五味金融庁長官記者会見の概要

(平成17年4月4日(月)17時02分~17時51分 場所:金融庁会見室)

【質疑応答】

問)

4月1日のペイオフ全面解禁に絡んでお尋ねします。改めて金融システムを取りまく環境をどのように認識されているかということと、また全面解禁を受けて、預金者の動揺等何らかの混乱が生じたというような報告が入っていますでしょうか。

答)

まず後者のお話ですが、4月1日から実施されていますけれども、特段混乱が起こったというような報告は受けておりません。

それから現在の金融システムを取りまく環境の認識ということですが、ペイオフ解禁との関連でのお尋ねですのでちょっと繰り返しになりますが、そこで申し上げるとやはりペイオフ解禁を延期しなければならなかったような状況は無くなったというのが現状であろうと思います。即ち、金融不安というものを醸成し易いような環境というものは克服され、金融システム全体の安定ということについてはそれなりの信任が得られている状況にある。或いは当局がコントロールできる、そういった状況の下にあるということ。それから預金者の皆さんに選択していただくという意味ではディスクロージャーが十分かという点があったわけですが、この点についても法令の規定によるディスクロージャーの義務付けというものが、協同組織金融機関まで徹底をいたしております。分かり易いディスクロージャーかどうかということは、各金融機関の御努力も待たなければなりませんが、必要最小限のディスクロージャーというものは法令上も確保されたと、こういうことで言わば通常の運営のできる金融システムになっているということであろうと思います。特別に優れた状況にあるということではなく、普通の状況になっているということで、従って特例的な措置はいらなくなっている状況だという認識でございます。

問)

「金融改革プログラム」の工程表も発表になりましたけれども、工程表が今後の政策運営に当たって果たす役割と言いますか、工程表を作ったことの政策面での意味合いというものをどのようにお考えか、そこを聞かせていただけますか。

答)

工程表は「金融再生プログラム」の際も作りましたが、その意義としては、やはり今回の「金融改革プログラム」は、構想というような位置付けになっております。従ってどういう方向を目指しているのか、具体的にどんなことが検討項目に上がっているのかまでは書き込んでありますが、その先は必ずしもその段階では書き込めないし、また与党の皆さんとも御相談を十分しなければいけないというものでございます。工程表の意義をそことの関連で申し上げますと、一つはプログラムに盛り込んだ色々な施策の実施内容をできるだけこの段階で具体化して示したいということ。それは結論を具体的に示すということではなくて、何がイシューなのかということについて構想段階での問題意識だけではなくて、それをどういう点に絞って検討し結論を得ていきたいかというような内容の具体化。

それからもう一つは施策の実施の段取りですとか、或いは実施の時期、検討という項目であれば検討のスケジュール、こういったようなものを出来る限り明示をする、段取りの明示です。

それから三つ目は、掲げられた項目のフォローアップに関連して、この二年間でどんなフォローアップの体制が取られるのかといったような点も明らかにする。こういった点をはっきりさせたいということでございます。

従って「金融改革プログラム」で示した方向性を何ら変更するものではありませんが、関係各方面とのその後の議論ですとか、或いは必要なリソースのマンパワーなり、リソースがどれだけ確保できるかというようなことの相談とか、そういったようなことも踏まえながらスケジュールというものを明らかにする、或いは段取りを明らかにする、内容を具体化する、そういったようなことが中心でございます。

問)

「金融改革プログラム」及び「工程表」との関連ですけれども、ITの有効活用とか、或いは人材プールの構築等、一部の専門家の方々の間から「政府が果たして関与すべきなのかどうなのか、ちょっと疑問点残るね」というような言い方をされている政策項目もありますけれども、この辺り長官はどのようにお考えですか。

答)

