五味金融庁長官記者会見の概要

(平成17年5月30日(月)17時02分~17時27分 場所:金融庁会見室)

【質疑応答】

問)

大手銀行、地方銀行、生・損保の17年3月期決算が先程夕方までに出揃いましたので、それぞれについて評価をお聞きしたいのですが。

答)

まず大手銀行でございますけれども、不良債権比率が全体で2.9%ということで、「金融再生プログラム」の半減目標を達成していること。また自己資本比率も順調に改善をいたしまして11.6%。更に収益面では、当期純利益が4期ぶりに黒字化ということでございます。この主たる原因は、不良債権処理の進展を受けての不良債権処分損の減少ということでございます。こういった3つの要因等を総合いたしますと、全体として金融を巡る局面が、いわゆる不良債権問題の緊急対応から将来の望ましい仕組みを目指す未来志向に転換する、そういう節目となる内容の決算であったというふうに考えております。

地域金融機関については、113行全てについて発表があったということで承知しておりますけれども、ちょっと分析するには財務局の力も借りて集計等分析作業がこれから必要です。ですからちょっと計数を挙げての御説明になり難いのですが、全体を見て見ますと、収益面では当期純利益、これがやはり不良債権処分損の減少等で増益となるところが多いようでございます。また自己資本比率、或いは不良債権比率、こういったようなものは全体として改善傾向にあるということが明らかに読みとれます。リレーションシップバンキング、地域密着型金融の機能強化に向けての取組といったものが本格化する中で、その効果というものが決算の内容にも徐々に現れてきているということだと考えております。

生命保険会社につきましては、相変わらず基本的に死亡保険に係る契約、保有契約高の減少というものは続いておりますけれども、大手9社の全体を通して見ますと、公表逆ザヤ額が随分減少しました。7.4%の減少。1兆円を切りまして、9,795億円、約9,800億円。色々な事情がありますが、当然事業費削減の努力、或いは第三分野への取組、更には運用環境が比較的安定しているといったような色々な事情があると思いますが、やはり公表逆ザヤ額の縮小というのが一つのトピックのように思います。こうした逆ザヤを補った上で基礎利益で見ますと、2兆899億円ということで、前年度を1.5%ほど上回った水準で決算が締まっているという状況です。ソルベンシーマージン比率も大幅に改善をしておりまして、887%ということで全ての会社においてソルベンシーマージン比率が昨年度に比べて上昇しているということでございます。相変わらず色々な意味で厳しい状況に置かれている業界でありますが、今期決算の内容を見る限り比較的落ち着いた内容の決算であったと思います。

損害保険会社ですが、大手8社の合計で見て見ますと、相変わらず保険料収入の伸びの鈍化という厳しい状況が続いています。それに加えて昨年は、自然災害に係る保険金の支払が例年になく多額に発生をしております。こういった状況の中での決算だったということですが、この自然災害の多発に関しましては、これまで積み立てた異常危険準備金の取り崩し等で対応をしておりますので、もちろん16年度決算に影響があったわけですが、その影響は大分緩和をされたと思われます。しかしながら他方で、各社とも異常危険準備金の繰り入れをこの決算で積極的に行って、今後の財務面での健全性の維持ということに努力をしておられる、こういう概略・内容の決算だったと思います。利益は経常利益、当期利益とも黒字でございますが、減益という状況であります。しかしながらこうした努力がありましたために、相当な自然災害でございましたけれども、ソルベンシーマージン比率は全体で1,000%を上回っているという状況になっております。大変な決算であったと思いますが、今後更に努力をしていくということで十分やっていけるのだという内容の決算だと思っています。

問)

決算に関連してもう1点ですが、大手銀行の当期損益が全体として黒字に転じまして、公的資金の注入を受けている銀行についても、その完済に向かって視野に入ってきました。政府保有株に大きな含み益が見られる銀行もありますけれども、政府としてはどのような返済のあり方が望ましいとお考えになるのか、現時点でのお考えをお聞きしたいと思います。

答)

公的資金の返済等につきましては、資本増強行の資本政策に基づく申し出によるということにされておりまして、各行から具体的申し出がありました時は、預金保険機構の公的資金処分に関するいわゆる3原則、この考え方に沿って検討をしてきております。各行はこの3原則に従って銀行経営の健全性、或いは金融システムの安定性といったことを損なうことなく、国民負担を回避する形で早期返済に取り組むということが期待されております。

公的資本増強行にかかります公的資金の返済等については、金額を申しますと、平成10年から14年にかけて行われました資本増強額、これは累計で10.4兆円ございます。これに対して17年3月末時点における累積返済額は3.4兆円という規模になっております。特に16年度中の返済額は1.3兆円に上るというのが実態です。現在、従いまして資本増強行においては、主要行を中心として金融システムの安定化といったことを背景にして経営の健全を維持しながら、しかも公的資金の早期返済に取り組むという状況になってきているというのが認識です。

