五味金融庁長官記者会見の概要

(平成17年5月16日(月) 17時02分~17時24分 場所:金融庁会見室)

【質疑応答】

問)

東京証券取引所がカネボウの上場廃止を決めたこと等に関連しまして、金融庁が証券取引法に基づいて東京証券取引所に何点か報告を求めたようでございますけれども、その問題意識についてお尋ねしたいと思います。

答)

5月13日に証券取引法の151条に基づいて東京証券取引所に対して報告書の徴求命令を出しました。これは三点ございますけれども、三点それぞれを御紹介すると大体それは問題意識を述べているということになると思います。

第一点は情報管理態勢です。これについては最近の東京証券取引所の重要な意思決定、特に個別株式の取扱に関する情報が機関として決定される前に報道されているということにつきまして、自主規制を担う市場開設者としての情報管理態勢について、その認識と今後の対応を問うということでございます。市場における取引の投資判断なり、或いは現に特定の上場企業の株主である人達に大きな影響をもたらす東京証券取引所としての意思決定というものは、それとして全ての投資家の皆様方に、同時に、平等に、正確に開示されるべきものであると思いますが、こうした事態が起こっていることについて、まずその認識と対応を求めている。これが第一点です。

第二点は上場廃止基準に関する点です。現行の上場廃止基準は昭和45年2月に規定されております。虚偽記載に係る上場廃止の部分です。この基準が昭和45年に規定されました後、企業再生の手法やそのあり方が多様化しているといったようなこと等、企業を巡る環境の変化というものが非常に大きく起こっております。この上場廃止基準は、こうした大きな環境の変化に十分に対応したものとなっているのかどうか、こういう論点についての認識と対応といったものを御報告していただくように求めているというものでございます。市場が相手のお話ですから状況というものはどんどん変わっていくわけですが、そうした中にあるルールというものが現実から遅れているようなことになっていないかどうか、そうであるならばそのルールのより精緻化を図るとか、或いはそのルールの改廃を検討する等、時宜にかなったやり方で行われなければならないわけですが、本件についてはどう考えるのかといったことが第二点でございます。

それから第三点は市場を巡る内外の環境が大きく変化している、そういう中で上場審査管理を含む規制機能というものを的確に果たすという観点から、適切な組織体制というものをどう認識しておられるのかという点の報告を求めております。これは海外はと申しますと、外国においては取引所の株式会社化等に伴いまして自主規制機能の組織上の扱いということが色々工夫されております。東京証券取引所においても、株式会社化をした上で今年中には株式の上場をするといった方針も明らかにしておられる。こういった内外の環境変化がございまして、こうした点を捉えて金融審議会でも自主規制機能をどのように組織的に位置付けるかといった点も議論されておりますので、こうした点を一度オフィシャルな文書でもって考え方を整理して教えていただきたいといったようなことでございます。

以上、三点を問題意識も含めて申し上げたつもりですが、報告するようにということで命令したわけでございます。

問)

キャッシュカード犯罪につきまして、政府と与党が盗難カードも含めまして被害者救済を重視したルールというのを打ち出しておられますけれども、一方で金融機関の経営・実務や利用者利便に与える影響も大きいと思われます。この点どのように整理なさっておられるか、御所見を賜りたいと思います。

答)

偽造キャッシュカード問題に関するスタディグループ、ここにおいて盗難キャッシュカードの被害への補償のあり方ということも検討していただいて、第二次中間取りまとめをしていただきました。この御検討に当たりましては理論的な妥当性ということだけではなくて、実行可能性ということについても配慮することが必要であるという基本的な認識に基づいてルール案が御議論され示されております。

その点に関連して中間取りまとめの内容を少し御紹介しますと、ルールの案に加えまして金融機関や金融関係団体に求められる対応として、この取りまとめの中には預金者対応を専門的に行う窓口を設置すること、或いは預金者のニーズを踏まえた保険等の活用による多様な預金商品を提供すること、また警察との緊密な協力に基づく被害の偽装防止のための対応をすること等が挙げられております。

御指摘がありましたように、これは普通の取引の中に犯罪性を持った行為が割り込むことで被害が生じてそこに当然歪みが生じるわけです。最終的には偽造したり盗難した人が悪いのですけれども、とりあえず誰がその被害を負担していくのかと、こういう新たな要素が加わるわけです。正常な取引に比べてこれを防止したり、或いは被害が起こったときに損失の負担をどう考えるかということへの対応というのは、これまでの通常の取引に加えての負担というものが預金者側にも金融機関側にも生ずる性格のものでございます。