この辺は政府が政策として何か「やりたくない」と言っている人にやらせようという趣旨で入れたものではないということであります。金融庁の認識として、例えばITに関して言えば、日本の金融機関におけるITの活用状況と、利用者がITというものが本来持っているその効用というものを十分享受できているかということ。この関係をこれまでの経験でちょっと考えてみますと、利用者の皆さんはこれだけITが進んでいる中で金融サービスというものをそれに見合って早く、或いは安く、或いは誰にでも、というような形で提供を受けられる状態になっているかどうかと言うと、ここにはどうも若干ギャップが、或いはかなりギャップがあるのではないかという認識があり、そうしますとこのギャップを埋めるために当然金融機関側はそれを競争してやっていただければ良い話ですが、ITという特異な分野で私共はそういう認識を持っているのであれば、行政が何かサポートをすることで金融機関側の工夫の手助けにならないものかという認識があるわけです。普通の物品調達と違ってITというものは特異な性格を持っていることは皆さん御承知の通りですので、そういった中で私共は、例えば行政という横断的な立場でアンケート調査のようなものをしたり、そしてその結果を色々な専門的な知見を持った人が、勿論業界の人達の意見等も聞きながら分析をしてみたり、というようなことを発信していく中で、金融機関の皆さんの取組のヒントみたいなものが出てこないだろうかという発想で、サポートできることがあるのではないかという認識です。何か旗を立ててこっちにぐいっと引っ張ろうというよりは、どうもちゃんと効果が出ていないみたいなので効果が出るように何かサポートできないかという意味合いです。

人材プール等も例に上がりましたから同じようなことなのですが、特に地域の金融機関等を中心に金融の抜本改革を図りたいというようなことで外部の人材を招聘して大きく変えてみたいというような時に、どこにどう接触してどんな人材を確保すれば良いのか、ニーズと供給というものが必ずしもうまく出会う場所というものがない。結局個人的な人脈とか、或いは系列の銀行の人と相談をするとか、皆さん色々それぞれのやり方で人材確保の道を探っておられるわけですが、そのような中で、もし行政というある程度業界の皆さんと平等に話のできる立場の者が、命令したり指導したりということではなく、やはり需要と供給のミスマッチが起こっている部分があって、ここがうまくフィットすれば地域金融機関なり、或いはそれ以外の金融機関でもそうですけれども、経営の改革を図ろうとする人達の努力がより大きな効果をもたらすのではないかという問題意識があって、そうした中でサポートの方策として、例えば行政が業界の皆さん等とよくお話をしてみてそうしたニーズがある。他方でそういった目的のために供給できる人材を持っている所もあるという情報をマッチングさせるような何かインフラ的なものを作れませんかと。これは行政庁がリストを整備して人材斡旋をするということを考えているわけでは毛頭ありません。業界の皆さんにそういう御提案をし、役所の肝いりということであればということで横断的な協力関係ができあがって、そこにある待機人材なり何なりのリストというようなものが業界の中でできてくればそれがベストだというふうに考えているわけです。

例えば、今回の地域金融のアクションプログラム、新しいプログラムで17年度18年度の分ですけれども、この中でも事業再生に関する要請事項という特定の分野ですけれども、その事業再生に関する要請事項の一つとして人材プールの設置というものを言及しています。これなどは外部の金融実務専門家を活用する必要がある場合に照会できるような金融実務の専門家を登録した、所謂人材プールを業界団体に設置するように要請をするという、例えば業界団体に御提案をしてみて、必要であれば行政が仲立ちをして、業界の皆さん等ともお話をしながらお手伝いをしましょうというような位置付けでして、金融庁はあれもこれも何でも指導しようとしているというふうに思っておられる方からは、また非常な警戒感を持って見られるかもしれませんが、趣旨はそういうことです。お手伝いをする。現実に需要と供給にミスマッチがあるという認識を行政側が持っていて、そこを埋めてやると利用者の方と金融機関関係者の方により良い結果が出そうだと、だとするとその仲立ちで行政ができることがあるはずなのでそれをやって差し上げたいという程度の趣旨であります。

問)

今お話が出ました「リレーションシップバンキングの機能強化に関するアクションプログラム」の関係ですけれども、当局として地域金融機関に対して数値等を含む分かり易い目標を盛り込んだ計画を立てて欲しいということですが、言ってみたら実質的には当局が背中を押して、地域金融機関に経営改善の取組をしてもらうという内容だと思いますが、長官はかねがね「行政は審判役に徹するべきだ」ということを言われておりますけれども、そうしたスタンスと照らし合わせて今回のリレバンの取組というものが整合性のあるものなのか。或いは、まだ地域金融機関については必ずしも健康体ではないが故に、そういった原則から若干逸脱する形でも当局が果たす役割があるとお考えなのか、この辺りをお聞かせいただけますか。

答)

