平成29年8月10日
金融庁
株式会社デジタルデザイン株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の決定について
金融庁は、証券取引等監視委員会から、(株)デジタルデザイン株式に係る相場操縦の検査結果に基づく課徴金納付命令の勧告を受け、平成29年3月27日に審判手続開始の決定(平成28年度(判)第48号金融商品取引法違反審判事件)を行い、以後審判官3名により審判手続が行われてきましたが、今般、審判官から金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)第185条の6の規定に基づき、課徴金の納付を命ずる旨の決定案が提出されたことから、下記のとおり
決定(PDF:151KB)を行いました。
※(株)デジタルデザインは、平成29年5月、SAMURAI&J PARTNERS(株)に商号変更しています。
記
1 決定の内容
被審人に対し、次のとおり課徴金を国庫に納付することを命ずる。
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(1)納付すべき課徴金の額 金1228万円
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(2)納付期限 平成29年10月10日
2 事実及び理由の概要
別紙のとおり
(別紙1)
(課徴金に係る金商法第178条第1項各号に掲げる事実(以下「違反事実」という。))
被審人は、(株)デジタルデザインの株式(以下「本件株式」という。)につき、本件株式の売買を誘引する目的をもって、別表1記載のとおり、平成28年1月21日午後2時27分頃から同年2月2日午後2時55分頃までの間、9取引日にわたり、B証券株式会社、C証券株式会社、D証券株式会社、E証券株式会社及びF社を介し、直前の約定値より高指値の売り注文と買い注文を対当させて株価を引き上げたり、直前の約定値より高指値の買い注文を連続して発注して株価を引き上げるなどの方法により、本件株式合計1万5400株を買い付ける一方、本件株式合計8200株を売り付け、もって、自己の計算において、本件株式の売買が繁盛であると誤解させ、かつ、同市場における同株式の相場を変動させるべき一連の売買をした。
(違反事実認定の補足説明)1 被審人の主張
被審人は、審判期日において、違反事実の対象となった取引(以下「本件取引」という。)のうち、一部の取引(以下「被審人指摘の各取引」という。)は、直前の約定値より高指値ではない指値で発注しているから、不公正取引に該当せず、課徴金額はこれらの取引を除いて計算されるべきであると主張し、違反事実に該当する取引の範囲及び課徴金額を争う旨の主張をしている。
また、被審人は、答弁書において、「少なくともNISA勘定による買付けについては直前の約定値より低い価格での指値による買付けであり、違反行為に該当しない」とし、このため課徴金額等は修正されるべきである旨主張している。
なお、被審人は本件取引を行った事実については積極的に争っておらず、また、本件取引のうち被審人指摘の各取引を除く取引については不公正取引に該当することを認めている。
2 金商法第159条第2項第1号が規制する取引について
金商法第159条第2項第1号は、有価証券の相場を変動させるべき一連の売買取引等の全てを規制するものではなく、有価証券の売買等を誘引する目的(誘引目的)をもってする、有価証券売買等が繁盛であると誤解させ、又は有価証券の相場を変動させるべき一連の売買を禁止している。
そして誘引目的とは、人為的な操作を加えて相場を変動させるにもかかわらず、投資者にその相場が自然の需給関係により形成されるものであると誤認させて有価証券の売買取引に誘い込む目的のことをいい、この目的があるというためには、投資者を積極的に取引に誘い込む意図までは必要でなく、投資者に誤解を与え、それに基づいて取引に参加する可能性があるものであることを認識しながら、相場変動の意図に基づいて取引を行ったことが認められれば足りると解される。
そこで以下では、前記1の被審人の主張を踏まえ、被審人の本件取引に至る経緯を前提とし(後記3)、本件取引の態様を検討して(後記4)、本件取引が、金商法第159条第2項第1号が規制する取引に該当すると認められるか(後記5)につき検討する。
3 本件取引に至る経緯
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(1)平成26年10月末頃までの経緯
被審人は、不動産賃貸業を営むなどしていたが、平成26年4月頃から、不動産賃貸業に加え株取引により生計を立てていこうと考え、本格的に株取引を開始した。
そして被審人は、同年10月初め頃、本件株式が連日ストップ高であったことなどから、株価500円台から1300円台で、本件株式を約2万株強買い付けた。その後本件株式の価格は急上昇し、被審人はさらに本件株式を買い付けたが、その日のうちに本件株式の価格は急落した。それでも、被審人は、また株価が上がるだろうと期待して本件株式を買い付けているうちに、同月末には本件株式を5万株以上保有するに至った。
(2)平成27年末までの状況等
被審人は、下記のとおり、本件取引前の平成27年3月中旬頃から、株取引について、複数の証券会社から注意を受けていた。
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ア 被審人は、平成27年3月中旬頃、本件株式とは別の株式の取引につき、G証券株式会社から、寄付き前の買い発注に見せ玉形態がみられるとして注意を受けた。