利用者利便に対する影響ということですと、この利便性ということと安全性ということは偽造キャッシュカードの場合も同じような議論がございますが、これはある意味でトレードオフの関係になります。安全性を非常に高いものとすれば、利用者にとっては利用しにくいものになる。利用者の利便性だけ注力すれば、今度は安全性の面で問題が生じ得るという関係にございますので、預金者のニーズに応じた両者のバランスを取ることが大事だと思います。

例えばこの点については先程御紹介しました二つ目のポイント、保険等を活用した多用な預金商品の提供、この点についてはこの第二次中間取りまとめでは、例えばということで例を挙げておりますが、預金者負担となる部分についても盗難保険を付保したような新たな個別商品を開発するといったようなことです。或いは損失の極小化という観点から利便性はある程度犠牲になりますが、ATM の引出限度額を引き下げると、ただその一方で恒常的に多額の現金決裁が必要であるというような預金者の方については引出限度額を引き上げるような設定をするといったようなこと、或いは更にその引き上げ部分については補償の対象としないというような場合には、その旨を預金者に事前に必ず周知しなければならないといったようなこと、こういった例示も上げられております。それぞれの金融機関で顧客のニーズというものをよく見ていただいて、それを総合的判断の中でトレードオフの関係にある利便と安全ということをバランスさせていただく。最も適切なセキュリティ対策はどこかということを判断して講じていっていただくということが基本であろうと思います。

問)

振り込め詐欺の被害者救済に関してなのですが、りそなグループが振り込め詐欺に使われた口座に残っている現金を預金者にお返しするということを積極的にやっておられるようですけれども、こうした動きについて適法性と言うか、合理性をどう評価されるのかお尋ねしたいと思います。

答)

りそなグループが一定の要件を満たす場合、振り込め詐欺被害者への返還を行うといった預金口座不正利用に関しての経営判断として対応をしておられると承知しています。この不正口座に、例えば振り込め詐欺に使われた口座に残っている現金を被害者の方に返還するかどうかを判断する時には、一つにはその金銭が振り込め詐欺により振り込まれたものであるかどうかを特定できなければならない。またその口座が他の被害者の人からの振込みを受けたものではないかどうかといった判断、これもしなければならない。例えば、一旦返してしまって新たに他の人から「私もそうなのだけど」と言われたけれども、もうお金が残っていないといったような場合、返還した銀行はそこで法的リスクを負うことになるわけです。こうした法的にかなり慎重な検討を要する特定項目や判断項目というのがあって、しかもその特定判断が銀行だけの持っている情報で独自に100%正しくできるのかどうか、この点もはっきりしません。

従ってそうした銀行側の法的なリスクというものをある意味で完全に遮断して、きれいに被害者の方へ返還するということになると、一般的には司法の場で解決するということが基本になる。例えば差し押さえという形で取っていくというような形です。確定判決に基づいて差し押さえが行われて返還するというようなこういった司法の場における解決が一般的には基本になると思います。ただ、これは要するに法的リスクをどこまで自分たちが負うか、顧客に対するサービスとか、或いは利便性の確保とか、或いは顧客からの信頼の確保とかそういった銀行にとって大事な経営上の課題と、やはり同じように銀行にとって大きな経営上の課題であるリーガルリスクをどこまで遮断した経営をするかということ、これもある意味バランスの問題というのはあると思います。ただこのリーガルリスクを一定限度取ってでも返還しようというのであれば、そのリスクの所在とか大きさとかについて慎重な検討が銀行の中で行われた上で経営判断される必要がありますし、そのリスクがあまり大きなものだとすれば、それは銀行経営としての適切性から見てどうなのか、むしろそれは司法というような場できちんと判定してもらう方が良いのではないかという判断も出て来得るということであろうと思います。

色々と申し上げましたが一般的にはやはり難しい法律問題がありますから、おそらく銀行が独自に判断するのは限界があるので、司法の場での判断ということが基本だと思います。司法の場での判断でなければならないというような話でもなくて、コントロールできるのであれば、しかもそれがそう大きなリスクでないという判断ができるのであれば、然るべき手続きと一定の要件、こういうものをきちんと定めた上で対応するということもあり得るものだろうと思います。

問)

補足させていただきますと、本件に関して金融庁として統一的な行政上の措置と言いますか、監督上の措置と言いますか、各預金取扱金融機関に何かやるというお考えはあるのでしょうか。

答)