審判役というのも例え話としても申しましたし、或いはプログラムの中にも審判というようなことが出てきます。これは例え話ですので、より正確にそういう御質問が出るようであれば御解説をしなければいけないのですが、審判であるから違反行為、所謂行為規制違反のようなものや、或いは財務の状況で会計の基準や原則に違反しているということが起こるまで手を出さずに黙って見ているのかどうかということになりますと、審判という単語を使ってはいますけれども、それぞれ監督される業界の状況ですとか、或いは特質ですとか、そういうものによって審判の出番というのはかなり違っているのが事実だと思います。法令上行為規制違反以外は全く指摘する権限がないと規定されている法令に基づく監督であれば、文字通り違反がないかどうかしかチェックはしませんし、それ以外のことはしてはいけないわけですが、例えば今例にあがりました地域金融、これは預金受入金融機関に関連する話です。これは日本経済全体の決済システムを担っている、そういう仕組になっていますから、例えば銀行法にも健全かつ適切な運営をするということが義務付けられていて、別に法律に従ってさえいれば良いということではなくて、健全かつ適切な運営、その適切な運営をしていないと行政処分の対象になると、銀行法はこういう構成をとっています。

すなわち混乱を未然に予防するための行政を行えと、こういうことが言われているわけです。これは預金受入金融機関が多分我々が所管している業界の中で監督を最も幅広く要求されている業種だろうと思います。そういった所を見るという時に何を見るのだろうかと、そこに行かざるを得ないと思います。そうしますと、今回のプログラムでも大手行についても、例えばリスク管理の高度化、バーゼルIIが入ることに従って当然高度化の計画というものは作って欲しい。

或いは平成17年3月期の大手行全体の不良債権の比率の平均値、これを今後また大手行全体平均でそれを上回っていくようなことがないように、これを期待するというようなことも既述のプログラムに入っています。つまり決済システムというものを担っている、そういう金融機関については要求される安定の水準や、或いは活動の水準というものがかなり高いものであるし、しかもその点が監督当局の監督対象になっているという、こういう状況のわけです。

そうした中でどこまで我々が金融機関の自主性、これは銀行法にもはっきり唱えられている、金融機関の自主性を尊重しながら、しかし国民経済を守ることや預金者を守る視点からカバーしておかなければいけない監督をどこまでできるかという、このバランスになると思います。この地域金融機関について言えば、そのバランスはどこで取られているかと言うと、地域金融機関ですから当然地域から逃げ出すわけにはいかない。だから地域の住民なり、地域の取引先から支持を得ている。しかもその人たちに適切な発信をしていかないと、地域経済が活性化しないで自分の健全性も向上しないという関係になるわけですから、まずは地域金融機関が十分な機能を果たせるかどうかというのは、地域住民なり地域の取引先に対する情報開示による規律付けということが非常に大事です。まずはそれで本来の機能を果たしているかどうかをチェックしていきたいと、行政は勿論別途早期警戒の枠組ですとか、或いは早期是正措置といった法令上認められた監督権限の行使はするわけですけれども、それとは別に機能を本当に果たしているかどうかを一義的にまず判定するのは地元の取引先の人達、その点を大事にしたいというのが今プログラムの書き方なのです。

従って地域金融機関のかなりの数の所は当然やっておられるわけですけれども、自分達はどういう経営方針であって、そしてどのような経営の将来計画を持っていて、それが数値に表せるものと表せないものもあるでしょうけれども、ある幾つかの項目については数値的に、ここをこうするから良くなるのだ、ここをこうするからうちは安心なのだというような目標も出しておられるわけです。それが要するに情報開示による規律付けにとても効果的なのです。そのことをこのプログラムでは言っているのです。

バランスをとるために何をしているかというと、一律にこういう項目については数値目標を示すべしというようなことはプログラムには書きません。その金融機関が持っている特性に応じて一番アピールすべき部分は何なのかというのは、その金融機関が一番良く知っているわけですから、不良債権比率の所をアピールしないとうちは疑われると思う人はそこを大事にすれば良いし、いやうちの問題は自己資本比率なのだと思われる人はそこを何年がかりでもどうするということを明らかになされば良いし、幾つか項目は当然あると思いますけれども、自分が一番アピールしなければいけない所、或いは逆に自分の強みでも良いし、一番強い所をもっとこうして強くなるのだという計画を出していただいても良い。そうやって情報開示による規律というものを確保していきたい。そういうことなのです。当局はこれをどうしろとか、或いはこの水準を幾つにしろというようなことを言うことはないです。それは計画を提示し、それを後で地元の方たちが検証していけば良い話です。説明責任はその計画を発表した金融機関自身にあるというやり方で、その地域において地域経済を良くしながら、それによって自分自身も健全化していくという道を辿って欲しいということなのです。

