平成29年3月31日
金融庁

公開買付者との契約締結交渉者による株式会社京王ズホールディングス株式に係る内部者取引に対する課徴金納付命令の決定について

金融庁は、証券取引等監視委員会から公開買付者との契約締結交渉者による(株)京王ズホールディングス株式に係る内部者取引の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告新しいウィンドウで開きますを受け、平成28年9月23日に審判手続開始の決定(平成28年度(判)第14号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり決定(PDF:164KB)を行いました。

1 決定の内容

被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。

  • (1) 納付すべき課徴金の額 金60万円

  • (2) 納付期限 平成29年5月31日

2 事実及び理由の概要

  • 別紙のとおり


(別紙1)


(課徴金に係る法第178条第1項各号に掲げる事実(以下「違反事実」という。))
 被審人(A)は、遅くとも平成26年3月15日までに、被審人と(株)光通信(以下「光通信」という。)との間の公開買付けに関する契約の締結交渉に関し、光通信の業務執行を決定する機関が、(株)京王ズホールディングス(以下「京王ズ」という。平成27年5月29日上場廃止)株式の公開買付け(以下「本件公開買付け」という。)を行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実を知りながら、法定の除外事由がないのに、上記事実の公表がされた同月26日午後8時40分頃より前の同月20日及び同月26日午前10時14分頃から同日午前10時19分頃までの間、B証券株式会社を介し、(株)東京証券取引所(以下「東証」という。)において、C名義で、自己の計算において、京王ズ株式合計2700株を買付価額合計89万4100円で買い付けた(以下「本件買付け」という。)。
 
(違反事実認定の補足説明)
第1 争点
 被審人は、本件買付けは、被審人の計算により、被審人を主体として行われたものではなく、本件買付けに使用された証券口座の名義人であるCの計算により、Cを主体として行われたものである旨主張するから、この点について補足して説明する(なお、違反事実のうち、その余の点については、被審人が争わない。)。
 
第2 前提となる事実
1 関係者等
(1) 京王ズ
 京王ズは、電気通信事業法による通信事業者の通信機器販売代理店業務等を営む会社の株式又は持分を保有することにより当該会社の事業活動を支配、管理すること等を目的とする株式会社であり、東北地方を中心として携帯電話販売の一次代理店としての業務を行っていた。
 京王ズ株式は、平成16年1月に東証マザーズ市場に上場されたが、平成27年5月29日に上場廃止となった。

(2) 光通信
 光通信は、携帯電話販売の一次代理店業務について京王ズと競合関係にあったが、平成18年からは同社との業務提携及び同社株式の取得を進め、本件公開買付けの実施直前には、同社の発行済み株式の20パーセントを超える株式を保有していた。

(3) 被審人及びD
 被審人は、京王ズ(なお、現商号は、平成19年4月1日に変更されたもの。)の役員の地位にあった。
 Dは、被審人の誘いを受けて入社して以来、同社での勤務を続け、平成××年×月以降、同社の役員を務めていた。
 その後、京王ズの定時株主総会をもって、被審人及びDらは役員を退任したが、退任後も、被審人は、京王ズやその役員から報酬や資金供与を受けるなどし、Dも従業員として同社に在籍し、引き続き同社の事務手続に関与していた。なお、被審人退任後は、Eが同社の役員に選任された。

(4) C
 Cは、かねて京王ズの飲食事業部門で勤務していたところ、平成19年4月に同社が持株会社になったことに伴い、飲食事業を業とする同社子会社のF社に在籍していたが、同年12月末に同社を退社した。
 その後、Cは、平成20年2月からG社で働き始め、平成23年10月から同社の役員を務めたが、平成25年7月に同社を退職した。
 なお、Cは、平成26年10月から建設会社に勤務している。

(5) H社
 H社は、被審人が全株式を保有しており、平成23年10月27日以降、被審人のみが役員となっている。
 
2 本件公開買付けに関する契約の締結交渉
  (省略する)
 
3 本件買付けに係る状況
(1) 平成26年3月18日午前9時55分頃、I銀行J支店で開設されたC名義の銀行口座(以下「本件銀行口座」という。)に現金100万円が入金され、同一の現金自動預払機(以下「ATM」という。)により、同日午前9時56分頃、同口座からB証券株式会社のC名義の証券口座(以下「本件証券口座」という。)に100万円が振り込まれた。

(2) 上記(1)の金員を原資として、同月20日、本件証券口座を介して、京王ズ株式合計1200株が買い付けられた(以下「第1取引」という。)。買付単価は1株321円から328円であり、買付価格の合計は、39万1000円であった。