ございません。今経営判断という言葉を申しましたけれども、特にこの部分というのは経営判断に委ねられる部分が多いと私は思います。リスクを完全に遮断するには司法判断というのが一般的な方法だという認識は持っていますから、あとはそこからどこまで自らのリスクを取るということになるのかというのは銀行の経営判断だと思います。おそらくりそな銀行さんのようにこうして、これは多分取材に応じて御説明になったのだろうと思いますが、そうした御説明のないようなところでもケースによってはその示談のような形で解決するとか色々なことがおそらく経営の判断の中で各銀行はなさっているのではないかと思います。またそれを報告徴求して調べるという話でもなかろうと思います。それは銀行の御判断でやっていただく話だと思います。

問)

東京証券取引所に対する報告徴求の関連ですが、上場廃止基準について、環境の変化に対応していくと現状認識はどうなのかについて聞かれたということですが、それは最近の事例で言いますと、カネボウの事例があって上場廃止を決めたということが大きな事象としてあるわけで、そう考えると金融庁としてこの上場廃止を決めた手続きや基準について、時代環境にあっていないという問題意識を持っているという御認識でよろしいのでしょうか。

答)

個々の事案というのは、一義的に東京証券取引所が御判断になることだし、それが自ら定めた規則に反するようなことを行っておられれば、これは監督当局として問題視せざるを得ませんが、そうでなければ取引所の判断というのは尊重されるべきであり、現に尊重しております。

他方、一般論で申し上げますと、環境の変化に関連しますけれども、例えば再生のための組織ができている、これは産業再生機構であるかもしれませんし、或いは何かもう少し別の民間色の強いものかもしれませんが、そういったところが再生を進めていく中で、積極的に過去の不正を解明したと、その結果として上場廃止になるといったような展開が起こった場合に、これを粉飾という事実に重きをおいて物事を見ていくのか、或いは粉飾が解明されてきた経緯とか、今後こうした企業再生を目指して経営権が移動するという、ある意味で経済合理性のある市場の行動についてこれらの影響についてどう考えるか、またこれらに重きをおいて考えるのか、これらの点について様々な指摘があるのは事実であります。

現行の上場廃止基準というのが、先程申し上げましたように昭和45年に規定されてそのままであるとすれば、この基準について現にこうした点をどのように考えるのか論点が提起されている中にあっては、市場開設者として考え方をお示しいただきたいと、きちんと我々も公的にお願いをし、東京証券取引所も組織として公的にお考えを示していただく中で、議論を深めていくことが大事だと、こういう認識であります。何かが間違っていたとか何かに異論があるとかいうレベルの話ではなくて、現行の基準と現実の市場のあり方との間に乖離がないか、現に議論されているわけですから、その部分は時を置かずに、しっかり議論を深め、どんなことが考えられるのかを両者それぞれ議論してみましょうと、こういうことであります。

問)

上場審査の部門についても報告を求めるということですが、上場廃止基準も上場審査の部門の動向についても、基本的には東京証券取引所が独自の判断で決めていくことが原則だとは思うのですが、それを敢えて金融庁が報告徴求するということで、非常に東京証券取引所とすれば、それについてある程度の検討をせざるを得ないし、金融庁はどう考えているのかということを考慮しなければいけないとなってくると思うのですが、それは金融庁としてこう考えるとの意見があれば分かり易いのですが、報告徴求を行うことで何かしらプレッシャーをかけるのであれば、金融庁の裁量的な行政の面が強くなるのではないかと疑問を持つのですが、その点については、金融庁の考え方をはっきりさせるお考えがあるのか、それともある程度プレッシャーをかける意図があるのか、そこをはっきりしていただけないでしょうか。

答)

プレッシャーをかける意図はありません。事柄の仕組みが上場廃止基準にしても、或いは組織のあり方にしても、このケースであれば、一義的に自らの責任で東京証券取引所が決める性格のものであるわけです。従ってそれに対して、これはこう変えるべきではないかとこちらからそれを言うのであれば、それはまさに強権的裁量的権限を越えた話になってしまうわけです。一義的に決めなければいけない人が、自らの責任でまずどうするのかということを示してもらいたい。そして我々が言っているのは、そういうものをお示しいただいて議論する時期に来ている、或いはそういう環境になっている、或いはそういう議論が必要だということが明らかになったということではありませんか、ということを報告徴求命令という形で公式に問題提起をしているわけです。勿論こうしたものをお受けになれば、一定期限内に一定の見解を示すということですから、そのこと自体命令を受けた組織にとっては、プレッシャーになると言えばプレッシャーになるでしょうが、どんな内容の報告をお出しになるかは、まず自分でお考えになって自分でお決めになるということであって、どういう方向で報告を出してこないと許さないという形でプレッシャーをかけている話ではありません。ここは御理解いただけると思います。権限の範囲内で問題提起のできることを問題提起させていただいて、公にきちんと問題があることをお互いに認識した上で議論を深めてみませんかと、こういうことでございます。

(以上)

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