それが実質的に当局が背中を押していると言われれば、それは背中を押されたと思う地域金融機関もあるでしょう。ですけれども現に色々な経営者の方々と話をしていても「もうやっていますよ、そんなことは」と言う所も沢山あるのです。背中を押すでもなく「今更何を仰っているのですか」という金融機関も沢山あります。そういう意味では取組にばらつきがあるというのはワーキンググループでも金融審議会の先生方から言われましたけれども、足腰の弱い所があると言うよりも、取組が曖昧であったり、取組が十分でない所、このリレーションシップバンキングみたいなものをやるのであったらそれをきちんとやるという、そういう取組が必ずしもまだ十分でないような所があるのであろうと、それは金融審議会の先生もそう分析なさっています。私もそう思います。そういう人達にとっては背中を押されたと思うかもしれません。やらなくてはいけない当たり前のことをやりなさいと言っているだけで、やりたくないことやしてはならないことをやれと言って後ろから背中を押しているわけではないということです。強制しているわけでも勿論ないです。ただ「計画を作って公表してください」という程度の要請は言ってもバチは当たらないと思いますけれども。

問)

ペイオフに関してですが、先程規律のことを仰いましたが、決済性預金が導入されて、預金者による市場規律の行動が弱まった可能性はないでしょうか。これは、去年内閣府の研究所が出した、計量経済学の分析の中では、「2002年4月の定期預金のペイオフ解禁に先立ち生じた定期預金から普通預金へのシフトは、財務体質が相対的に脆弱な信金・信組により集中してみられる。」ということと、「2002年における、要求払い預金を含むペイオフ全面解禁の期限延長(2003年4月→2005年4月)に際し、預金者による市場規律行動が弱まった可能性があること」等が示されているのですが、これをどう御覧になりますか。

答)

決済用預金へのシフトが実際にどのくらいあったかは、集計してみないと分からないのですが、現状この3月まででは、業態間或いは、金融機関間で大幅な資金移動があったということはありません。それから、決済用預金は、仰るように、そちらに回せば安心だという選択が働き、それがペイオフを全面解禁するという趣旨から言ってどうなのかという議論が一方で出て来得る、そういう仕組であることは理解しています。他方で日本の金融システムにおいて、決済用預金というものを全額保護しないというのは、所謂預金者の選択、自己責任に全て任せるという範疇に止まる話なのか、それとも日本経済、日本の金融システムの持っている特性から言って、そういう所で判断すべき問題ではなくて、もっと根源的な問題があるということなのか、両面の問題があると思います。後者で言いますと、日本は、御承知のように、小切手・クレジットカード社会ではないことから、口座預金、決済用預金でも良いのですが、銀行口座による決済というものが極めて大きい規模で行われていて、それが日本の金融機関のシステム投資が非常に大きいことの原因でもあるわけです。

この銀行口座を使った決済がこれだけ広範に、日常的に行われているという国はそう他にはない。普通は小切手を出して後で決済をする。だから後で不渡りになることもあるというやり方なのですが、この時に決済用の預金というものを万全の保護の下において置かないと決済システム自体が壊れてしまう惧れがある。こういう要請があります。これは、預金者の自己責任とかいう以前の、金融システムの安定を守るという根源的な金融行政の任務に関連する所だろうと思います。他方で、預金者の自己責任、或いは、預金者がモラルハザードを起こすのではないかということについての心配はあるわけで、現実に、現状ではさほど大きな決済を日頃やるわけではない人が、決済用預金の方に普通預金を移すことはあるかもしれません。あるかもしれませんが、この部分は、モラルハザードになり得るとすれば、現状の非常に金利水準の低い状況において、そういったことが起こり易いということであると私は認識しています。預金金利がもう少し高い水準にまで上がるような状況になったと仮定をしますと、そうした状況では、たとえ普通預金や決済用預金であっても利息が付くか付かないかということは、預金者の預金選別のかなり大きな要因に当然なるはずです。単に、万一の破綻の時に全額保護されるからということで、非常に大きな金額を無利息の決済用預金に全部積み込んでおくというような選択をあらゆる国民がするとは思えない。或いは、非常に大きな金額を扱っている色々な組合とかがそういう選択をするとは思えません。やはり、経済合理性に基づく選択をするはずです。これは現に起こっています。所詮銀行預金でも全額保護されないということ、即ち、元本保証が必ずしもないということであるとすれば、もっとハイリスク、ハイリターンのものと組み合わせた方が良いのではないかという発想でどんどん資金が動き始めています。まして金利が上昇してくれば、決済用預金と普通預金の間にも経済合理性に基づく選別が当然始まるはずで、そうなれば別にモラルハザードというものをそんなに心配する必要もないし、また、雪崩を打って決済用預金の方に皆預金が移るのではないかという心配をする必要もないのではないかと思います。

