平成27年8月7日
金融庁

株式会社高田工業所株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から、(株)高田工業所株式に係る相場操縦の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成27年3月2日に審判手続開始の決定(平成26年度(判)第35号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:119KB)を行いました。

決定の内容

被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1)納付すべき課徴金の額金739万円

  • (2)納付期限平成27年10月7日

事実及び理由の概要

別紙のとおり


(別紙)

(課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実(以下「違反事実」という。))

被審人(A)は、東京証券取引所市場第二部に上場されている(株)高田工業所の株式(以下「本件株式」という。)につき、本件株式の売買を誘引する目的をもって、別表1記載のとおり、平成25年12月18日午前9時35分頃から平成26年1月15日午後0時55分頃までの間(以下「本件取引期間」という。)、15取引日にわたり、株式会社東京証券取引所において、B証券株式会社を介し、直前の約定値より高指値の売り注文と買い注文を対当させて株価を引き上げたり、直前の約定値より高指値の買い注文を連続して発注して株価を引き上げるなどの方法により、本件株式合計10万株を買い付ける一方、本件株式合計8万3,500株を売り付け、もって、自己の計算において、本件株式の売買が繁盛であると誤解させ、かつ、同市場における本件株式の相場を変動させるべき一連の売買をした。

(違反事実認定の補足説明)

  • 争点

    被審人は、違反事実に掲げる買付け及び売付け(以下「本件各取引」という。)を行ったことは争わず、(1)本件各取引は、売買が繁盛であると誤解させ、かつ、株式の相場を変動させるべき一連の売買に該当するものではなく、また、(2)他の投資者の売買を誘引する目的はなかった旨主張するから、これらの点について補足して説明する(なお、違反事実のうち、その余の点については、被審人が争わない。)。

  • 各争点判断の前提となる事実(取引態様の意味内容や評価については、後記3(1)参照。)

    • (1)被審人の株取引の経験等

      被審人は、かつて証券会社で10年以上勤務した経験があり、証券会社を退職して現在の職業に就いた後、平成5年頃から、証券会社で培った経験を基にして趣味を兼ねた株取引を開始した。取引開始当初は、東京証券取引所市場第一部に上場している銘柄の取引を行っていたが、次第に、値動きも軽く早く結果が出る銘柄として東京証券取引所市場第二部に上場している株式の取引をするようになった。

    • (2)本件株式の取引及び証券会社による注意喚起等

      被審人は、平成24年2月頃から本件株式の取引を行うようになったが、同年5月14日から平成25年8月7日にかけて、B証券株式会社を含む4つの証券会社から10回以上にわたり、本件株式の取引につき、買い上がり買付け、仮装売買及び終値一文高などの指摘をされて注意喚起を受け、平成24年7月20日及び平成25年5月13日にはB証券株式会社以外の証券会社2社から新規取引停止の扱いを受けていた。

    • (3)本件各取引の態様

      被審人は、別表2記載のとおり、本件各取引を行ったところ、本件各取引の中には、対当売買、買い上がり買付け及び終値関与の態様の取引が含まれている。

    • (4)本件取引期間開始日の1か月前から本件取引期間終了日までの四本値・出来高

      別表3のとおり。

    • (5)本件各取引開始後のB証券株式会社による注意喚起等

      被審人は、平成25年12月20日及び同月25日に取引内容について仮装売買又は終値一文高であるとの指摘をされてB証券株式会社から注意喚起を受け、本件取引期間の最終日である平成26年1月15日に仮装売買によりB証券株式会社から新規取引停止の扱いを受けた。

  • 争点1(本件各取引が、売買が繁盛であると誤解させ、かつ、株式の相場を変動させるべき一連の売買といえるか(相場操縦行為該当性))について

    • (1)本件各取引の取引態様の評価

      本件各取引に含まれる次の各取引態様は、以下のとおり、出来高あるいは株価に影響を与える可能性があるものである。

      • 対当売買について

        自分の売り注文と同じ価格で買い注文を発注することにより、自分の売り注文と買い注文をぶつけて約定させる取引(以下「対当売買」という。)は、出来高を増やすとともに、直前約定値より高値で自らの注文を約定しうる取引であるところ、市場における自然の需給に基づく取引ではないため、直接に相場変動を来し、又は、当該取引の結果として公正な価格の形成を歪めるおそれがある。なお、仮装売買という用語も対当売買と同様の取引態様を指す意味で用いられる場合がある。

      • 買い上がり買付けについて

        直前の約定値より高値で指値注文を行い、あるいは成行注文を行い、自分の買い注文を高値で約定させる態様の買付け(以下「買い上がり買付け」という。)は、自分の買い注文を高値で約定させながら株価を引き上げるもので、まさに株価の上昇に寄与し、株価を高値に誘導するおそれがある。

