平成27年6月26日
金融庁
日神不動産株式会社役員からの情報受領者による内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について
金融庁は、証券取引等監視委員会から、日神不動産(株)役員からの情報受領者による内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告を受け、平成26年12月19日に審判手続開始の決定(平成26年度(判)第32号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:228KB)を行いました。
記
1決定の内容
被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。
(1)納付すべき課徴金の額金104万円
(2)納付期限平成27年8月26日
2事実及び理由の概要
別紙のとおり
(別紙)
(課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実(以下「違反事実」という。))
被審人(A)は、遅くとも平成25年10月18日までに、東京都新宿区新宿五丁目8番1号に本店を置き、不動産の売買、仲介、賃貸、管理等を目的とし、その発行する株式が東京証券取引所市場第一部に上場されている日神不動産株式会社(以下「日神不動産」という。)の役員を務めるBから、同人がその職務に関し知った、同社の同年4月1日から平成26年3月31日までの会計期間の剰余金の配当について、平成25年5月10日に公表がされた直近の予想値(10円)に比較して、同社が新たに算出した予想値において、投資者の投資判断に及ぼす影響が重要なものとなる差異が生じた旨の重要事実(以下「本件重要事実」という。)の伝達を受けながら、法定の除外事由がないのに、前記新たに算出した同会計期間の剰余金の配当予想値が実質12円と公表(以下「本件公表」という。)された同年10月21日午後3時頃より前の同日午前10時34分頃、C証券株式会社(以下「C証券」という。)を介し、株式会社東京証券取引所において、自己の同族会社であるD社の計算において、日神不動産株式(以下「本件株式」という。)合計9,700株を買付価額合計686万3,300円で買い付けた(以下「本件買付け」という。)。
(違反事実認定の補足説明)
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1争点
被審人は、本件重要事実の伝達をBから受けたこと(以下「本件伝達行為」という。)を否認しているから、この点について補足して説明する(なお、違反事実のうち、その余の点については、被審人が争わない。)。
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2認定事実
(1)被審人とBの関係等
被審人及びBは、不動産・住宅産業の業界団体において、平成5年頃から共に役員を務めるなどして付き合いを継続し、平成25年10月当時も、同業界団体である団体Eにおいて、被審人は役職Fを、Bは役職Gを務めていた。
また、団体E内で結成されているH同好会においても、被審人は役職Iを務め、Bは役職Jの立場にあった。
一方、被審人は、Bが役員を務める日神不動産について、B以外に同社内で面識のある者はいなかった。
(2)本件公表の経緯等
ア直近の予想値の公表
日神不動産では、平成25年5月10日、平成26年3月期の配当予想を1株当たり10円とする旨公表していた。
イBが本件重要事実を知ったこと
前記アの公表後、日神不動産において、当初の業績予想から新たに算出した業績予想において、上方修正の公表が必要となったことなどに伴い、(ア)平成25年11月30日を基準日として発行済普通株式1株につき2株の割合で株式分割を行うことに加え、(イ)株式分割後の株式を基準として1株当たりの配当額を5円から6円とすることが検討され、同年10月1日の取締役会において、(ア)及び(イ)にかかる議題が提案され、同月10日に(ア)が公表された後、同月21日に(イ)も公表されることとなった。Bは、これらの各段階で報告を受けるなどして、同日の前営業日である同月18日までには、本件重要事実を知った。
一方、日神不動産の社内では、業績予想や配当予想の修正について、各情報について共有する相手を限定するなど慎重な取扱いがされてきた。
ウ本件公表
日神不動産は、同月21日午後3時頃、本件重要事実を公表した。
(3)被審人とBが参加した食事会の存在
平成25年10月18日(金曜日)午後5時から、H同好会の会合が開催され、その後、同日午後6時頃から、引き続き食事会(以下「本件食事会」という。)が行われたところ、本件食事会には、H同好会の役職Iである被審人に加え、Bも出席した。
(4)被審人による本件買付け
被審人は、平成25年10月21日(月曜日)午前10時34分頃、C証券を介し、自己の同族会社であるD社の計算において、本件買付けを行った。
本件買付けに至る取引状況等は次のとおりである。
ア被審人は、自己名義及びD社名義のC証券の証券口座において、平成17年8 月8日以降本件買付けまで株取引を行っておらず、このうち自己名義の口座については、平成24年10月に口座閉鎖扱いとなっている。