問)

しかしながら、内閣府の報告書では、以前ゼロ金利が解除された時に、やはり弱い金融機関から資金がシフトすることがあったようですが、今後ゼロ金利が解除されると、金利が上がって、シフトが起こって、信用金庫とか地方銀行がまた何かしてくださいという可能性も出て来るのではないですか。

答)

それは、ペイオフを全面解禁するからといって、それでは心配だといって、雪崩を打って、業態間なり金融機関間で移動して、その結果、金融システムの不安が起こり易いというような状況には今ないという認識があります。せっかくそんな状況になったのですから、金融当局としてはそんな状況を確保していきたい、将来的に金利が上昇して、例えば預金をどこに預けるか、或いはより優位な金利の所へ預けようという人もいるかも知れませんし、より安全だと思われる所に移そうという人もいるかもしれません。より選択の幅が広まったとしても、それによってシステム不安が起こるような、今そんな脆弱な状況には日本の金融機関はない。但し、そのことはこれから金融機関もどんどん競争していくわけですから、その中で競争に負ける金融機関はどこもないと言っている訳ではないわけです。ただ、雪崩を打って預金が移動して、それによって頓死をする金融機関が出て、金融システム全体がおかしくなる惧れがあるかと言われれば、ないというのが今の判断です。

問)

確かにこのレポートが出されたのはまだ金融システムが脆弱な時でしたけれども、決済用預金というのは恒久的な措置で良いということでしょうか。銀行側からも何時までやるのかという疑念も出ているようですが。

答)

日本が小切手社会になれば、決済用預金の全額保護というのはいらないと思います。ただ、おそらく日本の社会に深く根付いた、この小口の庶民の決済のやり方というのは変わらない可能性も強いと思います。そうだとすると、この決済用預金の全額保護というのは、金融システムの安定維持の為には必要という結論は変わらないと思います。

問)

先程の質問の繰り返しになりますが、金融改革プログラムの工程表の中には利用者の満足度調査というものもあって、それは金融庁がやるのであればそれはやれば良いと思うのですが、これは各金融機関にやらせてそれを集計するというようなことだと思うのですが、普通そういったマーケティングと言うか、自分達のサービスのためにやるような調査というのは民間の企業がやるべきであって、金融庁がそれを一々工程表の中で具体的にこうやるべきだという必要性は全くないと思っています。それが人材プールだとかそういったものと同じなのですが、そこまで金融庁が手取り足取り金融機関の事業と言うかサービスについてやっていく必要性があるのだろうかと思うのですが、その辺はどうでしょうか。「17年度に利用者満足度調査等の実施、アンケート結果及びそれを受けて経営改善を行った項目等の公表を金融機関に要請」と工程表の3ページにあるのですが・・・。

答)

満足度調査というのは、一番最後のページに総括して書いてあるのでそこを見ていたのですが、これは利用者満足度アンケート調査を金融機関にやらせるという趣旨ではありません。利用者満足度調査は金融庁が実施するのです。各金融機関にやらせるという解説がございましたでしょうか。

問)

ここに書いてあるのは「利用者満足度調査等実施結果及びそれを受けて経営改善を行った項目の公表を金融機関に要請。金融機関の公表内容を金融庁で取りまとめ、その結果を公表」とあるのですが・・・。

答)

総論で言っている利用者満足度調査というのは、これは金融庁が実施するのです。ここで言っているのは、利用者の満足度を重視した金融機関経営の確立ですから、やはりこの調査は金融庁が行って、その結果を把握して分析をして、そしてそれについてこれを経営改善にどう結び付けていきますかということについて、業界団体などと一緒に検討をしていきましょうという話です。例えば、翌年に書いてあるのは、アンケート結果やそれを受けて経営改善を行った項目を公表してくださいという話ですから、経営改善を行った部分についての公表要請を17年度にしてくださいという趣旨だったと思いますけれど・・・。