(3) 上記(2)と同様、上記(1)の金員を原資として、同月26日午前10時14分頃から午前10時19分頃にかけて、本件証券口座を介して、京王ズ株式合計1500株が買い付けられた(以下「第2取引」という。なお、第1取引と第2取引を併せたものが本件買付けである。)。買付単価は1株335円から338円であり、買付価格の合計は、50万3100円であった。
 
4 本件買付け後の状況
 平成26年3月26日午後8時40分頃、光通信は、光通信が京王ズ株式の公開買付けを実施する予定であること等を公表した。
 
第3 争点に対する判断
1 認定事実
 本件争点の判断に関係する事実として、関係各証拠によれば、以下の各事実が認められる。

(1) 京王ズにおけるDの業務内容等
ア 京王ズにおける業務内容等について、Dは、質問調査において、以下のような供述をしている。
(a) 本件当時、Dは、京王ズにおいて、従業員として、被審人から頼まれて、京王ズ名義の銀行口座間の資金移動や振込手続等を行っていた。
(b) Dは、上記(a)に加え、被審人やCの個人名義の銀行口座についても、同人らから指示を受けて資金移動等を行うこともあったが、同人らの許可なく、当該銀行口座内の資金を使ったり、振込手続をしたりすることはなかった。

イ Dは、下記(2)ウでも触れるとおり、質問調査と調査官による破産管財人を通じた照会に対する回答とで供述が変遷している部分があるが、上記アの限度では供述内容が一貫していると考えられる上、上記アの供述内容は、京王ズの社内調査委員会の調査報告書の内容にも沿うものであるから、信用できる。

ウ よって、上記アの(a)及び(b)の各事実が認められる。 

(2) 本件銀行口座及び本件証券口座の開設経緯等
ア 本件銀行口座及び本件証券口座の開設状況等に関し、Cは、質問調査において、以下のような供述をしている。
(a) 平成24年頃、Cは、Dから、C名義で銀行口座及びB証券株式会社の証券口座を開設し、これらの口座の通帳等を渡すよう依頼された。
(b) そこで、Cは、本件銀行口座を開設した上、京王ズ本社において、Dに対し、同口座の通帳及びキャッシュカードを渡すとともに同口座の暗証番号を教えた。
(c) 本件証券口座については、C自身は開設手続をしなかったが、後日、Cの自宅にB証券株式会社から郵便物が届いた。
(d) 本件銀行口座にCの資金は一切ない。また、Cは、本件証券口座を利用したことは一度もなく、同口座のログインIDやパスワードは把握していない。

イ 上記アのCの供述内容は、下記(3)の本件銀行口座及び本件証券口座の利用状況、とりわけ本件銀行口座における出金時の依頼人電話番号にC名義の電話番号が含まれていなかったことや、本件証券口座における取引に用いられたIPアドレスにCとの具体的な関連がうかがえないことなどと整合し、信用できるものである。

ウ よって、上記アの(a)ないし(d)の各事実が認められる。

(3) 本件銀行口座及び本件証券口座の利用状況等  
ア 本件銀行口座について
 口座開設日である平成24年9月6日から平成27年3月18日までの本件銀行口座における全出金(依頼人名等が記録されないキャッシュカードによる15回の現金出金を除く。)である84回の振込等による出金の記録のうち、依頼人名をCとするものは6回存在するが、いずれも、本件証券口座への振込みであり、かつ、依頼人電話番号はD名義の携帯電話番号であった(上記第2の3(1)の振込みを含む。)。
 一方、同出金の記録のうち、依頼人名を被審人とするものは63回存在し、その余の15回の出金は、依頼人名をH社等の被審人が関与している法人とするものであった(ただし、1回のみ被審人が過去に代表を務めていた会社名とするものがある。)。
 また、同出金の受取人名の記録には、本件証券口座(6回)のほか、H社(8回)、同社名義の証券口座(2回)、被審人の親族(4回)、当時の被審人の代理人弁護士(6回)、被審人が京王ズ株式を担保に貸付けを受けていた会社(3回)などが含まれていた。
 さらに、同出金の依頼人電話番号の記録には、D名義の携帯電話番号(42回)が含まれているほか、京王ズの代表電話番号(18回)や京王ズ名義の電話番号(19回)が含まれており、これらで大半が占められているが、C名義の電話番号は含まれていなかった。
 上記のD名義の携帯電話番号について、Dは、自己が使用する携帯電話の番号である旨供述しており、当該供述を疑わせるに足りる事情はない。