イ 被審人は、平成27年4月から同年11月頃にかけて、B証券株式会社及びG証券株式会社から、本件株式の取引について、ザラ場中の買い上がり形態や、終値を引き上げたとする終値一文高で注意を受け、同年12月には、G証券株式会社から新規取引停止処分を受けた。さらに被審人は、同月下旬頃、C証券株式会社からも、本件株式の取引について終値一文高で注意を受けた。
そこで被審人は、香港を拠点とするF社であれば、海外の会社で身元が特定されにくいと考え、同社の口座を使って本件株式を取引し、終値に関与するように買い注文を発注して本件株式の価格を上げるようになった。
ウ 平成28年1月以降の状況及び本件取引の動機
被審人は、平成28年1月中旬頃(以下、年の記載のない月日は平成28年の月日を指す)、G証券株式会社とB証券株式会社から、評価損が拡大したとして追証の警告を受けた。被審人は、当時、本件株式をB証券株式会社等4口座において現物と信用を合わせて4万株弱保有していたことから、本件株式の価格を上げないと追証を求められてしまうが、追証を払う資金がないという危機感を持った。
そこで被審人は、証券会社を分散して使用すれば買い上がり形態がすぐに発覚することはないだろうと考え、同月下旬頃から複数の証券会社の口座を使用し、買い上がり買付けを行って本件株式の価格を上昇させることにした。被審人は、そのようにして本件株式の価格を上昇させれば、本件株式の価格が順調だと思った他の投資家がさらに本件株式を高値で買うことにより、本件株式の価格がさらに上がる可能性があるだろうと考えた。
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4 本件取引の態様
本件取引の態様について、以下のとおり指摘できる。
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(1) 対当売買
被審人は、1月21日から2月2日までの間の全9取引日のうち7取引日において、株価引き上げを伴う12回を含む、合計19回にわたり対当売買を行った。
(2)終値関与
被審人は、本件取引において、4取引日で終値関与をしている。
(3) 直前の約定値より高指値の買い注文
被審人指摘の各取引を除く本件取引の中で、買い注文はほぼ全て、直前の約定値より高い指値の買い注文である。
被審人は、「直前の約定値より高指値ではない指値で発注している取引」として被審人指摘の各取引を挙げるが、買い注文を発した時点では高指値の買い注文といえるものも含まれている。
(4) 直前約定値より低い指値又は直前約定値と同指値の買い注文
被審人指摘の各取引のうち、直前の約定値と同じ指値での注文は、高指値の買い注文等に伴って行われており、直前約定値より低い指値での注文も、高指値の買い注文や対当売買に伴って発注されている。
(5) 本件取引の関与率及び本件違反期間内の株価の上昇等
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ア 本件取引の出来高は、多い日で本件株式全体の出来高の約54.1パーセント(1月27日)を占め、1月21日から2月2日までを通じた本件取引の割合は、約29.5パーセントを占めていた。
イ 本件株式の株価は、本件取引開始直前の約定値が790円であったところ、本件取引終了時には1,117円まで現に上昇した。
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5 本件取引が、金商法第159条第2項第1号が規制する取引に該当するか
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(1) 有価証券売買等が繁盛であると誤解させ、かつ有価証券の相場を変動させるべき一連の売買といえるか(相場操縦行為該当性)
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ア 本件取引全体について
まず本件取引は、被審人指摘の各取引も含め、同一株式について9取引日という比較的短い期間の中で、時間的に接着して行われており、密接に関連する一連の取引といえる。
そして、本件取引は全体として、前記4のとおり、対当売買や終値関与等を伴いながら、連続かつ頻繁に高指値での買い注文を順次発注しており、株価を高値に誘導し得る取引であって、直前の約定値と同じ値や直前の約定値より低い指値での買い注文も、株価が当該買い注文の指値未満になることを防ぎながら、買い注文が多く出されている状況を作出しているといえる。
さらに、本件取引が、1月21日から2月2日までの本件株式全体の取引出来高に占める割合は約3割で、日毎でみると半分以上を被審人の取引が占めている日もあり、比較的高い関与率といえる。
また、本件取引前後で本件株式の株価が327円上昇したことに照らせば、本件取引は実際に、第三者に買い需要が強い状況と見せ、相場を変動させる可能性の高い行為であったというべきである。
こうした状況からすれば、本件取引が行われると、一般の投資者は、本件株式につき売買が繁盛に行われていると誤解する可能性がある。
イ 被審人指摘の各取引について
被審人は、被審人指摘の各取引は、直前の約定値より高指値ではない指値で発注しているから、不公正取引に該当しない旨主張する。
しかし、本件の被審人指摘の各取引を個別にみても、高指値による買い注文や終値関与も含まれ、それ以外の直前約定値より低い指値又は直前約定値と同指値での買い注文についても、高指値の買い注文と組み合わせることにより買い注文が多く出されている状況を作出しつつ、それ以下の値段で約定する可能性を減少させ、それ以上株価が下落しないことを目指す取引といえる。
本件取引全体の出来高のうち、被審人が指摘する、直前約定値より低い指値又は直前約定値と同指値の買い注文が占める割合は、約1割に過ぎず、本件取引は被審人指摘の各取引も含め、比較的短い期間の中で時間的に接着して行われた取引であることからすれば、直前約定値より低い指値又は直前約定値と同指値で買い注文を発注する場合についてのみ、殊更、本件取引として一連の売買に該当しないと評価できる事情は見出せない。