問)

金融庁が行うのであればそれはそれで良いのですけれど、要するに利用者の満足とか利用者に対するサービスというのは、行政機関から言われて競い合うことではなくて、基本的にどこの、例えば小売業にしても製造業にしても、自分達が独自の判断で独自にやっていくべきであって、このようなことを行政機関に言われて自分達の満足度とかサービスを上げていこうなんていうことは、その業界自体が廃れる一番のよく挙げられるものでありますし、それをわざわざ金融庁が一生懸命やる必要がどこにあるのかと。金融改革プログラムというのは、自主性を重んじて、民主導で活力を出しましょうという理念の下で作られたプログラムなのにもかかわらず、そういったことを敢えて具体的な施策の中に盛り込んでくることが少し勘違いであったり、少し理念からずれていく所ではないかと思うのですが、そういう点はいかがでしょうか。

答)

このプログラムは、フェーズが変わったということを踏まえて、利用者の満足度を最大限に上げるようなそういう仕組を民の力で作りましょうという話になっているのですが、満足度が最大になるというのは、例えば不良債権比率が半分になるとか、そういう目で見えるアウトカムの数値目標があるのかと言うと、そういうものに馴染まない。馴染まないので数値的な一律なアウトカム目標のようなものを設定していない。そうなると頼りになるのは何かと言うと、現に利用している人たちが、前に比べて金融機関というのは自分達の要求により応じるようになったのか、或いはニーズにマッチしたサービスが提供されるようになったのかどうか。そういうことが大きな指標になるのです。従ってこういうものをチェックしていきたい。チェックをすると、それによって行政をどう変えなくてはいけないかということが一番の眼目になるわけですけれども、或いは変えなくとも良いなら変えなくて良いのですけれど。もう一つせっかくそういった調査をするときに、やはり金融機関側もそこでしか計れないような、不良債権比率はこれだけ減りましたというようなアピールの仕方はできないわけで、利用者の満足度がどれだけ上がっているかというようなことを金融機関自身も分析していかなければ当然ならないはずです。それをやってみてくれませんかと、こういうお話なわけです。そこまで言う必要はないだろうと仰れば、それは見解の相違的な話かもしれませんが・・・。

問)

基本的にマーケットが、地域金融機関にマーケットがあるのかということもありますけれども、預金者の満足度というようなものは、別に指標として計っていくというよりは、満足度があるかどうかということを選択していくということが、基本的なものであって、それを一々指標化して、こうだああだということの意味がどれだけあるのかなと感じるのですが、それを敢えて行政がやるということも、そこには疑問点があるのではないですか。

答)

行政が行う満足度調査というのは、基本的には自分達の立てている政策が、特に貯蓄から投資へというような場面で、上手くワークしているのかどうかという所を数値だけで見られないわけですから、満足度という所でチェックをしていく。満足度が高いということであれば数値が動いていなくてもそれでも良いのかもしれないです。選択が人によって違いますから。安定をうんと求める人と、リターンの高いものをリスクが高くとも求める人など色々いますから、それはそれで良いと思うので、そういった点について行政がフォローアップしていないとこのプログラムをやった結果、ターゲットにしている利用者の人達がそのプログラムの効用というものを受けているかどうかという点が、他の方法では中々チェックし難いという所があって、そこは行政がやはり見ないといけないのだろうし、そこでおかしいというお話があり、或いは数値で見ていっても良いですが、市場性の商品とか投資性の商品による運用比率がどういう動きをするかを見ていって、そのことと利用者の満足度調査を照らし合わせて分析をすると、例えば市場性の商品、投資性の商品の資産運用に占めるウエイトというのが余り上がっていないが、利用者はすごく満足しているという結果の場合、それをどう分析したら良いのか。或いはその逆もあるかもしれません。市場性の運用比率がうんと上がったけれども、利用者満足度が全然上がっていないという場合、何が足りないのかと。多分それは色々なケースがあり得るのですけれども、投資家保護が不十分だとか、ある種ひどい目に会う人が結構いるとか、そういう意味ではやはりその辺りは計数的数値目標がないプログラムをフォローアップするという意味では、役所がやはり調べていく必要がありそうだと。

問)

