう突然死があったとしても銀行としてはそうした引当金の範囲内に入っているという場合が殆んどでございます。

そういうことで、突然死というものは何もおかしい訳でもございませんし、そういう突然死も前提とした引当てというものは、各債務者区分ごとに入っているということでございます。ただ、そういう突然死、つまり直前期で要注意だったものが、次の期に行く前に破綻したと、ではどう会計上それをこれから工夫していくのか、これは大臣以下真剣に考えておりまして、もう既に皆様方に申し上げましたが、いわゆる外部格付あるいは株価、こういうものを各行の内部格付けの区分等に反映させていくことを主要行に要請しています。

今までの債務者区分、例えば要注意先の中には要管理と一般要注意がありますけれども、一般要注意は例えば4つに分類してですね、そういう分類は各銀行とも一生懸命やっている訳で、単に一般要注意だと、どこも信用リスクが同じだと言うわけではなく、一般要注意の中でも、金融検査マニュアルでは区分、グループをいくつかに分けます。その信用リスクは、違えば違うグループにする、その信用リスクを測る尺度としてですね、株価や外部格付を利用してはどうだと、そういう、やや突然死になる例を見ますと、例えば外部格付が下がったとか、株価が下がって顧客の信用が著しく低下していく、それに基づくいろいろな障害が出てくるということが考えられます。

従って、もちろん要注意ということは資産超過ですね、資産超過であっても、そういう顧客の信認の欠如みたいなところから、突如破綻することもあるということであるならば、ではどうして顧客の信頼が離れていったかを見るとなると、やはり尺度となるには株価とか外部格付かなと。従って、そういう債務者区分を細分化というか細分類化する時にですね、そういう外部格付とか或いは株価というものを利用してはどうかということを、今、金融界に投げかけており、大手銀行ですけれども主要行に投げかけております。

そうしておけば、各期といわず銀行は大体四半期ぐらいで管理しておりますので、そこのところで突然死というものに対して備えができます。一般要注意から破綻懸念に落とすとかですね、そういうことだってできるわけですので、そういう外部格付とか株価みたいな市場のシグナルを債務者区分の細分化に利用してはどうかということを投げかけております。一般論としてはそういうことでございます。

問)

大和銀行とあさひ銀行が持ち株会社の形態で経営統合の準備を進めているのですが、それについてどう評価されていらっしゃるのか。

経営統合に向けて課題がもしあるとすれば、どういう点が一番課題になるとお考えか、その2点をお願いしたいのですが。

答)

確かに、あさひ銀行と大和銀行が経営統合を検討協議しているということは承知しております。率直に申しまして、両者の店舗の配置状況等を見ますと、統合した場合のシナジー効果というものは相当期待できるのではないかなというふうに私どもは思っております。一般的に、こういう厳しい時代だけに各銀行ともリストラによって業務純益を上げるということが一番大きく課されている課題でございますので、経営基盤の一層の強化や収益力の向上につながるような金融機関の再編・統合といったものは、当方としては歓迎するところでございます。そういう意味で、私どもとしては、温かい目で、この交渉を見守っていきたいというふうに思っております。

2番目のご質問の、どういうところに課題があるかということでございますけれども、逆に私は必ずしもどういうところが問題かというのは、あまり思いつきません。システム面で、果たして両方のシステムがどうなっているのか、私は承知しておりません。私といたしましては、こういう時代でございますので、極めてスピィーディーな統合を期待しております。今時、2年後に一緒になりますなんていうような話は通用いたしません。遅くとも本年度中というふうに期待しております。

問)

今おっしゃった、あさひ銀行と大和銀行の経営統合の関連で、今、株価下落が大変進んでおりまして、あさひ銀行も大和銀行も以前の株価水準と比べて、大変株価が落ちていると思うのですが、今長官がおっしゃったスピーディーな統合に、この株価下落が何らかの影響を与えるとお考えでしょうか。

答)

まあ、株価は、当然、今の株価水準自体が異常なものと思っておりますので、そういう異常な株価水準の下で、個別銘柄の株が下がっているというのは、それ自体は止むを得ないものだと思っております。