イ被審人は、平成25年10月21日午前9時頃、C証券に電話をして、残高がゼロになっていたD社名義の口座で株取引がしたい旨申し出た。この時点で、被審人は、同口座の口座番号やC証券に登録されていた同社の電話番号等を把握していなかった。当該電話において、被審人は、C証券の担当者(通話相手)に対し、「今日あの株を買うとすればですね、あの送金すればすぐ株は買うことできますか。」「ちょっと今日ねえ、できれば買う、株を買おうかなと思ってて」「できるんであれば今ね、すぐ動こうかな思ったんだけどね、いや時間がかかるんであればもうやめちゃおうと思ってね。」などと、同日中に買付けをしたいが、それができないのであれば買付けをしない旨を伝えた。
ウその後、被審人は、前記口座へ本件株式を買い付けるために必要な資金を振り込む手配をすると、C証券の担当者に対し、繰り返し入金確認ができたか否か確認する電話をしたが、同日午前10時19分頃に電話した際、その時点でも入金確認ができていない旨の回答をされたため、C証券には、振込明細書をファックスすることで入金確認を実現させ、本件株式の買い注文を指示した。
(5)本件買付け後の被審人の発言
被審人は、平成25年10月21日午前10時44分頃、C証券担当者との電話の際、以下のような発言をした(なお、順番はアからウのとおり。)。
ア「日神不動産ねえ。」「土曜か日曜に。」「何か、そこでもって、発表してない。」
イ「何かねえ、別にこれ、インサイダーになるわけじゃないみたいなんだけど。」「ちらっとね、耳にしたのは。」「何ていうか、配当がちょっと増えるという感じ」
ウ「さらに、2、3円増えるんじゃねえかな。」「何か配当か何かがね。」「何か、プラスαがつくっていうような話もチラッとね。」「2円あたり増えるかな、てなそんな噂がチラッとはしたんでね。」
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3争点に対する判断
2の認定事実を踏まえ、以下、本件争点を検討する。
(1)取引状況とその後の発言が本件伝達行為をうかがわせるものであること
被審人は、前記口座における平成17年8月の株取引後約8年の期間、株取引のブランクがあった上、D社名義の口座の口座番号等を確認したり、同口座への入金手続をするなどの事前準備もなしに、本件買付けを行うべく、急いで行動をしていたものである(2 (4))。本件買付けに間近い時に本件重要事実を知ったのでなければ、このような切迫した行動をとったことは説明し難い。本件買付け直後にされた被審人の発言(2 (5))を見ても、被審人は、C証券に対し、日神不動産に関して何らかの公表がされていないかを確認した上(ア)、「インサイダー」という言葉を出して、本件株式の配当に関する情報を耳にしたと伝えるにとどまらず(イ)、「2円」という本件重要事実の内容と合致する具体的な増配金額まで伝えているところ(ウ)、これら一連の発言は、本件買付け時に、本件重要事実やそれが近々公表される予定であることを知っていなければなし得るものではない。
(2)Bとの間で本件伝達行為の機会が存在したことなど
Bは、遅くとも平成25年10月18日には本件重要事実を知っていた(2 (2)イ)ところ、同日夕方からの本件食事会において、被審人とBは顔を合わせており(2 (3))、被審人には、Bから本件重要事実の伝達を受ける機会があったものである。
そして、被審人が前記(1)の切迫した行動をとったのは、本件食事会でBから本件重要事実の伝達を受けたからであると推認するのが合理的である。
他方で、日神不動産では、本件重要事実を含む配当予想の修正等の情報について、社内で慎重な取扱いがなされてきたもので(2 (2)イ)、同社内部でも本件公表前に本件重要事実を知っていた人物は限られていたというべきである。
そのような状況において、被審人は、日神不動産関係者の中には、長年の知人関係にあったB以外に面識のある人はいなかったのであり(2 (1))、また、B以外から本件伝達行為を受けられたとの証拠はない。
なお、Bは、質問調査において、本件食事会で本件重要事実にかかる話をした記憶はない旨述べるが、会話を全て覚えているわけではないので、本件重要事実について絶対話していないとはいえない旨も併せて供述しており、その供述全体を見れば、本件伝達行為を明確に否定するものとは評価し難い。
(3)結論
前記(1)及び(2)で検討したところによれば、被審人は、本件伝達行為を受ける機会があり、かつ、本件伝達行為の存在を前提としてはじめて合理的に説明ができる行動に出ていたものである上、被審人が本件買付け直後(本件公表前)にしていた一連の発言は、他人から本件重要事実に関する情報の伝達があったことをまさに示すものといえるところ、その伝達を受ける相手としてはB以外には考えられず、そうすると、本件伝達行為を優に認定することができる。
(課徴金の計算の基礎)
課徴金の計算の基礎となる事実については、被審人が争わず、そのとおり認められる。
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(1)金商法第175条第1項第2号の規定により、当該有価証券の買付けについて、業務等に関する重要事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に当該有価証券の買付けの数量を乗じて得た額から当該有価証券の買付けをした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額。
(815円×9,700株)
-(705円×500株+706円×2,300株+707円×1,000株+708円×3,100株 +709円×2,800株)
= 1,042,200円
(2)金商法第176条第2項の規定により、上記(1)で計算した額の1万円未満の端数を切捨て、1,040,000円となる。
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