調べていくのは良いのだと思います。それを基に改善するとか、そういったものを迫るべきではない。参考資料としてこういう調査結果がありましたと言う程度に止めておくべきではないかということなのです。経営改善をそれを以ってやる必要性はそれぞれの自主的判断であって良いのではないかと思うのです。重箱の隅を突付いているようで申し訳ないのですが、つまりこういう所に金融庁の方々が「俺達がやってやらなきゃいけないのだ」という意識が隠れているとすれば、それは問題なのではないかと思うのですが。

答)

自分でやれと言えばやるということなのでしょうが、経営改善に結び付けるということは、自由な市場の中では競争者としては質の高い競争者であってもらわないと困るわけです。このプログラムにはそういう色彩は当然あるわけで、この項目は必ずしもそれにぴったりと合った所ではありませんけれども、プレイングフィールドを競争がし易いようにした以上は、そこで競争する金融機関というのはそれだけの質の高いものであってもらわなければ困る。トレーニング不足であったり、走り出したら直ぐ転んで怪我をするというような競技者が出てきてもらっては困るわけです。そうでないと利用者の側もせっかく用意されたプレイングフィールドの効用というのも十分享受できないということがあります。そういう意味では各金融機関が、贅肉の取れたきちんとした経営のガバナンスとか、或いは経営改善に向けた努力をし続けている金融機関であって欲しいというのは、このプログラムの中でも当局の願望であるわけであります。サボっている人を放っておいて良いのかというと、放って置くつもりはないと、せっかくフィールドを用意し自由に競争できるようにした以上は、競争に耐え得る人たちであって欲しいということはあるわけです。ここで言うような経営の改善というものを自ら考えて欲しいというのは勿論当局としては是非期待したい所ではあるわけです。そのようなことを言われなくてもやるだろうとお思いかもしれませんが、これまでの経験から言うと必ずしもそうではないということです。

問)

郵政の民営化についての政府の考え方というのが示されているわけですが、完全な民営化という点から考えますと少し後退しているのではないかと、持ち株会社或いは持合いをできるというような少し条件的な要件が入ってきて、完全民営化という点では少し後退しているような受け止めもあるとは思うのですが、日本の金融が民の力でもってやっていくというこれからの将来像というものがあると思うのですが、そういった点から考えて今の政府の中から出てきた案というのは本当にそういったものを実現できるのかどうか、金融行政の立場からどのように受け止められていますでしょうか。

答)

この内容自体はこれまで金融庁は基本方針に基づく御検討の中で民間金融機関とのイコールフッティングとか、或いは金融資本市場への影響とかこういったことを踏まえた議論を注視してきたという立場です。今日取りまとめられました内容につきましては、去年9月の基本方針、これに基づいて制度設計が行われた結果のものだと私は認識をしています。今後は金融庁はこの取りまとめの内容に沿って適切な対応をとっていくということになります。

先程、工程表の3ページにあることの説明を間違っておりましたので訂正をいたします。3ページの利用者の満足度を重視した金融機関経営の確立の所で、「利用者満足度アンケート調査の実施、アンケート結果及びそれを受けて経営改善を行った項目等の公表を要請」という項目ですが、これは先程私が申し上げました工程表の一番後ろのページの行政が行う満足度調査とは違う調査で、いわゆるCS(カスタマー・サティスファクション)みたいなことを各金融機関それぞれ色々な形で調べておられる。それを指して利用者満足度アンケート調査と言っております。紛らわしい呼び方で申し訳ないのですが、これは金融機関が通常行っているCSのようなもの、そういうものを念頭に置いています。作った者の立場としては、CSというのは普通どの金融機関でも何かの格好でやっておられますから、そういったものをやりっぱなしにしないで、その結果を公表してみてくださいということです。それから公表する以上はその結果を受けてどういう対策・対応を取ったのかということも、当然これもなさるのでしょうけれどもそういう改善を行ったことについての公表もしてみてくださいという、こういう要請をするという内容です。内容の説明がそもそも違っておりましたので、申し訳ありません。

そこから先は、先程の御説明と一緒でありまして、それをそんなことまで要請するのかというお話に対しては、そういうちゃんとしたプレイヤーであって欲しいですよねという当局の、このプログラムを作るに当ってこれから競争していく以上は質のよい競争者であって欲しい。そのための一つの要請であるという、こういう整理になります。

(以上)

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