      • 終値関与について

        終値の形成に関与する取引(以下「終値関与」という。)は、翌取引日の株価にも影響を与えることから投資者に重視される終値を形成しようとする取引であり、株価の形成に強い影響を与えるおそれがある。

    • (2)本件株式の平均出来高及び株価と本件各取引の関係

      本件取引期間開始日の1か月前から本件取引期間終了日までの相場の値動きや出来高に照らして、本件取引期間中には平均出来高が1か月前の約1万4,000株から3万株以上にまで増加し、同様に、本件株式の株価も、本件取引期間直前の316円から本件取引期間終了時点では384円まで上昇したものである。

    • (3)まとめ

      前記(1)で本件各取引の取引態様を評価したように、被審人の本件各取引には、個別の取引を見ても、出来高や株価形成の観点からして、相場を変動しうる取引が含まれている。そして、別表2に示したように、本件各取引全体を見ても、本件取引期間中の対当売買は30回に及び、終値関与も8営業日に及んでいる。その上、被審人の取引が影響して本件株式の株価が上昇したと考えられる場面が43回もあり、かつ、被審人の各取引の直後に他の投資者が実際に影響を受けた場面も複数見られる。

      加えて、本件各取引に係る一連の取引の結果ないし影響として、前記(2)のとおり、本件株式につき、実際に、平均出来高が倍以上増加し、株価も2割以上上昇している。

      これらの事情からすれば、本件各取引は、売買が繁盛であると誤解させ、かつ、相場を変動させるべき一連の売買に当たると優に認められる。

  • 争点2(被審人が本件株式の売買を誘引する目的を有していたか(誘引目的))について

    • (1)本件取引期間中の取引内容等

      対当売買、買い上がり買付け及び終値関与などの各取引態様が出来高や株価形成に与える影響は前記3(1)で指摘したとおりであるところ、被審人は、前記3(3)のとおり、本件取引期間中、対当売買や買い上がり買付けを繰り返し、15取引日のうち8取引日において、終値に関与している。かかる一連の取引は、誘引目的の存在がなければ合理的に説明できないものであるから、客観的な取引内容だけからしても、被審人に誘引目的があったことが強く推認される。

    • (2)被審人の株取引の経験等

      一方で、被審人は、証券会社での勤務経験や、同経験を生かして20年以上にわたって幅広い銘柄の株取引を行う中で本件株式の取引も継続して行っていたのであって(前記2(1))、株取引に関する知識を十分に有していたことがうかがわれる。

      とりわけ、被審人は、まさに本件株式の取引方法について、平成24年5月から本件取引期間前までの間に、B証券株式会社を含む複数の証券会社から10回以上の相当な回数にわたって、買い上がり買付け、終値関与、その一形態である終値一文高、仮装売買等であるとの具体的な取引態様についての指摘を伴う注意喚起や新規取引停止処分まで受けたことがありながら(前記2(2))、同様の取引態様を含む本件各取引に及んでいる。しかも、被審人は、本件取引期間中にも、B証券株式会社から2回にわたって注意喚起を受けていたのに、更に新規取引停止処分を受ける日まで取引を継続している(前記2(5))。そして、注意喚起を受ける際に取引の意味内容についても説明を受けていたことが容易に推認できることを考慮すれば、被審人は、一般的な知識のみならず、継続してきた取引が市場に影響を与える可能性を有する問題ある取引態様に該当することも把握していたものといえる。そうすると、再三の注意喚起を受けながらも同様の取引を継続していたことは、被審人において、従前に指摘された取引の態様が市場に与える影響を容認し、これを利用していたことを示すものというべきである。

      このような証券会社からの注意喚起等の経緯を踏まえた被審人の株取引の知識・経験及び行動等からすれば、被審人につき、本件株式の出来高を増やし、かつ株価を上昇させるべく意図的に本件各取引を行ったことが推認される。

    • (3)まとめ

      以上のとおり、客観的な取引内容等から被審人に誘引目的があったことが強く推認される上、被審人の株取引の知識・経験及び行動等に照らして被審人が本件株式の株価を上昇等させるべく意図的に本件各取引を行ったことが推認されることなどからすれば、被審人は、本件各取引により、他の投資者が取引に誘い込まれる可能性があることを十分認識していたというべきである。

      よって、被審人は、本件各取引を行う際、本件株式の売買を誘引する目的を有していたと認められる。

(課徴金の計算の基礎)