こうした状況を踏まえまして、資本増強行におかれては、今後はより一層企業価値を向上させて、自らの資本政策を固めた上で国民負担がでない形での公的資金の早期返済にぜひ取り組んでいただきたいということを当局としては考えております。

なお「金融改革プログラム」におきましては、こうした状況も踏まえまして、公的資本増強行の優先株等について、銀行の財務の健全性の維持や市場への悪影響の回避といったようなことを前提にして、納税者の利益の立場というものにより重きを置いて、国民負担を回避するという観点から、今年度、17年度上期中を目途にその処分についての考え方、その整理を行うこととしております。具体的な内容は、こうした整理を行っていく中で検討をしていくことになります。

問)

大阪証券取引所がヘラクレス市場の新規上場を凍結いたしました。金融庁としての現状及び今後の対応について教えていただきたいと思います。

答)

大阪証券取引所が5月26日に、ヘラクレス市場で株価情報の配信及び約定処理の遅延が発生しているということから、これらの遅延がこれ以上広がらないように、当面ヘラクレス市場への新規上場申請を受付けないということを公表したと承知しています。ヘラクレス市場における株価情報の配信遅延等につきましては、金融庁としても大阪証券取引所に対して証券取引法に基づく報告徴求を行っております。その報告徴求の中で、これらの遅延に対する抜本的な解決策等を求めております。私共は引続きヘラクレス市場におけるこうした遅延状況を注視するとともに、今後大阪証券取引所がこれらの遅延の解消を図る抜本的な解決策を速やかに講じることを期待しております。

問)

みちのく銀行に対して東北財務局が業務改善命令を発出し、本日銀行側が経営陣の刷新等について発表していると思うのですけれども、金融庁及び財務局の考え方からして、今回の発表についてどの様にお考えかをお聞かせいただきたい。

答)

個別行の人事ですからコメントは差し控えるのが適切であろうと思います。ただ先般の業務改善命令におきましては、経営責任の明確化、それから組織体制の抜本的改革、及び早期構築というものを含んだ業務改善計画の提出、これを求めております。この計画が出てまいりましたならば、その中でこの新しい体制が業務改善命令を踏まえたものとなっているかどうかを確認していくということになります。いずれにいたしましても、当局としてのそうした作業は今後も段取りとしてございますが、新体制の下でみちのく銀行が法令遵守態勢、或いは内部管理態勢、こういったものを抜本的に見直し、あらゆる努力を行って信頼回復に全力を挙げて取り組んでいただきたい。とりあえずこれがみちのく銀行に現在申し上げたいことでございます。

問)

小田急グループについて報告徴求命令を出していたと思うのですが、それについて本日回答があったと思うのですが、今後小田急グループに対して望まれることについてお願いします。

答)

これも個々の事案についての報告の提出の有無といったこと、或いはその内容といったことですので、コメントをすることは控えさせていただきます。ただ一般論で申しますと、記載内容に不備があった等の場合は、必要に応じて所管の財務局で訂正内容等について確認を行うことにしております。その後については確認された事実関係を踏まえて適切に対応していくことになります。ただ一言申し上げておきたいのは、証券市場に対する信頼性の確保ということのためには適正なディスクロージャーというのが非常に重要だということでありまして、このディスクロージャーに対する信頼性というものは開示企業、そして様々な関係者がディスクロージャーについてはおりますけれども、関係者の不断の取組によって初めて確保されるものだということを強く申し上げたいと思います。私共金融庁としては、こうした開示企業をはじめ関係者の皆様が、適切なディスクロージャーの確保ということを常に強く意識をして、継続的にその適切なディスクロージャーを行うような努力を続けていただきたい。こうしたことを強く期待しております。

問)

大証ヘラクレスのシステム問題とIPOの凍結に関してですけれども、大阪証券取引所は一上場企業ですけれども、そういうところがシステムの開発のスケジュール感等に不備があったがために、今回のような措置を取らざるを得なくなったと思われますか。それともインターネットを介した個人投資家の売買というのがここまで拡大すると予想し難かったので、仕方ない状況も加味されると思われますか。

答)

こうした遅延が起こったことに関連をして、当然のことながら事実関係をはじめとして改善策、或いは解決策まで、現在報告を求めておりますから、この報告の内容を良く踏まえた上でその辺りを判断し、更に証券取引法上の規定に基づいてどのように対応すべきかを検討するということになると思います。

問)

金融庁の検査について、評定制度が先週発表されましたが、今年度に入って改革プログラムに基づいて様々な改善をやってこられておりますが、その問題意識がどこにあるかということですが、前年度までの検査の中でやはり検査官による行き過ぎた検査があったとか、権限を背景に金融庁検査が強権的になり過ぎたというような御認識があった上で、こういう改善策、改革に取り組まれているのか、その辺の御認識についてお伺いしたいのですが。