そういう株価水準自体が、経営統合に障害になるかということよりも、株価水準が下がっているということは、先程申しました通り、剰余金をヒットし、配当財源に響いてくるのですね。ただ、私は皆様方は、何かその配当見送りとか配当財源がなくなると、銀行がいかにも不健全なような書き方をされる人がおられるかと思いますけれども、実は配当というのは株主との関係なのですね、預金者との関係ではありません。銀行が健全かどうかというのは、預金者との関係であって、それは自己資本比率が、国際基準行なら8%以上、国内基準行なら4%以上をきちんと保てているかどうかという点でございます。そういう意味で、大和銀行にしろ、あさひ銀行にしろ、仮に、この1万円だ、9千円だという水準になっても、11%以上の自己資本比率を維持できると思いますので、そういう面では問題ないと思っております。

株価の下落、それによる含み損の膨らみ、それによる剰余金の減、それにより配当がなくなるということと、健全性は少し冷静に見ていただきたいと、区別してですね。こういう時代ですから、株主には配当がなくなったということは、少し我慢して頂きたいことで、我々金融システムからいうと、預金者との関係、すなわち健全性が一番でございまして、その点について、私は株価下落そのものは、主要行の健全性に影響する度合いは極めて限定的だと、そのように思っております。

問)

先程の債務者区分の問題に関連しまして、もう一つ伺いたいのですが、ある金融の専門家が、日本の不良債権問題を評しまして、これは大手30社の問題であると。正常先ないしは要注意先に区分されている非常に借入規模の大きい30社が市場から経営不安視されていて、それが残っているというところが問題なのである。ここは個別に引当金を積んで、思い切った処理が必要なのではないかというような提案をされています。これにつきまして、長官はどのようにお考えでしょうか。

答)

そのような話は勿論承知しておりますが、これは銀行会計の観点からは全く受け入れられないと言いましょうか、受け入れられないというのは、金融庁が受け入れないとかそう意味ではございません。と申しますのも、皆さん金融検査マニュアルと盛んに金融検査マニュアルばかり有名になりますけれども、あくまで銀行会計を仕切っておりますのは、公認会計士協会の実務指針に定めてある会計制度でございます。その会計制度というのは、FASB(国際会計基準)という民間でございますが、そこに繋がっておりまして、そういう国際会計基準と整合性のあるものとして、日本の公認会計士協会が実務指針を作って、その中に金融商品に関わる会計制度というところもあります。それを、いわばブレークダウンしたものが金融検査マニュアルな訳です。

従って、私が申し上げたいのは、そういう一般要注意先の中に、あるいは正常先の中に有利子負債が大きいものにつきましては、特別な枠を作って、それに個別貸倒引当金を積むというのは、金融庁が金融検査マニュアルを改善すればできるじゃないかというのは、大きな誤解でございます。元々の民間の団体であります公認会計士協会の実務指針が変わらなければ、金融検査マニュアルを変える訳にはいかないし、その実務指針を変えるには、いわば国際的に整合性があるものでなければいけないので、グローバルにそういうふうにならなければならない。それから考えて頂ければ分かりますように、制度としてもそういう提案を受け入れるのは難しいということでお分かり願えると思うのです。

今度は実質の問題ですが、銀行からすれば、いくら有利子負債、キャッシュフローで有利子負債はあと何年とか言って、あと何年以上の所は、何社は云々という話かと思うのですが、いくら有利子負債が大きくても銀行に対して貸出条件緩和も申し出ず、延滞もせず、きちきちっと払っている企業があるとすれば、銀行からすればそれはいいお客さんです。そのいいお客さんをいかにも悪いお客さんのように取扱うというのは銀行からすれば、なかなかそれは納得し難いことなのではないでしょうか。従って、その銀行会計の観点から言えば、一般要注意先の中に、そういう集団を特別として個別貸引を引く、そして個別貸引というのは、これは会計の原則で、個別貸引にしてしまいますと、追い貸しと言いますか、融資がストップになります。

ところが、今おっしゃっている方の提案は、融資は普通にしろ、個別貸引だけはしておけ、これは非常に矛盾しております。まあ、銀行にそういう備えをしておけばいいではないかというその提案の一点は判りますが、銀行経営者からすると、一般要注意に個別貸引をひくというのは、ものすごく損が立つ話ですね。その損というのはどこに影響するかと言うと、配当に影響する訳です。そういうことをやって、もし配当をしないとなれば、おそらく株主代表訴訟の対象になることも考えられます。そういういろんな観点から、なかなか難しい話だなと申し上げたい訳でございます。

どうも皆さん有り難うございました、宜しくお願いいたします。

(以上)

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