イ 本件証券口座について
(a) 本件証券口座におけるインターネット取引で使用されたIPアドレスには、そのネットワーク組織名がK社及びL社であるものが含まれていた。
 このうち、K社については、本件当時、同社が提供するインターネットサービスの利用契約につき、被審人の親族名義(契約住所は当時の被審人の住所と同一)で締結されたものが存在していた。なお、本件当時、K社では、契約者が契約先の居宅内でのみインターネット接続可能なサービスを提供しており、外出先でインターネット接続可能なサービスは提供していなかった。
 他方、L社については、本件当時、D名義でL社携帯サービスが提供するデータ通信サービスが2件契約されていたが、被審人やC名義での契約は存在しなかった。
 (b) 平成25年1月1日から同年6月30日の間及び平成26年3月1日から同年8月31日の間、近接した時間帯に、共通するIPアドレスを用いて、本件証券口座とH社名義の証券口座のそれぞれを介して株式の発注がされていることが複数回あり、その際、両口座で同一銘柄を発注していることも複数見られる。

(4) 本件買付けに係る発注状況等
ア 本件買付け以前の取引状況
 本件証券口座においては、平成25年6月13日に取引がされて以降、第1取引が行われるまで取引は行われていなかった。

イ 第1取引の発注状況
 第1取引の発注をする際に使用されたIPアドレスのネットワーク組織名は、L社であった。

ウ 第2取引の発注状況
 第2取引の発注をする際に使用されたIPアドレスは、東京都所在のMホテルに割り当てられたものであったところ、同ホテルにおいて、第2取引が行われた時期を含む平成26年3月23日から同月26日(午前11時51分チェックアウト)にかけて被審人名義での宿泊実績は認められたが、同時期にD及びC名義での宿泊実績は認められなかった。
 この点、被審人は、上記チェックアウトまで被審人が同ホテルに滞在していたことを前提とした主張を行っており、被審人がその頃まで同ホテルに滞在していた事実も認められる。

エ 本件買付け以後の発注状況
 同年4月4日、本件証券口座を介して、京王ズ株式合計2100株が売り付けられている(売付単価はいずれも1株549円)ところ、その発注をする際に使用されたIPアドレスは、第1取引の際に使用されたIPアドレスと同一であった。
 また、同月7日にも、本件証券口座を介して、京王ズ株式600株が売り付けられている(売付単価は1株550円)ところ、その発注をする際に使用されたIPアドレスのネットワーク組織名はK社であった。
 
2 検討
 前提となる事実及び上記1で認定した各事実を踏まえ、以下、本件争点について検討する。

(1) 本件買付けの買付資金について   
ア 買付資金は被審人とCのいずれの資金であるか
 上記第2の3の経過によれば、本件買付けの買付資金は、平成26年3月18日に本件銀行口座から本件証券口座へ振り込まれた100万円であると認められる。
 そこで、本件買付けの買付資金の振込みに利用された本件銀行口座について検討するに、同口座は、Dの依頼により、Cが開設手続を行った後、すぐに同口座の通帳等がDの手に渡ったものであり(上記1(2)ア)、Cが自ら利用する意思で開設されたものではなかったといえる。また、同口座の振込等による出金の記録をみても、口座開設日から平成27年3月18日の約2年半もの間、依頼人名がCとされた6回の振込みでは、いずれもCではなくDが使用する携帯電話が依頼人電話番号とされており、その他の振込等による出金についても、依頼人電話番号がC名義のものは見当たらず(上記1(3)ア)、同口座が同人の資金移動等のために利用されていた形跡もうかがえない。
 他方、同口座における振込等による出金において、上記6回の本件証券口座への振込みを除くほぼ全ての依頼人名が被審人ないしH社等の被審人が関与している法人とされているのであり、その受取人名についても被審人の親族、H社及び同社名義の証券口座、当時の被審人の代理人弁護士、被審人が京王ズ株式を担保に貸付けを受けていた会社等の被審人個人と関係のある者が相当数含まれている(上記1(3)ア)。
 このように、本件銀行口座においては、開設及び利用の状況よりCの利用が否定できるだけでなく、被審人ないし被審人が関与している法人からの出金で大半が占められていたことが認められる上、受取人名等からは被審人個人の資金移動等に使用された形跡すらうかがわれることからすると、同口座は、被審人自身の資金を移動するために利用されていたことが推認され、ひいては、上記買付資金も被審人の資金であることが推認されるというべきである。