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(2) 誘引目的の有無
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ア 本件取引全体について
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(ア)被審人指摘の各取引を除く本件取引からの検討
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a 本件取引は、被審人指摘の各取引以外の取引が大部分を占めるところ、被審人は審判期日において、被審人指摘の各取引を除く本件取引は、終値を維持する意図で行ったと述べており、終値を維持する意図というのはまさに相場変動の意図である。
また、被審人は、直前約定値より高指値の買い注文を繰り返したり、意図的に終値に関与したりするなどして株価を変動させれば、投資者がその相場につき自然の需給関係により形成されるものであると誤解し、本件株式の売買取引に誘い込まれる可能性があることは十分認識していたと認められる。
よって、被審人指摘の各取引を除く本件取引について、まず誘引目的が認められることは明らかである。b 次に、誘引目的は、一連の取引全体を踏まえてその有無が判断されるべきと解されるところ、被審人指摘の各取引は、前記aのとおり誘引目的に基づく取引と連続して行われた一連の取引であるから、被審人指摘の各取引を行うに際しても、被審人は誘引目的を有していたことが強く推認される。
(イ)取引態様からの検討
前記4で検討したとおり、本件取引は全体として、被審人の関与率が高く、被審人が自らの取引により本件株式の株価を変動させやすい状況において、対当売買や、直前約定値より高指値で順次行う買い注文及び終値関与といった、経済的合理性がなく、誘引目的が推認される取引を連続かつ頻繁に行っていたと認められる。このように取引態様からしても、被審人は、本件取引全体について相場変動の意図を有していたと認められ、株価を変動させれば、投資者がその相場につき自然の需給関係により形成されるものであると誤解し、本件株式の売買取引に誘い込まれる可能性があることは十分認識していたといえるから、本件取引全体につき誘引目的が認められる。
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イ 被審人指摘の各取引について
被審人は、被審人指摘の各取引は、直前の約定値より高指値ではない指値で発注しているから、不公正取引に該当しない旨主張する。
しかし、誘引目的は一連の取引全体につきその有無を判断すべきであって、被審人指摘の各取引もそれ以外の本件取引と一連のものである。
また、そもそも被審人指摘の各取引には直前の約定値より高指値の買い注文や終値関与も含まれ、これらについてはその態様及び連続かつ頻繁な高指値の買い注文とともに行われていること自体から、他の高指値での買い注文や終値関与と評価できる取引同様、誘引目的が推認できる取引である。
そして、それ以外の直前約定値より低い指値又は同指値での買い注文についても、そうした買い注文による出来高が、本件取引全体の出来高に占める割合は、約1割に過ぎないし、誘引目的が認められる取引に伴って行われた取引であるから、これらについてのみ、殊更、誘引目的を有しないものと認めることはできず、不公正取引から除外できる事情は見出せない。
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6 結論
以上によれば、本件取引は、金商法第159条第2項第1号が規制する取引に該当し、違反事実とおりの事実が認められる。
(法令の適用)
金商法第174条の2第1項、第8項、第159条第2項第1号、第176条第2項、金融商品取引法施行令第33条の13第1号
(課徴金の計算の基礎)
別紙2のとおりである(課徴金の計算の基礎となる事実については、被審人が争わず、そのとおり認められる。)
(別紙2)
(課徴金の計算の基礎)
金商法第174条の2第1項の規定により、当該違反行為に係る課徴金の額は、
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(1) 当該違反行為に係る有価証券の売買対当数量に係るものについて、自己の計算による当該有価証券の売付け等の価額から、自己の計算による当該有価証券の買付け等の価額を控除した額
及び
(2) 当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の売付け等又は買付け等の数量が、当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の買付け等又は売付け等の数量を超える場合、当該超える数量に係る有価証券の売付け等の価額から当該違反行為が終了してから1月を経過するまでの間の各日における当該違反行為に係る有価証券の買付け等についての金商法第130条に規定する最低の価格のうち最も低い価格に当該超える数量を乗じて得た額を控除した額、又は当該違反行為が終了してから1月を経過するまでの間の各日における当該違反行為に係る有価証券の売付け等についての金商法第130条に規定する最高の価格のうち最も高い価格に当該超える数量を乗じて得た額から当該超える数量に係る有価証券の買付け等の価額を控除した額
の合計額として算定。別紙1の違反事実につき、