答)

基本的な認識は、これまで金融庁は検査だけでなくて、金融庁の担う銀行行政は、不良債権問題への対応に全てその精力を取られていたというのが現状だったわけです。したがって、検査においても、信用リスクの計測に間違いがあるかどうかということに、最大限の精力を注入してチェックしなければいけないという状況にあった訳です。このことは、検査というものが本来目指している方向からすると、必ずしもその方向にぴったりあったものではない。検査が目指すもののごく一部分に、ほとんど全精力を費やしていたというのが実情だと思います。

平成11年に発表された金融検査マニュアルにも、基本的考え方のところに書いてありますが、検査の目的というのは、間違いを見つけることではなく、間違いが起こらないような態勢ができているかどうかを確認するということだったわけですが、とてもそれを見ているような状況ではなくて、そもそも間違いをどんどん発見して、直すべきところは直してもらうというのがほとんどの仕事であったという状況にあります。そうした状況の中で、検査というものの持つ本来の機能が十分に発揮できないという、フラストレーションが我々には常にあったわけです。ところが、関係者の皆さんのご努力のおかげで主要行の不良債権問題が正常化の方向に急速に進み始め、そして、この決算を見る限りにおいては、この目標値を達成し、その限りにおいて、正常化したと言える状況になってきている。こういう状況になった時にそれで仕事が終わったのかと言うと、それはそうではなくて本来の仕事ができる状況にやっとなったというのが認識です。

本来は、自己査定というのは、銀行で間違いなくできなくてはいけないし、監査法人がチェックしていれば、我々が間違いを探すというのは本来ないはずのものです。やっと不良債権問題が正常化したということは、何か立派なものになったということではなくて、主要行がやっと普通の状況に戻ってきたということで、これから本来の検査・監督機能がやっと発揮できるという状況にたどりついたという認識があります。局面の転換です。ですから、銀行にとっては、当然のことながら、この局面の転換というのは、B/SからP/Lへ、非常時対応・緊急時対応から将来の望ましい姿を目指してという転換になるわけですが、金融当局にしてみれば、まさに緊急的で普通ではない行政から、やっと本来の普通の総合的なリスク管理や内部管理をチェックする体制になってきたということがあるわけです。それを踏まえて、これまでの検査の経験というものがございますから、そうしたものも踏まえ、更にこれからは内部管理をきちんとしてください、ガバナンスをきちんとしてくださいということを、自主的にインセンティブを与える形でやってもらわなくてはいけないわけですから、そういった視点から、検査の手法、或いは検査の手続きといったものを全部分かり易く文字に落して、みんなの認識を共通のものにして、更に評定制度というものも入れることによって管理水準の高い金融機関に対しては、監督上の対応というものが、管理水準の低いところとは自ずと違ってくるということをはっきりさせる。それによって、自発的な、自主的な内部管理態勢の高度化というものを図って欲しい、こういうことで導入をしたわけでございます。一つ一つの現象で、あそこは間違っているのではないか、ここはおかしいのではないか、或いはここに文句が出ているからというものをパッチワーク的に直そうとして作ったものではなくて、金融行政を巡る局面がやっと本来の姿に戻ってきた、そこで今回特異な検査や特異な監督に注力していた姿から、本来の姿というのはこうなんだということを一度きちっと整理し直し、明確化したというのが今回の検査を巡る幾つかの対応でございます。

問)

東京証券取引所が年度内に上場の予定で検討しているかと思うのですが、金融庁が審査等の規制部門についての分離や報告徴求も求める状況にあり、そうすると上場は中々難しいという状況も生まれるのではないかと思われるのですが、金融庁として、規制部門についてはきちんとした、分離等の体制整備をしない限りは、上場というのは難しいのではないかという考え方が金融庁の中にあるのかどうかについてお伺いしたいのですが。

答)

上場そのものは、証券取引所の上場でございますから、上場承認の申請を金融庁にしていただくと、そうすると法令や上場しようとする取引所の上場審査基準等に照らして必要な審査を行うということに尽きるわけです。自主規制機能を組織上どういうふうに扱うと、最も株式会社化をし、上場していく中で望ましいのかという点については、金融審議会では様々な議論があり、或いは英米において先例となる、或いは参考となる動きがある。そうした中で東京証券取引所は、この点をオフィシャルに、公的にどういうふうな考え方でどう整理をしておられるのかということを一度当局とじっくりお話をしましょうと、それは内々のお話ではなくて、私共から公にその考え方を整理し、報告していただくようにお願いをし、それに対する回答をいただいた上で、その回答内容について議論を深めていきましょうという趣旨です。何か、ある回答が来ない限り絶対何かを認めないといった予断があるわけではないわけです。十分に内外の状況とか議論を踏まえた上で、それにも十分応えられる形での考え方を示していただくのが先決で、その上で議論を深めるということです。

(以上)

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