イ 小括
 以上より、本件買付けの買付資金は、Cの資金ではなく、被審人の資金であると認められる。

(2) 本件買付けの発注行為者について
 まず、本件証券口座を利用してなされた各取引(上記第2の3(2)及び(3)並びに上記第3の1(4)エ)をみると、京王ズ株式につき、同一の証券口座を介して、同一の原資をもとに合計2700株の買付けがされた上、本件公開買付けに係る公表(上記第2の4)がされた後、買付価格より高値で同数の株式が売り付けられていることが認められる。かかる取引態様からすれば、上記各取引は、同一人物が売買による差益の取得を目的として行った一連の取引と評価することが合理的である。
 そして、本件買付けの買付資金を拠出した被審人(上記(1))が売買差益を得るために上記一連の取引に関与していたことも一定程度推認されるというべきであるが、買付資金の点だけで発注行為者と断定することはできないため、他の事情からも本件買付けの発注行為者について検討する。

ア 本件証券口座の利用状況等について
 そこで、上記各取引に利用された本件証券口座について検討するに、C自身は、同口座の開設手続に関与すらしておらず(上記1(2)ア)、Cが自ら利用する意思で開設したものではなかったといえる。また、同口座を用いたインターネット取引で使用されたIPアドレスには、そのネットワーク組織名がK社及びL社であるものが含まれていたところ、本件当時、L社については、C名義で通信サービス等の利用契約は締結されていなかった(上記1(3)イ(a))。このように同口座がCの株取引等に利用されていた形跡はうかがわれない。
 他方、K社については、当時の被審人の住所を契約住所として被審人の親族名義でインターネットサービスの利用契約が締結されていた(上記1(3)イ(a))。そして、当時、K社では、契約先の居宅内でのみインターネット接続できるサービスを提供していた(上記1(3)イ(a))ところ、居宅内でのみ利用できるサービスを契約者及びその同居者以外の者が利用することは考えにくいから、上記のようなK社の利用契約が存在することは、被審人が本件証券口座を用いて株取引等を行っていたことを推認させるものである。
 加えて、使用されたIPアドレスの点や発注された銘柄の点において、本件証券口座とH社名義の証券口座を介した株式の発注においては同調性が認められる(同(b))ところ、被審人の資金移動に利用されていたことが推認される本件銀行口座からH社名義の証券口座へ送金が行われていたこと(上記(1)ア)、H社は、被審人の資産管理会社であり、本件当時、意思決定に携わる機関は被審人のみであったこと(上記第2の1(5))などからすれば、H社名義の証券口座を用いた株取引に被審人が関与していたことが強くうかがわれるから、上記のように同調性が認められることも、本件証券口座に係る株取引に被審人が関与していたことを推認させるものである。

イ 本件買付けに係る発注状況等について
(a) まず、上記アで検討したとおり、本件証券口座は、Cではなく、被審人が株取引等をするために利用されていたものであることが推認されるから、基本的には、本件買付けの発注行為を行ったのも被審人であることが推認されるというべきである。
(b) その上で、上記1(4)ウのとおり、第2取引の発注をする際に使用されたIPアドレスは、Mホテルに割り当てられたものであり、第2取引が行われた当時、D及びCの同ホテルの宿泊実績は認められなかった一方で、被審人が同ホテルに滞在していたことが認められる。そして、D及びCが東京都内に所在する具体的事情が見当たらないことも併せ考えると、被審人のみが発注の機会を有していたというべきであるから、まずは、第2取引の発注は、Cらではなく、被審人が行ったものであることが推認できる。
(c) また、上記でも検討したとおり、第1取引及び第2取引は、同一人物によって発注されたと評価することが合理的であることからすれば、第1取引についても、Cではなく、被審人が発注したことが推認される。

ウ 小括
 以上より、本件買付けに係る発注は、Cではなく、被審人が行ったものであると認められる。
 
3 結論
 以上からすると、本件買付けの買付資金は、被審人の資金と認められ(上記2(1))、本件買付けの発注行為者も被審人であると認められる(上記2(2))から、本件買付けは、Cの計算により、Cを主体として行われたものではなく、被審人の計算により、被審人を主体として行われたものであると認められる。


(別紙2)

(課徴金の計算の基礎)
(1) 金商法第175条第2項第2号の規定により、当該有価証券の買付けについて、公開買付け等の実施に関する事実の公表がされた後2週間における最も高い価格に当該有価証券の買付けの数量を乗じて得た額から当該有価証券の買付けをした価格にその数量を乗じて得た額を控除した額。

(554円×2,700株)
-(321円×100株+323円×200株+324円×100株+325円×100株
+327円×200株+328円×500株+335円×1,100株+336円×300株
+338円×100株)
= 601,700円
 
(2) 金商法第176条第2項の規定により、上記(1)で計算した額の1万円未満の端数を切り捨て、600,000円。

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