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1 当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の売付け等の数量は、8,200株であり、当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の買付け等の数量は、実際の買付け等の数量15,400株に、金商法第174条の2第8項及び金融商品取引法施行令第33条の13第1号の規定により、違反行為の開始時にその時における価格(805円)で買付け等を自己の計算においてしたものとみなされる当該違反行為の開始時に所有している当該有価証券の数量37,400株を加えた52,800株であることから、
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(1) 当該違反行為に係る有価証券の売買対当数量(8,200株)に係るものについて、自己の計算による当該有価証券の売付け等の価額から、自己の計算による当該有価証券の買付け等の価額を控除した額
(806円×200株+807円×400株+825円×500株+835円×400株
+840円×100株+865円×200株+875円×700株+880円×100株
+882円×600株+883円×100株+884円×200株+885円×200株
+890円×400株+898円×1,000株+899円×400株+915円×300株
+936円×100株+1,055円×200株+1,075円×100株+1,080円×300株
+1,086円×400株+1,091円×100株+1,100円×1,200株)
-(805円×8,200株)
= 1,046,000円及び
(2) 当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の買付け等の数量(52,800株)が、当該違反行為に係る自己の計算による有価証券の売付け等の数量(8,200株)を超えていることから、当該違反行為が終了してから1月を経過するまでの間の各日における当該違反行為に係る有価証券の売付け等についての金商法第130条に規定する最高の価格のうち最も高い価格(1,120円)に当該超える数量44,600株(52,800株-8,200株)を乗じて得た額から、当該超える数量に係る有価証券の買付け等の価額を控除した額
(1,120円×44,600株)
-(790円×100株+805円×29,400株+809円×400株+810円×200株
+812円×100株+817円×100株+823円×200株+825円×100株
+833円×100株+840円×100株+869円×100株+870円×500株
+872円×300株+873円×400株+874円×100株+875円×800株
+877円×200株+878円×100株+880円×200株+885円×400株
+888円×300株+890円×500株+894円×300株+895円×100株
+896円×100株+900円×600株+915円×100株+933円×100株
+951円×100株+968円×100株+1,050円×900株+1,055円×400株
+1,057円×100株+1,065円×100株+1,069円×300株+1,070円×100株
+1,075円×100株+1,080円×1,700株+1,085円×300株+1,086円×400株
+1,090円×200株+1,091円×100株+1,092円×100株+1,093円×100株
+1,094円×100株+1,095円×400株+1,097円×200株+1,099円×100株
+1,100円×1,300株+1,103円×200株+1,105円×300株+1,106円×200株
+1,109円×200株+1,110円×100株+1,115円×200株+1,117円×100株
+1,120円×100株)
=11,239,000円
の合計額12,285,000円となる。
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- (別表1)
- 違反行為状況
取引年月日 証券会社 売買株数 売付 買付 平成28年1月21日 D証券株式会社 - 600 F社 - 600 平成28年1月22日 E証券株式会社 700 200 F社 900 100 C証券株式会社 - 100 平成28年1月25日 D証券株式会社 600 - B証券株式会社 - 800 E証券株式会社 100 - F社 - 100 平成28年1月26日 D証券株式会社 - 200 B証券株式会社 - 1,500 E証券株式会社 100 600 F社 100 200 平成28年1月27日 D証券株式会社 300 600 B証券株式会社 1,300 - E証券株式会社 - 100 F社 - 400 平成28年1月28日 D証券株式会社 500 - B証券株式会社 - 700 E証券株式会社 700 200 F社 600 - 平成28年1月29日 D証券株式会社 - 500 B証券株式会社 - 2,700 E証券株式会社 200 300 F証券株式会社 - 600 平成28年2月1日 D証券株式会社 500 300 B証券株式会社 - 1,200 E証券株式会社 300 400 F社 600 - 平成28年2月2日 D証券株式会社 300 400 B証券株式会社 - 1,700 E証券株式会社 400 300 合計 8,200 15,400
(※ 別表2の添付は省略する。)
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- お問い合わせ先
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総務企画局総務課審判手続室
金融庁 Tel 03-3506-6000(代表)(内線2398、2404)