課徴金の計算の基礎となる事実については、被審人が争わず、そのとおり認められる。

金商法第174条の2第1項の規定により、当該違反行為に係る課徴金の額は、

当該違反行為に係る有価証券の売買対当数量に係るものについて、自己の計算による当該有価証券の売付け等の価額から、自己の計算による当該有価証券の買付け等の価額を控除した額

及び

当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の売付け等又は買付け等の数量が、当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の買付け等又は売付け等の数量を超える場合、当該超える数量に係る有価証券の売付け等の価額から当該違反行為が終了してから1月を経過するまでの間の各日における当該違反行為に係る有価証券の買付け等についての金商法第130条に規定する最低の価格のうち最も低い価格に当該超える数量を乗じて得た額を控除した額、又は当該違反行為が終了してから1月を経過するまでの間の各日における当該違反行為に係る有価証券の売付け等についての金商法第130条に規定する最高の価格のうち最も高い価格に当該超える数量を乗じて得た額から当該超える数量に係る有価証券の買付け等の価額を控除した額

の合計額として算定。

別紙に掲げる事実につき

当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の売付け等の数量は、83,500株であり、当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の買付け等の数量は、実際の買付け等の数量100,000株に、金商法第174条の2第8項及び金融商品取引法施行令第33条の13第1号の規定により、違反行為の開始時にその時における価格(312円)で買付け等を自己の計算においてしたものとみなされる当該違反行為の開始時に所有している当該有価証券の数量61,000株を加えた161,000株である

ことから、

(1)当該違反行為に係る有価証券の売買対当数量(83,500株)に係るものについて、自己の計算による当該有価証券の売付け等の価額から、自己の計算による当該有価証券の買付け等の価額を控除した額

(312円×20,000株+314円×2,500株+315円×13,000株

+316円×500株+317円×2,000株+318円×2,000株

+322円×500株+323円×2,500株+324円×500株

+325円×500株+326円×1,500株+329円×3,000株

+330円×6,000株+333円×1,000株+334円×1,000株

+335円×1,000株+336円×1,000株+337円×2,000株

+338円×500株+339円×1,000株+340円×1,000株

+341円×1,000株+342円×1,000株+343円×1,500株

+344円×500株+345円×1,500株+348円×1,000株

+350円×1,000株+354円×3,500株+355円×1,500株

+357円×2,000株+360円×2,000株+361円×500株

+365円×500株+372円×500株+373円×500株

+374円×500株+378円×500株+379円×1,000株)

-(312円×80,500株+314円×2,500株+315円×500株)

= 1,379,500円

及び

(2)当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の買付け等の数量(161,000株)が、当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の売付け等の数量(83,500株)を超えていることから、当該違反行為が終了してから1月を経過するまでの間の各日における当該違反行為に係る有価証券の売付け等についての金商法第130条に規定する最高の価格のうち最も高い価格(418円)に当該超える数量77,500株(161,000株-83,500株)を乗じて得た額から、当該超える数量に係る有価証券の買付け等の価額を控除した額

(418円×77,500株)

-(314円×6,000株+315円×14,500株+316円×500株

+317円×1,000株+318円×2,500株+321円×3,500株

+322円×1,000株+325円×500株+329円×500株

+333円×500株+336円×500株+338円×500株

+339円×3,000株+342円×500株+343円×1,000株

+345円×500株+347円×3,000株+350円×11,000株

+352円×1,500株+353円×500株+354円×1,000株

+355円×6,000株+357円×2,500株+361円×500株

+362円×1,000株+363円×1,000株+364円×3,000株

+365円×2,500株+367円×1,000株+368円×1,000株

+369円×500株+370円×2,000株+372円×500株

+373円×500株+374円×500株+382円×500株

+383円×500株+384円×500株)

= 6,018,500円

の合計額7,398,000円となる。

金商法第176条第2項の規定により、上記1で計算した額の1万円未満の端数を切捨て、7,390,000円となる。

(※ 別表2及び3の添付は省略する。)

(別表1)
取引年月日 売買株数
売付 買付

平成25年12月18日

33,500

40,500

平成25年12月19日

6,500

9,000

平成25年12月20日

2,000

平成25年12月24日

14,500

500

平成25年12月25日

10,500

平成25年12月26日

14,000

平成25年12月27日

6,000

平成25年12月30日

3,500

平成26年1月6日

6,500

1,000

平成26年1月7日

1,000

7,500

平成26年1月8日

平成26年1月9日

4,000

5,500

平成26年1月10日

1,500

3,000

平成26年1月14日

4,000

5,500

平成26年1月15日

1,500

2,000

合計

83,500

100,000

お問い合わせ先

金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局総務課審判手続室
(内線2398、2404)

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